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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第64回開催報告

海外開発ビジネスと人権・地球温暖化

~環境社会配慮ガイドラインと市民活動のこれから~

 

 2020年6月2日、酒井功雄さん(Fridays For Future Tokyo)と、木口由香さん(NPO法人メコン・ウォッチ事務局長・理事)をお迎えしたアドボカシーカフェを、SJFはオンラインで開催しました。
 

 これまで、海外の環境や人権問題に関心のある日本の市民は、経済的に遅れているとされた「途上国」での政府開発援助(ODA)による負の影響を防ごうと活動してきました。その一つの流れが、援助機関の持つ環境社会配慮のためのガイドラインを強化することでした。

 しかし今、その開発自体が引き起こす地球規模の環境破壊も、全ての人に影響しつつあります。新型コロナ感染拡大の背後には、人類の文明が崩壊する恐れがある気候変動による危機があり、経済的枠組みの見直しが迫られているとの見方が木口さんから示されました。気候変動によって世界情勢の不安定化が高まり、自分たちの生存危機という状況だと酒井さんは具体的な事象を上げて説明しました。こういった問題は、その原因をつくっていない人たちがまず最も被害を受ける構造になっており、それを変えようと気候正義を掲げた若者たちの運動が世界中に広がっています。

 にもかかわらず、日本政府と一部企業は石炭火力発電事業に国策として投資し続け、気候変動を促進する形で、ESG投資の流れに逆行していていると木口さんと酒井さんは指摘しました。日本の大規模インフラ開発事業には公的機関だけでなく民間企業や金融機関が参入するスキームが増えており、民間にも環境や社会への配慮を働きかけられる仕組みが必要になっています。

 環境社会配慮ガイドラインは、JICAやJBICといった公的機関に対して市民が働きかけられる仕組みであり、今ちょうど改定の機会を迎え、皆さんに関心を寄せてもらえるよう木口さんは呼び掛けています。このガイドラインによって、情報公開の仕組みも改善されたことが木口さんから語られました。ガイドラインには限界もあり、この改定の機会を活かし、サプライチェーンでの人権侵害や環境破壊を防ぐ仕組みも入れるなど、さらに実効性を市民の力をあわせて高めることが期待されています。

 これからの私たちの生活、経済活動と環境社会への配慮を両立することを考える時、長期的に見て持続可能かどうかという視点が重要だと酒井さんは提言しました。また、これまでの開発事業で被害を受けてきた住民が本来大切にしていた価値観から学びたいとの姿勢を木口さんは示しました。酒井さんは、人間としてどうありたいのかが問われている、社会に変化を起こしていくのは、一人ひとりが気づいて変わった行動の積み重ねだと強調しました。

 詳しくは以下をご覧ください。

※コーディネータは、大河内秀人(SJF企画委員)

 
――木口由香さんのお話―― 

 私はメコン・ウォッチという団体に所属しています。

 私からは、「海外開発ビジネスと人権――環境社会配慮ガイドラインの意義とは――」というタイトルでお話しさせていただきます。また、こういう時期でもありますので、広い意味での「開発とは」という観点からもお話させていただければと思います。

 本日は、ガイドラインの内容について詳しくお話しするより、なぜそういうものがあるのかという、そもそものところから話を始め、その内容をみなさんの対話の題材にしていただければと思っています。

 

 メコン・ウォッチがなぜ東南アジアのメコン川流域で活動しているかと言うと、もともとこの地域で、日本が非常に環境・社会、それから政治的に大きな影響を持っていたことから始まっています。私たちメコン・ウォッチは、開発事業に関する調査や政策提言といわれる活動をしているNGOです。

 私たちは、政府や大企業など、開発をする側に比べ社会的に不利な立場の、影響を受ける住民の方々の側に立って、情報を発信し対話を促すことで、その人たちが開発の中で不利益を被らないよう、また被害を受けた場合にそれを軽減するような活動を行っています。

 

語られないできた被害 日本の開発援助による経済発展の陰で

 今日話をするにあたってまず、個人的な経験から始めさせていただきます。

 私が活動に関わり始めたのは1999年で、タイをうろうろしていました。その頃タイでは、住民運動の大規模なネットワーク、「貧民連合(会議)」というものが立ち上がり、大きな社会運動が起きていました。当時はジャーナリストになりたいと思っていて、「環境問題に関心がある」と漠然と言っていた私を、タイのNGOの友人たちが貧民連合の人たちにつないでくれたのです。貧民連合の人たちは、「政府の開発事業によって自分たちは貧しくなった」とおっしゃっていました。

 日本の政府開発援助(ODA)での開発による被害者も、この人たちの中に含まれていました。

 そもそもODAに関しては1980年代にすごく批判が起きて、私はその時代に学生時代を過ごしていました。日本企業ばかりを利するとか、大きなお金を動かして東南アジアの政治に大きな影響を与え、特に開発独裁と言われているような強権的な政権をビジネスのために支えているという批判が起きていました。

 私がタイに行ったのはその10数年も後でしたから、あれだけ騒がれたのだからもう解決したと思っていましたが、出会ったタイの人たちは、この問題が解決されていないことを伝えてくれました。

 この出会った人たちというのは、ダム建設の現場で座り込みを千人以上の人たちとしていて、自分たちの問題を訴えていました。その暮らしぶりもそうですし、抱えている問題を聞けば聞くほど、ODAの問題は全く解決していなかったことや、それ以外にもたくさんの問題があることを学ばせていただきました。

 タイは日本の援助が大変多く行われ、そのことで経済的に成功した国と言われています。確かに非常に経済発展はしました。ですが、現地の人たちがどういう目に遭ったかは語られないで来ました。

 私が会った一人の女性は、60年代に日本が援助したダム建設によって強制移転させられた方でした。当時は、タイは軍事政権下でしたので、もし反対したならば路上で殺害されてもおかしくないような時代でした。彼女は農地を失って、首都バンコクのスラムで貧しい暮らしを送っていました。30年後にタイで民主的な憲法がつくられて、自分のような人も正当な補償を受ける権利があるということに気がつき、運動に参加したとおっしゃっていました。

 90年代に造られたダムによって、生活の基盤である漁業を奪われてしまって、この運動に参加した方もたくさんいらっしゃいました。

 日本の援助で揚水発電所が90年代に建設されています。この爆破作業の粉塵によって健康被害にあった人たちも、私が会った方たちの一部です。この時、村の子供たちが非常に高い障害率を持っている問題があって、この人たちと一緒に日本政府に被害を訴えたのですが、工事の時の事実関係が記録されていない問題があって、当時は相手にされず、「お話は承ったので、事業者に言ってください」と言われました。

