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ソーシャル・ジャスティス 連携ダイアローグ2024.Spring 報告

      

 ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、公募第11回による助成先の方々(デートDV防止全国ネットワーク理事・高島菜芭さん、ソウレッジ副代表・鈴木莉帆さん、NewScene副代表・福田和子さん、にじいろCANVAS役員・松井しおりさん、パリテ・アカデミー シニアトレーナー・町田彩夏さん、明日少女隊発起人・尾崎翠さん、ふぇみ・ゼミ&カフェ運営委員・飯野由里子さん、DPI女性障害者ネットワーク・平野みどりさん、レインボーコミュニティcoLLabo代表理事・鳩貝啓美さん)を迎え、パネル対話等を行う連携ダイアローグ2024.Springを2024年3月1日に開催しました。

 

 ジェンダー平等にさまざまな切り口から取り組む活動の連携を促進するには、という問いかけからパネル対話が始まりました。自分事として社会問題の解決に参加していく人を増やしたいという悩みも相談されました。

 障害を持つことによって、女性を抑圧してきた価値観を解決するモチベーションを新たに持てた経験が平野みどりさんから語られました。障害と女性が掛け合わされた差別に限らず、差別の背景には複数のマイノリティ性が複雑に絡み合っているというインターセクショナルな視点で、連携して複合差別の解決に取り組む重要性が共有されました。

 世界的に分断の危険が高まり、公正な社会づくりへのバックラッシュが強まる中でも、活動を持続可能にしていく知恵が出し合われました。怒りやネガティブな感情を見せないことがスマートだとされる風潮があるが、それ自体が抑圧であり、お互いに怒りを共有しあえる関係性を作っていくことも大事だと提起されました。権力者に成果だけを持っていかれないよう、弱い立場に置かれた人たちが自分の手でよりよい社会をつくってきた現場の事実を記録することはバーンアウトを防ぐために大切だという提案もありました。

 さらに、社会的に不利な立場に置かれている人ほど「休息する権利」が奪われていることが指摘されました。公正な社会づくりに貢献する活動に理解のあるカウンセリングが受けられる場や、メンタルヘルスを保てるセルフケアの啓発、労災保険やリフレッシュ休暇に相当する制度のある協同組合など、活動をする人自体を支えるネットワークづくりの提案が相次ぎました。SJFはこういった活動が発展的に持続するように使いやすいお金を回す仕組みの一つであり、活動の土台となるような仕組みが社会により拡充されることが望まれました。

 詳細は以下をご覧ください。 

Kaida SJF

 

――開会挨拶―― 

上村英明・SJF運営委員長)

 この基金は2011年に、公正な社会を実現するための市民活動にお金を回るようにしようということで設立されました。なぜ公正な社会の実現なのかと言いますと、残念ながらその反対の社会、つまり理不尽なことが横行する社会が我々の今住んでいる社会だからです。それが単に理不尽なだけじゃなくて、むしろ見えにくくなってしまっている。そうした社会を変えていきたいという思いで、こうした基金の活動をさせていただいています。

 我々SJFはさらに、こうした助成先の皆さんがいろんな形で連携をすることによって、社会を変える力が2倍に3倍になり、あるいは10倍になるということができないかと、こうした連携ダイアローグを始めさせていただいています。

 今日は第11期の公募による助成先の皆様にお集まりいただきまして、そのお話を伺いながら、この連携の発展がどういうふうに可能かということを皆さんで知恵を出しあっていただければ大変ありがたいと思います。

 

 

――11回助成事業の報告――

佐々木貴子・総合司会/SJF運営委員) 助成先の皆さんから、今取り組んでいらっしゃる問題の実態や、活動を通してさらに顕著になってきた課題、これからの展望などについてお話いただければと思います。成功事例だけではなく、失敗からの学びも一緒に共有できたらと思っておりますので、ぜひ忌憚のないところで活動のプレゼンをしていただきたいと思います。

 

NPO法人デートDV防止全国ネットワーク理事・高島菜芭さん

『デートDV防止から始めるジェンダー平等な社会づくり』 

 まず、私たちの課題意識として、交際するカップルのうち、3組に1組がデートDVを経験しているというデータが出ているほど、当事者が多い課題にもかかわらず、「デートDV」という言葉が社会に浸透していないということがあります。これまで私たちは、主に教育現場での啓発活動に注力してまいりましたが、今回助成いただいたことをきっかけに教育現場以外や、ユース向けの啓発にも取り組んでまいりました。

 まず一点目のテーマについては、デロイトトーマツ社をはじめ2社で企業向けの研修を実施させていただき、事後のアンケートで「企業内でのDV防止の取り組みが必要だ」という感想をいただいております。他にはLGBTコミュニティでも啓発を実施させていただき、当事者ならではの課題をヒアリングした上で啓発プログラムの開発を進めることができました。

 二点目のユース向けの啓発についてです。最終確定前ではあるけれども、「サチヨと恋バナ――あんたら、なかよくしいや!」というタイトルで、サチヨという52歳で大阪出身の人と一緒に楽しく恋バナをすることで、お互いの恋愛観が共有できるカードゲームを開発しております。

 ヒアリングやテストプレイを20回ほど重ね、出てきたユース世代のニーズとしては、「交際前のデートや合コンという出会いの場において、表面的な会話だけでなかなか距離が縮まらない」、「長期的な関係を見据えた、交際前に確認したいことがデートDVも含めいろいろあるけれども直接聞きづらい」といった悩みが見えてまいりました。また、「ゲームだと言い訳にして使いやすい」、「ファシリテーターがいると話しやすい」ということが見えて、そちらをベースにゲームを開発しております。

 交際前のデートや合コンなどで利用していただき、連絡頻度やスキンシップ、金銭感覚など、交際前に知りたいけれどもデートDVに発展してしまうリスクもあるテーマについて、サチヨと一緒に楽しく恋バナができます。具体なシチュエーションについて話し合っていく感じですけれども、内容に応じてレベル分けがされております。テストプレイの場は盛り上がりました。「個人で聞くのには勇気が必要だけれども、こういったゲームがあると聞きやすい」という感想をいただいております。

 今後の展望としては、一般のユース向け啓発では、合コンに使われるような居酒屋やバーといった出会いの場に置いていただくことを進めております。あと、我々の強みである全国各地の団体様との繋がりを活かして、教育現場向けにおいてもカードゲームを使ったワークショップの開発や、ファシリテーター育成講座を進めたいと思っております。

 誰もが対等で自分らしいリレーションシップを構築できる社会に向けて、今後も活動してまいりますので、どうぞよろしくお願い致します。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

一般社団法人ソウレッジ副代表 鈴木莉帆さん

『おひさまLINE

 私たちは「おひさまプロジェクト」という緊急避妊薬の無償提供のプロジェクトを行っていて、その一環として「おひさまLINE」という公式LINEを作って、性教育と福祉情報のアウトリーチや、調査を通じて政策提言につなげる活動を行っております。おひさまプロジェクトは医療機関との連携、支援団体との連携を行って、24歳までの若者に無償で避妊薬の情報を届ける事業となっております。

 どういう課題がこの取り組みの背景にあるか。一つは性教育の遅れがあって、正しい情報が行き届いていないということ。もう一つは、若年妊娠の当事者を攻めて、当事者だけが責任を負ってしまう構造があること。あとは、緊急避妊薬へのアクセスのハードルが高く、避妊をしたいというタイミングで手に入れることができない状況。これらの状況が「出産0日死」と呼ばれるような0歳0ヶ月0日の児童虐待死にもつながってしまっていて、これは若年妊婦の割合が非常に高いことに課題を感じております。

 これまで助成いただいて行ってきた内容として、まずは緊急避妊薬無償提供のための医療機関との連携の増加です。これは2病院から21病院に増加をさせることができました。SNSでの情報発信を通じて、LINEで流していた内容をLINE登録者だけではなくインスタグラムでも見られるようにしております。避妊薬の種類を増やすことや、受益者との交流会・調査は今まだ進行中です。

 また、自治体連携については、一つ東京都と良い事例ができたので、共有させていただきます。緊急避妊薬の無償提供が今年の4月から始まることになりました。これは、東京都のユースクリニックで、「わかさぽ」という名前ですけれども、緊急避妊薬が必要な状況になった若者に対しては、東京都の費用で緊急避妊薬代を負担してもらえる形になります。

 東京都でいい事例ができたけれども、一方で国での予算化・法制度化はまだまだ課題があると感じています。特に緊急避妊薬の無償化をしましょうと前面に押し出してアプローチをしてしまうと、性教育や避妊に関するイデオロギー化してしまっている部分に触れてしまうので、すぐ実現することが難しいと感じていて、ほかの「若年層の健康」や「プレコンセプションケア」という文脈で実現する必要があると感じています。

