ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)フォーラム開催報告
~参加者募集~
◆「『票育』――若者と政治が出会う新しい授業の作り方」(SJFアドボカシーカフェ第42回)
【ゲスト】保坂 展人さん(世田谷区長)
後藤 寛勝さん(僕らの一歩が日本を変える。代表理事)
【日時】16年4月13日(水) 18:30~21:00
【会場】文京シビックセンター
★詳細・お申込 http://socialjustice.jp/p/20160413/
ソーシャル・ジャスティス基金
第4回 助成発表フォーラム
16年1月18日開催
ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、このたび決定した第4回目の助成先3団体を迎え、それらが取り組む社会的課題を共有し、会場の参加者とさまざまな立場から意見交換をするフォーラムを開催しました。多分野が融合した対話の場となり、複眼的な視点から新たな気づきが生まれ、率直な意見が活発に交わされました。
=開会挨拶=
上村英明・SJF運営委員長) 2015年10月末、篠原一先生(東京大学名誉教授)がお亡くなりになりになりました。僕は若い時に、わずかですがお世話になった思い出があります。一般的に言えば、市民の政治参加に尽力されましたが、先生がその中でも政策や制度作り関心をもっていらしたこと――区長の準公選、市民オンブズマン、外国人市民会議など――を思いかえし、あらためてSJFの意義を考えています。
SJFはとくに、市民が政策・制度に関わる問題の重要性を強調した助成システムです。SJFは基金という助成団体と助成を受ける活動団体との関係について、お金を出すだけに終わらず、相互作用の関係を重視しています。今日は去年までの助成先の方々もいらっしゃっています。最近NPOも縦割り行政のようになってしまって、違う分野の人とも問題をシェアしていくことが弱くなったような気がします。だから、SJFのもう一つの意義は、いろんな分野の人たちが問題をシェアしたり、新しく結び付けたりしていく土台となることだと考えています。そのための仕組みであるアドボカシーカフェやこういったフォーラムやダイアローグを生かして、新しい組み合わせを作っていければと思います。
日本の市民社会とは何か、根本的なところからみなさんと一緒に考えていきたいなと思っています。2012年から助成を始めたとき、福島第一原子力発電所の事故とエネルギー政策は大きな問題でそれを助成のテーマにしました。また当初から、人権問題を念頭に「見逃されがちだが大切な問題」というテーマも設定しました。2016年の重要なテーマは「民主主義」だと思っています。この私たちの市民社会は、自信を持って「民主主義」を実践していると言えるのでしょうか。みなさんと一緒に考えていく機会になればと思います。
=審査総評=
轟木洋子・SJF審査委員) 今回は4回目の助成です。応募件数が増加しており、全部で41団体に応募いただきました。このように期待していただいているのですから、私どももファンドレイズを頑張っていかねばと思っておるところです。日ごろから温かいご協力とご支援をくださっているみなさまに深くお礼申しあげます。このたび書類審査をへて、面接審査を行い、助成先を決定させていただきました。応募団体それぞれ素晴らしかったのですが、基金が限られているなかで厳しい審査となりました。
最終的に選ばれたのは、「僕らの一歩が日本を変える。」、「WorldOpenHeart」、「OurPlanet-TV」という3つのNPO法人で、100万円ずつを約1年間にわたり助成させていただきます。いずれもそれほど古い団体ではないのですが、きちんとした実績があることを評価しています。また、自治体や学校、行政組織とも連携していこうという姿勢がみられることも高く評価しております。これからは、むしろ行政側を市民活動側に巻き込んでいければと思います。この場で、他の団体の活動についても聞いていただけることは、とても刺激になることと思います。この機会をみなさんの事業に生かしていただければと思います。
【第1部;第4回 助成先からの発表】
樋口蓉子・総合司会/SJF運営副委員長) SJFは、助成団体が取り組む課題をともに考えさせていただきたく、助成の担当委員を設けております。助成団体の発表ごとに担当委員のコーディネートで会場と質疑応答させていただきます。
◆NPO法人 僕らの一歩が日本を変える。;後藤寛勝さん(代表理事)
(SJF担当委員=上村英明)
「若者と政治に新しい出会いを届ける『票育』授業プログラム」=助成事業名
後藤) 僕たちが、どういう事業をしていて、どういう社会課題をとらえていて、自分たちなりにどうアプローチしているのかをお伝えできればと思います。
僕は、新潟から出てきた21歳の大学3年生で、18歳のころから、若い人と政治をつなぐ活動を行ってきました。また、内閣府の地域創生推進室にあるRESAS(地域経済分析システム)の専門委員に、昨年の10月から就任させていただいています。
坂下朋紀さん・同NPO) おもにファンドレイザーを担当しています。今日はみなさんと少しでもお話できればと思います。
後藤) 彼は、19歳、未成年の大学1年生です。僕らは16歳から21歳までの15人で運営していて、2012年に立ち上げて今年で4年目になります。
若い人に政治との新しい出会いを届けたい
僕たちがとらえる社会の課題は、若者の政治無関心からはじまる社会の衰退です。この状況は3つに分類してとらえられると思っています。ひとつは若者の政治関心の低下があげられます。若者の投票率は年々下がっていて、若い人の政治への可能性が眠ったままなのではないかという印象を受けています。未開拓で、より可能性を開けるのです。そしてもうひとつ、いま政治教育が不足していて、若者と政治の接触不足という状況が起きていると強く感じています。もちろん18歳選挙権や国会前デモなどで政治が若者にとって身近になりつつありますが、もっと身近になるといいと思います。 3つ目は、少子高齢化・人口減少が進むなかで、課題は増えていっても人口が減っていくので、一人ひとりの政治に対する向き合い方や参加の方法がとても問われているという状況です。
そこで自分たちなりの参加の方法をどうにか見つけていければと思っています。政治参加についての若者の可能性が開花しなければ、日本の未来を担う人材はいなくなってしまうのではないか、というのが自分たちの懸念と社会的課題です。だから、若い人に政治との新しい出会いを届けていきたいというのが、この事業の一番の思いです。
これをさまざまな機会と場づくりで実現していきたいと思っているのが、僕たちのプロジェクトです。これまで、「高校生100人×国会議員」というイベントを開催してきて、今年の春で6回目になります。最初は6名の国会議員から始まり、昨年の夏に開催したときには80名程の国会議員が来てくださり、これまでで180名ほどの国会議員の先生方がご協力くださっています。
