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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第75回開催報告

性売買の実態と女性の人権を考える

―性売買を容認し、女性を性搾取に追い込む社会を変えるために―

 

 2022年12月9日、性売買経験当事者ネットワーク灯火(以下「灯火」)メンバー、金富子さん(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)をゲストに、仁藤夢乃さん(一般社団法人Colabo代表)をコーディネーターに迎え、SJFはアドボカシーカフェを開催しました。

 

 「虐待をもともと受けていたので痛みには鈍かった」。「未成年の時に家を出るしかなかった。助けてくれる人がいれば、どこに助けを求めればよいかを知っていれば、困窮した子どもにもっと援助のある世界であれば」性売買に取り込まれなかった。「みなさんは、住む場所がなくなると言われたらどうしますか。頼れる人は一人もいません。お金はありません。風俗をあなたはやらずに済んでいるだけではないでしょうか」という性売買経験当事者からの問いかけに、どう応えられるでしょうか。

 現代日本における性搾取の構造が性売買経験当事者の声から浮彫になりました。性売買から脱するための支援の重要性が金さんから強調されました。性売買をめぐる世界的潮流を金さんは提示し、「家父長的な市場論理」から「人権の視点」にパラダイムシフトした韓国では、被害相談・シェルター・自活支援からなる体系的な支援システムが構築されてきたことが説明されました。

 日本の「売春防止法」は66年前に制定されたまま、女性だけが「勧誘罪」で処罰され、性を買う買春者には咎めが無いという問題を仁藤さんは指摘しました。刑法性犯罪に「買春罪」が制定されているスウェーデンは性売買を脱したい女性の支援も早くから実施していることが金さんから示されました。またフランスでは、買春者を処罰して責任を問うと共に、学校で身体の商品化行為の根絶・ジェンダー平等・自己と他者の尊重・身体の尊重を教育していることも示されました。

 「性売買のある社会に性平等はない」。これは、日本の植民地支配により公娼制度が持ち込まれた韓国でついに成立した「性売買防止法」の更なる改善を進めるスローガンですが、フランスで成立した「性平等モデル法」案を国会に提出した議員の発言「女性の体が商品となって売られ、賃貸され、他者に横取りされるような社会では男女平等は不可能」と呼応します。そして日本の「ジェンダー平等」に、性売買の現場で人権や尊厳が今も踏みにじられていることは視野に入っているでしょうか。

 「性をお金で買って支配すること、それ自体が暴力であって、尊厳を踏みにじられていると思います。他の選択肢を考えられるかもしれないと知ってほしいです」という性売買経験当事者の声。参加者から、性売買も性暴力としてみんなで話せる空間を広げていこうと発せられました。

 詳しくは以下をご覧ください。 

 Kaida SJF(写真=上左から仁藤夢乃さん、灯火メンバー、金富子さん)

 

※まず、灯火のメンバーである2人の性売買経験当事者の女性から、性売買の実態と搾取の構造についてお話しいただきましたが、灯火の希望によりその場限りとさせていただきます。

 

――金富子さんのお話――

 みなさんこんにちは。私がお話しますのは、「性売買の現状を変える代案とは―北欧モデルと韓国/フランスの模索から学ぶ―」というテーマです。

 まず若干自己紹介をしたいと思います。わたしの専門は植民地公娼制や戦時性暴力、そして現代日本・韓国の性暴力・性売買研究などで、今回に関係のある『性売買のブラックホール』を監訳しました。小野沢あかねさん、仁藤夢乃さんも解説を書いています。

 日本というのはまさに「買春天国」です。そうした買春に寛容な社会に対し、実は性売買の実態や搾取構造に対して性売買の当事者は声を発してきました。戦前は森光子『光明に芽ぐむ日』、戦後は『封じられた履歴書―新宿・性を売る女たちの30年―』『難民高校生―絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル―』等の本などです。そして現在は当事者がSNSで経験を語る時代になりました。最近、「性売買経験当事者ネットワーク灯火」というグループが集団で現れたことは非常に画期的なことです。それを当事者の声を聞くことがどれだけ大切なのかを改めて知ることができました。

