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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第80回開催報告

デートDV防止から始めるジェンダー平等な社会づくり

~カップルの対話から考えるヘルシーリレーションシップ~

   

 2023年9月2日、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、水谷萌さん(NPO法人ピルコン フェロー)、阿部真紀さん(デートDV防止全国ネットワーク事務局長)、高島菜芭さん(デートDV防止全国ネットワーク理事)をゲストに迎えてSJFアドボカシーカフェを開催しました。

 

 暴力を生まれた時から振るう人はいない。暴力を容認する社会で生きている中で暴力を学んでいく。だからこそ、暴力とは何かを認識して、暴力が起きた時にできることを学ぶデートDV予防教育を、全ての子ども・若者そして関わる大人が学ぶことが重要だと阿部さんは語りました。ただ、言動が「暴力」となるかは関係性によるもので、交際相手との関係が「いやだ」だと思っても「いやだ」と言えない、「いやだ」と伝えても止めてもらえないのがデートDVという関係だと説明されました。デートDVが放置されたまま大人になればDVや子どもの虐待になる、その連鎖を断ち切るためにもデートDV予防は社会の課題だと強調されました。

 デートDV予防教育の取り組みでは、交際相手に限らず、あらゆる人間関係において、性的指向や障害の種類の違いなども含め、お互いの違いを認め合える対等な関係、ヘルシーリレーションシップの構築が重視されています。刑法の改正(23年7月13日施行)により「不同意性交等罪」が設けられました。性的同意の基盤となる対等な関係を構築するカップルの対話づくりに向けてカードゲームを制作していることが高島さんから報告され、水谷さんをはじめ参加者からご意見をいただきました。性的同意に限らずあらゆることに同意をとりあえるヘルシーリレーションシップの構築は、全ての人が暴力を受けずに生きていける権利が守られるかという社会の問題だと共有されました。

 デートDVチェッカーという教材を使って、学校現場で生徒たちが話し合いながら健康な関係性を学べるNPO法人ピルコンの取り組みも水谷さんから紹介されました。そして、生徒たちにそういった機会を広げるには、その周辺にいる大人たちも関心を持つことが大切だと水谷さんは強調し、子どもや若者の声を聞いてニーズにあった機会を地域でさまざまな機関が連携して広げていけたらと語りました。暴力を容認しない社会、対等な関係性が広がる社会に向けて、企業も含めさまざまなコミュニティに協力をデートDV防止全国ネットワークは働きかけています。

 詳しくは以下をご覧ください。   ※コーディネーターは大河内秀人さん(SJF企画委員)

 Kaida SJF(写真=上左から時計回りで、水谷萌さん、高島菜芭さん、大河内秀人さん、阿部真紀さん)

 

 

——阿部真紀さんのお話——

 私からまず、デートDVについて基本的なお話をさせていただいて、それから、新たな取組みについて、高島さんからお話をさせていただき、さらに、仲間であるビルコンの水谷さんからのお話にリレーしていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

 

 まずNPO法人デートDV防止全国ネットワークの成り立ちからお話させていただければと思います。

 デートDVというまず言葉が生まれたのは、今からちょうど20年前、2003年です。一般社団法人アウェアの山口のり子さんがアメリカでDating Violenceの啓発をなさっていて、日本に帰ってきて、これを同じように予防していこうと考えて本を出される時、最初に考えた言葉です。日本語がデートDVって言葉になります。

 その後、認定NPO法人エンパワメントかながわ(理事長・阿部真紀さん)もそうですけれども、このデートDVという言葉を使って防止していこう、啓発していこう、予防教育をしていこうと考えていきました。本当に全国各地でさまざまなプログラムが生まれたり、さまざまな取り組みが自治体ごとや民間団体にあったりして、それぞれに進めてきました。そのまま15年ぐらい経ったんですね。でも、このデートDV防止ということでつながる全国ネットワークはなかったです。それで2016年から準備をして、2018年8月に設立総会をして、そして2018年11月にNPO法人デートDV防止全国ネットワークを設立しました。ついこの間だなと思っていたけど、そろそろ5年が経つんだなと思っています。

 

暴力とは何かを認識して暴力が起きた時にできることを知るデートDV予防教育

 デートDV防止全国ネットワークの目的。それは、デートDVのない社会です。全国でデートDV防止や支援に関わる活動をしている行政機関や民間団体、そして個人に対して、予防教育を普及させるために、調査研究、政策提言、当事者支援のための連携、啓発活動など、デートDV防止に関する6つの事業を行なっています。デートDV防止全国ネットワークは全国でつながって、デートDV予防教育をすべての子どもに届けることを目指して活動をしています。

「ナタロン」(notAlone)がデートDV防止全国ネットワークのホームページです(こちらから)。その中で、全国マップを最初に作りました。デートDVの予防教育の講師を派遣しているところ、そして啓発グッズを作っているところ、あるいはデートDVの相談を受けてくれるところを都道府県別に掲載をしています。今128ぐらいあると思います。そして今、これをもう少しわかりやすくリニューアルをしている途中です。

 デートDV予防教育の効果測定調査というのも行ったので、その辺も今日はご紹介したいと思っています。効果測定調査をする中で、実は一つ取り組んだことがあります。この全国でみんなバラバラに予防教育のプログラムを作ってきた、その共通事項って何だろう? 共通理解できることって何だろう? それを私たちは考えました。

 私たちが考えるデートDV予防教育とは、子どもたちがデートDVの被害者にも加害者にも、そして傍観者にもならないために、暴力への気づき、対等な関係の学び、そしてジェンダー平等を伝えていくものだということに行きつきました。

 暴力への気づきについては、「殴ったり蹴ったりだけじゃなくて、言葉や態度も暴力になるよ。同意のない性行為も暴力になるよ」と伝えています。暴力とは何かを認識して、暴力が起きた時にできることを知る。暴力を振るわないだけではなく、自分や周りで起きたとき、何ができるか考えていく、そんなプログラムです。

 実は、予防教育効果測定調査を行った中で、効果が一番大きく現れたのが――効果測定調査報告書こちらから)にも掲載されています――、暴力への気づき、暴力とは殴る蹴るだけじゃなかったんだっていうことを伝えることが一番大事だということです。 それから対等な関係の学びです。それは、お互いの人権を理解し尊重し合う対等な関係とコミュニケーションについて、そして社会の中にあるジェンダーバイアスに気づいてジェンダー平等な社会あるいは関係性を目指す意識を育てることの大事さです。この3つが、私たちが考えるデートDV予防教育のキーコンセプトになります。

 

