ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)
助成発表フォーラム第7回 報告
2019年1月16日、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、このたび決定した第7回目の助成先2団体(移住者と連帯する全国ネットワーク・崔洙連さん/山岸素子さん、国際子ども権利センター・甲斐田満智子さん)と、第6回助成先2団体(しあわせなみだ・中野宏美さん、モザンビーク開発を考える市民の会・近藤康男さん/向井直史さん)を迎えた助成発表フォーラムを東京都新宿区にて開催しました。
声をあげづらい人たちにこそ耳を傾け、その声を社会に届け、社会を変えていく活動が報告されました。声をあげられるよう、自分が本来もっている権利を知らせ、声をあげていいんだよとエンパワーする活動。その声の主は、移住者や、マイノリティの子ども、障がい児者の性暴力被害者や、開発援助投資で虐げられた家族農業者である活動が報告されました。また、そういった活動には、声を安心して発せられる居場所、ありのままの自分を出せる居場所をつくる活動の大切であることが浮き彫りになりました。
「私たちのことは私たちが決める」、「わたしたちのことを、私たち抜きに決めないで」。これらの活動はあくまで当事者が主体です。それと同時に、その社会問題の根本にじつは自分も関わっていると考え、そういった困難な状況にある人の苦しみを自分の苦しみとして受け止め、声なき声にも耳を傾ける人たちもそういった活動を支えています。
そういった一人ひとりの声を、普遍的な制度改革へつなげるアドボカシー活動も報告されました。今回報告された活動に共通するのは、ジャスティス、平等と公正ですが、これはマイノリティには特別な配慮を受ける権利があるという取り組み、積極的な是正措置の視点をふくみます。
小さな取り組みかもしれない、でも希望の持てる取り組みが大きな力となるようネットワークを深め広げる機会となりました。詳細は以下をご覧ください。
――開会挨拶・審査総評――
上村英明・SJF審査委員長)ソーシャル・ジャスティス基金は今回で第7回目の助成になりますが、よく続いたなと私自身感慨深いものがあります。一昨年来の庭野平和財団のご協力があっての実現であることをご報告したいと思います。
さて、今年で平成が終わります。ある意味、日本は変化の年になってくれればと思っています。しかしその変化がどういう方向になっていくかは不透明なところがあります。
第7回の助成の方向性として私個人で考えたことは、いま世の中はどんどん単一の価値観に凝り固まり、同質的な側面が強化されているように思います。その点、市民社会の価値として、そうじゃないよという視点を打ち出したいという意味で第7回の助成があったかと思っています。たくさんの助成応募団体の中からそういった試みが高く評価されたと、私自身は感じております。
もう1点、私は長年市民運動の世界で生きてきたのですが、市民運動の世界もだんだん視野が狭くなってきたのではないかという懸念があります。自分の団体がやっている仕事に関してはみなさんものすごく一生懸命です。でも僕らの若い頃は、僕は人権の問題をやっているのですが、分野を超え、領域を超えて他の団体に遊びに行ったり、なんか一緒にできないか話し合いを持った思い出があります。ネットワークといった形で勉強会を行う、政府に働きかける、自分たちの強み、自分たちの弱みをどうやってお互いにカバーしていくかということを広い視野でやった記憶があります。
そういった意味では、みなさんそれぞれご自分の団体の問題をここに紹介したいといらっしゃったかと思いますが、同時に他の団体の方がどんなことをやっていらっしゃるのかを真摯に学ぶ場としても使っていただきたいと思います。自分の視野の狭さを見つめ直すためにも、こういう形でいろいろな方にお集まりいただいて、自分の今後、課題についてご報告していただくと同時に学び合う機会をあらためて設けたのがこの会でもあります。
ソーシャル・ジャスティス基金は弱体ですが理念は高いところにあります。高いところに登るとだんだん酸素が薄くなったりなどいろいろ大変なのですが、またご支援いただければ有り難いです。
――第6回助成事業 報告――
~助成先の報告の後、他の助成先や参加者からご意見やご質問をいただきました~
※総合司会=佐々木貴子・SJF審査委員
◆NPO法人しあわせなみだ 中野宏美さん・理事長
「『障がい児者への性暴力』に関するアドボカシー事業」
佐々木)この助成は、庭野平和財団様のご協力によりまして「いのちの無差別性に関する取り組み~あらゆるいのちが尊ばれる社会をめざして」をテーマに助成した事業です。それではよろしくお願いいたします。
中野さん)私たちは性暴力撲滅啓発に向けた活動をしているNPO法人で、2009年に立ち上げて、2011年に法人化しました。
活動のなかで、性暴力を経験した方と交流してきた中に、障がいのある方が少なくなかったのです。家族から性的虐待に遭ってきた方、施設で職員から介護のたびに性的部位を触られてきた方、スカウトに声をかけられて性産業で働いてきた方。障がいがあるが故に、だれにも相談できない方、また相談しても信じてもらえない方に会ってきました。
障がいがあるからこそ遭ってしまう暴力があるのだと気づきました。だからこそ、しあわせなみだでは、性暴力を処罰する刑法性犯罪に“被害者としての障がい者”の概念を盛り込みたいと考えました。今回ソーシャル・ジャスティス基金さんから、「“障がい児者への性暴力”に関するアドボカシー事業」で助成をいただき、1年間やって参りました。
人権侵害の実態 障がい児者と一緒に直接声を届け 障がい児者への性暴力禁止に向けて
まず実施した事業の内容を報告させていただきたいと思います。私たちはいただいた助成で主に3つの活動をして参りました。1点目は調査、2点目が周知、3点目がロビイング、議員の訪問となります。
調査結果については、お手元に配布した『障がい児者への性暴力が認められる社会へ』という報告書になります。新宿に発達障害者のスペース、neccoという団体がおられます。こちらに昨年の3月に、アンケート調査、グループインタビュー、個別インタビューを実施いたしました。その結果、回答者32名中23名、70%を超える方がなんらかの性暴力を経験していたということが明らかになりました。「望まない人に性的な部分を触られる」「望まない人にキスされる」「望まない人にセックスされる」「望まない人に裸や性器を撮影される」について尋ねており、11名の方は複数の性暴力を経験しているという結果が出ました。回答者数が32名というと少数だと思われがちなのですが、日本では性暴力について、障がい者のみを対象にした調査というのが、障害者虐待防止法に基づく性的虐待以外は、ほぼ行われていない状況にございます。このため、決して多いとは言えない回答数ではありますが、この助成の目的である人権侵害の実態というのを少しは明らかにできたのではないかと思っております。
2点目が周知、多くの方に届けることをやって参りました。いただいた助成でウェブサイトを開設いたしました(http://disabled.shiawasenamida.org/ )。
続いて、報告会は3回実施しました。まず調査を実施したneccoさんで開催。昨年12月には東洋大学さんで開催し、203名の方がお越しくださいました。さらに衆議院議員会館で院内集会という形で開催することできまして82名の方にご参加いただきました。国会議員の方にも8名、超党派でご参加いただきました。そして、ソーシャル・ジャスティス基金さんならではのご縁だったのですが、一昨年の助成団体である子ども情報研究センターさんで、研修を開催しました。去年のこの助成発表フォーラムでご縁をいただいて、障がいのある子どもに関わる機会があるということで、研修のお声がけをいただきました。この助成があったからこそできた活動で良かったなと思っています。
3点目のロビイングです。政策を実現することが目的だったので、国会議員と面会し現状を理解してもらうことが非常に重要な活動になりました。今回作成した報告書を持って、合計33名の国会議員と面会をすることができました。今日は、今年初めてのロビイングで議員に会ってきたので、34人目になります。障がいのある方であったり、障がい児を育てる親御さんと一緒に訪問しています。「アドボカシー」として、代弁だけではなく、直接声を届けるということができたのではないかと思っています。お子さんや家族が障がいをお持ちの議員、市民活動に関心の高い議員等が、熱心に話を聞いてくださいました。多くの議員さんに障がいのある方の声を直接届けることができました。
成果については大きく2つで、まずメディアに掲載していただけたことと、刑法改正に向けた動きを作れたことです。
メディア掲載については、一番大きかったのが、調査報告書完成を知らせるを記者会見がNHKの「おはよう日本」等で紹介されたことです。大きな反響をいただきました。また、共同通信さんから配信された記事は、愛知、神奈川、沖縄各県の地方紙で掲載していただくことができました。
つづいて法制化に向けた動きについては、与野党ともに一定の動きを作ることができました。まず自民党については、性暴力の議員連盟ができていまして、そのなかに障がい者の性暴力問題を考えるプロジェクトチームを立ち上げることができました。昨年2回、勉強会を開催いたしました。今年も継続して開催し、議員が理解を深める場をつくっていく予定になっております。また公明党では、法務部会で障がい者への性暴力に関するヒアリングを実施していただきました。立憲民主党では、刑法検討のワーキングチームでヒアリングをしていただきました。
そして非常に大きかったのが、自由党山本太郎参議院議員が、参議院文教科学委員会で質問をしてくださったことです。この報告書を配っていただきました。質問の様子は動画で見ることができます[http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php にて「2018年11月15日」「文部科学委員会」「山本太郎」を検索 (3:43:47から)]。文部科学大臣に対して直接、質問してくださっています。また、神奈川県の犯罪被害者等支援施策検討委員会でもこの報告書を配っていただき、被害者施策に反映していこうという動きをつくっていただくことができました。
