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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第10回助成最終報告

気候危機と水害:ダムで暮らしは守れるか?連続セミナー実行委員会(2023年9月)

団体概要

 2020年7月に発生した球磨川豪雨災害や、近年気候危機の影響による各地で頻発する災害を受け、各地域や専門分野で活動する方々の報告を聞く連続セミナーの開催を通して、気候危機下における住民視点からの川づくり、川とともにある暮らし方について広く社会全体で考えることを目的とした市民グループ。

 

助成事業名・事業目的

『川を住民の手にとりもどす~市民が考える気候危機下での「流域治水」~』

 熊本県球磨川を事例に、日本の河川政策の現状、海外のダム問題や川とのつきあい方との比較、川とわたしたちの暮らしの関わりをめぐる諸問題、住民参加・住民決定による河川政策づくりのあり方について、流域住民が知り、学び、考える「場」を通して、住民発の流域治水提言をとりまとめ、国や県の施策に反映させる。この活動を通して、住民主体による「流域治水」の重要性を広く社会に広め、住民の声が活かされた地域住民主導の政策づくりを実現する。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2022年1月~23年8月

実施事業の内容: 

○球磨川流域の被災地現地調査、被災者聞き取り調査

 球磨川流域の広範な被災地の現地調査、被災者への聞き取り調査を実施した。流域で他の市民グループが行ってきた類似調査結果も共有補完しながら、水害要因や発生時の様子、山林と川を取り巻く課題、伝統的な川との暮らし等について集約した。
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(写真上=球磨川、被災現地の調査)

○専門家や他団体とのネットワーク構築

 調査や講座開催など活動を行う中で、防災と山林の関係、ダムによる生態系への影響、災害後の復旧復興と住民参加、河川工学等の分野の専門家や、豪雨災害後に地域で活動する住民グループ、人権研究グループ、防災と森づくりに取り組む市民グループ、全国的な環境保全団体など他団体とのネットワーク作りを行った。

○県議会、国会議員向け働きかけ

 県議会議員、国会議員への働きかけとして、県議会議員の視察対応や定期的な情報交換、一般質問草稿作成支援、県庁や国交省申入れ時への同席、国会議員の視察対応、調査支援を行った。
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(写真上=県議団を球磨川流域被災地に案内)

○市民向け啓発と情報発信

 流域の市民・住民グループ等と協力し、河川整備基本計画や有識者懇談会、環境アセスメント、被災後の復興まちづくりが抱える課題などについて周知啓発する取り組みを進めた。特に新聞折込用キャペーンパンフ制作、SNSやHPを通した発信、昔の球磨川の豊かさを流域住民の声として広く共有する勉強会、環境アセスメントや川辺川ダム問題についての市民向け学習会などの活動に協力した。

○流水型ダム視察とヒアリング

 2022年10月には、川辺川ダム環境アセス手続きの参考事例であり、完成すればほぼ同規模のダムとなる福井県足羽川(あすわがわ)ダム建設予定地を視察。現地関係者と国交省職員に案内対応を依頼し、流水型ダム計画概要や工事中の環境影響等についてのヒアリングを行った。視察結果をSNSや学習会等で共有、発信した。
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(写真上=足羽川ダム(穴あきダム)視察)

〇流域治水政策の先進地視察

 全国で先駆けて命と暮らしを第一に考える地域づくり政策として「流域治水条例」を制定した滋賀県庁を訪ね、当時県知事として政策を勧めた嘉田由紀子氏並びに現在の担当部署より、条例制定の経緯、内容、制定後の取り組み、評価について詳細な話を伺った。

 また、直前の豪雨災害で被災した関係者を訪ね、球磨川流域で現在検討されている遊水地のような、洪水軽減に貢献しつつも実際には農業被害を被る立場にある農家に対する必要な施策について聞き取りを行った。
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(写真上=滋賀県庁流域治水政策室にヒアリング)

 

○連続講座の開催

 連続講座「川と森とともに生きる球磨川流域の未来」を計6回開催した。地域の人々が包括的に「流域治水」について考えるきっかけになるよう、各分野の専門家からの講義を受けて、議論を行い球磨川流域のあるべき姿について考える場を提供した。近年、気候危機の影響により各地で記録的豪雨災害が相次ぐようになっている。講座は地元会場とオンラインでのハイブリット開催を基本とし、流域住民だけでなく全国の関心を持つ市民へも参加を呼びかけ、球磨川の事例を元に普遍的な学びの機会となるよう配慮した。講演資料や講演録、公開可能なものは映像アーカイブをHPで公開している。

