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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)メールマガジン2023.6.21配信号・「委員長のひとりごと」

 

再び、2023年と『社会正義』の役割:社会的公正と政治の課題

上村英明(SJF運営委員長)

 

 久しぶりの「委員長のひとりごと」。いつものように、少し変わった視点のエッセイを書きたかったのですが、タイトルは、2023年1月のテーマに「再び」を付けたものになってしまいました。6月9日、「出入国管理及び難民認定法」(以下、入管法)の「改正」あるいは改悪案が、前日参議院の法務委員会で強行採決された後、成立したからです。

 詳細には触れませんが、今回の法案は、21年に国会に提出されたものと同じもので、当然同じ問題をもっていました。例えば、国際的に問題になっている日本の難民認定率の異常な低さ(21年度で申請者2,413名中、認定者74名、3%の認定率ですが、これでも過去最高)、出入国在留管理庁という役所の判断だけで、在留期限の切れた外国人を原則入管の施設に収容できるという基本的な問題が不問に付されたまま、難民認定申請者への強制送還措置を一定可能にし、また強制送還拒否者に罰則を適用するなど国際人権法に反する外国人排除政策が取られることです。

 しかし、21年には、3月にウィシュマ・サンダマリさん(スリランカ国籍)が名古屋出入国在留管理局の収容施設で死亡したというショッキングなニュースで、大きな批判が起こりました。僕個人も21年5月11日に法務大臣に提出された「入管法改正案の審議において国際人権機関の勧告を真摯に検討し、国際人権法との合致を確保することを日本政府に求める声明」(賛同者総数124名)の共同発起人となり、同日に行われた記者会見にも出席することになりました。幸いなことに、その社会状況からか、この時期同法案は取り下げになったのです(「委員長のひとりごと」、『SJFメールマガジン』第115号、21年5月19日配信号参照)。

 そして、23年には、また同じ内容の法案が政府与党によって、再び国会に提出されました。僕自身が関わった同じような活動では、23年4月17日に政府に提出された「入管法改正案について、G7 議長国として国際人権基準に則った審議を求める研究者声明」があります。この声明で、呼びかけ人を務め、賛同者総数は前回をはるかに超える432名となりました。そして、同日に行われた記者会見にも出席し、志を同じくする仲間たちと問題点を指摘しました(東京新聞、23年4月21日朝刊を参照)。しかし、今回は、メディアのキャンペーンも盛り上がらず、先述した強行採決と法案の成立に終わりました。

 

 強行採決を経ての成立、国会がデモ隊に囲まれなかったことを、民主主義の崩壊と評することも可能だと思います。しかし、ここで述べておきたいことは、この国の「社会的公正(Social Justice)」の危機的状況が残念なほど明確になったことです。4月17日に提出された上記の研究者声明には「G7議長国として」という文言が入っていますが、これは日本政府の二重基準を揶揄した表現です。

 実は、この時期、政府が発表する政策文書によれば、この国は「素晴らしい国」なのです。22年12月に閣議決定された新しい「国家安全保障戦略」では、この国は「自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を擁護」(同3頁)する「先進民主主義国」です。さらに、奇しくも入管法「改正」と同日、23年6月9日に閣議決定された、外交政策の重点項目のひとつと位置付けられる新たな「開発協力大綱」も、「人間の安全保障」の概念を掲げ、これを上述の普遍的価値とつながるとした上で、この国を「人間の持つ崇高な理想・理念を体現する」(同3頁)国とまで述べています。

 こうした認識の下で、日本政府は、23年12月にスイス・ジュネーブで開催が予定されている「第2回グローバル難民フォーラム」で共同議長国を務めるのです(UNHCRホームページ、22年12月9日)。

 こうした決定的な矛盾に、政府はあるいは政治家やメディアはなぜ気づかないのでしょうか。気づくための基準や視点、より難しく言えば理念をもっていないという点では、広く市民社会も同罪かもしれません。「素晴らしい国」の中で、外国人や難民は自分に関係ない問題あるいは「何か怪しい人たち」という偏見や差別、日本の近代に始まると思われるそれが再び蔓延しているとしか思えません。

 

 その点、5月20日には、SJFと助成先である「一般社団法人パリテ・アカデミー」と共催で第77回アドボカシー・カフェが開催され、総合司会の役でこれに参加しました。この時代に、女性の政治家をつくることで社会変革をしようという重要な取り組みをしている市民団体です。

 パリテ・アカデミーを卒業し、4月の統一地方選挙で当選した新人の議員さんたちの話を聞きながら、パリテ・アカデミーが「ジェンダー平等」という視点で単に女性の政治家をつくるだけでなく、政治に参加することはInclusion(誰をも排除しない社会)、Respect(お互いの違いを尊重する関係性)、Justice(女性の尊厳が守られ非暴力な世界、つまりは正義)を社会に実現することだと、その理念の下で運営されていることに感銘を受けました。

 共同代表である三浦まりさんや申きよんさんによれば、とくに広がりをもつJusticeという理念は市民の日々の生活との関係では難しいことが少なくありませんが、現代の市民社会の中で極めて大切な考え方だと認識しているとの発言がありました。本基金が求める「社会的公正(Social Justice)」という考え方にもつながります。

 広く外国人や難民、異なる文化や歴史にルーツを持つ人たちが快く対等に暮らせる社会をつくることは正義や公正といった視点からの普遍的な価値の実現に他なりません。世の矛盾から簡単に逃れることはできませんが、それを背負いながらも、しっかりと前進したいと思います。

(記 23年6月13日)

 

 

 

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