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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)

助成発表フォーラム第11回 報告

 

 ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、公募により審査決定した第11回助成先の方々(デートDV防止全国ネットワーク理事・高島菜芭さん、ソウレッジ代表・鶴田七瀬さん、NewScene副代表・福田和子さん、にじいろCANVAS共同代表・小浜耕治さん、パリテ・アカデミー共同代表・三浦まりさん、明日少女隊東京支部長・林芙美子さん、ふぇみ・ゼミ&カフェ運営委員・熱田敬子さん及び飯野由里子さん、DPI女性障害者ネットワーク代表・藤原久美子さん、レインボーコミュニティcoLLabo代表理事・鳩貝啓美さん)を迎えた助成発表フォーラムを2023年1月20日にオンラインで開催しました。

 ジェンダー平等に向けてさまざまな切り口から重要で深刻な問題と対峙しながら取り組んでいることを基にクロストークや全体対話が進みました。

 それらから浮彫になったのは、抑圧的・差別的な構造にもっていこうとする権力の意図を知り、歴史的・社会的な背景をふまえながら分析し、当事者や支援者が分断され孤立させられないよう、共通の壁を認識して一緒に乗り越えていくことの重要さです。

 性と生殖の権利を否定されるような経験をした藤原さんは、出生前検査に関して女性の産む権利・産まない権利を主張する側と障害者が生まれる権利を主張する側が対立するなかで、同じ仲間の男性障害者から責められることが一番辛いと語り、そこには権力者たちの意図があるので分断されないようにしていくことが大事だと強調しました。また三浦さんは、性産業の利益構造に関して、女性たちを黙らせる目的のためにあらゆることがやられているので、みんなで連帯して標的になった人を孤立させないことが重要性だと指摘しました。そして熱田さんは、そういった攻撃に対抗するノウハウや歴史を分野横断で共有することが大事だと説明しました。

 特権を持たない人同士で自分の方が辛いという比べ合いをすることは、お互い潰され疲労して結局、権力を持っている人たちが利益を得るという構造になるから一番避けたいとの考えを鶴田さんは示しました。政策の決定プロセスで、立法・行政府における議論の不透明性や決定理由の説明不足により、市民の中でも亀裂が広がってしまうことがあると上村英明(SJF運営委員長)は語り、その観点から働きかけた経験を例示しました。

 まずもって支援につながらない当事者と出会うことが大切であり難しいということも多く指摘されました。とくに地方は声を上げにくく、性的マイノリティはつながらない形でプライバシーを守ってきているためアライやケアのコミュニティーが発信してつないでいると小浜さんは語りました。支援を必要としている人と出会うためには、その人のタイミングを待つことが重要だという小浜さんの言葉に、困っている人にすぐにリーチしなければという思考になっていた高島さんは支援の姿勢を気づかされたそうです。また鳩貝さんは、性的マイノリティ女性が参加しやすいコミュニティーづくりに向けて、身近なテーマで小さな変化でも起こした事例を発信していく考えを示しました。

 じつは自分の地域から声を上げることは地方議会・自治体を動かし国政につなげていく効果が大きく、地方でまだ声を上げられないという女性の背中を押し、適切なアクションをとれば社会や政策が変わるという成功体験を共有することがポイントだと三浦さんは説明しました。23年春の統一地方選を見据える福田さんは、立候補者は本当に孤独であり、「このままじゃ、おかしいよね」という人たちを孤立させない、ジェンダー問題を語り合える場が重要だと語りました。ジェンダーの役割を押し付けられない「女子力」を取り返すという意味も込めて名付けた「女子力カフェ」を開催している林さんは、共通の壁を認識して一緒に闘おうとメッセージを発しました。

 詳細は以下をご覧ください。

Kaida SJF

 

――開会挨拶―― 

上村英明・SJF運営委員長) みなさま、去年をどういうふうにお感じになりましたでしょうか。12月半ばに軍備拡大と軍事同盟を強化するという安全保障関係の3つの文書が閣議決定されました。首相は早速今年1月9日からNATO諸国を歴訪し、政策の転換を説明したようですが、国会での議論は何もありませんでした。SJFが大事にしてきた社会正義がこの社会でまだ十分に機能していず、社会正義を実現していく重要性が増していると思ってしまいます。

 今回安保関係文書でも触れられた日本の政策の基盤には「価値の外交」というものが打ち出されています。日本社会は5つの普遍的価値をすでに体現しており、それを共有できる国々と同盟を強化していこうということです。5つの普遍的価値とは、自由・民主主義・基本的人権・法の支配・市場経済で、5つの価値を体現している社会がそうでない社会と対峙しなければいけないという大きな世界観が描かれています。しかし、ここにお集まりの皆さんはご存じのように、自由も民主主義も人権もあるいは法の支配も歴史への理解をしっかりと深めないと、その実現は極めて難しい価値に他なりません。ですが、それが軽々しく語られていくところに、現在社会正義が失われていく構造が作られ、そしてますますその闇が広がっていると思います。

Kaida SJF

 今回は、オープン・ソサエティ財団のご協力のもとに、ジェンダー平等というテーマを掲げて助成を実施しました。47団体から応募がありまして、ここにご参加の9団体が助成先に決まりました。今回は9団体の方たちを迎えて、選考の報告とともに、助成先団体の活動をみなさまに知っていただきたいと機会を設けさせていただきました。ジェンダー平等というテーマの下で、さまざまな切り口の活動に出会い、また選考することができたことは、月並みですがとても光栄なことでした。

 助成先のみなさんがそれぞれに取り組んでこられた切り口はどれもものすごく重要であり、みなさんが深刻な社会課題と対峙して来られたことに感銘を受けました。こうした活動事例を共有し、課題解決に向かってともに歩みを進めることが、先ほど言いました、自由や民主主義や人権あるいは法の支配の内実をきちんと問いかけることに結び付き、このSJFという基金が目的としている社会正義を実現できる社会を日本で作っていくための一つの大きなきっかけにできればと思います。

 

――第10回助成事業の発表とクロストーク――

NPO法人デートDV防止全国ネットワーク理事・高島菜芭さん

デートDV防止から始めるジェンダー平等な社会づくり

 まず、デートDVという我々が活動している課題の現状なのですが、交際するカップルの3組に1組が経験するというデータが出ています。

 DV自体が深刻な暴力ですし、DV家庭の再生産という問題もございます。2020年度のデータでは、DVによる社会的損失はGDPの1.2~2%に相当すると出ていまして、6~10兆円に換算され、かなりインパクトの大きい問題だと捉えています。

 そういった現状に対して私たちは日本全国でDV予防に取り組んでいらっしゃる機関や団体と連携させていただいて、デートDV予防教育や、政策提言、調査研究といった活動をしてまいりました。ですが、まだまた「デートDV」という言葉が認知されていなかったり、当事者意識が持ちにくかったりする課題だと思っています。

 そういった課題のもと、1点目に、教育現場以外での予防教育プログラムの提供に注力していきたいと思っております。一つは企業向けというところで、デートDV予防教育がハラスメント予防にもつながると思っておりますので、企業研修という形で進めていきたいというところと、もう一つは、デートDVという問題が異性カップルだけでなくLGBTQの方や障害を持つ方の間でも起きていますので、そういった当事者団体向けにもプログラムの開発と提供を進めていきたいと思っています。これに関しては、特に企業へのリーチが現状の課題だと感じております。

 2点目が、ユース世代への啓発です。私たちNPOの大学生メンバーと一緒に進めており、デートDVの当事者世代であるユースが楽しく遊びながら対等な関係性づくりを学べるようなボードゲームをつくっております。いま試作品段階ですが、人生ゲームのような形で楽しく学びながら、性教育の知識がインプットできるような作品をつくっております。これは、ゲームとしてのエンタメ的要素と教育的要素をどう両立するかを課題に置いております。

 デートDV予防で「対等な関係性構築」を当たり前にしていきたいと思っておりますので、みなさん、ぜひこの後、ご意見やフィードバックをいただけたらと思います。

  

ふぇみ・ゼミ&カフェ 熱田敬子さん) 今すごく重要な課題で、私も大学で教えているのですが、学生たちが自ら取り組んでいるということで素晴らしいなと思いました。

 少し気になった点が、重要性を伝えたくて入れていらっしゃると思うのですが、DVによる社会的損失を経済的なGDPから出しておられるという点で、基本的には人権の問題なのですが、逆に言うと「お金の損失がなければ別にいいじゃない」と思われてしまいかねないので、ここの伝え方は引っかかるかなと思っていました。活動自体はすごく応援しています。

ふぇみ・ゼミ&カフェ 飯野由里子さん) 私からは別の観点からコメントさせていただきます。

 大きな目的が、対等な関係性構築にあるということで、とても共感するのですが、それを社会的に浸透させていくためには、かなり小さい年齢からそうした教育プログラムに接していく必要があるかなと思っています。そうした意味では、ボードゲームの作成など、ゲーミフィケーションの利用は教育現場でも非常に効果的だと最近言われているので、有効なツールになるといいなと思います。それが、今日のお話では、大学生あるいは社会人が対象なのかなと感じたのですが、中学生、場合によっては小学生からこうした問題について伝えていく必要があるかなと思っています。対象をどのあたりに設定されているのか伺えればと思います。

Kaida SJF

高島さん) まず、GDPへの換算について、ご指摘いただいた点はもっともだと思っております。DV自体が深刻な人権侵害でありますし、DVの再生産という問題が起きているところですが、定量的にお伝えしようとして経済的な面を大きく出してしまいました。そこが先行することが無いように、あくまで人権問題であることを今後しっかり伝えていきたいと思いました。ありがとうございます。

 

熱田さん) 少子化の問題などで、同じような説明をして、「でも、いま経済が回っているんだから、いいじゃない」といった反応が必ず来ていたので、他のところも参考にされるといいかなと思いました。

 

高島さん) 2点目にご質問いただいたユース世代への教育というところは、我々としても、なるべく早い段階からすることは大事だと考えておりまして、実際に予防教育を中学生向けや高校生・大学生向けの授業をしている方が当団体にもおります。ただ今回のボードゲームについては、高校生・大学生あたりがメインターゲットになるかと思っております。教育的インプットもそうですが、経験を話してもらうという内容もあるので、恋愛経験のあるフェーズが対象になってくると思います。今後は、小学生や中学生を対象にしたボードゲームも進めていきたいと思います。

 

飯野さん) マイノリティ向けのプログラムもつくっていきたいというお話もあり、具体的に挙がっていたのが障害者当事者団体とLGBTQコミュニティーでしたが、それぞれ質の異なる問題を抱えていると考えているので、どんな工夫が必要だと整理されているのか教えてください。

 

高島さん) 具体的なプログラム開発はこれからで、現段階ではそれぞれのコミュニティーとつながることをメインに進めているところです。そもそも、こういったデートDVの課題が、異性間カップルの課題だと捉えられていることが問題だと思いますし、例えば障害のある方の当事者だと、特にコミュニケーション面で障害を抱えていらっしゃる方だと、伝えづらかったり断りにくかったりすることが起きていますので、そういった特性も踏まえて予防教育ができる仕組みをつくっていきたいと進めております。

