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1.【巻頭】 ~委員長のひとりごと~ (上村英明)

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 今年2015年も1月から海外との間を行き来することになった。昨年末に海外に出て、1月の搭乗便は帰国便である。海外に行く割には財政的な余裕がないので、最近は、中国や東南アジア各国の航空会社を利用することが増えた。1月のこの帰国便は、初めてのベトナム航空の利用で、それに伴う乗り継ぎだが、初めてホーチミン空港を利用することになった。他の国際空港と比べるとややこじんまりしたこの空港の正式名称はタンソンニャット空港だが、その空港コードはSGNである。ご想像いただいた方もいると思う。ここは南ベトナム時代の旧サイゴン空港なのである。

 搭乗機は、南シナ海から海岸線を超え、メコンデルタを一望しながら、高層ビルこそ少ないがヤシの木々と整理された街区ごとの家並が見える人口約800万人と言われるホーチミン市に位置するこの空港に着陸した。1930年代にフランス植民地政府によって建設されたこの空港は、ベトナム戦争時代、南ベトナム空軍・米国空軍の軍事施設であり、パリ協定に基づいて北ベトナム政府の事務所が置かれた場所でもある。近代化された空港ビルの中を歩き、ホー・チミンの著作が並ぶ書店などを探索しながら、昔の思い出が蘇ってきた。

 その昔とは、大学1年生の時の4月末であった。学食で昼ご飯を食べていると、目の前のテレビに国際ニュースが流れた。南ベトナムの首都サイゴンにトラックの荷台に分乗して意気揚々と入城する北ベトナム軍の部隊、そして、サイゴンにあった米国大使館からヘリコプターで、洋上にあった米海軍の航空母艦に避難する無表情な南ベトナム政府高官。民間人の犠牲者300万人と言われる「ベトナム戦争」が終わったのだと思った瞬間、目の前には、入学後に知り合いになったばかりの南ベトナムからの留学生がいた。大きな「平和」の到来とともに、ひとりの人間が「祖国」を失ったのだ。(彼は、その後米国に亡命した。)これが国際社会の現実であり、こうした問題に関わろうと思う限り、その矛盾した現実から逃げてはいけないと生意気に思った記憶がある。

 そして、2015年は、1975年の「ベトナム戦争」終結から40周年に当たる。現在、88%の多数派を占めるベト(キン)民族の他53の少数・先住民族を含めて人口9000万人を抱えたこの国は、1976年以来正式名称を「ベトナム社会主義共和国」とし、首都サイゴンも祖国解放の卓越した指導者であったホー・チミンの名を冠して再建されてきた。その一方で、1986年には市場経済化を認めるドイモイ政策が導入され、1995年には米国との国交が回復し、2004年にはこの空港にも米国の航空会社の便が就航するようになった。もちろん、留学をはじめとして若者の交流も盛んなようだ。過酷な植民地解放戦争を経験し、社会主義の中で開放政策を進めるこの国で、この40周年は今年どのように再評価されるのであろうか。

 ちなみに、2015年は日本が第二次世界大戦に「敗北」して、70周年目にも当たる。わが「祖国」日本は、またこの「敗北」をどう再評価するのだろうか。より深く「敗戦」の本質や構造を分析し、新たな教訓にできるのだろうか。あるいは、それを「歴史の1コマ」として封印し、忘却しようとするのだろうか。その成果をどう生み出すかは、まさに市民社会の力量にかかっている。ともかく、2015年が世界のすべての人びとによき1年となりますように!

 

目 次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ 

1.【巻頭】 ~委員長のひとりごと~ (上村英明)

 

2.SJFニュース

●『障害者権利条約と差別解消法―みんなちがって、みんないっしょ―』

 尾上浩二さん×熊谷晋一郎さん(2/26SJFアドボカシーカフェ第34回 ご案内

                                   

3.【コラム:ソーシャル・ジャスティス雑感】~競争相手がいない分野~土屋 真美子

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2.SJFニュース

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●『障害者権利条約と差別解消法―みんなちがって、みんないっしょ―』★申込受付中★

                        (SJFアドボカシーカフェ第34回) 

【日 時】226日(木)18:30-21:00(受付開始1800

【会 場】文京シビックセンター 4シルバーホール

【登 壇】尾上浩二さん(障害者インターナショナル日本会議副議長

               /内閣府障害者制度改革担当室・政策企画調査官)

    熊谷晋一郎さん(東京大学先端科学技術研究センター特任講師/小児科医)