<各講座概要>

講座の内容は、本団体のウェブサイト(こちらから)に掲載し公開している。

【第1回】2022625日(土)開催

「『山が水を貯める力』について考える~森林保水力ってなに?~」

講師:蔵治 光一郎 さん(東京大学大学院農学生命科学研究科(農学部)教授)

 2020年7月の球磨川水害では、人的被害や家屋の被害の多くが本流の増水ではなく支流の増水で、水だけでなく流木や土砂も一緒に流れてきたことが指摘された。支流の上流の森林は荒れており、かつ、各地で大規模の皆伐が行われていることが住民から指摘されている。国や県が(緑の)流域治水を打ち出す中、球磨川流域の約8割を示す森林にどのような課題があり、解決手段があるのか、森林の保水力の観点からの講義、質疑応答を行い、森林に対する理解を深めた。

参加者:オンライン現地合わせて約110名

 

【第2回】202273日(日)開催

「森林を活かし、暮らしを守る~多発する災害の中で~」

講師:佐藤 宣子 さん(九州大学大学院農学研究院森林政策学分野 教授)

 球磨川豪雨災害では、谷筋から流れ出た土砂と流木被害が発生し、下流に甚大な被害拡大がでているが、それには現在の山林の状況、国の森林政策が影響している。また、今後の森林問題を考えるためには歴史から学ぶ必要がある。全国的な森林政策の動向と球磨林業の歴史や特徴を紹介しつつ、林業従事者や自治体の役割は何か、また流域住民が共に「減災」のための森づくりに参画できるような、暮らしを守るための林業への転換について講義を受け質疑応答を行った。

参加者:オンライン現地合わせて約100名

 

【第3回】2022827日(土)開催

「住民の声を復興まちづくりに活かすために ~宮城県気仙沼 防潮堤問題に学ぶ~」

■メイン報告:三浦 友幸 さん((一社)プロジェクトリアス代表理事、気仙沼市議会議員、大谷里海づくり検討委員会事務局長)

■サブ報告:柴田 さん(熊本県立大学環境共生学部教授)

 被災地の「いち早い復興」と「住民意見の反映」は、どちらかしか選べないのか。住民の声を行政の政策に活かすには、どうすれば良いか?東日本大震災後、宮城県気仙沼市では、復興事業として防潮堤計画が持ち上がったが、住民が主体となった地域での勉強会や署名などさまざまな活動、合意形成を通して、計画変更や砂浜の保護が実現した。この気仙沼大谷海岸の事例を中心に、住民参加型の復興まちづくりのあり方について報告を受け、意見交換を行った。

参加者:オンライン現地合わせて約120名

 

【第4回】2022108日(土)開催

「動く川に『ざわめく自然』は宿る~流域治水における環境の位置~」

講師:森 誠一 さん(岐阜協立大学地域創生研究所・教授、越前大野市「イトヨの里」館長)

 長い歴史の中で、川は人の生活・歴史・文化と培う風土を造る一方、洪水による水害ももたらしてきた。そのために近年は治水・利水のみが重要視され、川が持つ多様な機能は忘れ去られている。川の直線化やコンクリート化は私たちの暮らしや生き物にどのような影響を与えてきたか。近年の河川環境の悪化は顕著であり、川はますます日常生活から遠くなり、私たちは生き物と風土が創ってきた「自然のざわめき」を感じることができなくなっている。そこに住む人や生き物の視点で、流域治水を考える上で重要な、これからの河川との付き合い方について、魚類保全の観点から講義、質疑を行った。

参加者:オンライン現地合わせて100名

 

【第5回】2023年6月29日(木)開催

「『流域治水』から考える氾濫原における治水~住宅地や田畑に降る雨を暮らしの視点で考える~」

講師:島谷 幸宏氏(熊本県立大学共通教育センター特別教授)

 熊本県立大学が進める「流域治水を核とした復興を起点とする持続社会」プロジェクトのリーダーである島谷幸宏氏に、その趣旨や構想、現在の進捗状況を伺い、国交省が進める「流域治水」との違い、氾濫原に降った雨のコントロールや、環境との両立、地域連携など、さまざまな視点から望ましい治水の方向性をみんなで考える場とした。

参加者:オンライン85名

 