 

飯野さん) 障害者団体や性的マイノリティ団体とコラボレーションしてつくっていくことをイメージされているということですね。今日、そういった団体とうまくつながれるといいなと思います。

 

 

 

一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬さん

『おひさまLINE

 まずざっくり経歴をお話すると、北欧に留学して帰国してから北欧と日本の違いを感じ、女性として日本で生きていくのはすごく大変だなと感じて、「女性として生きる上で感じる課題の解決」をしたいとソウレッジを創業しました。

 ソウレッジは、性被害や中絶など妊娠にまつわる課題に取り組んでいます。とくに若年層での予期せぬ妊娠の問題があり、若年妊婦は中絶を選択した割合が62.0%と高く、若者への支援をメインに行っています。

 ソウレッジが目指すのは「誰もが人生を主体的に選択でき、安心して暮らせる社会」ですが、それを実現するためには、誰もが避妊を選択できる環境が必要だと考えています。そのため私たちは病院と連携して、主に若者を対象にして緊急避妊薬を届ける活動を始めました。その資金は昨年3月に1千万円のクラウドファンディングを行いまして、2千人以上の参加者の寄付によってその活動を実際にいま行っています。

 

支援の必要な人たちにつながる最初の窓口 緊急避妊薬

 緊急避妊薬の処方の後、若者には、性知識が定期的に届くLINEへの登録を促しています。その後は、このLINEを通じてアンケート調査等を継続して行っていく予定です。

 最終的には、このアンケート調査によって得た情報をもとに政策提言を行っていきます。短期的には、経産省などで専用の助成金等を創りたいと思っています。また、かなり長期戦になると思いますが、厚労省や法務省等に政策提言をして、避妊を保険適用にして、かつ無償化を目指していくか、日本でみんなが主体的に避妊をできる環境を、制度を通してつくっていきたいと考えております。

 最後に、なぜ緊急避妊薬から始めるかについてお話します。緊急避妊薬は避妊のためだけの薬という特徴があります。一方で、通常避妊に用いられる低用量ピルやIUDなどは子宮内膜症・PMS・生理痛などの治療のために使用されることもありますので、緊急避妊薬を最初の窓口にすることで、避妊のない性行為または避妊行為そのものへの同意がなく性行為を強要されている人、または性行為や避妊を適切にできなかった人、知識のない人に絞ることができると考えておりまして、本当に支援が必要な人たちにつながることができると考えております。

 

 今日相談したいことがいくつかあり、私からの提案として投げさえていただきます。

 課題を女性だけの課題、自分の課題でないと感じる方が意思決定者層に多いと感じており、そういった人たちをどうしたら巻き込んでいけるのかなと、最近すごく考えていますが、難しいなと感じております。どういう工夫をされているのか、みなさんからアドバイスをいただけたらと思います。

 私が最近テレビに出た影響もあるかもしれないのですが、電話などの問い合わせ口にかなりアンチが増えておりまして、そこの対応に追われて本当にやりたい活動に手が回らず、身の危険を感じている状況にあり、他にもそういう方がいらっしゃるかなと思いまして、どう対処をしておられるかお伺いしたいです。

 今後、政策提言をしていきたいと思っておりますので、もし経験のある方がいらっしゃれば、政策提言で抑えるべきポイントを伺えればありがたいです。

 

DPI女性障害者ネットワーク 藤原久美子さん) 最後に言われていた悩みどころは、私たちも同じようなことを抱えていて、ここで「これがいいですよ」と立派なことは言えないですけれども、非難というのは特に弱い立場の者に向かってきます。私たちも「障害者が権利を言うな」みたいなひどいバッシングを、とくに障害女性が受けやすいという状況もあり、ぜひ共にやっていけたらなと聴いていました。

Kaida SJF

 障害のある女性として言うと、避妊などとても言える立場にない、とても弱い立場。それは日本の女性たちほとんどそうだと思いますが、さらに輪をかけてみたいな点があります。そもそも情報がないのですけれども、もしそういうものがたとえ出たとして、日本の女性たちがそれをちゃんと使って言えるようになる取り組みは、何か考えていらっしゃることや中長期の目標でもあれば聴かせていただきたいと思います。

 

鶴田さん) 私たち確かにすごく視野が狭かったと今日気づきました。たとえば視覚障害や車椅子など移動が難しい人たちに対して、どう対応していくかを考える必要があると話していて気づきました。

病院に行く時などにどういうことに困るのかをお伺いできれば有難いです。

 

藤原さん) 車椅子の方だとまずそこに入れないということもあります。階段しかないとか。

 そもそもそういったクリニックや産婦人科には行きづらく、若い方もそうだと思いますが、障害のある女性もすごいハードルがあります。その上、お医者さんに理解がなかったりして、私が妊娠した時、「えーっ」とすごくびっくりされて、でも私は30代だったのですが30代の女性が妊娠しても別に不思議はないじゃないですか。そういう関係者の意識面のバリアもあり、ハード面とソフト面の両方のバリアがあると感じています。

 

鶴田さん) 優生思想的に障害者は子どもを持つべきでないという思想の方が「なぜ妊娠したの」という反応だったという認識であっていますか。

藤原さん) そうですね。「しないだろう」と思われていたり。

鶴田さん) びっくりしている、想定外だったみたいな感じですか。

藤原さん) もちろん全員がそうではないと思いますが、私の時はそういう反応をされて、そういう人もけっこうたくさんいて、そういう話を聞くことは多いです。

鶴田さん) そういう経験をもし病院などでずっとされてきたら、新しい場所に行くことそのものにすごく抵抗感ができるのかなと思います。

藤原さん) また傷つくのではないかと思うと、本当に行けなくなってしまう。周りからもそういう反応をうけたりしていることもあります。

鶴田さん) 障害がある人が来やすい環境は他の人にとってもハードルがかなり下がると思うので、すごく参考になります。

 

視覚障害者には使いづらいLINE

私たち今、LINEで情報を届けようということをやっているのですが、視覚障害に関して難しさはありますか。

藤原さん) まずLINEは視覚障害者にはけっこう厳しく、私は家族のLINEに入れない。届くけれども、スタンプはほとんど読み上げしないし、パソコン用のソフトは読み上げしないですし。全く使えないことはないけれども正直使いづらいです。だいたいメールを使わせてもらっています。

鶴田さん) メールはGmailだったら使いやすいですか。

藤原さん) そうですね。自分が使いやすいソフトを使って、その場合は大概、音声対応しているので、使えるのですけれども、スマホでちょこちょこやるのはすごく大変。

鶴田さん) パソコンの方が普段は使いやすいですか。

藤原さん) そうですね。

鶴田さん) なるほど。わかりました。スマホはけっこう音声読み上げをしてくれると勝手に思っていました。

藤原さん) それもしてくれるものとしてくれないものがあったりします。あと、Googleはアメリカの会社なので日本の会社がつくっているソフトに対応していないことがあります。読み上げソフトのスクリーンリーダーが日本のもので、LINEはもともと韓国で、対応していないのです。

鶴田さん) ありがとうございました。

 

 

 

一般社団法人NewScene副代表・福田和子さん

2023年統一地方選20代・30代女性立候補者等への質的・量的調査の実施および若年女性等の立候補環境を改善するアドボカシー活動

 今回は一般社団法人NewSceneで取り組んでいる”FIFTYS PROJECT”のご紹介をさせていただきます。このプロジェクトで目指すことは「政治分野のジェンダーギャップ、わたしたちの世代で解消を!」ということで、20代・30代女性の立候補を呼びかけ、つなぎ、一緒に支援するムーブメントを立ち上げました。ここで便宜上「女性」と書かせていただいていますが、FIFTYS PROJECTが掲げるジェンダー平等を推進するというステートメントに賛同する20代・30代のトランス女性も含む女性やXジェンダー・ノンバイナリー等の方を示しています。

 実際に何をするのかというところですが、まず、2023年春に統一地方選がございますので、そこで立候補する20代・30代女性を増やし、つなぎ、支える、可視化するということ。それだけでなく、出馬はできないけれども投票以上のコミットがしたいという人たちに向けてボランティア等への参加を促すFIFTYS PROJECT COMMUNITYをつくっております。

 いま既に応援する候補者の方々が続々決まってきておりまして、3月8日にまた多くの方たちをご紹介できそうです。プロジェクトのコミュニティーには200名以上の方が参加してくださっていて、もっと大きくしていきたいという状況です。

 

 この問題意識としては、やはり日本の政治分野に女性が少ないということがあります。自治体議員の年齢別女性比率をみると、一番高くても50代の20%。なんとなく「若い世代はジェンダー平等が進んでいる」というイメージがあるかもしれませんが、実は議員のパーセンテージをみると全くそういうことはなく、このままではジェンダー不平等はずっと解消されないという危機感があります。地方議員だけではなく、国会議員も女性の割合が2割を切っていて、岸田内閣の女性閣僚は2人で男性が17人。圧倒的な不平等があります。

 このままではみんなにとってフェアな社会は訪れないと、活動しております。

 

 今回、23年の統一地方選に立候補した20代・30代女性への質的・量的調査を実施することで、若年女性等の立候補環境を改善するアドボカシー活動を行っていきたいと思っています。質的調査をFIFTYS PROJECTでつながった応援している候補者の方々に、また量的調査を20代・30代で立候補した方々に行いたいと思っているのですが、いま予算の関係で調整中です。

 これらによって、選挙活動をする際に若年女性が直面する困難とその解決策を明確化したいと思っています。

 調査だけで終わるのではなく、それを活かして、若年女性等の立候補環境を改善するアドボカシー活動をしていきたいと思っています。そのためには、そういった調査を記者会見するといった世論喚起や、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」の改正等をめざすロビイング、当選した方たちが取り組むローカルな課題があれば支援をしていきたいと思っています。

 

レインボーコミュニティcoLLabo鳩貝啓美さん) わくわくするプロジェクトだと思います。立候補者たちのコミュニティーをつくって、調査をしてアドボカシーをしていくというのが明快で分かりやすく、自分たちの活動と共通する点があるなと伺っておりました。

 調査のことについて、予算中心で優先順位をつけられるということではあったのですが、今の時点で決まっている、例えばどのような内容をいつごろ行うかとか、先行研究も参考にされるようだったのですが学術分野との連携や働きかけも何か想定されているかについて教えてください。

Kaida SJF

福田さん) いま調査機関で連携できそうなところと折衝を始めたところで、内容を詰めていくところです。

 応援している方が地方にもかなりいらっしゃるのですが、春の地方選が終わった後に集まりたいねと言っています。その際に、グループでの質的調査として、自分たちが直面した困難をそれぞれ話してもらえたら、いろいろな視点がどんどん出てきてお互いの気づきにもなるのかなと思います。そういった形で調査を進められたらと考えています。

 

