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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第76回開催報告

インターセクショナル・フェミニズム

~ふぇみ・ゼミ&カフェの挑戦~

  

 2023年3月3日、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、熱田敬子さん(ふぇみ・ゼミ及び ゆる・ふぇみカフェ運営委員)、飯野由里子さん(教育関係の研究センター勤務)、葉山慧さん(元ふぇみ・ゼミ生/クィアの活動家)、鄭允瑞さん(ふぇみ・ゼミのスタッフ/社会学専攻)、遠藤純一郎さん(ふぇみ・ゼミU30&サマーワークショップ参加者)をゲストに迎えてSJFアドボカシーカフェを開催しました。

 

 ふぇみ・ゼミを踏み台にして社会のいろいろな場で知見や感性などを活かしている鄭さん・葉山さん・遠藤さんによる対話が多く持たれました。

 ドラァグクイーンについて「女性ヘイト」だという批判があることを鄭さんは指摘し、それはドラァグが「女性らしさは社会的な構築物である」ことを暴くからではないかと葉山さんは語りました。遠藤さんはドラァグクイーンを経験して「何者でもない」表象感覚を楽しめるようになったと話し、性別を間違えられることの苦痛から既存の「男性らしさ」をふまえた装いを選択してきたという葉山さんは、ドラァグクイーンのことを考えて、自身と既存の「男性らしさ」のちぐはぐさを肯定的に受けとめられるようになったと語りました。

 ノンバイナリーかつトランス男性の葉山さんは、シスジェンダーのフェミニストたちから「彼女」とミスジェンダリングされ続けていることを挙げ、本人のジェンダー・アイデンティティよりも社会的な性別割り当てを重視し、自身を「多様な女性」とみなす、フェミニズムの問題性を指摘しました。

 このようにジェンダーの視点で問題を見直すといろいろ気づくことがあります。その時に歴史も踏まえて問題を捉えると日本社会のさまざまな構造的問題も見えてくると熱田さんは説明しました。インターセクショナルなフェミニズム運動に、いろんな場所からいろんな人がいろんな形で関われるよう、活動手法や基盤づくりをしてきた挑戦自体が社会運動であると飯野さんは語りました。次世代に社会運動を手渡す前に給与支払いの持続性も含めて基盤をアップデートする責務が自分の世代にはあると熱田さんは強調し、次世代の鄭さん・葉山さん・遠藤さんがふぇみ・ゼミで学んだことを社会で活かしていることへの喜びを表しました。

 詳しくは以下をご覧ください。

  Kaida SJF(写真=上中央から時計回りで熱田敬子さん,鄭允瑞さん,葉山慧さん,遠藤純一郎さん,飯野由里子さん)

 

——熱田敬子さんのお話——

 ふぇみ・ゼミ&カフェという団体は、今、私と飯野さん他に3名運営委員がおりますが、二つの団体が合わさって作った団体でして、ふぇみ・ゼミ&カフェの中に「ゆる・ふぇみカフェ」という団体と「ふぇみ・ゼミ」という団体があります。初めは「ゆる・ふぇみカフェ」から始まりました。2014年が第一回です。当時は今とはだいぶ社会の空気が違いました。2000年代に激しいジェンダーバックラッシュがあり、「ジェンダー」とか「フェミニズム」という言葉を聞いただけで拒否をする人が今よりずっと多かった、あるいは本当に「性の多様性」――飯野さんがよく書いてらっしゃることですけど――に関する攻撃なんかもすごく激しかったのです。

 そういった中で「ジェンダー」、「セクシュアリティ」、「フェミニズム」、そういったことを口に出すこと自体、萎縮する動きがありました。フェミニストでも「フェミニズムって言わない方がいいんじゃない」と言う人がよくいました。でも、フェミニズムはすごくポジティブな力を持っているので、私たちはそれを取り戻したいということで始めました。

 形態としては、お茶とお菓子を出せるような、そういう空間を借りて、そこでジェンダーを共通点に、さまざまな差別に関するテーマのアート、演劇、美術とか、音楽、腹話術とか、物販とかもやったんですけれども、お勉強だけではないさまざまな表現方法でやっているものを紹介してきました。

 ジェンダーが切り口ですけど、他にも障害であるとか、セクシュアリティであるとか、それから原発であるとか、そういったものをきちんと一緒に取り上げていくことで、一つのイベントに来ると同じ所でいろんなイベントがあるので、関心の無かった他のテーマにも出会ってしまう、ということをかなり意識してやっていました。第1回は20人も来ればいいかなと思っていたんですけれど、予想外に初回でいきなり100人ぐらいの方が来てくださいました。

 

いろいろな人と一緒に楽しくフェミニズムに関連するテーマを考える場の大切さ

 課題もたくさんありました。例えば、子どもを連れて来られる方はすごく多かったんですが、「子どもがうるさい」と言う方がいたんですね。たくさん人が集まれば、子どもも、黙っていることが難しい人もいるわけで、私たちはいろんな人が一緒に何かをやるということは、みんなが前を向いて黙って座って聞いている場所を変えないとできないのではないかと考えました。それで、子どもを排除するのではなくて、会場のど真ん中に、人がしゃべっている所の前にキッズスペースを置いたんです。時々この子どもたちがしゃべっている人のマイクを奪い取ったりとかするんですけど、そういった雰囲気も含めて楽しんでいただくという形になりました。

 もう一つ、やはりすごく問題だなと思ったのは、社会課題として可哀そうでない運動というのを本当に日本は理解しないということがあります。ゆる・ふぇみカフェは楽しいんですよ。平均150人ぐらいの方が毎年集まってくださって、お茶とお菓子もあって、アートやパフォーマンスを見られて楽しいんですけど、そういったものがなぜ運動なのかということ、可哀そうな人を支援するのではない運動というのを本当にいろんな人が理解できないのです。例えば、ある助成金の審査会でゆる・ふぇみカフェを、わざとだと思うんですけど、ふわふわカフェとか、ゆるふわカフェとか何度も言い間違えてくる中高年の男性がいたりしました。また別の機会には、フェミニストからも「『ゆる』とか言って、男に媚びてる」みたいなことを言われて、どこら辺が媚びているのか教えて欲しい、みたいなこともありました。

 

ジェンダーの視点で歴史を捉えると見えてくる日本の問題構造 「ゆる」に込められた真意

 来た方からは概ね好評で、かつ、ジェンダーを起点にさまざまな、今の言葉で言えば――当時はまだそういう言葉を使っていなかったですけど――インターセクショナリティということで、さまざまなものを一緒にやってきました。