 避妊薬の種類の拡大にもアプローチはしているものの、コストの高さや、避妊薬市場の狭さから難しいところがあるので、新たに海外の視察事業なども始めて現在模索をしております。

 今後の展望としては、まずは緊急避妊薬の公費での無償化を東京都の事例や私たちの調査をもとに広げていくということと、おひさまLINEの事業も引き続き活用していければと思っております。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

一般社団法人NewScene副代表・福田和子さん

2023年統一地方選20代・30代女性立候補者等への質的調査の実施および若年女性等の立候補環境を改善するアドボカシー活動

 私たちの進めているFIFTYS PROJECTという政治分野のジェンダー不平等を解消する活動について報告をいたします。

 私たちの問題意識は、高齢男性に占められた地方議会にあります。20代・30代の女性の地方議員というのは1%未満で非常に少ないという現実があります。それでは公平な社会は訪れないので、ここを増やす活動をしているところです。2022年の夏に、「政治分野のジェンダー不平等、私たちの世代で解消を」と掲げ、活動を開始しました。

 「ジェンダー平等」と言ってもいろんな理解がありますが、私たちなりの定義としては、「性に基づく差別や搾取、抑圧がない状態」です。これは個人の問題ではなく政治的につくられた構造的な問題で、その構造を変えるための政治家を増やし、そういったことに声を上げる人々が連帯するコミュニティという形で進んでいけるようにプロジェクトを行っています。そのためにまずは20代・30代の女性、エックスジェンダー、ノンバイナリーの議員立候補者の方を増やしていきます。でもそれだけでは変わらないので、そういう人を支えたいという人たちをFIFTYS PROJECTコミュニティとして集めて、その人たちの中から未来の立候補者が出たらいいなと活動をしております。

 応援する立候補者の方は、次の四つの点に賛成していただける方、積極的に動かしたいと思っている方です。

  1. 選択的夫婦別姓・婚姻の平等(同性婚)の実現に賛成、推進する
  2. 包括的性教育の普及、緊急避妊薬アクセス改善に賛成、推進する
  3. トランスジェンダー差別に反対する
  4. 女性議員を増やすためのクオータ制などのアファーマティブアクション

Kaida SJF

 

 

 

 

 実際に去年の春、24名の議員がFIFTYS PROJECTを通して当選をしております。この24名の方から、出馬においてどんなハードルがありましたか?といった質的調査をさせていただきました。その中で一つ特徴的な結果として、「政治に女性の声を届けたい」という人が内閣府の調査などよりも非常に多く出ています。

 一方で、「要請を受けて」という人が非常に少なく、やはりサポートする人たちが必要だということが浮き彫りになりました。ですので、今後増やしていくためにも、フェミニズム運動自体を大きくしていかないと彼女たちが当選したり、実際に立候補したりするようにならないと感じています。

 それと同時に、より立候補しやすい制度を作っていくアドボカシー活動をやろうとする時も、受かった議員さんたちだけで変えられる部分ではないので、この後押しをする私たちの代のフェミニズム運動がもっと育たないと実質的に動かしていくのが難しいということが見えてきています。なので、今は「FIFTYS PROJECTゼミ」でジェンダー平等やどういう構造の問題があるのかを学んで、みんなで声を上げていける環境づくりをしています。この一通りの学びが3月に一度終わるので、そこからまたこのアドボカシーについても作戦を立てていきたいと思います。

 いま、参加者が350名程になっていて、最初はオンラインだけだったけれども、だんだん関西地域でも実際に集まる場を作りたいという声も出てきて、それを動かしてくれる方も出てきているので、今後のアドボカシーをしていく上でも、心強い仲間がどんどん増えてきています。それを一つのパワーに、今後進めていきたいと思っています。

 4月14日に、ちょうど地方統一選挙から1年というところで、どんな進捗があったのか、実際に集まって振り返るフェスも行うので、関心のある方はいらしてください。詳しくはFIFTYSのウェブサイトからご覧いただけます。そこでも、仲間のつながりをより強めて、今後につなげていきたいと思っています。マンスリーサポータも募集しておりますので、ウェブサイトをご覧いただけると幸いです。

 

にじいろCANVAS役員・松井しおりさん

『にじいろみやぎ相談会・セーフスペースにじいろみやぎ開催、セクシュアリティと就労調査』

 私たちは宮城県で性的マイノリティに関する活動をしています。いま、性的マイノリティ当事者やそのご家族などの身近な方を対象とした個別相談会である「にじいろみやぎ相談会」と居場所づくり事業である「セーフスペースにじいろみやぎ」というのを実施しております。また、東北地域における性的マイノリティの就労とキャリア支援に関するアンケート調査も実施し、現在、結果をまとめているところです。

 この相談会とセーフスペースの案内のカードは、仙台市内の市民センターや役場などに設置してもらっています。宮城県内では性的マイノリティ関連の団体やコミュニティが多くありませんので、別のコミュニティに行っても、どこかで見た顔ぶれということが多いです。でも、相談事業は月に1回または2回、居場所事業は2か月に1回ぐらいの頻度で定期的に開催しているのですが、「他の当事者に会ったことがない」とおっしゃる方が多いのです。どこのコミュニティにもつながっていない方が、まだこんなに地域にいるのかと思って、こういった活動の需要を感じているところです。

 また、学校から相談があったり、自治体から研修講師の依頼をいただいたりと、新たなつながりができてきたと感じています。継続して定期的に活動してきたから現れてきた成果ではないかと感じています。

 次に、課題についてです。一つは、相談者やセーフスペースの利用者が相談をして、その先にもっと専門的な対応を必要とした時に、安心してつながる先が地域にまだ少ないと感じています。今のところはまだ差し迫った事情がある人の事例はあまりないけれども、そういう事情がある方や具体的なアクションを必要としている方がいらっしゃった時に連携できる先がもっとあればいいなと思っています。

 もう一つは、相談に対応するスタッフの質の担保やスタッフ自身のケアです。相談員の中には、臨床心理士やソーシャルワーカーの資格を持った人もいるけれど、対人支援の専門的な訓練を受けている人ばかりではありません。相談員の質の担保という面では、定期的に事例検討会や研修を実施しているけれども、それぞれ仕事や家庭の事情がある中で、時間や労力の面での負担が大きく、そもそも誰かの悩みを受け止めるのは結構重たいことでもあるので、それを相談員同士でどういうふうにケアしていけるのかということに課題を感じています。

 継続することで成果が出ている部分もあるのですが、活動するメンバーも必ずしも常に万全の状態というわけではなく、いろんな事情で活動に参加することが難しい時期もあります。私自身もそうですけれども、こういう活動をしようとする人は、自分自身が結構生きづらさを感じているところからスタートしている人も多いと思います。そういう人が集まったグループで安定して事業を継続していくこと自体が難しいと感じていて、今日は他の登壇者の皆様にも、その辺りをどうなさっているのか伺ってみたいと思っています。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

一般社団法人パリテ・アカデミーシニアトレーナー・町田彩夏さん

『ジェンダーギャップ解消の担い手となる女性政治リーダー養成事業』

 私たちパリテ・アカデミーは2018年に団体を設立し、女性政治リーダーになりたい、政治家に立候補したい、そして、その立候補する女性たちを支えたいという方々に向けて、合宿や連続講座を主に東京、京都や神戸などで行ってまいりました。

 本助成事業では、『社会を変えよ! ソーシャル・アクション・リーダーがめざす世界』というタイトルのイベントを実施してまいりました。このイベントは、アメリカ合衆国の連邦議会下院議員、バーバラ・リーの社会正義を求める闘いを追ったドキュメンタリー、『権力を恐れず真実を』という映画の上映会を第一部とし、ソーシャル・アクションを起こしている方々、主に地方議会で政治家を務めた方々などお呼びしてパネルディスカッション形式でお話を聞きました。そして、映画の上映会とパネルディスカッション後に、参加者同士が小さなグループに分かれた上で、「自分自身が、どんな小さなことでもいいので、社会を変えた経験」を話すワークショップを行いました。

 東京都と仙台の二か所でこのイベントを開催し、それぞれ20名以上の方に参加していただきました。今までパリテ・アカデミーのイベントは首都圏を中心に行ってまいりましたので、仙台で実施したことで「何年もパリテ・アカデミーのイベントに参加したいと思っていたが、東京まで行くことが難しかったので諦めていた。仙台で実施していただいたので、ようやく参加できて嬉しい」というような声をいただきました。このことから、地方に自ら足を運ぶ大切さを感じました。一方で、当初イベントを予定していた金沢では集客等に課題があり、実施予定地を変更することになったので、パリテ・アカデミーのネットワークが現段階で無い地域で、どのようにその地域に入り込んでいくかが課題だと感じていました。