 しかし問題なのは、その声を消そうとする勢力が絶え間なく表れて、現在も大きな力を発揮しているところです。現在のColaboへの激しいバッシングはまさにそれです。

 それに対して私たちは、サバイバーの隣に立って現状を変えたいColaboのような人々とともに、当事者の声が安全に届く社会をどうつくっていくのか。そのために、私が今日話をするのは、こうした性売買の現状を変えるために様々な動きが世界にある。その代案について学ぶ必要があるのではないかということで報告していきたいと思います。

 

性売買をめぐる世界的潮流と北欧モデル

 まず、性売買をめぐる世界的潮流と北欧モデルについて見ていきたいと思います。

 1990年代以降、大きな流れが出てきました。

 一つ目は「新・廃止主義」ですが、これはスウェーデンから始まったので「北欧モデル」、または「性平等モデル」とも言われます。他にはフランス・カナダ・ノルウェー等がこれに当てはまると思います。

 二つ目が「新・合法規制主義」ですが、「セックスワーク論」的だと言えると思います。ドイツ・オランダ・スペイン等がこれで、ニュージーランドを非犯罪主義という人もいますが規制が全くないわけではないのでここに入るだろうと思います。

 三つ目が「非犯罪主義」に基づく流れですが、これはセックスワーク論の究極目標と言っていいと思います。この三つ目に関しては、性売買の完全非犯罪化、あらゆる法規制の撤廃、自由な市場に任せるという発想なのですが、これを実現した国はありません。

 ということで、ここで比較すべきは、この北欧モデルと、セックスワーク論的と言っていい合法規制主義に関するものです。具体的には次で見ていきます。

 

刑法性犯罪に「買春罪」が制定されているスウェーデン 性売買を脱したい女性を支援

 この2つのモデルの経緯と現状を見ていきたいと思います。

 なぜこういう動きが出て来たのか。それは、冷戦崩壊の1990年代に、東欧から移民がEU諸国内にやってくるという流れがあり、そのなかに性売買女性がいたのです。実際にイギリスの報道(2010年)によるとEU圏内の性売買女性の7割を占めているそうです。

 その背景に、貧困があるのは日本の状況と同じです。新自由主義経済、そしてフェミニズムの流れが加わります。そうした状況に対して、この性売買をどう見るのか――「労働」と見るのか、「暴力」と見るのか――という点で二つの対応があります。

 「合法モデル」――「セックスワーク論モデル」と言っていいと思いますが――は、要求するのは「性売買する権利」です。それを取り入れたドイツのそもそもの意図は人身売買を減らし、性売買女性の処遇改善を図ることにあり、そのために「労働」とみなして業者と対等な契約を結ぶ個人事業主とみなすことです。「個人」に着目していることが分かると思います。ここで重要なのは「業者と女性が対等かどうか」ということです。

 結局、実際どうなったのか。20年ほど経っています。後で紹介するシンパク・ジニョンさんがドイツにフィールドワークを行ったところ、性産業が活性化・肥大化していた。富裕化した斡旋業者がたくさん登場し、中には政界への進出もあった。一方、性売買女性は、先ほどの灯火の発表にもあったように、さまざまな過当競争を強いられ、より劣悪な状態になっているにもかかわらず自己責任にされ、なおかつ脱性売買を望んだとしても政府のサポートはない。新自由主義経済のもとで、経済的に優位な業者と劣位におかれた性売買女性が対等ということはありえません。合法国だということで女性がどんどん送られるということが生じています。つまり性売買は拡大再生産されていると見ていいと思います。

 一方、「北欧モデル」――「性平等モデル」とも言えますが――で追求する権利は、「性売買をしない権利」だと言っていいと思います。スウェーデンはまず1999年に「女性への暴力」をなくす――性売買を女性への暴力だとみなしていますので――「女性安全法」の一環で「買春」処罰を世界で初めて規定しました。そして2005年には、刑法性犯罪の条文に「買春罪」を制定しました。日本でいえば、刑法の強制性交等罪などとともに買春罪があるようなイメージだと思います。具体的には罰金あるいは懲役です。

 一方、性売買する女性は処罰されません。かつ脱性売買を望む女性には支援があります。要するに、「女性への暴力」としての性売買をなくすためにはどうしたらよいかというジェンダーの「構造」に着目しているモデルだと思います。

