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―共に変えようこれからのソーシャル・ジャスティス

連携ダイアローグ2022 報告

 

 ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、4つの助成事業の連携プロジェクトを担っている方々である、わかもののまちの土肥潤也さん、国際子ども権利センターの甲斐田万智子さん、子どもアドボカシーセンターOSAKAの奥村仁美さん、子どもアドボカシーセンターNAGOYAの原京子さん、しあわせなみだの中野宏美さん、性暴力禁止法をつくろうネットワークの周藤由美子さん、監獄人権センターの塩田祐子さん、ラジオフチューズの大山一行さんをプレゼンターに、明戸隆浩さん(本プロジェクトアドバイザー/大阪公立大学経済学部准教授)をコメンテーターに迎えたダイアローグを2022年8月6日に開催しました。

 オンライン化が進む社会においても、顔の見える範囲で信頼関係をどう構築していくかが社会を変えていく土台ではないかと投げかけられました。ソーシャル・ジャスティスは、光の当たっていなかった問題が認識されることから始まり、立法や行政を担う人とも連携しつつ、公正な話し合いの場をつくることが大事だと強調されました。まちづくりや法制定・法改正の対話に、当事者の声が届けられ、あるいは当事者自身が参加し、声が実際に影響を及ぼす社会であるかが問われています。上げにくい声、少数者の意見もしっかり聴き、活かせる社会であるか。

 公正な社会に向けて連携して見逃されがちだが大切なことを一つひとつ現場で取り組んでいること、それこそが大きな財産だと締めくくられました。

 詳細は以下をご覧ください。

Kaida SJF

 

――開会挨拶(上村英明さん・SJF運営委員長)――
 

 本日、77回目の広島の原爆記念日にこの企画を開催しますことを意義深く感じます。ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は2011年に始まり、多くの方々のご協力により2022年を迎えることができました。
 Social Justiceをどう訳すかは難しいですが、公正な社会の実現と考えてきました。もう少し簡単に言うと、「見逃されがちだが大切な活動」が公正な社会の実現に不可欠だと考えています。「見逃されがち」という言葉が何を意味しているかというと、ふつうに生きていると見えてこない、あるいは、そういう問題が存在することすら想定できないという問題のことです。日本の社会にはそうした問題が実はたくさんあり、そういう問題の支援をこの基金は目指してきました。
 みなさんの思いもいろいろあると思います。ただ残念ながら、この10年余りを見ても公正な社会の実現はうまくいっているのか疑問に感じられる方もいらっしゃると思います。ますます生きづらくなってきたのではないか、そういう問題に目が向きにくくなったのではないかと思っていらっしゃる方もおられるのではないでしょうか。
 この基金もそういった社会状況に応じる何等かの新しい形を模索していかなければいけないと考えてきました。今回は、これまで助成を受けてこられた団体を「つなぐこと」で、公正な社会に向けての活動をエンパワーできないかという試みを行い、その一定の成果発表の場になります。この連携ダイアローグは、そういった「つなぐこと」を理念に企画した有意義な機会だと思います。
 実はソーシャル・ジャスティス基金の基盤整備の段階から、庭野平和財団には大変お世話になってきました。とくにこの連携に関して蔭になり日向になり支援していただき、SJF運営委員会を代表し、深い感謝の意を表したいと思います。
 ご参加のみなさんが公正な社会を作っていくことに少しでも+αで貢献くださることをこの機会に確認できることを期待しながら、開催の辞とさせていただきます。

Kaida SJF

 

――課題と展望~Social Justiceに係るアドボカシー活動について~

                   クロストーク&質疑応答――

わかもののまち事務局長・土肥潤也さん ×国際子ども権利センター(C-Rights)代表理事・甲斐田万智子さん:

子ども・若者の切れ目ない連続的な参画の仕組みの構築―権利に基づいたこども庁、こども基本法を通して―

土肥さん)まず私から、事業の概要を説明させていただき、甲斐田さんから補足的にコメントいただく形で進めたいと思います。

 甲斐田さんからは兼ねがね、何か連携できればいいねとお話をいただいていて、今回このような形で助成をいただいたことをきっかけにより連携が加速していったと思っており、このような連携プロジェクトの機会をつくっていただけたことに感謝しております。

 

 子ども庁は結果的に子ども家庭庁に名前が変わってきたという経緯もございますが、いま日本の中で新しく、子どもど真ん中の政策や国づくりを進めていこうという動きがあります。これに対して、C-Rightsは長く子どもの権利に取り組んできた団体ですし、私たち「わかもののまち」というのも静岡県を中心に中高大学生世代の若者の社会参加や地域参加に取り組んできた団体であり、私も甲斐田さんも子ども家庭庁の有識者会議やヒアリングに協力していることもあり、私たちが連携をすることで何等かの子ども・若者のアドボカシーや参画、子どもの権利が実現する社会に向けて、世の中の議論をもっと活性化できるのではないかと、連続シンポジウムを企画しているのが今回のプロジェクトになります。

 私たちは「わかもののまち」という名前のとおり主に高校生以上の若者たちに対してアプローチしているのに対して、C-Rightsさんは子どもの権利――「子ども」をどの年齢までとするのかは子ども家庭庁関係者間でも議論があるところですが――に主に取り組んでいます。子ども家庭庁と名前がついているとどうしても子どもだけを主眼において、子どもから若者への連続性が足りなくなってしまうのではないかという課題意識があり、わかもののまちとC-Rightsは今回の連続シンポジウムを企画・運営しています。

 

 全部で5回のシンポジウムを企画しています。もともと似たようなフィールドで活動している団体同士だったのですが、どんなテーマで開催するかについて、C-Rightsとわかもののまちで議論を重ねてテーマを5つに設定しました。

 今、2回まで終了しました。テーマは1回目が「そもそも子ども・若者の声をなぜ聴くのか?」で、私と甲斐田さんがディスカッションしました。

 2回目は5月29日に、「子どもが直面する問題を解決するために子ども議会・子ども会議はどのようなカタチであるべきか?」というテーマで開催しました。日本全国で、子ども議会や子ども会議というものが広がっているのですが、この会議に実際に参加した子どもたち――今は大人ですが――に、どんな経験をしたか語っていただきました。川崎市子ども会議サポーターの前川友太さんと遊佐町少年議会の齋藤愛彩さんに登壇いただきました。別々の取り組みなのですが、二人の報告から共通点が見えてきたり、子どもの時に自分たちでまちに対して意見を言ったという経験が原体験になっているという話も聴くことができたりして、こうした取り組みをより広げていくことが大事だと思いました。

 今度3回目は8月28日に「子ども・若者と政策決定者の対話を意味のあるものにするためには?」というテーマで開催する予定で、申し込みを受け付け中です。山口有紗さん(小児科専門医/子どものこころ専門医)と山本晃史さん(認定NPO法人カタリバ)に登壇いただきます。山口さんが、子ども家庭庁をつくっていくにあたって、実際に子どもや若者の声を聞いた方がよいのではないかと提言したことにより、内閣官房が野田大臣と子ども・若者の対話の会を開催しまして、山口さんはその会のファシリテーターをされたので、その報告をしていただく予定です。山本さんは、学校を中心にルールメイキングのプロジェクトで校則を生徒自身が決めていくというような学校参画に関する取り組みをされていて、そのお話をいただく予定です。

 4回目は「社会にマイノリティの子ども・若者の声を反映するためにどんな仕組みが必要か?」、5回目は「子ども・若者があたりあえに参画する社会をつくろう!」をテーマとする予定で、私たちの団体のウェブサイトで広報していきます。

 

 ちょうど8月頭に、子ども家庭庁設置準備室で「子ども意見表明に関する検討委員会」が立ち上がることになり、私もそれに参画させていただいています。今まで、日本のなかで、子どもの声を聴くということが文化として根付いていなかったと思いますが、国もいよいよ検討チームをつくり実践に移していく段階になり、だいぶ時間がかかったとは思いますが、着実に、子ども・若者の声を聴いたり、子ども・若者の権利が大切にされたりする社会になってきているのではないかと思います。

 私たちが企画させていただいている5回のシンポジウムで取りまとめたことを子ども家庭庁やさまざまな自治体にアドボカシーしながら動きを加速させていきたいと考えています。

 