とても大事にしているのは、政治的に中立であることで、かならず国会内の全政党にお声掛けをして中立的に運営しています。内容は、代表挨拶として全政党のみなさまからお話いただいたり、実際にテーマ別に分かれてディスカッションしていただいたりします。
昨年は、安保法制をテーマにしたグループに、若者が実際にどういうことを求めているのかとメディアが殺到しました。昨年の目標は、「若者宣言書」を出すことでした。若い人の声が政治に求められている現状があると、僕たち若者も肌感覚で感じていましたので、若者が政治に対して何を考えているのか社会に対して宣言するということを、国会議員の先生方に正式にご協力いただいて実行しました。たとえば憲法をテーマとする項目では、「憲法を私たちのものにする」という抽象的なテーマでしたが、ここにいたるプロセスはとても重要なことだと思っていて、自分たちの憲法とは何なのか、では安保法制が騒がれているが何がほんとうは問題なのか、高校生100人と国会議員を交えて、しっかりと議論し宣言案を作成しました。そして最後に、優秀な宣言案に投票しあう際には、高校生も国会議員も「同じ一票」という意義を受けとめながら行いました。
だれでも社会への思いを話せる学校に
これら自分たちの活動を続けてきて何が必要かなというと、「新しい政治教育を確立する」ことが必要だと思います。なぜなら、永田町での「高校生100人×国会議員」というイベントに北海道から沖縄まで全国から来てくださる高校生は、学校のなかでは、政治について議論することができなかったり、社会に対する思い一生懸命話しても周りから嫌煙されてしまったりするから、このイベントでなら議論できると集まるという状況に気づいたからです。これらは、いま学校では、政治教育がすすんでいなかったり、政治がタブーだったりするといった懸念される状況が生んでいるのだと思います。だからこそ、いま18歳選挙権成立のこの機会に、新しい政治教育を創り上げなければいけないと考えています。
じっさいに3年間活動してきて、政治教育にはいま4つの壁があると思っています。人材の壁(思想信条を押しつけることなく政治教育をできる人材の不足)、プログラムの壁(政治教育をしよう・したいという先生はたくさんいらっしゃるが、何から始めたら・どこを補強したらよいのかわからない)、ディレクションの壁(指導要領で1年間びっしり埋まっている中に新しく政治教育を導入していく教員の負荷)、ネットワークの壁(学校の外の声をしっかり教室の中に入れていく)の4つです。
若者に政治との新しい出会いを届けるために、これら4つの壁を打開して、政治教育をアップデートしていかなければいけないと思っています。これまでも教育基本法のなかで、学校での政治教育は必要とされていて、「政治的教養」や「政治的道徳」と提唱されているのですが、概念としては分かっていても、具体的にどう政治教育を行えばよいのかは分かっていないのです。
地域の課題を学んで、自分に何ができるのか気づきあう
そこで僕たちは政治教育を新しく定義していて、それを「票育」と呼んでいます。それは、高校生たちが自分の住む地域や社会の「課題を発見する力」と、その発見した課題に対して自分がとれるアプローチを探っていくという「課題解決の選択肢を見出す力」の2つセットで学ぶ授業・仕組みです。
この「票育」は4つの価値を提供しています。これらは先述の政治教育の4つの壁をそれぞれ打開するものです。僕たちは150名くらいの教育現場にいくボランティアを抱えていて、じっさいに授業する地域の課題にそってオーダーメイドで授業を行っています。22歳以下の選考された若者が、その地域の課題をフィールドワークやインターネットを通じて学び、その成果を授業として届けるという新しいモデルです。
昨年の7月から「票育」を開始し、いままで全国で12校、合計1400名の中高生に届けてきました。また「票育」を届ける大学生ボランティアも各地で増えてきています。この「票育」は、授業を受ける中高生にとっての成果だけでなく、その授業プログラムを作成するためにその地域についての課題を学ぶ大学生にとっての成果の両方を出していくことがポイントだと思っています。
具体的には、いま模擬選挙を中心としたプログラムを行っています。ただし僕たちは、政治教育=模擬選挙だとは思ってはいません。いま選挙や投票の仕組みを学ぶ必要はあります。じっさいに高校生にきいていても、これらの仕組みを分かっている人は少ない。けれども、こういった仕組みだけを学ぶといまの公民の授業の限界を超えられない。だからこそ、一つひとつの「票育」の授業をオーダーメイドで地域の課題にそって作成します。たとえば、都内のある高校では財政破綻をテーマに授業をし、ある地方では地方創生やその自治体の魅力に関連するテーマで授業をしました。
「政治に興味を持ってほしい」、「選挙に関心を持ってほしい」と、「票育」で生徒に言うわけではないのですが、じっさいに地域の課題を学んでもらって、自分に何ができるのか気づいてもらうことこそが、「民主主義の根幹」なのではないかなと思っています。
いま学校の先生たちと連携を取りながら、学校や自治体と契約して票育を実施している段階です。最終的には、票育を学校指導要領に入れていきたいなと思っています。だれでも当たり前に、育ちや生まれの環境にかかわらず、地域の課題を学んでアクションできるようなプログラムを受けられる環境を全国で整えていきたいなと思っています。
自分は18歳からこういった活動してきて、当初は女子高生が投票するという光景は夢物語でしたが、でもいま若い力を応援してくださる政治家の方が増え、世界的にそういう雰囲気が高まってきて、そんな投票光景が当たり前のようになった時代を本当に幸せだと思っています。だから、18歳選挙権を一過性のムーブメントで終わらせず、これを機に、政治教育に何が必要なのか、若者がどういう声を上げたいと求めているのか、また被選挙権の年齢引き下げなどについて、私たちにできることをひとつひとつ提言していければと思っています。若い力で地道に活動を続け、世の中に多くの参加の選択肢を生みだしていければと思っています。
上村)「若者」をどう定義するのでしょうか。日本社会では、一般に高校生・大学生が若者で、社会人になると「大人」だと言われて、活動が継続しない傾向があります。市民社会の主体性では「若者」というカテゴリーがやや不当に軽視されていると思うことがあります。君たちは、政治教育のカリキュラムを作るというちょっと時間がかかる課題に取り組んでいます。だから、ちょっと長く「若者」でいてほしいなと思います。昔、西アフリカに行ったときに、「若者って何歳までですか」と質問したことがあります。その答は「44歳」でした。社会によって若者の定義は異なるようですが、その定義は持っていらっしゃいますか。