 被害を受けた人たちが語っていたことをいくつか紹介します。

 自分たちはもともと周辺の自然に頼って農業や漁業を基盤とした暮らしをしていて、それを続けたい。

 子孫のために森や川を守りたい。

 出稼ぎしないで家族と一緒に暮らしたい。

 お金のかかる暮らしに変わったことへのストレス、借金を抱えたことへの不安も、多く語られていました。

 それから切実なところでは、心身の健康を返してほしい、という願いを語る方もいらっしゃいました。

Kaida SJF

日本の大規模インフラ開発事業 環境や社会への配慮を求める仕組みづくりへ

 もともとODAというのは、いいことをしよう、開発をして人の生活をよりよくしようというのが目的だったはずだと思われています。「開発」とは、いろいろな意味が付されますが、ここでは大規模なインフラ開発事業だと考えてください。

 実際には、環境や人の暮らしよりも、ずっと経済成長が優先されてきたわけです。まず工業化すれば、社会が豊かになって、トリクルダウン――富んだ人たちが潤えば、そのおこぼれが社会全体に裨益して貧しい人たちも儲かる――と言われてきましたが、それは実現したでしょうか。

 これは、東南アジアのいわゆる途上国では当たり前に語られていました。経済的な面で見ると、都市は豊かになったと思います。一方で、多くの人が暮らしていた農村部の暮らしは自然資源に依存していましたが、破壊され続けていたわけです。

 都市でも、経済的には豊かにはなったのかもしれませんが、交通渋滞ですとか劣悪な環境、スラムの拡大も問題になってきたわけです。これは未だに続いています。

 こうした被害をどうしたら止められるのか。それがその時考えたことです。被害を聞いても何もできなかったということもあります。ちょうど、メコン・ウォッチに関わっているメンバーがそうしたことに取り組んでいることを知り、活動に関わることになりました。

 

 今お話ししたようなODA(政府開発援助)は、日本では主に、JICA(国際協力機構)と JBIC(国際協力銀行)という2つの機関によって行っています。なお、JBICはODA以外にもお金を出す仕組みもあります。

 これらの機関による開発が破壊的にならない仕組みを作っていこうというのが、2000年以降の市民活動の一つの流れでした。

 具体的には、市民グループはまず、JBICの環境社会配慮ガイドラインの強化に取り組みました。(90年代は)世界的に、地球環境サミットを巡って環境に対する関心が非常に高まり、開発を主導してきた世界銀行への異議申し立ても非常に大きな流れとなった時期でした。そうした世界の流れを受けて、日本の中でも、NGOだけでなく研究者の方たちが政府に「国際的な基準の開発の仕組みを持つべきだ」と提言し、政府のなかでもそういう考えの方がたくさん出てきて、NGOがかなり早い段階からガイドラインの策定に関わって、ロビイングのスキル等を高めながらガイドラインを定めていきました。

 

 このガイドラインとは何なのか。大きく言うと、開発のなかで人権や環境への配慮を求める仕組みです。

 「環境社会配慮」とは、「大気、水、土壌への影響、生態系および生物相等の自然への影響、非自発的住民移転、先住民族等の人権の尊重その他の社会への影響を配慮することを言う」。これはJICAガイドラインに書いてあることです。  

 JBICのガイドラインでは、「プロジェクトを実施するにあたっては、その計画段階で、プロジェクトがもたらす環境への影響について、できる限り早期から、調査・検討を行い、これを回避・最小化するような代替案や緩和策を検討し、その結果をプロジェクト計画に反映しなければならない」と書いてあります。

 こういった配慮をすることと、それを定めた文書が、環境社会ガイドラインとなっています。

 

市民社会の関与が強める実効性のある環境社会ガイドラインと情報公開

 環境社会配慮ガイドラインはなぜ相手国に拘束力を持つのでしょうか。

 JBICやJICAは開発機関ですが、相手国や企業にお金を貸してその事業を行うわけです。金利が低かったり、技術支援があることで、相手国は大きな経験がないような事業でも進めやすかったりするので、これが援助ということになっています。

 融資先に環境配慮基準を満たすことを求め、満たさない場合、「投融資を実施しない」と言うことで、相手国に言うことを聞いてもらえるような仕組みになっています。途上国政府は安い金利でお金を借り、技術の提供を受けたいので、先進国側がお金を貸す前であれば、途上国政府や企業があまり関心を払っていない、「人権を守り、環境保全をやりながら事業をしてください」ということを聞き入れるわけです。企業からすれば面倒くさい、そういう費用は外部化するのが得で、内部化するのはお金儲けという意味では効率が悪くなるのですが、それを、お金を貸す前に契約として取り付けておいて、言うことを聞いてもらうテコにするわけです。

 先進国側の開発機関がなぜこれをやらなければならないかと言うと、自分たちの支援で環境破壊や人権侵害が起きているとなると、NGOやメディアから非難され、開発機関が関係している国の議会で問題になるなどして、運営に縛りが出たり、予算が削られたりして、運営が困難になりかねず、そうしたことを避けたいためです。「評判」を気にするのです。こうした面を突いて市民社会が働きかけることで、ガイドラインが拘束力を持ってくることになります。

 

 もしガイドラインが無かったら、ということを想像していただくために、ニュース映像を見ていただこうと思います。あくまで参考映像で、ODA事業でも日本の企業活動でもありません。2011年にカンボジアのプノンペン市内で行われた強制立ち退きの映像です。(映像上映)

 警官隊と警官でない人も交じって、住民に暴力を振って現場を押さえるということが行われています。このように非常に問題になったケースですが、実際に立ち退きは行われてしまっています。

 日本や世界銀行が過去に行った投融資のケースでは、類似のケースが起きていたはずです。

 

 実効性のあるガイドラインが有るか無いかによって、どういう違いが生じるかをまとめます。農村で暮らせなくなり、都市のスラムへ流入した貧困世帯が、開発の立ち退きにあう場合で考えてみたいと思います。

 

Kaida SJF

 

 ガイドラインがあるという場合(上図・左側)は、土地や所有権のある建物がある場合は提供されます。生計回復プログラムの対象にもなります。もし問題があれば、プロジェクトごとに作られる、現地事業者や政府に対する苦情申し立ての仕組みに訴えることができます。こういうことをJICAやJBICが確認しなければいけないことに、ガイドライン上はなっています。現地事業者や政府と問題が解決しなければ、JICAやJBIC自身が持っている第三者機関に訴える「異議申し立て」という仕組みを利用して問題解決を図る機会があります。

 もしガイドラインがなければ(上図・右側)、先ほどの映像にあったように強制的な立ち退きに遭うことが多くなりますが、あのケースでも十分な補償が支払われないから立ち退けなかったので、立ち退いても補償はされません。先ほどの映像で立ち退かされていたのは、社会的な脆弱者であって、本来なら保護を受ける立場である人たちです。ああいった形で追い出されることで、より貧しくなった世帯では、次の世代にも貧困が連鎖してしまいます。

 

