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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第83回開催報告

 

多様なセクシュアリティをもつ人が地方で「生きて」「はたらく」ために

東北地域における性的マイノリティの就労・キャリア支援の実態調査から

  

 2024年4月13日、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、藥師実芳さん(認定NPO法人 ReBit 代表理事)、大森駿之介さん(にじいろCANVASメンバー)を迎えてSJFアドボカシーカフェを開催しました。

 

 地方特有の問題として、都市部の本社が性的マイノリティに包摂的な企業姿勢でも、それが地方支社まで浸透していず、就活就労で困難に直面することが大森さんから調査に基づいて問題提起されました。また、都市に比べてつながりが強い地方では、限った人へのカミングアウトでも情報が広がりやすく、セクシュアリティに関する情報は機微な個人情報だという認識を高めて、アウティングの被害を防止する必要性が指摘されました。

 東北地方に限らず、就労就活でSOGIハラスメントなど困難に直面しても、安全に相談できる場に巡り合えず孤立から自死に至ることが藥師さんから問題提起されました。支援者の性的マイノリティへの理解度等に格差が大きく、当たった支援者によって命運が分かれる現実があり、支援者の“ふつう”を前提にした対応が性的マイノリティの人権を侵害しないように、研修の強化が大森さんから提言されました。

 生きるための2層の砦として、学校・職場そして福祉・医療を藥師さんは挙げ、この2つのセーフティネットで性的マイノリティを受け止められる地域に変わっていくことが望まれました。福祉や医療の場ですらハラスメントを受けており、セーフティネットが使いづらい性的マイノリティの実態も示されました。インターセクショナリティの観点から性的マイノリティも地域課題に入れ、包摂された支援が受けられる施策の重要性が強調されました。

 複合的な困難にきめ細やかに長年伴走してきた東北の支援活動のすごさに藥師さんは触れ、他の地域にも派生することが望まれました。今、東北では性的マイノリティの居場所が周辺地域にも増えており、そこに学びにくる支援者との交流の場にもなっていることが大森さんから紹介され、多くの可能性が東北にあることが共有されました。

 詳しくは以下をご覧ください。   ※コーディネーターは濱田すみれさん(SJF審査委員)

      Kaida SJF

 

——大森駿之介さんのお話——

東北地方におけるセクシュアル・マイノリティの就労に関する課題、就労支援の実態調査

 私は「にじいろCANVAS」のメンバーの一員として、この就労支援のアンケートを作成し、その分析に関わってきました。その成果を少し今日は皆さんと共有したいと思います。

 まず、この調査目的は、地方の性的マイノリティの就労に関わる課題と困難を明らかにして、キャリア支援のあり方について改善を求めていくことです。2023年度の10月くらいから2ヶ月間の調査期間がありました。

 これは2つオンライン調査を実施しました。1つは、東北地方に在住するセクシュアル・マイノリティの就労調査(以下、「LGBT就労調査」)です。2つ目は、性的マイノリティに対する東北地方での就労支援の現場での調査(以下、「LGBT就労支援調査」)をしています。

 調査主体として、にじいろCANVASの就労調査チームを編成して、Googleフォームを作り、調査分析をしました。 調査方法は、アンケートフォームを作り、X(旧Twitter)やにじいろCANVASのホームページや、私が共同代表をしている東北地方のプライドパレードの時にこのアンケートフォームを参加者の皆さんに配る形でアンケート調査の協力を依頼しました。質問項目は、特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティと国際基督教大学ジェンダー研究センターによる共同調査を参考に作成しました。

 

 その調査結果を見ていきたいと思います。

 LGBT就労調査では、回答者は88名で、うち有効回答が80名となりました。対象者は、私たちの調査で特徴的ですけれども、東北地方に在住している人や、東北地方に在住して就業している人、また就業経験のある人で、性的マイノリティの当事者とし、地域に限定した調査方法を取りました。

 今回使用するSOGIE分類(下表参照)は、左側の列は、出生時に割り当てられた性別で、隣の列に性自認が入って、ここに性的指向を掛け合わせると、SOGIE分類を12個に分類できます。今回、この12分類を使用する場合もありますし、右側の列にあるように、シスジェンダーとトランスジェンダーという形で分類する場合もあります。今回は、性的マイノリティを対象とするので、ここにシスヘテロセクシュアルの方たち(表の水色セル)調査の対象には含んでおりません。

      Kaida SJF

 回答者の分類を見ていきます。特徴的なのは、シスジェンダーの方が48%に対して、トランスの方が52%ということで、若干、トランスジェンダーの方が多くなっています。特にFtXとカテゴリー付けされるよう方たちの回答が多くなっていて、この傾向は虹色ダイバーシティの調査にも見られていました。ただ、本調査では、シスジェンダーのゲイ男性の回答者はかなり少なくなり、反対にシスジェンダーのバイセクシュアル女性や、FtM(トランス男性)とMtF(トランス女性)の回答者の割合がやや高くなっている状況です。

 回答者の年代は、10代は1名にとどまってしまい、実は20代・30代・40代の回答がかなりを占めています。これを、SOGI分類と年代とでクロス集計しました(下表参照)。 シスジェンダー女性では30代が過半数になっており、シスジェンダーのゲイ男性では40代が回答者の多くを占めます。FtXやMtXなどの方々は20代が多くなっていることは特徴的だと思います。   

 Kaida SJF

 

 回答者の居住地域については、東北地方には6県ありますが、私たちが宮城県を拠点に活動しているので、任意抽出という形でアンケートを配る関係上、宮城県にゆかりのある人が多くなった感じがいたします。ですので、政令指定都市の仙台市がある宮城県の回答者が多くなっています。一方、人口20万人以上の中核市よりも人口規模が小さい市町村の回答者の方が高い割合を占めているのは特徴的だと思います。

 就業状況については、回答者の過半数はトランスジェンダーでしたけれども、就業率はトランスジェンダー層の方がシスジェンダー層よりも若干低いという状況で、失業率はやや高いという状況になっていました。これは他の調査(Niji Voice 2023)でも同様の結果が得られていました。

 就業状況をシスジェンダーとトランスで比較しました。現在仕事をしていると回答した67名の方がどういう雇用形態であるかという調査です。正規雇用率は、高い順にシスジェンダー男性、シスジェンダー女性、生まれ男性のトランス、生まれ女性のトランスとなりました。非正規雇用率は、この逆順となり、生まれ女性のトランス、生まれ男性のトランス、シスジェンダー女性、シスジェンダー男性という順番に下がっていました。

 では、就業者はどのような業種に属しているのかについては、事務や対人サービス、専門職が過半数を占めているけれども、工場労働が14%を占めていることは特に地方性があると私たちは思っています。ただ、これがどれぐらいの比率で妥当なのかというは、まだ確かなことは言えません。

 

