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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第56回開催報告

 

孤立が生む被害

障がい児者への性暴力を生まない社会へ

 

 2018年10月11日、岩田千亜紀さん(東洋大学社会学部社会福祉学科助教)と中野宏美さん(NPO法人しあわせなみだ代表)をお迎えしたアドボカシーカフェを、SJFは東京都文京区にて開催しました。

 今年のノーベル平和賞を、性暴力被害と極限状態の場で闘ってきたお二人が受賞しました。良い方向に今やっと向かい始めたのかな、と発達障害者の居場所、Neccoカフェの創設者である金子磨矢子さんは語りました。発達障害は、誰の中にもちょっとずつあるもので、障害ではなくその人の特性のひとつだと思っていると金子さんは話しました。発達障害という表現は医学用語ではなく、行政が支援するために「障害」と付けた行政用語だと説明されました。

 「障害」は社会にある障壁が作るものであるという考え方、社会モデルによって、障害者への性暴力の問題は考えていくべきものだと岩田さんは提言しました。

 発達障害の特性として、特定の分野に突出した能力を持っていたり、言葉をそのまま受け止めがちだったり、敏感さと鈍感さを併せ持っていたり等が説明されました。しかし障害者が育つ家庭・学校・職場・地域社会などでそういった特性が理解されず、孤立していってしまう。そして、自分で孤立する状況を何とかしようと、愛想良くしたり、相手を受け入れたり、一所懸命話しかけたりする。しかしその結果、相手が自分の思っている以上に近づいてきて、そこでもやはり断れなくて、暴力に遭っているということが、中野さんがNPO法人しあわせなみだで行った発達障害者への調査で明らかになりました。

 障害者の特性が、ありのままに受け止められる社会になれば、そして障害者が孤立しなければ、自己肯定感が低くなることも減り、性暴力の被害に遭うことも減っていくと岩田さんは強調しました。

 障害者が性暴力で被害を受けている現実を社会が認知し、障害をもつ被害者にも合理的配慮がなされる社会になるよう、人々の関心を高め、支援策や法制度が改善されていくことを目指して、NPO法人しあわせなみだは活動していくと中野さんは表明しました。障害者への性暴力の問題については、障害者の問題からも、性暴力の問題からも見逃されてきたことを岩田さんは指摘しました。さらに、現在の改正刑法では救われない障害者の性暴力被害者が多くいる上、既存のDV防止法や障害者虐待防止法ではカバーできないと説明されました。

 多様な方々が出会い関心を持って会話をしていただくなかで、いろいろ気づき、新たな一歩が生まれた会となりました。 

※コーディネータは、大河内秀人(SJF企画委員)

GuestAll20181011

 

――岩田千亜紀さんのお話――

 しあわせなみださんが実施した調査の報告書を監修させていただいた関係で、一緒にご登壇させていただくことになりました。

 簡単な自己紹介をいたします。いま東洋大学の社会学部社会福祉学科で教員をしております。

 新宿にNeccoカフェという発達障害当事者の方たちが運営しているカフェがありまして、今日はその創設者の金子さんがいらしていますが、私もスマイルネットという当事者会で、発達障害の当事者であるお母さん方――今日はご専門の方もいらしているかもしれませんが、発達障害はお子様だけでなくお母さま自体が発達障害という方もけっこういらっしゃいます――そういった方たちを2014年からサポートさせていただいております。2年間の当事者会で、だいたい毎回10名位いらっしゃるのですが、これまで延べ100名位のお母さん方と会をさせていただきました。

 もともと私は開発コンサルタント、ODA事業の評価等をやっていました。最初はインドに行きまして、児童労働の問題などをやっていました。いま思うと、児童労働の問題は性暴力の問題と密接に関わっていまして、お母さんが女の子を一人家に残すと女の子が性暴力の被害に遭いやすく、お母さんが職場に連れていったりとか、でも職場でも性暴力に遭うとかありました。性暴力の問題が前職でもたくさんあったなと思います。 

 出産後、発達障害の女性の問題がほとんど調査されていないことを知りまして、働きながら博士課程に行き、調査を行いました。調査をした時に、じつは発達障害のお母さんたちは、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害を受けている方がすごく多かった。性暴力はなかなか表面に出てこないのですが、被害が意外と多く、でもそういった調査はあまりなかった。そういった時に、中野さんに出会いまして、調査に至ったわけです。

 

 今日お話ししたいこと、4点ほどになります。

 一つ目は、性暴力とは何か。今日来てくださっている方のなかには、性暴力への支援を専門にされている方もいらっしゃるのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、簡単に説明したいと思います。 

 次に、障害と性暴力の関係。ここがテーマになるのですが、とくに発達障害の人たちに焦点をあてます。

 三つ目は、発達障害の人たちの抱える困難さ。

 最後に、みんなで考えていきたいこと。

 

性暴力 被害者が非難されやすく 表面化しにくい

 まず、性暴力とは何か。WHO(世界保健機構)の定義では、「本人のセクシュアリティに対する、強制や威嚇によるあらゆる性的行為や、性的行動への衝動で、被害者とどのような関係であっても、自宅や職場に限らずどのような場所であっても起こる」。「最も深刻な人権侵害を及ぼすもの」であることが非常に重要なことだと思っています。性暴力というとみなさんレイプ等を想定される方が多いと思うのですが、それだけでなく、わいせつ(暴行または脅迫を用いてわいせつ行為をすること)、DV、あと日本でこれは多いのですが痴漢行為――電車内などでいろいろありますが――、言葉による嫌がらせ――セクシュアルハラスメントは言葉によるのもありますね――、これも意外かもしれませんが、望まない性的な情報(画像や書籍)を見せること――私も子どもが小さいのでコンビニなど見える所にそういったものが置かれていると本当にそうだなと思いますが――も性暴力に入ります。

 性暴力と一般の暴力の違いは何か。さまざまな暴力、身体的暴力などがあります。そのなかでも性暴力は最も卑劣で許せない行為であって、ただ性に関する事象であるのでなかなか表面化しにくい。とくに日本では性に関して公の場で言うような文化ではありませんので、そういったことはなかなか表面化しない。

 また、加害者が犯罪者であるにもかかわらず、被害者が周囲から非難されやすい。あなたがそんな短いスカートをはいているからそういう目にあったのではないかとか、そんな夜道を一人で歩いているからだとか。通常の犯罪であれば加害者が悪いとなるのですが、性暴力に関しては被害にあった人に落ち度があったととらえられやすいのが、大きく違うところの一つだと思います。

