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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)助成発表フォーラム第12回 報告

     

 2024年1月19日に、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は公募により審査決定した第12回助成先の方々(#YourChoiceProject代表・川崎莉音さん、NPO法人ピルコン理事長・染矢明日香さん、NPO法人CoCoTELI理事長・平井登威さん、ふくおか摂食障害ともの会代表・江上彩音さん、ふぁみいろネットワーク共同代表・綾原みなとさん、NPO法人School Voice Project理事・小谷綾子さん)を迎えた助成発表フォーラムを開催しました。

 

「対立構造をつくらない」ことを大事にしていきたいという平井さんの言葉から活発な対話が引き起こされました。平井さんは自分たちの枠に当てはまらない“こえ”もしっかり届けるウェブメディアに取り組んでいます。

「対立」ではなく「対話」を持って、子どもの最善の利益のために、多様な当事者と支援団体が学校教員と政策提言していきたいと小谷さんも語りました。多様な当事者との出会いに癒され、寛容さが開かれ、対話が始まったと綾原さんは経験を話し、子どもたちが多様な自分が学校でも守られている感覚を味わえたら、次に自分とは異質な他者と出会った時もその人を守れるような良い循環を生むのではと提言しました。

 自分自身のなかにある対立に苦しんでいるとも言えるのが摂食障害かもしれません。自己肯定感が低く、症状に頼らざるを得ず、治りたいけど症状を手放すのが怖いジレンマを抱える人が多いと、江上さんは説明しました。その背景に何があるのでしょうか。子どもの時から自己決定が尊重されたら、自己肯定感は高まるでしょうか。

 自己決定が育まれる原体験は民主的な社会をつくるために大事だと小谷さんは提言しました。進路選択におけるジェンダーギャップは保護者の影響が大きいことが川崎さんから調査結果に基づき示されたことは、子どもが自己決定できる環境が整っていないことの一つの現れかもしれません。自分の人生について自己決定する力を育むことは包括的性教育が最も大切にしていることだと染矢さんは強調しました。

 自己決定だけれども、「他者をどれだけ尊重しあえるか」という認識が全ての人に浸透して保障された上での自己決定になるといいと思う、との綾原さんの言葉がさらなる対話を呼びました。

 詳細は以下をご覧ください。 Kaida SJF写真=出演者のみなさん:各段左からで上段から、土屋真美子さん・SJF運営委員、江上彩音さん、小谷綾子さん、染矢明日香さん、平井登威さん、綾原みなとさん、川崎莉音さん、上村英明さん・SJF運営委員長、佐々木貴子さん・SJF運営委員

 

――開会挨拶―― 

上村英明・SJF運営委員長)

 本来であれば、お正月のご挨拶をしたいのですが、ご存知のようにもう元旦から今年は本当に大変な年になりそうでございました。国内外を問わず、いろんなことが起きておりまして、この基金が掲げる社会的公正がとても大事な年だということを認識せざるを得ない状況です。我々もしっかり気持ちを整理して、皆さんと一緒に社会的公正が確保されるよりよい社会に向かい前に進まなくてはいけないと感じております。

 この第12回の助成公募には58件の応募がございました。今回の助成公募は二つの大きなテーマを設けました。一つは基本的なテーマで、見逃されがちだが大切な問題に取り組むアドボカシー活動です。日本というのはメインストリームにいるといろんなものが降ってきたり流れてきたりするけれども、メインストリームから少しでも外れると、問題があっても見えづらいということが起こる社会なので、見えないけれども大事な活動に助成をしております。それからもう一点は特設テーマとして、ジェンダー平等の問題に焦点をあてまして、今回の選考では、この二つのテーマで選ばせていただきました。

 委員長として付け加えておくと、やはり若者の活動を応援したいということがございまして、少しそちらの方でのポイントが上がったということもお話をしておきたいと思います。

 そういう視点を踏まえて、今回は6団体の方たちの活動への助成を開始いたしました。それがどういう活動なのかということを、皆さんと一緒に共有していく場がこの助成発表フォーラムだと思っています。

 我々の活動は決して花火のように終わるものではないので、これらの大事な問題を末長く一緒にやっていけるような基盤のスタートラインにこの助成発表フォーラムがなればいいと思いご挨拶をさせていただきました。今日は皆さんどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

――第12回助成事業の発表とクロストーク――

  • #YourChoiceProject代表・川崎莉音さん

地方女子学生の進路選択のジェンダーギャップを解消するための調査・発信事業

 私たちは2021年の11月に設立して今2年目ぐらいの団体になります。25名程度、主に大学生が中心となって、「すべての学生が生まれついた地域やジェンダーに関わらず、自由な進学選択、キャリア選択ができる社会の実現」というのを目指して活動しています。

 私たちが一番取り組んでいる社会課題が、地方女子学生を取り巻く進路選択上のジェンダーギャップです。今、難関大と言われる例えば東京大学と東京工業大学の地方女子比率を見てみると9%と3%と非常に少なくなっている現状があります。これは、その大学の中で見た地方比率よりも、その大学の女子学生の中で見た地方比率の方が特に少なくなっているので、地方の女子学生というのがすべての学生の中で一番、難関大学に進学しにくい属性になってしまっています。

 私たちは独自調査で全国約4000人の学生にアンケート調査をしました。どういう原因があるのかを調べたら、地方女子学生が偏差値の高い大学に行くことのメリットを感じていないことや、自己評価が同じ学力帯で比べた時にすごく低くなってしまっていることが分かりました。自分はこの大学に受からないんじゃないかと思ってしまっている現状や、女子は地元にという保護者からの期待など、そういった価値観みたいなものがあることがわかってきました。

 これを踏まえて地方女子を取り巻く課題を社会化して、環境を変えるための取り組みをしたいと思っています。前回行った約4000人対象の調査では問題提起はできたけれども、地方女子学生という限られた層に関する課題が特に関心のある層にしか届かないという問題がありました。なので、この次はもっとこの問題意識を人口に膾炙させたい、行政を動かすきっかけが欲しいところです。

 今回の助成先として選んでいただいた活動に関しては、進路選択におけるジェンダーギャップというもの、例えばSTEM系の話であったり、いろいろなアンコンシャスバイアスであったり、そういった問題について幅広く散らばっているデータを集めて、現状どのようなジェンダーギャップが存在しているのか、そしてそれがどういうところから生じているのかを包括的に理解できるような白書を作成して、全国的に公開して問題提起します。そして、自治体様に提示していって、自治体が動いていくきっかけにできたらなと思っております。

 

CoCoTELI 平井登威さん) 地元の友達とかと話している中でも、男は・女はこうあるべきだ、といった話がやっぱり出てくることが多いと思っています。一般的には上の年代の人たちがそうであると語られがちだけれども、若い世代の人たちの意識が変わっているとは言いつつも、そういう考えしか今まで触れてこなかった人は多いことを、僕も社会課題に取り組み始めてから意識を持って特に感じることになりました。

 その中でも進学の文脈の意見を聞いたことがあったんですけど、こういった地方女子の進学率の問題は、今まで今回調査したような層にアプローチする取り組みはあったんですか。

 Kaida SJF

 

 

 

川崎さん) 実は今まで、例えば地方の学生というのにフォーカスした取り組みとか、女子学生にフォーカスした取り組みはあったけれども、地方の女子学生に特にフォーカスした取り組みはなかったと把握しています。

平井さん) それで言うと、地方の学生の中でもうジェンダーに関係なくギャップが生まれてしまっていたイメージですか?

川崎さん) そうですね。例えば情報格差がメインの活動などはあったと思います。

平井さん) そもそも、なんで今までこの問題への取り組みが少なかったのか。最近の社会の風潮もあり、やっと理解しようとする人が増えてきたと思うんですけど、どうお考えなのか。

川崎さん) 仮説にすぎないですけど、おそらく自分自身が地方女子学生で、首都圏の大学に出てきて、課題を感じた人じゃないとなかなか気づかない課題かなと思っていて、そういった人がそもそも数としてものすごく今まで少なかった。また、そういった課題に気づいても、その課題を実際に自分が解決しようと思って行動に移す人がまた更に少なかったということなのかなと思っています。

平井さん) 当事者となる人たちは多くいるとは思うんですけど、可視化されている人はやっぱり少ない。今まで誰もそこに取り組んでこなかったからこそ、今現在そういった経験をしている人たちのなかでも、それに自覚的である人たちが少ないんだなと、今感じました。

 進路選択におけるジェンダーギャップの問題提起をしていくにあたって、そこからまた深堀して地方女子の問題に取り組んでいく方向性で進んでいくのか、それとも、地方女子というラベルを一旦外して、進路選択のジェンダーギャップという大きな課題に取り組んでいくのか、その辺りはどう考えているのか?

川崎さん) 団体の活動に関しては、地方の女子学生というところに絞って今後も活動していこうとは思っています。けれども、この白書に関しては、地方の女子学生のこういう課題があると言っても行政の方に全然耳を傾けていただけないという問題があるので、今回はそこをまず解消する一歩として、広いところから行こうと考えています。

 

男性はジェンダー問題に取り組みづらい? 性別にかかわらず市民一人ひとりができることは?