就活時に多くの困難を抱えているトランスジェンダー

 そういったシスジェンダーとトランスジェンダーで、就職時や転職時にどのような困難があるのかを集計したものをお示しします。トランスジェンダーで困難を経験した人は87%で、シスジェンダーのLGB層では困難の経験があると答えた人が66%で、トランスジェンダーの方が困難経験の割合が多くなっているというのは、他の調査と同じ結果が得られました。

 ここで、就職時や転職時に経験したセクシュアリティに関連した困難を、SOGI分類とクロスしました(下表参照)。これは、あるカテゴリーに含まれる人の中でどれくらいの割合がある場面での困難性を感じたかというものです。困難の内容ごとの各項目に対して「ある」「なし」を回答していただく形でしたけれども、例えば、青色の「異性愛であることを前提とした対応や質問をされたこと」に関しては、シスL(レズビアン)で50%の方が「ある」と回答したことを示しています。

 このグラフから分かることは、シスジェンダー女性とシスジェンダー男性は、性自認や性表現に関する困難経験の回答率を低く、性的指向に関する困難経験はやや高くなっております。トランスジェンダーの場合は全体として、性別二元的な性区分とそれに基づく就活のシステムに困難性がかなり多く見られます。特にFtM、MtX、MtFのトランスジェンダーが就活時に多くの事柄について困難を抱えていることが明らかになりました。     

 Kaida SJF

 

相談したくてもできなかった性的マイノリティの割合が高い若い世代

 こういった困難を抱えた時に、誰に相談するのかを見てみます。

 SOGI分類で計測したのですが、複雑化していて傾向を捉えるのが難しかったので、ひとまず年代を見ていきました。その結果、家族へ相談する率が、年代が上がると増加していました。年代を経ることによって、家族に相談しやすくなることがわかると思います。20代ですと性的マイノリティ当事者への相談がかなり多くなっていて、家族への相談は少ない状況です。40代・50代の場合ですとそもそも相談事が無いという場合が多々あるけれども、一方で20代・30代は相談事があっても相談できなかった場合があるということが明らかになったと思います。

 

 今度は、現在、就労している方で、継続意識というのをシスとトランスでクロス集計してみました。FtMや FtXなどの就業継続意識は強めに出ました。一方、シスジェンダーのゲイ男性は継続意識が低く出ているのです。この理由として、賃金の良い職行に転職したいという動機づけがかなり多く見られました。これについては、その場で就業せざるを得ない何らかの理由があったからではないかと私は推測していますが、これは今後、詳細な分析が必要だと感じております。

 

 周囲にアライがいるという認識についてです。これもシスジェンダーとトランスジェンダーを比べてみました。すると、トランスジェンダーの方が「(アライが)いる」と回答した人が多い形になりました。ただ、「わからない」という方も一定数いて、「わからない」と回答した人はシスジェンダーのレズビアン、バイセクシュアル、シスのゲイ男性が、トランスジェンダーよりも多くなっています。これは、カミングアウトとの関係があるのかもしれません。

 以上、選択肢がある調査項目の集計を見てきました。

 

「性別二元制に基づく採用システム」や「異性愛中心的なライフコース」を前提とした面談が困難を招く

 ここからは、どういう困難があったかのか、具体的な記述回答に即して検討してみた結果を皆さんにお示ししたいと思います。

 80名からの自由回答を、16のカテゴリーに分類してみました。なお分析上、1人の複数の記述に異なるカテゴリーに分類できる要素があった場合は全て個別のカテゴリーに分類しているので、回答の総数は80名より多くなっています。

 就業時や転職時の困難で最多の回答カテゴリーは、「性別二元制に基づく採用システム」になりました。例えばトランス男性の場合では、大学で男女別の就活対策講座があり女性として受講しなければいけなかったという回答がありました。シス女性バイセクシュアルの方からは、面接カードの性別欄に「性別は任意」と書かれていたけれども性別を記載しないことが面接結果に影響するのではないかというプレッシャーを感じて記載せざるを得なかったという回答がありました。こういった事例はかなり多く見られると思います。

 続いて大きな回答カテゴリーは、「異性愛中心的なライフコース」です。 例えば、同性パートナーと暮らしていることを隠して、実家暮らしであることを話したところ、面接時に「人はみな、実家を出て生計を立てて異性と結婚する時が来る」、「せっかくその手助けとなる、女性にもやりやすい職種を用意しているのに、なぜこんなにも甘えた人間ばかりくるのか」、「時間をやるから、もう一度志望動機を言ってみろ」と、まるで自立して結婚する以外の生き方を全否定するようなことを言われたという回答がありました。これは、異性愛中心的なライフコースの典型かなと思いました。

 これ以外の事例としては、「カミングアウトのしづらさ」、「カミングアウトの拒絶」、「社員旅行や健康診断等にある性別二元制に基づく障壁」が回答に多かったです。また、「LGBTQやSOGIに関する話題提供の自粛要請」もいくつかの事例がありました。例えば、セクマイに関する活動していたけれども、面接で「なぜその活動をしようと思ったのか」を深掘りされるので、自分のセクシュアリティの話をしたら、「そういった話はしない方がよい」と助言を受けたという回答がありました。これはもう、自粛要請ですよ。抑圧ですよね。

 就業時の場合でも事例がありました。「カミングアウトして働いたところアウティングされてしまって、地方では人間関係が狭く、母親が私のセクシュアリティを受容していないため広まってしまったら家族にも迷惑をかけるという不安が募った」ことが発生してしまったり、「ジェンダーによる賃金格差」があったりといった困難性が見受けられました。

 

LGBTだから解雇されたジェンダー不平等な実状

 次は、回答数が少なかったけれども重要だと思ったので取り上げてみたいと思います。「LGBT当事者だから解雇された」という「差別的な解雇」はもってのほかですけれども、「就活への不安」もあり、「そもそも就職活動への気持ちが向かない」、「それまでの差別や偏見で、社会に参加するのが怖かった」という人も見受けられました。 あと、前職が保安職だった方の回答で「男性9割以上で、結婚圧力もセクハラも日常でした」。これはセクシュアル・マイノリティだけではなく、シスヘテロのマジョリティ層でも問題になっているかなとは思います。

Kaida SJF

 

     

 

 

 

 