 私を含め日本軍性暴力、性奴隷制に関心をもってきた人も参加していて、日本軍性暴力の写真展示や映画上映もしています。「日本軍性暴力についての写真展に行きましょう」と言うと、日本の社会はすごく右傾化しているので、意味が分からなかったり身構えてしまったりする人もいると思うのですが、そういう人がお茶やお菓子、アートパフォーマンスとか楽しんいる時についでにそれに触れちゃう、という仕掛けをしていました。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 ところが、ゆる・ふぇみカフェの「ゆる」を巡って、その可哀そうじゃない運動を理解できないということと関係していると思うんですけど、メンバーの中でも「ゆる」を巡って混乱があったのです。いろんなことを一緒にやって行くのはいいんだけど、反原発をうち出すことにためらいを覚えたり、なんで自分が日本軍性暴力のことをやらなきゃいけないのかという人がいたりしました。

 これ絶対やらなきゃいけないんですよ。なぜなら、たとえば電力を変えようと思ったら、地域の本当に家父長制的なジェンダー構造の中で、地主さんはみんな中高年の男性で、みたいなことがあって、そこで発電などが決まっていくわけですから、がっちりジェンダーの問題なんです。

 けれども、やはりそういう社会構造が日本社会で分かる回路がなかなか無いということだなというふうに私たちは考えました。そこで実は、ふぇみ・ゼミを始めたんですね。飯野さんはこの時から一緒にやってくださっていて、2017年から初めて、2018年に大きくやりました。

 私たちは、大学という制度の中でできないことがたくさんあるよね、ということをすごく当時も今も考えていました。しかも、ジェンダーやセクシュアリティの研究というのは、そもそも大学の外で始まっているわけです。それを大学の中に持ち込んで作っていった人たちがいるということを忘れてはいけないと思っています。

 社会を変えたいなら差別の仕組みを知る必要があります。「なんで原発をやんなきゃいけないの?」、「なんで日本軍性暴力やらなきゃいけないの?」という質問が出てくるのは、日本社会の構造がどこでも教えていないので分からないからです。

 それから、歴史が分からない。日本軍性奴隷制、慰安所の仕組みというのは、今の技能実習生と構造的によく似ています。そういう仕組みを日本は作り続けている。だけど、そういったことが見えないと、なぜ自分がこれを今やらなきゃいけないのかということが見えない。そういったことを当時話していました。

 

 ただ、これを上から教えるという場にはしたくない。やはり、私や飯野さんみたいな人がいると若い人はしゃべりにくいじゃないですか。よくしゃべるし、いろんなことをよく知ってそうだし、なんか自信ありそうだし、ちょっと威圧感があると思うのです。

 若い人には若い人の場が必要だということで、設立当初から一つだけ、「U30若者ゼミ」というのだけはアンダー30歳という年齢で区切ってやっています。これはちょっと勘違いされているんですけど、ふぇみ・ゼミでは年齢制限がある講座は一つだけで、他は全て年齢制限が無いです。だからいつも「ふぇみ・ゼミは年齢制限があるから参加できません」と言われると、いや「制限の無いのもいっぱいあるんですよ」とお答えしていて、人生の先輩の皆さんももちろんウェルカムです。

 2018年に本格的にスタートして、初回の若者ゼミは80名ぐらい来てくださいました。今日この後しゃべってくださるゼミ生や、スタッフの方たちも基本的には若い世代を雇用して、そしてその方たちに運動のやり方を知りながらさまざまなことをやっていただく、それからゼミの場で仲間やネットワークを作っていただくということを目的としています。ゼミ生発の運動や、スタッフ発の運動も立ち上がってきています。

 

 

——飯野由里子さんのお話——  

 ふぇみ・ゼミは、多様な人たちの参加を可能にすること――これは工夫というよりは本当に挑戦――を続けてきていますので、そこに焦点を絞ってお話しさせていただきます。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

講座へのアクセス容易度の格差を小さくする手法を開発し共有するのも社会運動

 講座のハイブリッド配信というのを、ふぇみ・ゼミでは講座を始めた2018年当初から行っています。今ではZoomを使ってオンラインで講座を配信するというのがほとんど当たり前になっていると思うんですけれども、2018年当初はそうではなく、会場に来てくれた人だけに講座を提供するというやり方が圧倒的に多かったのです。でも、そのやり方だと講座にアクセスできない人がいますよね、という話を運営委員の間でしていました。

 例えば、地方に住んでいる人が平日の夜に開催される講座にわざわざ電車に乗って遠くまで来て、そしてまた帰るというのは難しいですよね。あるいは平日の夜の時間だと子育てがあってとか、あるいは介護が必要な家族がいて自分が家にいなければいけないので会場には行けないですとか、自分には身体に障害があるので介助者無しで移動するのが難しいので行けませんというような方、さまざまな方が実はその対面の講座にはアクセスしづらいんじゃないかと。

 だとすると、そこには資源配分の格差というのが生じているはずなので、この格差を少しでも小さくする必要がある。これは社会運動としてやっていく必要があるよということで、当初は、YouTubeのライブ配信機能を使ってハイブリッド配信を行っていました。 当時は、60人ぐらいが会場で集まって、1人か2人がオンラインで参加するというような感じでした。それが新型コロナウイルスの流行拡大もあって、2020年以降はふぇみ・ゼミでもZoomを用いて配信するようになったんですけれども、現在では参加形態の人数が逆転していて、オンラインの参加者が非常に多くて、会場の参加者が少なくなっています。私たちは、「講座後にみんなで美味しいものを食べる機会を持つので、ぜひ会場に来てくださいね」と宣伝するようになりました。こうしたオンライン配信、あるいはハイブリッド配信の蓄積というのがあったので、新型コロナウイルスの感染が拡大した際に、オンラインに非常にスムーズに移行できました。

 同時に、ふぇみ・ゼミの講座を通して蓄積した知見、ノウハウを他の団体、他の人たちに伝えていくための講座を開講するとこともできました。これは熱田さんと、今日は残念ながら参加できていないですけれども、運営委員の一人である梁ヤン・永山聡子さんのお二人が、ふぇみ・ゼミのノウハウをみんなに伝えていこうということで、2020年5月からという非常に早い段階から、こうした講座を展開してくれました。とても大事な講座だったと思っています。

 