 さてデートDV、どれくらい起きてるの? 皆さんはどう思います? 20組に1組、あるいは5組に1組、3組に1組、どれぐらいだと思いますか。いろんな調査があるんですが、大きな調査としては、内閣府が定期的に行っている男女間暴力調査があります。そこでは10組に1組と5組に1組の間ぐらいの数字が示されています。ただ、内閣府の調査は調査対象が成人です。その調査の回答者属性をよく見ると、50代以上が6割となってます。あれ?今起きてること?と思いませんか。

 そこで私たちはデートDVの当事者世代に対して調査を行ないました。デートDV予防教育を受講した中学生・高校生・大学生2868人を対象に1都10県で行い、自治体を超えて当事者世代に行った実態調査はこれだけです。2016年に行ったから、だいぶ時間が経っているので次の調査をしたいと思っているのですが、今のところ全国規模で当事者世代に対しての実態調査はこれだけです。

 それで、交際経験があると答えた人は1329人。この中で、デートDVに該当する30項目の中で一つでも被害を受けたことがあると答えた人は38.9%、約4割、だいたい3組に1組。最初に山口のり子さんが冊子を出した時も、アメリカで3組に1組ぐらいあるよとおっしゃっていたので。それを裏付けたような数字になっています。皆さんはこの数字を多いなと思いますか?それとも、もっとあるんじゃないかと思いますか? 私は調査って難しいなあと思っていて、実際はよくわからないのが本当のことです。この調査では、デートDV予防教育を受けた上で、調査用紙を配られて○を付けた人の数がこの数値になります。まあ、周りに友達がいるからちょっと○を付けにくいとかもあったかなと思います。

 でもここで大きいのは、デートDV予防教育受けていたからこそ、4割が被害に気づき、2割が加害に気づいたということです。たぶん中学校から大学にただアンケート用紙を配って、「はい、○をつけてください」って言ったら、こんな数は採れないと思うんです。きっと、殴る蹴るだけが暴力だと思ってるから、この数字にはならない。デートDV予防教育を受けたからこそ、行動の制限も暴力なんだと気づいて○をつけたのだと思います。

 この調査の中で一番被害が多かったもの、それは「返信が遅いと怒る」なんです。皆さんどう思います? なんだ、そんなことって思います? 「他の異性と話をしないと約束する」、これも行動の制限です。でも、付き合っているんだから束縛はあるでしょう。それが暴力なの?と思われているのかもしれないと思います。

全国デートDV実態調査 こちらから


Kaida SJF

 

 

 

 

 

交際相手との関係が、「いやだ」だと思っても「いやだ」と言えない、「いやだ」と伝えても止めてもらえないのがデートDVという関係

 ただ、これらがこのまま暴力になるわけではないのです。そこのところも難しい。そこを今から考えていきましょう。こんなことが暴力になりうるのです。例えば、交際して付き合うことになりました、じゃあ約束しよう、返信はすぐしてね、付き合ってるんだから他の異性と話さなくていいよね、遊びに行かないでね、そんな約束をして、両方がO.K.だったらいい。

 だけど、「いやだ」と思ったけど「いやだ」と言えない関係になった時、これを「暴力」だと私たちは言っています。たぶん今日これが、キーワードになるかなと思っています。

 その他にも精神的な暴力はすごくたくさん起きてきます。「見下す」とか「馬鹿にする」といったこと、「お前のせいだ」っていう精神的な暴力、それが必ずといっていいほど起こるのがデートDVです。

 精神的な暴力の中で、とっても怖い暴力があると私はそう思っています。殴ったり蹴ったりするよりも怖いこと。それは、「別れたら死ぬ」と言う暴力です。これも本当に学校現場で聞くとたくさんあります。殴られたり蹴られたりしてるのに「別れたら死ぬ」と言われるから別れることができない、そんなことを聞きます。

 身体的暴力として、首を絞める。危ないですけど、好きな人同士の間でこんな暴力も起きています。

 そして性的な暴力。嫌がっているのにセックスをする、避妊に協力しない。先日、刑法が改正された(23年7月13日施行)ことをご存知でしょうか。「不同意性交等罪」という名前ができました。お互いにいいよという同意がなくセックスをしたら犯罪になるというふうに刑法が改正されたんです。でも、それを知らない子がたくさんいます。あるいは裸や性行為の写真屋を勝手に撮る、「送って」と言うことが本当に多く起きています。これも実は、刑法改正で、勝手に性的な画像を撮ったら撮影罪として犯罪になると変わりました。だから調査した2016年からだいぶ世の中が変わっているなあと思います。

 でもこんなことも暴力になると言うと、「どこからが暴力なの?」とよく聞かれます。「デートDV 110番」という相談窓口をエンパワメントかながわでやっています。ホームページにチェック項目があり、「あの全部当てはまるんです。私はデートDVでしょうか」って聞かれることがあります。でも、デートDV 110番の相談員は「そうですね。デートDVです」とは答えないようにしています。なぜでしょう?

 デートDVかどうかを決めるのは本人だからです。なぜかというと、起きていることは同じでも、嫌だと言えるか言えないか、対等でない関係で、「いやだ」だと思っていても「いやだ」と言えない関係、「いやだ」と伝えても止めてもらえない関係が交際相手同士だったら、それがデートDVという関係になります。別に「他の異性と口をきかないで」と言われても、「あ、いやだ。私は異性と話をするよ」と言うことができる関係だったら、対等な関係なのでデートDVにはならないんです。関係性の問題なので、本人がどう思うかが大事なので、デートDV110番では「あなたはどう思いますか」と聞くようにしています。それでもデートDVに気が付かないことはもちろんあります。「暴力を受けていいわけがない」ということを知っていくことが大事になると思っています。

 

お互いの違いを認め合えることを大切にできる対等な関係を10代も含め多くのコミュニティに伝え、
暴力を容認する社会から、DVや虐待の連鎖を断ち切る社会へ

 私たちが目指したいのは対等な関係です。いやなことには「いやだ」と伝えあえる、お互い違うんだから、お互いの違いを認め合えることを大切にできる関係。それがお互いの人権を尊重し合える関係、対等な関係です。

 この対等な関係を10代のうちに伝えることができるのがデートDV予防教育じゃないか。知らないでそのまま大人になっていったら、デートDVの関係のまま大人になっていったら「DV」と名前が変わるだけ。それを子どもが見たら「虐待」になります。

 DVや虐待を無くしていくためにも、デートDV予防教育で、対等な人間関係を私たちは伝えていきたいと考えています。この予防教育について、そして効果測定調査を考えるとき、私たちデートDV防止全国ネットワークの役員たちはデートDVの発生要因についてひたすら話し合いました。デートDVはなぜ起きるの? デートDVという木があって、その根っこはどうつながりあっているのか? この根っこの一番の土壌に何があるか?