地方支社まで浸透していない性的マイノリティへの包摂的な企業姿勢

 東北地方などの地方における困難性について考えたいと思います。

 「LGBTにとってのロールモデルのなさ」。例えば、「就活生の体験談を見ていたけど、結局セクマイのロールモデルがなく、講師のアドバイスを聞き入れるしかなかった」。

 あと、私が特徴的だと思ったことは、「面接時に企業の採用ページにあるLGBTQに関する企業姿勢が好印象だったことを面接官に伝え、自分のセクシュアリティを開示した時に、面接官が怪訝そうな顔をしていた。それをみた私は怖くなり緊張が増して、うまく面接で話ができなくなってしまった。その際、面接官の人事の方は、言葉では偏見とか差別をする人がいないと即答してはいた。しかし、自社のLGBTQに関する企業姿勢を全く把握していない様子だった」ということです。この話は、大都市のLGBTQに関してフレンドリーな企業であって、親会社がフレンドリーさを強調していたとしても、地方の支店の従業員には明確に反映されてないという事例なのです。これは、本人も期待を上げて落とされるみたいな感覚をすごく持っている形で、こういった困難性は地方における特徴的な事例かなと感じて挙げさせていただきました。

 

 「自分のSOGI以外に、就業選択に影響していると思われるものは何か」という回答のカテゴリーをお話します。ただ、この設問では回答例として「障がいの有無、家業の継承、介護、地域での業種選択のなさ」を表示したので、その影響があるかとは思います。

 結果、「業種選択の少なさ」が最も多い形になりました。「何らかの障がい、精神疾患をもつ」、「年齢によってできる仕事に限りがある」。「車社会の適応が絶対必要」だということで、これも地方における特徴的なところかなと思いました。あと、「SOGIにおける知識不足」、つまり「アライであることを振る舞いとして見せてくれるんだけど、知識がなくって結局こっちがモヤモヤする声かけが多い」。こういうのもかなり東北だけではないけれども、地方に特徴的なところかなと私たちは感じています。

 

東北地方の相談支援者 LGBTQについて学んでない人が半分程だが、資格養成機関で学んだ人も多い

 ここからは、東北地方におけるキャリア支援などの相談支援をしている団体さんに、LGBTQに関する支援の実態把握ということで、Xやツテを使って優位的にサンプリングをしました調査結果をお話します。

 まず相談支援を行っている対象は、高校生や大学生がざっくり半数で、ここら辺は学校教育機関になってくると思います。また、社会人に対するキャリア支援を行っている機関がだいたい半数という形になっています。

 施設を見ると、さらにそれが明確になります。一番多いのは教育機関のキャリアセンターです。次いで障がい福祉サービスが多く、あとは行政、企業のカウンセリング、NPOや任意団体さん等がある形となっています。

 回答者が持っている資格を見ると、教員免許を持っている方が多く、次にキャリアコンサルタントで、学校教育と何かしらの就業支援を行っている方という二つに分かれている状況かなと私たちは推察しています。

 回答者のキャリア支援事業に関わってきた年数は、1年未満が19%で、1年以上5年未満が13%。そして5年以上10年未満が30%で、ここが大きな層を占めていて、中堅ベテラン層なのでしょう。

 この支援年数とLGBTQに関する知識の有無をクロス化させたグラフです(下図参照)。どの経験年数でも「学んだことがない」という方が一定数いる状況です。ただ、10年以上20年未満の支援者の場合だと、それが逆転しつつあるのかなとは思っており、この場合、勤務校の研修で学んだとか、個人で研修に行ったとか、資格養成機関で学んだ方が多く、ここはすごく重要なところかなと思います。一方、10年未満の場合は、まだ足りてない状況のある方と半々ぐらいです。

Kaida SJF

 

キャリア支援の中堅層 半数程度がLGBTQの支援経験がない 研修強化を

 実際にLGBTQの支援経験は、回答者37人の方のうち、「ある」と答えた方が43%、「ない」という方が43%で半々です。「わからない」と回答した人が14%です。これをもう少し詳しく見ていきます。

 回答者のキャリア支援の経験年数と、実際にLGBTQを支援した経験の有無をクロスしてみます(下図参照)。キャリア支援経験が1年以上5年未満の方と10年以上20年未満の方は、LGBTQ支援の経験が「ある」と回答した方が半数以上になっています。一方で、「ない」と答えた割合も同程度で、先ほどのSOGIに関する知識の有無と重ね合わせてみると、新規層だけではなく中堅層の支援者にも研修などを強化する必要があることが見えてきたと思います。

 LGBTQへの支援経験があると答えてくれた16人に、実際に何人に対応したのかも尋ねたら、一番大きいのは、1名から5名未満で75%、5名以上が約2割を閉めました。

      Kaida SJF

 

カミングアウトしてニーズを伝えられない人たちに支援を届けるには

 支援経験があると回答した人の自己評価に関してお話しします。

 「なぜ利用者は、あなた(支援者)にカムアウトしたと思われますか?」という評価に対して、「(守秘義務を明示した環境だったから)信頼関係の構築があった」、「自分自身がLGBTQに理解がある、偏見がないと思ってもらえた」、「就職するにあたり、希望の条件や環境についての不安を相談するために言ったんじゃないんですか」という人がいました。

 こういう人もいました。「就労を目指す上で、現在の生活環境を知る必要があったため、質問に答えてもらう形で伝えていただいた。どういう環境であっても、こちらが受け入れるという姿勢でいたので伝えていただけたのではないかと思います」。これは確かに、伝えやすい環境を作るのも大切ですけれども、就労支援において「ニーズ」は当然伝えられるものであって支援側もそれを知っておく必要があるものとして位置づけられているのは、少し危険性があると思います。「ニーズがある」と言ってくださいと支援者が受け身の姿勢でいき、そこをメインストリームに置いてしまうと、「伝えられない人はどうするの?」という話になっているので、ここは検討が必要かなと思いました。

 これら支援経験があると答えてくれた方が、十分な支援ができたか・できなかったかの割合については、一番多いのは、「十分適切な支援ができた時とできなかった時もある」。これと、「十分適切な支援ができなかった」ことの理由としては、「カウンセリングの時間が多く取れなかった」、「セクシュアリティに関する言語化が本人の中で難しかった」、「紹介する先への理解不足」、「安定的な就職に至っていない状況」、「本人が地域での生活に違和感があり、別の地域に転居してしまった」というケースがありました。諸々の事情をたくさん抱えている方もいて、支援者にはいろいろな理由付けがあったことが分かりました。

 

パワハラ防止法に追加されたSOGIハラスメント

 支援現場でLGBTQへの不適切な言動を見聞きしたことがあるかについては、支援者側から見て不適切な言動はあまり見聞きされていないという回答が73%となりました。一方、見聞きした人の内容は、「結婚しないの?」と聞くとか、多様性はわかるけど自分は受け入れられないなどの偏見を伝えられるとか、そういったケースが多くなっております。ただこれは、不適切な言動がなかったと相談員から回答しているので、当事者からすると実際にはかなり多かった。差別的、不適切な発言というのは、かなり無意識的なものも多いですので、そういったことを勘案するともう少し多く出てくるのかなとは思っております。

