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目 次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ 

1.【委員長のひとりごと】 『永遠の0』か「永遠にゼロ」か(上村英明)

 

2.SJFニュース

● 報告:『障害者権利条約と差別解消法―みんなちがって、みんないっしょ―(2/26)

● 参加者募集:『自然と共生する農業――ネオニコチノイド系農薬から考える』(4/2

       菅野正寿さん×岡田幹治さん(SJFアドボカシーカフェ第35回)

参加者募集:『生活保護、バッシングに抗して活用策を考える』(5/13

       尾藤廣喜さん×寺中誠さん(SJFアドボカシーカフェ第36回)

                                   

3.【ソーシャル・ジャスティス雑感】 建設的対話から真の理解へ(佐々木 貴子

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1.【委員長のひとりごと】 『永遠の0』か「永遠にゼロ」か(上村英明)

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 2014年度も秋学期には平和に関する授業を行ったが、学生のレポートの中にある映画への言及が多くなった。『永遠の0』である。この物語は、百田尚樹氏のデビュー小説で06年に太田出版から刊行された後、09年に講談社文庫化された頃から注目を集めるようになった。こうしてベストセラーになった小説は、1312月に映画化されてヒットし、今年152月の第38回日本アカデミー賞では最優秀作品賞に選ばれ、また今年2111314日にはTV東京開局50周年特別企画としてテレビドラマ化されたばかりだ。内容は「海軍一の臆病者」であり「凄腕の零戦パイロット」と評価される宮部久蔵という主人公を通して「特攻作戦」を問い、「激動の時代」を生きざるを得なかった若者の「日本や日本人、家族を守りたいという美しい心情」を描いた作品と言えるだろう。

 そんな物語に「永遠にゼロ」という評価を与えた盈進高校2年生川上明莉さんのエッセイが、同じく愛知県にある日本福祉大学の2014年度高校生福祉文化賞エッセイコンテストで最優秀賞を受賞した。「大日本帝国が誇った零戦の『ゼロ』に音を重ね、米軍戦艦に「十死零生」(絶対に死ぬという意味)で体当たりした特攻隊の方々の(絶対的な)無償の愛をテーマにした」作品への多くの「感動した」という意見に「私はすっきりしない」とエッセイは始まっている。突入直前の特攻隊員たちの「すがすがしい笑顔」という描写に対して、「極限の恐怖ってどんな感覚なのだろう。遺体は無残で、海をさまよったのではないか。敵艦にも死者がいただろうに。家族や生き残った仲間はその死をどんな思いで受け止め、どのような葛藤のなかで生活してきたのだろうか・・・だが、この本にはわずかな記述しかない」からである。さらに、川上さんは、この作品が「感動した」といわれ、「凄惨な死を忘れ、単純で美しいものにあこがれる」現在の時代は「もはや戦後ではなく、すでに『戦前』ではないか」と指摘してもいる。

 筆者の百田尚樹氏は、いくつかの批判に対し、自分の作品は「特攻を断固拒否した」もので、「戦争を肯定したことは一度もない」と語っているようだが、こうした矛盾の中にこそ、「現代の軍国主義」の本質があるように思われる。百田氏に近い、安倍晋三首相が伝統的な「平和政策」を否定しながら、「積極的平和主義」を唱えるのと同じ構造だろう。

 戦後70周年を迎えた今年あるいはここ十数年の小説や映画の傾向は、川上さんの指摘通りである。やや難しい言い方をすれば、戦争のもたらす「凄惨な死」やそれを作り出した権力構造の矛盾への描写が弱く、主人公の置かれた立場が複合的な視点から相対化されていない。敵艦の兵士は、銃後の家族のその後はという視点が弱いことで、むしろその死が巧妙に美化されるのである。

 僕の授業でも、靖国神社の遊就館の話をする。一度は行った方がいいと指導する。そこでは、日本のためにという「純粋な気持ち」で多くの若者が亡くなったことが展示されている。では、なぜそうした素晴らしい「日本の純粋な若者たち」と米国や中国の若者たちは同じく命をかけて戦わなければならなかったのだろうか。また、「日本の純粋な若者たち」はなぜ戦場に行かなければならなかったのだろうか。それらが靖国に描かれてあるかどうか確認すること、を教える。こうした視点の無さや弱さは、最近の戦争作品の特徴でもある。終戦60周年を記念して0512月に東映から配給された『男たちの大和/YAMATO』しかり、また、137月に封切られた『風立ちぬ』も同じ特徴を持っている。戦争という権力構造自体の凄惨さが見えず、敵が人間として見えてこない矛盾は、映画の設定である戦艦や戦闘機をテーマにしたことで巧みに誘導される。