後藤)22歳以下を若者と定義しています。たいへん恐縮なのですが、この22歳以下の若者が中高生に政治教育をすることにとても意義があると考えています。正直ですね、いま僕たちがみなさんに温かく迎え入れていただいているのも、若くて政治を頑張っているからだと認識しています。自分が40歳で「若い人の政治参加は大事ですよ」と言ったところで、聞いてくれる人は少なくなるのではないかと実感しています。だから自分が運営しているこのNPO法人にも22歳以下しかいません。22歳以下という価値を提供しながら、そのなかでアップデートしていきたいと思っています。
大きな課題も自分のことに落とし込み、解決していく多くの選択肢があることを学ぶ
参加者)外国籍の子供たち・若者の選挙・投票に対して、どのように考えているのか教えてください
後藤)大前提として、投票や選挙が一番大事だという教え方はしていませんし、そう教えることを政治教育と定義していません。外国籍の子どもたちであっても、自分たちの地域にどういう課題があって、自分はどういうアプローチができるのかを学んでもらうことを最終的なゴールにしています。だから、政治との出会いを届けるために、選挙や投票に行ったりすることが唯一の選択肢であるとは「票育」で教えることはなく、多くの選択肢があるということを学んでもらうことを提供する形をとっています。不平等が生じてしまう選挙や投票はあまり目的にしていません。
参加者)フリースクールのスタッフをしています。子どもでも、それぞれ自分自身が感じることから出発して、学校や地域での課題を発見して、それをどう社会的な提言に結びつけていけるか、というプログラムを提供したことがあれば教えてください。
後藤)いまでこそ18歳選挙権の実現で、18歳以下の子どもたちは、「政治に関心を持ってくださいね」、「今年の参議院選挙はどうしますか」、「あなたの一票は日本を変えますか」といったとても大きな質問を投げかけられています。でもそれだけでは誰も聞き入れないのが現状で、おっしゃった通りに大事なことは、それらの大きな課題をどれだけ自分のことに噛み砕いて落としこめるかです。そこでポイントになるのが、自分の住んでいる地域の課題が何なのかだと思っています。なぜそう考えるに至ったかといえば、いままで「高校生100人×国会議員」での高校生の様子をみていると、じっさいに行きつく議論は、社会保障制度は・教育制度は・医療はこうするべきだといった抽象的に常に投げかけられているような問題が多いのです。けれども、地方議員や地域で実際に活動を頑張っている方にお話しいただくと、実感がわいて自分なりに噛み砕いた議論ができるからです。
参加者)「高校生100人×国会議員」に全国から集まったということですが、どのように呼びかけられたのか、また参加された方はリピーターになられたか・その後どういう関わりを持たれたか、報告してもらえればと思います。
後藤)参加者を集めたのは、基本的にはSNSや口コミです。最初は、頼むから来てくれと友達にいうところから始めました。2回目以降は、メディアに取り上げていただいたので人数が増えて、最多では604人の応募から100人に絞らせていただいたこともありました。参加後の関わりについては、全国から集まってきてくれているので、地方でも地域の課題をディスカッションする場を作りたいという動きがあります。それぞれの地域で僕らと同じような学生団体をつくって活動をする、それこそ「マクドナルドで政治の話をする」という会を始める子もいれば、県知事を巻き込みながら地方の会議をするなど、さまざまな選択肢が参加した後にはつながっています。
上村)若者に対して社会は、必要以上にヨイショするか、上から叩くかのどちらかだと思いますが、SJFは対等な関係でいきたいと思っています。
◆NPO法人 OurPlanet-TV 白石草さん(代表理事)(SJF担当委員=佐々木貴子)
「Support and Survey on Young Generations/SOYプロジェクト~保健室および地域の健診データ記録・蓄積化~」=助成事業名
白石) 今回の事業は、「SOYプロジェクト」というのが元の名前で、メンバーの頭文字からとっています。私・白石のSと、大谷尚子さん(養護実践研究センター)のOと、吉田由布子さん(「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク)のYで、この3人で進めているプロジェクトです。
OurPlanet-TVは非営利のインターネットメディアで、これまでのメディアとしての事業にくらべ、今回は少し踏み込んだ事業です。3人のリソースを活用して、前回助成いただいた事業(2013-2014年)で実現しなかったことを実現しようというプロジェクトです。
大谷尚子さんは大学で、養護に関する研究と人材育成をされてきた方で、全国の保健室に先生を送り出してきました。退職後、自ら養護実践研究センターを創り、全国の養護教員とつねに連携している先生です。
吉田由布子さんは、1990年、チェルノブイリ原発事故後4年目からずっとチェルノブイリでの実地研究、とくに子ども・次世代への放射線影響の研究を重ねてきました。
原発事故による長期低線量被ばくと健康、チェルノブイリに学ぶ
まずこの事業の背景ですが、前回の助成でOurPlanet-TVは、日本政府が「100mSv以下の被ばくは、健康に影響は起きない」として十分な防護措置や体系的な健康診断を実施していない状況を改善しようと、チェルノブイリでの長期低線量被ばくの実情を取材し、DVD『チェルノブイリ28年目の子どもたち』をつくり、多くの人と実情を共有し対話の糸口とすることから始めました。チェルノブイリでは、事故からまもなく30年経つわけですが、大変きめ細かく学校や地域で検診政策や保養政策が行われ続けています。日本とは対応の格差があります。このDVDは反響が大きく、いろいろなメディアの方や、一般市民の方にはずいぶん訴求できました。しかし残念ながら、政府や国会議員の方々には訴求できませんでした。これらの政策の担当はいま環境省なのですが、大きな政策のもとで阻まれています。健康診断は福島県外では実施しない方針です。また、チェルノブイリは5年目に非常に広い区域で避難区域ができたのですが、日本ではむしろ縮小傾向で、2017年には帰宅困難区域以外の避難指示を解除することを決定しています。助成金をいただいた1回目の事業後も、この状況をどう改善できるか、いろいろ悩んできました。
みなさんのなかで「初期被ばくしたかもしれない」と思っていらっしゃる方々はいますか。原発事故の初期に拡散したヨウ素の分布図(JAMSTEC)によれば、東京のほぼ全域が初期被ばくしています。日本政府や福島県は、福島原発事故はチェルノブイリよりも被曝線量が格段に低いため、健康被害は起きないと主張していますが、国連科学委員会(UNSCEAR)が出している報告書の個人の実効線量を比較すると、それほど大きな差はありません。チェルノブイリと日本それぞれにおける放射線による土壌汚染の地図を比較すると、日本の支援地域が、チェルノブイリの基準に比べ、格段に狭いことがわかります。今回のプロジェクトは、チェルノブイリで健康診断などさまざまな支援が行われている基準=1mSv(ウクライナでは0.5mSv)以上の汚染地域については、日本でもきちんとした措置を実施できるような道筋を立てたいと考えています。