 「回答者が現在働く支援機関で、LGBTQに関する取り組みは何かありますか?」という問いも設けました。一番多いのは、「LGBTQをネタにすることやアウティングがハラスメントであることを周知してっている」というもので40%。これはSOGIハラスメントがパワハラ防止法の項目に追加されたことの影響が大きいのかなと私は考えています。一方、取り組みが行われていないというのも30%ぐらいあり、2番目に高い割合なので、ここも考えていかなければいけないと思っております。

 

支援者の“普通”を前提にした対応がLGBTQを侵害しないよう研修等を深めて

 「キャリア支援の現場でLGBTQの支援が円滑に行われるために必要と思われること」の自由記述からは、多くの人は「知識の充実・研修・マニュアルの作成」に重きを置いていることがわかりました。あとは、「利用者の多様な背景を踏まえた理解や支援、傾聴」。また、そもそも社会に働きかけることの重要性を認識している方もいました。

 一方で、その他の利用者と「同じ対応」で「特別扱いすることがない対応」を心がけるという回答もありまして、これも少し考えないといけないところかなと思っています。つまり、支援者の「普通」で対応していく過程でどうしてもバイアスやSOGIに関する知識の有無の影響が発生してきますので、利用者・被支援者を侵害してしまうことが考えられるからです。そういったところも考えて、支援の場では、より深いSOGI理解や研修、ロールプレイング等をやっていった方がいいのかなと私は個人的に考えています。

 発表は以上になります。ありがとうございました。

 

 

 

——藥師実芳さんのお話——

 大森さん、素晴らしいご発表ありがとうございました。LGBTQと就労について考えていく話しをできればと思います。認定NPO法人ReBit代表で、社会福祉士、精神保健福祉士、そしてキャリアコンサルタントでもあります。LGBTQについての啓発や支援を長年やってきております。

 私、もともと女の子として生まれていて、でも小さい頃から性別に違和感がありました。それを誰にも相談できないまま、17歳の時に自殺未遂を経験しています。当時の私のように誰かと違うということで生きていけないと思う子たちが、そうじゃないよと思えるといいなと思って、20歳の時にReBitを立ち上げて15年間取り組んでおります。

 ReBitは2009年より、LGBTQを含めたすべての子どもがありのままで大人になれる社会を目指しています。教育現場の啓発やキャリア支援、昨今では福祉事業もやっております。福祉については、LGBTQであることは、病気や障害ではないですが、4割が鬱など精神疾患を経験しているので、LGBTQと精神障害のダブル・マイノリティの方を主対象とした障害福祉サービスを東京と大阪で展開しています。

 ということで、LGBTQが学ぶ・働く・暮らすことに対して15年間取り組んでいる団体だと知っていただければと思います。

 

 LGBTQの就活・就労の課題ですけれども、そもそもLGBTQの子ども若者はどういう課題に直面しているのか少し見ていきたいと思います。

 LGBTQは3~10%とも言われるマイノリティですけれども、幼少期においては学齢期に7割が学校で困難を経験し、6割がいじめを経験していて、学校が安全じゃない。では家庭はというと、保護者との関係で9割が困難を経験しているので、家も安全じゃない。学校も家でも安全でないし、地域でも居場所がない。そういった中で相談できる場所がなくて、孤独や孤立、自死におけるハイリスク層になっているというのが子どもの課題です。

 では大人になっていく過程ではというと、就活・就労における困難が高く、そのことによって失業や精神障害、生活困窮における高リスク層になっているのです。かつ医療や福祉を安全に使えず、そのセーフティネットから抜け落ちることで、自殺念慮が高くなっている。また、日本は同性同士が婚姻できない状況の国ですので、家族として暮らしている同性パートナーやその子どもたちが家族として扱われないことから、そのセーフティネットからも抜け落ちやすいところがある。

 そういうことで、孤独、孤立、生活困窮、精神障害、自死などにおけるハイリスクゾーンになっているのがLGBTQの実態です。ここに関して、就活においても、就労においてもハイリスク層だという話を今からしていきたいと思います。     

 Kaida SJF

 

     

 

 

 

就活でハラスメントを受けやすいトランスジェンダー ロールモデルが見えない 安全でない相談機関

 就活における困難、主に4点挙げられます。

 1つが、ハラスメントを受けやすいこと。僕らの調査ではトランスジェンダーの87%、9割が新卒就活の時に困難を経験しているといいます。例えば、「面接の際にトランスジェンダーであることを伝えると、帰れと言って面接を打ち切られた」。「最終の役員面接でザーッと人が並んで『最後の質問です』と言われて、何だろうと思ったら『子どもを産めるんですか』と聞かれた」。生殖能力を聞くのは、誰に対してでもハラスメントであるけれども、面接の場で聞いてしまっていて、公正な採用選考もされていない。あと、最近聞くことが徐々に少なくなってきてはいるけれども、「内定後にトランスジェンダーであることを伝えると、内定を取り消された」という事例もまだあると認識をしています。

 2つ目に、そういった困りごとはあるけれども、それを96%が就労支援機関などに相談できていない現状があります。困っているけど言えてない。なぜかというと、安全に相談できないからです。例えば、「就活時にキャリアセンターに行ったけど、セクシュアリティに関する悩みを相談していいのかわからなくて相談できなかった」、「キャリアセンターでゲイであることを相談したら、それを言いふらされて学校に通わなくなってしまった」。相談をできない、もしくはすることによる二次被害があるのが非常に難しい状況かなと思っています。

  3つ目に、先ほども挙げていただいていますが、ロールモデルの姿が見えない。小さい頃からロールモデルが見えなくて、「どうせ自分は働けないんじゃないのかなと思ったから、なんで高校大学に進学するのかわからなかったし、どうせ就活できないだろう」と最初から諦めてしまったというような声もあります。

 特に4つ目、就活の時はスーツやマナー等、男女わけが多いというのが困りごとだと思います。例えば、トランスジェンダーでXジェンダーという、性自認が女性と男性のどちらでもない方ですけれども、「就活はリクルートスーツとか望ましい服装が男女で分かれて、マナーも男女で分かれて、エントリーシートも男女で分かれて、そうやって入口で男女で分かれる中でXジェンダーの自分がスタートラインに立てなかった」とおっしゃっています。

 

 では働き始めたらどうかというと、厚労省の調査によると、トランスジェンダーの半数以上が就労している今でも困難を経験しているといいます。なぜかと考えると、まずハラスメント受けやすい職場の中で9割のLGBTQは誰にもカミングアウトしていないという調査結果もあります。でも言わなければいいのかというと、言わないと「彼女はつくらないのか」とか「そろそろ結婚しないのか」とかLGBTQじゃないことを前提に声かけをされることによってハラスメントが生じてしまう。では言ったらどうなのかというと、それを言いふらされて昇進に影響しましたとか、そこからハラスメントが始まって辞めないといけなくなりましたということがあるのです。なので、言っても言わなくても職場でハラスメントを受けやすいというのが大きな課題であると思います。