【第6回】2023年7月25日(火)開催

「流水型川辺川ダムは流域の暮らしと環境を守れるのか?~既存の流水型ダムからみえてくる流水型ダムの問題点~」

【報告1】つる 詳子氏(自然観察指導員熊本県連絡会・会長)

 全国の流水型ダムの紹介、流水型川辺川ダムによる環境影響の懸念、アセス問題点など

【報告2】阿部 修氏(最上小国川の清流を守る会・幹事)

 運用から3年が経過した流水型ダム、山形県にある最上小国川ダムの現在

【報告3】皆川 朋子氏(熊本大学大学院先端科学研究部・准教授)

 流水型ダムが環境に与える影響について明らかになっていること、実際に起こっていることなど、現在分かっている知見について

(概要)流域の治水を考える上で、住民の関心が強い流水型の川辺川ダムについて、私たちが懸念すること、建設された流水型ダムの現場で起きていること、流水型ダムについて研究や検証がどこまで進んでいるか等について3人からそれぞれ報告を行い、活発な質疑を行った。

参加者:オンライン現地合わせて95名

 

 

事業計画の達成度:

 事業期間は延長したものの、ほぼ当初計画した通りの事業を達成することができた。プロジェクトに取り組むにあたり、限られたスタッフながら現地の熊本側、東京側のスタッフで連携し、広報・セミナー開催のロジ・調査などそれぞれの強みを活かした形で展開することができた。中心となった連続セミナーでは、変化する状況にあわせて重要度の高いテーマ選択、最新の知見を持つ講師をゲストに選ぶ等、より効果的な場となるように努めた。

 

助成事業の成果:

  • セミナー開催は、一般向けの関心喚起と同時に、自らの知識と視野を広めることも目的であった。第一線で活躍する講師らによる、森林と災害、復旧復興を巡る住民参加と政策決定、ダムと生態系から考える「川」の捉え方、新たな治水を探る試み、流水型ダムの問題点といった報告は、マスコミや市民グループがほとんど取り上げない切り口であり、オンラインセミナーやその記録の公開という新たな形での情報発信、問題提起につながった。また、セミナー参加者には研究者やマスコミ関係者も多く、信頼できる情報の提供を続ける必要性も感じた。
  • 足羽川ダムや滋賀県流域治水条例に関する調査では、事前に調べていた資料以上の学びを得た。足羽川は川辺川ダム環境アセスの参考事例とされていたが、参考事例として不適切な点について事実確認することができた。滋賀県庁でのヒアリングでは、ダム問題のその先に目指すべき行政組織の仕組みや方向性について知ることができ、今後の熊本県庁担当部署や県議会への具体的な提言へ向けての知見を得ることができた。
  • 流域調査においては、災害を拡大させた山林を巡る問題、被災地の復興復旧を巡る課題などについてアプローチすることができた。山林と防災に関しては、本事業での調査結果を踏まえて流域自治体の1つである山江村への提言活動を行い、自伐型林業者育成研修の実現につながった。

 

助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。

(1)当事者主体の徹底した確保 

  • 球磨川流域や県内の市民・住民グループとの連携を深め、3団体(「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」(熊本市)、「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」(人吉市)、「美しい球磨川を守る市民の会」(八代市))、被災当事者による地域グループ3団体(「7・4球磨川流域豪雨被災者・賛同者の会」(人吉市)、「球磨川流域住民による再生ネットワーク」(球磨村神瀬地区)、「坂本町被災者・支援者の会」(八代市坂本町))等との交流や情報収集、情報交換を継続している。
  • 流域住民個人に対しても、聞き取り調査や現地訪問、連続講座、キャンペーン周知などの形でゆるやかな連携を行っている。