 私たちが見つけたのが、「暴力が容認される社会」。 皆さん、暴力が容認される社会だと思います? 本当に小さい頃から、アンパンマンは正義のためならアンパンチしていい、暴力はあってもいいんだ、みたいなメッセージがたくさんあります。そして、序列偏重社会。上司と部下、親と子、先輩と後輩、客と店員。世の中には上と下があるかのようなメッセージがたくさんあるじゃないですか。

 それがまさにジェンダー不平等な社会につながっているのではないかと思います。これがDVの発生構造として私たちが考えたものです。

 ただ、暴力は、生まれた時から振るってる人はいません。暴力ってどうして起きるかっていうと、学んでくるんです。こういう社会で生きている中で暴力を学んでいく。だからこそ、10代など早期からデートDVのない社会をめざしていくこと、それはさまざまなDVや虐待などの連鎖が断ち切られた社会にもつながると考えています。

 この考え方から言うと、デートDVは社会の構図だと思いませんか。人と人とが対等でない社会。その中で恋人同士だけ対等になれというのはちょっと難しい。でもデートDV予防教育で10代のうちに「人と人とが対等」なことを学んだら暴力がなくなっていく、 そう考えてデートDVということで20年間私たちは啓発してきました。

 

 だけど、「デートDV」という言葉の認知がなかなか広がらないなあと思っています。「デートDV」という言葉で啓発すると、すごく重篤なことで、自分とは関係ない他人事と思われると感じている。私たちは学校の中でデートDV予防教育を広めたいけど、でも実は企業や地域での理解も必要だと気づいて、このソーシャル・ジャスティス基金の助成事業では、企業や地域の中で、あるいはLGBTQや障害のある人たちともつながり合いながら、この予防教育、デートDVの啓発を進めたいと私たちは考えました。なので、今日みなさんと一緒に、私たちがみなさんとつながるために何ができるか、それを考えたいと思っています。知恵や力を貸していただきたいと思います。

 

 

 

——高島菜芭さんのお話——

性的同意の基盤となる対等な関係――ヘルシーリレーションシップ――を構築する対話の場づくり

 まず簡単に自己紹介をさせていただきます。教育やデートDV予防をテーマに幅広く活動をしておりまして、まず学生時代に「Genesis」という団体を立ち上げて、今も引き続き性的同意の啓発活動しております。そして、去年からこちらのデートDV防止全国ネットワークに理事としてジョインさせていただいております。

 私がデートDVや性教育といったテーマに興味を持ったきっかけをお話させていただければと思います。最初に違和感を覚えたのが、大学時代にサークルの友人などと恋愛の話をする中でした。サークルの中で性暴力やハラスメントが起きた時にそれが性暴力だということになかなか気付かれないということもそうでしたし、そういったことが起きた時に、例えば、「スカートはいてたから悪いんじゃない」とか、「思わせ振りだったから、そんなことされても仕方ないよね」みたいなセカンドレイプ発言を、被害者を貶めるような発言がありました。そのようなあたりの経験から、このデートDVや性暴力に問題意識を感じるようになりました。

 学生時代にイギリスに一年間留学しており、ジェンダーの授業を受けたり現地の性教育関連のNGOでインターンをしたりする中で、日本とイギリスの性教育あたりのギャップを強く感じました。イギリスの性教育やセクシュアルヘルスに係る環境としては、12歳から義務教育として本格的な性教育が始まり、性教育は”Sex and Relationship Education”で、性と関係性についての教育であり、健康的で対等な関係を構築するために性的同意を含め対等なコミュニケーションが大事だよねと教えられています。教育以外でも、コンドームやピルなどの避妊関係や中絶なども無料の場合もありました。

 日本は、少し状況は変わってきていると思うけれども、そもそも、性教育やデートDVの教育がされる時間が平均で年間30分とか時間も少ないですし、内容についても避妊や生物学的な男女の体の違いとあたりにとどまっています。そういったところに問題意識を感じており、性的同意を含めコミュニケーションの部分をちゃんと伝えていく必要があるんじゃないかなと思って、帰国してから活動を始めました。Genesisとしてこれまで活動してきたことは、京都市と共同で性的同意ハンドブックを制作しまして、基本的な性的同意の確認の仕方や、性的同意にまつわる大学生のインタビューみたいなものを掲載しました。あと、性的同意の確認の仕方がわかる動画を制作し、大学等で延べ2000人以上に性的同意のワークショップを実施してまいりました。

 こういった性的同意の啓発活動をする中で、より広い概念として「ヘルシーリレーションシップ」、対等な関係を広めていきたいなという思いが強くなり、機会をいただいてデートDV防止全国ネットワークにジョインさせていただいたという流れになります。

 また、別の団体ですけど、「アイカタラボ」という団体を立ち上げ、今回ご紹介させていただく「セキララカード」という、カップルや友人同士で性や恋愛の価値観をすり合わせることができるようなカードゲームを制作しました。

 

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 プロジェクトは、誰もが対等で自分らしいリレーションシップを構築できる未来をつくるというのをビジョンに置いております。そのために、ヘルシーリレーションシップという概念そのものを広めるたり、心理的安全性の高い対話の場や仕組みづくりをしていきたいと、このプロジェクトを始めました。

 これまで性的同意の啓発活動する中でも、やっぱりこの素直で対等な関係構築というところに対して、しっかり対話の場をつくっていくことが重要だなと感じており、そういった結果デートDVなどカップル間の課題も減るのではないのかと思って活動をしています。

 このセキララカードには、カップル向けと友達同士で使えるものがあります。このカップル向けの方は、20代の付き合いたてのカップルをターゲットとして想定にして作っておりますで、デートDV予防を前面に押し出しているというよりは、このカードゲームを使ってよりよい関係をつくって行きましょうみたいな形で出しています。カードゲームの内容はシンプルで、トークテーマが描かれたカードゲームになっております。1から3のレベルがあって、3の方がよりディープな内容になっています。

 恋愛感、とくに性については、カップル間でも話しづらいかなと思っていて、その話さないことにより、どうしてもパートナー間での性暴力が起きてしまっていると感じており、そういう話にくいテーマについて気軽にカードゲーム感覚で楽しみながら使えるカードという内容に敢えてしております。

 友達向けにも作っており、恋愛感などを話す中で気づきがあり、いろんな人の恋愛観が知れるというようなものも作っております。このセキララカードは、アイカタラボという別団体で制作をして、今も発売もしています。

 

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

 

 