 

 性暴力の発生率は、WHOの調査によると、エチオピアで58.6%、日本では6.2%。日本って少ないんじゃないと思われるかもしれませんが、注意しないといけない点として、暴力の発生率を推計する際の障害があります。 統計はえてして正しいことだとは言えない場合もあります。こと性暴力に関しては、自身の体験について誰かに打ち明けようとする被害女性の割合は40%未満。さらに警察に届ける割合は10%未満。つまり、より多くの女性が被害にあっている。統計の数値は過小評価されているのです。

 なぜ被害を報告しないのかといったら、みなさまだいたいお分かりかと思いますが、被害者のほうが絶対に悪いわけではないのですが、恥ずかしいとか、自分が悪かったのではないかとか、そういう被害に遭った人という社会の目とか、パートナーから報復されるのではないかなどいろいろな理由があります。数値データよりはるかに多くの方が実際には性暴力にあっているということが考えられます。

 

ノーベル平和賞 極限状態の場で性暴力被害と闘ってきた人に

 もう一つ、性暴力というのは単純に性的な衝動や欲求不満だけに因るとは言えないのです。伝統的・文化的・宗教的・慣例的・社会構造的な戦争や災害時などの極限状態の際に激化し正当化されるという傾向があります。東日本大震災でもそういった部分がかなりあったようです。

 今年、ノーベル平和賞、お二人が受賞しました。世界の紛争地で性暴力被害と闘ってきた、勇気ある行動だと思います。ひとりはコンゴ民主共和国のデニス・ムクウェゲさんという男性のお医者さんで、性暴力の被害に遭った方の治療を行ってきた。もう一人は ナディア・ムラドさんというイラクのヤジディー教徒の女性で、ISによって誘拐され性的暴行をうけて命からがら逃げて人権侵害を告発した方です。彼女のご兄弟もまだ行方不明になっていて、かなり大変ななか声を出して行動された方です。こういった紛争地域では性暴力が大きな問題になっています。

 

武器を使わない暴力 性暴力の要因は社会にも

 性暴力はなぜ起きるのか。性暴力は個人の問題なのか。先程あった、あなたに落ち度があったんじゃないのというのは、まさに個人の問題としてとらえる方向なのですが、こういった考え方があります。Heiseという学者が1998年に提唱したものですが、暴力の要因と危険因子のエコロジカルモデル。

 暴力というのは「個人」の問題ではなく、「関係」や「地域」、「社会」によって生じるのだというエコロジカル的な考え方を用いたモデルです。

 具体的に説明します。「個人」というのは子どもの頃に性被害の経験があったとかいう個人的なことです。

 「関係」というのは、家父長支配の意識――男性がすごく強い社会ではじつは性暴力は起きやすいのですが――といった関係性です。

「地域」とは、社会的孤立などで、今日のテーマと関係が深いので後で詳しく話します。

「社会」とは、ジェンダー規範や、暴力を容認する文化、政府の対応などです。「政府の対応」って何だろうと思った方いらっしゃるかと思うのですが、世界中どこの国でも性暴力はあるのですが、オーストラリアなどですと国を上げて性暴力を撲滅しようというキャンペーンやCMがあったりとか、社会的に有名な方がそういったことを発言したりとかがあります。

 つまり性暴力の原因というのは個人だけではなく、社会にもある。先程お話した戦時下の性暴力の話に戻ります。あれは単に欲求不満を解消するというよりは、コミュニティーを破壊するだけの力があるわけです。家族の目の前で女性を襲ったりして、コミュニティーが分断される。そういったことを狙っていて、戦争の一つの手段になっている。武器を使わない暴力と表現されていますが、恐怖心を植え付け、反抗できないようにする。このように性暴力には社会側の要因があり、解決していかなければいけないことが多くあります。

 

 世界では性暴力の被害にあった人はどの位いるのでしょうか。いくつかの調査が行われています。たとえば国連「世界の女性」調査では、これは102か国で行われたものですが、女性の1/3以上がそれまでの人生のうちのどこかで肉体的、または性的な暴力の被害を受けたことがあるという結果になっています。多いことに驚く人もいらっしゃるかと思います。これは女性だけになっていますが、もちろん性暴力は男性にも起こります。男性の方が被害を言いにくいというのはあります。ただし、圧倒的に女性のほうが被害に遭いやすく、加害者は男性が多いというのは世界で共通しています。

 私も前職で開発コンサルタントとして世界中の国々で支援させていただいていたのですが、そのなかで痛感したのは、一番弱い人、女性や子どもたちがいろんな意味で本当に大変な目に遭っているということです。

 

障害者への性暴力の問題 障害の問題からも性暴力の問題からも見過ごされてきた

 障害と性暴力の関係、今日のテーマに移ります。日本では、結論から言いますと、調査がまだ非常になされていません。CiNiiという日本の論文データベースで、性暴力×女性で1980年から検索しますと308件程ヒットします。いっぽう、性暴力×障害で検索しますと25件だけになります。その中身をよく見てみますと、だいたいは性暴力によってPTSDが起こったとか、そういった外傷的障害が起こったというものであって、性暴力と障害女性・男性についての研究がほとんど行われてこなかったという状況にあります。

 唯一の最近までの調査と思われるのが、DPIの「障害のある女性の生活困難調査」(2012)です。これは、性暴力に焦点を絞った調査ではないのですが、どんな生活困難がありますかというようなことをインタビューしたアンケート調査です。それによれば87名の障害のある女性のうち45名(52%)が何らかの性暴力を経験していたことが分かりました。

 大事な点があるかなと思います。じつは、性暴力に関する調査はたくさんあるのです。ただ、障害についての調査がない。つまり、性暴力はジェンダーの研究家が中心になって研究されてきたのですが、そのなかで障害者の問題が見過ごされてきたのではないか。<女性>のなかに障害者が含まれていなかったのではないかということが考えられます。

 また、障害者に関する問題はいっぱい研究されています。ただし、多くは男性の障害者が中心でした。いろいろな団体がありましたけれども。ですから、<女性>の問題は<障害>の問題のなかからも見過ごされてきたのではないかということが、こういったデータからも推測されます。

 

