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★1.【巻頭】~委員長のひとりごと~ (上村英明)
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あらためて言うこともないほど、袴田巌さんの死刑執行停止・再審開始・釈放は、ご本人にとってよかったと思うと同時に、日本の「刑事司法制度」を再考する上で画期的なできごとだった。さらに、このソーシャル・ジャスティス基金にとっても、その存在価値を再確認する重要な機会になったと思う。それは、昨年秋、アムネスティ・インターナショナル日本のこの死刑制度問題を対象のひとつとした2013年度助成発表会で、死刑制度などという意見の分かれるテーマに助成をするのは、基金として偏っているとのご意見を参加者から伺い、社会正義とは何か、死刑制度がいかにこれと連動しているかを説明した記憶も生々しいからだ。
とこかく、この意味に関しては、他の方が書いてくれると思われるので、別の話題に進みたい。朝日新聞2014年3月16日の論説記事「『武器禁輸よさらば』の軽さ」はとてもよい記事だったが、読者の何人がこの背景にまで思考を深めることができただろうか。日本には、「武器輸出三原則」という、法文化はされていないが重要な政策がある。1967年佐藤栄作首相によって確認され、1976年三木武夫首相によって強化された原則で、国際紛争の当事国やその恐れのある国などへの武器輸出を認めないとした他、それ以外の地域においても武器輸出を「慎む」、また「武器製造関連設備」も武器に準じるとした原則である。そして、この原則は、実態として日本の大きな平和政策の一角となってきた。朝日新聞の論説記事は、この原則を野田前政権が緩和し、安倍現政権が撤廃しようという動きに警鐘を鳴らしたものだ。(参照:委員長のひとりごと=2013年12月号)
この問題の重要さは、研究者の中でも、誤解されることが多い。国際社会では、2013年に、日本を含む7カ国が共同提案国となり、「武器貿易条約(Arms Trade Treaty: ATT)」が採択され、大型武器7種類(戦車、大口径火砲、軍用艦艇、攻撃用ヘリコプター、ミサイルなど)と小型武器・軽兵器などの通常兵器の不正取引、取引の透明性などが国際監視されることになった。これは、一般に1990年代後半に、小型武器の国際的な拡散を問題視したノーベル平和賞受賞者、NGOから提起され、2003年から開始された「コントロール・アームズ・キャンペーン」の成果であったとされる。
もちろん、この側面を否定しないが、その原点は、1990年のイラクによるクウェート侵攻と1991年の湾岸戦争にある。このとき明らかになったことは、サダム・フセインが整備した強力なイラク軍の軍備のほとんどは、米国、ソ連、英国、フランス、中国という国連安全保障理事会の5つの常任理事国の(国営)軍事企業から提供されたものだったからだ。国連安全保障理事会は多国籍軍の派遣を決定するが、多国籍軍が立ち向かった「犯罪者」はその「警官」から武器を買っていたということだ。この時、国際社会では、日本の「武器輸出三原則」が大いに注目された。そして、1992年には国連に武器貿易登録制度が設置され、武器貿易の透明性に国際的な関心が向くようになるが、その中心は日本政府であり、とくに、翌93年に亡くなった大来佐武郎であった。この武器貿易登録制度がATTのもうひとつの支えになったのである。安倍政権の原則撤廃は、こうした歴史的教訓や軍産複合体を再生産しないという日本の平和主義を大きく踏みにじる「重い」ものであることを再確認したい。
┏ 目 次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
★1.【巻頭】 ~委員長のひとりごと~ (上村 英明)
★2.【SJFニュース】
・ご案内:『27年目のチェルノブイリから考える、日本の子どものいまと未来』
SJFアドボカシーカフェ(4/9)
・ご案内:『トルコへの原発輸出から、日本の原発政策を考える』
SJFアドボカシーカフェ(4/18)
・ご報告:『裁判員制度がなげかける死刑の情報開示』SJFアドボカシーカフェ(3/27)
★3.【SJF(2013年度)助成先レポート】=「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
「今国会における『日トルコ原子力協定』動向とトルコへの原発輸出の課題」(田辺有輝)
★4.【コラム:ソーシャル・ジャスティス雑感】 (大河内 秀人)
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★2.【SJFニュース】
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●ご案内 ★参加者募集中★ SJFアドボカシーカフェ第26回