平井さん) この会のテーマでもあると思うんですけど、市民の一人ひとりがこの問題に対してできることを聞いてみたいです。背景として、自分自身が男性として生まれて男性として生きている中で、ジェンダー問題に結構取り組みづらかったりすることがあると感じていて、今までの男性の在り方、加害を考えると仕方がないこともあると思いますが、男性だからこうだろうという目線を向けられてしまう時もある。雰囲気とか社会の風潮とかいろいろあると思うんですけど、もう性別に関わらず、一人ひとりができることって何があるのかなというところは気になります。

川崎さん) 実は私たちの団体は3割ぐらいが男性のメンバーで、その中でも首都圏出身の男性もいるので、何か活動する上で当事者でなければならないということは全然ないと思っています。それこそ情報を知るとか、今までデータとして出ていなかったところを調べて、実態を知ってみるだけでも大分意味のあることだと思っているので、ぜひいろいろ出ている情報とか見てみることから始めていただけると嬉しいです。

平井さん) 見てみます。ありがとうございます。

 子どもや中高生、高校生がメインであると思うけど、その価値観の形成は、その保護者からの声とか意識とかも影響すると思います。この調査を届けたいところは、保護者層の人だったり、年代的には、当事者となる子ども・若者世代の人たちだけでなく、もっと大人世代・親世代の人たちというイメージですか。

 

保護者の影響が大きい進路選択におけるジェンダーギャップ

川崎さん) そうですね。私たちも保護者の影響はすごく大きいと思っていて、一方で、ものすごくリーチが難しい。保護者の方に、「あなたたちは、こういうアンコンシャスバイアスがあるかもしれないので、その考えを変えてください」とか直接的に言ってもなかなか伝わらないところではあると思うんですね。

 なので、まずは社会的にこういうものが話題になって、一つのトピックとして触れていただいて、実は自分が子育てをする中でこういう考えがあったかもしれないと自然に気づいていただくきっかけになるといいと思っています。白書は、保護者の方にもぜひ読んでいただけると嬉しいです。

 そういう保護者の方にアプローチする上で、私たちも保護者向けのプログラムを作ってみたりしているけれども、任意の保護者にイベントを開催して来ていただく形だと、興味がある方にしか来ていただけないので、行政や学校を通したアプローチ、例えば保護者会に入れていく等が必要だと思っています。そういう時に、行政や学校に動いていただくきっかけとして、この白書が使えるといいと考えています。

平井さん) 本当に届けたい先に届けるのはすごい難しいと感じています。

 でも、そうやってデータとしてあることの意味はすごくあると思っていて、個人的にはすごく楽しみです。僕の周りでも、年齢的に僕たちは対象となる学生と近いですけど、身近な人たちに問題提起をしたり、こういうものがあるみたいだよと言ったりしていくべきなのか、それとも、別の声かけとかできることがあったりするのか。#YourChoiceProjectさんの活動スタイルではどうですか。

川崎さん) できることは、いろいろあるとは思うけど、自分が課題を知るというところもそうですし、特に若い世代は実際に高校生と関わる機会が結構あると思うので、その時に、女子学はどういうバイアスを受けているかとか、どういう現状にあるかとかをちょっと頭に入れた上でお話をしてみると、だいぶ与えられる影響も違うと思っています。

 

 

  • NPO法人ピルコン理事長 染矢明日香さん

日本におけるジェンダー平等に基づく包括的性教育についてのアドボカシー事業

「包括的性教育」という言葉を今回初めて聞く方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単に解説をさせていただきます。性教育と聞くと、生理の話とか妊娠や性感染症の話が思い浮かびがちですけれども、そういった生殖だけではなく、「包括的性教育」はジェンダー平等を基盤に人間関係や性の多様性なども含む幅広いテーマを年齢に応じて深く学ぶ性教育のことを指します。ただ、こういった包括的性教育が日本ではまだまだ広がっていなくて、法律や制度の整備も進んでいない現状があります。

 私たちは普段、大学生や若手社会人の20代のメンバーを中心に、性教育講演を中高生向けにやっています。あと、海外の性教育教材を翻訳して日本の性教育の場や、学校の先生方にも使ってもらう活動もしています。海外の先進的な事例が積み重なってきている中で、国内外の機関と専門家と連携して、包括的性教育についての情報発信を行って、日本のどこにいても包括的性教育が提供されるような環境整備につなげたいと考えています。

 そのことによって、思いがけない妊娠や性感染症、いろんなジェーダーに基づく暴力や差別による傷つきを減らしていけたらなと思っています。

 事業内容としては大きく三つ考えています。まず一番目に調査ということで、国内外における包括的性教育の状況や教材やこういった包括的性教育を進めてきた事例の調査ができたらと思っています。

 今まさに、トランスジェンダーの方へのヘイトや、包括的性教育が性の多様性を幼い年齢から教えて混乱を招くといった間違った情報、極端なバックラッシュが広がっているのも事実です。二番目に啓発ということで、そういったデマや間違った情報に対してファクトチェックの情報や、インフルエンサーも巻き込んでのSNSやウェブサイトでの発信イベントをしたいと思っています。

 最後に、政策提言ということで、国の制度として性教育の充実化を求める要望書の提出ですとか、同じ思いを共有できる市民団体や個人とのネットワーキングや連携ができたらと考えています。

 

自分の人生について自己決定をする力を育むことを大切にする包括的性教育

School Voice Project 小谷綾子さん) 私も包括的性教育を2年ぐらい前から少しずつ本を読みながら勉強をさせてもらってる途上なので興味深く聞かせてもらいました。一般的な生理の話や生殖の話ではなくて、人として生きるための権利教育なのだと実感しているところです。

 子どもの権利を踏まえて考えていくと、この包括的性教育をご家庭や学校でする時に、ご家庭であれば親子がどのような関係性で子どもを育んでいるかが一つ大事になるのかなという点と、学校であってもご家庭であっても、そもそも子どもをどういう観点で捉えているかがすごく重要だなと思って聞いていました。そういうことであっていますでしょうか。

Kaida SJF

 

 

 

 

染矢さん) 包括的性教育の中で大切にされているのが、性行動に関する、また自分の人生に関する自己決定をしていく力を育むことです。これまでの教育は、先生や親が知識を持っていて、それを子どもに伝えて、子どもが望ましい行動をするみたいな、テストで知識を出すみたいな考え方でされてきたことが多かったと思うけれども、包括的性教育においては、教育を受ける方と提供する方が対等な立場です。提供する方はいろんな情報を提供するけれども、あなただったらどうするかを考えていく。対等な立場から考える中で多様な考え方に触れていき、自分だったらこうしていくと考えて向き合えることをすごく大切にしています。そういったことも含めて広げていく必要があると思っています。

 日本の教育全体の中でも、親や先生がこう言ったからこうしなさいというのが非常に多いと思っていて、例えば、プライベートゾーン、水着で隠れた部分についての教育も増えてきてはいるけれども、そこは人に見せちゃいけないところですよ、だけで終わっていて、なぜ人に見せちゃいけないのかとか、性器の働きとその名称とかが触れられないまま、モヤっとしてダメな場所みたいに認識をされてしまう。

 そこの子どもの主体性を認め、知る権利を保障して、最終的に決めるのはあなた自身だから、どう思うか、どう考えるかをオープンにディスカッションしていくというようなカルチャーも含めて広げていく必要性があると思っています。

小谷さん) 対等な立場で対話していくのはすごく重要だと思っています。私は子どもの相談機関に勤めているけれども、発達障害のお子さんや性に違和感を持つお子さんなどのご相談を受けることもあります。そこで、発達的な障害・特性を持つお子さんは、性の知識についても、なんでそういうことが必要なのかとか、自己決定のために十分な情報収集ができないまま自己決定を迫られている場面はたくさんあると思っていたんです。そういう子どもたちが生きていくための権利獲得のために、性についての情報にリーチできることは大事だと思うんです。隠されてもいけないし、情報が手に届く形にするにはどうしたらよいか、いつも悩んでいるけれども、どんなアプローチが考えられるかなと思って聞いていました。

染矢さん) 私たちの教材には、海外の性教育アニメ動画があります。「アメイズ」という3分から5分くらいの短いもので、幅広いテーマを取り扱っているものがあります。いろんな特性のある子どもたちも、そういったアニメや動画になると3分くらいは集中して見られますので、そういった教材も織り交ぜながら、こういった場面であなただったらどうしますか? といったことについて話してもらうきっかけづくりにも活用しています。

 そういった子どもたちと普段の生活の中で関わっている大人自身ももっと学ぶ機会や困った時に相談できる機会やツールも今後増やしていきたいと思っているところです。小谷さんからもこういうのがあるといいというのがあったら、お聞かせいただけたらと思います。

小谷さん) 私もそういう講座があればぜひ受けたいなと思いながら今聞かせてもらいました。

 もう一つ、子どもが思いがけない妊娠・望まない妊娠に入ってしまうことは、私の相談機関でも聞かせていただくような話題でもあるんです。思いがけない妊娠でとても傷ついてしまったり、思いがけない妊娠からの出産の後に不適切養育の状況に陥ってしまったりするご家庭もとても多くて、思いがけない妊娠をしてしまった方へのケアの視点も考えていければとは思っているのですが、そういった点はいかがですか?