ここまでが助成をいただいてやったことです。
刑法性犯罪処罰規定に“被害者としての障がい者”の概念を
ここからは、今後私たちがやっていくことです。“障がい児者への性暴力が認識される社会”を実現していくということで大きく2点の目標を掲げてこれからも活動を展開して参ります。1点目は、2020年の通常国会で刑法性犯罪処罰規定に“被害者としての障がい者”の概念を入れることです。 2点目が、改正を実現するために、世論を変えていくことです。まだまだこの課題は調査もほとんどされておらず、知られていないという状況ですので、まずは知っている人を増やして世論を変えていくことが重要になります。
まず1点目に関連して、各国の法制度を紹介します。報告書p.14-15にも掲載しております。諸外国では既に障がい児者への性犯罪が刑法のなかに入っています。例えばフランスでは「少年・弱者に対する性的攻撃罪」、韓国ですと「精神障害が原因で拒否できない者と性的活動を行う罪」、イギリスでは「障害者に対する強姦・強制醜行罪」という形で、明確に障がい者への性犯罪が設けられているのですが、日本では全くこうしたことが無いのです。
日本ではこんな形がいいだろうという私たちの提案があります。報告書p.2にも掲載しております。大きく3点で、まず「障がいがあることに乗じた性犯罪の創設」です。それが困難である場合、「被害者が障がい児者であることをもって、準強制性交等罪もしくは準強制わいせつ罪を適用する」。これも困難なら「刑法性犯罪の運用において、障がい児者の特性を踏まえた対応を義務化する」。この3つを柱に今後も議員に働きかけて、法制度化を実現していきたいと思っております。
2点目の世論を変えていく点については、署名を昨年末から開始しています(http://bit.ly/2L9F2Mg )。いま賛同者が1万人を超えています。障がい児者にも性暴力を経験している方がおり、法制度に入れてほしいということを求めています。オンラインで賛同できますので、ぜひみなさんにもご協力いただければと思います。
また2019年度は、全国キャンペーンを進めていきます。全国10か所で、知的障がい者への性暴力を取り上げた映画『くちづけ』の上映と有識者をお迎えしたトークセッションを開催します。開催協力者を絶賛募集中ですので、ぜひご一緒にという方はお声がけいただければ大変うれしく思います。
議員に働きかけ、世論の啓発を続けて、2020年の改正を実現できるようこれからも活動を続けます。
去年のこの会場から1年間、一生懸命活動して、本助成の目的であるアドボカシーを、多少なりとも実現できたのではないかと思っています。
障がい者や性暴力経験者は声をあげづらい、非常に声が届きづらい存在であるということはなかなか変わらない状況にあります。当事者、関係者、支援者たちと一緒に社会を変えていけるように活動を続けていきたいと思います。ほんとうにありがとうございました。
障がい児者にも自分に等しく権利があることを知る機会を 声をあげられるよう特別な支援を法律と現場での施策に具体化へ
甲斐田万智子さん・国際子ども権利センター) すばらしい報告だったと思います。まず活動が3つの柱ということではっきりしていたということと、成果もメディア等において表れたことがわかりましたし、さらに今後の法制化に向けて刑法に書いてあることはやはり大事だと思うのですが、そのためにも世論を巻き起こしていくという戦略がはっきり説明されてとても良かったと思います。
私自身としては、どうしてこの問題が大きく取り上げられてきちんと法制化されることが大事かということについて4つの視点からお話させていただければと思います。
一つ目は、障害をもった子どもというのは普段からなかなかちゃんとした知識や情報を得られない。つまり自分には等しく権利があって、嫌なことはNoと言えるにもかかわらず、その情報を受け取れない、権利があることを知る機会がない。
それに関連して二つ目として、そういった権利教育を子どもの時になかなか受けられないということですね。
そして三つ目は、被害を受けたときになかなか話すことができないということが、障害を持っている、ハンディがあるためにあると思うのです。ですので残念ながら、性暴力の被害が繰り返されるということがあると思います。本当はもっと早く介入しなければいけないと思います。
そして四つ目は、障害を持っている方は「本当はこんな支援がほしいんだ」という支援を要望することができないのではないかと思います。日本は、健常児、障害を持っていない子どもたちも、なかなか自分への支援の在り方を言いづらい社会的状況にあると思いますが、障害を持っているとさらに自分への支援について意見が言えないということがあると思います。
これら4つの点から、障害を持っている子どもたちには特別な配慮、特別な措置が必要だと思いますけれども、法制化によって、障害を持っているからこその特別な支援を法律、プラスそれぞれの現場での施策に具体化していくことが必要なのではないかと思います。その意味から、この事業が非常に重要ですし、私自身も母が聴覚障害者なのですが、人に迷惑をかけてしまうと遠慮してしまう。たとえば筆談をしてもらうにしても遠慮してしまう。「いやいやこれからは、障害者権利条約にも批准しているし、障害者差別解消法も施行されているから、自分の権利として要求していっていんだよ、主張していっていいんだよ」ということが、障害を持つ子どもたちにとっても当たり前になるよう、この法制化によって社会が変わっていくといいなと思いました。がんばってください。ありがとうございます。
参加者) 障害児の問題ともに、施設職員から性的暴力を受けているという人や、映画やテレビに出られるよと騙されて性的な撮影をされて困っている人たちや、家で暴力を受けて外に出て夜ふらふらしていたら変な人につかまって被害にあった人たち、そういった性的な問題を何とかしようとしている団体はたくさんあります。そういったところと連携はできているのかな、できていないのならば、それぞれは小さくても集まると大きな力になると思うのですが、いかがでしょうか。
中野さん) ありがとうございます。「性暴力禁止法ネットワーク」という団体ができておりまして、全国で性暴力に関して活動している団体・個人が500名ほど加入しています。性暴力禁止法をつくろうという理念のもとで活動しています。
参加者) 沖縄の北谷町から来ました。精神障害者で、性暴力の当事者です。今日はこの報告があるということで、飛行機に乗ってきました。しあわせなみださんの活動を通して、地域のなかで障害を持っている人たちが加害や被害の状態に置かれているということをつぶさに知りました。性暴力が持っている特質であるとか、いろいろなことを加味しながら、地域の関連団体あるいは住民の方たちみんなでそういった支援をするための制度づくりをしていこうと、少し動き始めたところです。ですから今後とも、しあわせなみださんとの関わりをもち、いろいろご指導いただきながら迅速に進めていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
佐々木)障害を持たれているお子さんや大人だけではなく、性暴力のこと、被害を発信できない状態。それはみんなでセクハラだけではなく、人権侵害として向かっていかなければいけないと思います。ありがとうございました。
◆モザンビーク開発を考える市民の会
近藤康男さん(No! to Landgrab, Japan)・向井直史さん(東京外国語大学)
「援助・投資によるインジャスティス(不正義/不公正)を乗り越える
~3カ国市民社会連携を通じたアドボカシー活動~」
近藤康男さん) 開発あるいは投資援助という問題は、一般的にはポジティブなイメージで捉えられることが多く、しかも距離が離れているので現場で何が起きているのかなかなか見えにくい。先程の発表では、これから新しい取り組みをしていく、新しい法制度に向けて日本社会への働きかけをいろいろやっていくということでした。我々は、いま政策としてどんどんグローバル化のなかで進められている投資に対して何が問題なのかという形で、現場で物事がどんどん進んでいくことに対応していくことが中心になります。
「3か国民衆会議」を、日本・モザンビーク・ブラジルの農民が集まって開催し、一定の成果を上げましたが、これまで紆余曲折がありまして、そのなかでの民衆会議ですので、日本の援助あるいは企業の投資の枠組みのようなものを前史的なことも含めて最初に紹介をしたいと思います。
「援助から投資へ」のなか人権侵害をうけている発展途上国の小農を支える 「小農の権利」普及へ
問題は、2009年からアフリカのモザンビーク北部起きていることです。この地域は家族農業が80%を占めており、この規模は日本の家族農業の規模と同じですし、アジア各国での規模と同じです。しかし、全体の経済開発の進展度合いに違いがあるため、非常に直接的あるいは暴力的な影響が見えているということが我々の取り組みの出発点です。
モザンビークは南アフリカと国境を接しています。東側の少し北は海を越えてマダガスカル島がある位置関係にあります。そこでナカラ回廊経済開発プロジェクトが進められています。西部での三井物産とブラジルのヴァーレ社による石炭の採掘事業とともに、鉄道を改修して東部のナカラ港に積み出す施設を造るというインフラ整備事業です。その少し南に、穀物サイロが港湾施設として計画されています。このようにこの開発プロジェクトはモザンビーク北部での農業開発と資源開発として位置付けられていいます。
海外農業投資の流入が土地収奪を引き起こしています。こういった大きなプロジェクトが立ち上げられてインフラ整備の話が伝わると海外からいろいろな農業投資が誘発されます。そこで契約栽培などが行われて、農家のなかには強制移転させられて、行ってみたらとんでもない土地であったというケースがあります。