 じゃあ相談すればいいかというと、また相談ができない。職場のハラスメント窓口に相談したら、それを言いふらされちゃったとか、もしくはうちでは受けられませんと断られたとかで、職場のハラスメント窓口でも相談ができない現状があります。

 働く上でセーフティネットになるのは福利厚生や制度ですけど、ここにも包摂されていないことが多いです。例えば、家族を前提としている福利厚生の中で、同性パートナーは対象にならないところがまだ多く、同性パートナーと子育てをするとか同性パートナーの親を介護するとなった時に育休や介護休が取れないとか、転勤の時に帯同できないとか、様々なところで家族が仕事を選ばないといけなくなる。

 一方で、私のようなトランスジェンダーであると、今はまだ法律上いくつかの手術をしないと戸籍を変えることができない過渡期ではありますが、そのできないという状況の中で手術をするための休みを取れるかというと、休みを取れないから仕事を辞めないといけないこともあります。もしそういった休みは積立休暇などでなんとか賄えたとしても、結局、2ヶ月前に女性として働いていた人が男性として働きたいという時に会社のサポートがなければ、名刺の名前はどうやって変えられるのか、服装はこれでよいのか、トイレを使っていいのか、更衣室はどうしたらいいのか、営業の場合は社外にどう伝えたらいいのか分からず、働けないことがまだあるのかなと思います。

 職場に限らず、トランスジェンダーにおいては、トイレ・更衣室・仮眠室といった男女分けで困りやすく、それが相談できないとしたら、毎日働く時に困難が重なっていく状況になっています。

 

福祉や医療のセーフティネットから断絶されているLGBTQ 

 こういうような就活・就労におけるハイリスクもあり、社会的な様々な差別や困難がある中で、LGBTQは精神障害や生活困窮におけるハイリスク層になっています。LGBTQの4割が精神障害を経験していますし、2人に1人は過去10年に生活困窮を経験しているといいます。 LGBTQであること自体が障害福祉や生活困窮福祉の対象になるわけではないけれど、精神障害があるLGBTQは障害福祉サービスの対象になるし、生活困窮をしているLGBTQは困窮支援制度の対象になりますが、安全に使えていないのです。

 LGBTQの8割が福祉を利用する際に困難やハラスメントを経験していて、その結果、5人に1人が自殺を考えたり、自殺未遂につながったりしているという。セーフティネットが使えないから自死するって、もう本当に苦しい困難にたくさん直面しています。

 精神障害になった時、医療も非常に重要になりますが、LGBTQの7割が医療利用時に困難やハラスメントを経験しています。トランスジェンダー女性・男性であると4割が体調不良でも病院に行かない・行けないと言っているので、医療や福祉からの断絶もあって、より状況が困難になっています。

 

 LGBTQの支援における課題です。こういうふうに就活・就労における困難が多く、失業や精神疾患、生活困窮にもつながっている。本当に安全に支援を使えることが大事なのだが、支援の皆様について一つ調査を見ていきたいと思います。

 僕ら「支援者のLGBTQ意識調査2023」というのをやりました。これは就労支援者に限らず、福祉系の方が多いですけど、支援者・対人援助職全般に対して、n数491名で調査をとっております。この主な発見としては、半数近くがLGBTQの支援経験があるけど、逆に半数は無いと言っていることです。LGBTQが3~10%いるので一定期間支援をしていたら無いわけはないですけど、「言えない」とか「可視化しない」状況の中でLGBTQであることに関連する困難性を伝えながら支援につながっている方が少ないのだろうということも見て捉えられると思います。

 この48%のLGBTQを支援したことがある人たちの中で、十分な支援ができたかを聞くと、9割方ができなかったとお答えされているのです。なので、LGBTQは相談もできてないし、相談してもあまり適切に支援がされていないことが見えるかなと思います。

 この背景は様々あるけれども、例えば、福祉の三大国家資格である社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士の方に「養成機関の中でLGBTQの支援について学んだことはありますか」と聞くと12%しか習ったことがないのです。他にも、学校の先生に別調査で聞くと、教員の養成機関で習った人は13%程。対人援助職になるにあたり学んで来なかったことは個人の課題ではなくて、育成の仕組みの課題だろうと思っています。

 また、そういった支援をできていないだけではなくて、7割方が他の支援者が不適切な言動を取っているのを見たとも言っているので、支援機関が安全ではない状況であるということが言えるのかなと思います。

 

LGBTQも包摂した就労支援を 安全に働きやすい職場の要件PRIDE指標の活用を

 LGBTQも自分らしく働ける社会に向けてできることを主に2つ、提言させていただきます。

 一つ目は、支援の包摂です。LGBTQが既存の就労支援を安全に利用できるための仕組みづくりが急がれていると思います。LGBTQ支援の専門性が高い支援者の登用ですとか、支援者へのLGBTQ研修の実施、ないしは相談申し込み表などに不要な性別欄を無くす等の事例が既にたくさんの支援機関でされています。

 LGBTQの専門性の高い支援者の登用は、自治体で言うと、「OSAKAしごとフィールド」という大阪府がやっている就労支援機関では何年も前からされていて、LGBTQのための支援を包摂的に捉えていただいているというのは素晴らしいと思います。

 2つ目は、職場においてLGBTQも安全に働ける職場づくり急がれています。社員への研修ですとか、同性パートナーやトランスジェンダーを想定した人事制度ですとか、公正な採用選考に取り組んでいくことが必要です。

 今日は議論がしきれないけれども、民間の指標ですと「PRIDE指標」というものがLGBTQについての企業の取り組みを評価する指標です。今では300を超える企業が取得をされていますので、このような取り組みしている企業があるということで、企業の関係者の皆様、ぜひPRIDE指標をご覧頂ければと思います。どうもありがとうございました。

 

 

 

——パネル対話——

濱田すみれさん) まず、大森さんと藥師さんがお互いのお話を聞いて、双方からコメントや質問があればお願いしたいと思います。

 

大森駿之介さん) 今回の調査は、東北全般という形で私たちは頑張ってきたけれども、その絶対数が少ないというのがあって、継続的にアンケート調査をしていかなければいけないと思いました。

 支援者側ももう少し関心を持ってもらって、常にどういう状況なのかを私たちが把握できるような体制があればとは感じておりました。

 

藥師実芳さん) まずは素晴らしい調査だなと思って、大変お疲れ様でした。この調査、もちろん大森さんがリードされたと思いますが、多分いろんな人の力でできたと思うので。こうやって資源として作ってくださったことを協力した皆さまに感謝しています。

 特にLGBTQの就労困難は、僕らも含めてですけど、定量的にも定性的にも調査結果を出しているけれども、「それは大阪ではあるかもしれないけど、うちの地方ではどうかな」とか言われることが多いじゃないですか。でも、「東北でこういった状況あるんだ」と言ってくださることが、いろんな支援者や企業ないしはメディアの皆さんにすごく影響力が高いと思うし、声が聞かれて届いたと思う。当事者の方たちのエンパワーメントにもなると思うから、本当にこの調査の意味が大きいと思います。