染矢さん) 私たちは妊娠した人に対する直接的なサポートまでは注力していなくて、情報提供がメインになってしまうと思うけれども、予防という観点でもきちんとした情報を届けないと、結局、脆弱性を持つ子たちにしわ寄せがいってしまうという視点が非常に大切だと思います。

 でも、自分で決めたことでしょうと責める形での「自己決定」というのは使わないように注意しないといけないところだと思いますし、この妊娠した後の選択肢として産む・産まないについては、第三者に託すことも含めて、フラットにその人が選んだり支援を受けられたりすることも大切だと思います。それが起こる想定で、大人たちもオープンに話していき、困った時は相談していいんだよという風通しの良い関係性づくりも大切かなと思いながらやってきました。

 

 

  • NPO法人CoCoTELI理事長・平井登威さん

精神疾患の親をもつ子どもの“こえ”を可視化するWebメディア

 最初に僕の自己紹介をさせていただきたいと思います。大学四年生で、4月から休学して静岡に住んでいます。僕自身が、幼稚園の年長の時に父親が鬱になって、虐待を受けたり、ヤングケアラー的な役割を担ってきたりした原体験があって、この活動を始めたきっかけとなりました。ずっと学生団体で、精神疾患の親を持つ子ども・若者のサポート、居場所づくりをオンラインでやってきていたけど、昨年5月にNPO法人化して、精神疾患のある本人も、その家族も生きやすい社会をつくるための一役割として、精神疾患の親をもつ若者支援を行っています。

 精神疾患の親を持つ子どもは高確率でメンタル不調を抱えてしまうと言われていて、実際に他の子どもと比べて罹患率は2.5倍高いと言われています。2.5倍を1倍にしようとチャレンジをしている感じです。そういう子どもたちはすごく少ないと言われたりするけど、実は子どもの15%~23%いると言われているぐらい多くて、どれだけ多くの子たちが見えない存在となっているのかも見て取れると思います。日本には全然支援がないので、つくっていこうというところです。海外はすごく進んでいるところがあります。

 なぜメンタルヘルスに不調を抱える確率が高いのかというと、複雑ではあるんですけど、それをなんとか大きな要因はどこだろうと簡単に2個に分けると、一つは「当事者の子どもたちが見えない存在となっている」ところです。自覚や言語化が難しく、助けてと言う勇気を前提とした“待つ”支援では限界があります。もう一つは、資本主義の仕組みの中では解決が難しい問題なので、資金面のハードルの高さから「当事者が選べる支援の選択肢が少ない」のも大きな理由じゃないかと思っています。

 僕たちはもう当事者から支援を求めてくるのを待つのではなく、社会側が当事者に気づく仕組みをつくるところと、当事者が出会った時に当事者が選べる選択肢を増やすところで、社会のシステムにアプローチしていきたいと思っています。

 多様な当事者の子たち、似たようなフェーズにいる当事者がこぼれ落ちない支援を構築していこうと、この一つとしてウェブメディアを今回の事業で構築させていただきます。簡単にお話しすると、精神疾患の親をもつ子どもの“こえ”を可視化するウェブメディアをつくるということで、インタビュー記事や、専門家の方に解説してもらう記事や、“こえ”を届けるポッドキャストみたいのをやっていこうと思っています。

 目的としては、ヤングケアラーや虐待や貧困みたいな二次的な困難はみんな問題意識を持つと思うけど、その一歩手前の予防的な観点として、この課題の認知向上を図るところが一つ。また、相談しなくてもロールモデルと出会える可能性を生み出すところ。あとは、当事者といっても一人じゃなくて、もっと多様な“こえ”があって、そういった多様な“こえ”を届けることで、課題の多様性を見える化するところを目的に行っていこうというふうに考えています。

 

対立構造をつくらない 相手の背景にある生きづらさや社会問題を想って

 こうやって子ども・若者支援をやっているけど、それは精神疾患のある人たちとの対立構造をつくるわけではなくて、精神疾患のある方が安心して子どもを望んで育てることができる社会にもなっていくんじゃないかと思って取り組んでいきます。

Kaida SJF

 

 

 

 

ふぁみいろネットワーク 綾原みなとさん) 私は一市民としてここにいると同時に、ソーシャル・ジャスティス基金の採択事業に同期で入ったというところで、採択された事業のポジショナリティを自分が明らかにして対話することは意味があると思って、あえて自分の話を最初にします。私自身は、卵子提供・精子提供・代理懐胎で子どもを持つ親側の当事者団体を運営しています。私たちは精神疾患とはまた違うカテゴリーではあるけれども、いわゆるマイノリティに属する親ということになります。子どもたちには天真爛漫に生きていってほしいけれども、親がマイノリティであることの苦労を子どもに負わせるかもしれないという思いがありつつ、それでも子どもを持ちたいと願って実際に育児をしている親の業の深さみたいなものと真剣に向き合わなければいけないと思っています。

 今、平井さんのご発表で胸に迫ったのが、最後に、「対立構造をつくりたいわけではない」とおっしゃっていたことです。精神疾患のある方が安心して子どもを望んだり育てたりできる社会があるということと、その子どもの幸せは決して対立構造ではないのですよね。親と子というのは何かと緊張関係にはまりがちだけれども、そうではない道を探ってくださっているのが、親側の立場として本当に嬉しく、平井さんのプロジェクトを拝見いたしました。

 私と平井さんは初対面で、いきなりこんな突っ込んだ話をしていいのかなと思いつつ、ひとつお伺いさせてください。子ども側として、親にいろいろな思いもあると思うけど、あえて対立を乗り越えようと思ってくださっているのはどういうところからでしょうか?

平井さん) 前提として僕自身が当事者だという話はいつも最初にするけど、僕自身は親に対してあまりポジティブな思いは今も持っていないんです。でも、それはあくまでもn=1の話で僕の人生にとっては大事だけれども、この課題、そういった親の立場の人と僕たちが対象とするその子どもの当事者の人たちそれぞれの生きやすさや、それを飛び越えてもっと全員が生きやすい社会を考えた時には、対立構造を生んでもいいことはないと思っているので。対立構造をつくることを考えたことも無かったなと思います。

綾原さん) その対立構造って、「どうしてそんな状態で子どもを産んだの」って言われてしまうこともあるけれども、そんなふうにコントロールできるものでもないですよね。子どもにあえて苦労させたいと思っている親はあまりいないと信じたいです。それでも自分たちのコントロールできないところで子どもに負担を課してしまうことがある。

 平井さんも子ども側としてさまざまな思いを抱えていらっしゃるだろうに、それをちょっと置いて客観的なところから見て、単純な対立構造に持ち込まないようにしてくださっているのは、すごくありがたいと思いました。

 平井さん) 子どものことを傷つけたいと思っている親が多いかと言ったら、別にそうではなくて、精神疾患のある親の背景にも生きづらさや社会的ないろんな問題、それこそジェンダー問題も関わってきたりすると思うんです。そういった社会側に問題があると僕は思っているので、だからこそ対立構造に持ち込まないようにしているところはあると思います。

綾原さん) 今回の採択事業というのは、その社会側の問題にアプローチするという形で考えておられるのですか?

平井さん) 今回の事業に関しては、社会側に問題があると伝えるのはもちろんですけど、今は患者さん本人には結構みんな目が向いたりするけど、精神疾患の親を持つ子ども・家族は支えて当たり前の存在になってしまっていて、患者本人にも生きづらさはあると同時にその家族も生きづらさを抱えているかもしれないことも伝えたい。それは、ケアを受ける人や精神疾患の親が悪いわけではないけれども、子どもたちが課題を抱えているかもしれないからこそ、そういった悩みを可視化させることで、じゃあ親と子の対立構造を生まない形でどうやってその状況を予防できるのかを考えてもらうためのウェブメディアになったらいいなと考えています。

綾原さん) 今おっしゃってくださったことは、いくつも重要な点が入っていると思います。まず親御さんの大変さが、主治医の先生の治療や親御さんを支える支援者さんとの関係の中で解決できなかった時に、その残りのこぼれた部分が全部家族に負わされてしまっていること自体が問題ですよね。社会の人はそのことを認識すべきだし、そういう事態になっている子どもがいたら気づけるようでありたいし、気づいた時にどうしたらいいかというアイディアも平井さんたちのプロジェクトから拾うことができるといいなと、今聞いていて思いました。

平井さん) ありがとうございます。でも、本当に今まだ見えてない領域ではあると思うので、可視化していきたいとすごく思っています。

綾原さん) 今回、そのウェブメディアは、当事者さんはもちろんのこと、自分自身は当事者じゃないけど、身の回りに平井さんたちのような立場で苦労されている方がいると気づいた一般市民も見られて参考になるような、そういうコンテンツも期待しています。

 それと同時に、苦しい立場にいる子どもたちが、さっき“待つ”支援の限界とおっしゃっていましたけど、困難を経ずに生きやすい未来により早くたどり着けるといいなと思います。子ども向けには、どんなコンテンツを予定されていますか?

平井さん) 子どもとは言っても年齢的には中学生以上ぐらいを対象としたものになると思うけど、当事者のストーリーが一番入っていくんだろうなと思っています。

 精神疾患に対する偏見とか、家族だからサポートして当たり前だろうみたいな家族主義の強さとか、当事者の自覚の難しさといった問題だけでなく、そもそも人に相談したことがない子たちが多くて、5人に1人ぐらいの割合でいるはずなのにもかかわらず、誰も同じような状況の人がいないんじゃないかという孤独感を抱えてる子たちが多いという問題がある。

 その子たちの方から相談してもらうことは難しいからこそ一旦ちょっと置いといて、相談というアクションを自分から何か起こさなくても、そのウェブメディアの記事を読む形でロールモデルと出会えるようなコンテンツは大事かなと思いました。多様な一人ひとりのストーリーを届けていくのは効果的なんじゃないかと感じています。

綾原さん) 子どもは自分の家族しか体験できないので、それで当たり前だと思ってしまったら、助けを呼ばなきゃいけない状況に自分があるということさえ分からないですものね。でも、同じような人がいて、その人がこういうふうに助けにつながっていったというロールモデルがあると、こんなことで相談していいのかなとか、うちは普通なはずなんだけど何故かしんどいといった悩みから、早く自信を持って行動につなげていけるような気もしますね。

 

自分たちの枠に当てはまらない“こえ”もしっかり届けるウェブメディアに

平井さん) そうだといいなと思っています。

 この前クラウドファンディングをやって、その時に見せ方はけっこう考えたんですけど、クラファンというプロジェクト単体で見たら、対立構造をつくった方が可哀想だねとお金が集まる面があると思うけど、課題解決を考えた時には全然最適ではない。対立するような言動をとる人もいるとは思うけど、それは見てる視点がちょっと違うんじゃないかと個人的には思っていて、だからこそ、そこら辺の想像も大切にしながら、自分たちが望む声だけじゃなくて、僕たちの枠に当てはまる当事者のだけじゃない“こえ”もしっかり届けるウェブメディアにできたらいいなと思っています。

