┏ 目 次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
★1.【巻頭】 ~委員長のひとりごと~ (上村英明)
★2.【SJFニュース】{※抄録}
● 勉強会『子どもの貧困について知ろう!』(10/21)
「アクションポート横浜」出張アドボカシーカフェご案内
●『「多様な学び」―子どもがエンパワーメントできる政策実践―』(9/4)開催報告
●SJF助成公募のお知らせ: ★14/9/30応募締切★
★3.【コラム:ソーシャル・ジャスティス雑感】増田レポートと「田園回帰」(黒田かをり)
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★1.【巻頭】 ~委員長のひとりごと~ (上村英明)
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2014年4月に始まった、オーストラリア滞在は、この9月16日でいよいよ日本への帰国となった。このメルボルンは、タンポポなどの花も咲き始め、暖かい日も増えてかなり春めいてきたが、日本に帰れば、このところ連続3回目の秋・冬が待っている。(フゥ~!)
さて、この時期オーストラリアでは、1人の日本人がちょっとした注目を浴びた。菅直人元首相である。菅氏は、いくつかの環境NGOの招待を受け、8月22日から1週間、オーストラリア大陸の各地を反時計周りに訪ねた。主要な目的は、反原子力発電のキャンペーンである。
オーストラリアはウラン鉱石に関して世界一の埋蔵量を誇っているが、菅氏は講演で、「世界は原子力から離れようとしており、オーストラリアはその邪魔をするべきではない」と訴え、主要メディアであるABC(オーストラリア放送協会)や多言語放送を誇るSBS(スペシャル・ブロードキャスティング・サービス)などがこれを大々的に報道した。ABCでは、菅氏が最初の訪問地北部準州のダーウィンからカカドゥ国立公園の中にあるレンジャー鉱山に飛び、ウラン採掘に反対する先住民族のアニー・マルガルラさんと握手する光景も放映された。
2011年3月に福島第一原子力発電所事故が起きると、アニーさんの姉にあたる、ミラル民族の首長イボンヌ・マルガルラさんは、オーストラリアのウランが日本の原子力発電所で使われていることから、哀悼のメッセージを送り、同時にウラン鉱山の閉鎖を国連に訴えた。レンジャー鉱山は、6月号でも触れた世界的な資源メジャーであるリオ・ティント社の子会社、オーストラリアエネルギー資源社(ERA)によって運営されているが、日本の電力会社複数が出資し、とくに関西電力にウランを供給している。
他方、フクシマでばら撒かれた放射性物質の元となったウランの提供元は、南オーストラリア州にあるオリンピック・ダム鉱山で、東京電力との関係が深い。原発事故後、オーストラリアの映画監督デビット・ブラッドベリーは、このウラン鉱山を中核にドキュメンタリー「Out of Site, Out of Mine」を制作して、警鐘を鳴らした。しかし、労働党政権下のオーストラリア連邦政府は、震災後の2011年10月、オリンピック・ダム鉱山の採掘量を3倍に拡張する計画を承認してしまった。さらに、2013年9月に自由党のトニー・アボットが政権を取ると、「資源大国」を標榜して、インドや中国などへのウラン輸出拡大政策を進めている。
菅氏の訪問の少し前、7月8日と9日には、安倍晋三首相がオーストラリアを訪問した。8日は、オーストラリアを日本の首相として最初に訪問した祖父の岸信介に言及しながら、連邦議会で約25分の英語スピーチを行い、日豪経済連携協定(EPA)及び日豪防衛装備品技術協定への調印で、アボット首相とアジア・太平洋地域における同盟関係を堅く確認した。日豪防衛装備技術協定とは、この4月号で述べた「武器輸出三原則」を捨てて武器輸出を解禁した「防衛装備移転三原則」に基づく、軍事協力である。ちなみに、翌9日には、西オーストラリア州にあるウェストアンジェラス鉄鉱山を視察したが、この鉱山はリオ・ティント社と日本の三井物産、新日鐵住金の合弁事業として経営されている。オーストラリアとのEPAやリオ・ティント社との密接な関係は、「アベノミクス」にも大きく関係しているということだろう。
ともかく、国内政策の問題は、グローバルに展開されるなかで、その正体をあからさまにしている。それに対する市民的な動きも地域に軸足を置きながらも大いに国境を越えることが必要だ。
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★2.【SJFニュース】
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★『多民族・多文化と共に生きる―外国人労働者受入れ制度を問う』(8/4)参加者アンケートより★
“まわりに関係者はいても、しっかり勉強したことのない分野、そして大変な状況であろうことが予想される分野でしたが、やはり、というか想像以上にひどいことになっている事がよくわかりました。国連の勧告がすごくまともで日本の政策がすごく恥ずかしい・・・、という自分の感覚がまともなのか、おかしいのか分からなくなって来てしまうような今の状況が怖いです。でもこの怖さを少しずつ共有して、ウマの合わない人とも話をしていくしかないのだなぁと改めて思ったのでした。移住労働者政策だけでなく、すべての「日本人」に対して、「権利」ではなく「恩恵」ベースの政策がまかり通っていく現実は、あらゆるテーマで考えて行かないといけないですね!”