 スウェーデン政府は10年経ったときに評価書を出したのですが、路上の性売買や人身売買は明らかに減少していたことが分かりました。それから2014年にとったアンケートでは、この買春罪を支持するのがスウェーデン国民の72%――女性が85%で男性が60%――ということで、性売買が縮減する方向になっています。

 

 興味深い動きとしては、合法国スペインでは北欧モデル型の法案を国会に提出中ということで、これが通れれば欧州の性売買をめるぐ状況が変わる可能性があります。

 

韓国の「性売買防止法」と女性支援―北欧モデルの部分的採用―

 アジアの中でいち早く北欧モデルに注目し、取り入れようとした国があります。それが韓国です。2004年に「性売買防止法」が制定されました。これについて知るいい本が2022年に2冊続けざまに出版されました。まず、『性売買のブラックホール』ですが、本書を書いたシンパク・ジニョンさんは、性売買問題解決のための全国連帯(2004年に結成)のメンバーです。次は『道一つ越えたら崖っぷち』ですが、この本を書いた当事者のポムナルさんは、灯火の韓国版ともいうべき性売買経験当事者ネットワーク・ムンチ(2006年に結成)のメンバーです。両方とも韓国の性売買の実情や最近の動きを知るのに最適な本です。さらに現在、『無限発話』というムンチの書いた本の翻訳・出版を準備中です。

 

 韓国の性売買を語る時に、日本の影響を無視することはできません。なぜなら、そもそも公娼制度がなかった朝鮮半島に持ち込んだのは日本だからです。日本の朝鮮侵略と植民地支配のなかで公娼制度を持ち込み、日本式の性売買というのが朝鮮社会に定着するようになったからです。

 その影響が現在も続いています。植民地支配時代の遊廓が、現在の性売買集結地になっています。そこには、米軍兵士の基地村、日本人男性のキーセン観光、韓国人男性の接待文化が密接に絡んでいます。そして、性売買の隠語にも日本の痕跡があります(ナカイ、マエキン、ヒッパリ、花代など)。何よりも性売買の仕組みが今も残っているのです。

 

「家父長的な市場論理」から「人権の観点」へとパラダイムシフト

 では、具体的に何がどう変わったのかを見ていきます。

 韓国では1961年に「淪落行為等防止法」(淪防法)ができました。このモデルとなったのが日本の「売春防止法」です。両者は大変よく似ていますが、売春防止法より劣悪という部分もあります。これが2004年に「性売買防止法」という法律に変わりました。

 性売買防止法は2つから成っていて、一つが処罰に関する法、もう一つが被害者保護に関する法と考えればよいと思います。

 なぜこの法律ができたのか。一つ目には、やはり韓国の民主化が非常に大きく影響しています。その結果、女性運動が活発化した。そしてもう一つ忘れられないのが、火災事故で性売買女性が多数亡くなったことです。このままではいけないということで、この法律を制定するのに力を尽くした。私たちが韓国に行って聞いてきたのですが、実は制定前に各国の事例をたくさん研究したそうです。そして、最終的にモデルにしたのが、できあがったばかりのスウェーデンの買春罪だったわけです。

 この変化の意味は、「家父長的な市場論理」(淪防法)から「人権の観点」(防止法)へとパラダイムシフトが起きたことです。つまり、淪落行為等防止法とは自由な取引という名のもとに個人の選択・責任とされ、供給を遮断しようとする意図でつくられた法律でした。日本はまだ売春防止法体制なのでこの家父長的な市場論理の段階だと思います。

 それに対して「性売買防止法」は、女性の人権の視点から、性売買は脆弱な人に対する搾取であり、これをなくすのは国家の責任であるとして「性売買女性への支援」とともに、買春の需要を遮断すべきということで「買春」処罰を制定しています。

 しかし、性売買防止法には成果と限界があります。買春の「需要」に注目することで買春者処罰を強化した点をみると、具体的には罰金または懲役となっていますが、実際には懲役になる人はほとんどおらず、罰金か条件付き起訴猶予となっていて、買春男性に対するジョンスクールという教育プログラムが行われているそうです。

 もう一つの柱である性売買女性支援について強調するべきなのは、国家の責任で行うことになったため支援システムが体系化されたことです。また、3年に1回の実態調査を、買春者を含めて国が行います。予防教育を小中高やいろいろな行政機関の中で行っています。