 

 

  • ふくおか摂食障害ともの会代表・江上彩音さん

摂食障害の当事者の実態把握と支援のあり方の検討、当事者のエンパワーメントを促すコミュニティの構築

 私たちは摂食障害の当事者の自助グループとして、現在10数名で活動しています。私自身も当事者の一人で、20年以上かけて摂食障害を乗り越えてきた経験を持っています。

 まず、摂食障害の実態についてお話します。厚生労働省の統計によると、患者数は全国で22万人と言われていますが、コロナ禍を背景として年々増加しており、低年齢化も指摘されています。治療につながっていない方や、カミングアウトできていない方も含めると、潜在的にはより多くの方が困っていると推察されます。

 症状を抱えながら働いている方も非常に多い一方、職場で病気のことを詳らかに話す人はごくわずかです。困っている人のニーズが顕在化していないため、治療施設や医師は非常に少なく、絶対的な治療方法も確立途上にある状況で、当事者が必要な支援につながれないという問題があります。

 当事者は、自分を責める気持ちや恥ずかしい気持ち、相談しても理解されないことなどから、人になかなか言い出せない。私たちの団体にも、「今日初めて摂食障害のことを話すんです」という方が多くいらっしゃいます。こうした問題を少しでもよくしたいとの思いから、今回の助成事業に取り組んでいきたいと考えています。

 活動内容について、一年目はアンケート調査やヒアリング調査を実施し、当事者のニーズや実態を明らかにします。その上で、支援の充実などの政策を動かす第一歩として、医療や福祉などの関係者と意見交換をし、よりよい支援のあり方を模索します。

 二年目は、一年目の調査結果を白書として取りまとめ、摂食障害への理解を促すツールとして活用します。また、孤独に陥っている当事者のコミュニティをつくり、当事者のエンパワーメントを促す場とします。今回の事業では、主に福岡県を中心に、関係者との連携による支援の充実を模索しつつ、将来的には全国に、その事例を展開できればと考えています。

 

摂食障害は辛いけれど自分の支えにもなっているという背景 治りたいが症状を手放すのが怖いジレンマに

#YourChoiceProject 川崎莉音さん) 私自身は今まで摂食障害の当事者の方とお会いしたりお話ししたりしたことがなくて、それは周りに当事者の方がいなかったのだろうと今までは思っていたけど、全然カミングアウトできず、7%しか職場で話すことができている方はいないということをお聞きして、気づいてなかっただけで、知らなかっただけだろうと思いました。ありがとうございました。

 私のイメージとしては、摂食障害というその名前自体は結構知られていて話題になっているものかなと思いますけれど、実態が把握されてなく治療法も確立されていないことを今日の発表で初めて知りました。長年課題になっていたにも関わらず、そういったところが進まなかった背景にはどういうものがあるのでしょうか?

Kaida SJF

 

 

 

 

江上さん) 背景として大きいのは、病院を受診するハードルの高さや、相談のしづらさなどから、当事者が声を上げないことかなと思います。

 川崎さん) では、ともの会で当事者が声を上げられる環境をつくっていくというのは、課題を前進させるためにすごく効果的なことですよね。

江上さん) そこが効果的であり、一番難しいところだと思います。

 摂食障害は「拒食」という、いわゆる全然食べないパターンと、「過食」といって、すごく食べてしまうパターンがあります。中には過食するだけの人もいれば、痩せを手放したくなくて、嘔吐を伴う方もいらっしゃいます。痩せていることに自分自身の価値を見出そうとする方もいらっしゃいます。そうすると、困っているものの症状を奪われたくないという心理が働き、治りたいけど症状を手放すのが怖いというジレンマが生まれます。そのため、本人が声を上げることが本当に難しい病気です。

川崎さん) その課題を解決したくないかもしれない――。難しいですね、それは。

江上さん) 私たちの会にも、10代や20代で相談に来られる方は少なく、おそらくその時期は、まだ症状を手放したくない方も多いのでしょう。30代を過ぎて体に不調が出てきてようやく、どうにかするモチベーションが湧くという感じです。そのため、病気が長期化してしまう方も多く、川崎さんのように若い方にどうアプローチすればいいのかは、悩んでいるところです。

川崎さん) 当事者の方が低年齢化しているというお話があったと思いますが、その低年齢化はどうして起きているんですか?

江上さん) コロナ禍が影響しているようです。親が在宅勤務で運動不足になり、ダイエットを始めたことが影響して、一緒に運動を始めたらハマってしまった子もるようです。若年層は、私たちもフォローしきれていないところがあり、低年齢化の原因や対応は、深掘りが必要かなと思っているところです。

川崎さん) 医療でいわゆる治療と言われるもの以外で、支援として必要なもの、効果的なものには例えばどういうものがあるんでしょう?

江上さん) 私自身は、カウンセリングを長く続けていました。病院での治療は、食事や身体面の指導が主ですが、病気の根本的な解決には、症状の背景にある心の問題に向き合うことが必要で、そこにアプローチするという意味では、カウンセリングなど心理面でのサポートが重要だと思います。ただ、カウンセリングは保険がきかない場合、お金がかかります。過食の方の中には、食費にお金がかかり、そういう支援を受けることが難しい方も多くいらっしゃいます。中には、そこから万引きに走ってしまう方もいらっしゃいます。カウンセリングは高額という点がネックです。

川崎さん) 過食からさらにその先の課題にまでつながっていってしまうのは――。

江上さん) 根が深いなと思います。

川崎さん) 先ほど、20年近くかかって江上さんご自身が摂食障害を乗り越えられてきたという話をされていて、障害を乗り越えるというのは通常どれくらい時間がかかるのか、けっこう長期間なものですか?

江上さん) 回復にかかる期間は人それぞれで一概には言いづらいですが、私たちの会のメンバーの場合、4~5年ほどで症状が落ち着いた方もいれば、30年ぐらい向き合われた方もいらっしゃいます。その人の心の問題の根深さと比例するのかなと思います。

川崎さん) お話聞けば聞くほど、心の問題がすごく大きいなあと。

江上さん) そうですね。本日登壇されている皆さんのお話も他人事とは思えず、病気の背景には、教育の問題や親との関係など、いろいろな要因があると思います。

 

 

  • ふぁみいろネットワーク共同代表・綾原みなとさん

精子提供・卵子提供・代理懐胎で家族形成を行う当事者の経験から生殖技術の社会的公正を考える

 ふぁみいろネットワークは、精子提供・卵子提供・代理懐胎で家族形成を行う当事者を中心としたNPOグループです。活動の参加者は、不妊に悩む夫婦のほか、同性同士やトランスジェンダーのカップル、選択的シングルなど様々であり、オンライン上のコミュニティや多様な家族が親子で集まるイベントなどで交流を深めています。

 精子や卵子のドナーや代理母など第三者を巻き込んで生殖を試みることは、生まれる子どもやドナーと代理母、その家族、そして社会全体の家族観にも影響を及ぼします。これは、生殖にまつわる社会的通念からの逸脱行為であるとともに、ドナーや代理母の身体が商品化され搾取される懸念などの倫理的課題もはらんでいます。

 当事者の多くは批判や差別を恐れて、身近な人、時には我が子にさえ自分たちの家族の成り立ちを秘密にしてきました。そのことで、生まれた子どもの「出自を知る権利」が侵害されてきた歴史は深い反省と検証が必要です。

 近年では、過去の反省の上に立ち、出自に対して肯定的で粘り強い親子の対応を重視する当事者が増えています。しかし、メディアやエンターテイメント作品、そして時には学術文献の中で描かれる当事者のステレオタイプは、「ドナーや代理母や生まれる子どもの人権を侵害しつつ自らの生殖の権利を追求する利己的な消費者」、または「保険診療などの通常の生殖医療の枠の外に排斥される無力な患者」という両極端のまま更新されていません。

 この技術の当事者は、生殖技術と人間社会の緊張感あふれる関係を、のっぴきならない立場で引き受ける者たちでもあります。例えば、今日のフォーラムの事前質問として、「卵子提供を受けることで自分の身体への信頼感が損なわれるのではないか」という問題提起を頂きました。卵子提供を受けた私個人の実感としては、ドナーさんのおかげで私の身体への信頼や愛着はむしろ回復したのですが、自分一人では生殖を完結できない身体を生きる私たちが、ドナーさんや技術の助けを借りながら、それでも生殖を諦めない時の複雑な思いについては、まだ体験談が少ないのが現状です。

 今回の採択事業は、多様な当事者の経験や思いを手記集として出版し、当事者同士や社会の人々との対話の土台とするプロジェクトです。ステレオタイプではない当事者の声を拾い上げ、当事者同士の孤立や当事者と社会の分断を対話によって乗り越えて、この技術の倫理的課題に連帯して向き合い、当事者やドナー、代理母、そして生まれる子どもたちそれぞれの尊厳が尊重される社会の実現に貢献できればと思います。

 本事業が生殖技術と人間の関係を社会全体で考え直し、生殖をめぐる社会的公正の実現につながることを期待しています。

 

多様な当事者との出会いに癒される 寛容さが開かれ対話が始まる

ピルコン 染矢明日香さん) 卵子提供・精子提供・代理出産でそれぞれ心身の負担が違いますし、提供する側・される側の子どもなど、かなり関連する人たちが多いと思います。じゃあ、そこに医療がどう介在していくのか、どんなふうに当事者を支えていくのかというところで、非常に複合的な問題であり、難しさだなと思いました。綾原さんは、課題に感じられているところをどう思っていらっしゃいますでしょうか?