また、石炭採掘と鉄道改修のインフラ整備事業によって、鉄道を利用して小さな規模で農産物の販売に出かける、あるいは鉄道を利用して学校に通うといったことができなくなっているケースもあります。
このように、いろいろなインジャスティス(不公正)が起きていることをまず指摘しておきたいと思います。
我々は何をしようとしているか。現状を転換しようと、あるいは自分たちの基本的な農業や生活を守ろうと立ち上がった小農を支えることです。我々は遠くにいるため、彼らに寄り添い一緒に走って、日本からの情報を伝えたり、現地で起きていることの情報を入手して、日本政府や開発の主体であるところ――農業開発なら外務省・JICA、資源開発なら財務省あるいは国際協力銀行――に現地の声や調査結果を提供しつつ提言をし働きかけていく、こういったところが事業目的・活動です。いずれにしても最上位目標は「現状を転換しようと立ち上がった小農を支える」ことです。
いま、「援助から投資へ」ということが言われています。それからグローバル化のなかで企業の動き方というのは、単に物を造って販売ということから、投資にかなり傾いています。その結果として、援助においても「援助から投資へ」という形でナカラな回廊開発の中で、農業開発事業のプロサバンナ事業が行われ、三井物産やJBICによる投資として資源開発が行われる。こういった変化があります。
一方で、金融の自由化や国際化が起こりますと、お金の流れが国境を超えて自由に動きかつ見えにくくなります。その結果、とくに発展途上国、とくに強権的な政治が長年行われているところではお金の流れの不透明さや、人権侵害などが起きやすい状況がアフリカにはあります。なぜアフリカかといいますと、冷戦の崩壊以降、アフリカの市場経済に参加する空間が提供されるようになってきたからです。日本政府もTICAD(アフリカ開発会議)という形でかなり援助開発をしていくということで主導しています。そういった動きがアフリカの現場でますます強くなっています。
我々の取り組みの枠組みは、背景に一つは国際的な農民運動があります。それから国連を始めとする国際社会のさまざまな動きがあります。そういったなかで、主体はモザンビークの小農運動。現場に住み生業をしている小農。そしてそれを支えるものとして、モザンビークの市民社会の団体や、日本の私たちの「モザンビーク開発を考える市民の会」ようなグループや、ブラジルのグループがあります。とくに今回の3カ国民衆会議は東京で開催し、日本の私たちが主体的に関わりました。
政策転換のための対話 現場が見えない開発援助投資者へ現地調査結果を掘り下げて伝える
家族農業を育成するプロジェクトへ 反対派の意見も聴取して一緒にマスタープランを
私たちが日本でやっている重要なことの一つに、政策転換のための対話があります。外務省・JICA、それから財務省・JBICとの意見交換です。これをやるなかでいろいろな提言をし、批判もしてきました。
私たちの活動成果に触れます。プロサバンナの事業は、当初は輸出作物のための商業的な農業を大々的に展開するんだということで、ブラジルのセラード開発の教訓を生かすということで進められてきたのですが、そのことが1.3ヘクタール程度の平均耕作面積の家族農業に対してどういったインパクトを与えるのか、また現地の地域農業にどう影響するのか。こういった巨大開発は成功しても失敗しても、地域に裨益しませんし、地域農業との親和性は非常に少ない。こういった追究を私たちがしていくなかで、国会議員の協力も得て代表質問が行われ、国会答弁において、岸田外務省の時代になりますが、「土地収奪はしません。輸出目的ではなく、家族農業を育成するというのがプロジェクトです」という形で、当初の三カ国の方針との関連で言いますと、日本における言い様としては一つ大きな転換を勝ち取ってきたと言えます。
それからナカラ回廊経済開発の点では、財務省・JBICとの議論のなかで、現場での被害を伝え、どこでどういう被害を農民が受けるのか調査をしてもらいました。その結果が、補償を伴う移転は言うほどにはいい土地に移転はさせてもらえていないという非常な問題を含んではいるのですが、一定の対応を得ました。それから三井物産自身が現地調査をしながらどういったところに問題があるのかという地図をつくり、我々と共有するような形で若干の成果がありました。
人権侵害の問題に関しては、現地に情報を提供し、また現地から情報をいただくなかで、「JICA環境社会配慮ガイドライン」の改訂への提言がこれからの問題となっています。去年、JICA曰くの審査員たる専門家による現地調査が行われ、その調査結果も出された。ただ、こういった政策転換のための対話で感じましたのは、政府やJICA自身が現場が見えないということです。「聞いていない」「承知していない」「知らない」「確認できない」こういった言葉が対話のなかでも頻発しています。このことが何を意味するかというと、無視ですね。問題はないという判断のもとに現場で物事が進んでいくということにつながります。
対話のなかではやっと2018年3月、河野外務大臣から、「マスタープランを最終化するためという条件付きではありますが、民主的な形で反対派の人間も参加してもらって、丁寧に対話をする」ということで、そういった一定の前進もありました。
共同調査を2013年から現地に出向いてやっております。2018年度も共同調査をやるということで当初考えておりましたが、ビザがもらえずできませんでした。共同調査はやはり現地の情報を日本政府に伝える――つまり共同調査と政府との対話が噛み合う――ことで物事が現地にフィードバックできますし、政府に対して一定の働きかけと影響力の行使ができるという意味で、当初からやっています。
3か国民衆会議はいままで3回行っています。これまではブラジルで2回、モザンビークで1回行われています。
今回は3日間、東京で行いました。その場で政府との対話も行い、参加したブラジルやモザンビークの農民や市民団体の声を政府に伝えるという対話を実現し、緊急報告会を3日間の最終日に行いました。この緊急報告会では、外務省やJICAも登壇をしていただき我々の緊急報告に対する発言をいただきました。政府との対話、政策協議も、外務省・JICA、財務省・JBICと3カ国民衆会議で行いました。また、国際シンポジウムやマルシェも行いました。最終日には、「東京宣言」を採択して、あらためて決意を固めました。さらに、山形・京都・埼玉あるいは神奈川・茨城、あちこちに農民が出かけて行って、現地の農民との交流会や報告会・シンポジウムなどを行うことができました。モザンビークから15名、ブラジルから3名の小農・市民が来日しました。
これまで我々のグループに参加している「アフリカ日本協議会」や、農地収奪に反対するグループや、日本国際ボランティアセンターといったところが中心になって動いておりましたが、今回はじめて実行委員会を立ち上げ、呼びかけ団体・人を募集し、賛同団体という形での参画もいただくなかで、多くの新しい団体が日本からも参加してくれました。これまでの我々の動き方にくらべ、新しい出会い、新しい広がりがあり、ブラジルのセラード開発の問題や、モザンビークでの農業開発の問題を少し広がりをもった伝え方ができたと思いますし、あわせてメディアでの発信もいろいろできました。小さな一歩ですが、助成に関わる3カ国民衆会議でもって実現をすることができました。
こういった一定の前進と社会的な広がりをこれまでの運動の積み上げとその中に位置づけられるものとしての3か国民衆会議で少し実現できました。新しく我々と出会ったいくつかの団体、農民、研究者がポストイベント的なかたちで今年2月に議員会館でイベントなどを開く準備しています。こういう形で我々以外のところで動いてくれるような広がりが見えてきたと思っております。今後も、こういう形で運動をしていきます。
一方で、対話は民主的にやるよと言われているわけですけれども、現場では残念ながら既成事実がどんどんつくられています。そういったものに対するあらためての取り組みを何とかしていきたいと思っています。現場は現場、あるいは投資援助をする立場ではそれぞれ新しい動きが出ていますので、さらに頑張らざるを得ないなと思っています。
山岸素子さん・移住者と連帯する全国ネットワーク) 私たちの団体は国内での外国人の問題に取り組んでいます。個人的にこうした活動のきっかけになったのが、20年前にPARC(アジア太平洋資料センター)で働いたことで、そこではまさに国外での開発援助の問題にも取り組んでいたので、今日は興味深く報告をうかがいました。
今日はソーシャル・ジャスティスに関するアドボカシーという共通点のテーマがあるなかで、私たちが移住連で取り組んでいるアドボカシー活動と関連付けながらの質問が2点あります。
1点目は、私たちは外国人問題でアドボカシー活動をずっとしていて、ここ数年、市民社会からの提言活動がとても難しくなっているという実感がありますが、モザンビークにおいての活動ではどのような実感を持っておられるか。
もう1点は、日本で初めて行われた3か国民衆会議の開催が、幅広い層で日本での意識喚起、広い範囲での周知という効果があったかと思いますが、それが政策協議、アドボカシーにどのような影響があったのか。
近藤さん) 最初の質問について、今の社会での市民活動の難しさについては、みなさんここにいらっしゃる方と共通かと思いますが、政府との対話や、政府が姿勢を変えるのは、とくに政府の政策として進行中のものに対しては非常に難しい、会うこともできない。そのなかで幸いに、これまでODAにおいては市民団体と外務省とのささやかな対話が一つの財産となっています。私が別のところでやっている問題では、議員を通じてかなりしつこく働きかける中で、珍しく政府も、内閣官房・農水省・外務省も出てきて対話が3年位前から定期的にできている。我々も現場の分析をし事前に質問を用意して提出している。いろいろな議員の力も大きいと思いますが、問題を掘り下げて事前に相手にぶつけながらやっていくことで難しさを少しは進められるのかなという感じがしています。
2点目、3カ国民衆会議による今後の広がり成果等については、我々の活動次第だなと感じています。小さな一歩を積み重ねていくなか、現場の情報をきちっとつかむ、この二つに取り組むことか。なおかつ今回は新しい人たちが自らこの問題で直接的に準備を進めてくれているということで、広がりが期待できるのかなと思っています。