● 勉強会『子どもの貧困について知ろう!』(10/21)
~「アクションポート横浜」出張アドボカシーカフェ~
―「子どもの6人に1人が貧困状態」というデータが、一時期私たちにショックを与えました。最近、さらにその数値が悪化し、史上最悪を記録した、というニュースが流れました。実際に、小学校1クラスに5・6人は貧困状態の子どもがいる、ということです。子どもの貧困は、たしかに日本の大きな課題です。しかし、まだ、「それ、本当に日本の話?」と言う人がいるように、貧困の実態を私たちは知りません。
そこで、今回、多くの人が知らない「日本の子どもの貧困」について、まずは実態を知るための勉強会を開催します。「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク世話人の加藤志保さんをお迎えし、実態についてお話しいただくとともに、課題の解決に取り組む市民は何をしているのか、そして私たちにもできることはあるのかを一緒に議論したいと思います。ですので、ぜひ皆様、ご参加ください。
【発題者】加藤 志保さん(「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク世話人)
【「なくそう! 子どもの貧困」全国ネットワーク】 日本の子どもの貧困解決を目的として、2010年4月25日に設立された個人参加のネットワークです。子どもの貧困の実態を把握し、解決に向けた提案活動を行っています。また、小学生から若者まで、経済的困難を抱える子ども・若者たちの学びのサポートに取り組んでいる当事者の情報交換も行っています。 子どもたちのサポート当事者と研究者による、実践的なネットワーク組織です。
【日時】14年10月21日(火)18:30~20:30
【場所】かながわ県民活動サポートセンター405号室(横浜駅から徒歩5分)
【参加費】500円(資料代)
【申込み・問合せ先】アクションポート横浜 担当:高城 045-662-4395
【主催】アクションポート横浜
【共催】横浜サンタプロジェクト実行委員会
【協力】ソーシャル・ジャスティス基金
●『「多様な学び」―子どもたちがエンパワーメントできる政策実践―』開催報告(14/9/4)
【ゲスト】奥地圭子氏(東京シューレ理事長/多様な学び保障法を実現する会共同代表
/フリースクール全国ネットワーク代表理事)
高橋克法氏(自民党参議院議員/前栃木県高根沢町町長
/超党派フリースクール等議員連盟)
平成27年度文部科学関係概算要求(8月28日)では、「不登校児童生徒が学んでいるフリースクール等の取組の調査研究」(新しい時代にふさわしい教育制度の柔軟化の推進)や「フリースクールを含めた不登校の受入れ施設における指導」(いじめ対策等総合推進事業)に予算を付けることが明示されました。これに先立ち、政府の教育再生実行会議第5次提言(7月3日)では、フリースクールなどの学校外の教育機会の位置付けについて、就学義務や公費負担のあり方を含め検討することが明記され、多様な学びの保障実現にむけた進展が見られます。こういった政府の動きの背景に、フリースクールを応援しようという「超党派フリースクール等議員連盟」があり、6月に設立されています。
今回ゲストにお迎えした高橋克法氏(自民党参議院議員)は、その議連に参加していますが、10年以上前に「ひよこの家」という公設民営のフリースクールを栃木県高根沢町に町長として開設し、以来、町内外から子どもたちが自主的に参加し、自己肯定感を持って約100名が卒業していきました。その施策の根底には、不登校の子どもたちを主人公として考え、人間が生きていく本来の意味にこたえられるような学びを町として支援していこうという一念があったと高橋氏は語りました。「ひよこの家」は、公が多くの方々の理解と協力を得ながら実践されてきた「多様な学び」の場ですが、公が保障する意義を、“お上意識”から解き放つ数々の施策と共に示してきたことについて、同ゲストの奥地圭子氏(「多様な学び保障法を実現する会」共同代表)は、全国のモデルにしたいと賛同しました。