 しかし、限界として、北欧モデルと完全には言えない理由は、これが非常に問題なのですが、性売買女性を「被害者(非自発)」と「行為者(自発)」に分けて、被害者は処罰しないけれども、自発だと思われる行為者の方は処罰するという中途半端な状態で、二つに分けられるはずはないのに分けられているからです。いま女性運動は、この性売買女性処罰条項を削除することによる北欧モデルの全面実施を要求し、「行こう!性平等モデル」ということで性売買処罰法の改正運動を続けています。

 

性売買女性支援の体系的システム 被害相談・シェルター・自活支援

 性売買女性の支援については、こういうシステム(画像下)を20年間かけて体系化してきました。大きく3つからなり、まず救助する性売買被害相談所は集結地現場支援事業と連携しています。そして自活に向かう一般施設(シェルター)、さらに自活支援センターがあり、医療支援・法的支援・職業訓練支援・治療回復プログラムとも連携しています。支援を全国各地で行える体制が整えられました。 Kaida SJF

 性売買防止法が制定された9月23日前後には、韓国ではこの法を記念して毎年さまざまなイベントが行われています。今年は、全国連帯とムンチ、支持者が集まって、性売買処罰法の改正、つまり北欧モデル(性平等モデル)を要求する諸イベントを行いましたが、これらをColaboや灯火メンバーとともに参加しました。その時のデモ行進のスローガンが非常に印象的だったのでお伝えしたいと思います。

「性売買がある社会に性平等はない」。

 もう一つはフランスから、同国に北欧モデルを導入したモード・オリビエさんというフェミニストの元国会議員と当事者活動家を迎えてシンポジウムなどを行いました。以下は、韓国で実際に聞いたことです。

 

フランスの性平等モデル 「女性の体が商品となって売られ、賃貸され、他者に横取りされるような社会では男女平等は不可能」

 フランスの性平等モデルである「買春処罰法」(2016年)を推進したのはモード・オリビエさんという社会党元国会議員(2012年-17年)たちで、法案の土台になった性売買に関する実態報告書を作成した方です。オリビエさんは「女性の体が商品となって売られ、賃貸され、他者に横取りされるような社会では男女平等は不可能」と国民議会(2013年)に発言しています。先ほどの「性売買がある社会に性平等はない」というスローガンと同じですよね。また、「DVやセクハラの処罰、強姦の重罰化、女性への暴力に対する諸法律の流れの中に、この動きを完成させるものとして買春禁止を位置づけ」たとも発言したそうです。つまり、「性売買は女性に対する暴力」と認識されているのです。まさに北欧モデルの考え方です。

 韓国でのオリビエさんの報告によると、フランスで性売買された人は3万人から4万人ということで、未成年者が6千人から1万人だそうです。そのうち、性売買された人の85%は女性、15%は男性。買春者の99%は男性。つまり圧倒的にジェンダー非対称であることが分かると思います。日本と違うのは、性売買女性の90%は移民女性であることです。貧困に加えてフランス語も十分に話せず、最も脆弱な人たちだと思います。ほとんどが斡旋組織や人身売買の被害者。性産業に流入する平均年齢は満14歳ということでした。

 

学校で、身体の商品化行為の根絶・ジェンダー平等・自己と他者の尊重・身体の尊重を教育

 オリビエさんによると、以下の4つの方針があるということです。

 一つ目が、性売買の斡旋と人身売買の根絶です。フランスでもネットを介した人身売買・斡旋が盛んであり、買春処罰法が2016年に成立したことにより、そのオンラインサイト「ビバストリート」を捜査対象にし、一部ユーザーの不適切な使用を防ぐために2018年に出会い系掲示板を閉鎖したそうです。

 二つ目が、脱性売買を望む女性の支援です。性売買女性は非処罰であり、脱性売買の手続きを新設し、社会的・職業的自活のための支援金の支給やシェルターの設置を進めています。また脱性売買を誓約した外国人には一時滞在許可(6か月)・国家の金銭的支援・脱性売買プログラムが提供され、その支援のための国家基金があるそうです。

 三つ目が、これも韓国とも共通するのですが、幼少時から性と身体に対する尊重を教育すること(性教育)です。学校では、身体の商品化行為の根絶・ジェンダー平等・自己と他者の尊重・身体の尊重の教育に力を入れているということです。