普遍的な意味での制度改革へつながっていくかを重視
上村英明) この事業の助成担当をしております。ソーシャル・ジャスティス基金としては、3か国民衆会議を支援したつもりはありません。そこの事業が政策的にどう生きるかを支援したつもりもありません。その事業が普遍的な意味での社会のあり方、その制度改革にどうつながっていくのか、という成果をぜひ強調してほしいとお願いしたつもりでした。
いただいた成果資料でよかったなと思ったのは、たとえばルール作りについてです。JBIC環境社会配慮ガイドラインの起草作業にかつて私も参加しました。NGOも参加してルール作りをやったのです。それなのになぜこの開発を止められなかったのかという問題。こういった問題を引き起こす開発は何十年も続いているのです。政府は実は我々のものです。その政府をもっと前進させなければなりません。せっかくルールを作ったのだったら、なぜそれが活きないのかというポイントです。
その意味では、今回の助成事業の中で、政策転換のための話し合いが重ねられたことは重要です。JICAやJBICがガイドラインをどうやって改訂するのかというプロセスに入ったのなら、それは非常に貴重な前進になると思います。
市民社会はそんなに力は強くありません。全ての問題を僕らが見るわけにいかないのです。ということはルール作りをしっかりしていかないと、僕らが見えないところで同じ事が起きたらどうするのかという問題にたどりつくのだと思います。
2点目は、しあわせなみだの中野さんたちがやってこられたことですが、ある種の考え方を明確にすることは制度を変えていく上で非常に重要なポイントです。例えば私は人権をやっていますけれども「セクシュアルハラスメント」という言葉がなかった時代はすごく大変でした。それをどうやって証言していくのかという議論から始めなければいけなかったからです。
その意味では、今回の3カ国民衆会議を含めて、「小農の権利」という言葉が――これは国連の宣言もそうですけれども――日本社会で少し広がってきたというポイントはとても大事なことではないかと思っています。これまでの農業政策は大農経営を目指しています。大農経営をすればその社会は豊かになるのだという発想で、近代社会はめちゃくちゃな開発を続けてきました。そういうなかで国連の宣言を含めて、小さい家族経営の農業主体自体が非常に重要な役割を社会の中で担っているということが、外務大臣の発言も含めて広がっていったとすれば、それは今回の成果の一つだと思います。
いただいた資料でその2点がよかったものですから、補足させていただきました。
「ビジネスと人権に関するガイドライン」 サプライチェーンの末端まで、農家への対応が問われる
参加者) いま上村さんが言っていたように、この問題はずっと続いていてこの間何が変わって何が変わらなかったんだろうと考えます。
報告のなかにあった、国連の「ビジネスと人権に関するガイドライン」は今後ひとつのベンチマークになっていくのかなと期待しています。ビジネスが人権や環境を配慮しなければならない責任、国の責任を明確に謳っていて、その影響もあって経団連の方でも企業に関する倫理規定のなかに今回は人権が入っている。そしてその人権の在り方も、サプライチェーンの末端まできちんと保障しなければいけないということを謳っています。そういうことを一つの基準としてきちんと行っていくということはできるのかなと思ったのです。
私は移住連にも関わっていて、移住労働者に関してもサプライチェーンの問題はすごく関係があるので、もし何かこれまでのやりとりのなかで、こんなところが使えるかなという点があれば教えていただきたいです。
近藤さん) 上村さんのご指摘に関しては、先述しましたが、いろいろな紆余曲折があって3カ国民衆会議もそのなかでの一つの取り組みに位置づけられるということを申し上げました。我々もいろいろ関わっており、ガイドラインの限界に対して意見を出し、あるいはガイドラインの改訂にも参加しつつあります。そういった形の中で3か国民衆会議は一つの通過点としてある、目に見える形で何かが大きく変わるということはなかなか見えにくいのですが、そういった理解を私自身はしています。
サプライチェーンの問題は、我々のモザンビークの問題に関しては特に具体的にそこに何か使えるものはないかということで三井物産のホームページで彼らの倫理規定等を調べたりしました。あるいは私自身は一つの成果といえる点では、三井物産とは違う商社の違う国での直接投資の問題を攻めていて、彼らのいろいろな社会的責任に関わる規定のなかでサプライチェーンの問題も具体的に触れられていましたので、それをつかまえて、サプライチェーンの一番現場に近いところがどういう対応、どういう契約を農家としているのか、そうしたことを現場で調べて、そういうことを某商社にぶつけることで、某商社も現地に対して改善を図り最終的には撤退しました。相手の持っている道具のなかに使えるものを見つけ、それを追求することで今の社会的な流れのなかで一定の果実を得ることはできるのかな。そんな形でサプライチェーンの問題は使える部分はあるのかな。ただ現実に企業が取引のなかで、サプライチェーンのなかにおけるマネージメントをどう確立しようとしているのかなと事例をみますと、「面倒だけどとりあえず判を押してくれないか」でやっているケースもけっこうあるなというのも自分がビジネスに関わっているなかでは経験しています。しかし市民社会のなかでは使える一つのツールだと思っています。
――第7回助成事業 発表――
◇公益財団法人庭野平和財団 仲野省吾さんよりご挨拶
社会問題の根本に自分も関わっている 困難な状況にある人の苦しみを自分の苦しみとして受け止め 声なき人の声に耳を傾ける活動を応援
まずこのたび2018年度、第7回の助成が決定されました、国際子ども権利センターさんと移住者と連帯する全国ネットワークさん、おめでとうございます。
今日は私も選考委員として末席をいただいておりますが、庭野平和財団を、それから私どもの財団も支えております「一食を捧げる運動」に携わっているおそらく10万人近い人たちを代表することはできませんけれども、代表するつもりでここに参りました。
今日はみなさんにお礼を申し上げに参った次第です。今も報告がありましたが、こうした素晴らしい活動を助成につなげている<まちぽっと>さん、それからその活動を支えているみなさまに感謝を申し上げたい思いこちらに参った次第です。
と申しますのは、私どもの財団は宗教的精神を基盤にし、あるいは異なる宗教の協力により平和のための活動を行う、そしてそれを支援していくということが目的の財団でございますが、これまで他の助成団体、まちぽっとさんのソーシャル・ジャスティス基金さんのような私どもと同じように助成をする団体と協力をして何かをするということはあまりなかったのです。
最初、まちぽっとさんとお会いしてお話を伺いまして、大変びっくりしました。
キリスト教の言葉のようですが、「最も優れた祈りというのは、言葉ではなく、うめき声に似ている」という言葉を聞いたことがあります。苦しみ、悲しみは、私たちは大なり小なりさまざまに感じますけれども、最もつらいのは言葉に表すことができない苦しみだということを、この言葉は教えているのだと思います。キリスト教における神は、うめき声、言葉にならない声こそを見つめ、聴いているのだということを私はキリスト教の人からうかがったことがあります。
まちぽっとさんと最初お会いした時にたいへん感慨を受けたというのは、まちぽっとさんがなさっている活動というのは正に、声なき人の声に耳を傾ける、そういう活動をなされていると感じられまして、同じ助成団体としてはうらやましい、また尊敬の気持ちもあり、ぜひご一緒させていただきたい、私どもの方が声をかけていただいて有り難いと思った次第なのです。
先程申しました「一食を捧げる運動」という活動をなさる市民の方々がいらっしゃいます。単に募金をする――これまた素晴らしいことだと思いますが――のではなく、「一食を捧げる運動」をなさる方たちは、子どもから大人、さまざまな方々が月に2回、人によっては自分で決めて週に1回など一食を抜いて、その分を募金するという活動です。どうしてわざわざ一食を抜く必要があるのかと。何か社会のために、あるいは困難な状態にある人のために何かをしたければ募金をすれば済むことかもしれませんが、そうではなくて、自分もそのほんのわずかかもしれない、今日も前半から大変な困難な状況にある人を支えている活動をなされていると思ったのですが、到底その苦しみと一緒のことはできない訳ですが、そのわずかでもいいから、自分の苦しみとしてそれを受け止めて、それを通して募金をしたいという活動でございます。
この方々はじつはその行為自体で完結しています。なぜかと言いますと、世界を変える、あるいは社会を変えていきたいと思った時に、社会のここが悪い、ここをこうしていきたいという思いと同時に、しかしその元凶となっている、問題の根本になっているものを私自身の行いや心の中に、人間関係の中に持っているのではないかという考え方もしていくという行いです。ですから行為自体はそこで完結している。募金をしたから後はどうでもしてくださいというわけでは決してないのですが、自分たちがそのことをすることで完結している。
しかし、それだけでは社会を本当によくしていくことはできない。そこに必要なのが、みなさんのような、あるいは<まちぽっと>さんのような、本当に声のない人の声を聴いた上で活動をする活動だと思うのです。そうした意味では、私たち庭野平和財団も、そしてそれを支えているみなさんからも、この場をお借りしましてお礼を申し上げたいと思います。どうぞこれからも、我々は、まちぽっとさんのことを応援して、陰からエールを送らせていただいて、みなさんの活動を応援させていただきたいと思いますので、がんばってください。
(※公益財団法人庭野平和財団との協力によりNPO法人移住者と連帯する全国ネットワークへ助成をいたします)
◆NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク 崔洙連さん