『27年目のチェルノブイリから考える、日本の子どものいまと未来』
【日 時】2014年4月9日(水)18:30-21:00(18:15受付開始)
【ゲスト】根本崇さん(千葉県・野田市長)
白石草さん(NPO法人OurPlanetTV代表)
【会 場】文京シビックセンター4階シルバーホール(文京区春日)
―原発事故から27年たった今でも、チェルノブイリ地域のある学校では完全に健康な子どもは2割に満たない状況です。そのため、ウクライナでは「子どもたちの未来のために、健康リスクは最小限に押さえる必要がある」という合意のもと、とくに健康診断や長期の保養プログラムが国の重要な支援プログラムとなっています。いっぽう福島原発事故から3年たった日本では、低線量被曝はほぼ健康に影響がないという考えのもと低線量の放射能地域に子どもが居住し、この4月からは原発から20キロ圏の旧警戒区域への帰還も始まります。また、福島の近隣県の健康調査を含め、今後、低線量被曝の対策をどう考えるのかという議論もまだ十分とはいえません。
今回はこの2つの現実の中で、子どもたちの未来を守るために、市民と行政が合意できる実現可能な支援の基準について考えます。ゲストには、昨年11月にチェルノブイリの学校や医療機関を取材し、ドキュメンタリーを制作したNPO法人OurPlanetTVの白石草さんと、「脱原発をめざす首長会議」のメンバーであり、「子ども・被災者生活支援法」がより住民の納得できる内容となるよう求める意見書を国に提出した野田市長の根本崇さんをお迎えします。そして、ドキュメンタリーをいち早く上映しながら、皆さまとの対話をとおして課題を共有する糸口を探ります。
★ 詳細はこちら http://socialjustice.jp/p/20140409/
★ ご参加の登録はこちら https://socialjustice.jp/20140409.html
●ご案内 ★参加者募集中★ SJFアドボカシーカフェ第27回
『トルコへの原発輸出から、日本の原発政策を考える』
【日 時】2014年4月18日(金)18:30-21:00(18:15受付開始)
【ゲスト】田辺有輝さん(「環境・持続社会」研究センター(JACSES)理事)
鈴木真奈美さん(ジャーナリスト)
【会 場】文京シビックセンター4階シルバーホール(文京区春日)
いま、日本政府や企業は途上国への原発輸出を積極的に推進しています。しかし、途上国への原発輸出は、日本が多大な利益を得る一方、事故が起きた際に途上国に甚大な被害を押しつけることになる点や、廃棄の目途すら立っていない放射性廃棄物と、核拡散による核戦争の脅威を将来世代に付与する点など、社会的不公正を拡大させることになります。
そこで、国会で審議中のトルコとの原子力協定締結の問題について、トルコにおける原発建設の問題点や、トルコの地元住民の声などを紹介します。そして、福島原発事故を経験した日本の市民として、日本の原発政策全体の中での原発輸出の位置付けや、日本が原発輸出を止めるために必要なことなどについて、参加者の皆さまと考えていきたいと思います。
★ 詳細はこちら http://socialjustice.jp/p/20140418/
★ ご参加の登録はこちら https://socialjustice.jp/20140418.html
●ご報告: SJFアドボカシーカフェ第25回 (3月27日開催)
『裁判員制度がなげかける死刑の情報開示』
【ゲスト】若林秀樹さん(アムネスティ・インターナショナル日本 事務局長)
田口真義さん(東京地裁 裁判員 経験者)
―折しも、袴田事件・袴田巌死刑囚の再審開始を静岡地裁が認めた日の開催となりました。この事件をふくめた「再審開始を通した死刑廃止の世論喚起事業」に取り組んでいるアムネスティ日本から迎えた若林秀樹氏(事務局長)から、冤罪(えんざい)に結びつく自白の偏重を改める重要性が指摘され、国際人権基準を満たさない日本の刑事司法制度を見直すきっかけへの希望が表明されました。
東京地裁で裁判員を経験した田口真義氏からは、市井の一般人が裁判員制度をとおして死刑に関わりうる時代は、その葛藤と重圧に正面から向き合うべき時代であり、死刑制度について単純な二元論ではなく、私たち一人ひとりの真摯な議論を広めることが重要で、その前提として正しい情報の公開を徹底することが必要だと提言されました。
さらに会場との対話のなかから、国民的な議論が高まるよう、死刑について語れるような文化の醸成のあり方も問われました。悪いことを死んでお詫びをするような日本の文化に対し、極悪な憎しみに対してもどれほどの愛を示せるかという姿勢で対峙するような文化や、最後には人は更生する可能性があるという信頼感のある文化の例が示されました。
