ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第14回助成中間報告
果てとチーク(2026年6月19日)
◆助成事業名・事業目的:
「公共劇場での演劇作品上演を通して、社会的マイノリティが直面する抑圧や構造的暴力を可視化し、レクチャー及びラウンドテーブルイベントから対話の機会を生み出す事業」
本事業では、主に二つの演劇作品の上演を通して、社会で透明化されている社会的マイノリティへの構造的暴力を、娯楽としてではなく、極めて現実に即した形で活写し、さらに通底するテーマに関するトークイベントやレクチャー、ラウンドテーブルを主催、パンフレットでの呼びかけやチャリティグッズ・チケットの販売を通じて、マイノリティ支援団体への寄付機会を創出するなど、劇場での気づきを通して社会貢献へのアクションにつなげていくことを目的にしている。
1作目の『きみはともだち』は、昨年初演しノンバイナリ―及びネット上で強固なバックラッシュに晒されるトランス女性、シス女性・男性の生きづらさと共生の困難を描き、高い評価を受けた作品の再演である。プライド月間に合わせ、上演を通じてLGBTQIA+への理解を促すとともに、寄付やチャリティグッズの販売等による、クィアコミュニティ支援も行っていく。
2作目『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』は、岸田國士戯曲賞最終候補作となり、過熱するSNSでの性暴力や極端な議論を、フェミニズムをベースに戯画的に描いた作品である。テーマに即したトークを行い、観客に学びの機会を創出する。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2026年1月~27年3月
◆報告時点までに実施した事業の内容:
■三重でのプレイベント
6/6に三重で行ったプレイベントでは、『はやくぜんぶおわってしまえ』という、“女子高生”として生きるクィアを含んだ子供たちの困難と連帯の難しさを描いた、『きみはともだち』の上演映像の上映会及び、文筆家・水上文さんとのトークイベント・当事者や当事者の保護者を含んだ座談会を行った。(フレンテみえ・三重県文化会館との共催事業)
演劇作品を入り口にマイノリティ当事者によるトーク、マイノリティ当事者およびその保護者が参加する座談会を開催し、抑圧の構造やそれに対する応答について思考を深め、何らかの学びを得てもらうため、共催者と打ち合わせを重ねた。
当日の参加者には、演劇を普段から鑑賞する層に加えて、ご家族に性的マイノリティがいる、または生徒に性的マイノリティがいる、という方々もいらっしゃり、何かヒントになることを探しに、ご来場された。
それぞれが今直面する困難を少しずつ開示し、解決を求める相談ではなく、対話の中で癒される瞬間や、互いに学びあう時間もあり、大変有意義であった。
■『きみはともだち』上演&アフタートーク
上演において、演劇というバリアの多い媒体に、障がいを持つ人も、当日思い立って劇場に集まることができるよう、アクセシビリティとして、字幕タブレット、手話通訳付きのアフタートーク、点字パンフレット、舞台説明用の音声パンフレットを用意した。
17日の初日には字幕タブレットを二名の方が使用され、またアフタートークまでご鑑賞いただき、大変喜ばれていた。
18日には点字・音声パンフレットのご利用も、当日券でいらっしゃった視覚障がいをお持ちの方が利用された。
また、アフタートークゲストの選定においては、性的マイノリティ当事者に、作品を通して自らの経験や活動をお話頂くことで、観客がより深くマイノリティの存在を考え、可視化していくことを第一の目的とし、お声がけをした。
17日のアフタートークにはトランスジェンダー当事者で、LGBTQ+(かもしれない)の子供たちへ安全な居場所を提供する事業をされている“にじーず”代表の遠藤まめたさんにお越しいただき、ご自身と社会のかかわりや、活動についてお聞きし、観客に深い学びを与える時間となった。当日パンフレットには、にじーずへの寄付窓口を掲載した。
18日には、ゲイ当事者の松岡宗嗣さんにご登壇いただき、SNSやイベントでの発信や、その際に感じるマジョリティとの対話の葛藤等についてお話を伺い、作品の“わかり合えないことを前提に対話がはじまる”というテーマについてより多くの知見を、観客に与えることができた。

(写真上=『きみはともだち』東京公演舞台写真(撮影:上野哲太郎))
◆今後の事業予定
2026年6月18日(木)~21日(日)
果てとチーク・めぐる公演『きみはともだち』(再演)@下北沢B1(東京都世田谷区)
※テーマに沿ったゲスト登壇のアフタートークイベントあり。