なぜ性暴力被害を受ける障害者が多いのか

 世界ではどんな調査がなされているのかを見ていきたいと思います。世界では性暴力の調査は非常にたくさんなされていますが、近年になって性暴力と障害の調査がなされています。たとえばJones等がカナダで2012年に行った調査では、精神障害や知的障害のある子どもの性被害は4.62倍、障害のない子より多いという結果でした。Brownridgeが2002年に同じくカナダで行った調査では、女性障害者は健常女性に比べて身体暴力は2倍、性的暴力は3倍、性暴力被害が多いという結果になっています。Brown-Lavoie等が2014年にカナダで行った調査では、成人ASDでは、健常者に比べて2~3倍の性暴力被害が多く発生していることが分かりました。

 こういったことからまとめますと、障害者は健常者にくらべて、性的暴力を受けた人の割合が高い。男性障害者よりも女性障害者で性的暴力を受けた人の割合が高い。暴力の発生率は、精神障害者が24.3%、知的障害者が6.1%、その他の障害者が3.2%となっているということで、精神障害者への発生率が非常に高い(Hughes 等2012年)。ちょっと古い1991年の調査(Sobsey 等)ですが、発達障害の女性の70%が性的暴行を受けたことがある。被害者の81.7%は女性であり、加害者の90.8%は男性であった。

 こういったことから、精神障害、発達障害の方の性暴力被害の割合は、一般データと比べるとかなり高いことが世界的調査で明らかになってきました。

 

 中野さんに教えていただいた調査なのですが、日本の最新調査として、内閣府男女共同参画局が平成30年9月に出した「若年層における性的な暴力に係る相談・支援の在り方に関する調査研究事業」報告書があります。内閣府のホームページ(下記)から見ることができます。

http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/jakunen_chousa_report.pdf

 障害と性暴力の問題というわけではなく、若年層における暴力の被害状況やニーズを把握して効果的な支援の在り方を問うもので、支援者を対象としたものです。

 私たちが一番注目したのは、じつは障害者手帳の有無に関わらず障害があると見受けられる事例70件、無いと思われる事例が57件。つまり全体の性暴力被害にあった方のうち55%は障害者だった。これは驚くべき調査で、日本で障害者はどれ位いるのかといえば、統計上6%~7%で過小ではありますが、それに対して性暴力被害の支援につながった人の55%が障害者だったというのは非常な驚きです。手帳を持っていなくても支援者からみて障害を持っているだろうなという方を含めています。障害のある方の全てが障害者手帳を持っているわけではないのです。どういった障害を持っている方が被害者に多かったかというと、発達障害、精神障害、軽度知的障害、パーソナリティ障害、双極性障害といった方が含まれます。ただ、こういったパーソナリティ障害や双極性障害は性暴力によって起こることも考えられ、そこは具体的には分かりません。

 

 障害者は性暴力に遭いやすいことが分かったと思います。みなさんに考えていただきたいのは、なぜ障害者への性暴力被害の割合が高いのだろうか。その背景はどのようなことなのだろうか。こういったことを私たちがやってきた調査や私がこれまでやってきた調査を踏まえてお話したいと思います。

 

発達障害者の抱える困難 診断されにくい女性

 発達障害者の抱える困難さ、生きづらさ。これまで私は発達障害をかかえるお母様方にインタビューしてきたのですが、3点にまとめてみました。

 1点目は、見た目だけでは障害があることが分からない。なので一見では「ふつう」とか「同じよ」言われてしまう。でも抱えている困難さは違ったりします。みんなが言っていることが分からなかったり、いろいろなことがあります。でも見た目だけでは分かってもらえない苦しさがあります。

 これは2点目の、周囲に理解してもらえないことにつながります。

 3点目は、女性の場合は特に診断されるのが難しい。じつはASD(自閉症スペクトラム障害)は、男性と女性の障害者の比率は4対1で男性が多いと言われています。これはどうしてなのか。ASDという発達障害をはじめて診断した人はカナーという人なのですが、もともとの症例が男性だけだったのです。

 なので男性を基準に診断基準ができているのです。ということもありまして、女性の場合カモフラージュというのですが、もともと女性のほうがコミュニケーション能力が男性より高いということもあります。じつは4対1ではなく同じくらいかもしれないのですが、そういうことがありますので、女性のほうが診断につながりにくく、ということは支援にもつながることが難しいという状況があります。

 

発達障害者の特性 理解されず孤立 低くなる自己肯定感 性被害に遭いやすく

 ではどんなふうに親や教員、友達、職場で関わってきたのか。たとえば、「ちょっと変わっている、普通じゃない、なんか違う」、「お兄ちゃんはできるのに何であなたはできないの」とか言われます。能力の凸凹が非常にあり、ある教科だけができないと「努力が足りない」とか言われてしまいます。本当はそうではないのですが。  「何やっても駄目ね」、「怠けている」、こんなふうにずっと言われて育つわけです。職場でもそうで、「ほんとにあの人使えないね」とか言われてしまうわけです。

 こうなるとどうなるか。結局、自分を分かってくれる人がいない。一人ぼっちになってしまう。親からも先生からもダメだと言われて、自分はダメなんだ。自分はできないんだ。

 嫌われたくないと、なんとかして普通の振りをする人はいます。よくわからないけれど、みんなが笑っているから愛想笑いをする。女の子に多いのが、女の子らしくしなさいと言われて、感じよくしなければいけないから嫌でも笑っていなければいけないと思いこんでしまう。

 そして、相手の言葉を文字通りに受けとめてしまう。健常者の人だと、たとえば「休憩しようよ」と言われたら何か裏があるんじゃないかと分別のある大人の女性でしたら思うかもしれません。発達障害の人だと非常にストレートにその通りに受け止めます。休憩しようよと言われたらホテルに行くとは思いません。ただお茶するもんだと思ってしまう。なので騙されて被害に遭ってしまう。結局、こんなことをされる自分が悪いんだ、騙されちゃう自分が悪いんだと思ってしまう。自己肯定感がどんどん低くなってしまう。

 

 このように社会的に孤立します。発達障害の特性もあります。そうすると、声を掛けてくれた人についていってしまったりするわけです。そうして性被害への遭いやすさが生じます。

 

