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ソーシャル・ジャスティス雑感(SJFメールマガジン2023年3月15日配信号より)

 

ミャンマーと日本財団とギャンブル

轟木洋子(SJF元審査委員)

 

 2023年2月22日午後、東京虎ノ門の日本財団ビル前に70名ほどの在日ミャンマー人が集まった。法律に則って72時間前までに警察に届けた遵法行動のデモンストレーションである。制服警官と公安警察10人ほどに見守られながら2時間に亘ってシュプレヒコールをあげていた。
 訴えていたのは、日本財団会長の笹川陽平氏のミャンマーへの関わりについてである。笹川会長が「『ミャンマー国民和解』と称して、民主化を求めるミャンマー人民の闘いの分断を図り、クーデター政権のもとでのミャンマー『平定』を画策している」ことへの強い怒りの抗議であった。

 笹川会長は、ミャンマー軍事政権への「太いパイプ」のひとつとされる人物であり、民間人でありながら日本政府外務省から「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」の任を託され、2020年11月のミャンマー総選挙においては日本の選挙監視団の団長を務めた。選挙はアウンサン・スーチー氏のNLD(国民民主連盟)が圧勝し、ヤンゴンで複数の投票所を訪問した笹川会長は「選挙は非常に公正に行われ、国軍も結果を受け入れている」と語っている。
 しかし、それから3ヶ月後の2月1日、選挙結果を不満としたミンアウンフライン最高司令官率いる国軍によるクーデターが発生。民主化を求めるミャンマー国民を殺害し、弾圧し、国内避難民が150万人にも達しているのは世界の知るところである。

 在日ミャンマー人たちが憤っているのは、笹川会長は2020年総選挙を公正だったと認めながら、それを「不正だった」と主張する国軍を諌めるどころか、自分たちに有利な方法で総選挙のやり直しを謀り、その選挙でさえも非常事態宣言を延長して先送りしている国軍に対して「時間が多少ずれたとしても民主主義の大原則である選挙を実施してほしい」などと述べている点にある。
 加えて、クーデター直後から街頭デモや不服従運動に立ち上がった労働者・学生達が決起し、少数民族武装組織に合流して国軍と戦闘を継続しているが、笹川会長がこの少数民族組織と国軍の「停戦合意」のために動いているのは国軍を利するものであり、民主化を願うミャンマー人民を分断し、切り崩しを謀るものだと非難しているのである。

 この2月の日本財団前のデモの2日前、もうひとつの「太いパイプ」である日本ミャンマー協会の渡辺秀央会長(元郵政相)と、自民党副総裁の麻生太郎衆議院議員に対して、ミャンマー軍事政権から「両国と両国民、両国の軍隊が友好関係と協力を強化」することに貢献したとして、名誉称号と勲章が贈られた。渡辺会長は首都ネピドーでの授与式に出席し、欠席の麻生副総裁は渡辺会長を通して謝意を述べたという。

 今回は、日本ミャンマー協会についてはさておき、日本財団は日本屈指の慈善活動を展開する公益法人である。その原資は競艇、公営ギャンブルだ。
 昭和26年施行の「モーターボート競走法」の成立過程は詳しくないが、笹川陽平会長の父の良一氏(筆者世代は「一日一善」でなじみがある)が暗躍し、参議院で否決されたものの戻された衆議院で可決されたようである。モーターボート競争の競走実施機関(施行者)は地方自治体であるが、法第25条で「施行者は、次に掲げる金額を第44条第1項に規定する船舶等振興機関に交付しなければならない。」と定めており、その44条第1項では、その船舶等振興機関として、国土交通大臣が全国のなかから1つの財団法人を船舶等振興機関として指定することができるとしている。そして、その指定を一貫して受け続けているのが日本財団(前・日本船舶振興会)である。
 2021年度の同財団の収支計算書を見ると、この年の交付金額は約888億3600万円と巨大である。この財団は、黙っていてもモーターボート競争からこれほどの収入が得られるのである。

 さて、興味深い論文がネットにあがっているのを発見した。市民オンブズマン(大阪)の井上善雄が著した「公認ギャンブルの弊害をなくすために」である。
 井上氏は、「賭博の誘惑に弱い人から特別収奪したもの」が公営ギャンブルの収益であり、「実はその収入の多くが『貧しい人』ギャンブル依存症患者やその周辺の金員に支えられている」と指摘している。「吞む(酒)、打つ(バクチ)、買う(買春)は男の快楽主義に基礎」を持つが、アルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル依存症を肯定する人は現代ではいない。ギャンブルを「夢」の範囲で留まらせるのなら、賭ける金額に制限を設けるべきであると井上氏は訴える。

 現在では、ギャンブルを健全なものとしてPRするテレビCMが溢れており、俳優や芸人を多用して、特に若者・女性を誘惑している。彼らが新たなギャンブル依存症患者となり、特別収奪され、その金が日本財団の収入となり、そこから福祉やスポーツや青少年育成の活動を行うNPOなどに助成金として配付されるのである。その結果、日本財団は社会から尊敬を集め、会長は民間人でありながら日本政府代表となる。
 NPOなどの非営利団体の多くが、日本財団から有難く助成金を頂戴しているが、こうしたメディアがあまり報道したがらない背景についても、認識したうえで助成金申請を行うべきであろう。

【参考資料】
モーターボート競争法

日本財団2021年度収支計算書

市民オンブズマン(大阪)井上善雄氏論文

 

 

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