 

大森さん) 私が調査の中で、先ほども事例として紹介したPRIDE指標が高い企業さんが確かにあるけれど、大都市に固まってしまっている。自分は地元を離れたくないとか、家族との兼ね合いで地元にいて近い所に就業したいという時に、結局、地方にある子会社の視点にかかってくる。就活する人たちはきちんとPRIDE指標などを見て応募するのに、東北支社の人はなんかわかっていないと、期待を上げて自分の話をするけれども、期待していたようなフレンドリー感はなくて、そんな事業をやっていましたか?という感じだと、納得のいかなさは募っていくと思っております。

 

藥師さん) まさにそうですよ。調査の中で見えたこと以外の、大森さんが長らく東北に住まわれる中で見聞きしたり感じたりしている東北の課題ってなんですか?と質問させていただきたいと思っていました。今話していただいた、本社はやっているけど支社はやってない中で、就労の場所がないというのがすごい課題だと思っています。

 働ける場所がないことは、そこで生活ができないということだと思う。

 でも逆に、職場はフレンドリーだけど、地元がフレンドリーじゃない場合もあるじゃないですか。その地域で自分らしく働くって、職場×地域の関係性みたいなところがあって、その全部をつくっていかなければいけない難しさがあると思っています。

 どうですか、東北ならでは課題で。

 

大森さん) 職場と地域という話をその就業状況という形で言うと、職場と家族のいるプライベートスペースが明確に分けられない状況もあります。例えば、自営業を地域とのつながりでやっていかなきゃいけない人とか。もちろん大企業でも大都市でもあり得るとは思いますけど。そういう状況で上手くやっていかなきゃいけない時、「職場はフレンドリーだけど」とは他の人には言えない話になることは多々あるとは思いました。

 あと、支援者側が、SOGIに関するセンシティブな情報の扱いが緩くて、共有してもいいんじゃないかとか、この場で言ってもいいんじゃないかとなることがある。そういう情報の取り扱いについての知識が支援者側でも少し不足している部分があると思っています。また、キャリア支援で面接練習をしている時に、SOGIハラスメントにつながるような人権の侵害みたいな質問をされること発生するケースがあって、かなり問題だと思っています。“サポート”でグサグサ刺すみたいな状況があると私は思ってます。

 

セクシュアリティに関する情報は機微な個人情報という認識を アウティングの被害防止へ

藥師さん) そうですね。

 ここで、就労支援の分類について整理させていただきたいと思います。私の浅はかな知識だと、就労支援には主に、ハローワークとか公的な就労支援もあれば、高校などでのダイレクトな就労支援もあります。また、民間企業の就労支援もあり、働き始めてから社内で行う支援もあれば、就活・就労支援自体を事業としてやっている企業もあります。

 議題に挙げたいと思っていたのが、福祉が行う就労支援です。大森さんお話いただいたアウティングは、どこの支援機関でも起きていると感じています。セクシュアリティに関する情報が機微な個人情報だという認識をされていないので、サクサク共有されていってしまうということがままありますし、就労就活ではグループ面接が多いので、その練習中に悪気がなくてもアウティングされてしまうことがある。

 特に大学とか高校の場合だと難しいのが、生活の場所に紐づいていることです。アウティングにゼミの先生やキャリアセンターや友達が絡んでいて関係が難しくなって、学校に通えなくなったり就活就労に影響が出たりするケースがあり、非常に危険だと感じています。

 

大森さん) 確かに、中学校卒業で就職する方もいますし、高校でも同様ですよね。

 

藥師さん) 中高だと、学校からの紹介で制服で行かないといけないケースが多くて、その就職面接に。 特にトランスジェンダーが学校からの紹介で就職をしようとする時はそこが厳しいという話をよく聞いています。

 

つながりの強い地方 限定したカミングアウトから広がってしまう情報 

大森さん) 一つを解決しようとすると、地方の状況だと繋がっている部分があるので、全部オープンになってしまう。だから、俗に言う“ゾーニング”をせざるを得なくなる。これは、この場面ではカミングアウトが可能だけれども、それ以外の人には知られたくないから言わないようにすることだけれども、けっこう難しい。支援者にはニーズを把握してほしいと思ってカミングアウトしたら、他の地域や家族にもどんどん情報が流れてしまうことは確かにあると思っています。

 

藥師さん) これ学校でもそうで、先生にカミングアウトしたいと思ったら、親の同級生が先生の時もあるし、福祉を使いたくてカミングアウトしたいと思っても地元の友達のお兄ちゃんだったりするし、職場で面接官にカミングアウトしようと思ったら遠い親戚だったりする時もあるくらい、すごくつながっているので、ここでだけは言わないというのは難しいですよね。

 

地域に紐づいている福祉 出会った支援者がLGBTQのアライかどうかで命運が分かれる現実

大森さん) カミングアウトした結果は、偶然性によってしまいますよね。蓋を開けてやってみたら良かったかもしれないけど、その結果は全部自分で引き受けざるを得ない。ミスって悪い結果になったらもう終了、というところはありますよね。

 

濱田さん) お話を聞いて、大学等のキャリア支援を担当している部署にもLGBTQに関する専門性が高い職員をもっと登用した方がいいと思いました。一般の職員は人事異動などですぐに変わってしまうので積み重ねにならないし、学生は理解がある人に当たればラッキーだけど、タイミングによってはひどい体験をしてしまうこともあるかもしれません。

 企業の本社と地方支社との違いというのも先ほどからあるけれども、社内の部署によっても違うのではないでしょうか。ダイバーシティ推進を担う部署は積極的に勉強して意識も高く、ガイドラインを作ったりもしているけれど、部署が違えばダイバーシティをよく理解していないところも実はあると思います。

 藥師さんにお伺いしたいのは、東京の企業は良くなっている感じがするのか、それとも大きくは変わらずまだ課題はあるのかについてです。東北に暮らしている人たちが東京に行く場合は、もっと自分らしく働けるんじゃないかと希望を持って行くと思うけれど、現実はどうなのかが気になります。いかがでしょう?