Kaida SJF

 

 

 

 

綾原さん) まず、私たち当事者はすごく多様な人々の集まりであって、決して一括りにされうるものではないということが、活動やっていく上での難しさであり、魅力にもなっています。例えば、精子提供を必要とする当事者の中には、結婚後に旦那さんが無精子症と判明して子どもを持てない未来を突然突きつけられた人もいれば、女性同士の同性カップルで子供を持ちたい人もいます。

 精子提供・卵子提供・代理懐胎については、これからようやく法律が整備され、前二者は夫婦間での実施が認められようとしているけれども、LGBTQの権利が保障されず婚姻が認められていないがためにこの医療から排斥される人がいたり、トランスジェンダーのカップルはまず婚姻するために性別変更の手術を受けなければいけないなど、別の社会問題も複雑に絡んでます。当事者同士が歩んできた道のりがあまりにも違うがゆえに、お互いが同じカテゴリーに属していると当事者自身が思っていなかったりして、同じ医療を必要とする当事者同士で理解しあうのがすごく大変なところがあります。

 でも、多様性は強みでもあるんです。ふぁみいろネットワークで1年くらい前にLINE上でのオンライン・コミュニティとしてオープン・チャットを開設したら、一人ずつ参加者が増えてくださって、今では270名位になっています。入ってくる人がみなさん本当に自分と全く異なる背景を背負いながら、やっぱり子どもが欲しくて、子どもを苦しめないために自分はどうすればいいかという同じ悩みに向き合っている。これだけいろんな在り方があって、みんな必死に生きているという多様性の感覚が自らにインストールされることで、まずは当事者同士の中での多様性と寛容さに開かれていって、そこから対話をして行く。多様性にどうやって慣れていくかを、日々鍛えられながらやっている感じがあります。多様性は癒しにもなるんです。本当にどんな在り方でもいいよね、尊いよね、というふうに当事者として思える部分があります。

染矢さん) 日本だと画一的で、伝統的な家族観のみでだけ生殖補助医療が保障されている状況は、非常に私も課題だと思っています。海外と比較しても例えば同性婚が認められてなかったり、トランスジェンダーの方も性別移行要件がすごく厳しかったり、そういった問題とも関わっていると思います。

 当事者間での葛藤や難しさ――親側と子側とか、提供するドナー側と提供される側とかの関係性の中で、どのようなニーズや難しさや課題――があるとお感じでしょうか?

綾原さん) 本当にそこが活動の中核をなす問題意識でもあります。

 先ほどCoCoTELIの平井さんのプロジェクトでも、親子の対立に持ち込まないというところに平井さんが可能性を見出してくださっていました。一方で私たちは、この技術を用いて生殖を行う親と生まれてくる子どもという二者の関係だけじゃなくて、精子・卵子のドナーさんや代理母さんという第三者が関わってくるので、三角形の緊張関係の中に置かれています。

 それぞれの立場が、お互いの権利を引っ張り合って、誰かの権利が満たされることで誰かが権利をないがしろにされるという構造にだけはしたくないです。そのためにどうしたらいいのかを、私個人でも考えるし、団体としても考えています。例えば、どうすればドナーさんや代理母さんを搾取せずに済むのかについて、自分はこういうふうにやったと、それぞれの人の体験談があったりします。代理母さんに頼むのは代理母さんに負担がかかることだけれども、その人をただの産む道具にするのではなく、子どもたちも含めてどのように人間的な交流を持つかなど、個々人の試行錯誤と実践がある。

 その経験談は、次に挑戦する人たちにもヒントになると同時に、「あの人たちは何も考えずに自分の権利だけ主張する人たちだ」などという社会からの非難に対して、私たちもきちんと考えているのだと示すことにも繋がると思っています。その意味でも、当事者同士が三者の対立関係にはまり込まずに、それをどうやって揺り動かしていくかという実践の知恵に着目したいと思って、今回のプロジェクトを助成申請しました。

染矢さん) 素晴らしい取り組みだと思います。海外だと例えば心理士さんやカウンセラーさん、ソーシャルワーカーさんといった第三者的な方が調整に関わったり、相談を受けたりということがあると思いますけど、日本でこういう取り組みは今あるでしょうか?

綾原さん) はい、日本でも、生殖心理カウンセラーの先生や社会福祉士の先生など、さまざまな立場の専門家が関わってくださっています。でも、専門家の先生方がすごく大事にしておられるのは、生まれた子どもを不幸にしない医療にすることなので、親に対しては、専門家の立場から教育を施してちゃんと考える親にするという感じです。なので、親は神妙に頑張って正しく子育てをしなきゃという感じで、いろんなところに申し訳ない気持ちを抱えたまま自分の子どもを望む状況になりがちです。

 そこで、どうやって親側の当事者をエンパワーしていくかが、当事者団体としての私たちの課題です。実際、当事者は、子どもと信頼関係を築きながら家族の成り立ちを日常生活のなかで話題にする方法など、専門家の先生が知らない知恵を知っていたりするのです。私たちは、専門家とそれに教育される当事者という上下関係ではなく、水平的な関係性で、専門家の先生と協働したり、当事者同士のピアサポートを行なっていけるといいなと思っております。

染矢さん) ピアサポートによって先輩の家族の方から、こんなふうに生活できるんだなとか、こんなふうに告知したんだなとか、リアルな経験談から学んで安心につながるところも多いかなと思いました。

 

第三者を介する生殖技術で生まれたことに子どもが誇りを持って生きていけるヒントも包括的性教育に

綾原さん) ピルコンの包括的性教育の話は私たちにも関わりがあることで、精子提供・卵子提供や代理懐胎で子どもが生まれたという話をする時、「お星様にお祈りをしてもママとパパには赤ちゃんが来てくれなかったんだけど、そのうち、親切な人が卵をくれて」みたいなふんわりした話だけだといずれ立ちいかなくなる。子どもの成長にそのタイミングが訪れることは分かりきっているので、卵子提供や精子提供の事実を子どもと語る時に、性教育は避けて通れないものだし、適切な性教育は家族をエンパワーする土台にもなりうると思うんです。

 タブーだからこの話にビクビクしながら暮らすんじゃなくて、精子提供なり何なりで生まれたことを、子どもたちが自分たち家族の大切な物語として大事に守りつつ、そのことで社会からとやかく言われる必要もないし、自分たちの誕生に誇りを持って生きていけるようなヒントが包括的性教育の中にたくさん詰まっていると思います。包括的性教育の中核にある人権意識が普及してくれると私たちの活動もやりやすくなり、すごく近いところがあるなと思っております。

染矢さん) ぜひ連携してできるところがあったら嬉しいなと思っております。

綾原さん) はい、嬉しいです。

染矢さん) 政府に求めることとしてはどんなことがありますか?

綾原さん) まず切実には、当事者を分断しないでほしいというのがあります。同性カップルであったり、性別移行手術を受けていないトランスジェンダーだったり、選択的シングルの方たちが、精子提供や卵子提供に関する法律の制定によって、今まさにこの医療から排斥されそうになっています。また、独身女性の卵子凍結が注目されていますけど、将来婚姻せずに精子提供を受けるという形ではその卵を使えず、実情と合わない。硬直した家族観で医療の適応範囲を決めてもらっては困ります。当事者を分断せずに、みんなに開かれたものになってほしいです。

 私たちも、むやみやたらとこの技術を押し進めたいわけではないんです。じっくり向き合うべき課題があるのも確かなので、そういったところを当事者も社会一般の方たちみんなで、問題点が悪い形で噴出しないように対話を重ねながら、この技術と付き合っていけるといいなと思っております。

染矢さん) 多様な背景を持つ方々がいる中で、どんなふうに進めていくと、みんながより傷つかないかとか、困ったときに繋がれるようなルール設定ができるのかとかが課題になると思うけれども、その際に、当事者の声、しかもどこか一つのケースではなくて、多様なケースが含まれた声が、これからを動かしていく大きなヒントになるのではないかなと思いますので、ぜひ頑張っていただけたらなと思っています。応援しています。

 

 

  • NPO法人School Voice Project理事・小谷綾子さん

インクルーシブ教育/学校DE&I推進のためのアドボカシー活動~マイノリティ当事者/支援者団体と教職員団体の対話・連帯を力に~※DE&I; Diversity Equity & Inclusion

 私たちは、学校の先生たちと一緒に、先生たちが持っている課題感をもとに政策提言をして、学校現場が抱えている声を社会に届けて、ボトムアップで変えていくためのプラットフォームとして、2022年にNPO法人として設立いたしました。

 主には、先生たちからの現場の声を集めるためのアンケートを元にした記事や、学校にかかわることの解説記事を出すメディアを作っていること。社会を実際に変えていくためには政府に働きかけなければいけいこともたくさんありますので、そういうアンケートを基にしたデータを活用して政策提言をしている団体です。

 一番は、教職員のエンパワーメントが大事だと思っていて、自分の職場をまずは変えていく。半径1mの社会を変えていく。その半径1mがどんどん広がっていく中で、社会全体が変わっていく、ということを目指しています。

 私たちがこの助成事業で目指している最終目的として、すべての子どもが日々安心して幸せに学校に通い、必要なケア・支援を受けて楽しく学ぶことができる学校教育の実現と、多様な子どもたちがそれぞれに自分らしく混ざり合って学び育つことができる学校環境をつくることを目指しております。

 そのために、インクルーシブ教育を推進する当事者や支援者団体と教職員団体がネットワークを構築することを目指しております。そのネットワークの構築ができた先で、一緒に共同提言書を作成し、それを基にロビング活動をして、政策変更につなげていきたいと思っております。

 “インクルーシブ”をちょっと解説しますと、「多様な子どもたちがいることを前提として、その多様な子どもたち、排除されやすい子どもたちの『教育を受ける権利』を地域の学校で保障していくために、教育そのものを改革していくプロセス」というふうに私たちは認識しております。なので、インクルーシブとよく言われがちなのが“障害”の部分での使われ方なのですが、すべての子どもたちを対象にしています。障害だったり、LGBTQであったり、外国ルーツ、虐待、貧困、社会的養護とか、多様な背景を持つ子どもたちが安心して包摂され、マイノリティの子どもが抱える困難に対して権利が擁護される手段としてインクルージョンというものがあると認識しております。