子どもの意見表明権はただ議論するだけでなく、その声をどんなふうに活かすかが問われる

甲斐田さん) 全5回のシンポジウムのうち実施した2回の感想から、どんな成果がみられるかお話したいと思います。

 いろいろな方が参加してくださって、やはりNPO関係者が多かったのですが、土肥さんが関わってくださったことによって地方議会の議員さんなど自治体関係者も多く参加くださいました。

 「実際にどうやって子どもの声を聴けばよいの?」と内閣官房の方からヒアリングがあり、「とにかく子どもの声を聴いてください」と訴えて、先述の今年1月の野田大臣との意見交換会に至りました。そこで土肥さんと山口有紗さんがファシリテートし、本当に子どもたちが伸び伸びと生き生きと意見を言って、野田大臣が「こんなふうに子どもから意見を聴けばいいのね、これからもこういうふうにやっていきましょう」ということになりました。子ども家庭庁の設置プロセスで「子どもの声を聴く」とはどういうことかが少し政策決定者にもわかっていただけたので、どんどん実践を広げていくことが大事だと思いました。

 1回目のシンポジウムでは、そういう実践の仕組みづくりとともに、普段の子どもの居場所で子どもがいかに意見を言えるようにするかというファシリテーションも大事だと理解されたと思います。また、今の社会が子どもにとってどれだけ不利な状況にあって、さまざまな問題に直面しているかに子ども自身が気付いて、それを変革するような参加の権利があることに気付いてほしいことが参加者に伝わったと感想から分かりました。

 どうしてもC-Rightsは18歳未満という子どもの権利条約で規定されている年齢の子どものみに目が向きがちなのですが、2回目のシンポジウムでも、わかもののまちと共同開催することによって、18歳以上の若者たちがその後どうやって子どもの参画に貢献できるかについて理解が深まったのではないかと思います。実際、私が以前関わっていたインドの児童労働に取り組むNPOも村で子ども議会をつくって、そこを卒業した若者グループがあり、その若者たちが子どもの参画、子どもの意見を聴くことに非常に重要な役割を果たしていました。日本でも、子ども参画を体験した人がまた子ども参画を支えることが大事だと思います。

 子どもの意見表明権はただ議論するだけでなく、その声をどんなふうに活かすかが問われます。遊佐町では本当に執行するところまで子どもに任せているところが重要だと思いました。遊佐町少年議会を経験した齋藤愛彩さんは「大人から『大人を困らせるぐらい意見を言っていいんだ』と言ってもらえたことが意見を言うきっかけになった」という話をしていて、本当に子どもをエンパワーしよう、子どもが必要なんだという大人たちのなかで地域づくりに参加したことが彼女の人生を変えていったのだと感じました。

 また、予算がしっかり割り当てられることが、子どもの参加の成果を目に見える形にするためにも必要だということも理解されました。

 参加方法の多様性も理解されました。子どもたちみんなの声を代表する代表性のある参加と個人的な参加があり、また、身近な事への参加と政策への参加もあり、あらゆる場での子ども・若者の参加があることも理解されました。

 キーワードとしては、「誰もが立ち寄れる開かれた場づくり」あるいは「コミュニティー」が大事だと参加者に分かっていただいたと思います。どうしても日頃から意見を言っている子どもたちがこういった意見交換の場に来やすいのですが、とくに川崎市の事例からは、ずっと黙っていた子どもが何カ月もその温かい場にいることによって、「子どもは意見を言っていいんだ」と喋れるようになる。あるいは、特別支援学級にいた子どもが喋れるようになって教頭先生が「同じ子とは思えない」と驚きの感想を述べたりしている。ですので、居場所がまち全体になっていくような、そういう子ども参画を促すような社会全体の雰囲気が重要だというのが伝わったと思います。それぞれの子ども・若者が自分のまちのことを自分事ととらえて行動していく仕組みが、それぞれの場所で大事だというのも参加者に伝わったと思います。

 遊佐町は「子どもの権利」という言葉を使っていない点は川崎市と異なるのですが、大人が子どもの意見が大事だ、子どもが必要だということで子どもたちがエンパワーされて、子どもたちがよりよいまちをつくっていることが分かりました。そのきっかけがイギリスのミドルズブラの視察でした。そこはユースカウンシルなど子どもが参画できるさまざまな仕組みが整っているまちなのです。そういった模範を見ることは大人が変わるきっかけになったのではないか。

 子どもの自分の意見が決定に影響を及ぼしていること。最初の土肥さんとのシンポジウムで土肥さんがおっしゃったことで印象的だったのが、「youth participationではなくyouth influenceが大事」ということです。つまり、参加するだけでなく意見が本当に大人や社会に影響を与えること、意思決定過程に参加するということです。遊佐町の場合、年間45万円の予算が割り当てられていて、実際にこれをつくりたい、これがほしい、という意見が本当に実現していく。それに対して、川崎市では子どもたちが熟議というほどよく議論していて、エンパワーされてしっかりした意見を言う子どもたちが多いのですが、実際に目に見える成果としては、障害者の子どもが子ども会議に参加していたのでその意見も反映されて駅にエレベーターができたということでしたが、予算がほとんど無いためになかなか目に見える形で実現したものがなく、予算が大事だということも参加者に理解されたと思います。

 もう一点気になったのが、「体罰など子どもたち全体が地域で直面している問題を解決していくような議論はしないのか」という質問に対して、「子どもたちは体罰を経験したことがないので、議論が深まらない可能性があるため、あえてファシリテーターとしては議題にしない」という回答が大人サポーターからあったのですが、それについては、声をあげられていない子どもたちがいることが考えられるので、そういう子どもたちがいかに地域にいるか、それを代表である子どもたちが気づいて話し合えるようにファシリテートしていけるかが鍵になるのではないかと思いました。実際子どもたちと話をしてみると、性的搾取の問題やいじめの問題にも関心を持っていたので、大人のファシリテーターの役割としては、押しつけはいけないけれども、子どもたちが様々な問題を考えていく力を信じることも大事なのではないかと思いました。

 

 全体的な成果としては、子どもの時に活動していた人が若者になったときの役割をしっかり考えることができました。また、議員さんが子ども参加のシステムづくりをしっかり考えてくれるようになっています。

 そして、代表性についてマイノリティの子どもたちの意見も本当に聴きとっていけるかという課題が浮き彫りになったことから、今度9月にはそれをテーマにシンポジウムを行います(星野慎二さん×田中宝紀さん)。さらに11月は、子ども・若者があたりまえに参画する社会をつくることをテーマに行います(能條桃子さん×川瀨信一さん)。

 子ども基本法に課題はあるにしても「意見表明権」という言葉が盛り込まれていますので、今までのように「知識や経験もない子どもや若者が意見を言うのはけしからん」という子ども差別の社会規範をぜひ変えて、子ども家庭庁にはたらきかけて子どもの声を聴くシステムをつくっていければと思います。

Kaida SJF

 

声をあげにくい子ども・若者の声もさまざまな子どもの居場所で聴かれることを権利として保障

明戸隆浩さん) 昨年同時期のSJF連携フォーラムでも、同じような役割を務めました。仕事としては社会学者をやっていて、と言ってもNPOや社会運動に特化した研究をしているわけではなく、多文化社会、ヘイトスピーチやレイシズムが主な専門です。そのなかでヘイトや人種差別をどうなくすかという運動にも関わったりしているので、アカデミズムと運動の両面から、テーマとしては少し違った視点でコメントする役割です。

 去年の連携フォーラムは、連携プロジェクトの話が始まるきっかけになったと思います。その際にも、若者と子どもは実際には年齢が重なったりつながったりしていても、別々に取り組まれていることが多くて、それをどうつなげるか、という話が出ました。それがどういうふうに実際につながってくるかというのが今日の最大のポイントだと思うのですが、一番印象に残ったのは、「子どもOBとしての若者」ということです。自分たちが子ども議会などを経験して、年の近い先輩みたいな形でファシリテーターとして子どもたちに関わっていく、そういう話をうかがって、具体的に連携のイメージが一つ持てました。