いま、福島県内の検診で152人の子どもが小児甲状腺がんの悪性または悪性疑いと診断されています(2015年11月30日発表)。福島県の年間20mSv以上の地域では甲状腺がんの検診が行われているのですが、それ以外の地域ではほとんど行われていません。この甲状腺がんの結果についても議論が続いていますが、報道は少なく、朝日新聞で一度だけ、この152人の甲状腺がんが「被ばく影響」なのか「過剰診断」なのかという対論が掲載されましたがそれだけです。
甲状腺がん以外にも、被ばく影響を訴える声はよく耳にします。昨日、南相馬に取材に言っていたのですが、自宅の田んぼからストロンチウムが検出されたという方が、京都から来た専門家に「周辺でたくさんの人が、がんになっている人がいる。原発事故前と様子が違う。事故後に増えたと思う」と訴えていました。医学的な証明は難しいことですが、チェルノブイリと同様の状態が起きているということを否定することもまた難しいのではないかと思います。
市民の健康を守るため、広がる自主的な実践から、よりよい検診モデルをつくる
それでも日本が素晴らしいのは、全国の広い地域で、自治体による独自検診や、市民が自分たちで基金を募って行う検診などが実践されていることです。けれども、それらはバラバラのままに実践されています。
この助成事業の一つの柱は、それらをきちんと集約して、検診結果を比較できる体制を整備し、行政のサポート体制の違いを比較し、よりよい方法論を提示し、統一的に検診ができる体制づくりにつながればと考えています。検診体制が整えば、より広範囲で被ばく影響を比較したり分析したりすることが可能です。早期に子どもの健康を守れるよう体制を整えていきたいと考えています。チェルノブイリでは、いまでも検診の受診率は子ども世代でも98%です。かたや日本の検診(甲状腺検査)はまだ2巡目ですが既に50%を下回っています。国が十分な検診をやらないなかで、自分たちの検診モデルをよりよくして浸透させていくことが大切だと思います。
新年早々、1月8日に、福島県の浪江町(二本松市の仮庁舎)にヒアリングにいってきました。浪江町では、SPEEDIによる放射性物質の飛散情報が速やかに公開されなかったために、飛散している方向に最初は避難してしまい、住民は無用の被ばくをたくさんしてしまったのです。浪江町は広島を訪問し、原爆被爆者健康手帳をモデルした健康手帳を独自に作成して交付し、独自の追加的な検診を実施しています。さらにデータベースを構築し、健康白書を作成するなど、住民本位の取り組みを進めています。
こういった取り組みの事例を重ねながら、最終的には国を変えていくのが目標ですが、いまは国レベルより自治体レベルのほうが動かしやすい。自治体は、住民に近く、松戸市や柏市のように人口の多いまちでも、甲状腺検査に助成を出すなど、住民の声によって少しずつ変わってきています。
子どもの健康変化をキャッチできる保健室ネットワークづくり
助成事業のもう一つの柱は、子どもたちのさまざまな変化や問題が出てきているなかで、そういった子どもたちの状況を保健室でキャッチすることです。残念ながら、被ばくの問題については、鼻血が出たということくらいは把握されていても、ウクライナの保健室でどのようなフォローがなされているか、被ばく影響として甲状腺がん以外にどのような疾病や症状があるか、ご存知の養護の先生は少ない。そこで、大谷尚子先生を中心に、東日本などで活動されている保健室の養護の先生にヒアリングをしたり情報提供をしたりして、子どもの健康情報の記録方法をよりよくし、子どもたちの健康管理に必要な記録が残るような体制を整えたいと考えています。
これら2つの事業で、子どもたちの健康に関するデータベースをつくる前段のフローを確立します。
養護の先生方にヒアリングすると、被ばくの問題についての知識がほとんどないことが分かりましたので、先生方と意見交換をしながら、よりよい記録がとれるようにしていきたいと思います。現在、チェルノブイリ地域でなされている健康診断のガイドラインなどを活用しながら、自治体・住民・保健室の先生と協力しながら、国がやらないことを、市民レベルから構築できればと思っています。
参加者)フリーの新聞記者をしています。学校の養護教員を重視ということですが、学校というと、小中高、特別支援学校、幼稚園もいらっしゃると思います。保育園を取材していると、ちょうど昨年から今年にかけて年長さんの子たちは、(原発事故のあった)5年前に誕生して小学校に上がるところです。養護教諭の先生方の個人参加のネットワークなのか、どの程度のネットワークができているのでしょうか。
白石)保育園と幼稚園には養護の先生がいないですが、モニタリングの指標としては園の看護師さんに使っていただけると思います。実際にネットワークをつかって広げていきたい層としては、小・中・高・特別支援学校というかたちになります。それぞれの県にあります養護の先生のネットワーク(勉強会)と労働組合がありますので、大谷先生はそういった全国の県ごとのブロックごとの勉強会などに呼ばれてお話しする立場ですので、県単位で養護の先生方に働きかけていくというやり方を考えています。
口にしにくい被ばく影響の問題でも、健康サポートのガイドラインを社会全体で
佐々木) 3.11事故直後に福島県の三春町だけがヨウ素を配りました。他の自治体とこういった情報が早期に共有できれば良かったと思います。いま被ばく問題について話題にすることがはばかられるような環境のなかでも、白石さんは本業のメディア分野を活用しながら、また地道な調査をされながら、得られた情報をどういうふうに共有をしていきますか。
白石) たしかに、この問題は口にしにくく、共有していくことが難しいことではあります。でも、子どもの健康変化に敏感な保健室の先生方を重視し、その先生どうしのネットワークを通じて、冊子やセミナーやウェブサイトで情報を共有していこうと思っています。
去年の11月4日に、広島で黒い雨を浴びた人で被爆手帳を受給できていない人たちが訴訟を起こしました。また、ビキニ環礁の水爆実験の近くでマグロ漁をしていて、60年以上被ばくの事実を知らされなかった人たちが、労災認定の申請をします。やはり、初期の段階できちんと検診を実施しないと、日本では何十年もたってから訴訟が起きていますから、口にしにくい部分を打開しながら、きちっと健康に関する記録をしていかなければと思います。
参加者)昨年、浪江町の仮設住宅に暮らしている人たちを訪ねました。その人たちも、自分たちの健康状態やその対策などにとても悩んでいらっしゃいました。そのなかで、学校保健活動をサポートするご活動の発展として、仮設住宅に暮らしておられる方の健康サポートはいかがでしょうか。