 もともとパリテ・アカデミーは政治家になりたいという意志を持つ女性に向けて講座を提供することが多かったのですが、政治家になりたいという明確な意志は現段階では持っていなくても、まずは社会を変えた経験を掘り起こし、ソーシャル・アクション・リーダーを養成していくことが、最終的に政治家を希望する女性たちを増やすことにつながるのではないかと感じました。

 今後は、ユースチームを作るなど、若い女性たちとのつながりを持って、すぐに立候補するわけではないが政治に広い意味で関わりたいと思っている女性たちに向けてアプローチしていきたいと考えています。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

明日少女隊発起人/アーティスト・尾崎翠さん

『明日少女隊 個展』

 私たちはフェミニスト・アーティストグループとして2015年から活動を続けている団体です。

 2023年の7月21日から8月6日まで、東京の北千住にあるギャラリーBUoYにて個展を開催しました。これは、過去8年間ほどの作品をほとんど展示した大掛かりな展覧会となりました。会場は大きな部屋と小さな部屋の2つで構成されていて、その間をつなぐ通路に私たちが作ったフェミニストグッズを売るショップを作りました。

 私たちは、主に日本のジェンダー問題についてのアート作品を作ってきており、デートDVについての作品や刑法性犯罪改正についての作品、慰安婦問題についての作品、トランスの権利についての作品など、さまざまな日本と東アジアが抱えるジェンダー問題について網羅的に取り扱っています。それを今回、ほとんど展示することができました。

 展覧会には想定を上回る372名が来場しました。この個展では、アメリカのニュージャージーシティーカレッジの教授であり美術史家の由本みどりさんをキュレーターにお招きしました。また、個展と同時にアートダイバー社から本も出版しました。東京芸術大学でのレクチャーを個展開催の直前にすることで、当初の目的だった、日本のクリエイティブ業界の若年層の女性を多く展覧会に招くことができました。また、国内外の複数のメディアからインタビューを受けることもできました。

 今回の個展がきっかけで、今年、アメリカの東海岸にある3つの大学での個展とレクチャーが決まりました。また、それらは東海岸でのツアーであるため、慰安婦像があるニュージャージーのフォートリー市を訪れてパフォーマンスをする予定です。今年の11月ぐらいに開催する予定で、ファンドレイジングを始めるところです。

 個展にはいろんな国の方々がいらして、フランスのジャーナリストが個展にいらした時に慰安婦問題についての取材もされて、その記事がフランスの雑誌や学術誌に掲載されました。

 一つ残念だったこととして、当初の予定では日本国内の地方のギャラリーでも巡回展をしたいと思っていて、いろいろコンタクトしてみたけれども国内からは声が掛からず、むしろ外国のギャラリーから声が掛かったことは、まだまだ頑張らないといけないと痛感しているところです。

 個展では、ジェンダーギャップ指数のパフォーマンスの場も設けました。

 実は、個展の開催中に、私たちの仲間であった水井真紀さんが亡くなられてしまって、急遽、追悼イベントを個展内で開催し、水井真紀さんの映画を観る会も行いました。

 この後のパネルディスカッションも楽しみにしています。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェ運営委員 飯野由里子さん

U30ジェンダー/フェミニズム視点を醸成する若年向けワークショップ

 私たちの団体はジェンダーだけでなくエスニシティやセクシュアリティ、障害、貧困など、さまざまな違いに基づく差別に同時に目を向ける「インターセクショナリティ」の視点を踏まえたフェミニズムを重視して活動を展開しています。毎年たくさんの講座を企画・提供しているということでも知られるようになっています。本日時点で、今年度は全講座数が95、延べ参加者数が4696でした。この後まだ3月の講座がありますし、国際シンポジウムも企画しているので、まだまだたくさんの方々にお会いできると思っています。

 今回ソーシャル・ジャスティス基金の助成をいただいたのは、こうした様々ある講座のうちの一つであるU30という講座になります。このU30という講座は、その他たくさんある講座とどこが違うのかと言いますと、一つ目は、18歳から30歳までを対象とした講座であるということです。つまり、若者向けに限定した講座になっています。もう一つの特徴としては、同じメンバーが1年間を通して、毎月1回の頻度で集うところにあります。こうしたつながりを作り出すことで、インターセクショナリティを踏まえたフェミニズムの視点を身につけていくことを目的としています。そして3つ目、これもかなり重要で、講座の運営自体も若者、学生アルバイトが中心となってやっています。学生スタッフは有償アルバイトですので、アルバイト料を支払っています。

 このような形で、参加者も運営側も若者中心になっていて、そうした若者たちが緩やかなつながりを作り出して、そこから新しい活動が芽生えていくことを期待しています。ちなみに、今年度の学生スタッフは10名ほどでした。このような特徴を持ったU30という講座ですが、今年度は、9月のフィールドワークを入れると全9回開催し、31名の参加者が集まりました。

 ふぇみ・ゼミのU30の特徴、面白さは単に講座にあるわけではなく、講座を軸にしながらいろいろな活動を組み合わせて行っているところにあります。例えば、今年度は学生スタッフが一生懸命頑張ってくれて、講師の協力も得ながらPR動画を作成しました。オンラインには、フェミニズムのコンテンツが非常に少ないので、オンラインのコンテンツを増やしていく取り組みの一環として作っていただきました。実際にお会いして野外で撮るといったことも何人かの講師にしていただきましたし、ちょっとお忙しい方は自宅からZoomで撮っていただくという形で行いました。その他、講師の中に書籍を出版した方がいたら、書籍紹介の動画も作成して、それらをSNSで公開するという取り組みも実施してきました。

 「ゼミ生」と私たち呼んでいますが、参加者はただ単に講座を聴いて勉強するだけではなく、アウトプットとして感想を書いてもらい、ふぇみ・ゼミのウェブサイトに掲載しています。皆さんにぜひ読んでいただきたいと思います。受講生が感想を執筆できない場合には、ふぇみ・ゼミの学生スタッフが代わりに感想を執筆することもあります。

 その他、自主的な活動に対するサポートも行っています。

 今年度は、「ふぇみ・ゼミ事務所オープンDAY」を8月に実施して、ゼミ生を対象に研究活動内容の個別相談を行ったり、過去のゼミ生にもオープンにして相談を受けたり交流をしたりしました。

 一年間通して取り組んでみての振り返りですけれども、モチベーションを持続させるのは難しい部分があると感じています。リアルタイムでかつ会場に来てくれる方は毎月来てくれるけれども、オンラインの参加者は後半に入ると減少傾向に毎年なります。

 今年度はフィールドワークを行い、これが非常に効果的でした。これは助成金をいただかなければできなかった取り組みの一つで、来年度も実施しようと計画を立てています。今年度はマイクロバスを借りて一日かけて東京と千葉にある関東大震災の朝鮮人虐殺の追悼碑を巡りながらいろんな人たちの話を聞いて、百年前に起きた出来事は実は現在的な問題でもあるということを確認し合いました。

 このように、学生スタッフが中心になって運営してくれてはいるけれども、運営委員と学生スタッフの間には年齢差もありますし、運営委員の多くは大学で授業している人が多いので普段は教員でもあります。そうした権力差の中で、どうしても指示待ちになってしまうところはあったと思います。いかに若者が主体的に動ける環境を作っていけるかが今後の課題になっています。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

DPI女性障害者ネットワーク/DPI日本会議議長・平野みどりさん

『障害のある女性の複合差別の実態を記録し、届けるプロジェクト』

 私たちは1981年に設立されたDPI女性障害者ネットワークと申します。優生保護法の撤廃を目的にスタートしました。その後、障害種別やライフスタイルも多様な障害女性が集まり、自らが被っている複合差別の解消を目指して政策提言や啓発活動を行っております。

 今回、助成をいただいたのは、「障害のある女性の困難」という冊子の作成と、これを基にした学習会の開催についてです。現在この冊子は大変ご好評をいただいており、DPI女性障害者ネットワークのホームページから購入が可能です。この報告集に基づいての学習会の開催は昨年の札幌、熊本、今月末に京都、その後、名古屋、また北海道、そして最終的に東京で終わります。それぞれの地域状況も勘案しながら、複合差別の理解と解消に向けて取り組んでおります。

 そもそも複合差別をご存じでしょうか。人はそれぞれ、性、出身、国籍、人種、民族、性的指向などさまざまな違いがあり、さまざまなアイデンティティを持って生きています。アイデンティティの中には、社会的に少数派で差別を受けるなど、不利な立場に置かれがちなマイノリティ性を有するものがあります。残念ながら、障害もその一つと言えます。