 こういったガイドラインを強化することを市民社会が成功したことで、社会的な弱者の暮らしを守ることが一部実現しています。

 さらに私たちが獲得したこととして、情報公開があります。以前は、相手国の主権や商業上の秘密ということでほぼ公開されなかったいろいろな文書が、今は公開が基本になりました。JBICの場合には、今でも商業上の秘密という理由で企業が関わっている情報がなかなか出てこないことが多いですが、JICAが関わっている環境アセスメントはほぼ全ての文書がウェブに掲載されるようになりました。これは私たちのような第三者が、住民の権利が守られているか確認するために非常に重要です。

 またガイドラインによって、被害住民に対して正当な補償が行われているか、住民参加が行われているかをJICAやJBICが確認することになりました。

 また、ガイドラインには、第三者からの情報提供を歓迎すると明記されています。これは、被害住民ではない私たちのようなNGOがアドボカシーをする上で活動のスペースがつくられた意味で重要でした。

 JICAには環境社会配慮助言委員会が設けられました。ほぼ全ての情報が公開されていて、議事録もホームページに掲載されていますので、検索してみてください。

 

ガイドラインの限界を超えるには

 このように利点のあるガイドラインですが、限界もあります。

 一つは、文書主義です。記録が残されていて検証できることは重要なことで、開発事業に必須で、私たちがアカウンタビリティを求めてきた結果でもあるのですが、膨大な資料になっています。一つの事業で公開される関連資料は千ページ以上になり、ほとんど英語というのが普通になってきており、これでは読み手が限られます。これに携わるNGOも少なくなっています。また、住民が自ら確認することが難しくなってしまい、読むのはNGOの仕事ということになって、私たちのようなアドボカシー型のNGOにつながれない住民は、情報公開を十分に利用できない恐れがあります。

 もう一つは、専門性と分かりにくさです。住民の権利や環境を守るために様々な手法が生まれていて、そのこと自体はよいことです。が、みなさん、移転管理計画、生計回復事業、生態系モニタリングなどの資料を読まれたことはあるでしょうか? 専門分野が細分化されて、一般の人たちから遠い存在になってしまいます。 

 「環境社会配慮ガイドラインが守られていない」と私たちが言うのと、「子供を守ろう」とか「動物を救え」と一般の人が言うのは、基本的に同じことを言っている場合が多いのですが、それが伝わりにくい。

 一般の人に問題を伝えにくくなると、メディアや政治家の関心が下がるという悪循環が生まれます。

 市民の関心の低下で、援助機関がガイドライン守るモチベーションが下がってきているのではないかと、私たちは懸念しています。実際、日本の開発援助が入ったミャンマーのティラワ経済開発特別区で、2013年に立ち退き通告が出て、住民の方たちが強制退去させられそうになりまして、私たちが現地のNGOと協力して介入してJICAに言い、JICAが止めたということがありました。ですが、最初にティラワで移転させられた人たちは、全く生活基盤が整わないうちに移転させられて、今も生計を回復できず苦しんでいます。

 三つ目の限界は、事業実施が前提になっていることです。

 環境アセスメントでも、ゼロオプション――事業をやらないことも検討すること――になっていますが、事業者が持ってくるころには事業を進めることが前提になっていると思います。

 それから、言論の自由が無いと私たちが見る国でも、日本の開発事業は行われています。住民説明会が開かれても、その会合で住民が本心を言っているかどうか、書類からは分かりません。ラオスやベトナムがそういった国です。

 今、インドネシアのチレボンで石炭火力発電所の建設反対運動が起きていますけれども、地域住民が反対しても、ガイドラインでは、事業の負の影響を押えることはしますが、事業自体を止めるという選択肢はおそらく大規模な汚職などが無い限りとられません。

 

大規模開発に参入する民間企業や金融機関へ 環境や社会への配慮を働きかけるには 

 21世紀に入って、大規模開発の主体は、公的機関から民間に移っています。今まで市民が行ってきた公的機関への働きかけだけでは、問題を防げない世の中になってきました。

 JBICは環境に配慮して事業が行われる前提にはなっていますが、実際には、温暖化を進める石炭火力発電所の輸出事業に対したくさんの融資が行われており、それが呼び水になって、日本の民間金融機関による融資も行われ、それらの融資先の実施企業には日本企業も投資しているケースが多くなっています。

 例えば、ベトナムのブンアン2石炭火力発電所事業では、実施企業の資本構成を見ますと、日本企業やその子会社などが投資している事業であることが分かります。ベトナムでは、言論の自由が限定的で、国家の開発を住民が議論することはできません。環境社会配慮ガイドラインは、住民の意味のある参加を定めているにも関わらず、です。

 JBICやJICAの関与により、民間企業や銀行が参入しやすくなっています。それは、民間が働きかけているのか、国の方針なのか。おそらく、両方あると思います。いまだにODAやODA以外の公的資金で大きな開発事業をやることが良いこととされていますが、社会的配慮や地球環境に対する問題を引き起こしているのが現状です。 

 

新型コロナ感染拡大の背後にある人類の文明が崩壊する危機

 今、新型コロナウィルスの感染拡大によって経済や社会に大きな影響を受け、本当に大変な思いをされている方がたくさんおられると思います。

 その背後で、実はもっと深刻な事態が進んでいます。いくつか写真を紹介します。

 昨年のメコン川。歴史的な低水位でした(写真下)。

Kaida SJF

 タイ東北部では洪水や干ばつがここ10年ぐらい毎年のように発生しています。

 ミャンマーのヤンゴンにはスラム街が広がっています。そのスラム街の人たちは2008年に大きなサイクロン・ナルギスが襲ったイラワジデルタから避難してきた人です。そのサイクロンは今までにないルートを通って10万人以上の方が犠牲になったと言われています。生活が破壊され、都市に流入したのです。

 人類の文明が崩壊するような危機だと、今起きている事態は言われています。私たちはこれまで、個別の開発事業で人権侵害や環境破壊が起きないように努力をしてきたのですが、その背後でもっと大きなことが進行していたことに最近打ちのめされるような思いです。

 地球温暖化が私たちの経済活動によって進んでいることは、みなさんご存知の通りです。生物の大量絶滅も進んでいて、今生きている生き物の1/7から1/8が、このままですと絶滅してしまうと。どちらの問題も、10年以内に劇的な手段で対応しないと手遅れになってしまうと科学者は警告しています。とくに被害は途上国で顕在化して深刻になっています。

 私たちは、現在の経済の枠組みの中で環境や人の暮らしを守る重要な仕組みとして、環境社会配慮ガイドラインの強化活動を行っていますが、この難局を乗り越えるためにはそれだけでは不十分で、他の活動も行っています。

 また、未来を守ろうとする若者たちの大きな動きが出てきており、「気候正義」を求める動きもがあります。今日は、Fridays for futureという世界的な若者のムーブメントに参加している酒井さんにゲストとして参加していただいています。私たち世代が迷惑をかけてしまっている若者世代の考えをぜひ伺いたいと思っています。 