リアルタイム字幕が必要な人を歓迎する場づくり

 もう一つ、今日もふぇみ・ゼミのスタッフに入っていただいて、皆さまにリアルタイムの字幕を提供しております。これは、字幕が必要ではない方にも、字幕が入っているということを見ていただきたいし知っていただきたいので、Zoomの画面上に一つ画面を作って表示させてもらっています。もしよければ見てください。

 この字幕は、当初は、ふぇみ・ゼミの講座には例えば聴覚障害のある人など音声日本語だけでは講座の内容にアクセスできない人がいそうだよね、ということで別にお願いされたわけではなく始めたのです。そうした人たちもウェルカムだよ、という場にしたかったので。

 やってみると、意外と多くの人に好評でした。一つは日本語を第一言語としない人たちです。当初、留学生も多かったので、留学生には本当に「これ、すごく助けになる」と言っていただきました。

 講座が進むにつれて、音声日本語でも情報は取れるんだけれども、講座の中で固有名詞がすごく多かったり、専門用語がすごく多かったりして、耳で聞くだけだと上手く理解できないような時にこの字幕が非常に有効だということで、ふぇみ・ゼミでは、講座に字幕が必要な人がいるかいないかに関わらず、リアルタイム字幕をできる範囲で基本的に付けています。

 それ自体が社会を変えていく社会運動であると私たちは認識しています。

 ただ、この字幕を提供するためには、人手も必要なのです。現在、私たちはUDトークという無料のアプリを使って、その自動音声認識機能をうまく活かして字幕を提供しているんですけれども、それだけだと十分な質が担保されません。誤変換などが多いのです。この誤変換を修正するために、今日もふぇみ・ゼミから校正者が3名入ってくれています。裏で一生懸命直してくれているんですね。その他、特にパソコンから音声を直接取ろうとすると音声認識率が悪くなり、特にWi-Fiの状況が悪かったりすると生じやすいので、その場合には「リ・スピーク」と言いまして、話者がしゃべったことをそのまま校正者が復唱して、自分の手元のデバイスに音声を入れています。

 

フェミニズムの知見や感性、スキルを社会のいろんな場で活かしていく踏み台に

 これらを私たちは時給をお支払いして行っています。

 なぜ時給を払っているのか。これもふぇみ・ゼミが行っている挑戦の一つですけれども、社会運動というのを広く、そして持続可能にしていくためには、やはりこれまで当たり前とされてきた無償労働を継承しない努力をしていく必要があると考えているからです。これは、ふぇみ・ゼミがこうした考えのもと努力してやっていることであり、これを他の団体に押し付けようとか、他の団体もすべきと言いたいわけではありません。

 私たちはさまざまな講座を展開していますが、講座には本当にたくさんの学生・院生・スタッフにアルバイトとして関わってもらっています。

 このアルバイトの方々というのは、もちろん私達から仕事を振るのですが、基本的には、「自分で今の学生生活とか、その他の生活とのバランスを考えながら、どの程度働くかを決めてくださいね」、「自分がどういったスキルを身につけたいのかを考えて、必要な仕事を引き受けて行ってくださいね」という形で、主体的に関わってもらうことをすごく大事にしています。

 スタッフも増えてきて「先輩スタッフ」がどんどん増えてきているので、スタッフ間で研修をし合ったり、スキルの交換をし合ったりするという場も設けていて、これも時給をお支払いして参加してもらっています。

 こういった形で、本当にたくさんの方たちに関わってもらうことを通して、フェミニズムの知見や感性、スキル、そういったものを身につけた人たちが社会のいろんな場所に、会社員としてこの後働いていって、そこで社会運動をやってもいいし、メディア関係者としてそうした感性をどんどん活かしていただいてもいいし、放送関係に行く人もいるかもしれないし、いろんな場所で活かしていってもらうことを狙いにしています。

 私たちの狙いは、若者を囲い込むことではなく、皆さんがふぇみ・ゼミをある種こう踏み台にして、卒業して、自分たちの活動を自分たちなりに始めて行くということを目標にしています。

 

熱田敬子さん) 今は完全にスタッフの方たちが配信技術も身につけて、クォリティもかなり高いハイブリッドで、会場とオンラインとで基本的には差がない状態でできるようにしております。ゼミの後に交流会や、学期末のファイナルパーティーや、お勧めの本を交換する会、自分たちの言いたいことを共有する会などをやったりしています。

 今年の夏はサマーワークショップをやりまして、もう私たち運営委員が行かなくてもスタッフが運営をある程度できるようになっているということで、前半は完全に若者だけの場という形で運営していただきました。というような形で、かなり移り変わりながらやってきていますけれども、少し雰囲気をお分かりになっていただけたかなと思います。

 

 

――パネル対談―― 

鄭允瑞(チョン・ユンソ)さん) こんにちは。ふぇみ・ゼミのスタッフです。韓国人です。韓国生まれ育ちの人で、昨日、卒業判定が出されましたが、約5年間、日本で日本語学校から大学まで留学をしていて、ふぇみ・ゼミには2019年からゼミ生として、今はスタッフとして関わってきています。かつ、いろんな活動にも関わっています。

 私がふぇみ・ゼミに参加した最初のきっかけは、大学で熱田さんの授業を取っていた時にふぇみ・ゼミの存在を知ったことでした。それで今まで、ふぇみ・ゼミとの縁が続いているわけですけれども、今日この後、皆さんにそのふぇみ・ゼミを通して考えてきたことや、やってきた活動などを紹介したいと思います。よろしくお願いします。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

 

 

葉山慧さん) 私はユンソさんと実は4年前ぐらい、大学に入った時からお友達で。大学と学年と学部が全部一緒なんです。それで、私も昨日、卒業判定を恐々確認して大丈夫だったんですけど。

なので、私もユンソさんとはふぇみ・ゼミに入るまでの状況が結構似ていて。私も熱田さんの授業がきっかけでした。日本軍の戦時性暴力・性奴隷制のことが講義で取り上げられていて、その中で、ふぇみ・ゼミのビラが撒かれていたんですよね。講義を受けて本当に知らなければならないことが余りにも多すぎて、大学で週一回講義聞くだけじゃ足りない感じがあったので、ふぇみ・ゼミに入りました。

 

 そこから社会運動にも関わるようになったんですけど、最初は知らないことが多いから、ちゃんと勉強してからやりたいと思っていたんです。間違えたくないというか、間違えることはあるだろうけど、それで他の人を差別に反対しているつもりで差別してしまうとか、そういうことをなるべく起こさない状態になってから社会運動をやりたいなって。