 私は車椅子を使って日常的に生活をしています。

 一人が複数のマイノリティ性を生きる場合もあります。民族的マイノリティの女性、性的マイノリティの子ども、障害のある女性——私たちがそれにあたります。例えば、障害がある女性が高校・大学へと進学を希望する際、親や社会の無理解によって、「障害があるのだから進学は無理」、「女には学問はいらん」と言われて、進学やキャリア形成の道を断たれたという声も届いています。また、障害を持つ前は「早く結婚して家庭を持つように」と促されてきたにもかかわらず、中途で障害を持った途端、結婚や妊娠を否定され、危うく中絶させられそうになった事例もあります。

 複合差別はこのような障害と女性の差別にあるように、両方が掛け算のように複雑に絡み合っていて、その被害もより複雑で深刻になります。これまで性、国籍、人種、民族、障害の有無など、それぞれによる差別は別々に考えられ取り組まれてきたため、複数のアイデンティティが重なり合うことによる差別や不平等を受ける人々の困難がなかなか理解されませんでした。

 国連では1990年代以降、性差別の問題を人権保障のメインストリームに位置づける取り組みが進んできました。この流れの中で、複数のアイデンティティが交差することによる差別や不平等の問題が当事者を中心に提起されるようになりました。今や複合差別を考慮することなしにジェンダー課題の解決はあり得ないということが共通の理解となっています。女性差別撤廃条約をはじめ2014年に日本が批准した国連障害者権利条約においても複合差別の問題がメインストリーム化されています。複合的に存在する社会の障壁と、それらの複雑な影響や不平等をなくすことが障害を持つ女性たちにとっての大きな課題と認識されてきています。

 しかし現実を見れば、障害のある人のコミュニティの中でも、これまで障害者運動が男性を中心に展開されてきたため、障害女性の複合差別問題が強く認識され取り組まれているかと言えば、まだまだであると言わざるを得ません。私たち障害のある女性たちは、他のマイノリティの皆さんとの連帯のもと、複合差別をなくすための取り組みに邁進してまいります。

 4月23日の京都での学習会はフェミニストカウンセリングで有名な井上摩耶子さんや、障害女性の立場で相談や支援活動している方たちがパネリストです。オンラインでも参加できます。どうぞ多くのみなさんのご参加をお願いしたいと思います。

 余談になりますが、私自身、17年間ほど地方議会で障害を持つ女性議員として活動してきました。障害者だけではなく、女性が少ない議会のありように対して本当に考え直して取り組まなきゃいけないと思っていた中で、今日のパネリストのみなさんのお話は大変興味深く伺っています。今後のディスカッションが楽しみです。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

NPO法人レインボーコミュニティcoLLabo代表理事・鳩貝啓美さん

『性的マイノリティ女性の地域と世代を超えたオンライン上のコミュニティ構築と実態調査』

 事業の柱は、まずウェブサイトを作り、そこにコミュニティ機能を持たせて、実態調査をしていける仕組みづくりをすることです。一年目は、このサイト制作が中心となりました。「みらいふWeb」という名前です。最新のトップイメージ画像はオレンジと紫を基調として、「みらいをひらく、ライフストーリー」というコピーをつけさせていただきました。

 「みらいふWeb」では、このように可視化を行って、性的マイノリティ女性のロールモデルが見つからないという背景に対応していきます。そして、セクシュアリティを受容して現代を生き抜いている人々のストーリーを紹介していきます。特に、社会に向かっていく動きや働きかけを紹介しようと計画しています。例えば、会社でカミングアウトをしてパートナーを家族として扱うよう求めたという話などです。

 ここまでで感じている課題ですが、当事者も関心やニーズがライフステージごとにも個人的にも異なるところがあること。それから地域や世代が異なる多様な生き方をしている方をインターセクショナルな視点からも紹介していく必要があるだろうと認識しております。

 2年目の中心は、この「みらいふWeb」をハブにして緩やかにつながって参加型コミュニティの機能を持たせ、実態について調査をしていくことです。声を集めていく仕組みを作ることになります。このコミュニティは登録制のようなクローズドな場ではなく、敷居を下げてスタートすることにしました。

 ソーシャル・アクションは小さな行いから始まると考えています。ストーリーを読むだけではなく、投稿やコメントといった形で参加をして、また自分も真似てやってみる。そして、その自分の経験をシェアしてみる。そういった動きを作っていく設定になっています。

 最後に、この一年間活動してきて感じることとして、性的マイノリティ女性の当事者の中にも濃淡があるという点を挙げさせていただきます。いかに当事者を巻き込めるか――当事者性を高められるかといった表現が適切かもしれないですが――、これが課題だと考えています。そして展望ですが、この「みらいふWeb」で他のストーリーに触れて、自分だけじゃなかったと思ったり共感をしたりすることで、個人だけの問題ではなく社会の問題と捉えて行動する事が増えていくことを期待しております。そのため今後のつながりとしては、こういった調査研究に関心を持っていらっしゃる方や、各地で性的マイノリティ女性の生きやすさを追求している方、こだわっている方との連携を深めていきたいと思っております。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

 

――パネル対話――

宮下萌さん=コーディネーター/弁護士・SJF審査委員) 

 みなさま、こんにちは。プレゼンターの皆さまからお話をしたいテーマを事前にいくつかいただいておりますので、そのテーマを中心に、ですがそれに捕らわれることもなく自由にディスカッションさせていただければと思っております。

Kaida SJF

 

 

 

 

ジェンダー平等の実現切り口は違えど取り組む人々の連携を促進するには

ソウレッジ 鈴木莉帆さん) テーマを出した意図としては、大きなインパクトを出してジェンダー平等を実現していくためには、取り組む切り口が違う団体も含めて連携し連帯していくことがすごく大事なんじゃないかと考えており、そういったことをどうしたらもっとやっていけるのか、話せたらと思っていました。

 

宮下さん) はい、ありがとうございます。皆さま色々なフィールドで様々なテーマでご活躍されておりますけれども、このような切り口は違えども協働してやっていくために、具体的に何か取り組んでおられることとかありますでしょうか? 

 

明日少女隊 尾崎翠さん) 私たちも常々、分野を超えた連携が大事だなと思っており、私はアメリカでアーティストをしているけれども、例えばアートの分野でもアメリカではアーティストと弁護士が組んで何かをするとか、アーティストが病院の中に行って患者さんの抱える問題を病院のスタッフと一緒に見つめて何かをするとか、分野を超えたコラボがいろんなところで見られます。そういうのをもっと日本でもできたらなと思っています。

 私たちの作品の中に、私たちが初めて作った作品ですけど、デートDVの作品があり、それを個展で展示してみたところ、すごく好評で、たくさんの若い方が作品の周りを囲って、「なんか面白いね。でもびっくりだね」みたいな声がたくさん聞こえた作品です。

 私たちはアーティストなので、展示場所がギャラリー等に限られがちですけど、例えば学校などいろんなところでアドボケイトされている団体と組んで私たちの作品のどれかを使ってもらうとか、何かよい連携方法はないかと常々考えております。

 

宮下さん) 明日少女隊さんのSJFアドボカシーフカフェに、先ほど弁護士との連携とおっしゃっていましたけど、私も参加させていただいて、なかなか無いアドボカシーカフェのテーマで非常に興味深かったと思っております。

 それ以外にも、分野は違えども共同で取り組みをしているという団体さんがいらっしゃいましたらご発表いただけますでしょうか?