 次回のシンポジウムでは田中宝紀さんもお迎えして外国にルーツのある子どもについてもテーマになるということで、僕としてはやはりそうしたマイノリティの子どもたちに関心があるのですが、今日の議論の中でも、いわゆるマイノリティに限らなくても、たとえば喋れる人と喋れない人の間に差がある中で、どうやって喋れない人の意見を引き出すのかといったお話があったと思います。そうした点は、難しいけれども大事なことの一つだと思います。若者団体がもてはやされる時も、どうしても同世代で目立つ人、話せる人に注目が集まってしまう。そういう中で、そうじゃない子どもたち・若者たちの声をどう反映させるのか。そのあたり考えをお聞かせいただけますか。

土肥さん) 声が小さい子ども・若者の声をどう聴いていくかという質問と理解しました。まず大事なのは、権利として子ども・若者の声を聴いていくことだと思っています。今までだと、子ども議会や子ども会議など子どもの声を聴く手法はいろいろありますが、どちらかというと大人都合でつくられた場が多く、そういう場があること自体は意味がありますが、本来はもっと重層的にいろんな場面で、例えば学校の中、家庭の中、公園づくりなど、もっと幅広くあると思っています。そういった意味で、さまざまなレイヤーで子ども・若者の声を聴くような場をつくることを権利として保障する視点が必要だと思います。その前提を間違えると、いま既にやっている場にもっと参加してもらおうというふうになりがちですが、僕は権利として保障していくことが大事だと思います。

甲斐田さん) 私がユニセフ協会で30年位前に働いていたころ、ビデオを見せて「どう思った?」と口頭で聞いてもなかなか答えてもらえない子も感想を紙には書いてくれた。日本の子どもたちは口頭で意見を言う機会がこれまでは少なく、これから増えていくと思いますが、難しい場合はいろいろな方法で聴いていくことが必要だと思います。

 もう一つは、日本の家庭と幼児教育で子どもの意見表明権をいかに確保するかがすごく大事だと思っています。やはり家庭で「あなたはどうしたい? どっちがいい?」といつも聞かれている子どもと、一方的に「これしなさい」といつも言われる子どもとでは、社会で意見表明のしやすさが全然違ってくると思います。幼児教育でも、子どもたちが幼稚園や保育園でやりたいプログラムを計画することが当たり前の所があることが『幼児からの民主主義』という本で紹介されています。そういうふうに、幼児教育の段階で意見表明、自分たちが意見を言ってそれに基づいて計画を立てていくという教育がなされていれば、小中学校でも子どもたちは意見を言えるようになると思いますので、日本社会全体が子どもを管理するのではなく子どもの声を聴くように変わっていかなければいけないと思います。

明戸さん) なるほど、日本全体の民主主義にもかかわる問題なわけですね。そこで意見をどう出せるようにしていくか、出しにくい場合にはルートを多様化してどう出せるようにしていくか、そういう話なのだと思います。

 

 

子どもアドボカシーセンターOSAKA代表理事・奥村仁美さん × 子どもアドボカシーセンターNAGOYA事務局長・原京子さん:

子どもアドボカシーセンター ネットワーキング プロジェクト

奥村さん) 子どもアドボカシーセンターOSAKAは障害児施設を訪問することをソーシャル・ジャスティス基金の助成をいただき4~5年前から始めていた経緯があります(助成当時は一般社団法人子ども情報研究センターにおける事業)。

 国では児童養護施設の子どもの声を聴こうという動きがあり、その動きに乗り、児童養護施設を訪ねていたのですが、その動きから置き去りにされる障害児の声を聴くことの必要性も感じてモヤモヤしていました。そのような時に、全ての子どもの声を聴こうと全ての子どものアドボカシーについて活動されている名古屋のみなさんに出会い、名古屋でも子どもアドボカシーセンターNAGOYAを立ち上げられて心強いものを感じました。声を聴いてほしい子どもたちはあちこちにいるのに、国の動きに振られて児童養護施設訪問だけで終わりたくないという思いもありました。

 そのうちにあちこちで子どもアドボカシーセンターが立ち上がってきて、みなさんがどんなことをしているのか、どんな人が何を担っているのか、どういう子どもアドボカシーを広げていて、子どもの声を聴いて社会にどう反映させていくのかを、しっかり見て進まないと子どもに申し訳ないことになってしまうと感じました。自分たちだけで考えているより、まず子どもアドボカシーセンターNAGOYAと連携していただいて、全国的に広げていくことを考えたいと思っています。

 連携する目的は、どんな人たちが子どもアドボカシーを担っていけばよいかが一番気になるので、まず、人の養成です。何を学んで、どういうふうに活動していくのか。ここを原さんがしっかり担当してくださっています。

 

さん) 子どもアドボカシーをする人を「子どもアドボケイト」というのですが、その人たちがどういう知識やスキルを身に着けて子どもたちと出会っていくのかを考えた時、やはりきちんとベースとなるものが無いといけないと考えました。そこで、奥村さんや堀正嗣さんと一緒に、どういう内容であれば子どもアドボケイトの質を担保できるかを考えて養成講座プログラムを開発しました。そのプログラムの実施を大阪からスタートしました。

 一番大事だと思うのは、子どもの権利をきちんと理解していること。大人は「子どものためによかれ」と勝手に思ったり、「子どものくせ」にという言葉があるように子ども差別をしたりしがちで、自分たちもそういう大人の中で育ってきたのでなかなか抜け出せないですが、子どもアドボケイトは子どもの権利を理解して、それを行動や言葉でもできる人を目指したいと考えました。それが養成講座という名前になって、基礎講座、実践講座と段階を踏んで学ぶようにつくりました。

 今、その養成講座をやりたいという子どもアドボカシーセンターが増えています。この連携プロジェクトで結びついた子どもアドボカシーセンターが当初6つありましたが、その後にもつくられて、今は12程の子どもアドボカシーセンターの役割を果たしている団体とネットワークができるようになりました。そのうちの10団体が養成講座を自分たちもやっていこうと次々と開催の準備を進めています。

 去年から始まったばかりの養成講座ですが、すでに基礎講座は450人位の方たちが受講していて、「今まで子どもの権利など考えたことが無かった」という人たちもいましたが、「アドボカシーは子どもの権利の実現が基本にあるんだ。そのなかで意見表明権を保障していくんだ」ということを共通点にしています。

 

奥村さん) そのようにたくさんの団体で養成講座を開こう、子どもアドボケイトを育てていこう、自分たちも子どもアドボカシーセンターとして運営していこうと立ち上がる動きがありました。

 そういうセンターを私たちNAGOYAとOSAKAが中心となってつないでいきたいというのがこの連携プロジェクトの大きな目的でもありますので、まずそれらのたくさんのアドボカシーセンターがオンラインで集まる機会を持ちました。それぞれのセンターの活動紹介や、困っていることなどを出し合いました。そこから出てきたのは、ありがちな資金面のことやチーム作りのこともありましたが、やはり子どもアドボケイトは独立した立場で子どもの声を聴く人なのでセンター自身もどうやって独立を保っていくかが大きな議論となりました。

 そこで「子どもアドボカシーセンターフォーラム2022」を大阪とZoomの両方で開催し、各団体の取り組んでいることなどを出し合いました。資金面のことや、行政との協働への考え方も話題になりました。独立性を重視して行政からは絶対にお金を受け取らない所もあれば、運営していくために協働しながら自分たちの思いを出していくという所もありました。

 

さん) 行政からお金をいただいたとしても、やはりアドボケイトの一つの大きな柱は独立性なので、あくまで独立性を保つ。NAGOYAは子ども条例に関する委託事業を受けましたが、ただやるだけではなく、こちらからの意見も報告書に書かせてもらうことを意識してやっています。10以上の子どもアドボカシーセンターがあると、そのあたりの意識の差はあると感じていて、そこをどうしていくか奥村さんと考えていきたいと思っています。

 

奥村さん) それぞれのセンターの意識の違いや、そこの行政のあり方の違いもあります。お金をもらわないようにしているのではなく、お金を出してくれないというところもあると後から聞きました。ネットワークを組んでいろいろな話を聞けて、たとえ行政と一緒にやっていても自分たちの思いはしっかり反映させているという話も聞き、刺激を受け、今後の私たちの活動に活かしていけると思っています。オンラインや対面で情報交換をしてきて、頻繁にできたらいいなと感じています。

 