白石)難しいけれど、重要な問題ですね。子どもは、放射線量に対して感受性が大人の4倍以上高く、また、これからの人生が長く、病気になると影響が大きいことから、今回は子どもにフォーカスしています。また次世代についても考えなければいけません。でも、おっしゃるように、大人を無視するのではありません。ウクライナでも、大人むけのガイドラインは子どものとは別途あります。ウェブサイトでの情報発信は、子どもに限らず大人にも発信していきたいと思います。仮設住宅を個別に対応することはできないかもしれませんが、できれば社会全体に声がひろがって、自治体だけでなく、国家として、少なくともチェルノブイリよりはましなガイドラインをつくっていこうという動きを作れればと思います。
佐々木)チェルノブイリでは事故から5年を経て法律ができ、被ばくについてきちんと支援していこうという動きになりました。日本の政治の流れは厳しいとあきらめることなく、市井の人たちが声をあげて、政治を動かし対話しながら解決していければと思います。
◆NPO法人 WorldOpenHeart 阿部恭子さん(理事長) (SJF担当委員=大河内秀人)
「加害者家族の現状と支援を考えるシンポジウムの開催」=助成事業名
阿部)宮城県に事務所のあるWorldOpenHeartは、2008年に、私が東北大学大学院にいたときに、仲間と立ち上げた団体です。その前は、弱者・少数者を支援することを目的に活動していました。そのなかで、「ニーズはあるけれどもまだサポートされていない人はどんな人か」と調査したところ、それは「罪を犯した人の家族」でした。罪を犯した人は少年院や刑務所などで少なくとも3食がある。けれども加害者の家族は、マスコミに追われ、地元を追われ、野宿するしかないほど追い込まれ、自殺する人まで出ている。でも、どんなに困っても「助けてください」という声をなかなか上げにくいだろうから、サポートが必要だと気づき、2008年から加害者家族の支援に取り組み始めました。支援活動では、とにかく当事者とつながって、どんなことに困っていて、どんなサポートをすればよいのか。民間で何ができて、行政で何ができればよいのかということを現在までずっと考えてきました。
隠れた被害者――加害者の家族
加害者家族が直面する困難を知っていますか。
これは、私たちが支援してきた加害者家族422人からとったデータです。
どんな犯罪の加害者家族を私たちはいちばん支援してきたかというと、殺人事件です。圧倒的に相談件数が多く、50件を超えています。平和な日本で驚異的な数字かもしれませんが、殺人事件のばあい、メディアスクラムも来るし、人々の記憶にも残りやすく、ネット上でも検索すれば出てきて、一つの世代だけで終わらない問題となります。私が生まれたころの事件の方も相談にいらっしゃっていて、まだ傷がいえず、差別が続いているそうです。
また犯罪の種類を問わず、この加害者家族422人の9割の人が自殺を考えています。また、ネット上の誹謗中傷・いじめ・ハラスメントなど人権侵害を受けた人は94%になっています。結婚が破談になった人は、殺人事件を多く扱ってきているので多くなっており、41%に上っています。本人たちはよくても親族からの反対が強い。さらに、進学や就職をあきらめるのが39%もあり、子どもたちにとって大変な問題となっていて、転校や転職が余儀なくされています。
日本における支援団体は私たちのほか、大阪にも最近できましたが、いま2つだけです。海外にはたくさんの支援団体があります。「prisoner’s family」といったキーワードで検索できます。韓国でも支援団体が最近立ち上がって、私たちと協力していこうとしているところです。やはり欧米よりアジアのほうが、罪を犯した罪は家族にもあるという差別が強く、にもかかわらずサポートが行き渡っていないようです。海外では、加害者家族のことを、Hidden victim(隠れた被害者)・forgotten victim(忘れられた被害者)といった表現をされています。
公立学校から「転校してください」と言われた子ども
加害者家族の子どもたちの差別の問題はとても深刻です。日本における子どもにとっての最大の課題は、学校教育の現場からの排除です。先生からも、です。加害者家族の生徒を擁護することは、被害者側に悪いという理屈が通っているということは、人の正義にかなうことでしょうか。
また、そういった子どもたちがいることに対する社会的な無関心、無視があります。無視しているということ自体に全く疑問を感じないのはどうなんでしょう、と世の中に問いたいとずっと思ってきました。
私が2008年に初めて加害者家族から相談を受けて、人生をかけてこの問題をやろうと思った事件がありました。殺人事件を起こした人の家族、8歳か9歳の子どもと母親が私のところに相談にきました。その子は、お父さんは刑務所にいますが、まだ刑務所がどのようなところかも分からず、表情は明るかったです。お母さんから話をきいたら、殺人事件なのでマスコミが押し寄せてきて、地域が騒然となったそうです。いろいろなところからお母さんは抗議されましたが、自分の夫がやったことなのでそれはしょうがないと。
ただ唯一、子どもだけは、学校(公立)が守ってくれるのではないかと救いを求めたそうです。子どもに学校を休ませなければならない状況のために、学校に電話したら教頭先生が出て「他の子どもたちに示しがつかないので転校してください」と言われたそうです。そのお子さんは転校するとなった時に「友達と別れたくない」と泣き出したそうです。そこで先生に、「転校する際に、みなさんに『さよなら』だけは言わせてください」と言ったのですが、それもかなえられませんでした。そこで、お母さんは、真夜中にお子さんを校庭につれていきました。その子は校庭を走りまわって「さよなら」と言ったのです。二度とその場には戻れないのです。
何の罪もない子どもが、周りから無視されて、お友達に「さよなら」を言う権利もないのかと。あまりに不条理ではないかと。まだその子は幼いですから、長いあいだ殺人犯の子どもということが付きまとっていくだろうから、心のケアを長期的にきちんとやらなければいけないと。ある種の批判があってでも、子どもたちを守っていきたいという思いから今まで活動をしてきました。
加害者の家族を知り、偏見をとりはらい、身近な問題としての対話へ
どんな議論をみなさんと共有していきたいか。
まず知っていただきたいのは、加害者家族はどのような人々か、ということです。結論をいいますと、とても一般的な人です。私もなるかもしれないし、失礼ですが、みなさんもなるかもしれません。交通事故もありますから。冤罪もありますから。家族がいる限り、みんなにそうなるリスクがある問題です。
みなさんのいだく加害者家族像は、もしかしたら、私たちが相談にのってきた人たちの現実とかけはなれているかもしれません。これは実際のデータを示しながら、さまざまなケースを説明する機会をいただければと思います。
そしてつぎに、加害者家族への支援。どんな事件かに応じて必要な支援はさまざまです。ただ、海外ではなぜ加害者家族の支援がたくさんあり社会的に認められているかといえば、イギリスなどでは再犯防止になることが認められているからです。じっさい家族を支援することで犯罪の抑止になっていることは、私たちのなかでも実証されていることなので、この点も、みなさんとシェアしたいです。