 

ふぇみ・ゼミ&カフェ 飯野由里子さん) 十分な連携ができているかどうかは不安なところもありますが、私たちの団体がなぜこんなに多くの講座を企画・提供しているのかというと、活動している人たちと直接お会いし、講座の場だけではなく、講座後の懇親会の場も含めて交流をし、お互いの団体の活動について意見や情報を交換し、時には、相手の団体がやっているイベントに積極的に参加する、といったことを重視しているからです。これまでの社会運動の中でも他の団体のイベントにできる限り顔を出すようにと言われていたと思いますが、そうした基本的なことを重視しています。

 と同時に、連携に当たっての注意点についても考えなければいけないと思います。いわゆるジェンダー平等に取り組む団体やフェミニズムの団体といっても非常に多様で、ジェンダー平等にはすごく熱心だけれども他の差別については全く無関心であるとか、他の差別は無自覚的になのか自覚的になのか積極的に行ってしまっている団体もあるわけです。トランスジェンダーに対する憎悪を向ける団体や、それをSNS等でも繰り広げている活動家の方たちもいるわけです。なので私たちの団体としては、そうした差別発言をしている人たちとの連携は、原則しません。連携に当たってはもちろん積極的につながっていくことも大事ですけれども、誰とつながっていくのかも各団体が考えないといけない時代になっていると思っています。

 

宮下さん) 連携のあり方、誰とどのようにつながっていくのかは、非常に重要なテーマだと思います。

 後ほど、インターセクショナリティの視点というところもパネルディスカッションで皆さまとお話できればと思っております。

 

社会問題を自分事として解決に参加していくには

 続きまして、自分事として捉えていくことの難しさについてテーマの提供いただいておりますので、お話いただけますでしょう。

 

レインボーコミュニティcoLLabo 鳩貝啓美さん) 性的マイノリティ女性の可視化などに取り組んでいく中でも本当にいろんな方がいて、濃淡があるのを実感しています。自分事として行動する人もいれば、他人事というか、諦めというか、行動起こすには至らない人がいらっしゃって、その違いは何なのかということは、その都度考えさせられています。

 問題が個人化してしまっていたり、何らかの例えば経済的な力をつけることで厳しい状況をしのぐんだみたいな自助努力に行く方もいたり、親戚に理解を求めて共助で行く当事者が多い傾向も一因かとは思うけれど、本当にどう当事者を巻き込めるか、当事者性を高められるかが鍵になる事業だと感じているところです。

 いろいろなニーズや関心があるなかで全てに最初から答えられるものではないので、その声を寄せていただいて、いろいろな方たちを含めて発信していきたいと考えています。読んでもらい、参加してもらわないと始まらないので、当事者性という言葉が当たっているかわからないですが、似たようなところで引っかかる方がいらっしゃったらアドバイス等いただけたらと思います。

 

宮下さん) はい、ありがとうございます。まず参加をしていただく、興味を持っていただく、関心を寄せていただくということは、第一歩だと思うのですけれども、この参加というところに関して注力をしている団体さんがいらっしゃればご発言をお願いいたします。

 

にじいろCANVAS 松井しおりさん) 私たちも性的マイノリティのことをやっており、やっぱり自分が性的マイノリティの当事者であっても、別に自分は何も困っていないし放っておいてほしいという方はいらっしゃいます。逆にそういう活動をされることで、自分のことを周りに知られてしまったり、それが話題になったりすることがむしろ嫌だ、怖いとおっしゃる方もいて、すごく難しい問題だと思っています。

 外部で研修の講師に呼んでいただいて話をする時には、タブーにしないで話題にしてほしいとお伝えしています。ちょっとしたきっかけで、「今日こんな研修を受けてさあ」とか、ニュースでそういった話題が出ている時に、「自分はこういうふうに思うんだけど」とか、身近な人と対話してほしい、話題にしてほしいと言っています。どうしても声が届かない人に対しては、個々の対話からしか広がっていかないと私は感じています。

 

デートDV防止全国ネットワーク 高島菜芭さん) 私たちも、デートDVというものが自分も当事者だと思はないということを課題として認識しており、工夫していることがあるのでお話しさせていただきたいと思います。

 デートDVを正面からお伝えして、そういう悩みがあるかというのを聞くよりは、何か表層的に表れている当事者のニーズをまずは聴くことを個人的にやっております。例えば、デートDVだと恋愛がテーマになりますので、恋愛の悩みについて話を聞いていくと、最初は「いい出会いがない」とか「パートナーと話し合えないことがある」とかから始まるけれども、話を深掘っていくと「実はDVみたいな被害に遭ったことがあって、束縛されて嫌な経験をしたことがある」という話につながることが多くあります。

 私たちのアプローチとしても表面的には、当事者が意識し自覚的に持っているニーズに訴求するようなものをコンテンツとして作って、実際に行ってみるとデートDVという課題にもアプローチができるようなものを作りたいと思っております。

 

宮下さん) 表面的にはデートDVと直接的に関係するように見えないことでも、丁寧に対話をしていくことで、実はそういう問題があるという。工夫していらっしゃるなと思いました。先ほど、にじいろCANVASの松井さんも個別の方に丁寧にアプローチをするという姿勢を大切にしていらっしゃることがとても印象的でした。

 

飯野さん) 「ふぇみ・ゼミ&カフェはマッチョだな」とまた思われるかもしれませんが、私たちの団体には、「差別があるなら闘うしかない」という共通意識があると思っています。実際、来ていただいた講師の方からも、そういう言葉が出ます。ただ、その「闘う」や「活動」が一体何を指すのかですよね。日本語で「活動する」とか「闘う」というと大掛かりなことを思い浮かべると思うけれども、鳩貝さんが言いましたように、記事を読む、それに「いいね!」をするだけでも活動と捉えていいのかもしれない。

 私たちの団体では今、来年度の講座に向けてチラシを作成し、日本全国いろんな団体に発送する作業をしています。この作業には人手が必要です。数種類のチラシを組み合わせて封筒に入れて発送するわけなので。そこで、作業を手伝ってくれる人を募ることになります。そういう日々の運営の中で生じる単発のタスクに関わってもらい、一緒に時間を過ごすことによって、活動とか闘うというのは、こういうことも含むのだということを徐々に理解してもらえると、部分的にでも参加しようという人が増えてくるのではないかと期待しています。

 

宮下さん) 闘いにも本当にいろいろなやり方があって、人と人とのつながりは、日々のつながりを大事にしていくことも闘いの一つなのだということをご提供いただきました。鳩貝さん、他にコメント等ありますでしょうか?

 

鳩貝さん) いろんな角度からコメントいただけてとても嬉しくなりました。松井さんのお話では、社会の側から個々の人たちに影響を及ぼしていくやり方も確かにあるなと思いました。表層的なテーマでつながっていくという高島さんのお話については、私どもの記事ではエピソードとして恋愛話を発信していただくようにもしていて、本来やろうとしていることは社会的なアクションについてなんですが、2人がどう出会ったかみたいなことから語ってもらうことも、高島さんのお話に通じるのかなと思って嬉しくなりました。飯野さんの、マッチョな活動の裏にはそういった日常の仕事を作るという観点があって、それはサボってはいけないところだと改めて気づかされました。ありがとうございました。

 

複合差別とは? インターセクショナルで複雑に絡み合う問題の解決に、連携して取り組む 

宮下さん) それでは、次のテーマに移りたいと思います。SJFの第11回の助成公募のテーマでは、インターセクショナルな視点から解決に向けて取り組む活動を積極的に支援すると提示しました。このインターセクショナルな視点、複合差別の視点について、DPIの平野さんからテーマをご提供いただいておりますので、お話いただけますでしょうか。

 

障害を持つことによって、女性を抑圧してきた価値観を解決するモチベーションを新たに持てた

DPI女性障害者ネットワーク 平野みどりさん) 私は30歳まで障害のない人生を歩いてきました。それで、30歳ぐらいになると、やはり結婚していないといろんなことを周りから言われます。その生きにくさがずっと私を苦しめていました。それは、社会に出て仕事をする中での男性と女性の職場での対応のされ方の違いやハラスメントも含めてでした。

 たまたまですけど、障害を30歳の時に持って、生活が一転し、価値観も一転するわけですけど、なぜか、つかえ棒がストンと落ちて、なんか自由になれた。いわゆる障害を持っている人たちの仲間を得ることによって、私とは違ういろんな複雑な苦しみを持って生きている人たちの課題の解決と、女性が苦しめられている課題の解決はやはりつながっているということで、これは私にとって救いだと思えたのです。障害を持つことは本当に不自由で大変なことではあるけれども、女性を抑圧してきた価値観を、障害を持つことによって、打ち砕き解決に向かうモチベーションを新たに持てたという意味では、とてもよかったのです。

 私は障害を持っている女性たちや若い人たちは自分を小さく捉えてしまって、私はこういうこともできないからとか、私は恋愛しちゃいけないとか、自分に対してマイナスなイメージを作ってしまっているところがあります。それが私自身はフェミニストカウンセリングに繋がっていくきっかけだったのです。私と同じにならないまでも、障害を持っている女性であるということをパワーにしてもらいたい。エンパワーされるような環境に自分たちを持っていきたいという仲間を作っていこうという思いで活動しています。

 DPI女性障害者ネットワークとの出会いもその頃でした。優生保護法の裁判の問題。優生保護法がどんなに女性を、ある意味男性もですけど、虐げてきたか、苦しめてきたか、人間としての権利を剥奪してきたかを知るにつけ、ここが私たちの原点だという思いで闘っているわけです。