「移住者による移民政策―市民立法としての移民基本法の制定を目指して」
私たちが暮らす日本社会は少子高齢化や労働力不足といった問題、それに関連して外国人労働者の受け入れなどさまざまな課題に直面しています。昨今、新聞や雑誌、テレビなど多くのメディアでも先に述べた課題にともなう農業・介護・建設などの分野における深刻な人手不足がとても問題になっています。最近ではそうしたニュースも多く報道されている状況です。
そうしたなか、政府が2018年6月に新たな外国人労働者受け入れ方針を閣議決定しました。その後の秋の臨時国会にかけてもほとんど議論がないまま入管法改定が成立となりました。2019年4月には新たに設置された特定技能を通して外国人労働者の受け入れがスタートする予定になっております。それに関連する外国人労働者に関わる問題が新たに発生することが憂慮される事態となっております。
このように聞くと、外国人労働者の受け入れがここ数年で始まったような印象があるのですが、じつはそうではありません。
「わたしたちのことを、私たち抜きに決めないで」は、マイノリティーの権利運動の場で使われてきたスローガンです。じつは日本に暮らす外国人移住者は1980年代位から、労働者としてや国際結婚などで増えてきました。それから30年位が経過していますが、そうした移住者の声が政策の現場で顧みられてこなかったのです。
一方で、日本で暮らす外国人の方々は既に約264万人まで達し、外国人の方々の定住にともなって、生活全般に関わる困難が明らかになり問題の裾野がすごく広がっています。一方で政府の方針は「管理」に完全に偏ってしまっていたり、社会の中ではヘイトスピーチに代表されるような差別や誤った認識が広がっているのです。政府はこうした課題の解決を先送りにして、今回の新たな受け入れに舵を切ったのです。
この社会にすでに移住者がここにいる だれもが安心して自分らしく生きられる社会へ
移住者の声を吸いあげて「移民基本法」の制定へ
こうした社会の流れのなかで、外国人移住者が増え始めた1980年代からこうした活動を行っている移住連としては、あらためてこういったミッションを掲げています。
「移民、外国にルーツを持つ人々の権利と尊厳が保障され、だれもが安心して自分らしく生きられる社会を実現すること」。そのために「移住者がこの社会にくらす一員である」という前提にたった「移民基本法」の制定を私たちは目指します。
その一環として2017年から始めたのが「―ここにいる Koko ni iru―」キャンペーンです。このキャンペーンは集会やタウンミーティングを通して、移住者の声を吸い上げていくことを目的としています。また、そういったイベントを通して、「移住者はすでにここにいる、これから受け入れられる新しい存在ではなく、あなたの隣をはじめ、さまざまなところに既にいる」んだということを発信していくことも目的としています。実は、こうした政策提言をする場に当事者がいないのは課題だということで、韓国にルーツを持つ私が去年の4月から移住連で働き始めています。
このキャンペーンの中でも特に大きく行われたのが、2018年6月に札幌で行われたワークショップです。「私たちがつくる移民政策」と題しまして6月9~10日の2日間にわたって開催しました。総勢170名程の方々が集まって、ありとあらゆる議題について濃密な時間のなかで議論をしました。2日目全体会では「移民はここにいる」、「移民・マイノリティに権利と尊厳を」、「多様性が尊重されるために/反差別」、「貧困をなくそう」、「民主主義を土台に」という大きな5つのテーマについて、参加者の方々がそれぞれ考えをボードに貼ってくださり、私たちは今こうした意見を集約して政策提言という形にしている段階です。
こうした政策提言活動を踏まえてソーシャル・ジャスティス基金の助成に申請した事業は、3つの柱として、①新しい政策提言の媒体を作成すること、②その政策提言発表の場を広げること、③プレ・フォローアップイベントを開催して認識を広げ続けることを掲げました。
まず一つ目について、移住連としてこれまでにない形の政策提言発信の媒体を作りたいと考えています。過去にも移住連は政策提言をつくってきました。ただその媒体は書籍型で、かなり完成度は高く仕上がる一方で、細かくて誰も読んでくれないという課題がありました。やはり読まれなくては意味がないので、今回は札幌で出されている『SDGs×先住民族』という冊子を参考にして、みなさんに手にとっていただきやすいような冊子型のものを作ることにしました。こういったふうにSDGsに絡めることで政府や学生さんに至るまで多くの方々が読みやすい媒体を目指します。また、SNSも活用して発信することで、より広い層に届けていきたいと考えています。
柱の二つ目は、この政策提言発表のための場を広げることです。もっと多くの方々に知ってもらうため2019年6月1日から2日間開催予定の「移住者と連帯する全国フォーラム・東京2019」を、政策提言発表の場とすることにしました。メインプログラムには、外国にルーツを持ちながら今は日本を中心に世界で活躍するタレントであるヘル・ローズさんと矢野デイビッドさんをスピーカーに招き、これからの日本の多文化共生社会についてお話いただくことになりました。また分科会も、ミックスルーツやLGBTといったこれまでにない分科会を設置することで、今まで移民というものに興味のなかった層や、こういった活動に関わる機会のなかった若い人たちにも関心を持ってもらえるような工夫をしています。
柱の三つ目は、目的達成のためにの継続的取り組みとしてのプレ・フォローアップイベントの開催です。まず政策提言発表の場となるフォーラムの前にプレイベントを開催することで、移住者を取り巻く問題に対する認識や関心を高めていきます。またフォーラムの後には政策提言に関する勉強会を開くことで市民立法としての移民基本法の制定に向けて継続的に発信し、共感の輪を広げていきたいと考えています。
2018年12月15日には国際移住者デーを記念してプレイベントを開き、この社会に暮らすさまざま人々との「出会い」をテーマにした参加型ワークショップを行いました。グループの一人が目隠しをし、周りにいるグループのメンバーに体を預けるという内容です。最初は緊張や不安など、もやもやした感情を持ちますが、やっていくなかでこのメンバー間で打ち解け、信頼感が醸成されていきます。これは実際の社会のなかでも起きていることです。何も知らないままで会うと不安や恐怖といった感情が先行してしまいがちですが、会って話しをしたり、さまざま体験を共にするなかで人間対人間の関係が醸成されていく感覚は皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか。このワークショップではそうした経験を感じてもらうために企画しました。。
各グループにワークショップを通して感じたことを思いのままに布に書いていただき、その布を全てつなげて一つの壁画をつくりました。さまざまな背景を持つ参加者の思いがいっぱい詰まった素敵なこの壁画をフォーラム当日に展示しようと思っていますので、フォーラムに参加される方々はぜひ注目してみてください。
まとめに移ります。
現状として社会一般的には、移住者の方々がすでに「ここにいる」という認識はまだまだです。また、移住者の権利運動の中心に当事者がいなかったということも課題でした。そうした点をふまえ本事業では、当事者の声を反映させた政策提言に基づいた市民立法としての「移民基本法」を提出するプロセスを経て、移住者もこの社会で暮らす一員であり、政策に関与することが当たり前だという環境を醸成していくことを目指します。
近藤康男さん・モザンビーク開発を考える市民の会) ずっと以前から興味を持っている課題であり、荒川区に住んでいるのですが、荒川区はまちを歩いていると中国語と韓国語・朝鮮語が氾濫していて、また最近はベールをかぶっている女性や、ネパールからの移住労働者の方もよく目にします。私たちの生活の場にいらっしゃるということは日常的に経験しています。そのうえで具体的な課題のようなところでどのようにお考えなのか、うかがえればと思います。
最近テレビの報道で知ったのですが、義務教育は「国民」(日本国籍の居住者)の権利であるということを初めて知りました。移住されてきた方の子どもや、既に三世で自分の子どもの教育の場を見つけられない、そんなテレビ報道を見てその問題を始めて知りました。
移住連の政策提言の第一歩ということでいくつか分科会のテーマが挙げられましたが、「教育」も広い意味では社会保障的な暮らしの場での権利あるいは制度と言えるかと思います。その点について、この政策提言のなかにどういった盛り込み方を考えていらっしゃるか。
もう一点は、私は荒川区の日本語教室のボランティアをしています。防災訓練を主催する荒川区の国際交流協会が日本語教室の生徒のみなさんにそういう場をつくっていて、「防災はこうするんですよ」とか「119番では救急なのか火事なのかきちっと伝えなさい」といった説明はされるのですが、日々そういった場で感じるのは、先ほどから「自分たち当事者の声を」という表現が多くあったように、日本語教室の生徒さんたちが防災についてどんな難しさや期待や困っていることがあるのかという声を聴いた上でやらないといけないのではないかということです。
「防災」という言葉がこの提言のなかに具体的には出ていなかったので、暮らしの場で困っていることとして防災の問題なのか、どのようにお考えかうかがえればと思います。
いろいろな問題点が共有されたなと思いました。ただ一番難しいのは、排外主義的な雰囲気があって、同じ制度の問題点を話題にするなかでも違った立場がそこに反映されている。この問題は突破することが難しいと思います。移民を受け入れて当たり前じゃないの、それで共生ではないのと少し広げることの難しさをどう考えているでしょうか。
移民をマスの現象でとらえないで一人ひとりの人間として見て 子どもや若者が下から上げる声を政策に
包括的な教育の保障を