家族の犯歴によって、仕事ができなくなることがあり、経済的に困窮することも多くあります。就職差別を法的にどう解決できるかは難しいです。社会的に、親と同じ血が流れているから何か悪いものを受け継いでいるのではないかという、偏見が大きいという報告をいろいろなところから受けています。
加害者家族の問題は、人権問題ですが、そういった捉え方は今までされてきませんでした。法務省の人権擁護教育といったホームページを見ていただけますと、いろいろなマイノリティ、女性の差別やDVDの被害者といったカテゴリーが並んでいますが、そこに、親に犯罪者を持つ子どもたちのことも位置付けて、学校等でもタブー視しないで身近な問題として対話を重ねていければと思います。
これから私たちWorldOpenHeartはシンポジウムを何度か開催していきます。加害者家族の問題は、テーマが深く広いのです。たとえば犯罪報道と加害者家族というテーマも大きいです。私たちのホームページなどから問題を知っていただければと思います。
大河内)加害者の家族に対するいわれのない人権侵害はほとんどがメディアによる情報によってもたらされているものだと思います。加害者本人ではないにもかかわらず、家族だということで人権侵害をする、あるいは不当な評判を被せるということは、常識的にはおかしいと思うわけですが、じっさいにはメディアにつくられている面がある。もちろんメディアは競争のある商業という側面もあり、スウェーデンのような匿名報道まで行かなくても、報道に対するコードや、メディアに対するアドボカシー活動はどのように取り組んでおられますか。
阿部)最近その重要性を痛感していて、今回助成を申請しました。なぜこれまでアドボカシー活動を行ってこなかったかは、する時間がなかったのです。アドボカシー活動型よりはソーシャルワーク型だったのです。議論するよりは、まず目の前の困っている人に対応することで精一杯だった。年間100件くらい、相談に対応していますから。でも、結婚差別といった問題に直面した時に、世間の人の考え方が変わっていかないと無理やり結婚してくださいというわけにもいかず、偏見や世間体を変えていかなければならず、個別に対応するだけでは解決できないという限界が見えてきた。また、相談を重ねることでデータも出てきました。そこからアドボカシー活動も進めていきたいと思ったのです。
参加者)弁護士をしています。「アドボカシー活動における議論の方向性」として、「加害者家族『支援』の意義の検討」にあたって「先進諸国の支援との比較」をあげておられますが、海外の学校での取り組みについて教えてください。
阿部)海外の団体さんの学校での取り組みは、まだ調べられていないのですが、オーストラリアやイギリスなどで主に取り組んでいるのは、受刑者の数が多いので、学校とより刑務所との連携ではないかと思います。親との面会の促進や、教育面での連携です。なおメディアリテラシーについては、先ほどスウェーデンのお話しもありましたが、北欧のほうを調べているところです。
参加者)いじめの加害者、子どもが加害者になって少年院に入るようなケースでは、むしろ加害者本人の子どものその後が問題なのでしょうけど、この場合の家族をふくめた支援についてはどうでしょうか?
阿部)いじめのケースも扱っています。いまインターネットなどで、いじめ事件が大きく報道されて、加害者家族の情報がいろいろ出てしまっています。加害者とされてしまった子どもたち、本人たちにすればもしかしたら本当は違うというケースもあるでしょうが、加害者の年齢が低いほど保護者への圧力が強いので、家庭ごとの包括的なサポートをしています。いじめ事件だから、他の事件とくらべて特別だとは考えていません。
参加者)「加害者」とおっしゃっていますが、事件が起きて、犯罪者という判決がおり得るまでの間が、メディアスクラムなどいろいろな問題が起きる期間です。それ以降は加害者に対しては刑があるだろうし、場合によっては家族に対する刑もあり得るだろけれども、起きてから、通常の刑事司法上の手続きが完結するまでが、完全な真空地帯におかれると思います。ここに支援のターゲットをメインにおかれていると理解してよろしいでしょうか。そうだとすると、支援対象となる人たちは厳密には、「加害者」ではないのです。
阿部)「被疑者被告人」です。でも「加害者」ですね、「被害者」がいれば、たぶん。
参加者)それはそうなのですが、確定したものとして話がされているということに対して、抑制をかけないと、モンスター化を防げないのではないですか。
阿部)ニーズが最も高いのは、捜査段階です。へたすると逮捕前ですから、難しい問題ですね。でも、加害者家族は、「加害者家族」という状況に置かれていますね、冤罪事件であっても。ご指摘いただいて、言葉の使い方も視野にいれて議論していきたいと思います。
【第2部;対話交流会】
(コーディネータ=上村英明/SJF運営委員長)
上村)3団体のお話をうかがって、大事な事業を助成できることをあらためて喜んでいます。
会場に来ていただいているたくさんの方々からも、ご自分の経験やお仕事などから、こんなこともできるのではないかとか、こんな点は注意したほうがよいとか、一緒に協力できるのではないかとか、さらにご質問など、ご発言いただく場を開きたいと思います。みなさんのご参加のスタンスも含めて、意見交換できればと思います。
参加者) 中1の子どもがいます。子どもの問題をどうしていくかという大きなくくりのなかで、とくに放射線被ばくのリスクについては、社会問題化されないようにされてしまっているなかで、「いや、そうじゃないんだよ」と言い続けることで出来ていくことが、OurPlanet-TVの事業との共通項としてあると思います。私たちは、東京都における甲状腺検査にむけて活動をしていますが、目標は近いので、何か微力でも協力できることはないかなと相談にいければと思います。
また、「高校生100人×国会議員」の会議で原発エネルギー問題グループに参加したこともあります。今度の参院選で何ができるか、ここから政策は何ができるか、18歳選挙権は大きな課題ですので、何かうまく連携できればと思っています。
加害者になりえる自分に気づく――差別のない社会へ
参加者)被ばく問題に関わっています。2番目の発表と3番目の発表に共通しているかもしれませんが、被害者が差別されるという問題があります。原爆の被爆者の問題が典型的ですけれども、差別されるので隠すと。被爆者手帳をもらうと健康の支援をうけられるのだけれども、もらわないでずっと過ごしてかなり最近になって明らかにしている。これは、自分はよいのだけれども、家族が差別されることを恐れてのことです。
3番目のお話は、加害者および加害者の家族が差別されるわけです。いじめの加害者の子どもの家族の問題を先ほど聞きましたが、加害者家族が直面する困難というのは、差別され、いじめを受けると。そこで、いじめている人はその瞬間、いじめの加害者になっているわけですが、本人はその自覚はなくて、いじめ加害者であるとは世間で認定されていなくて、認定されたとたんに、加害者だと差別されると。