「このままじゃ、おかしいよね」という人たちを孤立させない

鳩貝さん) フォーカスグループみたいな感じで、どんどん気づきを生んでいく感じですね。今日のこの場の延長上にある感じですね。

 アドボカシーはそういった調査の内容を踏まえて取り組んでいくということで、世論喚起など社会に訴えていくみなさんのインフルエンスする力などがすごく発揮される部分だなと、2024年も含めて見守っていきたいと思っています。

 FIFTYS PROJECTに関して、自分たちの取り組みと関係するところで、コミュニティーについて興味を持ちました。まず参加を促すということで、ボランティアをした方からさらに未来の候補者を育てるという構想がおありなのかなと思ったのですが、こういった着想はどのあたりからお持ちになったのでしょうか。

 

福田さん) 問題意識として、若年女性の議員がなかなかいない中でロールモデルもいないので、私たちには「私たちの人生に、政治家という選択肢を」というテーマもあります。政治家という選択肢があると思えたことがない、それはやはりロールモデルがいないからという中で、コミュニティーとして実際に歳の近い立候補者たちと連携していき、自分もしてみたいなと思ってくれる人が増えたらいいなと思っています。

 いまパンフレットをA4三つ折りで作っておりまして、「どうして立候補したの?」といったことを20代・30代の現役議員に聞いたことを載せてあります。ちょうど配布させていただける場所を応募しておりますのでFIFTYS PROJECTのサイトを見ていただければ希望部数をお送りさせていただきます。

 COMMUMITYでは勉強会も開催しており「自分も政治家、いいかも」と思える人が増えたらと思っています。

 

鳩貝さん) 私たちも、市民として権利を地方自治からどう行使していくか、注目していくかという勉強会はしたことがあったのですが、「政治家になって」というところまで発想がなかったので刺激を受けました。

 ステートメントに賛同する20代・30代の方、この年齢で区切られた訳ですが、そこで区切った思いを伺えますか。

また、昨夏から始められたプロジェクトだと思いますが既に200人も登録しているのはすごいなと思いまして、このコミュニティーにどういう機能を持たせているのかとか、どういうところが多くの人が登録に至るにあたって有効だったのかといった分析があれば伺えますでしょうか。

 

福田さん) コミュニティーが現在、立候補したいという方のコミュニティーと、立候補できないけれども応援したいという方のコミュニティーの2種類があります。後者が今200名ほどで、前者がトータルで25名ほどを3月に発表できるかなというところです。

 年齢で分けさせていただいたのは、日本で女性が政治家になるという時に、母親であることが褒められて、それがすごくアドバンテージとして良くも悪くも持ち上げられてしまう。でも、子どもを産んでいない若年女性のしんどさや声ももっと聴かれていかないと、それこそ子供を産みたくても産めない人たちや産みたくない人たちの声がなかなか政治に反映されない。また、やはり若い世代に特化したアプローチ、プラットフォームを作ることで、近い世代の方がよりフラットに悩みや課題を共有しやすくなるのかなという思いもあります。いずれにしてもやはり、「このままじゃ、おかしいよね」という人たちの輪がだんだん広がっているのかなと感じています。

 そういった人たちを孤立させないことがとても大切だと思っています。立候補者の方の多くは本当に孤独。それが最初に直面する壁だったりするので、金銭的な支援はFIFTYSとしては今はしておりませんが、ここに戻ってくれば心を開いてジェンダーのことを語れる仲間がいる、そういう場が魅力的だなと思ってくれる方が、出馬する方にもそうでない方にもいるのかなと思います。

 

鳩貝さん) 孤立させないとは本当にそうですよね。そして、母を期待されるという部分、すごく思い当たるなと思っています。地方自治体に興味を持たれる方は、子育てを始めてからの方が多く、どうしても母としての目線が中心になってしまうので、そこはいい部分と限定されてしまう部分があるので、政治参加についてより若い世代に注目されたのはさすがだなと思いました。

 

 

 

にじいろCANVAS共同代表・小浜耕治さん

『にじいろみやぎ相談会・セーフスペースにじいろみやぎ開催、セクシュアリティと就労調査』

 東北の宮城県、仙台市などで活動している団体です。他団体としてですが、仙台市と市民協働事業提案制度を使って「にじいろ協働事業」を実施しました。そこで「せんだいレインボーDay」というイベントを開催したのですが、そこに集まったボランティアスタッフが、協働事業終了後も自分たちで継続して活動しようと集まった団体です。

 男女共同参画課との協働であったり、「男女共同参画推進せんだいフォーラム」に毎年参加して去年は「トランスジェンダー映画祭」を企画したり、ジェンダー平等を目指す団体と同じのフィールドで活動をしています。「みやぎにじいろパレード」も昨年本格的に開催できました。コロナの中でも150人位が参加し、活動の裾野が広がってきたかなと思っています。

 

つながらない形でプライバシーを守ってきた性的マイノリティ ケアのコミュニティーがつなぐ

 今年度から、相談活動として「にじいろみやぎ相談会」と、居場所として「セーフスペースにじいろみやぎ」を始めましたが、今回はこれらを発展させる形で事業を展開できればと思っています。

 事業の目的として、就職活動など社会参加に向けて、ジェンダー・セクシュアリティについての無理解・偏見に基づく不当な扱いをなくしていくということを考えています。

「就職活動など社会参加」——どの程度社会につながるのか、どの程度社会に参加していくかというのは、みなさんそれぞれにあると思います――就職して仕事をするということに留まらず社会とつながっていくということ、そのお手伝いを相談支援という形でできればと思っています。

 事業の内容は、「にじいろみやぎ相談会」と「セーフスペースにじいろみやぎ」という今年度から始めた2つの事業を充実させていくこと。その充実に必要なニーズの調査を行います。まず、いま就職活動をしている人たちがどういうふうに困っているかを調査し情報共有します。また学校の就職支援課あるいはハローワークなど就労関係機関がどのような意識でおられるかを調査します。

 ネットワーク構築講演会も行います。性的マイノリティは、つながるのが下手なのです。つながらない形でプライバシーを守ってきた、そういう背景があるので、自己開示がなかなか難しい。結果、課題解決に向けて「セクシュアリティが実は関わっているのだ」ということが伝えられない場合があります。また、支援機関に対して、「性的マイノリティに関するいろんな無理解や偏見を持たずに対応してくれるのだろうか」と不安を持ちがちで、支援につながりにくい。そうした当事者を個々の相談でつないでいくのですが、その下地をつくるための支援者のネットワークを構築するための講演会を考えています。

 

 性的マイノリティが出会う困難として、アイデンティティの困難・孤立の困難・生活の困難の3つを考えました。

 アイデンティティの困難は、自分が本当になりたい姿が分からないというものです。自分が性的マイノリティだと気づくことで、いろんな迷いを生むという困難です。

 孤立の困難は、支援機関にセクシュアリティ理解がなく信用できず活用できないという困難です。

 生活の困難は、その存在が想定されていないので制度に不備があることによる困難です。社会に参加していく際の困難は、主にアイデンティティと孤立の困難により多く生じていると思います。

 これらの困難は、制度や規範、無理解や偏見の壁によるものと言えます。当事者は自力でそれらの壁を超えるのが難しいため、ケアのコミュニティーの人たちが必要なところにつないでいく、そうした形の相談体制を構築していく事業展開を考えています。 

 

その人のタイミングを待つ・待てる状況をつくる 支援の姿勢

デートDV防止全国ネットワーク 高島菜芭さん) 今回のプロジェクトの内容である就職活動の支援といったところから映画祭まで、さまざまなアプローチで当事者支援をされていて素晴らしいなと思いました。

 性的マイノリティの社会参加の困難のプロセスのお話がわかりやすくて、私自身もデートDVの課題を考えるなかで、整理していただいたように、最初アイデンティティがわからない状態で支援機関につながらないという課題があって一緒だなと思っております。被害に遭っているという現状にも気づきにくくて、被害に遭っているにもかかわらず支援機関になかなか行けないというところで、我々も課題を感じております。このあたりのアプローチをより具体的にお伺いしたいと思っています。当事者はなかなか支援機関を信頼できないというお話もありましたが、そういった現状に対して、当事者にどのようなアプローチをすることでそれが解決できるのか、勉強のためにお伺いさせていただきたいと思います。

Kaida SJF

小浜さん) DV・性暴力・デートDVに関しては、地域の先輩団体とつながりがあって、いろいろ勉強させてもらっており、同じような視点を持てているのではと思います。

 エンパワーしなきゃいけない人につながるのがとても難しいですよね。「その人のタイミングを待つ、待てる状況をつくる」ことだと思うのです。そのためには、一過性でない持続した活動と情報発信だと思います。DV・性暴力支援の方にお聞きすると、何年か前の新聞の切り抜きを握りしめて電話してきたということもあるそうです。「その人の時が満ちるまで待って、備えておけるかどうか」をとても大事にしているという話を聞いて、なるほどと思いました。

 つながった後も、すぐに課題解決をするというよりも、むしろコミュニティーで一緒にいてタイミングを図っていく。「今こういうふうにしようと思っているんだね」というのを寄り添って見極めていくのが大事だなと思っています。

 

高島さん) 「その人のタイミングを待つ」という言葉にはっとさせられまして、私としては「困っている人にすぐにリーチしなきゃ」とか「どうにか立ち直ってもらわないと」という思考になってしまうので、いまお話いただいたように長期的なタイムスパンで少しずつ支援していく、そういったところをぜひ参考にさせていただければと思いました。

 ちなみに映画祭もたくさんの方が参加していらっしゃるということで、当事者の心をつかむような発信を勉強させていただきたいと思いました。発信の際にどういうところに気をつけていらっしゃるのでしょうか。

 

小浜さん) わたしたちの団体は当事者もいますが、アライがとても多いのです。先ほど申したように、当事者は情報発信が下手なところがあって、とくに地元ではつながりがあっても、それを敢えてつながずプライバシーを保っている場合があります。むしろアライの人がどんどん発信してくれて、地域の人が当事者と出会える場が作られたら良いなと思います。

 全部を当事者が頑張らなくていいよね、というところも大事と考えています。「当事者だから参加したら何かしなくちゃいけない」とか「当事者じゃないから出しゃばってはいけない」とか思わないで、それぞれに合った参加の間口をどう広げられるかを考えながらやっています。

 

高島さん) たしかにそうですね。当事者だけが発信するというより、むしりアライの方から発信することで、当事者も安心してだんだん来てくれるのかな、と今お伺いして思いました。

 

小浜さん) あと、当事者とアライが混ざれるので、「そこにいるから当事者」だと思われないのもいいかなと思います。地方は世界が狭くて、すぐにバレてしまうのです。知人から「いっしょに歩いていた人、誰」と聞かれかねないので、「こんな活動があってね」「友達でね」など限定しない広い言い方をしながら、自分のペースで説明するようにできたらと思っています。

 

高島さん) 私自身、就職活動をしている友人から、マイノリティの方が企業の方から心無い発言を受けるみたいな話を聞いております。また、普段は人材系の会社に勤めておりまして、採用や他社様の採用支援などをこれまでしてきた中で、何かお手伝いできることはないかなと思いました。採用に携わる中で、企業側にこういった問題に対して考える余裕がないところがまだまだ多いなと思っておりまして、私自身何かしらの形で協力させていただきたいなと思いました。