独立した立場で子どもの声を聴くアドボケイトの養成を担うアドボカシーセンター 連携して法改正に意見

 いま、「子どもの声を聴く」というのは大きな動きのなかにあります。先ほども子ども家庭庁や子ども基本法のことが出てきましたが、児童福祉法の改正において「子どもの意見表明を受けとめる」ことが制度化される動きのなかで私たちの連携プロジェクトも進んできました。

 

さん) 児童福祉法の改正がちょうど子ども家庭庁や子ども基本法について進展する動きとともに国会で審議されていました。その改正案では「意見表明等支援事業」と表現されていて、いわゆるアドボケイト制度だと思いますが、それがアドボケイトの基本的な考えからずれているのではないかと強く感じていました。私たちはアドボカシーに取り組む団体なので、おかしいと思うところは国に言っていきましょうということで、3つの視点で意見書をつくり、10のアドボカシーセンターと一緒に国に意見書を出しました。

 この3つの視点は、まず、「子どもの意見意向の把握」とは大人の都合で聴かれることではなく、子どもの意見表明そのものを保障していく視点で書いてほしいということ。それから、子どもの意見を聴くといっても、子どもアドボケイトの専門性――子どもの側に立って、子どもの声をマイクとなって支援していく――を明記して誰でもやれる制度にはしてほしくないということ。そして、いろいろな機関の言いなりにならないように、独立性を明確に位置付けてほしいということです。これらの視点を意見書に書き、内閣総理大臣や、厚生労働大臣、参議院・衆議院議長あてに10の団体と一緒に出しました。

 

奥村さん) 私も一団体では意見書を出すところまでいかなかったかもしれないですし、一個人ではもっと小さな声だったかもしれませんが、まずNAGOYAとの連携があり、その原さんが意見書を出しましょうよと提案をしてくれ、さらにこの連携プロジェクトをきっかけにつながった団体は声をかけやすくオンラインで集まってもいて皆さんの思いも分かっていたので、重みのある言葉を力強く伝えられたと思っています。

 連携から始まったネットワークというのが、法改正に伴う動きのあるなかで、センターを立ち上げていろいろ悩みを抱えている時期でもあり、必要性が高まっていて上手くつながっていると思います。これからかなと思います。

 子どもアドボケイト養成講座の中身をしっかり検討していくためにも、「子どもアドボカシー学会」がつくられることになりました。その設立記念研究大会を8月21日に行う予定で、語り合いたいと思っています。今までの課題はたくさんありますが、つながって未来を目指していきたいなと計画しています。

 

さん) とくにOSAKAが児童養護施設を訪問することを先駆的に実践してこられたことを私たちも倣ってきました。いま国の制度もあって、全国のアドボカシーセンターで児童相談所をアドボケイトが訪問するという動きが徐々に広がりつつあります。一つひとつに悩ましいことがありますが、アドボカシーというのはチームとして動きます。子どもの力を信じて話を聴き、自分で声があげられるようサポートしたり、時には代わって声をあげたりしています。

 アドボケイト制度ができてよかったと思えるような社会になれるといいなと思います。社会的養護の子どもたちだけでなく、全ての子どものアドボカシーという時に、子どもたちがいる場所に出かけていくことがすごく必要で、そういうところで子どもたちは自然に声をあげてくれると実感していますので、そういうことも考えながら連携してやっていけたらと思っています。

Kaida SJF

 

明戸隆浩さん) こちらも去年からお話を伺っていて、1年は短いようで長いようで、ずいぶん動きがいろいろあったのだなと思いました。1つ目はネットワークの広がりで、大阪から名古屋、そして今は12か所の子どもアドボカシーの拠点が加わっている。養成講座の参加者も450人位に広がっている。また、拠点ごとにまちのなかでどのようにネットワークが広がっていくのか、ということもあると思います。そこでお聞きしたいのですが、具体的にどういう感じで12か所がつながっていったのか、また拠点ごとにどんな層が子どもアドボケイトに興味をもって集まってきたのでしょうか。

奥村さん) もともと基盤があったところもありますが、アドボカシーセンターとして独立して立ち上がってきたところは私たちより後からの所が多く、南は九州から北は宮城まで広がっています。OSAKAは施設訪問の実績があるので、「訪問するにはどうしたらいいですか?」とか「そこにはどんな団体が必要ですか?」とか質問をくださって、そこから「アドボカシーセンターがあるといいですよ」と立ち上げの支援にネットワークで関わってきた経緯は大きいです。

 もう一つのご質問について、子どもアドボカシーに興味のある方は、子どもと接している方は以外と少ないと感じています。最近たくさんの方が講座を受けていらっしゃって、保育士さんや子育て支援をしている方もいますが、子どもと接したことの無い方も同じ位いらして「できるかしら、でも子どもの声を聴いてみたいんです」という方が多くて、年齢層も広く学生の方から70代まで。

明戸さん) 男女でいうと女性の方が多いですか。

奥村さん) そうですね。でも男性もけっこう多いです。

さん) NAGOYAは、伊勢志摩サミットの時に市民で行ったサミットの子ども分科会に参加した団体の人たちとつくった組織なので、幅広い人がいます。また受講の特徴として、虐待事件があって子どもの声が軽視されたという記事などがあると一気に問い合わせが入りやすいです。問題意識をもって、この子どもを取り巻く社会を何とかしたいと思っている方が、養成講座のことを知って申し込んできたりします。最初のころは50人位来ればいいかなと思っていると80人位来たりしました。何か社会で子どものことがやりとりされると、関心を持ってくださっている方、弁護士さんもいれば、学校の先生もいれば、保育士さんも看護師さんも、問題意識を持っているいろんな方が参加してくださる傾向があると思います。

 

明戸さん) そうやっていろんな人が集まってきて、かつ拠点が増えてくると、先ほど意見書の提出の話がありましたが、何か意見をまとめるとなると大変なのではないかと思います。その合意形成の工夫は何かありますか。

さん) 一般市民だと意見書をつくるのは難しいので、得意分野である弁護士さんや研究者と一緒に作って、各アドボカシーセンターに意見をうかがって、各センターは理事会で協議して賛同する所が名前を連ねたという流れがあります。

明戸さん) では今回のことでは意見が割れるということは無くて。

さん) でも、賛同はできにくいというセンターもありましたので。

明戸さん) オンラインで会議ができるようになっているというのはコロナ以降の特徴だと思いますが、それは大きいのでしょうか。実際に集まるとなったら、地域が分散している場合、ハードルが高いですよね。

さん) そうですね。オンラインが当たり前のようになり、毎日オンラインみたいな状態です。

 今度の学会はオンラインと現地で、ハイブリッドで行います。

 

 

しあわせなみだ理事長・中野宏美さん × 性暴力禁止法をつくろうネットワーク共同代表・周藤由美子さん:

「刑法Updateプロジェクト」

中野さん) 私たち「しあわせなみだ」は3団体と連携しました。今日はその中で「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」の周藤さんに出演いただきます。

 私たちの連携事業は6月までで終わっており、3回の院内集会を「刑法性犯罪をUpdate!」と題して開催いたしました。第1回は「職業的地位に乗じた性犯罪」について、連携団体の認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウに、第2回は「関係性につけ込む性犯罪」について、連携団体のNPO法人全国女性シェルターネットに、そして第3回は「同意を求めない性犯罪」について議論し、今日出演いただいております周藤さんにご登壇いただきました。

 主な成果としては、国会議員14名と省庁関係者(法務省、厚生労働省、文部科学省、内閣府、警察庁)の参加をいただけたこと。そして、インターネットメディア「弁護士ドットコム」への掲載(「『夫の性的要求を断ると暴言』『AVまがいの性関係』-夫婦間の性的DV、刑事事件化に壁―」)。さらに、この院内集会にご参加いただいた議員が参議院法務委員会で「障害のある人の性被害を防止するための法改正」について質問、同じく衆議院議員が「障がいを有する子・人への性暴力の根絶に関する質問主意書」を提出しました。

 ここで周藤さんとのトークセッションに移りたいと思います。周藤さんはフェミニストカウンセラーとして長年にわたり性暴力被害者の心理的ケアや裁判での意見書作成などアドボケイト活動を行っていらっしゃいます。

 