でもちょうど私がふぇみ・ゼミに入った夏に、あいちトリエンナーレでの展示中止のことがあって、それに対して、ふぇみ・ゼミに当時参加されていた美大生の人が反対署名を立ち上げたんです。特に《平和の碑》という像のことは講義でも聴いて知っていたし、それまでは私にはまだ早いと思っていたけど、さすがに何かやらないとダメだろうと思って、とりあえずグループに入ったというところが社会運動の始まりでした。

それが、「あいトリ《平和の碑》撤去に反対する有志グループ」というふぇみ・ゼミ生発のグループです。私は2019年と2020年の2年間ふぇみ・ゼミにいたので、2020年には「フェミニズム×トランスライツ勉強会」という、これもふぇみ・ゼミ生のグループでトランス差別に反対していました。というのが、だいたい私のふぇみ・ゼミにいた2年間ぐらいの話です。

 

その後、私はふぇみ・ゼミから卒業して、2020年以降はふぇみ・ゼミには余り関わらず、自分のやりたいことを外でやっています。

なぜ卒業しようと思ったかというと、ふぇみ・ゼミでは、「ここを居場所にしないで、あくまでも自分で学んだことを外に広げていってね」と常々言われていたんですよね。あと、ふぇみ・ゼミの運営委員の人たちには私の通っている大学で非常勤をやってる人が多くて、アカデミアの方でも社会運動の方でもメンバーがすごく共通している感じが気になっていました。こういったことを踏まえて、これはよくないということで外に出た感じです。

外で何をやっているかということですけど、ふぇみ・ゼミ以外にあまり足場が無かったので、最初はとりあえずデモにたくさん行っていました。

その流れで入管問題に――当時はトランス女性の方が収容されていたこともあって――関わるようになり、入管はオリンピックと不可分でオリンピック・パラリンピックを開催するために外国籍の人たちをガンガン収容していた場所なので、オリンピックにも反対するようになりました。そしてオリンピックへの反対運動は招致段階から野宿者の人たちが中心になって行われてきたものなので、野宿者の運動にもちょっと関わるようになって、去年は最終的に渋谷に行ってたという感じでした。

 

ここまでで言い忘れたんですけど、私はノンバイナリーなんですね。私はオープンリーなので広報にも書いてもらったんですけど、それを見て今日来てくださったという方もたくさんいるみたいで、とてもうれしいなと思っています。

ノンバイナリーというのは本当に意味が広いですけど、ざっくり言うと「自分のことを女性や男性のどちらかにはっきりと分けられると認識していない人」のことを表現する言葉です。

 

遠藤純一郎さん) 私は今年度のふぇみ・ゼミのU30にゼミ生として参加し、サマーワークショップにも参加していました。スタッフのユンソさんとは最初のころから顔を合わせていて、葉山さんとはサマーワークショップの時に初めてお会いしました。

私が最初にふぇみ・ゼミのことを知ったのは、運営委員の梁・永山聡子さんが私のある友達が参加していたフェミニズムをテーマにした美術展のイベントに呼ばれていて、ふぇみ・ゼミのことをお話しされたことからです。それで、ちょっと気になっていたのが最初のきっかけです。

私自身は美術大学を卒業していて、美術の展示をよく見ていました。いろんな作品を見たり、自分で作品を制作したりする中で、ジェンダーやフェミニズム、セクシュアルマイノリティといったテーマが気になりはしたんですけど、大学にはそういうことをちゃんと勉強できる授業というのがありませんでした。自分で勉強しつつ、そのまま大学を卒業したのですけど、私は今28歳で、そろそろふぇみ・ゼミのU30に参加できるタイムリミットだなと思って、ちょうど今年度の募集を見つけたので、仲間がほしい、一緒にいろんなことを勉強したいなって参加しました。

 

包括的性教育をテーマにしたカレンダー制作 アートと社会運動の融合

もともと私は大学を卒業する段階から友達と一緒に、包括的性教育をテーマに、イラストと言葉でいろんなことを扱って伝えるカレンダーの製作をやっていて、5年目になります。これを作って友達や知り合いなどに買ってもらったり配ったりして、いろんな人に知ってほしいなとやっていました。

ふぇみ・ゼミに参加して一番変わったなって思うのが、そういうことをそれまでは社会運動だと思ってやっていなかったんですけど、もしかしたら社会運動と呼べるような活動なんじゃないかと気づいたことです。それまでは、美術に関わって、今も仕事は美術の展示などに関わっているんですけど、そういう所にいると、「社会運動」という言葉とちょっと距離がある感覚、アートは社会運動とは違うんだっていう感じがちょっとあるんです。

でも、「社会運動」という言葉に改めてふぇみ・ゼミで出会って、先ほどユンソさんが言っていたお給料の話、ボランティアとして何かするのではないやり方とか、好きなことやっているからお金をもらわないみたいなことが美術の話ともつながってきて、いろんな面で考え方が広がった経験になりました。

 

葉山さん) じゃあ、それぞれの自己紹介で話した内容についてもうちょっと掘って行こうと思うんですけど、もっと聴いてみたいと思うことはありました?

ユンソさん) 葉山さんのノンバイナリーとしてアイデンティティを自認したきっかけとか、大学の中でノンバイナリー/クイアなアイデンティティでいるのと、ふぇみ・ゼミで出会った人たちといるのとでは違うと思うんですけど、その辺りどうなのか聞いてみたかったです。

 

葉山さん) 私はフェミニズムに出会ったのが良くも悪くもTwitterだったんですよね。大学に一年浪人して入っていて、そのときはもちろん勉強もしていたんですけど、Twitterをめっちゃ見てたんです。ちょうど、Twitterフェミニズムが2018年とか19年に盛り上がっていたので、それで、「あ、そうか。こんなことがあるのか」と思うようになりました。

 ノンバイナリーだなって気づくまでに過程があったんですけど、まず自分がシスじゃないと気づいたのもやっぱりTwitterがきっかけでした。シスの人のツイートを見て、月経に関する感覚があまりにも違っていて驚いたんですよね。こういったことから「自分はノンバイナリーなのかな」とネットでいろいろ情報を集めていました。

 ラッキーなことに私はノンバイナリー運みたいなものに恵まれてて。大学1年のときに学内のジェンダーやセクシュアリティのことで学生相談を受け付けているような所に行った時も、オープンリーなノンバイナリーの人がいたし、社会運動で会った人にもノンバイナリーが多いですね。だから5人10人じゃきかないぐらい周りにノンバイナリーがいるし、何なら年を追うごとに増えてるから孤独感を感じることはほとんどなかったです。