 障害を持っている女性だけでなく、障害のない女性たちにも優生保護法は今でものしかかっていることを知っていただき、どんな障害があっても「生きていることは素晴らしいことなんだ」と思える社会にするための連帯を障害のない女性たちと作っていきたいと思っています。DPI女性障害者ネットワークは障害を持っている女性だけでなく障害のない女性、フェミニズムやリブ運動に関わってきたベテランのメンバーもたくさんいらっしゃって、そういうことも学べます。

 私が課題だと思っているのは、複合差別の課題を、障害を持っている男性にもしっかりと自覚してほしいことです。運動というとどうしても右肩を挙げて闘うイメージで、そこには男性がたくさん入ってきていて障害者運動を支配してきたのです。そこには障害女性たちは入っていくことができなかった。私はDPI日本会議の議長もしており、このDPI日本会議も男性が中心の活動だったのですが、今は役員の半分が女性というところまで来ました。まだ、同じ障害を持っている立場でも、男性と複合差別の問題を共有できないというジレンマも抱えているところです。外のパワー、障害を持たない女性たちやいろんなマイノリティの人たちと私たちはつながっているのだということで障害男性たちの課題解決にもつながっていくと思って日々活動しております。

 もう一つ、今、私たちは異性介護の問題に取り組んでいます。自分が障害を持って介護される時に、男性の介護者が来る等の望まない状況で介護を受けなきゃいけない方たちはたくさんいます。私たちも厚生労働省に投げかけているところです。特に施設や病院では介護不足で、女性と男性の介護者の割合が違うことや力仕事だ等などの理由の下に、望まない異性介護を受けているところがあるのです。

 また、自分の性的アイデンティティと同じ介助者を望むことでのいろんな問題が出てきています。さらに、外国から来た人たちから介助を受けている現状もあります。その中でも、私たちの外国人たちへの偏見や差別はどうなのかという闘いもまだあり得、本当にインターセクショナルで、複雑に絡み合う課題が私たちの目の前にあります。

 

宮下さん) 本当にエンパワーメントされるお話をいただきましたと、

 皆さんさまざまなテーマや場所で闘い、活動していらっしゃって、その中でインターセクショナルな視点を大切にしていらっしゃる団体さんがいらっしゃいましたら、ぜひ共有いただければと思いますが、いかがでしょうか?

 

NewScene・福田和子さん) インターセクショナリティは本当に重要な点だと思うので、提起ありがとうございます。

 FIFTYS PROJECTとしては、支援する候補者の対象として、女性と自認する人だけではなくXジェンダーの人もノンバイナリーの人もトランス女性も含めて応援していることを明確に打ち出しています。でも、ジェンダー平等を実現すると議員になった人もいわゆるシスヘテロ女性が多くて、今行っているゼミに関しても、4年制度の大学に行っていた等のバックグラウンドが似ている人たちが多く集まってきてしまうのは一つの課題だと思っています。女性や性的マイノリティというアイデンティティを持ちながらも、他の部分では比較的特権がある立場の人が少なくない。だから、ゼミの最初の部分では、フェミニズムとインターセクショナリティは清水晶子先生を呼んだり、貧困やトランスジェンダー差別について学んだりしています。そうでないと、政治家にいざなった時に、脆弱な立場に置かれた人たちの現状を改善し、この不条理な社会の構造を変える議員になれないと思っています。そこは私たちも学びながらではあるけれども、大切にしている点です。

 

宮下さん) バックグラウンドが似ている人に偏ってしまうところを、どう多様な人参加いただくかを大切にしているということをご提供いただきました。他にいかがでしょうか。

 

尾崎さん) 似たような方々が集まりがちだという点と障害についてと絡めてお話ししたいと思います。

 私たちはアーティストグループなので、アートに興味のある人しかグループに入ってこないけれども、日本だと例えば、発達障害があると学校生活が難しくて五教科以外の特技で人生を建設的に生きていく方々がいたり、ニューロ・ダイバーシティの世界ではディスレクシアやADHDがある人はクリエイティビティが一般の人より高いというデータがあったりします。クリエイターの集まりになると、日本でもアメリカでも特に発達障害の方々と会う確率がすごく高くなると感じています。

 アメリカのデータで最近学んだのですけれども、トランスの率と自閉症スペクトラムの率に相関があるという研究結果があるらしく、アメリカの発達障害関係やLGBTQ関係の学者たちも、研究をもっと進めるべきではないか、支援をもっと届けるべきではないかと声高に言っています。

 私たちはインターセクショナリティを初めから考慮している団体です。表出する際はマスクを被る匿名団体になったのも、親からDVを受けていたりストーカーから逃げていたりする人たちも声を上げられるようにというのが目的の一つです。私たちの団体は多様な学歴の方がいて、中卒の方もいたりPhDを持っている人もいたりする団体で、そういう障害の分野についても十分に考えていきたいと今日のお話を聞いて思いました。

 

飯野さん) なぜ多様な人たちが組織に必要なのかというと、多様な社会的位置から考える必要があるからだと思っています。社会的位置が違えば、社会の見え方が全然違うし、経験も全然違う。その話を平野さんはしてくださったと私は思っています。

 私たちの社会の中に存在している差別構造の正体を見ようとする時に、障害者が置かれてきた立場から社会を見直すことは必要不可欠だと思っています。だから、私もDPI女性障害者ネットワークのイベントには行ける時は必ず参加していますし、ふぇみ・ゼミの講座でも毎年必ずDPIから誰か呼ぼうとしています。

 加えて、その差別構造において非常に重要な取り組むべき制度としてふぇみ・ゼミが見ているのが戸籍制度です。最近だとマイナンバー制度もあります。そして、天皇制の問題です。こうした制度はまさに日本の脈々と続いている差別構造を映す鏡なので、こうした問題について必ず毎年学び直していくことを大切にしています。

 なので、私たちがどういう視点から社会を見ていくのか、誰の立場から社会を見ていこうとするのかも重要だなと思いながら、皆さんの話を聞いていました。

 

宮下さん) なぜ多様性が必要なのかということの根本的なお話をしていただき、ありがとうございます。障害も含め、いろいろなインターセクショナリティの視点についてご提供いただきました。

 

社会運動を持続可能に 声を潰そうとする力から活動を守るには

 次に、運動の持続可能性というテーマに移らせていただきたいと思います。社会的に意義のある活動を長く続けるためにはどうしたらよいか? というテーマをNewSceneの福田さんにご提供いただいておりますので、お話いただけますか。

 

福田さん) トランス差別の話も出てきていると思いますけど、世界的にこのジェンダー平等を加速したいという動きに対するバッシングで、特にトランスヘイトは高まっていると感じております。それが日本でも同じように起きている。もしかしたら今後、トランプ大統領にまたなるかもしれないという話になっている中で、こういったバックラッシュ的なものがさらに大きくなっていくのではないかと不安に思っています。こういった活動する人たちに対する攻撃や誹謗中傷が今以上に拡大していくとなると、非常に厳しくなっていくのかなと。 

 今はSNSでつながれることはプラスだと思うけれど、本当に心から思って発信したことが、こういうバッシングに突然さらされてしまったら、途中でバーンアウトしてしまったり、心が折れてしまったり、もう見聞きしないようにしようとなってしまうこともあると思うのです。より一層厳しくなっていくかもしれない状況で、どうやって、こういう思いや活動をみんなで守っていくかを考えられたらなと思って、投げかけさせていただきました。

 

宮下さん) バックラッシュの問題。声を上げようとする動きに対して、声を潰そうとする動きがあるわけですよね。そのバックラッシュに対してどう対抗していくかについて皆さまいろいろお知恵や経験がたくさんあると思いますので共有いただければと思いますが、いかがでしょうか?