 これとは別で、デートDV防止全国ネットワークでも、デートDVの予防により特化した内容で、ヘルシーリレーションシップを押し出した内容でカードゲームを制作したいと思っており、こちらの内容でソーシャル・ジャスティス基金にも助成いただけておりますので、今後進めていこうと思っております。

 このカードのコンテンツ案は、ターゲットをジェンダー系のNPOや学生団体など関心がある団体様向などぜひ使っていただきたいなというところに置いて、作ろうとしております。世代は大学生から20代の当事者世代です。やはり当事者世代がデートDVや性暴力予防みたいなことを聞いた時に、なかなか自分事として感じられにくいと体感として持っておりますので、そういった言葉を全面に押し出すよりは、「ヘルシーリレーションシップ」、「素直で対等な関係」の構築に役立つようなカードゲームということでマーケティングや見せ方をしていこうと思っております。

 今この当事者世代に、大学生に絶賛インタビューなども進めており、具体的な内容も決まってきていて、現段階での内容案をちょっとシェアさせて頂ければと思います。

 まず、先ほどの阿部さんの話にあった具体的なデートDVの事例の中で、返信が遅いと怒るみたいな事例もご紹介いただきましたが、「理想の連絡頻度は?」はパートナー間でけっこう意見がずれてデートDVに発展してしまうケースがあるかと思いますので、こういった内容をこのカードに盛り込んでおります。

 他には、「どういう時に嫉妬する?」。また、やはりパートナー間で性について話し合いにくいのが課題だと捉えておりますので、「どのような方法で性的同意を伝えるのが良いと思うか?」みたいな性に関する内容も入れております。あと、カップル間でちょっと意見が分かれるテーマかなと思うけれども、「デート代をどのように支払いたいか?」や、結婚観についてで「結婚が必要か?」みたいなところも入れております。

 こういった内容をカジュアルに話せるようなカードゲームを検討しております。ぜひこの後、ゲストの水谷萌さんにこちらの内容についてご意見をいただきたいなと思っていますし、その後の参加者のみなさまとのディスカッションの場でも、ぜひご意見を伺えるけたらと思っております。

 

 

——水谷萌さんのお話——

 NPO法人ピルコンでのデートDV予防教育の取り組みということでお話させていただきます。

 初めに私の簡単な自己紹介です。今はビルコンの事務局として、学校さんとの講演のコーディネートや、当日までの準備、どういったスライドを使うかやリハーサルをさせていただいたり、当日の講演の引率ですとか、あとピルコンでは毎年ボランティアメンバーを募集していますのでボランティアが実際に講演に出ていけるように研修などのお手伝いをさせていただいています。

 ピルコンに入ったのは看護学生の時代なので、かれこれもう6年ぐらい所属していることになります。私が中学・高校生ぐらいの時に、性のあり方、自身のセクシュアリティについて疑問を持ったことがあって、もっと性のあり方やセクシュアリティについてどうやってみんなが学んでいったらいいんだろうとか、性のあり方についてもっとみんなに知ってほしいと思ってピルコンの活動に参加するようになりました。

 

 簡単にピルコンという団体の紹介をさせていただきます。ピルコンは2007年に代表の染矢明日香が学生団体として活動を開始しまして、2013年にNPO法人化した団体です。性の健康を学ぶ場づくりや情報提供を、大学生や若手社会人を中心とするユースとともに、専門家などと連携しながら活動している団体です。

 ピルコンのビジョンには、「誰もが自分らしく生き、性の健康と権利を実現できる社会」と掲げてまして、そのためのミッションとして、「性の健康と権利について、誰もが気軽に学べる、語り合える、そして相談でき、支援につながれる環境の実現」を目指して活動しています。

 活動内容はさまざまで、最近はかなり活動の幅が広がってきてるなと感じているんですが、メインとしているのが、中学生や高校生向けの性教育プログラムの実施で、「ピア・エデュケーション」という、身近な立場の人から伝えるという健康教育の手法を使って実施しています。

 また、保護者やPTA向けの性教育の講演ですとか、政策提言、先ほどもお伝えしたようにボランティアメンバーの人材育成。あと、教材制作、情報発信、そして相談支援も実施しています。今ですと年間にだいたい70講演ぐらい行っているんですが、各講演の最後に事後アンケートといって実際の生徒さんからの声を集めるアンケートを実施していまして、「身近な経験談を聴けてよかったです」、「具体的に知れてよかった」、「安心した」、「将来のために覚えておきたい」といったありがたい感想をお送りいただいております。

 ピルコンでは、“AMAZE”というアメリカの性教育団体が作っている性教育に関する動画を日本語訳しており、講演で実際に生徒さんと一緒に見る時間をつくり、YouTubeやSNSでこういった動画の発信も行っています。さまざまなジャンルの動画をアップしているんですが、今日のテーマであるデートDVや、健康的な人間関係に関する動画も多数載せているので、もしご興味がある方がいればご覧いただけると嬉しいです。

(“AMAZEこちらから )

 

 ここからは、ピルコンで、実際に性教育を行う際にどのようなスライドや、どのような講演内容をしているかを少しご紹介できればと思っています。

 学校訪問しての性教育の実践では、デートDVの関係にあるカップルの台本と、お互いを尊重し合うカップルの台本と二つ読ませていただいて、生徒さんに「aさんとbさんのやりとり、どこが違ったって感じたかな」と話し合いするワークをしてもらっています。例えば一つ目の台本では、「自分の予定を優先してほしい」とか「他の人の連絡先、全部消してよね」といったやり取りがあるんですが、二つ目の台本では、お互いの都合が合う日程を提案したり、他の人に連絡先を消してよねって言われたことに対して「バイト先から大事な連絡が来る時があるから連絡先は消せないよ。でも通知は気にするようにするね」とか、「自分も不安でつい言い過ぎちゃった。ごめんね」といったやり取りがあります。具体的なやりとりを通して、どのように関係性を築きやすくしてコミュニケーションができるかというのを具体的に知ってもらうという目的でワークを実施してます。

「健康的な人間関係と、健康的ではない人間関係ってどう違うのかな」というスライドも具体的にお見せして生徒さんに考えてもらってます。ポイントとして、たとえお付き合いしてたとしても、相手の「モノ」になるわけじゃないし、相手を「モノ」にしていいわけじゃないんだよっていうことも補足してます。ピルコンのスライドでは、「男女」というふうに性別や性のあり方が偏らないように、あえて性のあり方を断定しないようなアイコン画像を使うように気をつけています。