 

 

――酒井功雄さんのお話――

 ありがとうございます。Fridays for futureという、世界中でグレタさんが話題になっていると思いますが、彼女が始めた学生たちによる気候ストライキ運動に関わっています。ちょうど3月に都立高校を卒業して、これから大学に進学することになっています。

 まず自分がなぜ気候変動に関わっているかをお話させていただきたいと思います。木口さんから「気候正義」という言葉が紹介されましたが、この考え方がどういうものなのか、その背景にあることは何かをお話しできればと思います。

 気候変動に危機感を抱いたきっかけ。もともと地球温暖化などの自然現象に関しては、日本で育つなかで考えとしては知っていました。しかしそれは、北極グマやツンドラの人々の暮らしが失われてしまうという、どこか遠い問題でした。それが、アメリカに高校2年で留学した時に環境科学の授業を受講し、気候変動の問題がいかに自分に危機として襲いかねないか、すでに世界でどういった気候変動が起きているのかを学んで、自分に危機を覚えました。

Kaida SJF

気候変動で高まる世界情勢の不安定化、自分たちの生存危機

 今、世界でどのようなことが起きているかを簡単に紹介します。アフリカで昨年豪雨が発生した関係で、大量のバッタが発生し、ケニアから大陸を超えてインドや中国まで届いており、結果的に食糧危機につながると言われています。他にも、今年2月に南極で18.3℃を記録したり、日本でも昨年の台風19号で甚大な被害が出たり、今年も最も暑い年になる可能性が高いとガーディアンは言っています。

 こういった中で、干ばつなどで食料を育てることができないとその場所に住むことができなくなり、「気候難民」と言われる人が年々増加していて、2008年ごろから毎年2千万人以上発生していると言われています。そういった難民の増加による世界情勢の不安定化であったり、まちがいなく生命の危機に脅かされたりという事態が既に訪れ始めています。

 

 その背景にどういった原因があるのか。直接的な原因であるのが、電気・熱エネルギーの生産であったり、運輸に化石燃料を使用したり、森林伐採や畜産など。そうしたところから発生する二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの増加によって、地球の平均気温が上昇していることによって、大気のバランスが崩れて気候変動が促進されてしまうと言われています。

 既に、産業革命前から約1度、地球表面の平均気温が上昇したと言われています。国際的な合意では、この気温上昇は1.5度以下に抑えなければいけない。それを達成しなければ、気候変動は取り返しのつかない状況になってしまう。さらに、この1.5度以下に抑えるまでの時間は10年位しか残されていないと言われています。

 コロナ危機の中で、CO排出量はだんだん下がっているのですが、それでも間に合わないかもしれないと。

 

 気温上昇によって、実際にどういった影響が起きるのか上昇度による比較を紹介します。1.5度から2度に変わるだけで、サンゴ礁が地球上からほぼ100%消えてしまう。それが3度に上がると、海洋生態系が崩壊する見込みがあります。4度では、半数の植物・動物が局所的な絶滅の危機に瀕します。これらは生物多様性だけではなく、海洋生態系に依存している漁民の方々や、そういった国々の人々の食料問題にも深く関わってきます。

 海面上昇については、気温が2度上昇してしまうとインフラの適応はほぼ不可能になると。4度上がると、海面上昇は9メートル、4.7億人から7.6億人が危険に陥る可能性があると言われています。

 本当に、自分たちの生存に関わる問題にどんどんなってきています。今のままのペースで行くと、2100年までに気温上昇は約4度に達すると言われています。そういった差し迫った状況にあります。

 

気候正義 問題の原因をつくっていない人が一番被害を受ける構造を変えていく

 これらをふまえて、「気候正義」はどういう考え方のものか。

 今、問題の原因を作ってきた人ではなく、原因を作ってこなかった人たちが一番被害を受けるという構図が起きています。アフリカの干ばつや、スクールストライキをする子どもたち、これが表しているのは、地域間格差と世代間格差です。

 地域間格差については、今まで化石燃料をたくさん使ってこなかったアフリカやアジアの諸国が最も影響を受ける。先ほどお話したバッタの例や、木口さんがご紹介した東南アジアの干ばつやサイクロンの例もそうです。今もバングラディシュで大きなサイクロンが生まれているそうです。このように、世界の中で最も裕福な富裕層が温室効果ガスの半分を出している影響で、地域間の大きな不平等が生まれてしまう。

 さらに、こういった問題の影響を最も受けるのは僕たちの世代や、それよりさらに先の世代。住む場所がどんどん無くなってしまう。問題の原因をつくっていない人が一番被害を受けるこういった状況を「おかしいだろ」と訴えて、世界各国で若者が声を上げ始めています。

 その解決策の一つに、エネルギーの脱炭素化というのがものすごく大きくあります。日本では、まだ再生可能エネルギーは高くて非効率だろうという声が多く聞こえますが、世界の大半の国では再エネの価格が化石燃料よりどんどん安くなってきています。

 NGOのClimate-action-trackerは、新規の石炭火力よりも新規の太陽光や風力が2025年までには安くなると予想しています。日本政府等が言っている「石炭火力は安い」ということとはどんどん違う世界になってきています。石炭火力に投資することは、投資が回収できない座礁資産になってしまう状況になっています。

 それでも世界はまだCOを排出し続ける方向に進んでいます。今のままでの国際的なターゲットでは気温が約3度まで上昇しかねないと言われています。

 その状況で、このまま学校に行っていても、自分が教育を受けて大人になるときには、未来が無くなっているかもしれないと恐れた若者たちが、その失われるかもしれない自分たちの未来を守るために始めた運動が、世界中で今760万人の若者や大人を巻き込んだ運動となって広がっています。

 僕たちFridays For Futureが求めているのは、個人レベルの大転換ももちろんそうです。例えば、プラスチックをもらわないことや、自分の家の電力消費を削減することも重要です。でもそれだけでは足りない。社会全体のエネルギーの使い方や、経済システムの在り方など、システムの大転換を起こしていかなければいけない。それを求めるためにマーチや大規模なストライキを起こしています。

 僕たちは今日本では、日本政府に対して1.5度目標の実現のために政策の転換を求めて、全国25箇所以上でマーチ・陳情・政策提言などを展開しています。
 

日本が投資し続ける石炭火力発電事業 気候変動を促進 ESG投資の流れに逆行

  木口さんのお話へのコメント、自分の考えをお伝えしたいと思います。

 途上国に、JBICを始めとした日本の公的機関や企業がまだ石炭火力に投資をし続けています。その流れを完全に断ち切らなければならないという世界的なプレッシャーがあり、気候変動の状況を踏まえてもそのプレッシャーは大きくなってきていると感じています。