 四つ目が、法の一番柱になる点ですが、買い手を処罰し責任を問うことです。買春者に犯罪記録が残り、1500ユーロ(約20万円)の罰金刑、再犯すると倍近くの額の罰金刑となります。犯罪記録が残ることが重要なようで、ある種の職業に就くことに支障が生じるそうです。それから、性売買根絶教育というのを買春者に課すということもしているそうです。

 

 今どうなっているか。法の成立前は、性売買の「必要悪」論や法律に対する反対論が多かったそうです。ところが、#MeToo運動(2017年末~)以降、フランス社会の雰囲気が大きく変化したということもオリビエさんは言っていました。2019年、つまり法が制定された3年後に世論調査したところ、78%が性平等モデル法は良い法だと回答し、79%が他人の身体と性を購入(買春)できないようにすべきと回答しました。特に85%が性平等モデル法は重要なだけでなく、至急な法適用が必要だと回答したとのことです。それだけでなく、「買春した」ということが、おおっぴらに言えない雰囲気になったことも大きな変化だというふうに言っていました。

 実際に、脱性売買の支援を2021年に受けた395人のうち87.5%が別の職業に就いたそうです。買春者については、21年までに7000人が買春で処罰を受け(年間約1200人)、パリでは21年に396人が処罰を受けました。性売買根絶教育を実施する主体は裁判所なのですが、21年末までに実施した裁判所は約20か所だそうです。

 ただし問題点もあるとのことです。パリが中心であってフランス全域ではないため、全域で施行されるようにしたいとのことです。また最近、未成年者の性売買が増加していることをオリビエさんは非常に憂えていました。これはポルノ文化――日本でいうとAV――に対する慣れがあるのではないかと言っていました。それでも非常に画期的なことが半年前に起こったそうです。ポルノ映画の監督と制作者が今年(2022年)になって強かんと性売買斡旋で起訴されたことです。つまり、ポルノは一種の性売買斡旋であるという認識が生まれたということです。

 

 以上、日本にいると買春があまりにも当たり前で、私たちの声がすごく小さいように見えるかもしれませんが、世界は大きく動いています。私たちはどんどん学んで知識をつけて、対抗できる勢力を一緒につくっていければなと思います。

 

 

――パネル対談―― 

仁藤夢乃さん) 灯火のメンバーの話もきっと多くの方は初めて聴く話だったのではないかと思いますし、性売買の現場で何が起きているのかということが日本ではまだまだ知られていない。当事者たちが安全に語れる環境にない、社会が余りにもそれを暴力として認めずにむしろ買う権利があるかのように語る社会です。

 私たちは、やはり実態を知って、性搾取の構造を知ることが大切だと思っていますし、金富子さんのお話では、海外ではどのような政策をとっているのかということを詳しく解説いただきました。これについても、日本では諸外国の状況も知られていないし、議論すら始められていないような段階なのではないかと思っています。私も韓国に金富子さんや灯火のメンバーと一緒に行きまして、性売買防止法の改正キャンペーン、女性を処罰するなというキャンペーンに参加してきました。いま日本でも、「女性処罰法改正キャンペーン」が立ち上がっています。

 

日本の売春防止法 女性だけが勧誘罪で処罰 性を買う人には咎めなし

 日本では「売春防止法」という法律が66年間変わらずに来ていて、買春者は処罰しないで、業者等は場合によっては処罰の対象になるのですが、第5条の「勧誘罪」では女性だけが「持ち掛けた罪」ということになっています。女性だけが何か積極的に性売買をしているような、でも背景には社会的な強制があるのに、そういうことは抜きで何か女性が悪いことをしているようなイメージでずっと語られてきていると思うし、法的にもそういう法律になっているのです。

 そもそも「売春」という言葉が差別的だと思っていて、「春を売る」って、そんな「春」ではないですよね。これも本当に男目線。買春者にとっては「春」なのかもしれないけど、そんなものを買っている、そのこと自体が人権侵害なのだという認識を持っていかないといけないと思っています。

 この66年間変わっていなかった法律が一部、22年5月に新しく「女性支援法」ができたことに伴って、改正されることになりましたが、まだこの第5条の「勧誘罪」、女性に対する処罰があります。一方で、買春者に対しては何のお咎めもないという状況をおかしいと思っています。