 

シスジェンダーのフェミニストたちから受けるミスジェンダリング 

 大学とふぇみ・ゼミみたいなコミュニティの中でノンバイナリーとして、どういうふうに違いを感じるかってことですけど、大学では人とあまり関わらなかったから、これから就職予定の会社を比較対象にした方がいいかなと思います。会社にはトランスだって言って入っていて、ノンバイナリーは多少専門性が出てくる言葉だから伝えてないけれど、トランスだっていうことは言ってあるんですね。

 これは本当にフェミニズムに対して思っていることなんですけど、私はフェミニストからミスジェンダリング、性別を間違えられることがめちゃくちゃ多いんですよ。世の中の人間を女性と男性に無理やり分けて、それによって大きく待遇を変えるという差別的な構造がある中で、それを問題化するために女性と男性ということにある程度こだわらなきゃいけないっていうのはよく分かるんですけど、だからといってノンバイナリーの存在を否定していいわけはないですよね。

 シスのフェミニストは私のことを「多様な女性」だと思っている感じがすごくあるんです。1人2人じゃない、5人、いやもっともっと多くのシスのフェミニストたちから、数年付き合っているのに未だに「彼女」とか言われるし。そういうことが本当にどの社会運動コミュニティでもありますね。

 それに対して「ノンバイナリーとして生きていくっていうのは、こういう風にアイデンティティを否定され続けるってことなんだろうな」と思っていたんですけど、会社の人はもっと親切なんですよ、正直。ノンバイナリーだっていうことを、噛み砕いて説明するとちゃんと受け取ってくれるし、トランスとして扱ってくれる。

 はっきり言うとシスのフェミニストの方がよっぽど不親切でした。私が何をやっても、私の経験は「女性差別だ」と思っているんだろうし、私のことも、――私のアイデンティティは置いておいて――「あの人は社会的には女性として扱われているんだから、女性だと言えるだろう」と考えているんだと思う。でも、それは完全に間違いなので。

 この辺のことを今日話せるかどうかっていう感じで考えていたので、ちょうどいい質問がもらえてよかったです。

 

ユンソさん) 私は、ふぇみ・ゼミに入ったのが2019年からで、もうちょうど4年経っていますけど、遠藤さんは今年度初めてふぇみ・ゼミに来られて、いろんな思いがあったと思うんですけど、もうすぐふぇみ・ゼミはファイナルパーティーに入るので、ゼミ生としての感想を聴きたいです。

 

遠藤さん) 私は1年前、何を期待していたのか、実はちゃんと思い出せないけど、ふぇみ・ゼミはフェミニズムを勉強するっていうよりも、いろんな社会課題について何か毎月勉強する、その前提としてフェミニズムの考え方があるみたいな感じだと思うんです。まずこの、いろんなことを勉強できるっていうのがいいなと思っています。

実際、全くもって知らなかったテーマの話があったかというと、テーマ自体に関しては無かったかなと思うんですけど、このことはあまり考えてなかったと思ったのが、労働の話。「労働の権利」をその言葉で考えたことがなかったと思って、今でもずっとどこかで「労働の権利」というのを考えています。

私はハイブリッドで開催しているふぇみ・ゼミの会場になるべく行きたいと思って参加していたんですけど、その中で友達になれた人たちがいます。その人たちと感想を共有して、仲間が見つかった感覚が一番大きいです。

自主企画が奨励されている感じもよくて、最後の方まで実際できませんでしたが、今     交流会のようなイベントを企画しています。行動につなげていくところが、仲間も見えてくるし、運動の方向性も見えてくるし、いい一年で、なんかすごくつながっていきそうな感じだなあっていうのが今の感想です。

 

「女性らしさの虚構性」を暴くドラァグクイーンで「何者でもない」表象感覚を楽しむ

葉山さん) 私は遠藤さんに、ドラァグの話を聞けたら嬉しいです。

遠藤さん) 最近は一年以上やってないんですけど、友達と一緒にドラァグクイーンのメイクをしたりウィッグを被ったりして行うパフォーマンスを継続的にやっていたんです。ユンソさんが家に遊びに来た時にウィッグが飾ってあって「あれ、なんですか」みたいな感じになって、「あ、ドラァグを」と話したことがあります。

ユンソさん) 普通のウィッグじゃなくて、あまりにも目立ちすぎて綺麗で、普通のウィッグだったら聞かなかったと思う。

遠藤さん) 友達と一緒にたまたま新宿二丁目でやっていたパーティーに参加したことがありました。一緒にシェアハウスに住んでいた人がすごくドラァグクイーンを好きで話     は聞いていたんだけど、でも自分がドラァグクイーンになる、そういうメイクするところまで、初めはすごくやりたいっていうことはありませんでした。でもそのパーティーでパフォーマンスを見た時に「すごくかっこいい。これぞエンターテイナーだ!」と思って。ダンスをやっている一緒にいた友達と「ちょっとやってみよう」となって。その友達の誕生日会で初披露をやったんです。

 ドラァグクイーンは女装をするというよりは、もっと女性らしさを強調することによって何者でもなくなる、そういうことが多分あると思うんです。そういう考えもすごく面白いと思いました。一方で、実際にやってみると、メイクをすること、自分の顔が変わる感覚から、それまで自覚してなかった、自分が女性らしくなることへの嫌悪感みたいなのがすごくあったということを改めて自覚しました。それと同時に、自分の見た目をもっと楽しむこともできるかもしれないと思いました。

 いろんなことを、ドラァグをして考えました。最近はやれてないけど、もっとやりたいねという話を友達と最近持ったところです。ふぇみ・ゼミのみんなで一緒にやりたいみたいな気持ちもちょっとあります。

 

葉山さん) いいですね。「あ、ドラァグやってたんだ。すごい素敵」と思いました。

 自分の表象に対する感覚みたいなのは、トランスとして感じるところもあって、話してみたいなと思っていました。

 遠藤さんが言っていた、自分が女性らしくなることへの嫌悪感みたいなのが何由来なのかはもちろんわからないけど、個人的にはシスジェンダー中心主義の存在を感じるかも。私も、既存の規範に照らしたときに、自分には似合わないとされる表象をとることへの抵抗感があったりするので。