小浜さん) 本当はしたいことがあるのに、現場でもどかしい思いをされていることもあると思います。ぜひお話を伺えればと思います。

 

 

 

一般社団法人パリテ・アカデミー共同代表・三浦まりさん

『ジェンダーギャップ解消の担い手となる女性政治リーダー養成事業』

 パリテ・アカデミーは政治家を目指す若い女性の育成を手掛けてきておりまして、インクルージョン・リスペクト・ジャスティスを目指す女性リーダーを輩出したいと思っています。お互いがエンパワーして選挙の実践について学ぶ合宿などを企画してきました。これまで5年間の活動で、国会議員とか地方議員が誕生して、次の統一地方選でもパリテ・アカデミーがきっかけとなって立候補の意思を固めた10人以上の方が立候補する予定となっています。また、セミナー受講生の中からいろいろなプロジェクトが生まれていて、ハラスメントに遭う議員をサポートするプロジェクトとか、子育て中の議員にとっての障壁を調査して政策提言につなげるプロジェクトなどがあります。

 

適切なアクションをとれば社会や政策が変わるという成功体験をみんなで共有する 

 今回のプロジェクトでは、狭い意味での政治家を養成することにとどまらず、もっと広く、ジェンダー課題の解決に取り組む人材を育てたいと考えています。政治家は社会を変えていく一つのとても重要なアクターですが、その背景に分厚い市民社会が形成されて初めて成熟した民主主義社会になると考えているからです。

 日本が取り組むべきジェンダー課題はたくさんあるのですが、私たちが重要だと思っているのは、それに気づく人がもっと増えていくこと、気づいただけでなくそこからアクションを起こす人、この層を厚くすることです。適切なアクションをとれば社会や政策が変わるんだ、こういう成功体験をみんなで共有することが必要だと思っています。

 どうするとみんなが自信を持ってさらなるアクションにつながっていくのか。今までの私たちの活動から見えてきたことは、まず、自分が抱えるジェンダー課題に気づいていくこと。そして、その課題がどんな仕掛けがあれば社会が変わるのか、それが見えてくると自分もやってみようとなっていくと思っています。ですので、解決に向けて行動していく人との出会いの場もつくっていて、次のアクションにつながる連鎖反応を生み出したいと思っています。

 地方でセミナーを開催することもあるのですが、東京と地方の温度差がけっこう大きいと思っています。東京だと声を上げる女性が増えてきたのですが、地方だと声を上げることすらすごく大変だという声を聞きます。ですので、地方で必要なタイプの集会と東京でやる集会では、集まって来る人が少し異なるので、集会の性格を分けて、1日の対話集会を金沢と東京で開催したいと思っています。まず、声を上げるという訓練をみんなで一緒にして自信を持っていく、自分が取り組みたい課題に気づいていく、ということをしたいと思っています。今までパリテ・アカデミーが養成してきたトレーナーさんがいろいろいるので、トレーナーさんがファシリテーターとして入ってエンパワーメントするようなセミナーをやっていきたいと思っています。そこに国会議員、地方議員、アクティビストの方にも参加してもらって、フィードバックをもらってエンパワーメントにつなげていく、そういったプログラムを考えているところです。

 

地方でまだ声を上げられないという女性の背中を押すところから始める

ソウレッジ 鶴田七瀬さん) 私は地方出身で今も地方に在住していているものの、けっこう東京と行き来することがあって、生活地域がばらばらしている特殊な生活を送っているので、地方と東京でどういう違いがあるか、お話をなさっていたことを実感しています。もともと市政にはすごく関心が高くて、市長さんと話す機会もたくさんありまして、市長は2代連続女性で市の政治体制ではみなさん声を上げているのですが、一方で私が今活動している緊急避妊薬が高いといった国として取り組む課題には関心が薄いと感じていました。

 お伺いしたいのは、地方でやる内容と東京でやる内容に大きな差をつけたり、特色や違いはあったりするのでしょうか。

Kaida SJF

三浦さん) やはり、東京だと東京周辺の人が集まりやすく、既にいろんなアクション――テーマは気候変動かもしれないし、まち起こしかもしれないし、あるいはリプロに関することかもしれないし、いろいろなのですが――を経験した人が東京だと集まりやすいという傾向が私たちのプログラムではありました。また若い人も多い状況です。東京で開催した時に地方から来る人は、すごくパワフルな人たちなのです。ところが地方で開催すると、近くの人たちが集まってきて、まだ声を上げることがすごく大変と思っている人がけっこういると思っています。ですので、どんな人がどんな課題を抱えているかにあわせてこちらのプログラムを変えていく必要があると思っています。東京と金沢を対象にしながら、地方でやることに関しては、まず「声をあげていんだよ」と、スピーチの練習をしたり、あるいは地域の課題を見つけていくこと――同じ県内でも南北などで声の上げやすさが違ったりするので、地方といっても一括りにはできないですが――、まだ声を上げられないという女性の背中を押すところから始める必要があると思っています。

 地域の課題というのは、本当はみんないろいろあると思っているのです。だけど、それを「言っちゃいけない」みたいな、こういうことをこの場で言ってよいのか分からないと躊躇している人たちが多かったりするので、「言っていいんですよ」ということを言っていくと、山のように課題が挙がるのです。

その後、課題はいっぱいあるけど解決への道筋が見えないと井戸端会議で終わってしまうので、課題はあるし、自分の生活に密接でたくさんの人が共通に抱えているのだから、それを解決のために地方議員の方が取り上げるとか、場合によっては国政につなげていく。声をあげて、つながって、ちゃんと出していけば、動くことがあるんだという成功体験を経験していくと、そこから後は応用問題で、この問題に対してはこう動こうと、動けるようになると思うのです。

 

鶴田さん) 広げていくとなった時に、どこかでパリテ・アカデミーの方が抜けていくというか、地方の方に権限移譲をしていくのでしょうか。

三浦さん) 権限移譲? 集まるだけなので、その後ネットワークを広げていきます。地域でやる場合には、地域の人と対面で集まることができると思うので、その意味では、地域における世話人というか、ある程度みんなが集まれるようなことをやってくださる人が自然に生まれるといいなと期待しています。

鶴田さん) 今のところ、どうですか。

三浦さん) オンラインではできていますね。対面では私自身はつかんでいないのですが、小さいレベル、数人とかはあると思います。こちら側の対応としては、コロナの中でも少しずつ対面ができるようになってきたので、その意味では、そういったネットワークを対面で作るようなことをしてもらいたいと働きかけはしたいと思っています。

 

自分の地域から声をあげる効果大 地方議会・自治体を動かし国政につなげていく

鶴田さん) 「(学習会では)条例制定などに向けたロビーや署名活動に携わったアクティビストから話を聞き、参加者がどのようなアクションを起こすことで法制度・社会変革につながるのか、具体的なイメージが持てるようにする」と事前に資料で伺い、すごく大事なことだけどすごく難しそうと思いました。例えばどういうことを教えているのか、結果的にその勉強をした人が起こしている成果をお伺いできればもう少しイメージがつかめると思います。

 

三浦さん) 地方議会と国会はけっこう連動しているのです。国が決めなければいけないこともたくさんあるのだけれども、地方から上がってくることのほうが国会議員は動くのです。法律を変えたいと思うと、やはり永田町に行って、官僚の方や国会議員をと、法律を通すのは国会ですからそう思うのですけれども、国会議員は地域に地盤があり地域に票があるので、票を持っている人の声を一番聴くのです。

女性は全国にいて緊急避妊薬の問題はこの地域だけではなく全国的な問題だから永田町に陳情に行って働きかけをしがちで、それも重要ですが、それだけだと国会議員は日本の1億2千万人いるなかの一部の人が求めているのだなとしか認識してくれない。女性の一部だなと。それが、自分の地域社会から上がってくると票に直結して、自分の地域でもあるんだとなると動きが全然違うのです。だから、(中央と地方は)両輪なので両方必要なのですが、自分の地域から選出されている国会議員にはその地方議会からの意見書はけっこう効くのです。

日本の地方議会は7割ぐらい保守でジェンダーへの関心の度合いは非常に温度差がある。そこに働きかけるのは東京にいる人ではできないのです。地域の人がやらないと意味あるプレッシャーにならない。そういうことをお伝えして、東京に来ないとこういうアドボカシーはできないのかなと思ったら、そんなことは全然なく、自分の地域でやることが一番力になる、そういうことをお伝えしていきたいです。

 

鶴田さん) 今すごくエンパワーメントされました。私もちょうど地方から東京に引っ越さなければいけないなと考えていたところだったのですが、今のやり方を聞いて、地方で同じような問題意識を持っている人たちがもっとみんなでできることがあるんだと気づきました。

 

三浦さん) 東京はいろんな方が全部来るから”one of them”になってしまうけれども、地域は割と年齢層が高かったり旧来の課題の方が圧倒的に占めていたりするなかで若い女性の課題が挙がって来るとすごく目立つと思うのです。生理の貧困が短期間ですごく広がったのもそういうことがあるのだろうと思うのです。

だから、地域の方が意外と早く動ける。自治体を動かしてしまうと、それが横に連鎖していくと、そこから国が変わっていく。日本の戦後の政治のいろんな福祉政策や子どもに関する政策は全部、地方発なのです。地方自治体がやって、それで初めて国が動くというのがあるので、国が動く問題はいいのですが、国が気づかなさそうな問題は地方から始めた方が効果的。

鶴田さん) 地方自治体というのは、首長を巻き込んでやるのですか。

三浦さん) 首長は巻き込まないと予算をつけて大きなことをなかなかできないと思うので。意見書は議会なので、議会に働きかけて、そこで通して国に伝えるという流れになります。

 

 

 

明日少女隊東京支部長・林芙美子さん

『明日少女隊 個展』

 明日少女隊は2015年に発足した第4波フェミニスト・アーティストグループです。隊員は50名ほどおりまして、日本を始めとして韓国・ヨーロッパ・北米・南米などに散らばっており、アート創りほかレクチャーなどグローバルに活動しております。

 明日少女隊は海外で個展を開催したことはありますが、日本では一度も開催したことがありません。なので、ぜひともまずは東京で個展を開催したいなと考えてります。

 2015年にソーシャリー・エンゲージド・アート展でグループ展として展示しました。ここではプラカードやマスク、ビデオ作品を展示し、明日少女隊メンバーと観客の人が交流できる「女子力カフェ」というのを開催しました。しかし、このグループ展から既に5年以上が経過しているため、たくさんの新作が日本で展示されないままとなっています。

 

 今回の個展では、明日少女隊の活動をテーマ別や時代別に展示場所を区切って、より多様な切り口から明日少女隊の作品をいろんなバックグラウンドを持った人たちに見て欲しいなと思っています。とくに、美大生や芸大生はアートを勉強しているにもかかわらず、フェミニスト・アート等を学ぶ機会が非常に少ないので、何等かの形で学生たちとも関わっていきたいと思っています。