(2)法制度・社会変革への機動力 

  • 2022年4月に「球磨川水系河川整備計画(原案)」、「環境配慮レポート」(法に基づく環境アセス手続きにおける「配慮書」に該当)、11月に「同方法レポート」(同「方法書」に該当)が国から示されるなど、当初予想より早いスピードで国の政策決定が進んでいる。現行の法制度上での意見書提出等には取り組んだが、日本の法制度自身の閉鎖性、限界性から、政策に住民の声が十分に反映されているとは言い難い状況。
  • 一方で、連続講座を通して、豪雨災害の被害拡大の一因となった大規模皆伐や崩落などの背景にある現行の森林政策、日本の河川行政を巡る課題、災害直後の復興まちづくりにおける政策決定や合意形成を巡る課題、流水型ダムの環境影響について分かっている点とまだ明らかになっていない点の整理など、これからの球磨川の在り方を考える上での新たな気付きと、政策を変えていくための手がかりを得てきた。
  • また、滋賀県庁を訪問し、先駆的取り組みとして知られる県の流域治水条例の内容や背景、実践例、行政側と住民側の評価について知ることができ、行政制度や組織における課題や解決の方向性についても、新たな認識を得た。具体的には現行の川づくりを変える上で、県の組織体制の変革は不可欠であることが分かり、県議等を通じた具体的提言の際に参考となる情報を得た。
  • この間、他の市民グループと共に県議会議員、国会議員等との連携を進めてきた。事業者である国や県への働きかけに取り組み、定例議会での質問へと反映させた。
  • 世論喚起のためにメディアの影響力は大きい。質の高い連続講座の開催を通じて、一定のメディア関係者とのネットワークを構築しつつある。

(3)社会における認知度の向上力

  • 連続講座では、回を重ねるごとに、地元内外での新たな参加者、リピーター参加者も増え、毎回100名前後の方に参加いただくことができた。毎回のテーマ設定は既存の市民グループではこれまで扱わなかったものも多く、豪雨災害後に残された課題、問題の所在について流域内外へ広く伝えることができた。講演後のディスカッションでは毎回参加者との間で活発な議論が交わされ、企画意図の浸透、理解の深化を実感した。
  • 特に、メディアが取り上げない問題について深く掘り下げ、発信できた点は大きな成果だった。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力) 

  • 他の市民グループと共に、事業者である国や県との対話や提言活動を継続してきた。また、連続講座開催に当たり県や国の関係部署への周知を図り参加を呼びかけた。
  • 流域住民の間には、流水型ダムが必要と考える住民もいる。流域の川づくりを考える際、本来はダム問題是非を避けて議論することは難しいが、連続講座周知の際はダム問題への直接的言及を敢えて避け、「ダムに賛成」「どう考えれば良いのかまだ判断できない」と考える層からの広範な参加を促し、「ともに考えるための対話の機会づくり」に意識的に取り組んだ。

(5)持続力

  • 現地側では、20~40年の市民活動経験のあるスタッフが事業企画、管理を担当し、広範な人脈やノウハウを活用して事業を展開した。東京側では、経験とジム能力に優れた国際NGOスタッフが、事業マネジメントやキャンペーン展開、アドボカシー活動に取り組む上での助言を行った。
  • 本助成による活動実績に基づき、本助成終了後に別の新たな活動助成金を得ることができた。本事業で残された課題や、流水型の川辺川ダム、球磨川の川づくりを巡る社会情勢の新たな変化に対応しながら、さらに活動を取り組む予定である。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。 

(法制度)日本の河川政策における法制度の限界、政策決定への住民参加等本来のあるべきモデルが広く認知されていない点、河川行政を巡る関係省庁の連携欠如 など

(市民社会)世論を動かし政策を変えるための市民社会の未熟さ、担い手不足、資金不足、関心の低い市民層へのアプローチ不足 など

(社会)近代化・都市化し川や森との関わりが希薄化した現代的生活スタイルの広がり、ダムを含めた河川政策が進む地域の多くは過疎高齢化した地方都市であり外部からの情報が限定的である点、気候危機下で日本の河川行政が転換すべき岐路に立っている点が認知されていない点、流水型ダムの歴史が浅く環境影響が軽視されている点 など

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

 問題の所在を明らかにして広く発信し、中長期的な変革へつなげる。調査や科学的知見に基づく地方・国レベルでの提言活動を行う。既存の市民グループと連携しつつ、カバーできていないテーマや課題についても積極的に取り組み、社会へ発信を続ける(これまで取り組まれていなかった「川と共に暮らしてきた流域の伝統知や記憶」の聞き取り調査や可視化、災害と山林の関係、流水型ダムの実例調査、環境影響など)。どうあるべきかを共に考え、あるべき川と暮らしの在り方を模索するための社会と事業者へのアプローチを続ける。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。

 流域の多様な関係者や住民、市民グループ、県内外の環境保全団体等との連携、地方や中央など様々なレベルの議員・行政関係部署への働きかけなど。

 

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~球磨川水害から考える住民参加型の流域づくり~の報告はこちらから

 

 

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