周藤さん) 性暴力禁止法をつくろうネットワークは2008年から活動をしており、さまざまな立場から性暴力に関する包括的な法整備を求めて活動をしています。

 「性暴力禁止法」ができたらよいですが、いきなりは難しいだろうということで、例えばいま審議されております刑法の性犯罪について改正をしてほしいということですとか、性暴力被害者支援法をつくってほしいということなど、さまざまな方面から法整備を求めて活動しております。

中野さん) 今回連携した、感想や良かった点などお聞かせください。

 

法律が変わって一番影響を受ける当事者の声を反映して本当の法改正に

周藤さん) コロナの間ずっとオンラインでのイベントが多かった中で、今回は院内集会として議員会館で開催しました。今あえてリアルで開催されたことにすごく意味があったと思います。私は京都に住んでいるのですが本当に2年ぶりぐらいで東京に行きまして、実際に省庁の方とか議員さん、メディアの方と直接お話ができました。先ほど紹介されましたように複数の団体、それぞれの立場でさまざまな性暴力に関するテーマをもって関わっている団体が参加して実施できました。

 この3回目の「同意を求めない性犯罪」をテーマとした会では、私と大阪大学の法学研究者・島岡さんとでお話をする予定だったのですが、直前になって、刑法改正の議論に当事者の声がきちんと届いているのだろうかという危機感が高まり、実父からの性虐待のサバイバーで解離性同一性障害(DID)の当事者の方に参加していただくことになりました。当事者の声を直接、議員さんや省庁の方に届けることができたのが本当に良かったなと思っています。

中野さん) 第1回でも教員からの性暴力を経験された方にご登壇いただき「職業的地位に乗じた性犯罪」についてお話いただくことができました。

 ここに参加されているみなさんへのメッセージをよろしくお願いします。

周藤さん) その刑法性犯罪は、2017年に旧強姦罪が強制性交等罪に名前が変わる等、110年ぶりに改正されて画期的なことだと期待されたのですが、実際のところは「同意のない性行為が犯罪」となるのが当然のはずなのにそういうふうになっていない。根本的な問題である暴行脅迫要件の見直し等が実現されなかった。その時点から再度見直し、再改正が必要だと、しあわせなみださん等さまざまな関係団体と一緒に要望活動をしてきました。

 現在は、実際に条文をどうするのかというところで、法制審議会で議論されていて、それが8月5日に第9回が行われたばかりです。議事録が一応公開されているので見るのですが、法律関係の言葉はやはり難しくて素人は分からないかもしれない。

 でもこの法律が変わって一番影響を受ける当事者の声を反映しないと、私たちが求める本当の改正にならない。難しいとは思いますが、今、こういうことが議論されていることにぜひ関心を持っていただきたいと思います。こういう被害にあって警察に行ったけれども被害届が受理されなかったとか、起訴されなかったとか、無罪判決になってしまったとかがあったら、「これっておかしいんじゃないの?」「今議論されている刑法改正案で本当にそれがきちんと処罰されるようになるの?」というところに、やはり市民がどれだけ関心を持っていくかが法律を実際に変えていくことにつながっていくと思います。

Kaida SJF

 

被害当事者の語り 強要される違和感を忘れずに その声が反映されるところまで支援する責任

明戸隆浩さん) 必ずしも専門でない人が関心をもって見ていくことがこういう問題は大事だと思うので、特にどのあたりのポイントを注意して見ていったらよいか、後で教えていただければと思います。

 その上で、このテーマに限らないもう少し一般的な質問を先にしたいのですが、この問題は院内集会をはじめとするいわゆるロビイング、つまり国会議員や政治家に意見を届けて実際に法律を変えていくことが大事で、これはヘイトスピーチ等で僕らがやっていることと重なるのですが、先ほどの子どもアドボカシーの話と少し違うのは、全国ネットワークがオンラインで意見交換がしやすくなったという部分がある一方で、やはりロビイングは現場でないとできないということです。必ずしも言葉で上手く説明できないところがあるのですが、その感覚自体はとてもよくわかります。久々に周藤さんも東京に来られてロビイングされたというお話もありましたが、その時にどういう点が、現場が重要になるのか。

 もう一つ、被害当事者の語りというのが、言い方は難しいですが、やはり「効果的」な場面というのがあって、それは当然、被害当事者の方も効果があるということを分かって話してくれたりするのですが、それが一部の人に負担が集まってしまったり、話してよいとは言ったものの実はそれが負担になったりする。こうした点は、レイシズムやヘイトスピーチの問題とも共通するのかなと思いました。

 現場でコミュニケーションすることの必要性ということと、当事者の声を聴くことの両面性について、お伺いできればと思います。

 

周藤さん) 仰った通りで、正に当事者の声を、特に法律を変えるキーパーソンである議員さん、それから実際に法律の条文をつくる省庁の方に届けるインパクトは本当に大きいと思うのです。一緒に行ってお話していただいた当事者の方は関東の方ではなく、関東の方であればすぐに議員や省庁の方と面談をしやすいけれども、関東ではないとなかなか声を届けにくい。やはり声を届けたいと思っていらっしゃる方が全国でたくさんおられるなかでどうしたらよいかと考えていたところで、この機会が有難かったです。

 もちろん、お話されることで負担に思われることはあっても、その声がちゃんと届いた、そして議員さんや省庁が当事者の声が届いて、その声を反映して法律がこんなふうに変わった、という手ごたえがあれば、「あんなに大変だったけれども、自分が話したことで意味があった」とか、ある意味、自分が「生きる意味」を感じられることにもつながるので、単に話したらいいよというだけでなく、それが反映されるところまでが周りの者の責任なのかなと思います。

 

中野さん) リアルな開催の意義ですが、国会議員は小さなNPOのイベントに参加することはほとんどないです。国会議員や省庁の方に来てもらうことを考えると、議員会館でリアルに開催することが極めて重要です。誰にアプローチするのかを踏まえて、そこに一番届く形で開催することがとても大事だと思っています。

 刑法性犯罪改正で知っておいてほしいポイントについては、連携した4団体は明確な課題をもって取り組んでいます。今日ご登壇いただいた周藤さんの性暴力禁止法をつくろうネットワークは不同意性交を犯罪にすることをポイントにされています。ヒューマンライツ・ナウは性的強要、とくにAV出演強要など職業的に望まない性的搾取を受けている人たちに関する問題に取り組んでいます。全国女性シェルターネットはいわゆる配偶者間の強姦、パートナー間でもレイプは起こるのだということで活動をしています。さらに私たち、しあわせなみだは被害者に障害がある場合の、障害を知りうる立場に乗じた性犯罪を創設することで活動をしています。

 最後に、当事者の声は非常に大きいです。当事者だから変えられるところはあると思います。ただ私がいつも忘れてはいけないと思うのは、当事者任せにしてはいけないということです。他の犯罪を考えた時に、例えば傷害事件に遭った人や盗難に遭った人は「犯罪被害を社会に告白しましょう。自分の被害経験を明らかにして権利を訴えましょう」などとは言われないわけです。では、どうして性犯罪の被害者だけそう言われて告白をしなければいけないのか。この違和感を忘れてはいけないと思うのです。その「当事者の声を」という中に、性犯罪に対する興味関心であったり、被害者である女性に求める被害者像、まるでヒロインのように扱ったりする傾向があることを決して見逃してはいけないと思うのです。

 当事者にしか変えられないこともあるけれども、当事者以外の人がやるべきこともあって、そこにきちんと取り組んでいく責任、とくに連携した4団体は主に支援を手掛ける団体でもあるので、そこを忘れないで活動していきたいと思っています。

 

 

監獄人権センター相談員・塩田祐子さん × ラジオフチューズ放送局長兼理事・大山一行さん:

「刑務所所在地のFM局で受刑者の社会復帰をサポートするラジオ番組を放送する」

塩田さん) このプロジェクト名にある刑務所所在地というと東京では府中刑務所がある府中市になります。そこのFM局さんにお声がけして、刑務所に関するラジオ番組を放送するプロジェクトです。

 なぜこれをやりたいと思ったかというと、先ほどから「当事者の声」という話題が出ていますが、私共の活動でいうと当事者は刑務所にいる人、もしくは刑務所を出所した人であり、そういう方がどんな思いで生きてこられたのか、これから自分の人生をどうしたいと考えているのか、30分の番組で、ご本人のお声や語り口で自由にお話してもらう番組があればいいなと思ったからです。今の時代なので、YouTubeとかクラブハウスでも可能ではあるのですが、これを公共の電波で放送した人はいないだろうと。誰もやっていないことをやらないと面白くないので、このプロジェクトを発案させていただきました。