 この個展の場所は、東京の北千住にあるギャラリー、BUoYです。展示期間は23年7月21日から8月5日までで仮予約しています。このギャラリーは、地下1階が演劇やパフォーマンスの会場になっておりまして、2階がギャラリーとカフェという間取りになっています。人が集まりやすい週末にはカフェスペースでメンバーと見に来た人たちが交流できる女子力カフェをまた開催したいと思っています。

 展示する作品とスペースの使い方は現在相談中ですが、2015年から現在までの作品をできるだけ展示して、見る人が近年のフェミニズムの動向を体感できるような展示にしようと思っています。

 

 また、23年2月10日から2月16日の間、東京・日暮里の「脱衣所~a place to be naked~」というギャラリースペースで明日少女隊のビデオ作品2つを展示することも決まりました。2つとも22年11月に行ったトランスジェンダーの権利に関するパフォーマンス映像で、神社の前で行った「私のことは私が決めるマーチ」と「男坂と女坂の間をよじ登るパフォーマンス」の映像がここで初公開される予定です。

 

ジェンダーの役割を押し付けられない女子力を取り返す

NewScene 福田和子さん) 私もけっこう海外で勉強してきたり会議に行ったりするのですが、アートとフェミニズムはいつも一緒にいて、アートで表現する・伝えるのも多いと感じています。その規模感と比べると日本ではあまりそういうのを見ないなと思いつつ、私自身も難しそうだな、できていないなと思っていました。そういう中で、明日少女隊のパフォーマンスはすごく素敵だなと見ていました。

 展示されているプラカードに「女子力再定義」というのもあったと思います。「女子力」は、フェミニズム的な観点からはクリティカルに扱われることが多いと思うのですが、敢えて「女子力」という言葉を使って、「女子力カフェ」をなさっている。どんな想いで「女子力」という言葉を使っているのかお聞かせいただけますか。

Kaida SJF

さん) 「女子力」は英語では”girls power”ですよね。英語のイメージだと、女の子の強いパワーを使って世界を変えようという雰囲気があると思うのですが、日本の場合は、女子力を料理が上手いとか、メイクが上手いとか、ジェンダーの役割を押し付けられたまま、それを勝手にパワーとされてしまっている現状があるので、その女子力を取り返すためにも、そういう言葉を用いています。

 あと、マスクもピンク色で、そのピンクは女の子らしくて、か弱いとかそういうイメージがあるけど、ピンクだって強い、イメージを取り返すつもりで、「女子力カフェ」を開催しています。

福田さん) どんな会話が出てきたりするのですか。

さん) 女子力カフェでやることは様々でして、黒板にジェンダーギャップを書いてもらって、日本がいつどこから出てくるか分からないまま、お客さんに次の順位の国名を書いてもらうパフォーマンスをやったり、フェミニズムに関する本を図書館みたいにして置いてそれについて語るとか、プラカードを一緒に見ながら気軽におしゃべりしたり、本当にカフェみたいな交流の場を設けようと思っています。

 

共通の壁を認識して一緒に闘おう

福田さん) アートを通じてジェンダー平等やフェミニズムを伝えるときに、どういったことに心がけていますか。私たちも発信する時に温度感の違いなどを悩んだり、どこまでだったら受け入れられるか、でもそれを乗り越えたいよねと悩んだり、いろんな葛藤があります。

 

さん) 確かに私たちもトランスジェンダーのイベントをやった時に、誰を発信のターゲットにするか、すごく悩みました。

 トランスジェンダーの権利について語る時に、「シス女性の人だってやっぱり大変だよ」という声が多くあったり、バッシングの中でも「シス女性のスペースはどうなるんだ」みたいな議論が多くされていたりすると思うのですが、その時、私たちは「シス女性のつらさもトランスジェンダーの女性のつらさも共通する部分があるよね」と問題提起をしました。やはり、自分の体を自分で決められないことの大変さは共通の壁ですし、政治的に弱い立場に置かれていることは同じことなので、共通の壁を認識して一緒に闘おうというメッセージを大々的に掲げて、ブログにも書くといった工夫はしています。

 

福田さん) マイノリティとしてみんなで連帯していくというのは、先ほどアライの話もありましたが、大切だなと感じました。

 ホームページも拝見して、みなさんがマスクで活動する思いはとても熱いなと感じました。

 

さん) マスクを被る意味というのは、一つは、社会的なメッセージを伝える時に外見や学歴や社会的カテゴリーに注目されることが多いと思うのですが、それに注目せずに社会の問題だけに注目してほしいという気持ちを込めて被っています。あとは、発足時に顔を出して活動できないメンバーもいて、DVとか顔を出したら見つかってしまうリスクのある隊員もいて、でも一部の人だけが顔を出して活動して一部の人が匿名で活動していたら顔を出している人がトップに立ったりアイコン的な表象になったりしてしまうので、グループ内の格差をなるべく無くすということでマスクを全員が被ることになりました。

 

福田さん) やはり、一人の人にスポットが当たる結果、その人がいなくなったら課題解決が進まなくなってしまうのは、問題意識を持っている人が他にもたくさんいるのに悲しいことだなとよく思います。私たちがやっていている活動は政治なので顔を押し出していかないといけないですが、その中でも、みんなでどうやって闘えるのか、学ぶことが多いと思います。応援しています。ありがとうございます。

 

 

 

一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェ運営委員 熱田敬子さん・飯野由里子さん

『ふぇみ・ゼミU30:フェミニズム視点を醸成する若年向けゼミナール及びワークショップ

 ふぇみ・ゼミ&カフェでは、「ゆる・ふぇみカフェ」という2014年からやっているアートやパフォーマンスを見せる活動と、「ふぇみ・ゼミ」という2017年からやっている活動の両方をあわせた法人となっております。後者の一つである「U30若者ゼミ」という活動に今回は助成をいただきます。

 このU30若者ゼミは30歳以下のみを対象としたジェンダーの講座になっています。年齢制限があってもどうしても行きたいという声をすごくいただいたので、今それとは別に全年齢向けの講座もやっています。やはり若い世代だけが集まらないと、上の世代がいるとしゃべってしまって悪気が無くても威圧感があるので、若い世代だけで考えたことをしゃべってもらいたいとやっています。

 

日本の差別構造を捉えたうえでジェンダーやセクシュアリティを学びアクションにつなぐ

 なぜ講座という形でやっているかと言いますと、ゆる・ふぇみカフェでアートやカルチャーを通じてジェンダーの社会問題に触れていただくことをやっていたのですが、ジェンダーやセクシュアリティには興味があるのだけれどもそもそも日本の差別構造をつくっている天皇制や戸籍の問題、あるいは部落問題や障害の話には全く興味が無かったりした。日本社会は今、自然にはそういう問題に触れることができないので、意図的に触れていかないと。これは若い世代だけの問題ではなく、やはり学校教育でもそれらに総体的に触れる機会がないので。他の被差別属性を持っていたり、他の差別問題に関心を持っていたりする方がいらした時に、なんでこれをやるのかというご質問をいただくことがけっこうありました。それで、やはりこれは若い世代にジェンダーやセクシュアリティを考えたり学んだりアクションにつなげていくという時に、差別そのものに対する教養、基礎知識を身に着けていただきたいと、講座という形式でやっています。

 知識と実践をつなぐことを最大の目的としています。

 私も飯野さんも大学で教えているのですが、どうしても大学は権威の中心地なので、大学という上から教えられるところでは作れない関係性があります。社会運動はもちろん大学の研究者等とも協力していかなければいけないのですが、逆に、差別をつくっているシステムのなかで研究者や大学が差別を構築している側に回っていることもあります。そういったことに対して批判をしていかなければいけない。本来、ジェンダーもクイアスタディーズも大学の外で始まっていることなので、本来の所に立ち戻ろうということで、こういった草の根の講座をやっております。

 

 次年度は、無料公開ガイダンス、全8回の月1回の講座、加えて座学だけではなく実践ワークショップとして夏と春にアクティビズムに関するフィールドワークに行く予定です。

 コロナ前のゼミでは一番多い時で年間100人ほどが参加していました。コロナで集まれないとなった時に少し減りましたが、現在はハイブリッドでやっていますので海外や地方から受ける人もいらっしゃいますし、家から出られない人もいるので、そういった人もオンラインで参加しています。この配信も若いスタッフがやってくれていて、運営自体をインターンシップ的に育成としてやっています。

 講座だけでなくワークショップもやっていることで、若者同士が同世代で会えることがすごく嬉しいという声をいただいています。コロナ前は毎回ご飯を一緒に食べたりしていましたが、今は感染対策もあり、オンラインの方も一緒にやるためにいろいろな工夫をしています。

 ゼミ生発の運動やスタッフ発の企画が立ち上がっています。スタッフも学生を中心とした若者にやっていただいているので、そういった人たちが自発的にやりたいと自分たちで助成金をとって企画や運動を始めています。例えば、あいちトリエンナーレが展示中止になった時に、ゼミ生が署名を集めて名古屋市と愛知県庁に署名を提出に行きました。また、今年のサマーワークショップでは午前中は運営委員が参加せずに若者たち自身にコーディネートしていただいて話し合い等をしました。

 

にじいろCANVAS 小浜耕治さん) 私も参加したいなと常々思っているのですが、参加している方々のジェンダー表現がとても多様で、アクセシビリティーについても多様性を確保していて素晴らしいと思いました。また、大学の偉い先生みたいな雰囲気かなと思ったら、権威主義は疑うということですね。私は野良の活動家ですので、そういうところも素晴らしいと思いました。

 歴史や差別を総合的に考えておられるということですが、参加している方が私事との関わりを客観視して、それを自分の運動として、「個人的なことは政治的なこと」としてやっておられるのかなと思いました。問題に気づきを得て実践した事例があれば教えていただきたいと思います。

 若い人は感覚が私たちのころとはだいぶ違う。私たちのころは、いくら水をやっても砂漠に吸い込まれるみたいな状況だったのが、最近は少しましになって、手ごたえも感じてくれているのだなと思います。U30ということで、その人たちの特性もあるのかなと思い、お伺いしたいと思いました。

Kaida SJF

生きづらい人それぞれがマジョリティー性にも気づく 知識と行動をつなげていく

ふぇみ・ゼミ&カフェ 飯野由里子さん) 30歳以下の方が受けているこのU30の講座を通してどういう変化があったかと関連しながらお話したいと思います。これはそれぞれの運営委員によって感じていること、思っていることは違うと思いますので、ここからの話は私の印象になると思います。

 多くの受講生が最初に受ける時は、自分のしんどさとか生きづらさとか、そういったものを出発点にしてフェミニズムを学びたいと思って講座を受けに来てくれていると思います。でも、1年間を通して講座を受け、他の受講生とコミュニケイトするなかで、それぞれがそれぞれのマジョリティー性にも気づいていく、ということが常に起きていると思います。

 ふぇみ・ゼミのこのU30を受講して、その後、私たちはゼミ生には「自分自身の活動を始めていってください」と常に言っているのですが、活動している人は基本的に植民地主義の問題、それと非常に関連した戸籍制度の問題に気づいて、それを批判的に捉えた活動をしていると思います。これは日本社会を変えていく時に大事なポイントだと思っているので、日本社会の差別構造、構造的な不均衡を知る際に一番大事なポイントだと思っているので、そこは上手くいっているところだと思っています。