 この女性支援法では、私も制定に関わっていまして、今も有識者会議のメンバーとして基本計画を詰めていくのを今年度中にやるということで会議に参加しています。性搾取の問題を国も認識して取り組むように基本計画に入れるべきだと言っているところです。パブリックコメントも年明けにある予定ですので、みなさんもぜひコメントをいただけたらと思います。

 韓国やフランスの方と交流すると、脱性売買支援があること、そして社会の目線が「女性が悪い」ではなく「業者や買春者が悪い。女性に対しては脱性売買の支援をしていくべきだ」という考え方で、そこから脱せられるように社会的サポートがあるということがよく分かります。そういうことを日本社会でもつくっていきたいとがんばっているところです。

 

※ここで灯火のメンバーである2人の性売買経験当事者の女性からのお話もございましたが、灯火の希望によりその場限りとさせていただきます。

 

 

――グループ対話とグループ発表を経て、ゲストからのコメント―― 

※グループにゲスト等も加わり、グループの方々に感想や意見、ご質問を話し合っていただいた後、会場全体で共有するために印象に残ったことを各グループから発表いただき、ゲストからコメントをいただきました。

参加者)

性売買も性暴力としてみんなで話せる空間を広げていく

「性売買は自己責任とは言えないようなことで、性売買を暴力として認識できる空間、当事者が安心して話せる空間をつくっていくことが大切なのではないかという話が出ました。

 フランスの例で話に出た#MeeToが日本でもあったと思いますが、その際に性売買が他に置かれてしまうことがあったのではないか。性売買も性暴力としてみんなで話せる空間を広げていくことがいいのではないかという話が出ました。」

 

「いま自己責任というのが世の中で結構言われていまして、とくにネットの中では自己責任が溢れている、自己責任に基づく説教が世のなかに溢れているという話になりました。実際にいろいろなことで困っている、とくに若い人、街中をさまようような女の子たちはそういう説教はもうあちこちで受けて来たので、結局困っても相談できる人はいないと思い込んでいる。これまで相談したら説教されたから、もう誰にも相談しないよという考えを持っている人が多いのではないのかなと。

 法律が先行すればいろんな決まりも世の中もついていくのではないか。例えば昔はどこでも煙草は吸えたけれど今はほとんどのところで禁煙になっていて、これは社会が変わった一つの実績だと思うので、こういったことをモデルにして、売春・買春も買う方が悪いんだよ、女性の側は社会でしっかり支援していく、そういうことを目指す法律をつくっていけば世の中は変えられるのではないか。ではどうしたらそういう法律になるかといえば、みんなでどんどん声を上げてアピールすることが必要ではないかという話になりました。」

 

「当事者のお話を聴けたことの重要性を話しました。ネット上で男性同士の会話等で性売買が語られることはあっても、当事者の目線で語られることが今の世の中でとても少ないと思っていますので、灯火の話を聴けたことは重要な機会だったと思います。性売買を考える上で、人権という観点がとても必要だと思っています。社会がそういう観点で性売買を語ることが求められているという話が出ました。

 性教育の話もしました。金富子さんから、予防教育としての性教育という話がありましたが、やはり現状として性教育の実践がまだまだ足りていず、性的同意も含めて、性売買がどういうところに位置づけられるのかを考える上でも、性教育が日本できちんと実践していくことが必要なのではないかと話し合いました。」

 

「セックスワーク論をとりまく分断というテーマを中心に話し合いました。セックスワーク論者がかなり増えているという状況、それがけっこう学者が中心になっていることや、若い女性もセックスワーク論に乗っていく流れが起きている背景に何があるのか。

 そこには、権力に絡めとられていく構造があるのではないか。学者の中でも中心的人物は権力を持っていることが多く、そこに乗っかっていく、頭でっかちな人たちがそこに吸収されていく構造であったり、男性がセックスワーク論に乗っていくところに追従していく女性も男性もいたりすることが問題なのではないか。

 労働組合の人たちもセックスワーク論に乗っている人たちがいるけれども、その構造は、『売買春も福祉と同じ役割があるのではないか。障害や高齢な人たちの性的処理が行われているのではないか』という話があるなかで、福祉の文脈に絡めとられていく人たちに乗っかっていく、自分で考えないで乗っかっていく人たちがどれほどいることか。