 

藥師さん) 数字から見ていくと、僕、LGBTQのことを始めたのは20歳で2009年です。その時は、「LGBTって言葉、知ってますか?」と聞いても「知らないっす」みたいな感じだったけれど、最近のメディア調査だと日本全体で7~8割ぐらいがLGBTという言葉を知っていると。それでも地域差はもちろんあって、都心が高いですけれども、この15年の中で認知は高まっている。PRIDE指標というLGBTQに関する取り組みを表彰する指標も300社を超えて受賞があるけれど、2016年に始まった時は100社もなかった状況でした。パートナーシップ制度は、今8割近い人口カバー率で、この十数年で日本は確実に変わってきているのが数字から見えることだと思います。

 でも一方で、働きやすくなっているかというと、自分のこの生活圏の半径5m~10mが変わったかは、自分の周りの理解者の数とか環境などによるじゃないですか。それがすべからく変わったかというと、そうではないと思っています。運が良くていい支援者に当たったとか、運が良くていい上司だったとか、たまたまいい人事の人で理解してくれたというパーセンテージは増えているかもしれないけれど、100%になって、生活実感が全ての人にとって変わったというところまではまだ東京もなっていないと思います。 

 私、今34ですけれども、同世代がどんどん海外で働くことを選んでいます。20代の後半ぐらいから海外に行くようになってきている。でも、働く場所や暮らす場所を選べるのは、人生がいつでも選べるわけがそもそもないのと、ごく限られた強者性がある人たちだと思っています。

 私は福祉をやっているので、福祉は地域にすごく紐づいていると感じています。生活保護を受けるなら市区町村で受けることになるし、障害福祉サービス使うのであれば通える範囲になる。でも「その地域が嫌だから都道府県を変えよ」みたいなことにならなくて、そこで出会えた支援者がアライかどうかが、命を左右するところがあるから、半分や8割になったからいいよねという話ではなくて、100%になるまでやり続けなければいけない。ここが切実なのかな、特に福祉とか地域での暮らしとつながっているところは。

 

濱田さん) 住みたい場所を自由に選べるというのはある意味で特権なので、そうできないない人はその場所で困ったままでいいということではないですよね。

 

藥師さん) そう。あと、親が高齢になって地元に戻るとか、墓を守るから地元に戻るみたいな選択を人生のどこかのタイミングですることもあって、今だけ住む場所を選べるからハッピーですというわけにはいかないから、全体で考えていかないといけない。だからこそ、今回の調査も本当に重要だと思っています。

 

生きるための2層の砦——学校・職場と福祉・医療——で受け止められる地域に

大森さん) 藥師さんのスライドで再確認したのは、就活と就労のどちらもかなり困難が発生してしまった時、助けられる最後の砦であるセーフティネットがあるのが望ましいけど、医療や教育、福祉の場が針の筵になっていてセーフティネットになっていないことです。

 これをどういうふうに変えていけばいいのか。支援が支援者の人によっては良くない。どこの地域であっても、同じようなサービスが提供できて、SOGIEに関する配慮があって、安心して使えるようにしないといけないけど、まだ足りてない。

 

藥師さん) 生きる時に、二重構造がある印象を持っています。学校や職場などの生活環境からこぼれないようにする砦がまず一つあり、そこでインクルーシブに自分らしく在れるのが良いと思う。そこがそうじゃなかった場合、次の砦は福祉や医療になってくるけれども、そこからこぼれ落ちると自死につながることが多いと、僕の伴奏させていただいたり一緒に考えさせていただいたりしたケースで、思っています。

 だから、この2層の砦できちっと受け止めないといけない。けれど、例えば、トランスジェンダーが更生保護施設に入る場合でも「男女で分かれている施設しかないから入れないよ」とか、「ホルモン投与をやめないと入れない」と言われたと聞きます。そんなわけないのに支援者の理解次第でそう言われたり、障害福祉サービス使う時にアウティングされてしまって通えなくなったり、そういうことが本当に悔しい。

 地域が変わるってことは、その2層の砦が両方変わることにつながるのかなと思います。

 

この社会を変えていくために一人ひとりができること

濱田さん) 今日はいろんな立場の人が参加してくださっていると思うけれど、この社会を変えていくために一人ひとりができることがもしあれば、お2人に聞いてみたいと思います。

 

大森さん) その人の置かれている状況にもよって、やれる事は限られてくる一方、できることも多分あると思います。例えば官僚の方や政府の中枢部に近い方だったら福祉事業の中でLGBTQに関する支援も入れて研修をきちんとやるように仕組みを変えていくことも多分できると思います。もっと草の根的な場合は、私たちの施設でどういうふうに研修を企画していくかなどを考えることは多分できると思います。あと、県の社会福祉会のような場合は、その議題に挙げてみるとも大切なのかなと思っています。働きかけが、その人の立場や就いている職業や役割によって変わってくるとは思うけれど、できることはあると思いました。

 

藥師さん) 正にいろんなことができるというのは大森さんのおっしゃる通りです。僕らのつくっているツール資材もいくつかご紹介したと思います。

 一つ目に、「福祉職・対人援助者向けLGBTQ eラーニング」を公開しています。

 職場の皆様と学んでいただく機会を持ったり、事業所全体で使えたりするので、使っていただけると嬉しいです。色々な冊子もあるので、よかったらそれを見てほしいです。

 他には、「自治体LGBTQ/SOGIEできることハンドブック」も魅力で公開しています。

 40自治体の事例を掲載しています。東北の自治体も入れさせていただいています。自治体として何できるかが特に去年、LGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)ができてまだ計画が公開されてないため、自治体の皆様お困りのところがあると思うので、このハンドブックを参考にしていただけると嬉しいと思います。

企業の方に向けての無料ハンドブックもありますし、教員の方に向けたものもあります。

 そういったツールがあることを皆さん持ち帰っていただいて回覧いただくとか議題に挙げていただき、声を上げていただくことで、事業所や学校などが変わっていくので、ぜひ持ち帰っていただけると嬉しいなと思います。

 

濱田さん) これから教員になりたいと思っている学生にもぜひ見て学んでほしいと思いました。リンクを拝見させていただきます。ありがとうございます。

 

 大森さんに、この今回の調査を今後どう活かしていくかについてお話をいただけたらと思います。

 

大森さん) この調査を、にじいろCANVASでどういうふう活かしていくかは今後議論していくところです。やはり、アドボカシーに使っていくのがまずメインかなと思います。例えば、にじいろCANVASで引き受けた講演の時にこの調査を出すことによって、より根拠を持って支援の重要性を訴えかけられますし、インターネットでの公開範囲はまだ検討中ですが、実際の私たちの相談事業に活かすことも考えたりはしています。

 

濱田さん) この調査を有効に使うためにどんなことができるか、藥師さんからアドバイスがあれば聞きたいと思います。

 

藥師さん) いろいろなメディアで今回の調査のことを書いていただけるとすごくいいと思っています。特に東北の新聞とかで記事になっていくことで、可視化が進んでいくといいと思っています。

 またぜひ、自治体の皆様、特に就労に関する部署とLGBTQに関する部署に届けていくような資料になっていくとすごくいいと思いました。ぜひ広く伝えていただけるとありがたいです。

 本当に素晴らしい調査、ありがとうございました。

 