セイシル」というサイト(こちらから)の運営にも協力させていただいております。こちらは、10代向けの性のお悩み相談に専門家や若者が答えるサイトですが、性教育をする人に向けて「デートDVチェッカー」という教材を提供しております。大体23cmほどで、A4の入るファイルだったら入る位の大きさです。こちらは、フランスのパリで開発されたデートDVチェッカーを、セイシルで日本語版に翻訳したもので、縦長のカードにデートDVに係る言動例を順に並べてあり、一番上の緑が良好な関係・楽しんでという関係で、真ん中の黄色になると警戒・ストップ・これは暴力だよっていうラインになります。一番下が、助けを求めて身を守ってということでいわゆる危険な状態を示すものになります。

 こちらも講演先の学校さんで配布しているんですが、この教材を使ってどういうふうにワークにするのか少しご紹介させていただければと思います。講演では、その「デートDVチェッカー」に書かれた各項目をバラバラにしてスライドに提示をします。生徒さんに行っていただく内容は、これらの項目のどれが、「①良好?②注意?③キケン?なんだろう? 分けてみよう。各グループで話し合って、分けてみて」というふうにお願いします。各項目を紙一枚ずつに印刷しておいて、その紙を①~③に分けて並べてみながら考えてもらいます。生徒さん、たくさん話しながら分類をしてくださいます。

 一方的にこちらが正解を伝えるよりも、このようにグループワークを通して、どこがOKとNGのラインなのかを話し合うことで、より主体的に考えてほしいという意図があって実施しています。②注意の項目と③危険の項目って、人の感覚によって少しズレがあったり、②注意の項目に入っていても、気づいたら③危険な項目になる可能性があったりするので、状況に応じて、必ずしもこのチェッカーがいつも正解になるわけじゃないと補足でお伝えしています。以上がワークの実際の例でした。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

 私たちは、学校の先生方などにも性教育を学ぶ機会や教材を広めたいと思ってまして、ピルコンで実際に講演で使ってるスライドやワーク動画などの教材をまとめたポータルサイト「ライフデザインONLINE」(こちらから)を運営をしております。教員の方は会員登録が無料でお使いいただけるもので、それ以外の方も月額で会員登録することができます。性教育をしたい方向けに作っているものになりますので、ご興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひご利用いただければと思います。

 私たちは主に中高生以上の講演を対象にしてるんですが、小学生以下のお子さんですとか、障害のある方にも幅広く性の健康について学んでもらう機会をつくっていきたいなと考えていまして、「ここからかるた」という「こころ」・「からだ」・「性」、そして人間関係についてカルタを通じて学べるワークショップも開催しております。このカルタ、すごい面白くて、その平仮名のカルタをとるという簡単ないわゆるカルタ遊びとしてもお使いいただけるんですが、裏にはそのカルタの言葉に通じる質問が書いてあって、「あなたにとって大事なものって何?」とかそういう問いを取った人が問いにも答えるっていう形になっています。その方の年代やそのワークの趣旨に合わせていろんな使いかたができるカードになっています。こちらはテレビ朝日福祉文化事業団さんの助成金をいただいて、障害のあるお子さんや社会的養護下にあるお子さんを支援する団体さん向けに無償で実施しているワークになりますので、よろしければお申し込みいただければ幸いです。

(「ここからかるたこちらから

 

 そして、若い人たちが実際に相談したいと思った時に相談しやすい環境をつくるところも実施していまして、若者と支援者をつなぐ支援のあり方ということで「ユースヘルスケア・アクション」(こちらから)というものを運営しています。若者に寄り添う相談やサポートについて無料のオンライン研修も実施していますので、こちらもご興味がある方がいらっしゃれば参加いただければと思ってます。

 

子どもや若者たちの声を聞き、ニーズに合った学びや相談の機会を地域で多機関連携して広げていく

 ピルコンはこんなさまざまな活動している団体ですが、子どもや若者たちを、地域でさまざまな機関と連携しながら守りエンパワメントしていくことが大事だなと感じています。どっかの団体だけがすごく頑張るっていうことではなく、いろんな関係者が子どもをとりまく環境づくりをしていくのが大事ですし、その関係が双方向になるとさらに良いものになると思っています。子どもたちに与えるだけではなく、子どもや若者たちの実際の声を聞いて、そのニーズに合った学びや相談の機会を皆さまとともに広げていけたらと思っております。

 

カップルで対話の場をつくるきっかけを増やすには

 先程、高島さんからセキララカードの発表を聞いてのコメントをさせていただきたいなと思っています。あのカード、すごい、もともと「性って何?」とか「健康的な人間関係って何?」と感じている方や、「デートDV」と言われてもやっぱり「暴力」と言うと身体的な暴力を思い浮かべる方がまだまだ多いと思うので、あんまりイメージがつかめない方にとっては、そのカードを通して話すだけで健康的な人間関係について話し合いができるっていうのはすごいいいなあと思ったのがまず第一点です。

 私がピルコンでの講演の中で一番難しいなと思っていることで、アンケートの回答にもすごく多くあったのですが、それは、「そもそも話し合う場をどうやって作っていいか分からない」という意見です。なので、そのカードは、すごい素敵なものであっても、まずそのカードを使って話そうという場づくりができるかというところが壁になるカップルもいると感じました。もし、カップル間でこのカードを使って話そうという場づくりさえできれば、あとはその質問に答えていくだけで会話が進んでいくと思うんですが、友達同士はもちろんカップル同士でいざ話そうと思った時、カップルのどちらがその話を切り出すのか、どんなふうにそのカードを紹介するのかというところをもう少し具体的に提示してあげることで、そのカードの使用するためのハードルっていうのが下がっていくのかなと思って聞いておりました。

 

 

——パネル対話——

大河内秀人さん)どうもありがとうございました。今お話いただいた3人の中で、もう少しこの辺を聞きたいとか、自分だったらもう少しこういうことがあるよっていうような話があれば、いかがでしょうか? 