 

社会的に不利な立場に置かれている人ほど「休息する権利」を奪われている

尾崎さん) 今、アメリカのフェミニズム業界で、特にトランプが大統領になって以降、声高に言われているのはセルフケア・ファーストです。そのセルフケアのスキルを小学校でも子どもに教える運動があって、実際に私の小学生の子どもも毎週、自分のメンタルケアや自分の気持ちを落ち着かせる具体的な方法について心理士たちが作ったスキルを学校で学んできます。それだけでは足りないので、家でもできるアプリ――心の落ち着かせ方やアンガーマネジメントの手前版——で学んでいます。

 成人女性には、自分がここまでだったらできるけど、もうこれ以上の仕事は過剰だからNoと言う境界を設けられるような啓発を受けられる機会があるといいと思います。「Noと言ってもいいんだよ」、「休んでもいいんだよ」、「毎日24時間働かなくていいんだよ」、「毎日24時間アクティビストしていなくていいんだよ」と積極的にアクティビストが発信するのを見るとすごく休まります。私自身がシングルマザーで意識的に休まないと休めない状況で、「休んでもいいんだよ」と言われたら、「よし、もう今日はあと2時間何にもしないで休もう」と思えるけど、そういう声がなかったら、“To Do List”が山のようにあるわけですから、休むことには罪悪感があります。でも、「そこは罪悪感を全く覚えなくていいんだよ」と50人ぐらいから言われたら、すごく安心感があると思います。そういう流れを日本でもみんなで子どもにも大人にもどんどん発信していけたら、個人のセルフケアのスキルが上がっていいなと思いました。

 

飯野さん) 尾崎さんの発言に触発されて応答したくなりました。

 アメリカの黒人女性のフェミニストでトリシア・ハーシーさんという方が、実は社会的に不利な立場に置かれている人ほど「休息する権利」を奪われていると主張しています。たとえば、黒人女性で、貧困層の人ほど仕事を複数やっていたりしますよね。尾崎さんご自身もシングルマザーだと教えてくださいましたけれども、子育てをしながら働くのは二つの仕事をしているようなものです。

 社会運動に従事している我々も仕事を掛け持ちしているようなものだと思います。闘っている人ほど、社会的に不利な立場に置かれている人ほど休めていない。そこで、ハーシーさんは「昼寝省」を立ち上げて、「休息する権利」を獲得していこうと提唱しています。セルフケアとはまた少し違う動きだと思いますが、そのような意味で休息を求めていくのは大事だと思いました。

 ちなみに、「差別があるなら闘うしかない」と言ったのは、今年度ふぇみ・ゼミの講座に来てくれた角岡伸彦さんという部落問題に関連してリサーチし、本を書いたりしている人です。

 もう一人、印象的な講師として、伊是名夏子さんがいらっしゃいます。車椅子に乗っている方で、JR東の乗車拒否に遭った事件を振り返って、「あの時に何が悲しかったかって、周りの人が自分の怒りを共有してくれなかったことだ」というふうに言っていたのです。怒りを共有することを明示的に意識的に行っていくことが大事だと伊是名さんの話を聞いて改めて思いました。

 「わきまえない女」なのか「わきまえる女」なのか、そういう言葉がありますけれども、ポストフェミニズムの時代と言われていて、怒りやネガティブな感情を見せないことがスマートだと言われます。それ自体が抑圧だと思うので、お互いに怒りを見せ合う、共有し合う、そのつながり、関係性を作っていくことも大事になってくると思いました。

 

宮下さん) 怒りを共有していくのは本当に大事なことだと思います。

 バックラッシュの問題とも関わるのですけれども、バーンアウトをせずに長く活動を続けていくためにはどうすればよいかということについてテーマを、にじいろCANVASさんから提示いただいており、お話いただけますか。

 

松井さん) ここまで話してきた複合的差別の問題とも密接に関わると、お話を聞いていて感じました。人権のことをやろうという団体の中にも多様な人がいて、対外的にいろんな活動をしていて、活動をしていくにはお金も必要で、合理的に対応していくのが必要になる場面もあります。だんだん、組織へどれぐらいコミットするかや、生産性など営利企業のような文脈がいつのまにか団体の中に入り込んできてしまう。その中で、関わることが難しい人たちと、今はちょっと元気があるから動けて前に出られる人たちがいて、声の大きい人と声が小さい人との分断みたいなのが生まれてしまう。誰かが「自分が犠牲になっている」という感覚を持ち始め、尊重されてないと感じてしまう。

 みなさん精力的な活動されている中でネガティブなことを言って申し訳ない気持ちもあるけれども、そういうことを感じてしまう時もあって、どのように皆さんが対応されているのか伺いたいなと思っていました。

 

宮下さん) いわゆる声の大きな人の発言が取り上げられて、声の小さい人と言われる人たちの声は取り上げられずに矮小化される場合も、反対の場合もさまざまあると思います。そういった中で何か取り組みをしている団体さんがいらっしゃれば共有いただけますか?

 

平野さん) DPI女性障害者ネットワークは法人格を持ってない任意の団体なのです。事務所もなく、ネットでつながって活動をしています。事務局については、月に1回やる定例会の議事録や報告書の作成は、活動を担っている十数人のメンバーが手分けをしています。物事の決め方も上意下達ではなく、必ず役員を中心とした人たちの合意形成のもとで判断してやっています。何かをやらないといけないストレスの部分と業務量が、代表の藤原さんはいろんなところに呼んでいただいているので加重がかかっていると確かに思うけれども、それ以外の団体としての業務は手分けしてやっていて今のところバーンアウトせずにいられていると思います。

 問題は、次の世代がまだ生まれていないことです。私は60代ですが、50代・60代の人たちが中心で動いているので、次の世代のリーダー、牽引してくれるメンバーをどうやって探してくるのか、問題を共有しながら学んでいってもらうのか、というのが今の私たちの課題かと思います。

 

宮下さん) DPIさんは長く活動をしていらっしゃいますけど、次の世代の担い手をどう育成していくかは非常に重要なテーマだと思います。今日はみなさま、若手と言われて活動されている方がたくさんいらっしゃっていると思いますので、むしろ若い世代の人たちが上の世代の人たちとどうやって経験を共有して次につないでいくのかという取り組みをしていらっしゃる団体さんにお話いただけますでしょうか?

 

尾崎さん) 私たち明日少女隊に、高校生の時に入隊してきて今既に大学を卒業して働き始めた子がいます。私たちのやり方は特殊なので他の団体に応用できるかどうかわからないですけど、そもそも私たちは匿名でマスクまでかぶるので、誰が中心なのかが外からは見えにくいのです。例えば、新聞から取材を受ける時に、「代表の方にお願いします」とか「発起人にお願いします」と来るけれども、そういうのも交わしやすい。入ったばかりの子を出してもよく分からないから出せてしまう、という便利なところがありました。

 入ってきた初めの時から「裏方しかできません」という人も受け入れやすいです。みんな匿名で、誰の名前も出ないから、初めから最後までずっと裏方でいてくれても何の問題もなくて、8年間ずっと銀行通帳の管理だけをしてくれる子もいて、できる範囲の役回りがあるのです。

 高校生の子が入ってきた時は、高校生ですから仕事らしい仕事ができるわけではないので、その時にやっていたキャンペーンについて高校生はどう思うか、について作文を書いてもらって私のブログに載せるとか、ささやかな活動をしてもらっていました。その子にしてみたら、明日少女隊にいる期間に大学受験も就職活動もあるわけで、そういう時はガッツリお休み。

 1年間ぐらいでも幽霊隊員もOKなので長く続けてもらえたので、「長期休みOK」は結構いい気がします。産休や育児休暇で3年休むとかもOKで、期限なしで休んでもらって、またやりたくなったら帰ってきてくださいみたいな感じにしておくと、10年後に帰ってきてくれるかもしれない。

 

権力者に成果だけを持っていかれないよう 自分たちの手でつくってきた歴史を記録する

パリテ・アカデミー 町田彩夏さん) パリテ・アカデミーの活動ではないけれども、いろんな社会運動を見てきて、女性たちが排除されていると感じています。いわゆるリベラル的な社会運動をしていくとなった時に、そこに男性や大学教授やジャーナリストのように権力を持っている方、社会的にパッと見て「この人はすごそうなことを言っている」というのが一発でわかるような肩書きを持っている方がいたりすると、その人の意見にどんどん引っ張られていってしまう。

 実際に活動している人は女性だったり、細々とした作業を担っているのは女性だったりするけれども、その運動の果実や目立つところを男性がさっと持っていってしまう。で、疲れ果てた女性が運動から去っていくというのが、何年も続いていることだと感じています。私はここ十年ぐらいの状況しか見ていないけれども、何十年というスパンで振り返ったときに、そういうものがきっと連綿と続いてきたことが想像に難くない。

 果たしてそこをどう変えるかと言われると難しいですが、一つ言えるのは、そういうことがあったということをきちんと共有していくことだと思っています。例えば、あの人は社会的に見てすごいことをやっているという評価をされているけれども実際はモラハラ的な部分があるようだとか、いろんな人に任せっきりで最後だけ持っていっているとか、現場レベルの事実をきちんと女性たちで共有する。そして、「私たちがその歴史を作ったんだ」、「私たちの手でこの運動をやってきたんだ」ということをきちんと残していくのが非常に大切なことだと感じています。

 

宮下さん) 運動の歴史ですとか、作ってきたものを記録しておくことも闘いになると思うのですけれども、きちんと共有しておくことの大切さを共有いただきました。他にいかがでしょうか。

 