 戦争小説や映画はもちろん自国の視点から描かれるものが多いが、そうでない流れもある。06年に公開されたクリント・イーストウッド監督が硫黄島の戦いを扱った映画は、米国側の視点から描いた『父親たちの星条旗』と、日本側の視点で描いた『硫黄島からの手紙』とからなる2部構成の作品であった。米国側の視点でも、凄惨な上陸作戦を描くと同時に、戦意高揚にためにこの作戦の成果を利用する米国政府の理不尽な思惑がクールにしかし強烈に描かれている。また、この作品では顔の見えない日本兵の背景を第2部では正確に描写しようとする努力がみられる。さらに、11年に韓国で封切られた『高地戦』も秀逸の映画だ。朝鮮戦争(韓国戦争)においてわずかな占領地域を奪い合う韓国軍と北朝鮮軍の凄惨な死闘の矛盾を描きながら、休戦協定が結ばれて喜ぶ両軍兵士に対し、協定発効までのわずかな期間に、より多くの占領地を確保するために再び戦闘命令が下されるシーンには、戦争を引き起こす国家権力への怒りが鮮烈に描かれている。

 こうした視点を忘れた戦争映画や小説が再生産される日本は、高校生の川上明莉さんが指摘するように、すでに「戦前」の構造となっており、その本質的な問題は、戦争を引き起こすあるいは市民を理不尽な行動に誘導する国家権力への批判が決定的に欠如していることではないだろうか。第二次世界大戦の記憶を「永遠にゼロ」にしてはいけない。

 

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2.SJFニュース

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●報告:『障害者権利条約と差別解消法――みんなちがって、みんないっしょ

SJFアドボカシーカフェ第34回)

【登 壇】熊谷晋一郎さん(東京大学先端科学技術研究センター特任講師/小児科医)

   尾上浩二さん(DPI日本会議副議長/障害者制度改革担当室政策企画調査官

   寺中誠さん・コーディネータ(日本経済大学現代法学部非常勤講師)

【日時・会場】15226日・文京シビックセンター

★参加者アンケートより★

いろいろな方が社会で尊重され暮らしていくためには、企業でのフィールドづくりが(企業にとって)用意になる事が不可欠と考えています。私の働く組織でも、他の企業にも波及できるような仕組み?を考えていければと思っています。当事者の方々とお話しするととても楽しい半面、健常者と呼ばれる方々(私の会社の人たち)との意識の大きな差を感じます。そのギャップを埋めるにはどうすればいいのか。そこをもっと考え、実践していきたいです。

すべての話にとても心揺さぶられました。あまり普段勉強していない分野ということもありますが、とても勉強になったと同時に、尾上さんや熊谷さんの言葉のつかいかたが美しくて心にしみました。今日は「ことば」の話がちょうど出ましたが、ふだん面倒がって向き合えていない自分のことばの使い方を、つまりそれは社会への態度なのだと思いますが、かんがえながら、話して聴いた2時間半でした。当事者・関係者とそうではない人の意識・常識の差が大変大きな分野だなとあらためて思いましたので、カラにこもらず、やさしい言葉で少しずつ思いを、例えば今日の体験を、語れるようにしたいと思います。

3時間があっという間でした。一方的に誰かの話をきくという形式ではなく、参加者同士で話をするという「カフェ」の形は、より考えを深め、広めることができると感じました。また参加したいです。

 

……日本が141月に批准した障害者権利条約は、国内の実施体制を伴っている点で、他の人権条約にない先例的な意味を持っており、その実態はどうなのか大元に立ち返ってとらえ直しました。

折しも24日には、障害者差別解消法(来年4月施行)の基本方針が閣議決定され、尾上浩二さんから基本方針のポイントについて、行政機関等と事業者が障害者に提供する「合理的配慮」については、適宜、見直しを行うことが重要だとの基本的な考え方が示される等の改善がみられたと報告されました。