いったいだれが、加害者だとか、被害者だとか、差別者であるとか誰かを逆に認定するのか。だれか実際に関わっておられる方で経験はないでしょうか。どうやったら、差別のない社会になるのか。
参加者)差別する本人が気づくしかないのです。いじめをした加害者も、「これはいじめだったんだ」と気づくことになりますし、「自分もいじめの加害者になりえる」と気づけることになります。
ぼくは、去年の夏まで長く刑務所にいました。ぼくの家族も、「加害者家族が直面する困難」をすべて経験しています。父親が事件で首を吊ってなくなっています。姉は結婚が破談になり、そのあと弟と一緒に職を転々とし、なんとか母親が自殺しないよう見守りながら、いまようやく姉も嫁ぎ、弟も他の会社で働いています。
加害者の家族支援は、本人の再犯防止にとても役立ちます。また、地域でそういう加害者がいると知ることで、排除しない社会をつくるきっかけになります。だから、「いじめをしたからコイツはダメなんだ」とか、罪名だけで人を裁かないでほしいのです。罪名を聞いただけで「またコイツはこういうことやるんだ」と思ったら、もうそれだけでレッテル犯になってしまいます。その罪名がついているのなら、今度はそこで「もうこの人は再犯しないだろう」と信じてやってほしいのです。罪名で裁かれて、服役とか、加害者のレッテルも貼られているから、本人は十分に気づいてはずですから。加害者もかなり傷ついていますから。
阿部)だれが、加害者と認定するかという質問がありましたが、確かに、本人が気づくしかないのです。
私、じっさい差別してしまったことがあるのです。人権問題に中学の13歳ごろから関わっていました。それは、憧れの先生が人権活動をしていて、追っかけをしていたのです。その先生は、子どもたち――外国人で親が売春をしてしまって捕まっていたり、父親が誰だかわからなかったりして凶暴とみなされている子どもたち、施設にも入れないような子どもたち――に勉強を教えるという活動をしていて、私はボランティアで手伝っていました。ある時、一人の男の子から突然、「あいつのお父さん人殺しなんだぜ」と言われて、怖くなって、その先生に「怖いんですけど」と言いました。すると「なぜ怖いの?」と問われて、「親もそうなら、もしかしたら彼もそうなる、と思った」と正直に言うと、「じゃあ、あなたも、将来お父さんやお母さんみたいになる?」と聞かれました。それを考えると「そうなるかもしれないし、ならないかもしれない」と言うと、「あの子も、そうなるかもしれないし、ならないかもしれないよね」と言われました。その時、すとんと腑に落ちて、「たしかに環境で変わるな」と思えて、すこし引いてしまったことを率直に申し訳なく思った経験がありました。そのあと、怖いと思ったその子ともいっぱい話すようになって、私も変わりました。
この私のように、伝え方を間違えると、子どもだから、子どもは残酷なところ少しありますから、「うつる」と思ってしまうとか、どっちも加害者になりえます。だから、正しい情報をきちんと伝えていくということが、差別を解消する糸口になると思います。
参加者)子どもの貧困問題を地域で直接取り組む、子どものソーシャルワークをやっています。
都内の公立高校で、この夏、学校としては「犯罪」とされるその場にいただけで、懲戒退学にされてしまった子どもがいます。ありえないことが実際に学校の中で起きていると、人権問題として弁護士さんに相談したところ、学校は懲戒退学をほんの短期間で取り消しました。しかし、学校は、何の謝罪もなく、他の子どもたちには「何の理由もなく懲戒退学になったのだけれども、明日からこの子どもが来ます。この問題には触れないでください」という伝え方をしました。その親子がどんな思いをしたか、どんなに苦しかったか。
そのときに周りの母親は、「自分の子が通っている学校の先生に抗議することはやめよう、それなりの理由があって、もしかして犯罪に加担したんじゃないか」と、見てみぬふりとなりました。私はじっさいにそのお母さんたちや子どもたちにどう寄りそったらよいのかと考えました。
これが教育現場で起きている。これから教育をほんとうに変えていくには、「先生それはおかしいよね、裸の王様は裸だよね」と言えるような人たちが声を上げてほしいなと思います。この場にくることで、情報や助言をいただければと参加しました。また、社会問題に関心のないお母さんでもこの場にくることで、自分の苦しさをわかってくれる人たちがこの場にいるんだな、社会ってそんなに冷たい人ばかりではないんだなと感じてほしいという思いで、当事者のお母さんもつれてきました。
相談ができないでいる子どもたちについて、いろいろ考えていければと思います。そのお母さんはお金があって、100万円で弁護士を雇えたから懲戒退学を取り消すことができました。でも私がじっさい地域で活動している子どもたち、貧困家庭の子どもたち、ネグレクト・虐待されている子どもたちは、高校に上がっても、何か事件に巻き込まれても、そこで弁護する人がいないことによって簡単に社会からこぼれおちてしまうのです。
気づきや疑問を発揮できる機会と場を、学校にも創る政治教育
後藤)自分たちが気づかなかったり、知らなかったりしたことのお話をありがとうございます。加害者の家族の方の問題や、子どもの被ばく問題は、本人や当事者の周りの人たちの問題が多く、周りの人たちの意識を変えなければいけないなと思いました。みなさんから当事者目線のお話しをいただき、データや現状を教えていただいたから、自分が当事者と同じような立場になったら何ができるかなといろいろ考えて、気づけることがありました。
この気づきを自分たちの活動とどうリンクできるかと考えた時、たとえば18歳選挙権で若者がどう社会で考え行動していくかがとても大事になっていますが、結局、何も知らないと始まらない。若者がなぜ投票できなかったり、政治参加出来なかったりするのかと言えば、まず分からないからなのです。こういう話を聞かせていただいたら、自分たちはこういうことができるかもしれないとか、身近な問題かもしれないから友達に話しかけてみようとか、小さなアクションはきっと思いつけます。
僕たちは政治に関心がない世代といわれますが、ほんとうは、自分のなかに気づきとか疑問とかいっぱい持っていて、それを発揮できる機会と場が足りていないのです。それを学校のなかで創りたいという意味で、政治教育がいちばんいいと思うのです。人権問題や、エネルギー問題、放射線被ばくの問題とか、ぜんぶ政治が絡んでいます。だからこそ、政治教育のなかでそういった問題を扱って、多様な選択肢を持つ自分たちのプログラムを創っていきたいと思っていますので、みなさんのお話しを引き続きお聞かせいただければと思います。
参加者)日本国内での人身取引被害者の救済をしています。とくに性的搾取、自らの意思に反して性産業に従事している女性だけでなく男性の被害者の支援をしています。さいきん若年層の子たちが被害に巻き込まれるケースが増えており、啓発と救済のためのアプリ開発を進めており、SJFから前回助成をいただきました。