    寺中誠さん(東京経済大学他講師

    ※手話通訳と要約筆記がございます。

――日本が障害者権利条約に批准して1年、具体的に条約を国内で生かしていくことが課題となっています。その柱となる障害者差別解消法では、来年4月の施行に向け、今年は基本方針の決定、対応する要領や指針の策定などがせまっています。

 誰もが自分一人では何もできないという限界を持っているという意味では、すべての人が障害を持っているとも言えます。皆それぞれの障害についてお互いに依存しあえるような信頼をとりもどした社会への一歩を、私たちはどう踏み出せるのでしょうか。障害者権利条約では「障害」を「環境との相互作用によって社会への参加を妨げるもの」としています。この社会的障壁をとりはらい一緒に参加できるためには、本質に立ち返って何が必要なのか、歩みより解決していくプロセスが重要となっています。これらの課題を共有し、差異と多様性を認めあう社会を実践できるよう、今回、障害者インターナショナル日本会議副議長の尾上浩二さんと、小児科医で東京大学先端科学技術研究センター特任講師の熊谷晋一郎さんをお迎えし、皆さんと対話したいと思います。

【詳 細】 http://socialjustice.jp/p/20150226/

 

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3.【コラム:ソーシャル・ジャスティス雑感】~競争相手がいない分野~土屋 真美子

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 先日、とあるマンガで「起業するときには、競争がない分野を選ぶ。競争相手が出てきたら、撤退する」という言葉を見つけた。

 今NPO業界は小さなパイをめぐって、熾烈な競争を行っている。当然、安上がり合戦もあるし、市町村の委託事業のプレゼンに全国規模のNPOから、プレゼン専門要員が出てくることもある。結果、プレゼンした人と実際に担う人は全く違っていたり、地域にネットワークのないNPOが事業を行うことも現実に起きている。

 これは企業社会では当然のことで、何を甘ったれているのか、という意見もあるだろう。しかし、NPOが担う社会はこういうものなのか?専門性をもちつつ、相互に助け合う社会をイメージしていたと思うのだが。ある地域で同業NPO一堂に会して、情報交換が行われた。しかし、仕事を取ったりとられたりの関係なので、表面上はにこやかであっても、寒々しい空気が流れ、全く情報交換にはならなかったらしい。だから、上の言葉を見つけた私は、「NPO業界から撤退した方が良いかも」と思ったのである。

 NPOは、(企業や行政が提供できないが、必要な)サービスを提供すること、そして政策提言が役割である。NPO法が生まれて15年たち、NPOの数は増えたが、その多くが「生活」のために、行政の委託事業を獲得してのサービス提供事業が中心になり、政策提言は二の次になっている。

 その上で、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)である。2014年度も多くの団体に申請いただいた。NPOの中では少数派になってしまった政策提言を担う団体には競争相手がいるわけではなく、むしろ「好きでやっているわけではない」と言われそうである。それでも彼らは「やむにやまれず」課題に取り組む。競争相手がいないからと言って、そこにビジネスチャンスがあるわけではないので、運営は苦しい。

 けれども、ノウハウやスキルに頼ることなく、「こんな社会を変えたい」という思いで活動を続ける彼らの活動は、心に響く。これまでSJFが支援をさせていただいた団体同士の、横のつながりも生まれつつある。これは、20年前に私たちが考えた「NPOがつくる社会」そのものである。

 NPO業界から撤退すべきかと思う一方、SJFはオンリーワンで、競争相手はいないのだから、なんとか運営を軌道に乗せて、いろんな団体と手をつないでいく可能性はあるのかも、とマンガを契機に、改めて思った年の初めでありました。

 

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今月号の執筆者プロフィール

●上村 英明 (市民外交センター代表/SJF運営委員長; 1982年にNGO「市民外交センター」を設立、アイヌ民族や琉球・沖縄人の人権問題を中心に、アジアの先住民族問題に取り組む。また、国連の人権会議への参加をはじめ、国連改革や生物多様性条約COP10などへの市民社会としての貢献等、広い視野から人権と平和の活動、市民の国際交流を実践している。恵泉女学園大学教授)

 ●土屋 真美子 (NPO法人アクションポート横浜理事/認定NPO法人まちぽっと理事; 民設民営の市民活動情報/支援センターの草分け「まちづくり情報センターかながわ(アリスセンター)」の事務局長として、長年現場の様々なコーディネートを行う。その後、「ファイバーリサイクルネットワーク」「よこはま森のフォーラム」等の環境保全運動、NPOの評価システム研究など、幅広い分野で活躍。)

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