 

 いろんな人がこの場にいるんだ、と感じてもらえるような工夫をしています。

 今でこそオンラインの講座が普通になりましたけれども、ふぇみ・ゼミでは、2018年位から講座のハイブリッド配信をしています。なぜなら、ゼミの開催時間が平日の夜だったからです。しかも会場が都内であることが多く、地方に住んでいる人、子育て中の人が参加しづらかった。だけれども、そうした人たちこそフェミニズムを必要としているのではないか。必要な人に届けていないのは矛盾しているよねということで、この状況を放置せずに自分たちができるところから始めようということで、熱田さんが非常に力を入れてハイブリッド配信のスキルやノウハウを蓄積しました。その場にいるとどれだけそれが大変な努力なのかも見えていたと思います。オンラインになってそういう提供する側がどれだけの労力とコストをかけてこの場をつくっているのかが見えにくくなっていると思います。

 もう一つはリアルタイム字幕の提供です。これも2018年に始まった時から行っています。最初は、聴覚障害のある人も参加するかもしれないし、参加したいなと思った時に安心して参加できるように付けましょうというところから始まりましたが、いざ始めてみると、日本語を第一言語としていない留学生から非常に好評でした。それ以外にも、専門的な話もゼミの中で出てくるので、固有名詞や専門用語が多い講座では、通常は字幕を必要だと感じていなかった人たちも字幕は有効で重要だと捉え方が変わってきたと思います。つまり、音声は日本語だけでやるのが普通だよねという「普通」が少し変わってきて、字幕はできるのであればやった方がいいし、やるように努力するべきだねという形で、いろんな人が参加する場をみんなで一緒につくっていこうという感覚はできたと思います。字幕については3月3日のSJFアドボカシーカフェでどんな工夫をしているかを共有させていただきます。

 

熱田さん) 2点だけ補足させてください。

 1点目は、私たちの講座はホームページのラインナップを見ていただければわかりますが、研究者だけをやっている人はほとんど呼んでいないのです。基本的には、U30でもお願いしていることですが、「自分の話もしてください」とお願いしています。これは、講師によってはけっこう嫌がられて、はっきり断られることもあります。「自分は関係ない第三者みたいな視点では語れない話をしてください」と最初からお願いしているので。これは、ゼミ生にとっては、関心を持った知識と行動をどういうふうにいろんな人がつなげていっているのかを見られる事例になっていると思います。

 2点目は、スタッフを若者中心にやっていると言いましたが、スタッフを有償で雇っています。有償でなければならないとはっきり置いています。社会運動は無償でやることがいいことだと私たちはかつて言われてきて、私も無償労働をたくさんやってきましたが、やはり今後、若い世代が育っていくことを考えた時に、本当に社会全体に余裕がなくなっていて、それを続けられる人が若い世代にどれぐらいいるかを考えると、新陳代謝をしていくためにはお金を回していかなければいけないということで、有償でやってもらっています。

 運営自体がアクティビズムだと思っていますので、U30に関しては司会なども全部若いスタッフにやってもらっています。経験豊富な偉い人が前でしゃべっているという感じではなく、このスタッフたちがゼミ生と講師をつなぐ形でやってくれていて、そのあたりがポイントかと思います。

 

 

 

DPI女性障害者ネットワーク代表・藤原久美子さん

『障害のある女性の複合差別の実態を記録し、届けるプロジェクト』

 私自身は30代の半ばで視覚障害になりました。やはり障害を持つことで周りの態度がすごく変わるのです。

 妊娠をした時に、「障害があったら育てられないだろう」とか「障害児が産まれるのではないか」と中絶を勧められた経験があります。それは仕方がないと思って来ていたのですが、DPI女性障害者ネットワークに出会って、「これが複合差別なんだ」ということを知り、それから活動をしています。

 DPI女性障害者ネットワークは1986年にできました。その時は優生保護法の撤廃や障害女性の自立促進とエンパワーメントを目的にスタートしています。現在、メンバーは障害の種別を超えた障害女性だけでなく性自認が女性の人ということで様々な人が関わっています。複合差別解消に向けて、情報発信や政策提言を行っています。

 私たちは障害者であり女性であるということで、ただ足し算ではなく複雑な複合差別を受けています。2011年にアンケートをとり12年に冊子にまとめました。これの再編をして、この10年間に私たちがした活動も留めておきたいということで、今回助成を受けて、改めて冊子にまとめて公開し各地で講演をして共有していきたいと考えています。

 

女性施策には障害の視点がなく、障害者の施策にはジェンダーの視点が無い

 その11年のアンケートで明らかになったことは、障害女性は性のない存在のように思われがちですが、実は性被害もすごく受けやすい状況にあり、さらにそこから抜け出しにくいことです。

 女性施策には障害の視点がなく、障害者の施策にはジェンダーの視点が無いということで、こぼれやすいのです。就労の格差や、女性として尊重されない中で先ほどの私のように「性と生殖の権利」を否定されがちであって、異性介助から深刻な性被害があって、でもそこから抜け出しにくい状況があります。あと、データがほとんどないのです。障害者の統計は男女別統計があまりされていなくて、可視化がなかなかされない。

 そういうところに留め置かれている障害女性は、自分を価値のないものとして捉えさせられてしまっていて、エンパワーメントがとても重要なのですけれども、障害者団体のなかでもやはり男性優位で、今の一般社会よりももっと強くて代表者がほとんど男性ということも未だ多いのです。そこに障害女性が力を持って参画していけることも同時に重要なことと思っています。

 私たちの活動としては、こういう社会に、障害女性の困難、その救済には何が必要なのかということを知らせ、自分たち自身もそこに気づくことをやっていく。それが、複合差別というのはさまざまなマイノリティの人たちも関係することですので、そういったいろんな背景を持つ人たちにとっても差別を解消していく手がかりになっていくと思っています。

 

パリテ・アカデミー 三浦まりさん) 10年前に発行された障害のある女性の生活の困難についての報告書、この報告書を10年経ったということで、それを基に活動を記録して、課題を周知していく活動をしていくということで本当に重要な活動だと思います。コロナでさらに問題が深刻化したのではないかと懸念しておりまして、みなさまもコロナ禍での障害女性の経験を中間報告で出されていて、私も大変参考にさせていただきました。

 みなさまの活動があって初めて、障害女性が抱えているいろいろな問題がようやく可視化されてきたところだと思いますが、これを更に一歩前に進めて、多くの人が周知するにはどうしたらよいかが課題だと思います。実際に10年活動を続けられて、ここはできたなというところがあれば教えていただけますか。また他方で、ここが難しい、なかなか動かないということもあると思うのですが、とくにご苦労されている点があれば教えていただきたいと思います。

Kaida SJF

 

女性障害者が保護の対象ではなく「意思決定の主体」として参画できる社会に

藤原さん) そもそも、この報告書をつくった時は、日本で障害者運動が国連の障害者権利条約を批准するために国内法を整えようという中に障害女性のことを入れたいということで、その時にエビデンスやデータを示しなさいと言われて、それが無いということで自分たちの手で集めたのです。そうすることで、一応は法律等に書き込まれはしたのですが、性別毎の配慮など私たちが本当に求めたものにはまだなっていなくて、書かれただけという部分もすごくあるのは残念なことで、これからの課題だと思っています。

 私たちは国連の女性差別撤廃条約委員会等にもロビイングに行って、優生保護法がまだ全く解決していない、障害があるから子どもは育てられないという認識が人のなかにまだ残っているからこの問題をまず解決しなければだめでしょうということで、いま全国で裁判をしていますが、それが少し進みました。女性差別撤廃条約委員会からすごく強い勧告が出たことで、やっと国が重い腰を上げた。そういったところは少し変わってきているのかなと感じているところです。

 

三浦さん) そういう変化の兆しは嬉しいところですけれども、性別毎の配慮がまだないということですね。せっかく障害者権利条約からの総括所見が出たことで、これから配慮が進みそうですか。

藤原さん) 障害者基本法を変えたいというのがあるのですが、まず障害者基本計画が来年度からありますので、こういう総括所見が出たのだからということで国の審議会に意見を出して、障害のある女性の実態把握をすること、それによって解消していくこと、実効性のあることを具体的に入れていきたいと思っており、実際少しずつ入ってきてはいます。

 

三浦さん) みなさんの活動は本当にインターセクショナリティーを1980年代から実践なさって来たと思うのですが、障害者運動のなかにジェンダーの視点を入れると同時に、ジェンダーに関する女性運動のなかに障害者の視点を入れていくという活動もなさっていると思います。そちらの方向性ではどんな進展がありますでしょうか。女性差別撤廃条約の審査も来ますけれども。

藤原さん) たとえば女性の防災計画であるとか、そういったところに聴き取りもあり、基本計画についても第3次からは「障害のある女性」と認識はされているのですが、ただその捉え方というのが、まだ保護の対象なのです。障害女性が参画するとは捉えられていないので、そこはきちんと客体ではなく主体として捉えられるようにしていきたい。

 障害者団体のなかでもまだ男性が強く、内部からも変えていかなければいけないと思います。この総括所見は自分たち運動団体や、市民一人ひとりが問われていることです。交差的・複合的差別という言葉が総括所見にたくさん入ったので、そこを実現していくということをどんどん言っていく、騒いでいくと言いますか、声を上げていくことが必要だと思います。

三浦さん) 明石市がインクルーシブ条例をつくって障害者の方が保護の対象ではなく「意思決定の主体」として参画していくということを整えたのですけれども、同時にジェンダー平等条例もつくって女性が意思決定に入っていくことになります。私もそれに少し関わり、障害者の方と意見交換をした際にすごく印象的だったのが、種別毎の特性や違いもすごくあるから障害者を一括りにしないで欲しいと聞いたことです。本当にその通りだと思いました。意思決定をする時に、どういう種別なのかによってどういう関わりにくさがあるのかは違うので、それに配慮して参画の仕方を考えなければいけない。今日もオンラインですけれども視覚障害の方がいるなかでどういう会議のルールをつくればみんなが入れるのか、こういうのは私も知らないことがたくさんあって学ぶことが多いのですけれども、社会全体で学びながらやっていく必要があるなと思いました。

藤原さん) 先ほどから私の音声がいっぱい出ていると思いますが、こうやらないと私たちは情報を取れないということを敢えて知ってもらいたいなという思いもあるのです。この音声は、私がイヤホンをしたら聞こえずに済むのですが、これは雑音なのではなくてこうやって私たちは情報を取っているということを広く知ってもらいたいからです。字幕もそうで、映画など芸術性の高いものは文字を入れるのをすごく嫌がられると聞くのですけれども、それがあって初めていろんな人に伝わるのです。そういったことが当たり前で特別なことではない。

 いま分離教育で障害者がすぐ隣にいないということが残念ながら進んでいるので、こういう場ではいろんな障害者と会ってもらえるのが一番だと思います。

 