 『The Greatest Showman』2017年のアメリカの映画で、ミュージカルです。わたしはこの映画からいろいろ感じるところがありました。つまりこの時代の障害者がいっぱい出てきますが、その人たちは隠された存在、家から出てはいけなといった存在。でも今でもあまり変わっていないのではないかなと思いました。

 

障害者への性暴力を生む社会の障壁を変える 私たちにできることは

 みんなで考えたいことをまとめます。

 発達障害の女性は被害に遭いやすいという話をしましたが、性被害に遭う人が悪いのでは決してありません。誤解の無いように強調しておきたいと思います。そうではなくて、障害者を騙す加害者が最も悪いのです。知的障害の人が性被害に遭ったことを話しても障害を持っているから信じてもらえないだろうというところも残念ながらあります。

 一番考えていきたいことは、障害者個人だけが悪いのではなく、障害者をめぐる社会のあり方の問題とかかわっているのではないか。先程、エコロジカルモデルを説明したけれども、じつは障害分野では、医学モデルと社会モデルというのがあります。医学モデルは個人の欠損が障害と考えるのに対し、社会モデルは社会の側が障壁を作っていると考えます。障害者への性暴力の問題は、医学モデルではなく社会モデルによって考えていくべきものだと思っています。社会は誰が作るのかといえば、人が作るわけです。社会の問題は、やはり人が作っていくわけで、それを改善するのも人なのではないかなと思います。

 

 今日はあとで時間があると思いますので、みなさんとぜひ一緒に考えていきたいこととして、障害者の性暴力の被害者や加害者を増やさないことが大事だと思いますが、わたしたちにできることはなんだろう。   

 また、障害者への性暴力の被害者を守るために、私たちは何ができるだろうか。

 みんなで障害者への性暴力をどうしたら無くすことができるか考えてみましょう。

 

 

 

――中野宏美さんのお話――

 私も何回かアドボカシーカフェに参加したことがあります。今日はいつもより若い世代の方が多いですし、女性が多いですね。

 性暴力撲滅の活動を始めて約10年、NPO法人化して7年になります。普段は自治体で障害者福祉の仕事をしながら、NPOの活動をしています。

 

 アイスブレイクをしたいと思います。

 ~中野さんが手話でお話しました(1回目は手話のみ。2回目は声と手話の両方で。内容は「みなさん今晩は。今日はお集まりいただきありがとうございます。私はNPO法人しあわせなみだの中野です。今日は障害者への性暴力のお話をします」)~

 各グループで、呼ばれたい名前・参加した理由・今の私のワークの感想や気持ちをお一人30秒ずつお話してください。最初にお話する方を各グループで決めてください。私が30秒数えますので、最初の方から時計回りで進みたいと思います。(各グループ、お一人ずつ話していきました)

 

 なぜ最初にこれを行ったかというと、今日のテーマである孤独・孤立を少し感じていただきたかったのです。手話のみでは、ほとんどの方はおそらく何を言っているのかさっぱり分からなかったと思います。これが、障害のある方が普段感じている孤独・孤立に近い状態かと思います。つまり自分と異なる言語・文化で世の中が動いて行く状況を少し体験していただきました。「えっ、わかんないな」とか、ちょっと不安を感じたり、「自分以外の人は分かっているかも」とか、「あいつ何やっているんだ」とちょっと腹が立ったりとか、そういう気持ちもあったのではないかと思います。それらが、障害を持っている方が日ごろ感じている孤独・孤立に近い状態なのではないかと思います。

 今日、障害者への性暴力を考える際に、この最初の気持ちを忘れないでいただいて、お話ができればと思います。

 

障害があることによる性暴力のリスク 被害者として障害者が認められる法制度を

 ソーシャル・ジャスティス基金から助成をいただいて障害者への性暴力を調査をさせていただけることになったのですが、なぜこれをやろうと思ったか。それは、私が性暴力の活動を通じて性暴力を経験した人と出会う中で、障害のある方の割合が非常に高かったからです。たとえば家族から性的虐待に遭ってきた方、介護の現場で排泄や入浴などの際に性暴力に遭ってきた方。障害のある方が性産業に取り込まれていることは、一時期話題になり、ご関心のある方は見聞きしたことがあると思いますが、実際そういう方々にも会ってきたのです。障害があるからこそ言いくるめられて暴力にあって、でも誰にも相談できなくて、もしくは相談しても信じてもらえない、という方がたくさんいたのです。

 「障害があるからこそ遭ってしまう性暴力があるんだ」ということを非常に感じて、障害のある人に対する加害がきちんと処罰されるような法制度を作らなければいけない。被害者として障害者が認識されるものをつくらなければいけない、とここまでやってきました。  

 

 お手元にある調査報告書は、発達障害者、32名の方へのアンケート調査、グループインタビュー、個別インタビューの結果をまとめています。今年の3月に、新宿にある発達障害者のスペース、Neccoさんで実施をさせていただきました。

 回答から見えてきたことが、岩田さんからもあったのですが、障害があることによる性暴力のリスクです。32名中23名が何らかの性暴力を経験している。およそ7割強です。痴漢、望まない人からのキス、望まないセックス、望まない撮影等を経験されていました。

 

疎外や孤独が生む暴力被害

 なぜ、障害のある人が性暴力を経験しやすいのか。

 先ほどの岩田さんの話に加えて、発達障害の特性と、発達障害ならではの育ちがあります。

 たとえば、慣れている場所でもキョロキョロして歩くため、非常に不慣れな感じなので声をかけられやすい。女性だけでなく男性も非常に声を掛けられており、性暴力だけでなく、消費者金融の被害等に遭っているということも分かりました。

 障害当事者曰く、「自分たちは常識の障害なのだ」という言い方をされます。常識が異なるなかで、疎外や孤独を強く感じておられる方が多い。解決のために、愛想良く、相手を受け入れ、一所懸命話しかけるよう努力するのです。その結果、相手が自分の思っている以上に近づいてきて、そこでもやはり断れなくて、暴力に遭っているということが、今回の調査で明らかになりました。

 グループインタビューと個別インタビューを3人の方にご協力いただき、報告書に掲載しています。そこでも、キーワードとしてたくさん出てきた言葉があります。ぜひお時間のある時にご覧いただければ(下記)と思います。( http://disabled.shiawasenamida.org/

 