 コミュニティーFMは全国にたくさんあるのですが、ラジオフチューズさんは特に、「表現の自由」にこだわって運営されているFM局です。私共のようなテーマの番組だと、局によっては「この内容は放送できない」と言われることもあると聞いているのですが、ラジオフチューズさんは普段から多様な番組を放送されているので、是非やってみましょうと言ってくださり、始めました。

 全6回で、4月から6月まで毎回違うテーマで放送しました。1回目は「覚せい剤を買おうとしたら、いきなり7つの罪で起訴された人~転落からの再生、社会復帰まで~」。

 2回目は「受刑者の家族に聞く」。

 3回目は「少年院と刑務所はどう違う?~少年院2回、刑務所2回行った人に聞いてみた~」。

 4回目は「刑務所からの社会復帰、お困りごとを弁護士に相談してみた」。

 5回目は「犯罪加害者であるアナタへ、犯罪被害者である私からのメッセージ」で、被害者遺族の方に出ていただきました。

 最終回は「刑務所を出所した人が住みたい街に住む。地域の人になっていく」で、ラジオフチューズでも番組を持っておられる府中市市議会議員の結城亮さんに出演していただいて、まちづくりに関連したお話をしていただきました。

 番組の中から2本だけ聴いていただきたいと思います。(※覚醒剤がないと生活ができない状況になったことを詳しくお聞きした第1回、犯罪被害者のご遺族の方、「過失致死」事件で亡くなった男性の弟さんにご出演いただいた第5回から抜粋して共有されました。)

 この第5回では、ご遺族は家族のなかでも気持ちにむらがあって、お母さんが「事件の事は忘れるしかない」と言った事がすごく頭に来たという話が出てきました。この方(弟)は事件の被害者遺族になったことをきっかけに自分の人生まで狂ってしまって、最後は自分も刑務所に行ってしまいます。そのお話をしていただきました。

 このような雰囲気で、当事者の声をお届けしたのが「刑務所ラジオ」です。

 

 放送を始めた当初は予想していなかったのですが、新聞11紙、ラジオ3番組から取材をしていただいて、ずいぶん広く取り上げていただきました。

 今、再放送をやっていまして8月8日などにも放送があります。放送エリア外の方でも無料アプリ、リスラジでお聴きいただけます。

  

少数者の意見が出るような番組を地域住民と一緒につくる放送局で監獄人権の当事者が語る「刑務所ラジオ」 

大山さん) 全国にいまコミュニティー放送局というのが330前後あります。一般的に大きな放送局は県域放送局で都道府県を放送エリアにしているのですが、コミュニティー放送局というのは市町村がエリアですので出力が大変弱い。そのために良く言えば全国にたくさんつくられているのですが、ほとんどが株式会社で基本的には大手放送局のミニ版のようになっていると思います。

 私共が京都で2003年に全国で初めてNPOによるコミュニティー放送局をつくりました。このモデルで府中もつくっているのですが、そもそも出力エリアの小さなコミュニティー放送局が一般の放送局と同じように運営をしても成り立つはずがないということを前提に、地域の市民、プロではないふつうの人たちと一緒に番組制作をしていくという考え方に切り替えてやっています。今ではそういう局が全国に20数局あるかと思います。その中身は地域ごとにさまざまです。

 その中で京都や府中でつくったコミュニティー放送局は、少数者の意見が出るような番組編成をしていこうということでやっている「市民メディア」です。一方的に番組を制作されて視聴者はメディアを受け取るだけというのが放送局の長年の常識だったのですが、この小さなラジオ局だからこそ様々な声を拾って番組化していけるのではないかと続けています。ですが一般化はしにくいというのが現状です。

 

寺中誠さん/SJF企画委員・総合司会) ラジオフチューズさんがこの刑務所ラジオに乗り出したのは、どういう動機があったのかご説明いただけたら有難いです。

大山さん) 府中にこのラジオ局が開局したのは今から3年程前なのです。府中に府中刑務所があるということ、例えば3億円事件もあったということ、そうしたことからこういった刑務所がらみの番組をできればとは思っていましたけれども、具体的にどこから手をつければよいか分からなかったところに監獄人権センターさんからお話があって、是非ということで協働することにいたしました。

Kaida SJF

 

生放送番組の中で刑務所に関する政策提言につながる

明戸隆浩さん) このテーマは去年の連携フォーラムの時から、テーマだけで人を惹きつけるところがありますよね。先ほど取材がたくさんあったというお話がありましたけれども、そうだろうなという感じがします。ただ正直に言うと、具体的にどういう番組になるかまではイメージできていなかったので、いま実際に2本聴かせていただいて、なるほどこれはラジオだから成り立つんだなと思いました。

 一人目の方は覚醒剤をやっていて云々という話で、たとえば顔出ししてYouTubeで話すのは難しいかもしれない。ラジオというフォーマットに合っているというか、どこか淡々と話されているところ含めて、聞いていて不思議な感覚に陥りました。

 二人目の方は、被害に遭った方の家族の語り。これもこういう形だから語れることなのかなと思いました。僕は社会学をやっていますが、社会学のある種の聴き取り、インタビューみたいなものに近い雰囲気があって、これが届くべき人にちゃんと届くことは大事だなと思って聴いていました。

 とはいえ反応というのは気になるところで、ネガティブな反応はあったりしたのでしょうか。例えばネット等ですと、こんなのを放送していいのかみたいな反応や、覚醒剤をむしろ促進する効果があるのではないかとか書かれることが考えられなくはない。また逆に、この番組によって社会に対して何かポジティブな変化や影響があったかについても、お聞きしたいと思います。

 

塩田さん) 実は感想というのがほとんど来なかったです。たぶんこの番組を聴いて「何か感想を言ってください」と言われても難しかったのではないでしょうか。いいも悪いも含めて。

 覚醒剤の方の回では最後に、ご本人がそこから立ち直って、今は自分と同じような悩みを抱えている方をサポートしたいというお話で終わっているのです。犯罪自慢みたいにならないように気を付けて制作したので、苦情は来なかったです。

 変化としては、最終回に府中市市議にお話しいただいたのですが、現在、どの自治体でも「再犯防止推進計画」の立案、運用が始まっています。私共の番組にご出演いただいたことをきっかけに、その市議の方が刑務所や再犯防止について、9月の市議会で質問しますからとおっしゃって、生放送中にいきなり政策提言みたいなことをやることが決まりました。

明戸さん) 番組の中で?

塩田さん) そうですね。先日もその市議の方とお会いして、8月末に質問の日があり、質問内容は事前に作って出さないといけないので、その素地になるような情報をこちらからお伝えした機会がございました。ちょっとした政策提言の場につながったのかなと考えています。

 

明戸さん) 大山さんからは反響や影響が見えたことはありますか。

大山さん) ラジオフチューズには「刑務所ラジオ」と同じぐらい内容がけっこう過激な番組がありまして、ゲイの若者たちが日常を語る番組だったり、助産師が性教育や性愛についてゲストを招いて語っていたり、小学校4年生から中学生がやっている子ども放送――これも内容には私たちは関わらないで子どもたちがやりたいようにやってもらっているわけですが――があったり。そういったところで、ラジオフチューズの番組表に「刑務所ラジオ」とあってもちょっと目を引く程度という感じはあります。

 刑務所がらみの番組をラジオでやっているのは、かつて札幌市の三角山放送局というところもやりましたし。ただ、受刑者が出てということはございませんでした。私もこの「刑務所ラジオ」が始まるまでは、どうなるのだろうという思いでした。やはり出演者の魅力がすごく番組を高めた、また次も聴きたいと思わせる番組になったと思っています。

 

明戸さん) 細かいことですが、弁護士の方がハンドルネーム的なDJなんとかで出ていたのは、番組の設定でそうするものなのですか。

塩田さん) こちらからお願いしたのではなく、弁護士さんたち自身がニックネームで出たいと。菅原直美さんという弁護士さんがDJなおみんという名前で出演したのですが、弁護士がいきなり出てくるとすごく難しい話をするのではないかと聴く方が思ってしまうので、楽しく雑談しているんですよと表現するために、この名前で出たいと弁護士さんからのご提案でそうなりました。