 「障害」とは何でしょうか。熊谷晋一郎さんは自らの経験談を交えながら、障害は体の中にあるのではなく、社会のデザインが平均的な体である健常と呼ばれる体にあわせ多数決的に決められたものであるために少数派とのすれ違いがおきることが「障害」だとの見方を示しました。

 権利条約の意義として、「地域での自立した生活」という新たな概念があります。「障害者を保護の客体(慈善と治療の対象)から権利の主体へ」というパラダイムシフトを障害者条約が示していることを尾上さんは示され、特定の生活様式を義務付けられない脱施設化や、地域社会へのインクルージョンを支援し孤立や隔離を防止するためのサービスを提供する地域生活支援の重要性が強調されました。

言葉のバリアフリーについて熊谷さんから問題提起されました。障害者権利条約が掲げる「建設的対話」を進めるにあたっては言葉が支配するフィールドとなるため、障害者の苦しみやニーズについて対話する人々が共有できる言葉が十分でないと格差が生じてしまうだろうと指摘されました。見えやすい障害のようでも、人知れず、また本人ですら見えていない苦しみやニーズが内在する場合があり、にもかかわらず言葉で対話する為には、言葉すら多数派向けに設計されているなかで、言葉という道具の使い方が問われており、新しい言葉のデザインが必要だと提言されました……

 【詳細】 http://socialjustice.jp/p/20150226report/

 

●参加者募集:『自然と共生する農業――ネオニコチノイド系農薬から考える

SJFアドボカシーカフェ第35回)

【日 時】15年42日(木)18:30-21:00(受付開始1800

【会 場】四谷地域センター 11階 集会室2+3

【登 壇】岡田 幹治さん(ジャーナリスト/元朝日新聞社論説委員)

   菅野 正寿さん(福島県有機農業ネットワーク代表

   黒田 かをり(一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事)

【詳細・申込】 http://socialjustice.jp/p/20150402/

 ネオニコチノイド系農薬が原因とされるミツバチ大量死が世界中で報告されています。ヨーロッパではすでに一部の農薬使用を制限していますが、日本ではその動きはありません。このままネオニコチノイド系農薬を使い続ければ、生態系にも人体にもリスクがあると警告はされているものの、農業の現場には他の方法に簡単に切り替えられない現実があり、とりわけ果実や野菜の園芸農家にとって切り替えは困難だと指摘されています。

 今回は、農薬の現状や日本の農業がおかれている状況について理解を深めたうえで、ネオニコチノイド系農薬に頼らない自然と共生する農業とは何か、またそれを目指し広げていくためには何が必要か――農業政策の転換、制度の改革、技術の向上、消費者の理解や協力、流通の仕組みの見直しなどなど――日本の農業のあり方についてじっくりと考える機会にできればと思います。そこで、食の安全や環境問題の専門家でネオニコチノイド系農薬に詳しいジャーナリストの岡田幹治さんと、福島二本松市東和地区で30年以上有機農業を営んできた菅野正寿さんをお迎えし、みなさんと対話します。

  

 

●参加者募集:『生活保護、バッシングに抗して活用策を考える

SJFアドボカシーカフェ第36回)

【日 時】15年513日(水)18:30-21:00(受付開始1800

【会 場】文京シビックセンター 4階 シルバーホール

【登 壇】尾藤廣喜さん弁護士日弁連貧困問題対策本部副本部長

/生活保護問題対策全国会議代表幹事/元厚生省

寺中誠さん(東京経済大学他講師

アムネスティ・インターナショナル日本事務局長

【詳細・申込】 http://socialjustice.jp/p/20150513/

 生活保護バッシングの背景には、社会的弱者だと居直って特権にあぐらをかいているという、制度に対する誤解に基づいた不公平感が根強くあります。ヘイトスピーチに同調する心情に通じるものがあるようです。近年、こうした生活保護への偏見をむしろあおる言動が高まるなかで、生活保護基準が引き下げられるとともに、受給申請を思いとどまる人も少なくありません。日本は、先進国といわれる国々のなかでも、受給する条件・資格があるにもかかわらず生活保護を受けていない人の割合が極めて高い国です。本来、私たちが社会の中で生活し生きていくことを基本的な権利として保障する生活保護制度は、セーフティネットとしての社会保障の根幹をなすものです。今回は、この生活保護制度への理解を高め、活用しやすくするためにどのような取り組みが必要であるか、ゲストやコメンテーターからの実体をふまえた問題提起をもとに、皆さんと一緒に考え対話できればと思います。