 たとえば、髪の長さ。私は4年前ぐらいからずっとこの長さなんですけど、はじめて髪を短めに切った時も、自分の身体に対して浮いてる感じがあってちょっと嫌ではあった。でも同時にこのぐらい切らないと性別を間違えられ続けるなと思って切っているというのがすごくあります。今は身体を気にしなくなったので、「めっちゃ似合ってて、めっちゃかっこいいね」とも思っているけど、同時に本当に飽きてきて、そろそろ伸ばしたいなと思ってます。でもやっぱり、性別を間違えられたくなさすぎて伸ばせない。伸ばしても、どうせ変わらないんですけどね、扱いは。今の時点でめっちゃ「彼女」とか言われるから。変わらないのは分かっているんだけど、やっぱり伸ばせないというのはすごくあります。

 自分をどういうふうに他人に表現するかはすごい難しいですよね。自分の好きな表現をできればいいんだろうけど、でも他人のために親切心みたいなものでやってるところはあるし。

 

遠藤さん) ただ普段に生活する中だと多分ドラァグすることはなかったけど、一回チャレンジしてみると、それだけでいろんなことを考えられた。

 学園祭で女装とか男子学生がやっているのは、ふざけてやっているかもしれないけど、実は結構やった本人はいろいろ気づいたりしているんじゃないかと思いました。極端に嫌悪するんじゃなくて、もっと遊ぶというか楽しむみたいなこととかできたらいいよなと思います。

 

ユンソさん) この前ふぇみ・ゼミに登壇してた今日本に住んでいる在日の中国人の方とその友達のみなさんと話す機会があったんですけど、その時に言われたのが、韓国も日本もそうだけど、中国もいわゆるラディカル・フェミニスト、ターフ(TERF)がメインストリームになってきているという話でした。そんなことを思い出しました。

 ドラァグクイーンを「女性ヘイトだ」と言う人もいるじゃないですか。女性らしさをそれこそふざけて滑稽なものにするような批判をする人もいるんですけど、それはドラァグが何か分からない人の話だと思います。その人は多分、遠藤さんがさっき言った、学園祭で女装するとか、そういった社会雰囲気を考えてそんな話をしていると思うけど、そう考えるとちょっと難しいところもあるのかとも思ったりします。最初に私が思っていたドラァグへの抵抗感というのも、そういった考え方から来たのもあるんじゃないかと思いました。

 

葉山さん) 女性ヘイトだっていうのは、「女性性は作り物だ」というのを暴くからだと思うんですが、ドラァグのそういうところ、すごく素敵ですよね。

 以前もっと頑張ってシス男性に寄せようとしてた時期があったんですけど、その時にドラァグクイーンの人たちのことをよく考えてました。

 シスジェンダー中心主義に照らせば自分はやっぱりちぐはぐで、嫌な視線も浴びたりするけど、それは「男性らしさが社会的な構築物であること」を暴くものでもあるから、それでいいんだと。

 

ユンソさん) 社会的な資質の話をすると、さっき「外で見られたりする」と言っていましたが、日本社会ではみんなジロジロ見たりするのが割と低いと感じています。私は初めて日本に留学に来た時はいわゆるザ韓国人的な恰好で、洋服とかお化粧とか髪型とか。その時は2017年の10月・11月ぐらいだったから、今みたいにK-POPが流行っていたわけではないですけど、それでもちょっと韓国人っぽい格好しているだけでめっちゃ見られたのですが――今ちょっと大げさにザ韓国人と言いましたが――、その時の私は自分がそんなに見られるとは思わなかったし、私はその経験をしてから、人に見られるのはそんなに気にしても意味が無いと思うようになりました。

遠藤さん) そのある種の強さ、そう思うようになれるというのも、フェミニズムを勉強したりとか、仲間と出会ったりしたからかもしれないと思いました。

 

ユンソさん) お二人に、ふぇみ・ゼミでのゼミ生の自主企画の経験を話してほしいです。葉山さんは「トランス勉強会」、遠藤さんは映画の上映会とか、韓国の社会運動について話す会とか企画していたことを簡単に話してください。

葉山さん) それが2019年・20年の話です。トランスライツ勉強会については読書会からスタートしたんですけど、外に還元したかったので活動の幅を広げていった感じです。そこで社会運動の方法論を運営委員の方から教えてもらって、声明の書き方とかブログの開設方法とか。そういう方法論を実地で教えてもらって助かったというのをよく覚えています。内容証明郵便もその時初めて知りました。

遠藤さん) 私の場合、最初にやったのは、サマーワークショップで紹介されていた『ヴァギナ・モノローグス』という演劇を発端にした社会運動のアートプロジェクトのドキュメンタリーを見る会です。レクチャーの後に「見たかったらYouTubeでも見られますよ」と言ってもらえて、「じゃあ、なんか企画します」みたいな流れでやりました。

 私はホームパーティーみたいなのをよくしていて慣れがあるので、その延長の感覚で     やっています。特にオンラインの参加者も多かったから、実際に会ってもっと話したい、仲良くなりたいという思いがありました。

 それで今度は、ユンソさんに韓国の社会運動の話してもらう会を企画しているところです。これはユンソさんに一緒に企画している時に言われて気づいたことですが、補助をしてもらう関係で予算を組んで申請していたんですけど、運営スタッフを私自身がするとなった時のお金を考えないでやっていました。ゲストとして話をしてくれる人に謝金を渡すことは考えるけど、運営する自分自身にお金を払うことは考えないでやっていたというところに改めて、「無償で働こうとすることに慣れている」とはこれのことかという気づきがありました。

ユンソさん) その時、ゼミ生の自主企画の「トランス勉強会」も予算をもらっていましたよね。

葉山さん) そう、もらってイベントをやりました。

ユンソさん) そのやり取りをする段階で、運営委員から先に言われたんですけど、私も遠藤さんとその前の企画からずっとやっていて、でも遠藤さんの賃金、企画者として実務をやっている人として賃金をどうしようと思いつつも、思っているだけで何もアクションをしていなかったということにその時初めて気づいて、やっぱり無償労働の考え方が内在化されているというのがすごく分かりました。

 

葉山さん) はい、そろそろ時間ですので、最後にそれぞれの言いたいことを書いたプラカードを出しつつ、一言いっていきます。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユンソさん) 私は「差別をなくしたい?連帯しよう!」というメッセージを書きました。これは、私がふぇみ・ゼミでインターセクショナリティを考えるときに一番心がけているスローガンです。

 先ほど、トランスジェンダーを排除するフェミニストのグループ(ターフ/TERF)の話をしたんですけど、ふぇみ・ゼミでの活動を通して、いろんなアイデンティティやマイノリティ性を持っている人たちに出会って、その話を聞くことで、私が経験する差別を無くすためにもそんな人たちと連帯するのは大事だなと思ってきたので、最後にこの標語を出したかったです。