 性暴力が認識される社会のためにはどうしたらよいか。しあわせなみだでは2本の柱を立てて取り組みをしています。一本目は、刑法性犯罪の規定に、被害者としての障害児者の規定を入れること。もう一本が、改正を実現するために世論を変えていくこと、この2本柱でいま進めています。

 

刑法性犯罪に障害者への性暴力が入っている海外の法制度 社会が認識することから

 現場では障害と暴力に関係性について、うすうす感じている人も少なくありませんでしたが、日本には行政など公的機関による大規模調査が見当たりませんでした。では海外ではどうなっているのかと、海外の法制度を調べ、報告書にも一覧を載せています。

 海外では、刑法性犯罪のなかに障害者への性暴力が入っているのです。他国では法律で障害者への性暴力が位置づけられています。例えばフランスでは少年弱者に対する性的攻撃罪、韓国では精神障害が原因で拒否できない者と性的活動を行う罪、イギリスは障害に対する暴漢・強制醜行罪等があります。岩田さんから、エコロジカルモデルの話がありましたが、まさに社会の在り方として、障害者への性暴力がきちんと認識されていて、それに対する罪を罰するという形になっています。

 罰し方には大きく2パターンあります。ひとつは、被害者が障害者であることを知りえる立場の人たち――医者や教師、ソーシャルワーカーなど――が加害をした場合は罪が重くなります。もう一つは、被害者が障害者の場合には、被害となる要件が緩和される。たとえば日本だと、被害者が必至に抵抗したことが裁判で認められないと罪にならないのですが、他国では被害者が障害者だとこうした要件が緩和される、ということです。

 

被害者が障害児者であることに乗じた性犯罪を罰する法を2020年に日本で

犯罪を立件する要件を満たすことが難しい特性を持つ障害者への配慮を 

 法制度実現に向け、法律をつくる立場にある国会議員のところを一生懸命回って要望をしています。超党派で与野党を問わず、性別を問わず、これまでに25名の議員を回っています。

 どんなことを要望しているのかというと、

1.刑法性犯罪処罰規定に「被害者が障がい児者であることに乗じた性犯罪」を創設してください

2.1が困難である場合、被害者が障がい児者であることをもって、「準強制性交等罪」もしくは「準強制わいせつ罪」を適用してください

3.1・2が困難である場合、刑法性犯罪の運用において、障がい児者の特性を踏まえた対応を義務化することを明言してください

 2017年に刑法が改正された際に「必要であれば3年後に見直しを検討する」という「附則」が盛り込まれました。それが2020年なのです。2017年の改正は、刑法性犯罪が制定された110年前から初めて抜本的に改正されました。2020年を逃すと、今後改正の可能性が低くなるのではないかと思っています。この1・2年が勝負です。

 

『くちづけ』上映キャンペーン なぜ知的障害のある女の子が性暴力に遭うのか

 改正に必要なのは世の意識を変えることです。日本で公的な調査が行われていなかったことからも分かるように、「障害者への性暴力」は関心が持たれていなかったのです。なので、きちんと関心を持ってもらって、世の意識を変えていきたいです。

 みなさんにお願いしたいことがあります。全国キャンペーンとして来年度『くちづけ』という映画を全国で上映したいと思っています。

 ~『くちづけ』の予告編を上映されました~

 貫地谷しおりさんが演じるマコちゃんが、知的障害があって性暴力を経験しているという設定です。

 性暴力に遭った後、どういう状態で生きているか、なぜ知的障害のある女の子が性暴力に遭うのかといったことがこの映画でよく分かります。それ以外にも、障害者の親による年金搾取の問題、障害者のホームレスの問題や、障害者のきょうだいの問題など、障害者が抱える孤独・孤立の背景にあるものを非常によく描いている映画です。これを全国で上映していくことで、この問題に関心を持つ人を増やしていきたいと思っています。

 いま、映画の上映を一緒にやってくださる方を探しています。全国10か所でやりたいと思っています。いま6か所ほど決まっていて、あと4か所ほどで、一緒に運動を盛り上げていただける方を探しています。2019年4月から2020年3月まで実施しようと思っていますので、ぜひご連絡をいただければとありがたいなと思います。

 

 本日、調査をさせていただいた発達障害者団体、Necco創設者の金子さんに来ていただいているので、お話をいただきたいと思います。

 

発達障害者 言葉どおりに受け止め 人との距離感がつかめない 特性を認めあって

金子磨矢子さん・Necco創設者) 私自身が発達障害で、スタッフも全員が当事者です。お客様もほとんどが発達障害で、常設でやっているのは日本でうちだけで非常に珍しく、日本中からお客さんがいらしてくださっています。中野さんと岩田さんは前からよく知っている方で、アンケートに協力させていただきましたら、一般より性犯罪の被害者が多いという結果が出ました。気軽にアンケートに協力したのですが、記者会見にまで出していただいて、大変なことになるとは思っていなかったのですが(笑)。

 なんとなく良い方向に今やっと向かい始めたのかな。ノーベル賞も、素晴らしい方がとりましたし。本当にいま日本は遅れているなと思いました。

 発達障害の人は、馬鹿真面目。言葉を文字通りに受け取ってしまう人たちが多いので。あと、人との距離感がつかめない人たちですね。言われたことを本当に信じてしまうので、いついつどこどこに来てと言われると、本当に行くんですね。そこがホテルでも。大丈夫だよ絶対何にもしないよと言われると、信じて行くんですね。 

 ですから性暴力に限らず、いろんな詐欺とかにとても遭いやすい人たちなのです。そういう人たちが大勢いるということを知っていただきたいと思って、私も啓発活動をしていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

――グループ発表とゲストのコメント―― 

 ~グループ対話を行い、それを会場全体で共有するために発表しあい、ゲストにコメントいただきました~

 

(参加者)

「なぜ今日ここに来たの?については、事実を知るため・勉強するため・こういう所に来て仲間とつながる一歩をという理由の方が多かったです。

 障害者支援法の改正や、刑法の改正についても話し合い、どのタイミングでどう動いていくかが大切だねと話しました。

 小さいころから性に関する教育をもっと充実させる必要があるのではないか話をし、それにはどういう方法があるだろうねと問い合っていたところです」

 

「そもそも人を陥れる人がいることがおかしいよねというところから、お互いが人を人として敬意を持っているような世界だと良い、そういう文化を形成したいよねという話があり、それだけでは不十分で、そういう文化にするためにはシステムを作っていかなければいけない、法律化。法律化をしていくためには、市民がどういう社会を求めているのか、その社会を実現するためにはどういう法律が必要か、そういった学習が必要だよねという話になりました。