社会運動をする人を支えるネットワークを 

飯野さん) ふぇみ・ゼミで今年度、「労働を問い直す」という連続講座をやっていて、1月の回に韓国のトンヘン(同行)という団体からスピーカーをお招きしました。トンヘンは活動家たちの協同組合みたいなものです。複数の社会運動の団体の人たちが出資して作っています。例えば、運動の中で怪我をしてしまった時に労災が無い場合でも協同組合から出しましょうと。あるいは、先ほど休息の話が出ましたけれども、社会運動をずっとやっていて疲れてしまう人もいるのでリフレッシュ休暇のような制度を作っていて、そこに助成しましょうと。

 そういう協同組合を日本で直ちに作るのは難しいでしょう。韓国の社会運動というのはかなり分厚い層がありますし、民間企業も社会運動家を支える文化があるので、日本とずいぶん違う。でも、せっかくこれだけたくさんの団体が集まった場なので、私たちも今後、そうした社会運動家たちがお互いを支え合うために少額ずつ出資して、社会運動で疲れ果ててしんどい思いをした人たちが使えるような仕組みをつくっていくのを構想してもいいのではないかと思っています。

 情報提供という感じでお話しましたが、ふぇみ・ゼミでも、どうやってバーンアウトせずに持続していくのかという点でいろいろ模索しているところなので、本当に共感しながらこのテーマに参加していました。ありがとうございます。

 

宮下さん) 協同組合という興味深いご提案をいただき、韓国ではそういう仕組みがあるということで、他の国の運動と一緒にどう学んでいくかということも、日本における運動の課題として共有できたらと思っております。

 

福田さん) 飯野さんのお話は、私も思っていたことで、「そういう取り組みがあるんだ!」と思いました。先ほど尾崎さんがおっしゃっていたこととも似ていると思うけれど、“To Do List”がたくさんある中でセルフケアを学ばずに、気づいたらすごく疲れていたというのはもったいないと思います。

 それぞれの活動も大事ですけど、それをするためのアクティビストを支える場や組織が必要だと思っています。そこには例えばメンタルヘルスの保ち方やアクティビズムやフェミニズムに理解のあるカウンセラーたちのネットワークがあって、アクティビストが行きやすいクリニックみたいなのだったらいいなと思っています。しんどいなと思って相談をしたら、そんな活動はやめればいいじゃないですか、と言うような人に当たったら結構つらいと思います。アクティビストが活動を続けながら自分も大事にするにはどうしたらよいかを専門にサポートするカウンセラーなどのネットワークがあったら心強いと思っていました。そういうケアをする方を教えてもらえたらと勝手に思っていたので、何かできたらいいなと思いました。

 

佐々木さん・総合司会/SJF運営委員) ありがとうございました。今日は、切り口は違ってもやっぱり通底するところは皆さん共感を持ちながら合意しておられました。アクティビストが本当にエンパワーされて、活動を続けられる、そういうネットワークができたらいいという発言もいただけて、とても前向きに聴かせていただけたと思います。

 

上村英明さん・SJF運営委員長) 運動がバーンアウトしないようにという話は、特に女性がやっていらっしゃると男性が勝手なことばかりやってみたいなことを感じられると思います。

 私の経験からすると、このソーシャル・ジャスティス基金(SJF)自体がその一つの手段なのですよ。皆さん忙しく活動をしている人たちの大きな壁は実はお金なのです。お金がないからどうやって集めるかとか、お金がないのにエネルギーだけでカバーできるのかという話があると、やはりしんどい。さらに自分の生活スタイルで子どもができたり学校に行き始めたりすると余裕が全然なくなってしまって活動をやめないといけなくなってしまうことがあります。

 このSJFというのは、皆さんのような活動にお金が回るということと、そのお金が使いやすく回るということが大事だと思っています。こういう活動は日本の財団からはお金がなかなか回らないですし、お金を回してもらうとひどく難しい書類を書かないといけないこともあって、あたふたさせられる。僕は別の活動で、アメリカの財団からお金をもらっているけれども、人件費にも使えるし、報告の仕方が我々から見てもすごく理に適っている中間報告みたいなシステムがあるのです。ヨーロッパでもいくつかそういうのを知っています。それに対して日本ではそういう形でお金が回らず、領収書の取り扱いなどいろんな形で活動のストレスになってくることが多い。ですからSJFだけではなく、いろんな市民活動にお金が回りしかもそこで活動している人たちが納得のいくお金の回り方をするような社会の仕組みをつくっていくのが大事です。

 皆さん個別の課題を背負ってらっしゃるので、課題の解決はすごく大事だと思うけれども、それを支える社会というのを並行して作っていかないといけない。先ほど飯野さんから韓国でそういう協同組合があるという話があって、活動と同時に土台づくりが両輪でないと、こういう活動はやっていけず、一人ひとりが疲弊してしまう。そういうことで、世代がつながるとか、いろんなことが起きてくるのかなと、聞いていて思いました。

 このSJFは12年目ですけれども、活動家でもある私がなぜこの基金に参加するようになったかというと、中心にいる人たちが活動家であれば皆さんの気持ちはよくわかるからです。そして、そういった市民活動をきちんと動かす土台となる社会づくりも同時にやらないといけないと改めて感じました。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

朴君愛さん・SJF運営委員) 自分をたくさん振り返る時間になりました。40年前の自分が飛び込んだことを――私は自分が朝鮮半島ルーツの民族差別、女性については当事者ですので――振り返りながら、本当に越えるのが難しい壁はあるなあと考えながら、みなさんの新しい知恵を聴いておりました。

 一つ素朴な質問があります。このインターセクショナルな視点というところで、日本は女性の差別もそうなのですが、年齢に対する差別が酷いと思っております。男性がより権力を持つようなシステムがあったと思うのですけど、女性で50代になりますと派遣でも事務の仕事がなくなるそうです。これも社会の構造で、女性は非正規の人たちが多くて派遣労働にも大きな問題があるのですけど、若い時には事務の仕事が結構回っていて残業もしなくてよかったり夫の転勤に合わせられたりしていたのが――女性たちがそうせざるを得ない状況があるわけですけど――、50代になるともう無いという話がありました。女性の高齢者の貧困が日本はもう全面的な問題で、女性と年齢が掛け合わされた差別は非常に大きな問題だと思っています。

 デートDV防止全国ネットワークのお話の時に、カードゲームのストーリーで52歳の方が若い方々に問いかけをする設定でしたけど、52歳に設定した理由が気になりました。

 

高島菜芭さん) カードゲームのキャラクターの設定として、単純に質問が書いてあるカードよりは、ファシリテーター的な存在がいて、そのキャラクターから発信される方が答えやすいようだということがテストプレイから分かっていました。どのようなキャラクターだと話しやすいのかを深堀りして考慮する中で、関西出身でといった――私自身が関西出身で、関西弁でストレートに恋バナをしていくキャラでいつも行っているのですけれども――キャラクター設定をしました。

 

佐々木さん) いろいろな実態から課題が浮き彫りにされましたし、それに対する皆さんからの提案からもたくさん学ぶところがあったと思います。お互いに連携できるところはやっていただきたい。そしてジェンダー平等に向けて、理解する人たちがさらに広がって社会を変えていくことに私たちも一緒に歩みたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

――閉会挨拶――

朴君愛さん・SJF運営委員) たくさんの新たなエンパワーメントをいただきました。諦めたらあかん、こうやって難しい社会の課題に取り組んでいる人たちが隣にいるということを改めて感じました。

 まずは、それぞれに信頼関係があるからだと思います。ただ市民活動をしているだけでは私たちは繋がらないし、時にはライバルになってしまってお互いに優劣をつけるような残念な経験を私はしてきました。ですので、価値観を共有できて、すぐに何かできなくても、いらっしゃることで自分たちの活動への元気になったり、ヒントになったり、それがいつか具体的に繋がれる場になれたらいいなと心より思いました。

 偉そうなことを言っていますけど、私も数年前にこのソーシャル・ジャスティス基金(SJF)から助成金をいただいた、在日コリアン女性の小さな活動団体の一人でもあります。そういう意味で、このような場を作ってくださったSJFの皆様に今日も感謝です。持続可能な場として、今日の皆さんと共に今後もいろんなところで会いたいなと思って終わりたいと思います。本当にありがとうございました。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

 

●次回のSJFアドボカシーカフェのご案内★参加者募集★

多様なセクシュアリティをもつ人が地方で「生きて」「はたらく」ために

―東北地域における性的マイノリティの就労・キャリア支援の実態調査から―

【日時】2024年4月13日(土)13:30~16:00

【会場】オンライン開催

詳細・お申込みこちらから   

 

 

 

*** 今回2024年3月1日の企画ご案内はこちら(ご参考)***

 

 

 

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