明戸さん) もしかするとご本人たちにとっては、普段の法廷等でのモードからの切り替えみたいな効果もあるのかもしれませんね。

塩田さん) 出ていただいた3人とも普段からいろいろな社会活動をされているので、弁護士だからといって難しい話ばかりする人と見られないように注意してくださったのだと思います。

 

 

――全体ダイアローグ――

寺中誠さん) いろいろな連携プロジェクトをご紹介いただいて、いくつか共通する部分、それから特殊な部分――ただ特殊というより、本当は共通するけれどもこの場には出てこなかった話――もあるかなと思います。とくに子どもと若者の境目の話あたりは、どの連携プロジェクトにも関係してきているのではないかなと感じます。それから、アドボカシーとの絡みに関して明戸さんからご指摘がありましたが、全体を通してどんな感じを今お持ちなのか教えていただけますか。 

 

顔の見える範囲で信頼関係をどう構築して社会を変えていくか

明戸隆浩さん) テーマに関して、若者・子どもあたりは確かに共通する部分がありそうですが、実際にはそれを超えて多岐にわたっているので、ここではむしろ一段抽象的なところから考えたいと思います。今日聴きながら基本的に思っていたことは、運動の届け先や影響を及ぼしたい先としてのコミュニティーやネットワークといったものの大きさ、規模感のことです。

 大きく言うとおそらく、最初の子ども家庭庁の話と3番目の性暴力の話はかなりロビイング的な、実際に政治との折衝が必要な部分で、子どもアドボカシーと刑務所ラジオはもう少し地域拠点のコミュニティー的な部分が強いとは思います。ただ前者二つに関しても、とくに性暴力のロビイングなどでは、顔の見える範囲のつながりで社会を動かしていく点では同じところがある。つまり、日本社会全体を動かすからと言って抽象的なメディア戦略みたいな話になるのではなく、やはり信頼できる人との関係をどうつくって社会をどう変えていくのかというところが重要なのかなと思って聴いていました。

 実際に個別に抱えているテーマとは別に、運動をどう進めていくかというなかで、顔の見える範囲で信頼関係をどういうふうに構築していくのかという点が、4つのプロジェクトで違いつつかなり共通する形で出てきた点だと思いました。

 

寺中さん) しあわせなみださんや性暴力禁止法をつくろうネットワークさんたちで考えられている刑法改正の問題も実際にはいろんな場面を想定して、それを一つひとつ押さえていっておられる。それぞれに共感してくれるようなコンタクトポイントはつくらないといけないだろうから、ロビイングの設計自体がかなり大変だっただろうという気がします。

 その点は他の3つのプロジェクトでも同じような難しさをお持ちだったのではないかと思います。子ども・若者が政策決定に参加していく場面でもいろいろなバリエーションがあったと思います。その一つひとつに関してアプローチする先を変えていったと思いますが、どんな工夫をされましたか。

土肥潤也さん) 子どもの意見反映、子どもの声を聴いていくということに関しては、かなり多くの省庁にまたがって取り組まなければいけない問題だと感じています。子ども家庭庁が内閣府に置かれるというのは、多部署を分野横断的に束ねていけるという思いもありつつ、一方で今までの議論のなかでは文科省直下に置くべきだという論調もありました。つまり学校の中というのもあれば、家庭の中というのもありますし、ロビイングで調整しなければならない先が多い。正直そこは僕らも頭を悩ましているところです。

 僕らは子ども・若者の意見表明権ということを主張しているわけですが、学校教育のなかでは教育として取り組まれていく部分もあり、子ども・若者を主体というよりは教える対象とか受け身の存在として扱うことも多いので、学校や行政に対しての働きかけはこれから重要になってくると思っています。甲斐田さんにも意見を伺いたいです。

甲斐田万智子さん) 子ども家庭庁設置法案に「他省の所掌にあるものは除外される」という規定が入った。つまり、文科省に関しては文科省がやることであって、子ども家庭庁は司令塔という名前がついたのですが、司令塔の役割を果たせないと読み取れる文言が入った。つまり、子どもにとって学校の中の問題はすごく大きな問題であるにもかかわらず除外されてしまうのは非常に懸念されるということで、私たちも「広げよう子どもの権利条約キャンペーン」の声明でも指摘しているところです。

 付帯決議等に文科省と子ども家庭庁が連携していくということ等が入っているので、まずはそれに基づいて、文科省も子どもは権利の主体であるということをきちんと踏まえて、子どもの権利に関する研修ができるような人材を育て、学校や教育学部で子どもは権利の主体ということを教員が教えられるような研修をお金と人材を充ててやっていかなければいけないと思います。

 2点目は、子どもの権利と義務はセットであるという文部省事務次官の通達が前にあったために、学校の先生のなかで子どもには権利を教える前に義務を教えなければいけないという誤解が、子どもの権利条約が批准されてからずっと30年近く続いているので、その通達を塗り替える作業をしなければいけない。子どもの権利と義務は子どもにセットであるのではなく、義務は大人側にあるのです。教員が今でもその誤解に縛られているところを変えていかなければならないと思います。

 

「家庭」のない子どもや「家庭」との問題を抱えている子どもは「子ども家庭庁」が自分の権利を守ってくれると安心できるか

寺中さん) 子ども家庭庁については、子どもの学校教育は文科省がやるとすると、家庭の話はどこがやるのだろう、厚生労働省かなといったいろいろな論点が出てくる。

 では、家庭のない子どもはどうなるのか。家庭との問題を抱えている子どもはどうなるのか。それこそ、しあわせなみださんや子どもアドボカシーセンターがこれまで関わってきている様々な問題がここに結集してくると思うのです。さらには、おそらくはそういう問題を抱えている人たちが最終的に行き着く先の刑務所という問題もある。その意味では、今回の連携プロジェクトのみなさんが取り組んでいる問題につながっていくのかなと思います。このあたり、他の団体の方はどういうふうにとらえられたでしょうか。

 子ども家庭庁の実際のところをこれからどう変えていくかというところが、目の前の課題だと思います。それぞれ考えるところを教えていただければと思います。

甲斐田さん) 「子ども家庭庁」という名前の付け方について一言だけ。いま、統一教会との関係が取りざたされて多く報道されていますが、なぜ「家庭」がついたかをこれを機会に真相究明して世論を味方につけて、「子ども庁」と名前を変えられないとしても、やはり子ども真ん中の施策を行っていくことを、私たち市民社会が働きかけていくことが大事だと思います。

奥村仁美さん) 私は社会的養護の子どもを訪問していますので、子どもと家庭というのはすごく引っかかる部分です。里親推進とも言われていますが、家庭でしんどくなった子どもをまた家庭に戻して何が起こるんだろう。そもそも、家庭から何の理由もなく外された子どもたちがいるところに声を聴きに行っていて、その子どもたちが子ども家庭庁の動きの背景を知ったらどう思うんだろう。私たちが聴き得た子どもの声を届けていかなければいけないと思います。

原京子さん) 全ての子どもが行く学校というところで子どもたちに「意見を言っていいんだよ」とか「声をあげていいんだよ」と言っても、その声を受け止めるものが無かったら何もならないのではないか。一時保護所にいる子どもは学校に行けないという問題がありますので、その子どもたちの声も聴きつつ、全ての子どもたちが学校に行くわけなので、そこで意見表明権ができていないというところは、どこから解決していけばいいのか。そんな声がアドボケイトの集まりがあると必ずあります。

 子どもアドボカシーの制度が厚労省のほうで始まっていくので、そこで実践しながら他にも広げていくことが必要ではないかと思います。私自身は居場所や児童館を長らくやっていて、児童福祉法に「子どもの権利条約に基づいて」という文言が入ったところで児童館のガイドラインが変わって、「もっと子どもの権利を踏まえた子どもとの関わり」とか「子どもの意見を児童館の活動に活かしていく」というような文言がガイドラインに入ったことで徐々に変わり始めました。

 まずは国の仕組みのなかにガイドラインのようなものができて、実際に子どものいる現場に行きつつ、そこで子どもの権利が保障されると子どもがとても行きやすいんだということを発信しながら、文科省にもどんどん波及していければいいなと思っているのですが、その壁は高いと感じています。