 石炭火力がなぜここまで問題なのか。石炭は天然ガスより何倍もCOを排出する資源なので、石炭に投資をすることは気候変動を促進することにつながるのです。

 日本の石炭火力の技術は高いからクリーンな石炭だとよく言われますが、たとえものすごく発電効率のよい石炭火力発電だったとしても天然ガスよりもやはり排出するCOの量はやはり何倍も多いのです。JBICや日本の民間企業は、そうした高い発電効率の石炭火力ならば投資すると言っていますが、それに限ったとしても気候変動はまだまだ進んでしまう。

 国際的なプレッシャーはさらに強まっています。世界でESG投資(環境・社会・ガバナンス)がヨーロッパを中心に広まっています。その中で、気候変動を促進するようなビジネスをしていたら、そこにお金が回ってこないという情勢となっています。

 とくにベトナムのブンアン2(石炭火力発電所)は、木口さんが仰っていたように、欧米系の資本も投資をしていた事業だったのですが、このESGの流れを受けて、投資撤退する企業や金融機関が増えました。結果的に、投資を続けるのは、日本だけとなってしまった。

 石炭への投資をこれだけ進めている日本は国際的な流れに逆行していることになります。さらに公的資金を投入して投資を続けたとしても、石炭火力のコストが下がるわけではなく、再エネとの競争力が無くなってしまう。石炭に投資する価値はどんどん下がっている。

 変化は民間企業で起き始めています。Fridays For Futureは今年の3月、みずほ銀行に対して、ブンアン2を始めとする石炭火力事業への融資は止めてほしいというアクションを起こしました。結果的に、みずほ銀行も今後は石炭火力への投資を止めていくという方針を示しましたが、ブンアン2を含む既存のプロジェクトには投資を続けると言っています。

 日本の企業や政府の流れはまだまだ遅いと思っています。そういったことが、今後日本の国際的な評判を下げることにつながりかねないし、投資したとしても投資を回収できないような状況になってしまうので、石炭火力の建設は本当にやめないといけない流れにあると、木口さんのお話を伺って改めて思いました。

 

――パネル対話――

大河内さん) 木口さん、酒井さんのお話を伺って、環境社会配慮ガイドラインを未来のために実効性のあるものにできるのか、市民社会のなかでどうやって実効性のあるものに持って行けるのか、お話いただければと思います。

 

長期的に見て持続可能かという視点を

木口由香さん) ガイドラインだけでは世界規模の環境問題に対処できないというのが、関わっているNGOの率直なまとめです。というのは、ブンアン2のケースもそうですが、ガイドラインでは止められないし、もう一つガイドラインの弱いところで、事業をやってみないと負の影響は分からないところがあり、事前には止めにくいからです。

 温暖化物質をたくさん出す事業には基本的に融資しないという仕組みづくりは進んでいて、一方で今、国策で石炭火力を輸出すると先に決まっているので、それが一段落してからその規定が適用されるのではないか、という日本政府の中のペースがあります。日本の市民社会の力不足もありますし、日本では石炭を優遇したいという勢力は強いので、なかなか止まらないというのが現実かと思います。

 ただ、たくさんの人たちが、酒井さんたちもそうですが、いろんな働きかけが続いていて、今いい線に来ているのではないかと思っています。

 

大河内さん) 「国策」という言葉が出ましたが、そうなると、日本の国策が地球温暖化に対してマイナスになっているかと思います。国策を変えられないというのが、これまでの日本の硬直した社会だったのですが、酒井さんを含め若者たちが日本の常識や社会の仕組みを変えていくのではないか。酒井さん、日本の国策がものすごく大きな壁になっていることに、どのような印象をお持ちでしょうか。あるいは、ご経験や実感があればお話しいただければと思います。

 

酒井功雄さん) 国のプランを変えていかなければいけないという意識は強いです。日本の輸出方針や、COの削減目標も先進国のなかで非常に低い。市民が変われば社会が変わるのではないかとよく言われるかと思いますが、制度的には日本では再生可能エネルギーが普及しづらい状況になっていたり、輸出する際にも国が石炭火力に関する産業界に融通したり、海外で気候変動を促進するビジネスを応援する状況になっています。

 自分たちFridays for Future としても国や企業に対してできるだけ様々なアプローチをしています。先日、パリ協定の目標を国が更新せず、低い目標のままにしました。そういったことに対して対抗する形として、オンラインでアクションを起こす取り組みも続けています。

 

大河内さん) 「国益」という言葉も木口さんの最初のお話で出てきました。とくにODAでは、JICAやJBCもその事業が国益にかなうかどうかが一つの価値観になっている。では、国益というのが本当に日本の国益なのか。ごく一部の人の利益を守るためであって、未来の人たちにとっても、今生きている人たちにとっても、みんなの利益にはならない仕組みになっているかと思います。酒井さん、社会の仕組みのあり方について、若者の市民運動からのメッセージはありますか。

 

酒井さん) 短期的な利益ではなく、長期的に見て持続可能かという視点、先の世代が生きていける環境を残すべきだという視点でもう一度見直す必要があると思います。これまでの社会システムは一直線型で、資源を搾取し、できるだけ使って廃棄して経済成長をしていく形でしたが、それでは資源に限りのある地球で今後も住み続けていくことは不可能に近いと思います。資源をどう使っていくかという大局的ことや、自分がやっているビジネスはこの先の世代によい環境を残していけるかを考えることが求められていると思います。

 

環境社会配慮ガイドラインの改定機会をみんなで活かす サプライチェーンでの人権侵害や環境破壊を防ぐ仕組みも

大河内さん) 再生可能エネルギーのコストがどんどん下がっているというお話がありました。石炭火力等は未来に大きなダメージを与えて、そのダメージを解消するために莫大な費用がかかりますし、維持するために莫大な費用がかかります。また、原子力を日本は地球温暖化のためということで国策として進めていますが、未来世代にいかんともしがたい危険な廃棄物を残していることになります。未来にコストを押し付けている現実に対してあまりに認識がない。

 環境アセスメントのお話が木口さんから伺いました。タイでは、余剰電力とつじつまを合わせるために揚水発電ダム事業を莫大な費用と環境負荷をかけて進めています。それが本当に、大事な人の命にとって、生活にとって、未来にとってどんなダメージを与えることなのかという認識が日本には希薄だと感じます。

 既得権を持った人たちが世の中の仕組みを作っているという課題も横たわっています。木口さん、いかがですか。

 

木口さん) 制度ができれば行政の方もその通りに進めていくという面で、制度は重要です。よい制度が決まっていれば、よく行政の方たちも動けます。だから、ガイドラインは、今の現実問題を解決する、少しでも被害を減らすためには重要で、多くの人たちに関心を持っていただきたい。

 しかし、時間的な問題があり、あと10年を切ってしまった気候変動や生物多様性の崩壊をどう食い止めるかというところで、ガイドラインだけでは済まない。私たちメコン・ウォッチには、若い人たちに申し訳ない、自分たちは何をやってきたのかという気持ちもありました。いろいろな世代の方たちに、将来の問題、酒井さんたちが置かれている状況を理解していただければと思います。