「不登校」の小中学生が6年ぶりに増加し、前2012年度より約7千人増えたことが、文部科学省の学校基本調査速報(8月7日)で報告されました。不登校の児童子どもの自殺が2学期開始前の8月に急増するという取材結果(全国不登校新聞社)を奥地氏は示しながら、子どもたちにとって学校が苦しい所となっている現状を真剣に変えていかなければいけないと強調しました。奥地氏が、わが子の不登校を機に、画一的な文化的・社会的基盤に安心感を抱くような意識を子どもによって変えられ、多様性を受け入れる人になったのは、「悩みこそ救いだ」との思いで、子どもの非常な苦しみに寄り添い、子どもが自分らしく生きる主体性を取り戻せるよう育む日々を経てのことだそうです。
子どもは命であり、命は多様――子どもが育つとは多様なものが育つことであり、抑えつけず自然に命に添う学びであれば、「多様な学び」になるはずだと奥地氏は言います。日本国憲法は、子どもの学ぶ権利を「基本的人権」即ち生きるために不可欠の権利としており、私たちの意識、地域レベル・国レベルの社会の仕組みが変わり、子どもたちが自分らしく、学び、成長できる社会になるよう、「多様な学び保障法」が早く実現されることの重要性が強調されました。
★参加者アンケートより★
「“公のおすみつきがある”という事が、祖父母の理解につながり、母親の支援にもなるということ、NPOの代表を教育委員に入れるなど、公の立場を活かして子どもを応援していく事の意味を聞けました。不登校関係の方以外の参加もあり、とてもありがたい機会でした。」
「フリースクールの認識が少し変わりました。」
「お上の存在によって、上から押さえつけてがんじがらめにするような統一的な教育ではなく、様々なスタイルがあって当たり前という考えを定着させる重要性を痛感しました。」
「いろいろな立場の方の意見が聞けて勉強になりました。」
「ひよこの家設立までの経緯や自治体の中での政治的な動きを具体的に説明いただいて、とても勉強になるとともに勇気をもらいました。グループワークでは、フリースクール関係者がおり具体的な課題や働いているうえでの実感をきくなかで、今まで考えてもみなかった視点が自分の中でうまれて嬉しかったです。教育を受ける側としても、支える側としても(つまり学校の教員やフリースクールのスタッフとしても)いきいきと学びを追求できる環境をつくっていくのが大事何だという原点を思い出すことができました。グループワークでもたくさんインスピレーションをもらえたので、すごくよかったです。」
★詳細報告⇒ http://socialjustice.jp/p/20140904report/
●SJF助成公募のお知らせ: ★14/9/30応募締切★
社会正義の実現を目指して、社会の仕組みを変えていくアドボカシー活動(社会提案)を支援する第3回SJF助成先を公募しています。SJFは、社会から広く支持・資金を集め、社会の不公正を正す政策提言等のアドボカシー活動を推進し、発展させることによって希望ある未来を創造することを目的とする「市民が自らの手で社会をつくるための市民ファンド」です。
【総額】300万円 *1団体への助成上限は100万円
【助成テーマ】以下を対象としたアドボカシー活動に助成します。
1.「子ども・若者の未来に関する取り組み」*株式会社日本財託様の指定寄付による公募
2.「原発事故による被害者支援」
3.「見逃されがちだが、大切な問題に対する取り組み」
【助成対象期間】2015年1月 から最長2年間
【応募資格】助成は「社会課題の現場で直接的な支援やサービスを提供する活動」ではなく、「社会課題の原因を改善し、新たな制度を提案するアドボカシー活動」を対象とします。詳細⇒ http://socialjustice.jp/p/2014fund/
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★3.【コラム:ソーシャル・ジャスティス雑感】増田レポートと「田園回帰」(黒田かをり)