寺中さん) 難しいのは、文科省や厚労省といった中央省庁だけでなく、実際に児童福祉法等に関して動いているのは都道府県なので、その担当者がきちんと理解していることが重要なポイントだと思います。

周藤由美子さん) 院内集会で発言してくださった当事者の方は、実父から性的虐待を受けていましたが18歳まで児童相談所など社会的養護につながれていなかったのです。家庭が安全でなく、一度家を出たこともあったのですが、いろいろな支援につながらずにまた家庭に戻らなければならず30代まで被害が継続しました。そういう方からすると「『子ども家庭庁』という名前自体が、本当に自分の権利を守ってくれるのか、相談できるのかと子どもが不安になると思う。無理かもしれないけど、名前を戻してほしい」ということを仰っています。

 また、社会的養護の経験者への支援は不十分ながら一定あるところに、社会的養護に全然つながっていなくて、大人になってから――とくに性的被害の方は何十年もたってから――声をあげる。そうしたら「もう大人だからね」とか「過去のことだからね」ということで十分な支援を受けられない。それは何とかならないのか、おかしいのではないか、とも仰っています。

 子ども家庭庁だけでなく、「困難な問題を抱える女性自立支援法」というのもできまして、それとも関連して考えていかなければいけないと思います。

 

ソーシャル・ジャスティス 立法や行政とも連携 公正な話し合いの場づくり 問題を認識することから始まる

中野宏美さん) いろいろな角度から人が何かを変えたいと思って声を届ける、その一つの事案として子ども家庭庁の話を出してくださったと思っています。

 何か声を届ける時、議員や省庁は市民と敵対しているイメージを持っていらっしゃる方が多いのではないか。とくにソーシャル・ジャスティスはもともと制度の狭間にある人たちの声を届ける面もあります。でもそれでうまくいくかというと必ずしもそうではないと考えています。いま私たちが取り組んでいる刑法改正に関しては、まず省庁で議論をして、それが国会に上がってくるので、市民と議員、市民と省庁が一緒にやっていきましょうよとつながって変えていく形にすることが大事です。

 声の届け方として、誰がそれを変える力を持っているのか、そこにどのように届けていくのかを考えるのが大事です。今日のテーマでもある「ソーシャル・ジャスティス」がそれをつなぐ大きなキーワードだと思っているのです。いろいろな届け方があって、いろいろな考え方を持っている方がいると思いますが、このソーシャル・ジャスティスに反することをしましょうという人は、少なくとも省庁や議員のなかにはいない。みんな社会をよくしたいと思っています。

 そのことを忘れないで、誰にどのように届けていくかということを考えれば、子ども家庭庁にきちんと子どもの声が反映されるような日本になってほしいとか、服役した人の声がきちんと反映されて更生されていく社会になってほしいとか、そういうことを実現していかれるのではないかと思います。

寺中さん) あえてここでぽんと投げてしまいますが、上村さんいかがですか。ソーシャル・ジャスティスの日本における位置づけについてSJFの代表としてお願いします。

上村英明さん) 「正義」という言葉は、本来使いにくいところがあり、SJFを創る時に議論になりました。そうした上から目線のつながりではなく、問題解決に関わる人たちを横につないでいくということは重要です。いま中野さんがおっしゃったように、こうした横の関係で連携することにより、ある種の影響力、influenceを強めていくこと、そのなかで、話し合いや対話の機会が大事ということも同感です。その中に、政治や行政も入ってきてほしいと思いますが、その場合でも、「公正」は重要な考え方です。実際には、そういう公正な話し合いをつくることには難しさがあって、なかなか実現しない場合もあります。そこは超えていきたいと思います。

 問題を超えていく時のポイントとして、問題があるということをどう認識するかも重要で、その認識がなかったり、まず不公正な関係にあったりする場合には、やはり批判的になる場合もむしろ必要だと思います。寺中さん、いかがですか。

寺中さん) 基本的に私たちは決して敵対しているつもりは無いのですが、相手から敵対視されることは経験していて、それにどう対応するかということの方が多い。どちらかというと、こちらからはお願いしますと言っているはずで、そんなに敵対的に対応しているつもりはないですが、いろいろな見方があるのだと思います。

 みなさん、貴重な意見をありがとうございました。

 光がなかなか当たらないところに光をきちんと当てていくことがこのソーシャル・ジャスティス基金の重要な役割の一つですし、それを実現するためにこの連携プロジェクトもありますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

 庭野平和財団理事の高谷様にはこの間ずっとお付き合いいただいて、いろいろとご支援いただきまして本当にありがとうございました。おかげでこういうことができたと思っております。最後に一言いただければと思います。

 

――ご挨拶(公益財団法人庭野平和財団理事 高谷忠嗣)――

 上村さんが最初にこのプログラムは助成先をつなぐ、と仰いました。実はこのプログラムは資金の提供者もつないだのだと思います。ソーシャル・ジャスティス基金さんと庭野平和財団。うちはFoundation(財団)、ソーシャル・ジャスティスさんはFund(基金)ということで、言ってみれば私たちは両方とも資金の提供者です。プログラムのお蔭様で、私たち異なる資金提供者がつながることができたのだと思います。本当に連携、その言葉通りの成果を出されているのではないかと思います。

 本財団でも社会とのいろんな連携を模索する中で、実はこういうやり方、とくに「資金提供者が連携していく」というのは、資金提供者の間でなされるべき本筋のあり方なのだと、あらためて感じさせられています。今いろいろな財団がこういうやり方を模索しているのではないかと思います。日本ではいわゆる企業型財団、企業あるいはその創設者がつくられた財団等が多くありますが、今は資金の提供ということのみではなく、伴走型といいますか、ある程度長くお付き合いをしていく、成果が出るまでは一緒になって考えていくという付き合い方が、私の感覚では多くなっている気がいたします。ご存じの通り日本の財団は欧米に比べたら規模も助成額も小さく、束になっても例えばアメリカ等にみられる大規模な財団には到底およばないことが多い。ですから、これからはこういう連携を日本の助成の資金提供側もさらに模索しなければいけないと思います。そういった意味でも、今日は本当にいろいろな勉強をさせていただき感謝いたします。

 このプログラムは2020年4月からのプログラムですが、最初にソーシャル・ジャスティス基金さんからご提案いただいた時は、うちの委員会のなかではその意義の有無について様々な議論があった。これは私の感覚ですから今はきちんと了解しているのですが、うちの財団にとっては初めてだったものですから、そういった意味でもうちの財団にとっては非常に勉強になったのです。また、途中でも私だけでなくスタッフもいろいろ関わらせていただき、ソーシャル・ジャスティス基金様から様々なことを勉強させていただきました。

 今後もこういうやり方はおそらく主流になるべきだと思うのです。今日ご参加の方々も、今後は後続の方々にとって、異なる市民組織が連携協力して社会課題に取り組む、ということの先達としての位置を占めることになるだろうと思いますので、がんばってください、と言うと月並みですが、どうかこうした取り組みを継続していただきたいと思います。

 

 

――閉会挨拶(大河内秀人さん・SJF企画委員)――

 みなさん、この8月6日という大事な日に集まっていただき、ありがとうございました。先ほど上村さんが、我々は「ソーシャル・ジャスティス」というはっきり言って口幅ったいものを名前にして上から目線でつくった、そんなことを言われて、私自身も、そんなつもりはないのですがそう言われればそうかなと反省しています。私たちは、みなさんそれぞれが活動している分野を束ねた大きな高邁な理想の市民社会を目指すんだと掲げて、ささやかながら「基金」というような名前まで付けてしまって本当に恥ずかしい気もいたします。

 しかしながら、今日のように、みなさんが出会って横につながって、一つひとつ大事なことを現場でやっているということ、これこそが本当に大きな財産だなと感じました。そんななかで私たちもささやかながら皆さんと連携していきたいと思います。

 みなさん今日はご参加いただきまして本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。 ■

 

 

 

*次回のSJFアドボカシーカフェのご案内:

みんなで子どもを育む社会へ~心の声を聴く子どもアドボカシー~』(9月3日)

川瀨信一さん×松田妙子さん×小澤いぶきさん

詳細はこちらから

 

 

*今回の2022年8月6日の企画ご案内状はこちらから(ご参考)

 

 

 

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