 

大河内さん) 制度や社会の仕組みをどう活用するか、よりよく変えていくかについて、木口さん詳しくお話しいただけますか。

 

木口さん) 実は、環境社会配慮ガイドラインは改定時期に入っていますので、ぜひみなさんにご関心を持っていただければと思います。JICAの方は現在進行中で、ただ新型コロナウィルス感染拡大で会議がネットになっていたりしますので、参加しづらいのですが今後改善されていくと思います。JBICの方は、9月頃に公聴会が開かれる予定で、その前に資料を公開し議論する場をNGOがつくっていくので、関心をもっていただいたり参加していただけたりしたらと思います。いろんな方が関心を持っていることが行政機関の方に伝わると、きちんとやろうというモチベーションが上がりますので、よろしくお願いします。ぜひホームページだけでも見ていただければと思います。

 最近、企業を支援する海外開発スキームの割合が大きくなってきています。サプライチェーンで企業がどういうふうに材料や資源を調達してくるか、その中で人権侵害や環境破壊が起きないかを確認していこうという世界的な動きがありますので、そういうものもガイドラインに取り入れていかなければと考えています。

 

人間としてどうありたいのか 被害を受けた住民が大切にしてきた価値観から学ぶ

 不公平の話は、今までは先進国と途上国という横のつながりの構図でした。今は世界的にその枠組みが崩れていて、一つの国の中でも、少数の富める人とたくさんの貧しい人との不公平が生じていて、日本でもそうなっています。

 また、今の世代と将来世代の人たちの不公平があります。酒井さんもおっしゃったように、今の私たちが浪費型で生きてしまっていて、それを続けてしまうと将来世代の環境を破壊してしまうということが大きな問題です。

 気候正義という問題は、これまで私たちメコン・ウォッチが取り組んできた先進国と途上国の不公平の改善という問題ともつながっています。途上国の中でも富める人が出てきて経済的に発展した国はありますが、やはり先進国と言われるところの私たちが今まで行ってしまった浪費が、途上国や世界の若い人達に負の影響を広げています。影響が出るまでの時間差を生じることが、解決を難しくしていると思います。

  経済成長を基盤にした開発自体を考えていかなければいけないでしょう。

やはり、制度を変えることが非常に重要です。国策を変えられない、選挙で国を変えられないのであれば、制度を変えていくことで国や地方の行政の方々に変わっていただき、そこから違う変化を起こすことも市民運動では大事だと思っています。

 

大河内さん) 制度を変えていくことについて、世界からいろいろな情報が入ってきて、人権の国際スタンダード、いろいろな人権条約に日本政府が批准することでそれが国内でも少しずつ活きてくるという流れがあるわけですが、ことに環境に関しては、日本の政府や企業がなかなか乗ってこない。環境となるとお金が絡んで抵抗されている。なぜ、環境に関してはそういうことになるのでしょうか。
 
木口さん) 社会に「効率的であり、お金を稼げる方に価値がある」という価値観が刷り込まれている、私も含めてですが。そうじゃないんだ、ということを意識していく、口に出していくことが基本として大事なのではないかと思います。

 

酒井さん) 経済成長、物質的な面での成長をずっと求めている気がします。資源が有限ななかで、もっともっととやっていると確実に限界がきます。物質ではなくて、精神的な豊かさや、幸福という面での成長に切り替えていく必要があるかと思います。

 制度的な話では、大企業や既得権益のある人たちの力がかなり強いと感じています。政府の審議会でも、エネルギーのことを議論する委員会には、環境のことを話すはずなのに環境省の大臣が呼ばれないような構図ができている。経済産業省など産業界に近い人たちが力をずっと握ってきているという構図が根強く、それを変えていかなければいけないと感じています。

Kaida SJF(写真=大河内秀人さん)

 

大河内さん) もう一つ、日本の市民の力、市民の意見が出にくい。あるいは、上からの意見が多くの一般の人たちが、市民側のNGOよりも、商業的な企業や既得権益や政府や行政、予算を使っている人たちの声にからめとられていく状況があって、SJFは市民からの力をもっと育てていきたいと思っており、今日のグループ対話でも皆さんのご意見をいただければと思います。お二人から、グループ対話で話し合っていただきたいことはありますか。

 

木口さん) 実際に被害に遭っている途上国、と言われる所に住んでいる人たちがもともと大事にしていた価値観を私たちが学ばせてもらうことが必要だと思っています。今日はわかりやすく途上国・先進国という言葉を使ってしまいましたが、あくまで経済的な一面だけの話で、本当は私たちが遅れている部分がたくさんあると思っています。

 

酒井さん) 経済成長してきた日本は、いかにお金を持っているか、いかにいい仕事をしているかが重視されるように感じるのですが、どうありたいかという観点が少し失われていると思います。環境に対してや将来世代に対して、貧困の話もつながってくると思いますが、人間としてどうありたいのかをベースにどういう行動をしたいのかを考え直すことが、環境に対して優しいことや責任を持ったアクションにつながっていくと思います。
 

 

――グループ発表とゲストのコメント―― 

~グループ対話を行い、それを会場全体で共有するために発表しあい、ゲストにコメントいただきました~

(参加者)
「私たちのグループでは主に3点の話が出ました。一つ目が、誰が責任を負うのかという問題です。それに付随してSDGsを謳っている企業の話になりました。ここで話されていたのは、既得権益を持っている人からそれを奪うのか、それを誰がどうやって責任を持つのか。さらに、日本国内だとシステムを変えることに対して反発が多いという話になりました。

 2点目は、経済か環境かではなく、融合させることが重要だという話で、そこで『豊かさ』という言葉が出ました。豊かさは住んでいる国によっても個人によっても異なっているという問題があるから、現在のように経済か環境かのような話が出てきている。豊かさが何なのかを話し、選択肢が充実した環境にいることが重要だという話になりました。

 3点目は、コロナによって私たちがどのような問題やよいところを見つけられたか話しました。一つ目は、社会保障制度を充実させることが重要なのは万国共通だということです。また、木口さんが仰っていたように、途上国の持っている価値観がいいという判断が出てきているので、それをより情報発信していくことも重要だとなりました。

 情報共有をさまざまな世代で行い、当事者意識を持つことが重要で、それは自分たちが住めなくなる可能性を意識することが重要な状況だからです。」

 

「まず、JBICやJICAのガイドラインについては私たちのグループの方は皆さん知っていましたが、ガイドラインが改訂されることは皆さん知りませんでした。ですので、ガイドラインは作ってお終いではなく、継続してウォッチしていかなければならない問題なんだと話し合いました。

 公開されている資料が膨大で専門的な内容で、現地の人たちがアクセスする方法もわからず、英語でしか書かれていず、素人には読み込むことが難しい点も問題だという指摘がありました。