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2040年までに、全国の自治体のほぼ半数が消滅する可能性があると公表した日本創成会議(座長:増田寛也元総務相)のレポートが波紋を呼んでいる。自治体の中には、あきらめムードが広がっているところもあるという。「農村不要論」が力を増しているという懸念も広がる。
一方で、「田園回帰」の流れに注目する人たちがいる。都市部から農山村へのIターン、Uターンが増えているからだ。2011年3月の東日本大震災と原発事故のあと、豊かさや自分の生活の見直しをする若者が増えており、2000年ごろから始まった農山村への移住傾向に拍車がかかっているという。増田レポートは2010年までの人口動態をベースにしており、東日本大震災後の動きを反映していないという批判がある。
今年7月に中山間地域フォーラム設立8周年記念シンポジウム主催の「はじまった田園回帰―『市町村消滅論』を批判する」と題したシンポジウムが東京都内で開催され、私も参加した。明治大学の小田切徳美教授をはじめ、島根県邑南町町長など登壇者から、農山村地域への「田園回帰」の流れについて現場からの説得力のある議論があった。小田切教授は8月20日付けの朝日新聞朝刊で、NPO法人ふるさと回帰センターの移住相談件数が、2008年には約2900件だったのが、2013年は約1万1千件という驚くべき伸びで、特に40代以下で増えていることを紹介している。
私の所属するCSOネットワークは2013年春に、福島県の有機農家、ジャ―ナリスト、有機農産物の流通業、農業や地域づくりを専門とする研究者等と「地域の力フォーラム」を立ち上げた。昨年度は、岩手県の葛巻町と紫波町、宮城県の大崎市鳴子町、福島県の喜多方市と山都町、山形県の高畠町を訪れ、地域資源の利活用、地域主体の食とエネルギーの循環型事業などの活気ある取り組みを見てきた。小田切先生にも研究会にお越しいただいた。この秋には島根県邑南町を訪れる予定だ。
安倍第2次政権は地方創生大臣を新たにおき、人口減少問題や地方活性化などに力を入れるという。取り組み自体は歓迎すべきものであるが、施策を進めるにあたり、地域でいま何が起きているかを正しく把握することが急務だと思う。
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今月号の執筆者プロフィール
- 上村 英明 (恵泉女学園大学教授/市民外交センター代表; 1982年にNGO「市民外交センター」を設立、アイヌ民族や琉球・沖縄人の人権問題を中心に、アジアの先住民族問題に取り組む。また、国連の人権会議への参加をはじめ、国連改革や生物多様性条約COP10などへの市民社会としての貢献等、広い視野から人権と平和の活動、市民の国際交流を実践している。)
- 黒田かをり(一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事; 社会的責任やサステナビリティ推進、「地域の力フォーラム」、ポスト2015(2015年以降の国際的な開発目標)などをテーマに活動を行う。ISO26000(社会的責任の国際規格)の策定にNGOエキスパートとして参画。共著『社会的責任の時代―企業・市民社会・国連のシナジー』(東新堂)『放射能に克つ農の営み』(コモンズ)『東日本大震災とNPO・ボランティア』(ミネルヴァ書房)他。)++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
*SJFでは、助成事業や対話事業を応援してくださるサポーターやご寄付を募っております。認定NPO法人への寄付として税金の優遇制度をご利用いただけます。
詳細は http://socialjustice.jp/p/shien/
ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)
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