 権利と道徳と倫理がねじれて複雑な構造になっているのではないかという話も出ました。道徳や倫理でジャッジしていくと、良いか悪いかを決める側の論理になっている。でも、それを権利の主体の側から見た時にどうなのかという視点が抜けている。だからこそ、倫理的に良いか悪いかに乗っかっていく人たちが非常に多いのではないかということを話し合いました。

 最後に、どういう運動論が必要かということに行きつき、やはり女性が声を上げていくことで女性が中心になって権利を考えながらやっていくことが重要なのではないかとまとまりました。」

 

「もともと立場が違って暴力がベースであることに対してセックスワーク論が上から乗っかって来るという時に、どう私たちは説明できるか、どう対話の切り口があるかということが今日のお話のなかでクリアになり、よかったです。

 変えていくのは法律や政策がキーである時に、二つの側面を両輪として変えていかなければいけないという話になりました。その一つが現場から声を上げること。先ほど厚みのあるフェミニストの運動をしていかなければいけないという話もあり、ここがベースになるだろうと。もう一つが、このグループには報道機関の記者が2名いたのですが、当事者の声を報道機関として出すだけでは残念ながら何も変わらないという時に、まず構造を描かなければならず、その構造のなかで、加害側――分かりやすい加害者は日本では見えにくいと思いますが――になっているものを一つひとつ紐解いて、何がおかしいかブツをとってくること。こうして、現場の面と加害側の懐に飛んで行ってブツをとって物事を変えていく面の両輪があって、物事が動き出すのではないかという話をしていました。」

 

仁藤夢乃さん) みなさんがどんなことを考えて、受け止めて、一緒に考えていけるのかなと思っていたので、今みなさんが自分事として考えてくださり、この現状を変えるために一緒に考えていきたいという話もあって、大変心強く思いました。灯火のメンバーは今のみなさんの話をうけて感想はどうでしょうか。

 

灯火メンバー) 今まで封じられてきた当事者の声というのが、こうして聴いていただける場を持てたのはすごく大きなことだと思いますし、みなさんも当事者の声を初めて聞いたという感想が多かったと思いますが、こうして耳を傾けていただいて、現状を知っていただくことが、まず今の社会では必要なのではないかと思っているので、今後もぜひアンテナを張っていただけるといいと思います。

 女性たちを性売買に追いやる社会構造を理解することが非常に重要だと思うので、現場で何が起きているかを私たちとしても知ってほしいですし、性搾取の構造をみなさんに知っていただきたいので、みなさんも今日から声を上げて一緒に活動していただきたいなと思います。ありがとうございました。 

 

「ジェンダー平等」で目が行き届いていない領域 性売買

金富子さん) 私が参加したグループでは、当事者が声を出すのが先なのか、女性運動が先なのかという話がありました。私は、韓国の事例も、フランスの事例もやはり運動が先にあったのではないかと思っています。実はこれは日本軍「慰安婦」問題もそうなのですが、女性運動が先にあって、安全に当事者が話をできる環境がつくられて、初めて当事者が声を出せるようになるという点が共通していると思いますので、運動が先だと思っています。

 韓国は民主化されてジェンダー関連の法律が次々と通るようになりました。フランスもパリテ法(男女同数法)ができて、それに関連する法律がたくさんできてきた。韓国の場合は、「DVや性暴力、ジェンダー平等のための様々な法律ができた時に目が届かなかった領域が一つある、それが性売買だった」と言っていました。実際に韓国で性売買女性運動をやっていた初期の人たちは、女性労働運動をやっていた人たちなのです。その人たちは、それまで女性労働運動に関しては熱心にやっていたのだけれども、性売買については視点が無かったと。それが、2002年に性売買女性が多数亡くなる事件が起きて、初めてそこで自分たちが取り組まなければいけない最後の課題が何なのかを知ったと聞きました。

 先ほどのフランスのオリビエさんも同様なことを言っています。やはり女性運動のさまざまな積み上げがあって、性売買を暴力と捉える視点が生まれていったのだと思います。

 

性売買経験当事者の声を制度・政策に生かす

 フランスの女性国会議員の数はパリテ法があったためもあり、現在40%近くを占めます。韓国は20%、そして日本は10%なのです。日本は意思決定の場に女性たちがいない、しかもフェミニスト議員がいないというということが10%に象徴的に表れていると思います。政治の場を変えていくことが重要だと考えています。