 とはいえ、学校現場はとてもゆとりがなくて、先生たちのマンパワーだけでこういうことをさせてもいいのかという問題が起こっております。子どもの権利条約では、子どもを取り巻く大人の環境を整えるということもきちんと定められており、そういうことを含めた上での大人の協力体制のためのネットワーク構築を目指しております。さらにいうと、多様な当事者と支援者団体と教職員団体が同じビジョンを持ちながら、課題を共有して乗り越えていくことが、この事業の核であると思っております。

 成果のイメージとしては、インクルーシブ教育が、学校で推進される為のプラットフォームが作られるということと、その共同提言をもって具体化・見える化されることです。そして、課題別の政策に対してのアプローチがされ、そういうことが必要だという機運が高まるということと、具体的な整備です。先ほども言ったように、先生たちのマンパワーだけではやっていけませんので、少人数学級の推進であったり、スクールソーシャルワーカーの増員だったり、そういう機運が高まるということを目指してやっていきたいと思っております。

 

子どもそれぞれの困りに応じた合理性のある配慮をきちんと提供するインクルーシブ教育

ふくおか摂食障害ともの会・江上彩音さん) 私も身の回りに教員関係者が多く、現場の先生たちに余裕がない現状は問題だと感じています。そうした中で、教職員のエンパワーメントということで、先生たち自身が立ち上がり、こういう活動されていることが素晴らしいと感じました。現場だけでは限界がある中で、政策提言に向けたロビイングにもチャレンジされるものと受け止めました。

学校など教育現場におけるインクルーシブ教育の浸透度は、どういった状況なのでしょうか?

Kaida SJF

 

 

 

 

小谷さん) インクルーシブ教育は、合理的配慮、それぞれの困りに応じた合理性のある配慮をきちんと提供しましょうということです。見える景色が同じになるような配慮をきちんとしましょうということですね。それは、国際条約や法律の中で決められてはいるんですけれども、うまく浸透していない現実があります。

 私はソーシャルワーカーなんです。学校の現場で子どもたちの困りに応じて関わっていくソーシャルワーカーで、先生たちとお話ししている中で、合理的配慮を求めなければいけない背景があるけれどもマンパワーではどうしても難しいということで、先生たちを応援するためにこういうことをしています。

 そういう中で見ても、一部の先生、本当にスーパー教員みたいな先生たちはインクルーシブに多様な子どもたちをどういうふうに包摂していったらいいかを今の条件の中でもよく考えて頑張ってくださっているけれども、それは一部のすごくできる先生たちのものでしかなくて、それをどういうふうに広げていこうかと言った時には、まだ全然広がりが見えていない状況もあります。

 法律的な整備はとても整ってきているんです。日本の児童虐待のことに関しても、例えば今までだったらお父さんが子どもを叩きましたという話があったとしても「お父さん、ちょっと大概にしといてよ」と言えていた学校現場だったけれども、子どもの権利擁護の視点からいろいろな法律が整備された。それは子どもの権利の視点からは大切なこと。でも、その法律を守るための人の整備が全然されていない状態で、今までの仕事にプラスして現場の先生たちがやらなきゃいけない。現場の先生たちの人員が増えているわけではないし、専門職が増えているわけではないので、法整備がされてても、物理的にインクルーシブな環境をつくりたくてもやれない現実が一方ではあります。

江上さん) 学校の先生はもちろん、小谷さんのようにソーシャルワーカーさんなども含めて、一緒に活動されているということですね。

小谷さん) はい、そうです。でも、ほとんどが学校の先生です。

江上さん) 現状としては、インクルーシブ教育への対応は、その先生の力量次第という面が大きいということですね。

小谷さん) そうですね。

江上さん) 学校にインクルーシブ教育を広めていく上では、色々なボトルネックがありそうですが、施策としてどういうところから着手するのが効果的という想定は、現時点であるのでしょうか?

 

多様な家族がいることが認知されていない学校の現実

小谷さん) まず、学校現場自体が、多様な子どもたちが来ることが想定された制度設計になっていないことは、とっても問題だと思います。

 今でこそ学校にエレベーターをつけましょうという話があって、そういうところからなのですけれども、浸透はしてきているんですが、すべての場所がバリアフリーになっているかというと、そうでもないですね。エレベーターだけついているけれども、歩いていける子どもたちはダイレクトに行けるのが、歩いて行けずエレベーターがないと行けない子どもたちは遠回りをして目的の場所に行かなきゃいけない。

 発達障害や身体障害のあるお子さんに対しての学校の教育環境がどうなっているか、教室環境がどうなっているかと考えた時に、そういうものがそもそも想定されていない。先ほどから家族の多様性が話題になっていますが、精神疾患のある親とか、そういうご家族がいるということが、学校の中できちんと認知をされていない現実があると思っております。

 そういうことから、まずは多様な子どもたちがいて、社会というのは本当に多様な人たちで構成されていて、その“多様”と私たちが言っていることは、子どもとそのご家族にとっては普通なことであるという認識をまず社会全体で持つ。そして、それが制度に反映されるということを強く伝えていく必要はあると思っています。

江上さん) 本質であり、一番難しいところでもありそうですね。

 制度の見直しの後押しとなる認知を広めていく手段は、どういうイメージでしょうか?

 

子どもの最善の利益のために 多様な当事者・支援団体・学校教員などが対立ではなく対話をもって政策提言へ

小谷さん) 私たちは、多様な当事者や支援者団体とプラットフォームを作ろうとしています。障害の当事者団体や、性的なマイノリティの方の当事者団体や支援者団体、外国籍の子どもや貧困や虐待などに関わる当事者団体と、学校教員が対話をしながら、そういうプラットフォームの場を作ることが一つ大きな鼎になっている事業です。そういうプラットフォームの場でお互いの意見を知って聞き合う中で、社会全体の中でどういう政策提言であればすべての子どもが包摂されるかということを一緒に考えていくことで、よりよい提言につながっていくのではないかと思います。

 それを制作していく過程で培われたものを書籍にしたりして、広く社会に発信して普及していくような活動につなげられればなと思っております。

江上さん) そのプラットフォームはすごく大事ですね。中間支援的な機能と言いますか、学校は学校、団体は団体で、それぞれの守備範囲を持って活動している中で、それぞれが飛び出るのは負荷がかかることで難しいと思うので、そこをつなぐプラットフォームがあることは大事なことだなと伺いました。

小谷さん) さっきCoCoTELIさんが親と子どもの対立を乗り越えるというお話をされていて、私たちも学校と当事者団体というはどうしても対立構造になりやすいけど、そこは、対立していても何も変わらなくて負担感だけお互いが負うことになる。対立ではなくて対話。子どもの権利を守るためのインクルージョンなので、子どもの最善の利益のためにはどうしたらいいかということを対話を持ってみんなで考えていければいいなと思っています。

江上さん) お互いの会の目的を越えて、子どもの権利を守ろうという理念を共有するのが大事だというお話、おっしゃる通りだと思います。

 

 

――全体対話――

参加者) 最近、「会食恐怖症」という言葉を耳にします。摂食障害と重なる部分もあるのでしょうか。あと、サポート面などもあったら教えて頂ければと思います。

ふくおか摂食障害ともの会・江上彩音さん) 会食恐怖症も最近、知られてきた言葉かと思います。摂食障害の当事者との重なりはあまり聞いたことがなく、私自身も会食恐怖症について詳しく知らない状況です。

 食べるのが怖いとか、食事がうまく摂れないという部分は共通点があると思いますし、その背景にある心の問題として、不安になりやすいとか心配性であるとか、他人に気を遣いすぎるなど、共通点はあると思います。会食恐怖症はどちらかというと対人不安が大きいのかなと思いますが、摂食障害は自己評価の低さなどが根底にあり、共通点もある一方、違いもあると思います。

 会食恐怖症へのサポートはおそらく、医療やカウンセリングかと思います。会食恐怖症の当事者団体が今あるのかは把握しきれていませんが、今後そういうサポートも充実するといいなと思いました。

土屋真美子さん・SJF運営委員=総合司会) はい、ありがとうございます。改めまして、この人にこれ聞いてみたいとかあったらぜひお願いします。今回すごく共通項がたくさんあるなと思ったので、よかったらぜひどうぞ。

 

School Voice Project 小谷綾子さん) 私、学校の中で子どもの相談を受けたり、学校外の機関で子どもの相談受けたり、親の相談を受けている中で、摂食障害の話を見聞きすることがとってもたくさんあるのです。ご本人さんが認め難くて、親としては摂食障害じゃないかと思っている中で、でもご本人がそこをなかなか受け入れ難い時に、当事者としてはどういうふうに支えてもらえたら嬉しいか、どういう声をかけて家族の方と向き合っていけばいいかというところを教えていただけると参考になります。

江上さん) 今、学校でも摂食障害への対応が増えていると聞きます。なかなか病気を認めたくない段階での向き合い方は、本当に難しいと思います。

 本人としては、自分の中の欠落を埋めてくれるのが摂食障害であり、支えになっているものだと思うので、それを取り上げられると感じるのが、一番の脅威だと思います。まずは現状を受け止めてあげる。周りから見ると、食べればいい・食べなければいいという、それだけだと思いますが、周りも焦らずに気長に見てあげる。回復には本人の力が必要で、周りがどんなに言っても聞かない、意志が強い頑固な人が多いと思うので、本人がどうにかしたいと思うまで周りは気長に見守って受け入れることが、本人にとっては一番ありがたいという気がします。

小谷さん) 先程の発表の中で、福岡県でまずは活動するけれども、全国にそういうノウハウが広がっていけばとおっしゃっていて、学校現場で多くはないけれども必ず摂食障害の子と出会うことがあるので、小学校の高学年から中学校にかけては絶対に出てくるので、ノウハウがこのような形で作られればいいなと思って聞かせていただきました。

江上さん) 私たちはどちらかというと出口対策と言いますか、既に病気になった人のサポートという立ち位置ですが、入り口としては子ども時代の教育なども大切だと思います。ビルコンさんが「人生の自己決定をしていく力」とおっしゃっていたことも、すごく大事だなとお伺いしました。本質的な部分に皆さんが取り組まれているのが、ありがたいことだとお聞きしました。

 

ビジネスの仕組みに落とし込めない課題の解決に市民活動ならではの役割を発揮

土屋さん) はい、ありがとうございます、

 先程すごく面白いなと思ったのは、平井さんがちらっと言った、クラウドファンディングをやる時は対立の構造を作った方がお金集めやすいことです。これは、マーケティングなんかだとこういうふうにやるだろうと思っていたけど、市民活動でそれをやるのはあり得ないのですが、お金の集めやすさを考えると、そういうこともあるのかと話を聞いてちょっと思いました。その辺り、平井さんどうですか?