崔さん) まず教育の観点について、みなさんご覧になられた方もいらっしゃるかもしれませんが、新聞報道に外国人の子どもたちの未就学率が高かったという記事が出ました。そういった現状を見ると、まだまだ課題も多く、夜間中学といった日本語にハンデのある子どもたちへの教育の場の充実がとても必要になっていると感じます。今そういった現場で活躍されている元教員の方もいらっしゃいますが、まだ課題が多く、またその後の進学や就職への支援も必要になっています。ですので、政策提言にどう盛り込むかについては、やはり視野を広げるのが大切だと思いました。日本人の感覚で見てしまうと、なぜそれが特別に必要なのかが分かりにくいですが、想像力を膨らませ、日本語指導や義務教育への参加はもちろん、それと同時に母語の教育なども含めた包括的な教育の必要性、重要性をきちんと発信することが大事だと思っています。
いま移住連では、高校生や大学生などを中心とした若いボランティアが増えており、そのほとんどが外国にルーツを持っています。そうした学生たちは、自分たちの背景に起因する困難の体験があってこの活動に関わっていますので、その経験をふまえた生の声を下からどんどん上げていくことも重要だと感じています。
二つ目の防災については、北海道で夏に地震がありましたよね。北海道で活動していらっしゃる方がいまして、その方から、すでに日本に暮らしている移住者の方々は意外と大丈夫だったという話を伺いました。これは、移住者の中には地域に根付いている方々も多く、その中で助け合う環境や関係性が出来上がっていたようです。そういったコミュニティーでつながるなかで防災への認識を深めていくことも一つの重要な視点だと感じています。
最後の、移民が当たり前という認識を高めていくというところは、とても大事ですが難しさも感じています。というのも、昨今のメディアでの取り上げられ方でも分かるように、「移民」はマス(集団)の現象としてとらえられがちです。移民とは人であり、日本に来て暮らしている一人ひとりの人間です。例えば、私も移民にルーツを持つ人の一人です。そういうふうに一人ひとりを見ていけば単純なことにもかかわらず、「移民」だ「移民」だとマスの現象として捉えてしまっていることが、共に生きる社会をつくることを難しくする問題の一つだと感じています。ですので、市民社会からの働きかけも重要ですし、さらに人々が交流できる場を増やしていったり、また学校など外国にルーツを持つ子どもたちが増えているところもあるので、下から上へ認識を広げていくことが重要なのではないかと思っています
災害時 マイノリティの権利不全が際立つ
山岸素子さん・移住連) 防災のところで一つ補足します。いま札幌の例が話されましたが、その前の東日本大震災や熊本や阪神の時には、外国籍の人たちは災害弱者として、初め情報が届かず、地域で本当に大変な思いをしました。そのために阪神淡路のときには新しくそこで支援運動をするグループができたり、東日本大震災ではそれに特化した支援活動が起こる程、マイノリティの人たちが災害時にとりわけ通常の権利のない状況が際立つということです。地方自治体でもいろいろ取り組みがありますが、やはり力をいれていく分野です。
教育については、公立に行くという選択だけでなく、外国人学校に行くという選択肢も含めて、ありとあらゆる選択ができる包括的教育の保障を、提言していくべき内容として移住連では考えています。
参加者) 80年代からの同じ轍を踏まないためにという言葉がレジュメにあります。一方で90年代になるでしょうか、外国籍の方が議会に代表を送れないので、例えば川崎市で外国人の方たちの生活に密着した意見を政策にぶつける場がつくられたり、外国籍の方の地方コミュニティーとしての裁量の問題で裁判を含めて取り組みがあったり、そういうことがあってむしろ今の社会に比べればはるかに地域社会への参加ということで活発な議論があったと思います。それが現在はむしろヘイトスピーチなどで、逆方向から、外国人の方の地方参政権についてネガティブな方向から報じられるということで、こういった過去のさまざまな運動体や個人の取り組みをどういうふうに振り返られて、移民基本法の制定を目指すと考えておられるのか。
外国人材を1980年代から使い捨て労働者として受け入れてきたことを繰り返さないために
山岸さん)政府は今「外国人材受け入れ」と言っていて、使い捨て労働力の受け入れを大々的にやろうとしているのですが、それは30年前から変わらない政策です。1980年代には非正規滞在のオーバーステイとしてたくさん受け入れ、その次には日系人の労働者を受け入れ、その次には技能実習生の受け入れをし、いつも、定住する移民ではない形で受け入れてきた。こうした使い捨ての労働者の受け入れをこれからも繰り返そうとしていることに対して私たちは強く言っていこうとしています。
一方で私たちの活動がどう変化してきたかといいますと、移住連のネットワーク団体は80年代後半~90年代に生まれた団体が多いです。この時期にニューカマーの外国人の労働者や国際結婚の人たちが日本に入ってきたのですが本当にひどい賃金支払いが行われていて、それに対して、各地での草の根的な団体、キリスト教の団体やシェルター、労働組合などいろいろな団体が生まれていきました。
ですが社会全体の雰囲気がおっしゃられたような状況で、私も90年代にこの活動を始めましたが、この頃はオーバーステイの人がピークで30万人いた時代で、代々木公園に毎週1000人のイラン人が集っていても社会でそれが許容されていた雰囲気がありましたが、今はそんなことはあり得ない、まちのなかで非正規滞在の人など徹底的に排除となっているような政策と社会の雰囲気は厳しくなっています。その点を私たちも活動していくなかで難しく感じていることも確かです。
ですがそのなかでも、当事者たち、移住者たちが声を上げるということで、それを打開する一番大きな方法ではないかということで、このような提言活動を始めているところです。
教育を受けることは全ての子どもたちの権利
参加者) 私も外国人で、ネパール人です。最近、日本にネパール人が増えてきて、ネパール人の子どもたちも増えてきています。最近、田中雅子先生の発表を聞いて、約1万人ぐらいの子どもたちがいると認識しました。私が聞きたいのは、今年の4月から新しい入管法が施行されて、だんだん多くの移民の方が日本に来ます。その来る際に子どもたちも連れてきます。国に関係なく、教育を受けることは全ての子どもたちの権利ですが、特に私が気になっているのは、だんだんネパールあるいはベトナム、他の国々から来る子どもたちが国際的な学校にいくために経済的な力あるいはペアレントが無くて行けない。また日本の私立学校に入るために、まず言語と経済的な力が足りない。公立学校に行くためにはいろいろな問題があるのですが、まず言語の壁があって、両親が情報を受けるために役所に行っても、たくさんの日本語の書類をもらって何が大事なのかわからなくなって家で捨てるしかない。このように変わっている状況のなか、まず日本の政府は何を考えているのか、あるいは移民や移民の子どもたちをサポートしている移住連のような団体がどう対応しようとしているのかお聞きしたいです。
家族帯同を認めないのは労働者の人権侵害
山岸さん) まず今度4月から入ってくる方たちの大多数をしめる「特定技能1号」は、家族の帯同が認められていない在留資格なのです。いま日本にいらっしゃるたくさんのネパールの方々は、たとえばお父さんが「技能」などの就労資格を持って日本で働いていらっしゃり、その家族はお子さんも含めて日本に入ってきているのですが、この4月から入って来る人たちは家族帯同が認められていなくて、技能実習生と同じような形なのです。ですのでこれによって新しい子どもたちが増えるということにはならないでしょう。でも私たちはそれがひどい人権侵害だと思っています。労働者を必要としているから日本は受け入れるのに、家族はダメとするのは、外国人への人権侵害だとアドボカシーをしています。
一方、いま日本にいるネパールにいる子どもたちの教育の保障は全然しっかりしていない状況、今おっしゃったような現状なので、それに関してはそれとしてしっかりやるべきだと私たちは言っています。
労働者として入って来る人たちには家族を帯同する権利があるし、ぜひ多くの人たちが来たらよいと思いますが、それに関しては受け入れ態勢をきちんとするべきだと私たちは主張しています。
政府が新しく出した「外国人材受入れと共生のための総合的対応策」では、子どもの教育や日本語教育への予算がついているのですが、非常に限られており、ただ言っているだけの中身の無い実態で、それに対して私たちは批判をしています。
◆NPO法人 国際子ども権利センター 甲斐田万智子さん・代表理事
「子ども自身によるアドボカシー促進のための子どもの権利普及事業
〜マイノリティの子どもに焦点をあてて~」
私たちの事業は、とくにマイノリティの子どもに焦点を当てていきたいと思っています。その意味で移住連がこれまでなさってきた活動と重なるところがあるので、ぜひ協働して活動させてもらえればありがたいなと思いました。
国際子ども権利センター(C-Rights)は1992年に設立された団体です。子どもの権利を実現するということで、国際協力NGOではありますが国内で子どもの権利条約を普及させる活動をしてきました。とくに最初のころはJFC―-日比国際児と呼んだりしていますが――、おもにフィリピン人の女性と日本人の男性との間に生まれた子どもの権利擁護・権利実現の活動もしてきました。
私は96年にこの団体に入りましたが、その前にインドに4年間住んでいた関係から、児童労働の問題を日本の人にも知ってもらいたいということで児童労働の問題に取り組んでいました。C-Rightsはもともと「子どもの参加の権利」にフォーカスをあてて子どもの権利を実現したいと思っています。働く子どもたち自身が児童労働の問題をどのように捉えて解決しようとしているのか、どのように社会を変えようとしているのか、日本の人たちにぜひ知ってもらいたいということで、子どもに直接発言してもらう機会を持つために子どもたちを日本に招聘して大阪と東京でシンポジウムを開催しました。