 

葉山さん) 「WE ARE REAL、天皇制廃止」。これはマスキングテープで作っていて、ノンバイナリーのカラーとAセクシュアルのカラーを混ぜているんですけど、日差しとかあるとすっごい綺麗に光るんです。

 もともと別件で作っていたもので、一番可愛くて気に入っているので、今日持ってきました。

 

遠藤さん)私は、「社会の変化 WELCOME」ってことで、社会が変わっちゃうことへの不安がいろんな人にあるのかもしれないと最近感じた時に、「もっと明るく楽しく変えていこうよ」との思いで書いてみました。

 プラカードはサマーワークショップの時にみんなで作ろうということで、初めてちゃんと作ったのですが、その時に葉山さんが作っていたプラカードを見て、「めっちゃ可愛いい!プラカードってこんな感じなんだ」と思って、そこからです。私のプラカードへの熱は。最初はプラカードを書くこと、パッと簡単に自分の言葉を書くっていうことに抵抗があったんですけど、やってみたらシンプルに楽しいし、これを掲げて表現するってすごいいいなとその時に気づきました。それ以来プラカードをもっと作りたいという思いがあります。

葉山さん) いいですね、その自主企画とかも。

 我々のトークはこの辺でということで、ちょっと幕を。

 

いろんな場所からいろんな人がいろんな形で社会運動に関わることをウェルカム

飯野由里子さん) じゃあ、私のプラカードも見せましょうか?

「社会運動は どこからでもできる!」、というのを私はふぇみ・ゼミを通して学びました。

 葉山さんの発表の中にもあったんですけど、「知らないことが多いから、ちゃんと勉強してからやりたい」。ちゃんと準備が整ってからやりたい、体力がないから私はできない、忙しいからできない、意識そんなに高くないからできない、いろいろ私も考えて足踏みしていた人間でもあります、どこかで。

 もちろんそれでも社会運動には関わってきたんですけれども、ふぇみ・ゼミに関わる中で、例えば今日UDトークの校正をしているスタッフの中には関西の方に住んでいる人もいます。ずっと遠隔でこういった形でふぇみ・ゼミを支えてくれている。海外のスタッフもいるんです。

 いろんな場所からいろんな人がいろんな形で関わって、一緒に講座を提供できるようになっている。その講座を受けに来てくれている人も、私たちは一種の社会運動の参加者として捉えているという意味で、それぞれが自分の居場所からできるやり方で社会運動に関与して行くということを、結構ウェルカムし、ポジティブに捉えていますので、先ほどのメッセージを出してみました。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

熱田敬子さん) 私は実はチラシも結構作っていて、さっき話に出た中国版『ヴァギナ・モノローグス』のイベントのチラシや、新型コロナ禍の時にウィメンズマーチさんと一緒にやった『フェミニズム ウェーブ』のチラシ(写真下)なども作っています。先ほどユンソさんの話に出た『明日へ』の元になったドキュメンタリーの『外泊』のチラシなんかも。お金がない時は自分たちでけっこう作っていたので。

Kaida SJF

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近は、仕事の機会を多くの人に振っていくということで、若手のデザイナーさん中心にどんどんお願いするようにしているんですけれども、プラカードから始まって、いろんな表現を身に付けていったので、ご紹介させていただきました。

 

 ユンソさんが「未来が見えない」と言った気持ちは、私は自分が若い時のことを考えるとよく分かります。「研究者にならないと社会問題をやれないのだろうか?」と言う人が周囲に一定数いました。全然そんなことはないんですけれども、特に日本社会で社会運動をやりながら、ご飯を何らかの手段で食べていくという道筋が全く示されていない。実はふぇみ・ゼミは専従をおかないという方針ももっていて、そのためには社会運動で適切な労働対価を受け取り、さらに他の手段と組み合わせて生計を立てられるようにしないといけません。

 また、葉山さんがおっしゃったようにノンバイナリーと言っても「彼女と何度も呼ばれる」みたいな、社会運動の中の無理解は、さまざまな人の指摘に自分を含めて、ちゃんと運動が反省していかないといけないと思います。それらも、「ふぇみ・ゼミ」や「ゆる・ふぇみカフェ」を私たちが始める時の動機にすごくなっていたので、今お話を伺って嬉しかったです。

 ユンソさんや葉山さんみたいにこういうことをもっと声に出してくれる人が入ってくることで、最初は「彼女」とか「彼」とか言っていたとしても、こういうことを言う人がいるんだなということで、特に固まる前の若い世代の時に一緒にどんどん聞くと、そのことがちゃんと自分の中に残る。また、遠藤さんがおっしゃっていたように、やっていく中で自分にもお金払わないと続けられないということに気づく、そういうことの踏み台になれたらすごく嬉しいと思います。葉山さんと一緒にブログを開設した日は忘れません。私にとっても思い出です。ありがとうございました。

 

 

――グループ対話とグループ発表を経て、ゲストからのコメント―― 

※グループにゲスト等も加わり、グループの方々に感想や意見、ご質問を話し合っていただいた後、会場全体で共有するために印象に残ったことを各グループから発表いただき、ゲストからコメントをいただきました。

 

鄭允瑞(チョン・ユンソ)さん) まず自分のグループ対話の話からすると、私は過去にふぇみ・ゼミの講座にお越しいただいていた人と同じグループで話せてよかったと思いました。その障害者支援団体の自立団体の話とか、私がしていた社会運動の経験とか話し合いながら、似ているようで違うところもあると思いましたし、これからいろんな形で連帯していくことができるだろうとも思いました。

 他のグループの発表を聴いて、「運動の持続性を考える」というところはみんな共通の悩みかなと思ったので、これからも一緒に積極的にこういった点について話し合う場があればいいと思いました。ありがとうございました。

 

葉山慧さん) みなさんのグループ発表を聞いて本当にいろんな話題が出たんだなと思いました。しかも日常に根ざしたことを皆さんお話しされていて。生きていく中で考えることは本当にたくさんあるけど、それをいろんな人と共有する場がまだ少なく、もっとあるといいなと思いました。

「(視覚障害のため)声で性別判断をしていたんだけれども、トイレ誘導していただいた時に『女性でよかったです』と言ってしまって、後からトランスの方だったと知り、傷つくことを言ってしまったと思ったが、今後どうしたらよいのか悩んでいる」という話も出ていて、「そうだよなー」と思いました。