CoCoTELI・平井登威さん) 最近、ソーシャルビジネスがある会社に新卒で就職したいと目指す人が僕たちの同世代でも増えていると思います。ビジネスという形で解決していくことによって、前進する面もありつつ、過度にビジネス化することによる弊害はかなりあるのかなと思っています。現状のビジネスの仕組みの中に落とし込めない課題もあると思うので、そこのバランスをしっかり取っていく必要があると思います。スケールなどを考えると、NPOみたいな市民活動だからこそできる役割もあると思うので、そっちの方向でチャレンジしていきたいなと強く思っています。

土屋さん) 持続可能性というと、やっぱりお金を集めなきゃいけないという話が必ず出てくるけど、どうバランスをとるかはすごく難しい話だと思います。皆さんその辺でご苦労されていることはありますか?

ピルコン・染矢明日香さん) お話を聞く限り、私は苦労ばっかりだなと思いつつ。でも、もともとお金というところが自分の働くモチベーションにあまりならなかったからソーシャルビジネスをしているというところもあって、自分の中のバランス感が難しいなと思うところではありますね。規模だけ増やしてこの時期やりますと言ったとしても、それをやりきれなかったらどうしようという不安も正直あったりして、そこの現実的なラインを広げていく、でもチャレンジもしていくところで、うまくバランスを取りたいなと思いながら、でも大変だなと思いながらやっています。

#YourChoiceProject・川崎莉音さん) 私たちは学生主体の活動なので、まだ誰もお給料をもらって活動している人がいなくて、それで成り立つところもあれば、メンタリングコミュニティはそれでやってるとメンバーの数がすごく足りないのでクラファンして時給をメンターに関しては出しています。

 でもお金を生み出せるビジネスを作ろうと思えば、私たちが取り組んでいるいろいろな課題の中で一部を取り上げてビジネスにすることは頑張ればできるのかなと思ってはいるけど、そこに時間を使うことが課題解決に向けて最短経路かというと、そうじゃないなあと思っています。自分の時間をどこに使うのかを考えた時に、すごい難しいなあと思って今も悩んでるところで、ぜひ先輩方の話を聞きたいです。

 

小さくても自分たちがやってきたことが制度設計に反映された実感を持てると活動にコミットしやすく

土屋さん) なるほど。でも、さっき平井さんも言ってたように、川崎さんと平井さんの世代はソーシャルビジネスに就職する人ももう出てきてるんですよね。

平井さん) SDGsという言葉を聞くことも増えて、その次の問題は、本質的なのか・本質的じゃないのかというところで、質の話にもなってくるのかと思ったりはするけど、関心を持つ子たちはすごく増えてるとは思います。ただ、そういう関心を持ってる人たちと真逆に行く人たちも、どの世代でもそうだと思うけど、結構多いと感じていて、僕の周りでは、二極化してる感はすごくあると感じています。もちろん真ん中の層にもたくさんいるとは思うんですけど。

川崎さん) 課題を自分が解決できるという効力感はどんどん下がってみたいなのがあって、関心は高まっているけれども自分がそれに対して何かできるか分からないみたいな、そういうところで二極化が発生しているのかなと思って。難しい世代。

ふぁみいろネットワーク・綾原みなとさん) 川崎さんもメンタリングの方に時給を出すとおっしゃっていて、平井さんたちのプロジェクトでもピアサポーターを養成されていて、メンタリングにしろ、精神疾患の親御さんを持つ子どもさんのピアサポートにしろ、ものすごく自分の中のエネルギーを使わないと活動できない部分があると思います。ピアサポーターを大切に守っていかないとバーンアウトされてしまう。そのとき、時給1,000円があれば頑張れるのか、時給じゃなく別の何かがあるとピアが燃え尽きないように活動していけるか、それぞれの団体で何か工夫されていることがあったら教えください。

小谷さん) 私たちは現職の先生がとても多く、現職の仕事を抱えながらいろいろな活動に参加しているのです。もちろん給与が発生しているスタッフと発生してないスタッフがいるけれども、自分たちの声で社会は変えていけるという実感をどう持つかがすごく大事になってくると思っています。実際、私たちがロビングした中にこんなことがありました。

 産休・育休の教職員は、今までは産休になった時点から代替の講師の人が来るという形をとっていたんですが、それだと例えば1学期を終えて夏休みから産休に入ると2学期から講師が見つからない、ということになっていた。そうすると学校の人が少ない中で、更に休む間、誰かを当てがわなきゃいけなくなる。子どもと先生のどちらにとってもマイナス要素しかなかったのですが、この4月からは、年度当初から代替教員が入ってもらえるような制度に変わったんです。これは、世の中にはあまり知られていないですけれども、先生業界の中ではとても画期的なことでした。

 私たちの団体だけの成果ではないですが、そういうふうに自分たちがやってきたものが小さくても制度設計に反映されたという実感を先生たちが持つことで、より活動にコミットしやすくなると思ってました。そこにすごく注意を払って活動しています。

 ※注:9月以降に産休になった場合の運用は、従来通りです。

江上さん) お金やモチベーションの面で、団体の活動をいかに持続可能にしていくかという論点で議論が進んでいると思います。私たちの団体は始まってまだ一年なので、今はすごく勢いがあります。新しいことを始める時はワクワクするし、みんなで頑張ろうと盛り上がっています。それが3年・4年と続けた時に、お金やモチベーションの問題は出てくると思います。

 今の段階で私たちが大事にしていることは、どういう動機でやっているかです。私たちの団体は、営利目的のビジネスでもなければ、公益を追求するべきNPOでもなく、あくまでもボランタリーな任意団体です。誰かのためと自己犠牲を伴うのではなく、まずは自分たちがやっていて楽しい気持ちを大切にしています。

 それが、事業が増えた時に、例えばピアサポーター事業は人のためを意識してお金を頂くとか、その事業毎にどんな動機でやってるかを、きちんと確認していくのが大事かなと考えています。

 言うは易しですが、長く続けておられる団体さんはどういう工夫をされているのか、私も教えを乞いたいです。

染矢さん) 私の団体は2013年に設立して10年ちょっと経ったけれども、立ち上げ当初からやり方も試行錯誤してきました。

 今、ボランティアとして登録いただいている方が50名ほどいらっしゃいます。一緒に講演に行ったり、いろんな発信を作ったりしてるけど、心掛けてることとして、リーダー的に主体性を持って推進してくれてる方には一定の謝礼をお支払いしています。あと、運営するメンバー同士での振り返りやメンタリングを推奨しています。というのは私一人だと追いつかないというのが本音のところで、先輩と後輩みたいな感じのペアを作ってもらって、それぞれどういう思いを持って参加しているかを3カ月に1回とか話してもらっています。その話すための費用の補助を団体側がサポートしています。そのようにして所属意識を持ってもらったり、何のためにここに入っているかの共有をメンバー同士でもしていただくと、コミュニティとしてのつながりも深くなると思います。

 情報共有も、誰か一人からの発信となると偏ってしまうので、そこをあえて他のメンバーに「ちょっと、この連絡を全体にお願いします」というふうに割り振って、自分自身がこの団体を動かしてるという意識を持っていただきながらやっていくのも工夫の一つと思っています。

土屋さん) やはり長くなるといろんな工夫が出てきて、10年経つと試行錯誤された結果が実ってくる感じがしますね。

 

参加者) ちょっと話題がそれるかもしれませんが、昨年、新聞で、「東京都が凍結卵子使用の生殖医療助成」という記事を見ました。助成がここまで来たかと驚きました。ただし、これもいろんな制約があるようで、希望する方々にとって悩ましいんではないかなと思いました。この事業について綾原さんの活動と関連してどのように思われますか? どんな事業でも助成対象に近いのに、該当に当たらない方が生じてしまうのは悩ましいです。

綾原さん) 東京都の卵子凍結助成は今すごく注目を浴びていて、たくさんの方が説明会に殺到したと伺っています。

 この卵子凍結も含めて、生殖医療技術との関係は誰にとっても他人事ではなく、とても身近なところにあると思います。女性のライフステージの中で、自分はどうするか、自分の娘はどうするか、付き合っている彼女さんとどうするか。本当に誰一人、無関係ではいられないところまで生殖技術が来ているという感想を抱いています。卵子凍結助成のことは私たちの活動にとても近いところにある重要な問題になっています。ピルコンさんとも近いと思います。