 

 当事者の声は聴くたびに圧倒されます。当事者でなくては語れない非常にリアルな声ということにいつも圧倒されるのですけれども、当事者にそれを語らせ続けなければいけない社会にしてはいけないということも改めて感じます。

 性売買の現状を変えるさまざまな試みがいろいろな国で行われているので、それらから学んで、日本社会に代案、オルタナティブとして伝えていく役割もしていかなければと思います。

 制度・政策を変えることで意識は変わる。制度・政策を変えることはすごく重要であり、いま語ってくれた性売買経験当事者の人たちの切実な声を無いものにしないために、私たちができる事なのではないかと改めて感じました。

 

仁藤さん) 私も金富子さんたちと一緒にフランスの元国会議員と会った時に日本の現状を話したら、「日本では今、女性の国会議員は何割なの?」と言われたので「10%です」と答えたら“Oh my God!”も出ないくらい口が開いてしまってポカンという感じで、ショックを受けている感じでした。そんな社会ではまだまだ道のりは遠いのだろうとも感じました。海外のそういう方々と交流していると「あの日本でがんばって活動している夢乃さんや灯火の方に拍手しましょう」みたいになるのです。そんなふうに世界から見られてしまうぐらい人権意識が低い状況があるなかで、今日こうしてみなさんと考える場を持てて本当によかったし、安全を守りながら灯火のメンバーも皆さんの前で語っていただいて本当によかったと思います。

 

 いま金富子さんお話のなかで、韓国では買春者に対する教育があるという話がありました。いま私も女性支援法の基本計画をつくる会議のなかで、「被害予防教育」という項目があったのです。それは「加害予防教育」にするべきだと何度も言っていますが、何度言ってもそんな発想が日本社会にはたぶんまだ無いですし、「それは厚労省の枠でやることなのか、警察なのではないか」みたいなことを言われて、「そんなことはないですよ。韓国ではやっています」と言っています。たぶんそこは今すぐには通らないかもしれませんが、言って議事録にだけでも残そう思っていますが、みなさんもパブリックコメントが始まったら関心を寄せていただいて意見を言っていただければいいなと思います。

  韓国では買春者の意識調査を3年に一度やっているようで、買春経験がある――正直に話した人だけでも――国民の割合が出ていて、もしも日本で実施したらすごいことになるのではないかと思います。私は取材を受けても、いつも女性たちの事情に注目されるのですが、そうではなく、いかに買う側が気軽にやっているかということ、いかにその人たちの買うことに対するハードルが低いかということこそ問題にしていかなければいけないと思います。

 

灯火メンバー) 私のグループでは、グレーな風俗店がたくさんあるなかで法律上の位置はどうなっているのですかという質問が出ました。実際、私もいろんな店で働いたのですが、契約書を交わしたり判子を押したりしたことも、何が合法で何が違法かの説明を受けたことも一度もありません。マニュアルを渡されて、時には研修を店員から実地で受けて終わりです。

 「規制すれば地下に潜る」などと言われますが、いま日本に「地下」はなく、ほぼ合法化状態だと思っています。「非犯罪化」の議論以前に、当事者から見た現実、日本に根付いている無法な実態を知ってもらうことが重要だと思いますし、改めて広く社会に知らせていきたいと思いました。

仁藤さん) みなさん、当事者の声を聴いて理解しようという思いでご参加いただいた方が多かったのかなと感じています。こういう活動をしている私ですら、外でこういう現状を話すと、まだまだ理解されないことが多い状況なのですが、これだけの方々が関心を寄せてくれて、こういう広く開かれた形で多くの方と反性売買、性搾取の実態について話すという場は初めてだったのではないかと思うので、こういう場を持ててよかったと思います。これからも、みなさんと一緒に考えてこの現状を変えていければと思います。  ■  

 

 

●次回SJF企画ご案内★参加者募集★
ソーシャル・ジャスティス基金 助成発表フォーラム第11

【日時】2023年1月20日(金)13:00~16:00 
【会場】オンライン開催
詳細・お申込みこちらから  

 

 

※今回22年12月9日のアドボカシーカフェのご案内チラシはこちらから(ご参考)

 

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