 社会運動をやっている人の中にノンバイナリーとかトランスは本当に多いですよね。私の周りにノンバイナリーがめちゃくちゃいるっていうのも、私が東京で社会運動やっているからだと思うので。だから意外とトランスの権利回復ということを主題にしていない運動であっても、絶対周りにトランスの参加者がいっぱいいるよねっていうところが皆さんと共有できると、よりスムーズなのかなと思いました。ありがとうございます。

 

遠藤純一郎さん) 今回のこの会ではある程度同じ興味や関心のある方々が集まっているとは思うけど、それぞれ別の団体で活動する中で出会う人が全然違うというのがあると改めて感じました。

 葉山さんが「最初はいろいろ勉強してからじゃないと始められない」みたいなことも言っていて、すごい共感する部分もあったんですけど、でも、何かの活動をしていたとしても、もちろん知らないことがある状況の中で、お互いそういう状況だよねっていうことを思いながら活動して、つながり続けていくのがいいんだろうなと改めて今回感じました。ありがとうございます。

 

飯野由里子さん) いろんな方が最後のグループワークを通して感想や意見、コメントを共有してくださって、学びの場になりました。

 と同時に改めて最後にお伝えしておきたいのは、こうした場を成立させるにあたって、当然その話す人も大事なんですけれども、裏方で作業しているからこそ話せない人もいて、その人たちもいて成立しているというのをどうしてもお伝えしたくて、ふぇみ・ゼミは今回もリアルタイム字幕をこう入れて頂いたというのもありますので、最後にUDトークの校正を担ってくれている3人にも感謝したいと思います。ありがとうございました。

 

熱田敬子さん) 今日、私と飯野さんがベラベラしゃべるんじゃなくて、ユンソさん・遠藤さん・葉山さんに来ていただいて、その時間をたくさん取ったことが本当によかったと思いました。ずっと一緒にそれぞれの場面でいろんなお付き合いをしてきた3人の方で、どんな活動をしてこられたかが今に活かされていると感じます。もう本当にふぇみ・ゼミの次の講師になれる皆さんだと思うんですけれども、それが大学院ではない場所で育っていくということがすごく大事なことだと私は思っているので、皆さんの話を聞いて、もう次の世代が来ているんだなあということを感じて聴いておりました。

 

次世代に社会運動を手渡す前に基盤をアップデートする責務

 最後に一つだけ今日出なかった話題で皆さんと共有したいことがございます。

 ふぇみ・ゼミの若い世代の方たちにも、その他の関わっている人にも仕事に対してきちんとお金を払い続けるということが本当に私たちは大変で、ただ、自分たちの世代のもうこれは責務だと思ってやっています。上の世代の社会運動やフェミニズムをやって来た人たちに私自身は育てられてきましたし、すごくいろんなことを教えてもらったんだけど、同時にそのままではやり続けられないということがたくさんありました。次の世代に手渡す前にアップデートする、それはいくつもあるんですけど、仕組みとして一番作らなきゃいけないこと、お金だったり、情報保証であったり、それから場のルール――ミスジェンダリングされないとか――について、これが正解っていうのはなく、悩みながらやってきたところです。

 もう一つ、共有されていないことが、費用です。お金をスタッフに払うのはいいことだと皆さんおっしゃいます。ところが同時に、ふぇみ・ゼミに度々いただくご要望は「参加費を下げろ」ですが、これは公共事業でもない限り無理です。そして、政府からお金をもらうことは、事業をやっていく時に私たちはしない方針です。それは、今のような右翼的な政府からお金をもらうと、私たちの目指すようなインターセクショナルなフェミニズム運動というのはできないだろうからです。

 そうなった時に、皆さんはお客さんではなくて「参加者」で、運動にお金を払うってことは参加者になるということなんです。無料とか安くするということは決して良いことではないと思っています。例えば生活保護を受けているから安くしてくださいとかもいただくんですけど、本当にそれを一旦始めてしまうと、給料を権利として払うということは維持しづらくなってきます。支援団体なのか社会運動団体なのか、それは厳密には違うものだと思っているのですが、支援団体なのか社会運動団体なのかというところが曖昧になってしまう。無料にするということは施しにつながっていきます。それに参加者として発言する権利を確保するためにも、その方にも何らかの形でコミットしてもらわなければならない。ここはふぇみ・ゼミがずっとやってきたことなんです。

 他の団体でも、例えば「なんで社会運動団体が1500円も参加費を取るんだ」みたいなこと言われたという話をまだまだ最近聞いていますので、そこは共有をして社会全体で改めて行きたい。スポンサーがいない一つの講座やイベントに1500円というのは、おおよそ100人参加者が集まっても、アルバイト代、チラシデザイン料、プラットフォーム使用料、講師謝金、運営管理謝金を払えば、赤字で、安すぎるくらいです。逆に、それが払えない人がいるんだったら、その社会を変えなきゃいけないということだと思います。一つの団体ではなく、より大きくつながっていくことでしか解決できないことではないかということを含めて、皆さんと共有したいと思いました。

 私たちふぇみ・ゼミ&カフェは営利では全然ありません。と言うのは、私たち運営委員は今ほぼフルタイムに近い形で働いていますが、私たちは無償です。これは矛盾であって、遠藤さんに「自分の謝金は?」と言いつつ「お前は?」ってブーメランなんですけど、それが過渡期で、次の世代に手渡すために致し方なく途中でやっているということです。ただ、私たちは自分にそれぞれ資源があり、学歴とか他のフリーランスでできる仕事とかがあるからある程度できてしまって、その構造の中で、負担を吸収している、してしまっている。でも、さまざまな方が参加できるような社会運動を作っていくためには、これはいつまでも続けてはならないというのも同時に自分たちで思っていますので、ぜひこの点は皆さんと今後とも議論し共有していきたいところだと思います。ありがとうございました。    ■ 

 

 

●次回SJFアドボカシーカフェのご案内★参加者募集★
政治参画のジェンダー平等 ~最初の一歩を踏み出して~
【日時】2023年5月20日(土)13:30~16:00  
【ゲスト】統一地方選挙に挑戦したパリテ・アカデミー卒業生たち ×
     三浦まりさん(上智大学法学部教授/パリテ・アカデミー共同代表)×
     申きよんさん(お茶の水女子大学教授/パリテ・アカデミー共同代表)
詳細・お申込みこちらから  

 

 

 

※今回23年3月3日のアドボカシーカフェのご案内チラシはこちらから(ご参考)

 

 

 

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