 染矢さんたちの「人生の自己決定」のように、どのタイミングで妊娠・出産をするかというのが、この卵子凍結も含めて、女性が自己決定するコントロールの幅が増えてきているというのは評価すべきことと思います。と同時に、子どもを持つこと以外にも、例えば女性も家庭の外で働いて家計を担うとか、高等教育を受けて専門的に活躍するとか、社会で奨励されるさまざまな価値観があり、社会がたくさんの縛りを女性に課していることは問題です。

 この卵子を凍結するというのは、多量の薬を使ったのちに採卵の針を刺すという侵襲性があり、楽な医療ではないです。女性の人生に関するさまざまな社会課題が、女性の身体に針を刺して解決するみたいな方向に向かっていることについては、もう一度みんなで議論できるといいなと思っているところです。

「当事者を分断しないでほしい」という私たちの願いからいきますと、自分がせっかく針を刺して独身時代に凍結した卵子も、婚姻か事実婚の男性パートナーがいないと使用できないという、よく分からない制度になっています。子どもには男性と女性という両性の親が必要という理屈のようですが、それでいいんですかというところも含めて、技術を誰が使っていいのか自体についても、これは政治家の先生だけに任せていていいものではないですので、本当に身近な問題として豊かな対話ができるといいなと思っております。

 

自己決定において他者をどれだけ尊重しあえるか

土屋さん) 「当事者を分断しないでほしい」って、制度があるがために分断されてしまうというのも、すごく変な話ですよね。その制度を誰が決めるのかというのもそうだし、しかも生殖補助医療関連法案だけでは決まらないところが驚きで、同性婚ができるかなど別の法律も関係してくるから、どこにロビングするにしても複雑な状況にあると感じます。

 せっかく制度ができたのに結果的に分断されてしまうことは結構あるし、それが対立を生じさせることもあって、今日の話では、できるだけ「対立しない方向で」という話も出てきましたね。あと、「多様性は癒しだ」とも仰っていましたね。「多様性がすごくあって、なおかつ、それをみんなで認め合って、しかも、自分たちで自己決定できて、その自己決定を他から迫られないという社会をつくっていきたい」というのが今日の皆さんの共通項かなと思いました。

綾原さん) その自己決定をする時に、例えば代理懐胎をしたいという自己決定をすると、そこには波及的にいろいろなことが含まれてきてしまうので、「自己決定だけれども他者をどれだけ尊重できるか」という認識が、みんなの中で浸透して保障された上での自己決定になるといいと思います。難しいし、多様性に寛容でありたいと言うと、「何でもありなの?」みたいな感じで言われてしまうけれども、「何でもでもあり」の土台にきちんと人権感覚があったうえで、お互いの尊厳を守っていきたいと思います。

 いろんなプロジェクトで助成申請が採択された6事業ですけど、お互いにすごくヒントがあって、今日はこれを持ち帰って考えてみたい会になっています。

 

土屋さん) ちょうど今、綾原さんがまとめてくださって、そろそろ時間も迫りましたので、プレゼンターの方々に一言ずつお願いできればと思います。

川崎さん) 普段あまり他の団体の話を聞く機会がないので、私たちの活動と近い活動だけでなく普段だったら関わることがないような団体もあったので、いろいろな活動の内容とか、活動する中での悩みとか、その解決方法とかが知れたので、自分たちのこれからの活動のヒントがたくさんあった会だったと思います。今日聞いた話を持ち帰って活かせたらいいなと思っています。ありがとうございました。

平井さん) 僕自身もいろいろ考えることがあって、今まで触れたことがなかったような考えたこともなかったようなプロジェクトの方もいて、自分の視野がすごく広がったのがまず一点。あと、自分自身が皆さんと話させていただく中で、対立構造をつくらないということを改めて大事にしていきたいなと思っていました。

 さっきの話で僕も話したかったところがあって――。対価性をつけることによる弊害もあるのかなと、今、ピアサポート養成講座をやっていて思っています。お金をもらえるための手段だけになってしまう可能性がある。本来であれば、別の目的であるはずなのに、そこの目的と手段がどんどんずれていくことはあるだろうと思っています。対価としてはお金ではない対価もあると思っていて、もちろん“やりがい搾取”と紙一重だとは思うけど、そこについても僕たちも改めて考えていきたいと話を聞きながら思ってました。ありがとうございました。

土屋さん) 目的と手段を混合してしまう失敗事例はありますから、先輩に聞けばいっぱい出てくると思うので、ぜひ聞いてみてください。ありがとうございました。

 

子どもの時から自己決定が育まれる原体験は民主的な社会をつくるために大事

小谷さん) 私たちは、子どもの時からの教育に携わっているけど、皆さんのお話の中でどの団体さんも「自己決定」や「対話」をとても大事にされているなと思いました。そういうことができることがベースで、人権を尊重してお互いの尊厳を守り合えるんだなと思うと、まず教育の中で自己決定ができるような子どもをどう育てていくかは、民主的な社会を作るために大事だなと考えさせられました。そのためには先生たちも安全な場で働けることが必要で、先生たちが安心して子どもたちと向き合えるからこそ、子どもたちも安心して大人と関係を作って対話ができて、そういう経験が大人になった時に自分の子どもに活かされるサイクルができる。子どもが学校で安心して過ごすための、子どもの権利が守られるための学校をどのように作っていくかを模索しながらこの事業を運営していければなと思いました。ありがとうございました。

江上さん) 私もこういう場でお話しするのが初めてでしたが、社会問題の解決のために活動されている方がこんなにもいることに、ワクワクするような感覚を覚えました。

 摂食障害は“炭鉱のカナリア”とも言われ、文明化とともに患者数が多くなるといわれています。感受性が強い人ほど、社会から敏感に影響を受けてしまう。女性はこうあらねばならぬといった期待など、社会からのメッセージが当事者に影響している部分は大きいと思います。

 社会の問題として捉えたとき、分野は多岐にわたりますが、今日、ジェンダーや教育など、色々なテーマに取り組む仲間がいることが知れたことがよかったと思います。

 対立構造を生み出さないというところも、このソーシャル・ジャスティスのすごく重要なテーマでもあると思います。みんなで社会をよくしていくことを、改めて胸に刻むことができました。ありがとうございます。

染矢さん) 啓発やアドボカシーは私たちに収入がないので、本当に助成いただいたことをありがたく思います。

 こういった形で、それぞれの社会課題の第一線で活躍される他の分野の方々と交流して意見交換できたのは、私にとっても非常に良い経験になりました。他の分野と言いつつも、実は結構つながっているところとか、問題意識として共感し合えるところを見つけることができて嬉しかったです。

「自己決定」がキーワードとして聞かれたと思いますし、「人権」もすごく関わっていると思うけど、まずそれを行使していくためには知ることも非常に大切で、知識が全くない中で選び取るのは難しいので、情報をどんなふうに届けていくのか、媒介して伝えていくのかも一つこれから考えていかないといけないと思っています。

 私たちはいろんな大人にも伝えていくのが大切だと言いつつも、関心がある層にしか届かないという課題があると思いますので、ぜひみなさんとも協力し合いながら一緒に課題を広めていき仲間をつくっていくことが今後もできたらなと思います。ありがとうございました。

土屋さん) ありがとうございます。ここで協力関係ができたら本当にいいなと思います。

 

子どもたちが多様な自分が学校でも守られている感覚を味わえたら、次に自分と異質な他者に出会った時もその人を守れるようになる良い循環を生むのでは

綾原さん) 今日、みなさんとご一緒できて本当に嬉しかったです。それぞれのプロジェクトの話を聞きながら、コラボしたいところがたくさんあって、図々しいので一緒にやりましょうと未だ言えないけど、例えばSchool Voice Projectだったら、学校での多様な家族について一緒に考えてみたいです。精子提供や卵子提供で生まれたことを子どもに伝える時に、それが家の外でどういう効果を持ってしまうか、たとえば学校でその話をしてイジメにあったりしないかを、親御さんたちはみんな本当に気にしています。子どもが多様な自分が学校で守られていく感覚を味わえたら、その子自身が次に自分と違う人に出会った時にその人を守っていけるようになると思うし、何か良い循環を学校生活の中で味わってもらえるといいなと思ったりします。

 それぞれにラブレターを送りたい位で、色々と響き合う部分があったので、このような対話の場を作ってくださって、本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。

 

上村英明さん) ソーシャル・ジャスティス基金というのは単に助成をするだけではなくて、大きな波にしたいと思っていますので、皆さん一人ひとりの夢はとても大事ですけど、みんなの夢を見ると、もっと大きな波になるかなと思っていますので、いろんな形で末永くこの基金にもお付き合いいただければ大変ありがたいと思います。

 

 

――閉会挨拶――

佐々木貴子さん・SJF運営委員) 私もワクワクしながら聴いておりました。そして改めて、対話の重要さを教えていただいたと思っています。私たちソーシャル・ジャスティス基金というのは、皆さんがおっしゃるように、個人が抱えていた課題を可視化し顕在化させながら社会化する。そのために社会的な合意をどういうふうにとっていったらいいのかを追究しています。私個人なんかは、どうしても相手を非難して対立するようなことに走りやすいのです。でも、こういう若い方たちが対話の重要性——社会的合意——を見つけようとしっかり意識しながら進めておられる。助成先同士がこんなに和気あいあいと聞きたいことを聞き合うような対話が成立していて、すごく嬉しいです。

 これから皆さんがソーシャル・ジャスティス基金とのアドボカシーカフェなどを通して、もっとたくさんの方たちに対話を広げて、そして本当に必要な活動や仕組みが広がることを心から願っております。ありがとうございました。   ■

 

 

 

次回のSJF企画ご案内★参加者募集★

ソーシャル・ジャスティス 連携ダイアローグ2024.Spring

【日時】2024年3月1日(金)13:30~16:00

【会場】オンライン開催

詳細・お申込みこちらから   

 

 

 

*** 今回2024年1月19日の企画ご案内はこちら(ご参考)***

 

 

 

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