東北の周辺地域にも広がる性的マイノリティの居場所 学びに来る支援者との交流の場にも

 ここで、にじいろCANVAS共同代表の小浜耕治さん、いきなりですみませんが、ここまでで思われたことが多分いろいろあると思っていて、ちょっと教えていただいていいですか。

 

小浜耕治さん・にじいろCANVAS共同代表) 一つひとつ話題になっていることが本当にその通りです。

就労支援の場というのがものすごくたくさんありますよね。その中で、支援をしている人の間で――それは企業の人の間でも――ばらつきがものすごく増えてしまって、行き当たった人によって違って、仲間意識みたいなところで分かってくれる人もいれば、人権的なところで分かってくれる人もいれば、というところで、それをどう均していくか。これからどう変えていくかという点で、今日の話はとても示唆するものがあると聴かせてもらいました。

 

藥師さん) 小浜さんが長年、東北でやってくださっている中で、何が変わってきていて、これからどこが変わっていくといいなと思っているところを教えていただけたら、すごくありがたいと思います。

 

小浜さん) 簡単に言いますと、全体の空気、温度は変わっているけれども、その凸凹は何も変わってない。深いところまでわかっている人はそれほど増えていない。なんとなくLGBTって知ってるよ、友達にもいるよ、ということはあるにしても、どういうふうに付き合っていったらいいかといったところの勘所がわかっていなかったり、どういう事情にあるかというところまでは知らなかったり、そういうところは昔からで、まだ変わってないっていない。そこが変わってほしいけれども、やっぱりなかなか変わらないところですね。今回の調査でも、それが示されたかなという実感は持ちましたね。

 

濱田さん) 東北は、すべての県でプライドパレードがあり、各地域の主催者が集まってパネルディスカッションをやったりもしています。そのような連帯が東北にあることには、すごく可能性があると感じています。現実にエンパワーメントされている人たちがたくさんいます。

 またありますよね、今年も。

 

大森さん) はい。今年も企画を進めております。

 東北の居場所、セクマイ団体はすごく増えてきている状況です。しかも、ただ増えてきているのではなく、私の調査から言うと、例えば宮城県の県北とか、中心部に若干行きづらい地域で増えている。県庁所在地には多かったけれど、そこから派生していって、秋田でも宮城でも周辺部に行き渡るようになってきています。

 実は、そこの交流会で、引きこもり支援の人が来たりします。だから自分から出向いていくことによって、勉強したいけど勉強できてない支援者が来ているので、そこで情報交換をしていくというのがありました。講演は、ある程度力がないと団体でも何回もいろんなところでやるのは難しいけれど、交流会をもう少し幅広くとって、現地にいる福祉の人や引きこもり支援の人が実は集まっていて、ディスカッションするということも実践としてはあるのです。そこでどんどんSOGIに関する知識を広めていって、スタッフの方も支援者を支援することもある。そういう実例は、今のところ観察されています。

 

濱田さん) 地方は大都市と違い公共交通機関が充実していないので、同じ県内でも行き来することが難しい地域も多いです。そういう小さい集まりがいろんなところにできるのは素晴らしいと思いました。

 

 

――グループ対話とグループ発表を経て、ゲストからのコメント―― 

※グループに出演者も加わり、グループの方々に感想や意見、質問を話し合っていただいた後、会場全体で共有するために印象に残ったことを各グループから発表いただき、出演者からコメントをいただきました。

 

インターセクショナリティの観点からLGBTQも施策・地域課題の中に入れていく

大森駿之介さん) グループディスカッションでは、自治体の中でも意識調査などをやっているかもしれないですけど、それを統合して検証することも必要かなと思いました。

 あと、中小企業はインクルージョンの施策を取ることが金銭的には難しくはないけれど、後回しにされがちです。大企業の場合だと、ESG投資の部分でいろいろな施策を打っていかない投資をもらえないし、企業も大きく成長できないので、ダイバーシティ・インクルージョンの施策にお金を投入する動機があるけれど、中小企業は人事制度もかなり難しい状況だし、人も足りない状況で、そこまで手が回らず、やらないという選択を取る経営者が多いと思うのです。それをどういうふうにするのが非常に悩ましい。

 そのためには、政府の方で統一的にやらないと。企業に、インクルージョン施策をとらないと投資受けられませんよ、銀行の融資受けられませんよといった働きかけを政府から強めていかないと、地方では今後厳しいのではないか、という話をグループでしていました。

 

 全体を通しては、問題は複雑だけれども、人が少なくなっていく状況に至った時に、企業側はどういう振る舞いをするのかが問われていると思うのです。困難な状況に立たされている人はたくさんいて、LGBTQに限らず複合的なインターセクショナルな観点からも難しい状況に置かれている人はたくさんいるわけです。みなが限りある中でやっている中でも、その人たちにスポットを当てる。スポットを当てるだけではダメで、支援側のシステムも変わっていかないといけないし、企業側も変わっていかないといけない。今回の調査が、そこに少しでも繋がっていくのであればよいなと個人的には思います。

 

 

藥師さん) 正にインターセクショナリティの観点から、LGBTQもどうやって地域課題の中に入れていくのか。それは就労もだし、福祉もだし、教育もだし、全部一つずつLGBTQも入れていくことを議論し続けていく必要があると改めて思いました。

 

複合的な困難に長年伴走してきた東北のきめ細かな支援活動 他地域にも波及を

 東北の情報で聞こえてきているのが、各地域のパレードが県ごとに今あって、それをリードしているのは若手がすごく多いこと。20代~30代前半の若手が多くて、東北の勢いが熱いぞって聞こえています。

 大森さんも今日も素晴らしいリーダーシップでしたけど、こういうふうに若手のリーダーが育っているのは、先輩が育ててくれるからじゃないですか。僕自身もそうでした。小浜さんはじめ地域の先輩たちが次のリーダー育てようと伴走しているということも聞いているし、地域で横のつながりを作ってきて今すごい勢いで進んでいるというも聞いています。

 今、インターセクショナリティとか重層的・複合的な困難があるということが、支援の中でホットですけれども、東北の支援者の皆様は既にすごく重層的で困難な支援に何十年も前から伴走していただいている。支援に対するきめ細かさや支援力の高さがずば抜けてすごいという話を聞いています。

 この東北の凄さをぜひ他の地域にも教えていただきたいと思っているし、それが垣間見えた時間でもあったと思っています。素晴らしいチャンスです。ありがとうございます。

 

濱田さん) 誰でもどこにいても個別性を大切にされながら、一人ひとりのニーズに応える支援を受けられるようにしていきたいなと私自身もグループディスカッションを通して思いました。東北にはたくさんの可能性があると感じます。いろんなところでつながって、活動していけたらと思いました。本日はご参加いただきありがとうございました。

 

 

 

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※今回24年4月13日のアドボカシーカフェのご案内チラシはこちらから(ご参考)

 

 

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