※21日(日)17:00より観客同士の対話イベントあり。
7月11日(土)~12日(日)
Mゲキセレクション『きみはともだち』(再演)
@三重県文化会館 小ホール
※観客同士の対話の機会を目的としたラウンドテーブル、トークイベントあり。
▼日本劇作家協会プログラム
2027年1月15日(金)~17日(日)
果てとチーク第十回本公演
『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』(再演)@座・高円寺1(東京都杉並区)
※観客同士の対話の機会を目的としたラウンドテーブル、トークイベントあり。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
三重でのプレイベント、及び東京公演での上演・アフタートークにおいては、徹底してノンバイナリ―当事者である升味が主体となり、また出来るだけイベントに関わる人々も当事者であること、そしてその事業が当事者やその周囲にポジティブな影響を与えることを第一目標として行った。
また、公演関係者にはリスペクト・コミュニケーションへの参加や、マイノリティを知るための参考文献の共有、実際の当事者の経験を聞く機会を設けるなど、一丸となって上記のゴールを目指した。
(2)法制度・社会変革への機動力
社会変革を目指す当事者支援団体の代表者をアフタートークゲストとしてお呼びし、また団体の冊子の設置、当日パンフレットへの寄付窓口の掲載など、その活動を支援した。また、社会福祉法人せたがや樫の木会下馬福祉工房が製造するクッキーをチャリティグッズとして販売し、支援活動の認知向上を目指した。
また上記の活動を行うことで、我々を初めて知る人々が観客として劇場に実際に足を運ぶ結果となった。
上演映像の配信も行い、社会変革の基盤となる、抑圧構造への理解と思考を促す門戸を広く開いた。
(3)社会における認知度の向上力
(2)の活動を重なる部分があるが、演劇の“物語”という手法を取り入れることで、生身の俳優によるリアルで臨場感のあるケーススタディが可能になり、解決が必要な事象の存在を初めて認知したと話す観客も多くいた。また実際に寄付を行う、チャリティグッズを購入する、参考文献を読む、当事者の友人と彼らが抱える困難について対話するなど、実際の社会変革への一歩を踏み出す観客も少なくなかった。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
劇場においては、客席に当事者がいる事を前提に、可能な限りセーファースペースを用意したいため、直接的に相反する立場の人間と対話することはほぼないが、作品の中でマイクロアグレッションや少数者の困難を透明化するような発言を行う登場人物を描き、当事者が彼らとどう共生することができるかを描いている。それらのキャラクターを一面的に悪としては描かず、日常で出会う隣人として描くことで、客席にいる人々に自身の差別感情への気づきを促す目的がある。
(5)持続力
本事業は、これまで団体が上演を通じておよそ10年続けてきた活動の集大成であるが、劇場以外の場所、上演以外の方法にも、活動を開いていくことが課題である。アートに限らず、志を同じくする様々な個人・団体を協力し、次の10年、20年を見据えて、草の根的に活動範囲を広げ、賛同者を増やしていくことに挑戦したい。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目について考察。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
マイノリティへの圧倒的な理解の遅れと、当事者が自身の隣人であるという認識の欠如があると考えている。時代に追いつかない教育制度や社会制度の問題も非常に大きい。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
第一に、マジョリティ側に向けて、マイノリティは特別な存在ではなく、自身と同じく日々を生きる人間であることを可視化する必要があり、その際、演劇の持つ物語性と、生身の人間が目の前でそれを繰り広げる事の、ある種原始的な力が非常に有効であると考える。劇場という空間で同じ時間を共有し、リアルな感覚を通して、観客が自らを省みることのできる機会になり得る。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
劇場で存在を可視化された当事者に対して、観客が行動を起こしたいと考えた時、より具体的な支援を行っている当事者支援団体の活動を知り、参加したり、サポートしたりという次のステップを用意したい。そのために、そういった団体とこれからも協働を続けたいと考えている。 ■