 支援する・支援されるという関係ではなく、対等な関係でふつうに付き合うことが一番大事だよねという話になりました。

 中野さんへの質問として、「Beautiful Tears」の活動について具体的に話を聞きたいです。 

 岩田先生へは、発達障害の方の被害が多いということは分かったのですが、精神障害者の方も多いというデータについての被害者についても知りたいです。

 金子さんへは、発達障害の当事者として、周りの方からどのようなかかわり方を望んでおられるでしょうか」

 

「岩田先生から、発達障害の方が被害に遭いやすいことを、発達障害の特性から説明していただけて、なるほどと理解が得られてよかったです。今まで分からなかったことが、この調査報告書を通して、誰でも捉えられるようになったことがよかったという話がありました。

 暴力については、話があちこちにいって、社会構造の話にも広がりました。

 

 発達障害など障害をお持ちの方は被害に遭う場合もありますが、加害者になりうるという場合の問題もあるので、被害者支援も大事だけれども、加害者に対する支援――天秤にかけてどうこうという二分法的な考え方ではなく、いま性犯罪をやった加害者には障害をお持ちの方がいわゆる健常者・定型発達と言われている人から比べると若干多いということがものによっては出ていることも事実ですので、そこらへんの客観的なところの担保――も必要なのではないか。逆に、今は加害者だけれど過去に被害者だったことがある人もいるので、そういったことへの視点も必要なのではないか。

こういった問題へ関心をよせることが、小さなことかもしれないけれども、大事なステップだ。

医療の現場でも、こういった問題があるよねということが日常的に根付いていない。

被害直後のワンストップ支援センターは各地で見られてきているが、サバイバーへの支援がまだ足りていないのではないか。こういったことをそれぞれの立ち位置から意見交換しました」

 

「事例を出していただいきました。障害のある児童や大人の方が騙されて性的行為に及んだ場合、本人は恋愛だと思ってしまっている場合に、いやいやそれは被害だという場合があったとして、そういうことが調査として出にくく、そういうことへのアプローチが必要だと思います。

 大人が性暴力の被害に気づける、そういうのは良くないよと言える、そういった雰囲気づくりをしていこう。

 また、障害者とレッテルを張って、障害者だから被害に遭ったとしてしまう、ということで刑法を重くするというのは一つの策だとは思うのですが、むしろその人が持っている困りごとに寄り添っていって、そこから性暴力を無くしていくということも大事ではないかという話になりました」

 

「障害者性暴力の加害者と被害者を増やさないために私たちができることは何だろうかと話し合いました。

 まず現状を知ることだろうという感想が出ました。いろいろな障害があり、障害と診断されていないのは受診していないから気づいていないだけで、障害を持っている身近な人もいるのかもしれない。

 性暴力を受けた人の気持ちが一番大事であって、障害を持っている方に対して悪戯気分でしたことでも、障害者の気持ちが傷ついたら、それは暴力なんだよと教えていく地域の子どもや大人の存在が大事だ。

 性教育をやはりしっかりやっていかないといけない。積極的に性教育をやってきたという世代ではなく、とくに障害を持っている方に対する性教育は同じレベルで成されていない。障害を持っている子どもにしろ、健常な子どもにしろ、性暴力、嫌なことがあった時にどう対処していくかを知ることが大事。

 じっさい私たちに何ができるのか。嫌なことがあった時に、信頼できる大人に相談していいんだよ、声を上げていいんだよと子どもに教えていく、そういう相談できる場所を作っていくことが大事だ。

 とくに障害を持っている子どもへの暴力は表面化していないという話もあったので、周囲の人が少しでもおかしいと思った時には、思い過ごしかなと思わずにちゃんと通報をする。そのためには官庁で相談を受けてくれる機関がどこにあるかを知っておくこと、見過ごさないことが大事。

 支援団体や施設よりハードルが下がったものに、図書館カフェが最近あるそうです。被害にあったことを相談に行く、通報に行くより前段階で、ふつうに生活している段階からふらっと行ってちょっとおしゃべりができるようなコミュニティーをつくって、本当に相談したいときに相談できる、もしくは周りがちょっとでもあれっと気づける。そういうコミュニティーづくりが大事だという話になりました。」

 

 

岩田千亜紀さん) 精神障害者への性暴力の実態については、CiNiiで私の名前を入れて検索すると、今年の3月頃の調査で、海外でどんなふうな障害を持った人への暴力があったかという分類調査があります。そのなかでも精神障害の方に対してどれぐらいかとか、各国の実態について、概要ですけれども、そちらを見ていただけると、障害種別で比べられるデータがあります。

 

発達障害 誰の中にもちょっとずつあるもの 支援のために「障害」とつけた行政用語 

金子磨矢子さん)(発達障害の当事者が普通の生活のなかでどんなかかわり方をされたいか) 

 目標としては、みんなが普通に、あなた発達障害なのねと。私はわざわざ名乗って活動しているのですが、いま日本では約1割が発達障害と言われていますが、ここからが発達障害という線引きは今のところ全くありません。ほとんどがグレーゾーンの方たちです。

 ただ、自分は困っているときは、発達障害と言った方が支援を受けられる時代になったので。医学用語ではなく、行政用語です。日本だけの言葉です。「障害」と付かないと日本では支援を得られないので付けていますけれども、障害ではない。遺伝であって、100%遺伝とはいえないのですが、遺伝もしくは出産直後からのと言われています。それは出産時に事故がある場合もあるし、昔は鉗子分娩で高次機能障害になる人もいた。また他の病気で発達障害と似たような症状になっている人もいる。

 発達障害じたいは、本人の特徴や性格だと思っています。レッテルという言葉が出ましたが、発達障害がレッテルでなくなることを、望んでいます。昔は、左利きだって矯正されたのが、いまは「あなたサウスポーなのね」と。そういうようになるのが夢です。発達障害はその人の特性の一つだと思っています。

 発達障害は誰の中にもちょっとずつあるものです。IQが高いほど発達障害の発症率が高いことが分かってきました。アスペルガー№1は東大とかよく言われていますけれども、大学教授とかノーベル賞取るような方にすごく多い。そういう人たちがみんなどんどんカミングアウトしてくれて、発達障害だからどうこうということのない時代に早くなってほしいと思って活動しています。