 

阿部真紀さん) 私も今日一つご意見を伺いたいと思ってたのが、さっき言った「デートDV」という言葉だとなかなか啓発が進まない、他人事だと思われるというところです。「ヘルシーリレーションシップ」、「ヘルシーな関係」、ビルコンさんも「性の健康と権利」、「健康な人間関係」を掲げている。でも、「ヘルシー」とか「健康」っていうと日本の人たちはなんか体のこと、なんかダイエットしましょうとか、野菜をいっぱい食べましょうみたいなところにイメージがいくと言われます。大河内さんこれどう聞こえます? 関係性のヘルシー、健康。

 

大河内さん) 「健康」っていう言葉自体はすごく分かりやすいと思うんだけれども、ただ、私はちょっと抵抗を感じたのは、「これが健康だ」って決めつけられるというイメージが最初あったからです。もちろん内容を伺えばすごく納得はするけど、いきなり「これは健康だ」って決めつけられるのは抵抗がありました。それはそれで一つの表現だとは思いますが。

 また、私も最初は「デートDV」っていう言葉にちょっと抵抗感があるかな、すごく特殊な話と感じました。私の歳になるともう別にデートはあんまりしないわけです。でも、一般的にいろんな人と、別に異性とではなくても何らかの形で人と人とが何か一緒にやるとか、何か行動を共にする時に、支配関係になったり、遠慮が必要以上にあったりする関係性というものがとてもよく分かりました。

「デートDV」よりもう少し柔らかい言葉でできれば広がるのかなとは思います。セキララカードも同性も含めて、友達同士でも、ということでしたし、関係性の話をお友達といったところに広げてもいいのかなとはとても思いました。

 

 とはいえ、ソーシャル・ジャスティス基金で今回助成をさせていただいて、デートDV全国ネットワークさんに出会って、本当に全国でこのテーマでこんなに人が動いているんだって、とても思いました。皆さんの実際の感触としては、デートDVということですごく広がっている感じですか。

 

阿部さん) そこが本当に考えていかないといけないところで、「デートDV」というと、なんかとても 特殊なことって、今おっしゃったように感じられやすくて。でも実態調査をすれば3組に1組で起きてる身近なことを伝えたいのに特殊なことだと思われる。

 特に今、デートDVのとても悲しい、命を奪われる事件がいくつも報道もされている。ただ、それを報道する時に、「交際間のトラブルで事件が起きた」と言われると、まさに個人の間で起きたことで、それこそ私たちは関係ない他人事となってしまう。

 でも私たちは「デートDVというのは暴力なんだから社会の問題なんです」ということを伝えていきたいと思っています。「デートDV」という言葉の認知もなかなか進みませんが、「個人の問題じゃないんだ」って言いたい。

 今年、企業の中の人にもデートDVの啓発をしたいと思って、たくさんの企業さんに「デートDVやDVの研修をさせてください」と私たちからご連絡をしたんです。そしたら、ほとんどの企業の社長さんたちが「いや、DVは個人の問題ですから、会社は扱いません」とはっきりと言われたことが本当にショックでした。これも後でみなさんの対話のテーマにしていただければと思います。

 でも今一社だけついに見つけたんです。「DVはもう社会の問題ですから、企業の中にも起きてるはずですから、企業の中で被害者を支援する取り組みを始めてます」という企業を一つだけ見つけたんですね。そういう意味でも、これから私たちが社会の中でどう取り組んでいったらいいかなっていうことも、皆さんぜひ話し合っていただきたいと思っています。

 

水谷さん、「デートDVチェッカー」に対する生徒たちの反応はどうですか。

 

水谷萌さん) 中学生や高校生さんに「DVって言葉、聞いたことある?」と聞くと、わりと半数の方が手を挙げてくださるんですが、やっぱり「デートDVって聞いたことある?」と言うと、その手が下がるんですよね。なので、あんまり「デートDV」って言葉自体は知られてないのかなとは思います。

 教育のいい点だと思うのは、興味関心の有無に関わらずみんなが触れられるという点です。一方的な話だけじゃなくてディスカッションしながら、それぞれ目の前にカードが配られると、みんな楽しそうに分類をしていたりするのを見るので。「関係の中にいい関係と健康的じゃない関係とか、関係にもいろいろあると初めて気付きました」という感想を書いてくださる方もいました。

 私たちからすると、関係にはいろんな関係があって、いい関係・悪い関係という言い方が正しいかは分からないですけど、いわゆる健康的・健康的ではないという分類がわかるんですが、中学生や高校生だと、そもそも関係に種類があるってことも初めて知る方々がいるというのが私の中ですごい衝撃的でした。「あ、そうだよね、そこからちゃんと伝えないと分からないよね」と思いました。その辺も踏まえて、今後その関係性やいわゆるデートDV的な内容も伝えていってあげる必要があると感じております。

 

あらゆることにお互いが同意をとりあえるヘルシーリレーションシップを

大河内さん) やっぱり、暴力に気づく、知ることがすごく大事だと思っています。

 これは人権の問題で、皆さんからあんまり言葉として出なかったけど、その人権はすごく当たり前のことだけども、その当たり前のことに気がつかないことがたくさん多くて侵害される、という類が多いと思います。今日のお話の中でも、やっぱり日本で性教育ものすごく遅れてる。避けて通る。これは話してはいけないことと、言葉に出すこと自体に非常にはばかりもある。性的同意にしても、そんなことは言葉に出すもんじゃない、と行動に移ることが多かったんじゃないかと思う。

 日本で啓発活動をなさっていて、みんなの意識から欠落している、あるいはみんな無意識に避けていると感じることはあると思うんですが、いかがでしょうか。

 

高島菜芭さん) 日本の性教育に一旦限って話をすると、どうしても生物学的な違いとか避妊とか、とりあえずこれを教えておいたらいいだろうみたいな感じで、そういった内容に留まってしまっているとすごく感じるんですよね。でも、具体的にどうデートDVを予防するかとか、どうやって性暴力を予防するかみたいなところが欠けている。センシティブな内容なので教育の中で扱いにくいというのもあるとは思うけれども、具体的なコミュニケーションの取り方、こういうことをこうパートナー間で話し合うべきだといった本質的な部分を避けてしまっている。一番大事だけど、話しにくいことを排除してしまっているとすごく感じております。

 

阿部さん) まさに性は人権だと私も思っています。性について正しく知ることも、本当は全ての人の権利だと思うんだけど、日本の社会は今まで、大河内さんがおっしゃったように、性ということはタブーと教えられてきた。

 それでいて、私が中学生を前に「『いやよ、いやよ』は?」と聞くと、今の時代の中学生が声を揃えて「好きのうち」と言うんです。だからタブーじゃない、やっぱり知ってるんですよ。それも、間違った知識を得ている。私は「ごめんね、それは昭和の時代の大きな間違いだから。性的同意はとても大事なことで、これから生きて行く皆さんは、『してもいいよ』っていう同意を取ってほしい」と話しました。

 ちょうど今年、刑法が改正されて、まだ1か月半しか経ってないけれども、不同意性交等罪が犯罪になった、同意を取らないと犯罪になる。でもそれは、セックスとかそういった事だけじゃなくて、私はありとあらゆることにお互いが同意を取っていくことがヘルシーな関係、ヘルシーリレーションシップなんだっていうところを、これからは伝えていけるし、伝えていきたいなと思ってます。

 