また個人的に、ベラルーシの子どもの里親をしています。その子は生まれてきた時にリンパ節に腫瘍があり、その手術をするために何度かモスクワまで行っていて、その手術費用を助けたことをきっかけに里親となりました。チェルノブイリの問題を追い懸けていくと、福島でもほんとうに同じようなことが起きるのではないかと非常に感じています。私も微力ながらその問題意識を広めていきながら活動を進めていければと思っています。
加害者家族の現状の支援については、これは世の中では、触れるとすごいアレルギー反応が返ってきそうな問題なのですが、きちんと勉強したことはないものの、これこそ必要なことだろうなと感じておりました。
政治教育については、私は学生のころは、まったく関心がありませんでした。このように、まったく関心がない人に関心を持たせるためにどのようなことを考えておられるのか聞いてみたいです。
後藤)全国の中高に行って感じるのは、ほんとうに関心がないことです。肌感覚ですが。18歳選挙権といっても、勝手に付与されたという感覚でいるようです。
同NPOメンバー)やはり、急に「政治の話をしに来ました」といわれて「すげえ」という高校生はいません。学年主任の先生に最初に、「ほんとうに興味がないと思うので、難しい言葉は使わないでください」といわれて「わかりましたー」と授業をすると、でも最終的には、「今日の授業面白かった!」と高校生たちがツイッターで言ってくれています。これはぼくたちの授業が、エンターテイメント性や、当事者性を重視しているからだと思います。音とイラストを人気クイズ番組形式にしたり、芸能ネタをつかったり、政治とまったく対局にありそうな遊び感覚から、だんだん政治にもっていく授業をしています。
同NPOメンバー)「僕らの一歩が日本を変える。」のイベントに参加したときは、総理大臣が誰かも知らなかったような状態でしたが、となりの高校生が議論を繰り広げているのをみて、政治って格好いいなと思えました。教室全体の空気があると思う。政治というものが面白い、それについて語ることがかっこいいと思えるような空気づくりができると、関心が高められるのではないかと思っています。
マジョリティのなかにマイノリティの問題に気づける人を育て、歩み寄る合意を重視
参加者)人権の問題を抱えている当事者からすると、政治の問題として語られることは、警戒こそすれ嬉しいとは思わない。なぜなら、そういう政治の力のなかでは、とうぜん多数派が強くなり、マイノリティの自分たちとは違う方向に行ってしまうというリスクを感じざるをえないから。「僕らの一歩が日本を変える。」は、政治の問題をきちんと議論していくというなかで、この人権という、難しく取り扱いにくい問題をどのように取り扱っていこおうと思っておられるのか。
後藤)マジョリティが意見を決めているのは間違いのない事実。そのマジョリティのなかに、マイノリティの問題にも気づける人を育てる・増やすことが目標だと思っています。それが「票育」で掲げている「課題を見つけて気づいていける力」だと思っています。
参加者)もうひとつ。今日の加害者家族の話とか、被害者がバッシングを受けるという問題とか、結局これもマイノリティの問題です。マイノリティの人たちは、そういった問題に巻き込まれることを怖いと思っています。だから政治の問題として取り上げる時は、その怖いという思いとまず向き合わなければいけません。今日2番目と3番目に発表した団体は、保護をふくめて、その向き合うことを行っている。先ほど外国籍の人の場合についての質問がありましたが、在日の人たちがいた場合、どのようなか感じ方や考え方を持っているかをじゅうぶん考慮したうえでないと政治の話に入っていけないと、私自身も葛藤しています。やはり政治を議論する時にも、ぜひマイノリティの人たちを考慮していただきたい。
後藤)実例として、中高生に政治教育に興味を持ってもらうためにゲーム感覚で学んでもらう授業を2年前から行っており、集団感染を話題にしようとした時があります。教室で集団感染した場合を想定し、感染した人と感染していない人とがどういう行動をしなければいけないかと、ワクチンを提供する政治家がワクチンの提供先を決めていたとして、どの政治家を選んだら自分たちがよい方向に進めるか判断する授業を計画しました。しかし実施直前になって、教室でインフルエンザになった人が出て、先生から「感染にピリピリしているから、やめて」と言われて中止したことがあります。その時に、感染した人から見たら僕たちの授業はどうなのかについての対話や配慮がひつようだと思いました。
また、在日の子どもが僕たちのメンバーにいます。僕たちはNPOとして政治を扱う時に、幅のある中立性をもっとも重視しています。両極の意見をふまえて、間の案をどう見つけて合意していくかを重視しています。
上村)教育学じたいが、実は非常に怪しいものです。開発教育、環境教育もみんなそうです。現場で活動している人間からみれば、教育は「教える」「学ぶ」ためと称して、現実を抽象化します。しかし、それでも、教育現場の人たちと常に関係性をもちながら成果を共有しなければいけないと思います。だから、「僕らの一歩が日本を変える。」が取り組もうとしている「政治教育」も怪しいものだと思ってはいますが(笑)、いまの社会にとても大事な課題ですから、チャレンジしてほしいと思います。君たちの政治教育の成果は、大人の政治教育にも使えると思っています。大人のみなさんも政治教育を受けましたか?ほんとうは受けていないのです。投票率は若者だけでなく社会全体で下がっています。そういう意味での君たちの社会貢献の重要性があります。
樋口)これからも、担当委員とともに伴走させていただいて、アドボカシーカフェの開催など行ってまいりますので、みなさん参加していただければと思います。
=閉会挨拶=
佐々木貴子・まちぽっと理事長) 本日は、助成に応募していただいて助成金をさしあげられなかった団体の方々もきてくださって、とても感じ入っています。たくさんのみなさまにご参加いただきまして、第4回の助成先との対話の場を開けましたこと感謝申しあげます。これからこれらの活動がさらに広がっていくのだと実感しています。市民のみなさんからご寄付をいただきながら、SJFの活動を長く続けていくことができますなら、社会を変えていけるのではないかなとあらためて思いました。これからもご注目とご支援をいただければと思います。
(=敬称略)
~参加者募集~
◆「『票育』――若者と政治が出会う新しい授業の作り方」(SJFアドボカシーカフェ第42回)
【ゲスト】保坂 展人さん(世田谷区長)
後藤 寛勝さん(僕らの一歩が日本を変える。代表理事)
【日時】16年4月13日(水) 18:30~21:00
【会場】文京シビックセンター
★詳細・お申込 http://socialjustice.jp/p/20160413/
*** この2016年1月18日の企画ご案内状はこちらから(ご参考)***
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