その他に、横浜で開かれた「子どもの性的搾取に反対する世界会議」に中心メンバーとして参加したりしていましたが、その時にとくにカンボジアの少女たちが、貧困につけこまれてとくに外国人ツーリストによって性的搾取されて、そのトラウマに苦しんでいるという話を聞きまして、何とかしたいと思い、その後、カンボジアの子どもの人身売買と児童労働の防止活動を続けて今に至っています。
一昨年ぐらいから、日本の子どもたちのことにも目を向けてもっと活動したいということで、とくに子どもに対する暴力の問題をなくしたいとの思いから、「脳科学に基づいた子育て講座」ができるメンバーに恵まれまして、その講師はACEs(Adverse Childhood Experiences子ども時代の逆境的体験)がいかに将来にわたって影響を及ぼすかということも含めて話せるため、それをテーマにした講座も開いております。地域や団体でこの講座を開催してみたいことがありましたら呼んでいただければと思います。
「子どもに対する暴力撤廃日本フォーラム」というネットワーク団体が一昨年前からできまして、先ほど上村さんから今NGOは単独でやることが多いということが言われましたが、このフォーラムはいくつかのNGOが一緒になって海外でも日本でも子どもに対する暴力を無くそうということで、主に政府に働きかけるアドボカシー活動をしているのですが、これにも関わっています。
C-Rightsは子どもの参加の権利を大事にすると言いましたが、子どもがエンパワーして子ども自身が自分たちの問題を表現していくこと、そして変えていくことを大事にしているのですが、子どもがエンパワーするだけでは社会は変わらないということで、同時に子どもたちの意見をうけとめ社会を変えていこうとする大人のエンパワーメントと社会全体、地域のエンパワーメントを目指して活動しています。
子どもたちが多様に生きる、自分らしさを出せる権利を理解しない大人 自分を隠さざるを得ない子どもたち
解決したい課題についてですが、今年は何の年でしょうか。実は、今年は子どもの権利条約を国連が採択してから30周年になるのですが、どれだけ子どもの権利、子どもの権利条約がこの社会に浸透しているでしょうか。非常にお粗末な状況だと言わざるを得ません。私は大学の教員もしていて、子どもの時にどれだけ子どもの権利を学んだかと学生に必ず聞くのですが、ほんとうに少ない数の学生しか教わっておらず、子どものときに全く教わらなかったという学生も多いのです。
その要因としては、きちんと子どもの権利を教えられる教員がいなかったこと、そして親たち自身が教わってこなかったので子どもたちに教えられないということがあると思います。マイノリティの子どもたちの親は一番そういう子どもたちを守らなければいけない存在であるにもかかわらず、逆に子どもたちを苦しめていることがあったり、権利を知らないがために、子どもたちの権利を脅かしているという状況があると思います。その結果、子どもたちが多様に生きる権利、自由に自分らしさを出せる権利が理解されないまま、子どもたちが自分のありのままを親にも学校にも隠さざるを得ないという状況があります。
そのマイノリティの子どもたちはたくさんいると思うのですが、とくにこの事業でフォーカスを当てたいのが3つのグループで、外国にルーツを持つ子どもたちと、LGBTの子どもたち、不登校の子どもたちです。昨年の5月に「多様な背景をもつ子どもたちの権利」というシンポジウムがあったのですが、ショックだったのは、15歳までは本名でも地域や中学校で守ってもらえても15歳を過ぎると高校などで差別されるので帰化する子どもたちがすごく多いということです。移住連の崔さんは堂々と私は外国にルーツを持つとおっしゃっていますが、隠さなければいけない子どもたちがすごく増えているという現象があります。
そんな多くの権利侵害、差別を受けている子どもたちのことをこのアドボカシー事業で取り上げたいと思っています。
外国にルーツを持つ子どもたちについては、まず教員の理解がないということで、辛いことを話してもなかなか理解されないということがあります。たとえば<すたんどばいみー>というグループの代表理事の若い女性は、ずっと辛い思いをしてきた後に先生に話すと「なんでもっと前に話してくれなかったの」と言われたそうですが、あまりにも辛くて話せなかったということだったのですね。そのようにもう少し理解があれば早く話せたのにという子どもたちがいたり、あるいは日本語ができないまま学校に入ったら教員から「そんなに日本語が話せないなら母国に帰れ」と言われた子どもたちがいたりします。
そして親は移民としてあるいは難民として日本に住むようになると、マイノリティとしてどうしても自分の国の文化を守らなければいけないという意識が母国にいた時より強くなって、伝統的価値観を子どもたちに強要しようとするわけです。そういったなかで、日本ではジェンダー平等がまだまだ遅れているとはいえ、女の子でも活動できるという価値観を持っている子どもとそれを認めようとしない親との間で女の子は苦しむことがあります。たとえば、日本にいても、女の子は早く結婚しなければいけないという母国の価値観を押し付けられてしまったり、あるいは女の子は夜出歩いてはいけないと親から言われてしまうということがあったりします。
また今、地域によっては、外国につながる子どもたちがたくさん小学校に通うようになっていますが、日本人の親たちの「あの学校は外国人の子どもがすごく多くなっているから自分の子どもを通わせることができない」という会話を子どもたちが聞いてしまうこともあります。
LGBTの子どもたちの人権問題も、今ではだいぶ取り上げれるようになりましたが、からかいや暴力に遭う子どもたちはまだまだ多くいます。ようやくこの先生ならと思って「自分はトランスジェンダーなんだ」と話すと「そういうのは一時的なもので大人になったら治るよ」と言われたり、先生からもからかわれたりします。あるいは親も、子どもたちがカミングアウトした時にありのままの子どもたちを認められなくて、どうにか子どもを変えようとしたり「治そう」としたりする。政府もようやくLGBTの子どもたちについて対策を取ろうとしていますが、その理由は何かといえば、LGBTの子どもたちに自殺願望を持つ子どもたちが多いので自殺予防のためであり、そういった観点からしか対策を取ろうとしていないのです。
不登校の子どもたちについては、親から学校を唯一の選択肢として無理やり通わせようとさせられ、病気ではないかと思われたりすることが前からあり、変わってきたとはいえ、もっと社会で学校以外の選択肢、ホームエデュケーションやフリースクールで学ぶ権利が認められるべきだと思います。
自分の権利を知ることでエンパワーされた子どもたちが参加し変わる社会
子どもの声を受けとめられる大人の育成を
C-Rightsは国際協力団体として、カンボジアやインドで子どもたちが権利を学ぶことでエンパワーされて、自分はもっと社会を変えていけるんだ、社会を変えていきたいというふうに変わっていく姿を見ることが多くありました。とくにカンボジアではピアエデュケーターという、仲間から仲間へ権利を伝えたり、児童労働・人身売買のことを伝えていく活動によって子どもたちが変わっていきました。それを社会に訴えていくようになったのです。
日本の子どもたちが自分の権利を知ることでエンパワーされて、社会に訴えていく事例も見ています。やはり、そこでは権利やRights-based-approachが重要で、子どもが参加して子どもが声を上げていくことがいかに重要かも子どもたちは学んでいきました。
カンボジアでは村議会のようなものがあり、子どもたちがそこで意見を言う機会を与えられています。もっと学校に通えるようにしてほしいとか、人身売買を無くしてほしいとか子どもたちが地域で訴えてきました。そこでエンパワーメントされた子どもたちが、子どもたちがベトナムに物乞いとして送られてしまうことを止めてほしいというキャンペーンを行って、そういうキャンペーンを行った後には親にきちんとメッセージが伝わったか等を子どもたちがふりかえりました。また、もっと学校で先生たちがきちんと授業をしてほしいからそのことを訴えるキャンペーンをしたいよね、と話し合って子どもたちがさらにたくさんの距離を歩いて訴える活動をしました。そういう子どもたちの声によって地域社会、住民たちが変わっていくという経験をしました。
日本国内でも同じように、子どもたちのエンパワーメントを通じたアドボカシーをやっていきたいと思っています。また、子どもたちがエンパワーメントされても、周りの大人が子どもをきちんと信頼していなければいけないので、子どもの声をきちんと受けとめられる大人の育成も非常に大事だと思っています。
子どもたちが安心して発言できる居場所 ありのままを出せる居場所とのつながり
外国にルーツを持つ子どもたちにつながりたいということで、ひとつ今考えているのが、神奈川県営いちょう団地をベースとする<すたんどばいみー>という自助グループです。ここは元々は学習教室として始まったのですが、子どもたちが自由に他にしたいことを提案してもそこではなかなか認めてもらえなかったことから、自分たちで支え合うグループをつくりました。LGBTの子どもたちについては、<にじーず>というグループが、池袋にあるのですが、遠藤まめたさんという当事者の方が、子ども若者がもっと自分のことを話せる居場所が必要なのではないかと始めたものです。
不登校の子どもたちについては、東京シューレの子どもたちとの活動を考えています。フリースクールとして有名なのでみなさんご存知かと思いますが、子どもが参加し、子どもが社会を変えていくことを信じて、日本で活動をしている人たちで、C-Rightsがこれまでずっとお付き合いをしているグループです。
これら3つのグループはいずれも、本当に子どもたちが安心して発言できる居場所をそれぞれつくっています。学校でも家庭でも自分を出せない子どもたちがそこに行けばありのままを出せる場所です。