 

 確かに、加害の側にもすごく多いのも事実だと思います。被害者の方にも過剰反応というのがあるのも事実だと思います。好きな人にされたのならいいのですが、相手が自分のタイプでない人だと、ものすごく騒ぐ人もいます。いろんなパターンがあるので一概に言えませんが。

 精神障害も、もともと発達障害を持っている人がなりやすいのです。2次障害というような言い方をすることもあります。発達障害の人は、過敏なところと鈍感なところを持ち合わせているので、人一倍過剰に感じてしまって、うつを経験していない発達障害の人の方が少ない気がします。

昔、発達障害がまだ分からなかった頃は、ちょっとおかしな行動や言動をした人たちのほとんどは、統合失調症(精神分裂病)と診断されていました。そして多剤大量処方で更に重症になる患者が今でもでています。発達障害を診られる医者もまだまだ少ないので、どこの医者に行くかで診断名が変わるのが現実。なのであまり発達障害の人、精神障害の人という分け方はできないのだと思います。

 

 

中野宏美さん) 「Beautiful Tears」へのご質問をいただいてありがとうございます。「Cheering Tears」と「Beautiful Tears」、「Revolutionary Tears」という3つの柱で事業をしていて、そのうちの一つです。美容の力で、暴力を経験した人を元気にしようという取り組みで、暴力を経験して施設で暮らしている方を主な対象として、メイク講座をしたり、ヘアサロンのカットモデルとしてご紹介したりという活動をしています。

 

 

参加者)加害をした方と、被害に遭われた方との関係性について、なにか傾向はありますか。これによって予防の仕方が変わってくるかと思います。

 

顔見知りからの被害が多い性暴力

中野さん) 性暴力はみなさんが思っている一般的なイメージは、「見知らぬ人から暗闇で後ろから襲われた」といったものかと思いますが、内閣府の調査(下記)では、レイプの加害者の73%は顔見知りです。http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/h29danjokan-7.pdf

お友達であったり、親戚であったり、近所の人だったり。世間が持っているイメージとのギャップが起きるのは、加害者が顔見知りだと警察に届けることはわずかであり、見知らぬ加害者からの被害は警察に届け出るという背景があります。

 今回私たちが行った個別インタビューでは、2件は見知らぬ人、4件が顔見知りです。一般的に顔見知りによる加害が多いということであれば、おそらく障害者でもそうであろうと思われます。

 

障害者の性犯罪被害をカバーできない障害者虐待防止法やDV防止法

岩田さん)今回の調査では、とくに加害者が誰であったかというような聞き方のアンケートをとっていないので、関係性の傾向としてはなかなか明らかにできていません。

 ただし、障害者虐待防止法があってそれが機能していればこんな刑法改正は必要ないではないかと考えられる方がいるかもしれませんが、障害者虐待防止法は施設などで虐待に遭ったケースを想定していたのです。じっさいにはそれ以外の場所が多くて、病院だったりとか、障害者虐待防止法でカバーできないのです。DV防止法にも障害者は入りました。しかし、今の法律だけだと障害者の被害をカバーできないのです。刑法改正をしなければいけない理由はそこにあります。

 

発達障害の特性をふまえた更生を

 加害者というお話については、今回、被害者に焦点を当てたところで報告書をまとめたのですが、じつは中野さんたちが実施したフォーカスグループディスカッションでは、被害だけではなく加害に関する発言も出ています。

 ただ、そこはすごく重要で、どうしてそうなってしまうのかがすごく重要なのですが、これも特性に関係しています。想像力の欠如というのが悪い言い方をすればあります。イマジネーションを持つのが難しく、見たものをそのまま受け取る方が多く、通常であればそうとらないことでも、ここはそういうふうに男性がやるものだと思いこんでいたりとか、そこは特性からきているものがあります。

 ただ発達障害の人に加害が多いか少ないかと言えば、実は多くはありません。圧倒的に被害の状況のほうが多いです。そういう調査もあり、データでみると加害が多いとは結論づけられない。

 加害をしてしまった時に、発達障害の特性があるので、そこを踏まえてどう更生させるかということが重要かと思います。

 

大河内) 加害については、精神障害者の場合には、事件では精神鑑定が取りざたされて、先ほどのお話とは全く逆で、それによって罪が軽くなるとイメージが世間に蔓延している。一般社会のなかでは、精神障害の人が被害者になりやすいというより、加害者になりやすいという眼がある。

 それに対して、しあわせなみだは、本来、刑法改正は、社会的に特別な配慮で守られるべき人、弱者に対する犯罪を規定する方向での刑法改正のアドボカシーをされているわけです。なかなか表には出ず、ニュースにはならないけれども、いろいろな問題を抱えている人たちがいるということを、じっさいに現場で関わっている人たちが、あるいは当事者自身が声を出せるような環境をつくっていくことが大事なんだろうなと思います。

 

 

参加者)この報告書を見まして、金子さんのお話も載っていて、定性的には理解できるのですが、今後、法改正を訴えていくには、これだけで行くわけではないのでしょうけれども、定量的にはまだまだ母数が少ないのかなと思うのですが、今後、どのように活動や調査をされていくのでしょうか。

 

障害者本人への性暴力被害の調査 質の追求が重要 公的な調査を行を支援策や法改正につなげて

中野さん) 助成期間のなかで報告書をまとめアドボカシーをすることを踏まえ、当団体の力量では、この数字になりました。ただ回答数が少ないから意味がないかというと、決してそうではないと思っています。 岩田さんの話にあったように、国内ではこの種の調査がほとんど行われていません。

 性暴力に関する調査は量も大事ですが、質的なところが非常に大事だと思っています。とくに障害者への性暴力に関する量的調査というのは人と時間が必要です。たとえば質問用紙もかなり工夫をしないと障害のある方が回答できない。今回は発達障害の方だったので、選択肢で回答できるような形で、問いは5つのみです。視覚障害の方には点字を準備しなければいけない、知的障害の方にはどう回答してもらうか、といった課題もあります。また障害者の調査は、親や支援者を通してなされることが多いですが、性暴力は本人に実施しなければ回答が出てこないです。量は多いにこしたことはないですが、そのなかで質を追求していくことが重要だと思っています。

