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委員長のひとりごと(SJFメールマガジン21年5月19日配信号より)

「グローバル化社会における草の根民主主義」に期待する

-10年目を迎えたSJFの新たな視点-

上村英明(SJF運営委員長)

 

 今年の年頭のこのコラムで、グローバル化に伴う「社会的公正の視点をもった市民社会」の構築とこれを支援するソーシャル・ジャスティス基金(SJF)の役割を強調した(そのコラム[配信21年1月20日]はこちらから)。

 昨年の社会的動きをみれば、日本ばかりでなく国際的にも、異質な人々、とくに少数者を排外しトップダウン型の決定に忖度し、あるいはカリスマ型の指導者に誘導される、排外主義的かつ権威主義的な市民社会の動きに大きな危機感を抱いたからである。例えば、トランプ前大統領を支持した陰謀論者であるQアノン、また安倍・菅政権と密接な関係にある復古主義の日本会議などのグループであり、その周りにも大きなネトウヨ系支持者たちがいる。

 

 「グローバル化」という言葉は、英国の社会学者アンソニー・ギデンズらによる1990年代の提唱と言われるが、一般に従来の国家を中心とする縦割り構造が、新しい情報通信技術を通して、地球的規模で統合される過程だとされる。わかりやすくいえば、CNN、Amazon、Twitter、Ikea、Youtube、Nokia、Sonyなどに象徴されるグローバル企業と生活が直結する時代ともいえる。

 良い面があることを否定しないが、ギデンズが『Runaway World(暴走する世界)』(1999年 、注1)を著して警鐘を鳴らしたように、この世界では、重要な民主主義的な価値観が解体に向かう。その意味では、グローバル化の負の側面に関し、グローバル化する権力や資本への国境を越えた市民社会の連帯が必要だと考えられてきた。

 しかし、グローバル化の波が近づく中で、事はそう簡単ではないと分かるようになった。グローバル化する権力や資本に引きずりだされる形で、排外主義的かつ権威主義的な市民社会が、感情的な反知性主義の衣を着て現れるようになったからだ。とくに、2020年に始まったCOVID-19によるコロナ禍は、この存在が如何に政治に組み込まれているかを明確に可視化する機会になったと言っても過言ではない。

 

 こうした中、SJFでは2021年9月に予定している助成公募第10回において、従来の公募テーマである「『見逃されがちだが、大切な問題』に取り組むアドボカシー活動」に加え、「『グローバル化社会における草の根民主主義』に取り組むアドボカシー活動」というテーマを新設する。これは、上述したように、グローバル化した社会に起因する問題に、社会的公正実現のため、草の根民主主義的な手法で取り組む市民活動の活性化が重要であり、SJFの支援体制の構築も時機を得たものだと考えたことによる。従来の「見逃されがちだが、大切な問題」でも、とくに社会の排外主義や権威主義に対する市民の取り組みに意義を見つけたい。こうした新たなテーマに関わる諸問題と市民社会の取り組みは、このコロナ禍でも少なくないのではないだろうか。

 例えば、国会では「出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)」の改正が審議されており、強行採決の憶測も流れ続いている(21年5月13日現在、注2)。外国人の出入国管理、とくに難民の認定やその受入れは、豊かさと民主主義を自認する国家にとって国際的な義務である。しかし、日本は、コロナ禍で申請者そのものが激減した2020年を除いて、ここ10年ほど申請者の難民認定率は1%未満という状況である(2019年の日本は1万0375名の申請者に対し44名の認定者で認定率0.4%、他方同年ドイツは認定者5万3973名で、その認定率25.9%となる)。

 さらに、審査手続きでも、難民の一次審査に弁護士の同席が認められず、録音・録画もできないとする公正性や誰がどの規準で決めているのかの手続きが分からない透明性も問題となっている。こうした状況に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの国連人権機関から、いくつもの改善勧告が出されているが、日本政府の対応は木で鼻を括ったようなものだ。今回の「改正」では、認定作業や処遇、そして難民申請者に対する偏見はむしろ悪化するのではないかと懸念されている(NPO難民支援協会のHPなどを参照)。

 「外国人は怖い」「不法状態なら当然」という現実から乖離した市民感情を背景にしたと思われるこうした法「改正」は、外国人という、ある意味少数者に対する管理強化という名目での排外主義の現れでもあり、この10年のグローバル化の進展の中で先鋭化した問題でもある。他方、これに向き合うことは、日本の市民社会の社会的公正の質を高めると同時に、現在のミャンマーや香港で民主化運動に取り組む海外の市民たちへの国境を越えた関心やつながりを確保することにもなるだろう。

 その他、東京オリンピック・パラリンピックのコロナ禍での開催問題、福島第一原子力発電所の汚染水の海洋投棄問題、大規模自然災害と地球環境問題など、異なる側面はあっても、同じ構造もつ深刻な社会問題は目白押しである。

 「グローバル化社会における草の根民主主義」の支援は、こうした意味で、2021年度に10年目を迎えるSJFがSJFらしい活動をさらに強めるための重要な助成テーマであると考えている。  

   

*注1: アンソニー・ギデンズ『暴走する世界-グローバリゼーションは何をどう変えるのか』(佐和隆光訳)ダイヤモンド社、2001年。

*注2: 何度か強行採決の危機があったが、法案は5月18日に廃案となった。私たちは、今度こそ外国人の人権が擁護される抜本的な改正に取り組まなければならない。     

 

 

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