大河内さん) 微妙なニュアンスのものがたくさんあると思うんですけど、「これはだめ」という一つの線はある程度やはり言葉にして決めて伝えていくことは教育の中でもすごく大事だなと思います。

「『いやよ、いやよ』も好きのうち」という話がありましたが、「いや」は「いや」ということを教える。一線を越えていいような、あるいは自分で判断していいみたいな、自分の主観的な判断で行ってしまうようなところがあったところについても、「いや」というのは「不同意」なんなんだからと、これが世間のルールなんだと教える必要があるのかなという気もしました。

 

 

――グループ対話とグループ発表を経て、ゲストからのコメント―― 

※グループにゲストも加わり、グループの方々に感想や意見、ご質問を話し合っていただいた後、会場全体で共有するために印象に残ったことを各グループから発表いただき、ゲストからコメントをいただきました。

 

阿部真紀さん) 私は「人権」という言葉をどう捉えるかというと、まず人権という視点に立てば本来すべての人は対等な存在であるということ、です。もうひとつ人権ということに関して大事なことは、みんな違うんだっていうこと、違いを認め合っていく、違っていいんだっていうことです。

 今のみなさんからのお話が本当に全部あてはまると思います。LGBTQに関わる人だから、障害がある人だから、暴力にあっていいわけがないと思います。私たちがこれから啓発して行く対象は全ての人で、さまざまなコミュニティに対して伝えていかなきゃということを、実はソーシャル・ジャスティス基金から応援していただいていると思っています。だから、みなさんから出たスウェーデンの素敵な話のように、暴力を受けても暴力を受けた被害者が「自分が悪い」と思わない社会に日本を変えたいなって本当に思う。

 私が伝えたい人権というのは、「全ての人は暴力を受けずに生きて行く権利がある」。これを裏返せば、「どんな理由があっても暴力を受けていい人はいない」ということだと思っています。それを当たり前に人権として伝えていくことができれば、暴力にあっても「自分は悪くない」と本当に思える社会に日本を変えていける。そのために、「デートDV」という切り口で予防教育を10代のうちに全ての子どもに学校教育の中で民間の私たちが伝えに行くことは、私たちが本当に目指したいことで、この方向でいいんだなっていう確認ができた時間でした。

 

 

高島菜芭さん) 前半で水谷さんにカードゲームについてのコメントもいただいてたので、冒頭で軽くお話しできればと思います。

 そもそもパートナー間でそういったテーマについて話し合う場を作るのがちょっと難しい、課題になってくる可能性があるよね、ということをご指摘いただいたかと思います。本当におっしゃる通りだと思っていて、デートDVやヘルシーリレーションシップに課題感をなかなか持たない人にリーチするところがどうしても難しい。こういうテーマに興味を持ってくださるのは、もともとそういったジェンダーや性教育にある程度関心のある方が多いので、そこはあの課題だなと強く思っております。

 現在のところ想定しているのが、そういった性教育やジェンダーに関心がある方を中心にまずは広めていって、そこから徐々に無関心層にも広げていくことです。そういう意味も含めて、女性支援やジェンダー・性教育の啓発活動されてるような団体様にまずは使っていただきたいなと思っております。各団体のワークショップとかも開催されてると思いますので、そのワークショップで一つのコンテンツとして使っていただけたりすると最初のきっかけになるのかなと思っております。そこからもっと一般層にリーチして行くところでは、例えばカップルからカップルにギフトとしてあげていただいたり、ギフトとしてもらったから使ってみようみたいな感じで、対話の場づくりができたり、飲み会とか合コンといった場でも使えるようなカジュアルなものを作っていきたいと思っております。

 完成しましたら、ぜひ皆さんにも使っていただきたいと思っておりますので、興味のある方がいらっしゃいましたらぜひお声掛けいただければと思います。

 

 先程のグループディスカッションで私のグループにちょうど、障害のある女性への支援をされている方がいらっしゃって、本当に貴重なご意見をいただきました。私は女性という点ではマイノリティではありますが、障害がないことでしたり、シスヘテロでLGBTQではないところについては、やはり特権性があるといいますか、そういった自分が健常者でシスヘテロだという特権性を自覚しながら、そういった方の声をしっかり聞いて、これからのワークショップやカードゲームに落とし込んでいく必要があります。

 日本のジェンダーや性教育の啓発活動のところで、そういった特権性やインターセクショナリティーが見過ごされがちだと強く課題意識として持っておりますので、しっかり取り組んでいきたいなと思っております。

 

 

水谷萌さん) 私が参加させていただいたグループでも一番話に出てたのは、「10代のうちにデートDVとか健康的な人間関係について伝えていくことが大事だとは思うんですが、それをどういうふうに実際に届けていくか?」でした。関心のある方はどんどん自発的に学ぶと思うんですけど、今までそういうことに触れてこなかったり、関心が薄かったりする層にどうアプローチしていくのかが、やっぱり課題になるんだなと、皆さんのお話を聞いててつくづく感じました。

学校教育は、生徒さん自身の関心の有無に関わらずお伝えすることはできるのがメリットなんですが、学校さんから依頼があって初めてピルコンはアプローチできるということは、そもそも学校の先生方がそこに関心がないと、そういった講演の依頼もまず始まらない。だから、生徒さんがそういったことに興味を持っていただくには、もちろん10代をターゲットに届けていくのが大事なんですが、その周辺にいる大人にも関心を持ってもらうことがすごく大切なんだと改めて感じました。皆さんと一緒に、その辺のアプローチをどう進めていくか、今後も一緒に考えていけたらなあと思っております。

 

 

大河内さん) 本当にすごく大事なことだとは分かりますし、実際にカードゲームカードとかを見ながら言葉にしていくと納得できたり、大事だと思ったり、これが正しいことなんだと分かったりするというのは結構あると。ただその言葉自体が今の人々に広く伝わっていないのはなぜだろうと考えさせられました。

みなさん成果もありますけど苦戦をしている中で、本来は社会の問題であるけど個人の問題で済まされていることをもっと社会化していくことは、ソーシャル・ジャスティス基金としても一つの役目だと感じております。

 

 

参加者) グループでお話をされていて、やっぱり義務教育ってすごく大事だなと思いました。私のグループに長崎の方がいらっしゃって、長崎は学校に4割ぐらいもう浸透しているというようなお話をお聞きしたんです。中田慶子さんを中心にDV防止の講習を学校にどういうふうに広げていかれたのか、どういういきさつでこういう状況にできたのかを教えていただけたら嬉しいなと思います。

 