 

 

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3.【ソーシャル・ジャスティス雑感】 建設的対話から真の理解へ(佐々木 貴子)

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ついこのあいだ開催したアドボカシーカフェ『障害者権利条約と差別解消法~みんなちがって、みんないっしょ~』にコメンテーターとして参加してくだった熊谷晋一郎さんが対話集会の最後に「言葉のバリアフリー」について指摘されたことはとても新鮮に思えた。

 ソーシャル・ジャスティス・ファンドが車の両輪としている助成と対話、その対話も共有できる言葉が十分でないと見えていない部分で格差が生じるというのだ。

 

ソーシャル・ジャスティス・ファンドが設立されてようやく3年がたち、助成団体同士、アドボカシーカフェの参加者も交えてテーマごとの、あるいはクロスして、パートナーシップの可能性を感じたり社会変革という夢を実現していくプロセスに立ち会える醍醐味を体験したりさせていただいていると思っている。ワクワクする瞬間でもある。

たとえば性的マイノリティ理解のための社会的対話の進化に注目してみると、第1回目(2012年度)の助成先レインボープライド愛媛の活動は地域内外を巻き込み、メディアの感度もよかったことと相まって社会的反響が広がった。カミングアウトが容易とは言えない日本の社会状況にあって、私を含めアドボカシーカフェで初めて性的マイノリティ当事者と対話し、課題の深部に触れた人も多かったのではないか。

教育現場でのLGBT理解はまだまだだが、国会、文科省も少し動き始めた。外資系企業のみならずアドボカシーカフェに参加してくださったNPO法人ReBit(代表理事・薬師実芳さん)によっても就活支援やセミナーが組まれるようになったり、渋谷区では男女及び性的少数者の人権の尊重を図るため、男女平等・多様性社会推進会議の設置をするとともに、パートナーシップ証明の創設を行う「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」案3月区議会に提出されたりするところまで進展した。しかし、後者の条例案には「両性の合意に基づいてのみ」成立する婚姻関係を規定した憲法違反だとか、家族制度を破壊するものだと反対する意見もある。

まさに建設的対話を通し人権に対して本当の理解が進むには、熊谷さんの指摘した「公共財としての言葉のバリアフリー」が不可欠だろう。誤解や格差を生まないためにも新しい言葉をデザインしながら建設的対話を進め、社会変革を実現させたいものだと心から思う。

 

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今月号の執筆者プロフィール

  • 村 英明 (市民外交センター代表/SJF運営委員長; 1982年にNGO「市民外交センター」を設立、アイヌ民族や琉球・沖縄人の人権問題を中心に、アジアの先住民族問題に取り組む。また、国連の人権会議への参加をはじめ、国連改革や生物多様性条約COP10などへの市民社会としての貢献等、広い視野から人権と平和の活動、市民の国際交流を実践している。恵泉女学園大学教授。)
  • 佐々木 貴子 (認定NPO法人まちぽっと理事長/SJF運営委員; 生活クラブ生協東京の理事を経て、1995~03年まで狛江市議会議員、03~07年に東京LANPO理事長を務める。15年現在、市民事業へ融資する非営利市民金融東京コミュニティバンク理事、日本NPOセンター評議員、インクルーシブ事業連合運営委員・インクルーシブファンド選考委員を務め、地域では地域福祉やエネルギーシフトなど市民活動の現場で活動している。)

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SJFでは、助成事業や対話事業を応援してくださるサポーターやご寄付を募っております。認定NPO法人への寄付として税金の優遇制度をご利用いただけます。

詳細はhttp://socialjustice.jp/p/shien/ ★

 

認定NPO法人まちぽっと   ソーシャル・ジャスティス基金(SJF) 

160-0021 新宿区歌舞伎町2-19-13 ASKビル5F 

Tel: 03-5941-7948     FAX: 03-3200-9250

URL: http://socialjustice.jp/ 

Twitter: https://twitter.com/socialjusticef

Facebook: https://www.facebook.com/socialjusticefundjp

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