 公的機関による調査実施を国会議員にも訴えています。議員たちも、本調査に価値があると受け止めて、国が調査を行っていないことにも衝撃を受け、調査をすることが必要だろうと思ってくださる方が多いのです。民間団体が行う調査は、どうしても信頼度が公的なものよりは劣るのです。私たちが行った調査より、岩田さんが紹介した内閣府の調査のほうが、影響は大きいです。世界ではこんなに行われているのに日本では行われていないということを伝えて、調査を行うように働きかけていく。調査が出てくれば、必然的に支援策なり法改正なりにつながっていくと思います。

 

大河内) ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)が支援している団体はほとんど、しあわせなみださんのように今までほとんどの人が手をつけなかった、あるいは社会の中で取るに足らないものとして切り捨てられてきた部分。しかしそこに事実を見て、そしてそこに関わっている一人ひとりの当事者や、周囲の人たちの日常の現実を見て、社会がより想像力を働かせて、よりすべての人が救われるような、そういう法体系、仕組みを作っていく一つのアプローチに対して私たちの活動は行っています。

 じっさいに32という人数でどこまで言えるのかなというのはあるかもしれませんが、一つひとつ出てきた言葉はとても重いと思いますし、実数把握というのは国がやってもどこがやってもまずできないと思うのです。ほとんど表に出ない話が多いですから。ならばなるべく実数に近づけるためには、たとえば医療機関がプライバシーを守った上で数値化して報告して、そこから教訓やデータをみんなが共有できる形にするとか、いろいろあると思います。

 もちろん医療機関や施設が加害者であるということも少なからずあるということも含んだうえで、みんなでどうやっていくのか。そのためには多くの人たちが関心を持って行く。これが本当のアドボカシー。私は国際協力を長くやっていましたので、昔はアドボカシーというと省庁や行政の役人に対してアドボカシーをしていたのですが、じつはアドボカシーは本来そうではなくて、市民が、みんなが参加して変えていけるような、当事者もふくめて、あるいは隣の人とかいろんな人が気づいて、積み上げていくような方向にしていくというのが、ソーシャル・ジャスティス基金の目標でもあります。今日いろいろ気づき、たまたまここで出会って同じ関心テーマを持って会話をしていただいたことから何かが生まれていけばいいなと思っています。 

 最後に岩田さんと中野さんからみなさんにお伝えしたいことがあればぜひお願いします。

 

障害者の性犯罪被害者へも合理的配慮を

中野さん)私がすごく勉強になりました。こんなにたくさんの方に関心を持っていただいて感謝しております。

ひとつヒントになるのが「合理的配慮」という考え方だと思います。これは障害者差別解消法のなかで謳われている概念なのですけれども、この社会で共に生きていくために、障害者に対して差別や優遇という形ではなく、必要なことを、合理的配慮という形でやっていきましょうということで進められています。障害のある加害者への合理的配慮は精神鑑定です。でも障害のある被害者への合理的配慮は無いのです。だから刑法性犯罪改正が必要なんだ、ということを伝えていければと思います。

 お願いがあります。

 一つは、グループワークのなかで個人の話が出てきたかと思います。これは会場を一歩出たら忘れてください。安全な環境のなかでお話いただいたから、みなさん率直な意見交換ができたと思いますし、性の経験等の話もあったのではないかと思います。安全があるからこそ、この会のよさが守られているかと思いますので。登壇者の話、ご自分の考えはぜひ多くの方に発信していただきたいのですが、「あいつあんな話をしていた」、といったことはやめてください。

 もう一点は、今日寝るまでに必ず自分をメンテナンスしてほしいです。みなさんの多くは、性暴力の話、障害者の話に慣れているわけではありません。なれない話で、楽しい話ばかりではなく、しんどい話が多かったと思うのです。自分を大切にする時間を1分でも持ってください。ありがとうございました。

 

障害者への性暴力の解決に ありのままを受け止める社会 孤立しない社会を 

岩田さん) たくさんの方に真剣にグループごとに議論していただいて、本当に良かったなと思っています。この調査報告書は刑法改正が大きなテーマで中野さんと作成したのですが、障害者への性暴力を解決するのはそれだけではないと、みなさんからのいろんなお話の中から出てきて良かったなと思っています。

 まとめとして、みなさんから4点ぐらい出てきたと思います。

 一つは法律。これは市民の力が大事です。このあいだ刑法改正が成ったのも、市民の皆さんの大きな力があったからだと思います。これから中野さんたちが頑張りますが、みなさんも大きなムーブメントに押し上げていただければと思います。

 もう一つは性教育。ASD(自閉症スペクトラム)の方への調査では、性教育をきちんと受けているか否かで、被害が全く違うのです。なので非常に重要だということが分かっていますが、日本は遅れている部分で、進めなければいけないと思います。

 三点目は、相談できる場所について。じつは法律のなかでも、障害者が性暴力被害を受けるということがあまり想定されていない。なので性暴力被害を受けた障害者に対してどうやって支援していくかがまだ十分でない気がしています。医療関係者やワンストップ支援センターの方もそうですが、障害のある方たちが相談にくるということを想定して支援体制を整えてほしいと思います。

 四点目は、孤立させない。レッテルをはらないとか、特性を認めるということかと思いますが、孤立をさせないということは、社会全体で取り組むことだと思います。支援者だけではなく。金子さんから「ありのままを受け止める社会」、「だれでも多様性を受け止める」といった言葉がありましたが、じっさいにそういった社会になっていけば、孤立しなければ、被害が減るのではないかなと思っています。

 今日はみなさんそれぞれ感じたところがあったと思いますが、みなさん声を上げていただくということが大きな力になると思いますので、またぜひ声を上げていただければなと思います。ありがとうございました。

 

 

●次回アドボカシーカフェのご案内

食と農のグローバリゼーションアフリカ・日本の農業と開発援助から考える

【ゲスト】松平尚也さん(耕し歌ふぁーむ創設者/京都大学農学研究科)
     田中滋さん(アジア太平洋資料センター<PARC>事務局長・理事)
     渡辺直子さん(モザンビーク開発を考える市民の会/JVC)
【日時】11月2日(金) 18時30分から21時  
【場所】文京シビックセンター 5階 会議室C  
詳細・お申込み】 http://socialjustice.jp/p/20181102/

 

 

*** 今回の2018年10月11日の企画ご案内状はこちら(ご参考)***

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