長崎県で20年間つみ上げてきたDV防止への取り組み

中田慶子さん・デートDV防止全国ネットワーク代表理事) 長崎は取り組み始めたのは20年ぐらい前ですけれども、最初の頃は本当に大変で、男女交際について話をするわけですから「寝た子を起こすな」とずいぶん言われました。教育委員会の壁もありましたし、学校の壁もたくさんありました。

 ただやはり、一つずつ人間関係でもって、知り合いの養護の先生とか、一回行って知り合いになった校長先生とか、その先生が異動になった先でまたやってくださるとか、ずっと人間関係でつないでいきながら実施校が増えていきました。

 平成23年に県議会で質問してくださった議員さんがいて、それに対する県の教育長の答弁が、「これからは少なくとも高校3年間に一度はすべての生徒が予防教育を受けられるようにします」という趣旨の答弁が得られたのです。そのことをどの程度、教育委員会全体の方が理解していたのかどうかは別ですけれども、そういう答弁があったということで、少なくとも3年間に一遍は全部の県内高校、いま公私立合わせて90校ぐらいですけど、その中で毎年呼んでくれる学校も半分ぐらいはいるので、かなり浸透してきている。

 中学校も、各自治体の男女共同参画や人権の担当の努力で全部の中学校でやっている自治体もあれば、少ししかやってない自治体もあるけど、それなりに頑張ってくれる基礎自治体も増えてきたっていうのがありますね。それは実績で、予防教育後にアンケートをして「実態はこうですよ」というのをフィードバックして、「だから、やらなきゃいけないですよね」ということを校長先生や養護の先生、担任の先生たちがご理解をしてくださって。そういう生徒の反応のアンケートも見た上で「またやってほしい」とまた翌年につながった。

 

大河内さん) ありがとうございます。20年というのは本当にすごいことだと思います。

 実際に今までそうやって長崎で行われてこられて、それが成果として長崎の子どもたちあるいは大人たち――20年前からですから当時の子どもたちは大人たちになっていると思いますが――に成果として客観的に見えることはありますでしょうか。

 

中田さん) 例えば、それでDVが劇的に減ったとか、そう言えればいいですけど、そうは見えてはいないですね。ただ、デートDVとかDVという言葉の認知度は高校生・中学生はすごく高いと思うし、身体暴力だけがDVではないということも、ほとんどの高校生はある程度理解しているかなと思います。ただ、全部の子がそういう行動が取れるかはまた別で、頭でわかっていても好きになっちゃったら相手の言うことを聞いちゃうとか断れないとか、”No”が言えない生徒たちは現実にいる。ですが、知識を持っているかどうかは、選択する行動の違いになって表れているのではないかと期待したいところです。

 

大河内さん)  阿部さんいかがですか? 長崎がこれだけ実績を上げているということは一つの成功例とすると、それをどう全国に広げていくかという何か戦略みたいなのはあるでしょうか。

 

阿部さん) 戦略に関しては本当に難しいと思いますが、そのために全国がつながって動こうと言って作った全国ネットワークだと思っています。

 まず先ほど言ったように実態調査をして、それから、効果があるんだっていう「効果測定調査」の結果をまとめまして、予防教育に効果があるということを実証していますし、もう一私たちが明らかにしたことは、DVを放っておくと社会がどれくらい損失するかという金銭に換算したことです。調べてみたら、日本ではまだ調査がなかったのですが、諸外国ではGDPの1.2%から2%という数字がわかりました。日本に換算すると6兆円から10兆円損している、社会的コストが出ているというもの。それを放っとくよりも予防教育をした方がいいんじゃないかという提案をするための報告書をまとめました。

 それから、どれくらい予防教育が実際に行われているんですか? ということで、デートDV予防教育の「実施状況調査」というものも、今年の春まとめたものを出しています。その中で、都道府県別受講人数というのがありまして、まさに長崎県がトップというのも見えています。

 これを私たちが国にも働きかけていくということを今年もやっていきたいと思いますし、これからずっと国や各自治体に呼びかけていくことがしたいです。ただ、そのためには多くの方のご賛同も必要だと思いますので、ぜひ応援していただきたいと思っています。よろしくお願いします。

 

 

大河内さん) ありがとうございます。そうしましたら、最後に今日の登壇者の方から一言ずつコメントを頂戴できればと思います。

 

水谷さん) 本日は貴重なお時間をありがとうございました。お話できて嬉しかったです。

 先ほどの長崎の例もありました通り、まだまだ全国で格差がある。進んでる都道府県とまだまだ進んでない所と結構分かれているのが、日本の現状として見えてきているなとも感じているので、全国で全く同じふうに教育を進めるのは難しいかもしれないんですが、各都道府県の成功例を自分の所属してる都道府県で実践できるところは実践しつつ、お互いの都道府県のいいところ取りをしながら教育を進めていくことができたらいいなと感じました。

 

高島さん) 本日はお時間いただきまして、ありがとうございました。

 本当に水谷さんにお話をいただけて、「デートDVチェッカー」とか具体的なワークショップの事例もお聞きできて本当に参考になりました。

 グループワークでも、障害やセクシュアリティなどの視点も入れて啓発活動をして行く必要性は改めて強く思いました。

 ヘルシーリレーションシップやデートDVという概念がまだまだ広まっていない中で、ぜひ皆さまと一緒に協力しながら広めていきたいなと思っております。カードゲーム制作についてもぜひフィードバックなどいただければと思っておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 

阿部さん) 貴重な場をいただいて、ありがとうございます。

 できるだけ早いうちに全ての子どもたちがデートDV予防教育を学校現場で、それも民間の私たち専門家から受けてほしい、それを届けたいという気持ちを確認することができて、本当に嬉しく思っています。それのために頑張ります。

 ただもう一つ今年のテーマである、企業に対する啓発ということで、こちら一社見つけましたと先ほどお伝えしたので、そちらの取り組みを私たちからご紹介したいと思っていまして、毎年3月に開いてきたデートDV防止スプリングフォーラムで、次回は2024年3月10日に予定しており、そこでそういった企業の取り組みもご報告し、この一年半の取り組みを皆さんにご紹介したいと思っておりますので、ぜひ皆さん今からご予定していただいて、多くのご参加をお願いできればと思います。

 

大河内さん) 今日はたくさんの方が、また、遠くからご参加いただいて、それぞれがすごく考えてくださっているということを聴いて、ソーシャル・ジャスティス基金としても、こういったネットワークを、そしてそこからまた広げていきたいという思いを新たにいたしました。こういった出会いの中で、お考えをいただきまして、本当によかったなと思っております。どうもありがとうございました。

 

 

 

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【日時】2023年11月13日(月)13:30~16:00 
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※今回23年9月2日のアドボカシーカフェのご案内チラシはこちらから(ご参考)

 

 

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