 

 

NPO法人レインボーコミュニティcoLLabo代表理事・鳩貝啓美さん

『性的マイノリティ女性の地域と世代を超えたオンライン上のコミュニティ構築と実態調査』

 私たちは「レズビアンと多様な女性がのびやかに生きられる社会」を目指して当事者それから社会にむけて活動してきました。今回助成いただく事業は今年度スタートしたプロジェクトの核となる部分で6事業をぎゅっとまとめたような取り組みになります。

 事業の目的は、「性的マイノリティ女性がつながる仕組み、未来を切り開いていく力をつけられるような仕組みをつくること」それから「受け身ではなく自ら社会に求めていく動きを学び、拡げていくこと」としています。

 タイトルにある「地域と世代を超えた」というのは、性的マイノリティ女性は人数も少なくお互いに見えない上に世代や名乗りによって別々でつながりにくく、住む地域によってはコミュニティーがなく個人的な友人がいたとしても出会えるロールモデルには偏りや限界があるので、つながることで困難を軽減したいと考えているのです。コロナ禍で、運営している方が高齢化していることによるリアルな場の減少など、危機感を感じてプロジェクトが生まれました。

 事業内容については、まずWebサイトを作り、性的マイノリティ女性のリアルを発信します。セクシュアリティを探し始めた現代の若者世代ならではの困難もあることが分かってきましたので、その世代のニーズに応じた発信も連動で行う予定です。このWebサイトを核にオンライン上でつながって、参加型コミュニティーをつくって、そこで実態調査をして声を集めていく。調査は量的だったり、質的だったり。あわせて課題を把握するためのLINE相談なども導入しています。これらを合わせて、課題と生きにくさの背景を変えていこうという取り組みです。

 いかにつながれるかというがこの事業の肝ですので、「社会的に女性として生きる人・カップル・かぞく」という呼びかけでいくことに決めました。社会に向かう意識や行動には当事者間でも差がとても大きいですので、先に声を上げて顔を出せるカップルやかぞく、あるいは小さな変化であっても起こしてきた事例をロールモデルとして発信していきたいと考えています。ただ、参加型のコミュニティーにしていきたいので、参加したいと思っていただけるかというと、事業本来の目的とのバランスが難しいのではないかと思っています。

 また、性的マイノリティ女性が関わる各地の団体との協働を進めていきます。これまで私たちの会で経験のないような初めての挑戦もありますので、外部からの専門性を補完しながらやっていきたいと思います。

 

 コミュニティーの構築において当事者の主体性や意識変容、行動を促せる方法についてみなさんとお話したいと思います。

 最後にご案内ですが、認知向上のため、東京レインボープライド2023(4/23~24)にブース出展いたします。起こしの際はぜひお立ち寄りいただければと思います。

 

明日少女隊 林芙美子さん) オンラインの相談やサポート活動をしているとWebサイトで伺ったのですが、オンラインベースはコミュニティー構築がなかなか難しい気がして、それをどのように乗り越えているのか、どのようなプラットフォームでネットワークを構築しているのか――Webサイトだけなのか、それともSNSも使っているか等——方法が気になりました。

 当事者の主体性や意識変容については、マイノリティの権利の主張に対する行動なのか、それとも自分の人生を切り開いていくような活動なのか疑問に思いましたので質問させていただきます。

Kaida SJF

鳩貝さん) コロナ禍でのここ数年の活動に関しては、やむを得ずオンラインで小さな場を始めたというところなので、まだとてもネットワークやコミュニティーの構築に至っていないのです。これからつくっていくWebサイトでの発信を柱にしながら、そこと連動する形でコミュニティー、意見交換や情報交換をしたりしてつながっていける仕組みをつくっていきたいと考えています。

 そのコミュニティーも「こういう活動に参画したいよ」といった従事するスタッフレベルの方からあるいは他団体の方で「ピンポイントだけれども、こういう部分に興味がある」という層もあれば、一方で「なんとなく趣旨は面白そうだから自分も登録していいよ、情報ください」という参加者層まで、大きく分けると2つあるのかなと思っています。その参加者層の方たちとのコミュニティーの場の作り方は、SNSだけでやると一方通行だろうから、どうしたら双方向性のあるものとして継続できるか、実はまだ方法論が決まっていないので、みなさんのご経験があればぜひ伺ってみたいです。

 意識変容や行動を促すことに関しては、温度差が生じると引かれてしまうのではないかと感じています。先行して発信するストーリーは当事者の個人でもカップルでも社会的に声を上げている人の実像を明らかにしていきたいと思っているのですが、例えば私は「結婚の自由を全ての人に」いわゆる同性婚訴訟の原告で、そのつながりの人ばかり集めてしまうとますます開きを感じると思うので、より身近なテーマで、例えば「美容室でセクシュアリティが明らかでないところでストレート女性の扱いをされると窮屈だよね、それをどうしたら解決したか」という事例、小さな工夫からでもいいからシェアをしていくなかで、「行動を起こせるんだよ、やってみたらどうかな」と、嫌なことの経験を実感したり解決策があるんだみたいなことを学んだり、そういうことから始めていきたいと思っているところです。

さん) すごく想像しやすくて、自分の経験や生きづらさを共有できる場をつくるというのは意義があることだと思うので応援しています。

 

鳩貝さん) アートとしての表現にも本当に注目していて、インスタグラムを使いこなす世代の方にも参加していただきたいし、セクシュアリティの受容をめぐる課題も私たち古い世代と現代の方とはやはり違いがあると感じているので、そういう方々にもちゃんと訴求していける方法としてインスタグラムとか映像・画像を駆使したいと思っています。でも私の団体内部には全くいない人材の部分について、明日少女隊にはデザインに強い方がいらっしゃると思いますが、ご意見やアドバイスがあれば伺ってみたいです。

さん) 私たちのグループもアーティストが少なくて、学生でフェミニズムやジェンダーを勉強している人が多いという特徴があり、ビデオグラファーを雇ったり他の団体とコラボレーションしてインスタグラムを更新したりしています。やはりコラボレーションが多いです。

鳩貝さん) ピンポイントでも関われるというコラボレーションを増やしていきたいと思うし、その中でお金をきちんと動かしていきたい。本当に手弁当で始めてきたNPOなので、ここら辺10年を超えたところで次の世代につないでいく運営に切り替えていきたいと考えています。

 

 

 

――全体対話――

土屋真美子さん・SJF運営委員=総合司会) 自由にご質問やご感想をいただきたいと思っているのですが、先ほど、ソウレッジの鶴田さんからこんなことを話せたらいいなと提起されました。活動をいろんな人にとって自分事にしていくためにはどうしたらよいかということと、いま本当にアンチの意見が多くあるのでどう対処しているのかということと、政策提言をする場合のポイントです。鶴田さん、とくにどのお話をしたいということはありますか。

ソウレッジ鶴田七瀬さん) 一番困っているのは、最近とくに女性支援業界への強い活動妨害です。でも解決策を持っている方がいるのだろうか、という気持ちもあります。

 

上村英明さん・SJF運営委員長) 急に降られると、あたふたしますね(笑)。私がNGOをやってきた中での一つの経験を言うと、確信的に攻撃してくる人は確信的なのでそこを相手にするとエネルギーの消耗が激しいということです。その点、ひとつの目標は、確信犯の影響を如何に少なくするか、いわゆる普通の人たちがあっち側に行かないようにするにはどうしたらよいかを考えてきました。普通の人たちがアンチの議論に触れた時に向かうのはWikipediaのような媒体だと思っています。その点、自分たちの活動に関するWikipediaのような媒体に自分たちで書き込むことです。自分たちで正確な情報を書いて定期的に更新し、何かよく分からなくてWikipediaを見た人に正しい情報がより伝わりやすくすることです。

 その他は、関連する団体とのネットワークを使って対応することです。共同声明を出すなどは、月並みですが、有効だと思います。

 それから、本当に責任を取らなければいけない人たちは誰なのかを明らかにして、そこにエネルギーを集中するということもあります。どういうことかというと、運動に対する攻撃は、政府がきちんと政策の説明をしていないところから発出します。私がやっている民族問題がそうですが、資金が少しでも回るようになると「特権」というヘイトが沸き起こります。本来であれば政府がなぜこの政策が必要なのか理由付けをしっかりしなければならないのに、それをやらないために当事者団体間あるいは当事者団体と市民の間で亀裂が広がってしまいます。その根本理由をしっかり説明する対応をしています。ベストは今のところないです。

 

ふぇみ・ゼミ&カフェ 飯野由里子さん) 上村さんが仰った話がベースだと思います。攻撃してくる人は何があっても攻撃してくるし、流行り廃りも早いので無視して耐えるみたいなところがあると思います。と同時により正確に情報発信していくことも大事だと思います。

 こういう活動妨害や攻撃は今に始まったことではなく、ずっと続いてきたもの。フェミニズムに関わるのであれば、とくに日本社会でやるにあたっては覚悟していなければいけないこと。そうした妨害や攻撃をされてきた団体や人たちはすごくたくさんいるので、その人たちの話を聞くだけでも「ああ自分だけではないんだな」、「運動に関わるというのはそういうことなんだな」と分かると思います。

 

ふぇみ・ゼミ&カフェ 熱田敬子さん) 「攻撃がないんだったら何の役に立っていないということだよね」とふぇみ・ゼミ&カフェでよく言っています。要するに、脅威だと思われるから攻撃されるのであって、攻撃されないということは脅威じゃないということだから、攻撃されているということはポイントをついているということだという話をよくしています。

 いまのフェミニズム運動に対する攻撃は過去に起きてきたものに比べればまだまだのところがあって、ジェンダー・バックラッシュの2000年代や日本軍性奴隷制・戦時性暴力の問題に取り組んでいる人たちには、爆破予告が日常的にくるみたいな。そういうところでやっているのですけど、別にだからといって怖がる必要はなく、「女たちの戦争と平和資料館」は激しい嫌がらせを受けていますけど、以前伺った時にはっきり言っていたのは「ぶれなければ、攻撃はしてもしょうがないという感じになってくる」と。

 攻撃されると動くと思うから攻撃してくるのだけど、最近だからよく会場に攻撃をするようになっていますよね。表現の不自由展も、表現の不自由展実行委員会を攻撃するのではなく、貸している会場や助成を出している愛知県を攻撃するというのは、それらは動くと思っているからです。覚悟するというのもあるけど、そんなにマイナスに捉えなくてもよく、落ち込んで辛いのは分かりますが、淡々と防衛しながら嫌に感じていることを客観視しながらやっていくというところかなと思います。

 

パリテ・アカデミー 三浦まりさん) 支援団体を対象にしているというのが今回の攻撃の特色なので、支援している人たちは腹をくくっているとしても、そこに来る人たちが来づらくなってしまうというところが狙われている点でもあると思います。支援団体に対しては飯野さんや熱田さんが仰った通りかもしれないけれど、いろんな人が支援につながれる環境をつくるために何ができるかを考えると、狙われた人たちが孤立しないように私たちができることがあると思います。上村さんが言ってくださったことにもつながると思うのですけれども、支援団体全体で声明を出すとか、分断されないようにしていくことはとても重要かなと思います。