 ガイドラインは配慮しているという言い訳づくりだという意見もありました。現地の人たちに、ガイドラインをどう説明するのか、そのための予算は取っているのか。そもそもガイドラインを重視するとコストが上がってきて日本が選ばれなくなるのではないかと問題を投げかけるようなご意見もありました。

 環境アセスメントに詳しい方もいらして、以前は小規模開発を下からやっていくような時代があったが、今は、SDGsにあわせるように上から押し付けるような開発が行われているのではないか、というご意見も伺いました。

 ガイドラインで本来なら、強制的に移転させられた人がいるならば融資をストップしてでも回復できるようにしなければならないが、そうなっていない。ではどうしたらよいかは、納税者である私たち一人ひとりが声を上げていかなければいけないのではというご意見もありました。

 壊されてしまった環境をどう再生するかも大きな課題として挙げられました。ベトナムへの石炭火力発電の輸出については、ベトナムは大気汚染の基準が非常に緩く、日本ではありえないような建設方法で設備が造られてしまっていることは日本の人たちがもっと知るべきであると。大きな公害を経験した日本だからこそ、その経験を海外に伝えることが重要だと話されました。」

 

「地球規模の大きな問題を身近な問題として考えるのは難しいが、それをどう考えるか。ご家族がモーリシャス出身の方がいらっしゃって、現地では人間の幸せを考える人が多く、みんなのことを考えていくと自分に返ってくると考えている。またモーリシャスではプラスチックごみゼロと法律で定めて、じっさいにプラスチックごみは無くなって、レジ袋も無くなっていて、日本に帰ってくると唖然とすると話しておられました。

 木口さんのお話に、政府が動かない、国策として進められているという話がありましたが、市民側から具体的な提言を出していくことも必要だろうという話も出てきました。それを進める際には、正しい情報や知識を自らも勉強していかなければいけないし、遠くのことでも身近な問題としてとらえていくことが必要だという話になりました。」

 

「コロナの危機だからこそ、自分たちのつながりを見直した方が良いという話になりました。ラオスの人たちはロックダウンになっても自分たちの庭で野菜などを育てていたので日本のようなパニックにはならなかったり、トンガでは人々が誰彼構わずライドシェアをして、物をシェアすることが普通になっていたりしたそうです。そういったことが、日本だと、一人ひとりのつながりや、食べているものがどこから出来て届けられているのかが感覚として失われているのではないかという話がありました。

 木口さんのお話にあった、途上国の方の価値観とはどういうものか。発展していないが故に、有機農法を使ったり、食べ物を包むときもプラスチックではなくバナナの葉で包んだりすることができていたが、発展するにつれて、もともと行われていた環境に優しいことが失われている。途上国の方は環境を守ろうというインセンティブはとくに無いので、失われていってしまうと話し合いました。」

 

「気候正義という価値観をどうやって広めていくか、グループにいた酒井功雄さんに話していただきました。入口は入りやすくポップにして、参加者の関心や知識を深めていくアプローチで活動しているそうです。また、参加者には海外の情報にアクセスできる人が多く、留学していたりインターナショナルスクール出身だったりする。情報リテラシーが重要だと感じました。

 酒井さんはボルネオに行かれた際、途上国側では森林伐採を止めるインセンティブが低く、経済的なものに飛びついてしまう状況を見て、途上国の基準や消費者の意識を上げるのが必要だけれども難しいと感じているそうです。」

 

 

社会に変化を起こしていくのは、一人ひとりが気づいて変わった行動の積み重ね

大河内さん) みなさんのお話を伺い、木口さんと酒井さんから一言ずついただきたいと思います。

木口さん) ありがとうござました。人の意識を変えることと制度を変えることは、物事を変える両輪みたいなことだと思っているので、両方に関わっていければと思っています。みなさんも引き続き、メコン・ウォッチの情報発信やFridays for Futureに注目していただければと思います。

酒井さん) 気候変動は状況が深刻で、情報を知れば知るほど絶望的になることも中にはあるかと思います。過去に自分が関わったアクティビストの中には、変わらないからと諦めてしまう方もいて、お話を聞いたことはあります。

 ただ、世界の流れは、先ほどのSDGs等どんどん変わってきています。パリ協定を実現させたUNFCCC事務局長のクリスティアーナ・フィゲレスさんがずっと言っていたのは、「この問題を変えるのは、頑固な楽観主義だ」と。絶対に良くなると思って進めていくことがものすごく重要だと。状況はかなり深刻ですが、悲観的にならずに、変えられると。

 一人ひとりがアクションを起こすことが大事です。制度的な変化も大事で、それも起こしていかなければいけないですし、それにプラスして、一人ひとりが変化を起こしていくことも重要です。社会に変化を起こしていくのは、一人ひとりが気づいて変わった行動の積み重ねだと思います。自分が変わると、想像以上に周囲に与える影響は大きいと思っています。自分がこの活動に関わるようになって、母親は自分が言う前に「再エネに変えよう」と言い始めました。みなさんが起こす行動のインパクトは想像以上に大きいことを理解していただいて、楽観的にこれは絶対に良く変えられると、未来を創っていけることを信じながら行動していただきたいと思います。一緒にがんばって行けたらと思います。ありがとうございました。

大河内さん) 希望は捨ててはいけないと思います。どうあろうと、私たちがやったことの結果を、次の一瞬一瞬を生きていかなければならない現実があります。そこでどうベストを尽くしていくのかだと思います。

 参加者のみなさんから、いかがでしょうか。

 

参加者) 環境社会配慮ガイドライン自身には、実行担保と立証責任は規定されていないのでしょうか。公害の問題も立証責任の問題。加害の可能性がある方が「ない」という立証を行うよう法改正すべきではないでしょうか。 

 

木口さん) 環境社会配慮ガイドラインは一見読むと紳士協定のように読めるのですが、実際は、社会が関心を持つことで実効が担保されていると私は理解しています。

 立証責任が無いのは、確かに問題ですね。例えば、問題が起きていて被害がいくら訴えられたとしても、今まで、JICAやJBICに責任があるという判断が出たことはありません。それは確かに問題かと思います。ですがガイドラインが先述のようにいろいろな問題を防いでいると思います。

 

参加者) 行政の関わり方に関する品質管理ができていないから、そうなっているのではないかと思います。もし援助事業で被害者がでたり貧困化させたりするようだったら、本来なら背信行為なわけです。真っ先に、自分のところで直さなければいけないのに、それをチェックして自分で直すというような品質管理の機構が全くないということの方が問題だと思います。ですから、行政に何か提言するのであれば、ガイドラインの中の問題ではなく、ガイドラインを担保している構造のいろいろな問題なのではないかと思います。

 