<すたんどばいみー>は『いちょう団地発!外国人の子どもたちの挑戦』という本を出していて、そこにもジェンダーの先述の問題――難民として日本に来た親が娘に伝統的な価値観をすごく求めるので息苦しさを感じていること――などが書かれています。この<すたんどばいみー>からカンボジアとベトナムの女性を招いて2018年7月の終わりに「子ども誰一人取り残さない社会をめざして~インドシナ難民たちの子どもの権利を考える~」を開催しました。彼女たちからはどんなことが辛かったか、どんなことが必要かという話をたくさんしてもらって、それに対して私からは、さまざまに使えるツールとして子どもの権利があると話しました。
たとえば「子どもの権利条約」には、外国にルーツを持つ子どもたちの権利をどのように保障しようとしているかを説明し、また、条約だけでは足りない部分を補完するものとして「一般的意見」があるのでそれを使っていくといいのではないかと話しました。
とくに2017年に制定された「国際的移住の子どもの人権に関する一般的意見」はとてもいいことがたくさん書いてあって、これを使っていけば、例えば先述の「日本語が分からないなら帰れ」言われたら、「私たちにはもっと日本語教室が必要です」と訴えて日本語教室を開いてもらうことができると思います。また、先ほどの発表者(近藤康男さん)が荒川区の夜間中学で教えてらっしゃると聞いて嬉しく思ったのですが、ここに書かれてあることを読めば、スタッフが足りなければ「予算を付けてほしいです」と要求したり、「母語をもっと知りたい、習いたい」ということであれば、そのための支援を要求していくことができると思います。それらを子どもたちに伝えながら、「私はこのことを要求したい、このことをもっと考えていきたい」というワークショップを開いていきたいと考えています。
<にじーず>も同じように居場所として子どもたちがありのままでいられるのですが、じつはここにはLGBTだけでなく他の子どもたちも居場所を求めてやって来ているそうです。遠藤まめたさんとしてはこういう場所が本当に必要だとわかっていて、にもかかわらず限られているので、たくさんの居場所をつくっていきたいと思っているそうです。まずはLGBTの子どもたちのニーズを発信することで、各自治体に居場所をつくっていくようなアドボカシーもできるのではないかと考えています。
「ありのままに生きる権利」は子どもの権利条約の最大の原則
「平等と公正」――マイノリティの子どもたちは特別な配慮を受ける権利がある
東京シューレの場合は、多様な学び、子どもたちが学びたいことを学べるようにすることを進めていますが、「自分で決める」ことを大切にしている学校で、「自由とは何か」をいつも子どもたちが考えている場所です。子どもたちがどんな学びをつくっていくかを考えている場所です。
東京シューレの子どもたちが自分たちで作った「不登校の子どもの権利宣言」があります。これを読むと、決して不登校の子どもたちだけにこれらの権利が必要なのではなく、あらゆる子どもたち、とくにマイノリティの子どもたちにこの権利を全部保障していけるようにしたいなと思います。
たとえば5番目の「ありのままに生きる権利」や「差別を受けない権利」は子どもの権利条約の最大の原則の一つです。
そして、7番の「公的な費用による保障を受ける権利」もそれぞれの学びを選びたい子どもたちが共有していけばいいのではないかと思います。たとえば台湾からの子どもたちが学校の先生から「平等に教育をする義務が私たちにはあるから、君たちにばかり関わっていられないんだ」と言われたそうです。「平等と公正」、みなさんご存知だと思いますが、マイノリティの子どもたちは特別な配慮を受ける権利があるわけですので、そういう予算を求めていくことが「公正」の観点からは出てきてよいと思います。
13番目の「子どもの権利を知る権利」は、本当に子どもたちは現在知ることができないでいるので、もっと子どもたちが権利を知れるようになってほしいと思います。
今年は子どもの権利条約30周年ですので、これを記念して『子どもたちが自分たちの権利を守る30の方法』という本を4月に発行したいと思っており、今いろいろな方に原稿を書いてもらっている段階で8割位集まっている状況です。
私たちが願っているのは、この本を読んだ子どもたちが単に知識として知るのではなく、「そっか、こういう権利があるから、自分は当事者としてこのことを要求していこう」と思ったり、「他の子どもたちはこんな権利が奪われているんだ。じゃあ自分たちとして何かできることはないだろうか」と共感をした上で行動をとっていけるような、そういう子どもたちのモチベーションを上げたりする、アクションを促すような本にして行きたいということです。
本を出版するだけではなかなか使ってもらえないと思いますので、どのように活用するかというシンポジウムを開いたり、先ほど申し上げた3つのグループとそれぞれワークショップを開いて、この本でこんなふうに書かれているけれど、どんなふうに思うか、どんなふうに使えるか、そして、もしこの本を読んで子どもたちが伝えたいこと、主張したいことがあったら教えてほしいと伝え、それを書きとめて、集めることにより、(C-Rightsは子どもの権利アプローチの団体なので)責務を負っている大人に、たとえば、教員のグループや行政、できたら難しいかもしれないけれど、いちょう団体などの地域住民や親に「子どもたちはこんな要求を持っているので何とか応えてもらえないでしょうか」と働きかけていけないかなと思っています。
それぞれ3つのグループがそれぞれ権利を学び、アドボカシーの経験をしたところで、できれば3つのグループが一堂に会して、最後にSJFアドボカシーカフェで、「私たちはこういうことを学んだ、こういうことを訴えていきたい」と発表してもらえないかと考えています。3つのグループには共通点があると思うので3つの声を一つにすることでもっと社会の制度政策がかわるようなことにつなげていければと思います。さきほど、しあわせなみだの方がメディアや国会議員への働きかけをやっていらしたので学ばせていただいて、やれる範囲で、子どもたちの声を政策につなげていきたいなと考えております。
佐々木) 日本が子どもの権利条約に1994年に批准して、子どもの権利条例を作っていこうという活動が95年位から生まれましたけれども、やはり「権利」という言葉に対するアレルギーが強く、理解していただける前に強い拒否反応があって、この10年間位はその言葉自身が言われなくなってきたように思います。
参加者) 緊急一次保護の件数はいまや13万件を超えて、子どもの虐待は止まるところを知らないほどです。緊急一時保護の子どもたちも多国籍になっておりまして、さまざまな国籍の無い子どもも保護されるようになってきていますし、社会的養護の子どもたちもさまざまな背景を抱えてさまざまな国籍の子どもがいます。新宿区・豊島区は児童相談所ができるのですが、やはり社会的養護の子どもたちが非常に多国籍な状態になってきていて、里親の受け皿も日本人の子どもだけでなくさまざまな国籍の子を日本人が育てていくという時代になっています。
その子どもたちが大変な状況に置かれています。たとえば修学旅行一つとってもパスポートが違うわけなのです。海外旅行はパスポートがあれば行けるのですが再入国ができなくなったり、みんなと同じ教育を受けたいわけなのですが、見ためがみんなと違うので、いじめに遭ってしまったり不登校になってしまったりしています。みんなと一緒に楽しく学校生活を送りたいのですが、なかなかそれがうまくいかない。
そういったユースの声や社会的養護の子どもたちの声、虐待を受けた子どもたちの声を、広くみなさんに届けられたらと思います。
――閉会挨拶――
大河内秀人・SJF審査委員) また新たな2団体を応援できますことを私たちはうれしく思っております。
環境に関する国際会議に参加すると、日本の人権の状況を心配される、同情される。原発の問題にしても、外国人の問題にしても、世界的に見ればおかしい状況なのでしょう。
今年は、子どもの権利条約が国連で採択されてから30周年ですが、日本が世界で158番目に批准してから25周年という年になっています。私は子どもの権利条約の普及活動もしておりましたが、なかなか厳しい。子どもの権利条約は、地域で子どもの周りの人みんなが知らなければ意味がないということで活動してきました。学校の先生の研修会等で子どもの権利条約について話をすることも多々ありましたが、先生自体が子どもの権利条約を知っている人が少ないという状況で、たぶん今もその状況は続いていると思います。
ソーシャル・ジャスティス基金にはたくさんの団体が応募していただいております。非常に多種多様な団体が応募してくださっています。この世の中で何か一つ気づいた人たちが、あるいはそこで出会った人たちが仲間をつくって一つひとつ地道に積み上げていく、そういうものがあちらこちらにあるということ、そしてまた、地域やコミュニティーのなかで多くの人たちの支えになっているということを感じています。
地道なアドボカシー活動が小さなところからでも一つひとつ細かい条例や法律の改正や、あるいは民間事業に対するプレッシャーなどが少なからず起きていることも大変これは希望なのではないかと感じております。希望の持てる小さな取り組み、希望の持てる大きな力をネットワークしていけるように、そしてまたその一つのアンテナに、ソーシャル・ジャスティス基金もなっていきたいなと思います。
日本が世界から同情されると申しましたが、根本的には、ソーシャル・ジャスティスという観点が非常に日本のなかに圧倒的に欠落している。そして、それを本来支えていくべき市民社会がまだまだ弱いということ。みなさまとともにこのネットワークを深め広げていければと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
●次回アドボカシーカフェのご案内
『虐待の連鎖からの離脱 ~幼少期の逆境体験をうけとめ~ 』
【登壇】浜田進士さん(児童自立援助ホーム「奈良あらんの家」ホーム長)
坂東希さん(島根あさひ社会復帰促進センターでの実践研究を経て、NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝理事、敬和学園大学[共生社会学科]元専任講師)
【日時】2019年3月5日(火) 13:30~16:00
【会場】文京シビックセンター
【詳細】こちらから
*** 今回の2019年1月16日の企画ご案内状はこちら(ご参考)***