 2000年代のバックラッシュと比べてSNSが発達しているというのが違うところで、情報の広がり方が今の方がはるかにすごいですね。これからフェミニズムに入っていこうかなと迷っている人たちへの影響も大きい。あの時は、それなりに知っている人だけでバックラッシュがひどかったということが共有されて、その外にいた人たちはバックラッシュがあったことすら知らないというような状況だったと思います。今は、より可視化の程度が強いから、上村さんが仰ったようないわゆる普通の人に対する影響が前よりも大きいということを私たちとしてどう対処していけるかを考えることも必要なのではないかと思います。

 

NewScene・福田和子さん) ひとつ心配で歯がゆく思っていることがあります。最近、アクティビストになろうと思えばある意味なれる――例えばSNS上で発信していくというのが三浦さんも仰ったようにできるようになってきた――時代ですが、同時にユースの声を大事にしようという雰囲気もあると感じています。それ自体は両方とも素晴らしいことだと思いますが、善意で勇気を持って始めたのにメディアや一般の人たちから思いもよらない形で切り取られてしまったり攻撃を受けたりして傷ついてしまう。熱田さんが仰ったように腹をくくるというのは大事だと思うのですが、腹をくくるには、そういうことも起きるという情報がないと腹もくくれないと思うのです。

 その情報もないまま発信して、そうやって傷ついて、もう何もしたくないとなってしまうのは残念なことだし、大人としてどうやったらそのあたりを守れるのかなと思います。私自身もふわっと始めてそういうことがあったので、どうやったら自由に発言できる環境を守りながら同時にその人のバウンダリーを守ってあげられるのかなと、腹をくくるだけの知識をその時点で提供できるのかなと思ったりします。声を上げ始めてからのしんどさなんかを共有して励まし合える場があったらいいなと思います。

 

参加者) 私は今ウィメンズマーチ東京の実行委員会をやっていて、いろいろ失敗しながらもずっと継続しているのですが、個人で受けて立つとすごく大変です。やはり福田さんが言ったように、気軽にじゃないですけどアクティビストになろうとして個人で発信していくことができる環境なので、もちろん個人で発信することも大事なのですが、個人をターゲットにバッシング等があると思うので、ウィメンズマーチ東京では実行委員会でやることをすごく大切にしています。

 それは、何かあった時にみんなで一緒に相談して乗り越えていくことができるので、自分の名前だけがいろいろなところで一人歩きして攻撃されることを防げるからです。今とくに仲間が大事だなと思います。まだ若くて活動歴がない時に心が折れてしまうのは残念だと思うので、みんなでいろんなところで発信して一緒にやっていくことがすごく大事だと私は思ってこれまでやってきています。

 アンチは、何を目的にやっているのかというのを分析するのが大事だと思っています。表面的に見えていることよりも、もっと奥に違う狙いがあったりするので、上の世代、経験の長い、バックラッシュの時代からずっと対応している世代ともつながって、何が目的にそういうことが起きているのかをみんなで分析する。分析できれば落ち着けるし、対抗しやすい。SNS表面だけで対抗していくというのは限界もあり難しいので、実際に何をこの人たちは獲得したくてアンチな行動をやっているのかを、こういう場もそうですが、いろんなところでつながって分析していくことが重要だと最近感じています。

 

にじいろCANVAS・小浜耕治さん) アンチ政治勢力もありますよね。地方によっては本当にそれががっちりいて、アドボカシーが届かないということがあったり、仙台でも自治体との協働事業で研修を行うなどはいいのですが、パートナシップ制度など制度の問題になると全然動かなくなってしまったりする。仙台は、首長は革新なのですが議会は多数が保守で難しさもあるのか、なかなか進まない。そういう時に、「手心」を加えてやらなければいけないのか、あるいは差別の構造をしっかり伝えていく方がいいのか迷うところがあります。みなさん、どんな感じで上手く突破したり、やはり難しく感じたりするのかなと興味を持ちました。

 

三浦さん) 明石市のインクルーシブやジェンダーに関する条例制定で特にそういうことがあったわけではありませんでした。

 今条例をつくる時に一番難しいのはたぶん外国人の権利に関することで、ここ10年位進んでいないですよね。パートナシップはいま広がっていますし好事例がたくさんあるので、まだ広がっていない地域への横展開が今まだしやすいと思うのですが、外国人の権利に関してはどこから手を付けたらいいのかというぐらい残念な状況だと思います。

 いま攻撃が一番ひどいのが、性産業の利益構造が余りにがっちりと日本の中でもつくられてしまっているので、そこの攻撃がとにかく強いし、いろんな手を使っているし、女性たちを黙らせる目的のためにありとあらゆることをやっていることです。そのことに対して、私たちがそれを知り、みんなで連帯していく、標的になった人を孤立させないということが一番大事だと思います。

 

飯野さん) 小浜さんへのレスポンスになると思いますが、同性パートナシップを巡っては、ここ数年、各自治体で広がりがある一方で、右派団体から同性パートナシップについて議会で論じないようにという請願書が出されていたりするのです。ご自分の自治体等でそういった請願書が出されているか確認することで、どういった勢力がその地域で力を持っているかを確認して戦略を立てていく必要もあると思いました。

 

DPI女性障害者ネットワーク・藤原久美子さん) 対立で私たちが一番つらいのが、女性の産む権利・産まない権利と障害者が産まれる権利を言われて、同じ仲間の男性障害者から責められることがすごくあることです。どこからが命なのか、生命倫理に関わる話もあって難しい。いま出生前検査が進んできたことで、それは女性の権利なんだという妊産婦の側もあるのですが、私たち障害者団体にとっては女性の権利なのではありません。ちゃんと情報をもらえていないところで、産むか産まないかだけを切り離されて、まるで女性の権利のように言われて、女性が障害者を殺しているという構造に持っていこうとする側も男性のなかにはあるのです。そこには権力者たちの意図があるので、分断されないようにしていくのが一番大事だと感じているところです。

 

参加者) ソウレッジの鶴田さんがそのような攻撃で悩んでおられることを初めて知りました。私が知ることができて皆さんと共有できて一緒に考えられるこういう場所はとても大事だと思います。

 実は私は7年前に国連ジュネーブで無断で写真を撮られて揶揄をされてブログに上げられた一人です。それは朝鮮人だということが理由、この人たちならやっていいということで朝鮮人全体に対する攻撃のために私たちは使われたと思います。当時は、その行為をした個人の後ろに見える在日コリアンに対するヘイトスピーチを当然だと思っている勢力だけが余りにも大きく見えすぎて黙るしかできなかったのですが、やっと今、行動に移さなきゃいけないな、声を上げなきゃいけないなと思い始めています。

 それができるかなと思ったのは、今日みなさんが仰ったような「一緒にこれをやらないといけないよね」と思えるグループの存在が少し見えてきて、その人たちとやろうということが具体化してきたからです。今日もそうですが、先輩たちが大変なバックラッシュの中など、仲間が少ない中でやってきた歴史を改めて認識をしまして、力をもらったかなと思いました。

 ささやかなことしか言えませんが、鶴田さんが今ぶつかっていらっしゃる壁というものを、情報を共有しながら一緒に考える場をぜひまたつくることができたらいいなと思いました。

 

鶴田さん) ありがとうございます。

 特権を持たない人同士で闘い合うという状況は一番避けたいなと思いました。例えば、障害者と女性とか、トランスジェンダー女性と女性とか。自分の方がつらいという比べ合いというのが、その中で一番私たちが潰されて疲労して、結局、権力を持っている人たちが利益を得る構造になってしまうので、一番避けていきたいと感じています。

 

 ただ、いま電話による攻撃が多くて、大事な電話に対応しづらくなっています。爆破予告に比べたらひどくないかもしれませんが。

飯野さん) 熱田さんの先ほどの話の意図はそういうことではないと思う。

熱田さん) 攻撃のひどさやそれに対抗する強さの比較は、自分たちがどれぐらい資源を持っているか比較になっていくと思います。攻撃に対抗するというのは、ジェンダー・バックラッシュの時は本当に50人ぐらい右翼が押しかけてくるとか、そういう経験があちこちであって、どうやって対抗したかというノウハウをけっこう共有しあっていることが重要です。小浜さんが仰った地方議会の話も、ずっとターゲットを変えながらあちこちで続いている話で、1990年代の歴史の否定論から始まって2000年代のジェエンダー・バックラッシュ、それから民族ヘイトスピーチ、いまLGBTQにターゲットを移しつつあるというところで、やっている人たちは実は同じなのです。

 攻撃に対抗するノウハウが分野横断で伝わっていないことが問題で、やっている集団が同じなのでツールが変わっても広がり方は似ていたりしていて、過去の経験を知っていると「次こうやってくるだろうな」ということがけっこう分かったりします。

 電話攻撃の件もそうで、WAMにもたくさんかかってきていて、その時にどうやって対応しているのか。WAMは都度つど警察に届けているのです。それは記録に残すことの重要さのためで、警察自体が権力側だからほどほどに使っていかなければいけないところはありますが、記録に残していかないと後で裁判に持ち込めないし、上手くして一件でも起訴されれば保護されるし。だから、表現の不自由展で逮捕者が脅迫者側に出たのは重要で、「逮捕されるんだ」という感じになっていくのです。

 かなり蓄積されてきたノウハウや闘い方があるので、ノウハウ共有をセクシュアリティやジェンダーの中だけでやるのではなく分野横断ですることが大事。

 自分だけが攻撃されていると思うと、自分が悪いんじゃないか、もっと上手くやればいいんじゃないか、となってしまうと思いますが、全然そういうことはなくて、声を上げたら攻撃してくるのが日本社会なので、と考えるとちょっと考えの持ち方が変わる。自分のあの言動がとか、このやり方が、とか思わなくなる。ということで、歴史とノウハウを知ることは大事だと思いますという趣旨で話しました。

 

 

――閉会挨拶――

佐々木貴子さん・SJF運営委員) みなさん本当にすごいポテンシャルで、みなさんが一堂に集まってこういうパワフルで熱風を吹き付けられたような対話ができるということがすごくうれしかったです。

 ここに参加していらっしゃる方がいろんな意味で多面的にとらえる機会を与えていただいたと思います。ソーシャル・ジャスティス基金にとって9団体が一堂に会することは初めてのことですが、それぞれ通底する課題というのはつながっていることが多く、こういう助成の機会をくださったオープン・ソサエティ財団にもたいへん感謝いたしております。

Kaida SJF

 みなさん、今日の対話のなかでもコラボレーションのことを仰っていましたけれども、これからが楽しみです。今日ここで共有したこと、社会の課題をまず自分事として私も感じていきたいですし、もう少し広げていく、そして最終的にアドボカシーにつながっていけばうれしいなと思います。本当に今日はありがとうございました。  ■

 

 

 

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インターセクショナル・フェミニズム~ふぇみ・ゼミ&カフェの挑戦~

【日時】2023年3月3日(金)13:30~16:00

【会場】オンライン開催

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