木口さん) それは既に両方働きかけはしているのですが、ガイドラインに定められている方が行政としては対応しやすいというのがあります。実際に住民を補償したり、現地で手当てしたりするのは、基本的に現地政府や企業の責任であり、JICAやJBICは監督する立場なのです。その監督する立場でありながら、事業を実施している人にプレッシャーをかけられることで、ガイドラインに意味があるのです。1990年代までガイドラインが無かったためにいろいろな問題が起きていたことを考えると、ガイドラインがあることで守られている人たちがたくさんいますので、ガイドラインの意味をそのようにご理解いただければと思います。

 

大河内さん) ガイドラインに実効性のあるものにするのは、みんなの監視、目だと思います。微妙で、法律でもないところかと思いますので。例えば、非核三原則は、役人の方に言わせると「あれは、法律ではないから」だそうで、ないがしろにされることがあります。ガイドラインがそういうふうにならないよう、みんなの監視、国際的な世論が大事ですし、そこで何が起きているのか、みんなが見えるようにしなければいけないと感じるところです。

 

参加者) 再エネの生産自身が、化石燃料消費に依存しているという矛盾についてはどうでしょうか。

 

参加者) 再生可能エネルギーも短期間に大規模に導入すると環境破壊や地域生活への支障をもたらします。日本では、再生可能エネルギーに対する環境アセスメントが立ち遅れて、地域で様々な問題を引き起こしました。再生可能エネルギーを推進するためにも、事前配慮の仕組み(環境社会配慮を含む)を実行していく必要があると思います。

 

酒井さん) 確かにあると思います。メガソーラー等を推進することによって、山が伐採されることが起きているので、そこの制度やルールがあまり無いまま行われてしまったのかと思います。自分が勉強不足の部分ですが。

 過渡期に天然ガス等の資源を使わないと変わっていかれないところもあると思います。そこの転換のプロセスをいかに環境に優しくするかは制度的なルールが必要なのではないかと思います。 

 日本の場合は、送電網の問題も大きいです。送電網のコントロールを既得権益者、既にある電力会社が守っていて、再エネ事業者が参入しづらい状況になっています。また、再エネを普及するポテンシャルのある地域に送電網があまり準備されていない問題もあります。

 再エネを増やしていくことと並行して、そういった供給網などの準備や、制度を整えていかなければいけないと思っています。

 

木口さん) 参加者の方からご指摘があったように、日本の環境アセスメントは本当に問題で、また、日本の公共事業も問題だとグループ対話で話題になり、非常に根の深い問題なので、いろいろな角度からいろいろな形で関わっていければと思っています。

 ガイドラインの改定については、今後、メコン・ウォッチのホームページやメールニュースで逐次お知らせして、参加の機会があれば、みなさんにお声がけできればと思っています。NGOの中では勉強会を行っていますが、難しいテーマでも、一般の方向けの勉強会もやってみなければいけないと思っています。

 メコン・ウォッチではガイドラインの活動に加えて、石炭火力の輸出を止めるような活動を他のスタッフが頑張っていますので、若い方をはじめいろいろな方と協働でいろいろやって行けたらと思っています。

 

参加者) 若者の中でも、酒井さんのように活動される方と、そうでない方と二分化されているのかな、と思います。とくに今後負の影響をうけるであろう、日々の生活に追われているような途上国の地方の、もしくは先進国でもまず自分が生きることに必死にならざるをえない若者たちが、人権、公正といった視点で運動する動きを支えるために大人の役割として求めていることは何でしょうか。

 

酒井さん) 自分がこの問題に関われているのは、気づくだけの余裕が自分にあったからで、すごく恵まれていたことだと思っています。

 自分事としてこの問題を考える経験を日本の中ではなかなか持てないように思っています。この問題を自分事として理解するために、例えばFridays for Futureだったら、入り口をできる限り入りやすいようにしたり、若者が参加しやすいような運動にしたりしています。

 大人の役割としては、できるだけ多くの人に参加してほしいという限りです。とくに気候変動に関しては若者だけの問題ではなく、全ての世代が影響を受けている問題なので、大人にも関わってもらいたいです。例えばマーチに参加していただけると、すごく幅広い世代の人が同じ問題に危機意識を感じていること、参加していることが可視化されると思います。それは、運動に関わっている人がより多くの社会課題に気づくきっかけになると思います。

 最後、メッセージになりますが、社会的に変化を起こしていく必要があると思います。政治や国策がなかなか変わらないとしても、一人ひとりが変化を求めて、需要が変わっていくと社会が変わっていくと思います。例えば再エネに変えることも市民レベルだとあまりお金が変わらないこともあるので、変化を起こせるよと周囲に広めていただけることも最初に起こせるアクションなのではないかと思います。

 

木口さん) 市民運動をやっている方は私も含めてこだわりがあるので、自分のやり方を人に伝えたくなるのですが、若い人たちは違う感性で違うやり方で行っていて、それに対して「こうしなさい」というような指示を出さないでほしいと思います。

 また、こういう活動をする人が生活の心配なくやっていけるような日本の制度が必要だという話も、先ほどのグループ対話で出ました。ベーシックインカムみたいなものについて、このアフター・コロナの機会に議論が進むとよいと思います。ソーシャル・ジャスティス基金さんの助成はスタッフの人件費も出してくれますが、人件費に助成しない基金が日本では標準化しているのです。そういったところも、市民社会を強くしない足かせになっていると思うので。お金の流れを変える動きが今だいぶ出てきていますし、そういう面からも日本が変わっていければと思います。

 

大河内さん) 住民アセスという言葉が参加者からも出てきましたが、木口さんのお話をうかがっても、一番モチベーションになるのは、そこに生きる住民がどんな目に遭っているのかを知ることから始まるのかなと思います。また、酒井さんが示されたように、気候変動が切実な中で生きている人が世界にいて、それと我々の生活、我々の投票行動や政治行動がつながっています。そういったつながりの中にある一番課題となるところに、私たちはしっかり目を持っていくことが大事だと思います。そして知った者、出会った者の責任をどう果たしていくのかということになると思います。この機会に、みなさんと議論し社会の中で活かしていけたらと思っています。■

 

●次回のアドボカシーカフェご案内★参加者募集★

若者の妊娠葛藤の背景にある社会課題
~相談支援から見えてきたこと、市民のみなさんとできること~

【ゲスト】松下清美さん(NPO法人ピッコラーレ相談支援員・理事/社会福祉士)
     細金和子さん(社会福祉法人慈愛会 慈愛寮元施設長)
【日時】2020年8月3日(月) 13:30~16:00 
【会場】オンライン開催
詳細こちらから

  

●今回の2020年6月4日の企画における、木口由香さんの資料はこちらからご覧いただけます。

●JICAの環境社会ガイドライン改定に関するサイト(木口さんご紹介):
○改定に向けてレビュー調査と議論の記録はこちらから
○包括的検討(レビュー調査で上がった論点に、助言委員がコメントした内容)はこちらから

●メコン・ウォッチのメコン開発メールニュースのサンプルと受信のご案内はこちらから

 

 

 

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