死刑制度について、情報公開による国民的議論の徹底と、その間の死刑の執行停止への提言が共有され、硬直していた日本の刑事司法制度が変わっていく槌音が聞こえたような対話の場となりました。
★ 詳細はWebサイト(http://socialjustice.jp/p/20140327report/ )をご覧ください。
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★3.【SJF(2013年度)助成先レポート】=「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
「今国会における『日トルコ原子力協定』動向とトルコへの原発輸出の課題」(田辺有輝)
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『原発輸出による社会的不公正・途上国市民の被害回避を実現する政策・体制構築のためのアドボカシー活動』は、SJF2013年度助成先事業の1つです。その近況レポートをいただきました。
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安倍首相は就任以来、積極的な原発輸出外交を展開しており、ベトナム・トルコ・アラブ首長国連邦(UAE)・サウジアラビア・ポーランド・チェコなどへのトップセールスを展開している。日本から原発輸出を行うには、その原発を平和利用に限定することなどを規定した原子力協定を輸出先の国と締結することが必要となる。日本政府は、2013年5月に「日トルコ原子力協定」に署名。協定批准のための国会承認を得るため、10月に臨時国会に提出した。
私たちは、他のNGOと協力して協定批准への反対を求める要請書の署名募集を行い、11月に国会議員(両院議長、衆院外交委員、参院外交防衛委員等)に要請書を提出した。また、トルコの現地シノップの住民団体と協力し、地元住民の約1割に相当する住民2871名の署名とともに要請書を提出した。協定は秘密保護法案の議論等の影響で審議入りが遅れ、先送りとなった。そのため、私たちは要請書への署名の再募集を行い、2014年1月に142団体、3270名(うち海外1805名)の署名とともに国会議員に要請書を再提出した。また、国会議員との個別対話やメディアへの情報提供を行った。
協定に対しては、みんなの党、共産党、社民党、結いの党、生活の党などが反対を表明。維新の会では賛否が分かれたものの結果的に反対を表明。民主党でも党内で反対の声が続出したが、党の方針としては自民党・公明党とともに賛成に回った。協定は4月4日の衆議院本会議で賛成多数で可決。協定は参議院に送られるが、成立の可能性が高い。
トルコへの原発輸出は、安全性・経済性・核廃棄物処分・地元合意など、多くの問題がある。トルコは世界有数の地震国であるにも関わらず、建物やインフラの耐震補強は進んでいない。そのため、仮に日本から輸出する原子炉の耐震性が高いものであったとしても、大地震が発生した場合、周辺インフラが寸断される可能性が高く、事故への対処が極めて困難になる。また、地元自治体であるシノップ市長も原発建設に反対している中では、住民避難計画の適切な策定・実施も困難である。さらに、日本では福島原発事故を踏まえ、原子力の「推進と規制の分離」が謳われ原子力規制委員会が発足したが、トルコでは、推進と規制の両方をトルコ原子力庁が担っており、この分離が図られていない。放射性廃棄物の処分方法も決まっていない。
「日トルコ原子力協定」は成立する可能性が高いが、実際に原発が輸出されるまでには、政府の調査支援や公的金融機関による支援にあたっての安全確認が行われることになる。トルコの原発における地層調査には国の予算が使われているにもかかわらず、報告書は公開されていない。また、これまで安全確認を担ってきた旧原子力安全・保安院が解体され、国際協力銀行(JBIC)などの公的金融機関による支援にあたっての安全確認制度自体が宙に浮いた状況だ。不適切な原発輸出がなされないよう、今後も働きかけを強めていきたい。
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★4.【コラム:ソーシャル・ジャスティス雑感】 (大河内 秀人)
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私が参加している宗教宗派を超えて原子力問題に取り組む宗教者のネットワークでは、2011年以来、夏休みに北海道で、寺院など宗教施設を利用した保養事業を実施している。
先日、新潟に出向き、昨年その事業に参加した、母子避難生活をしているお母さんたちの話を聞いた。「母子避難」と一口に言っても、それぞれ立場や状況、もちろん考え方も様々だ。父親に行けと言われて来ている人もいれば、デマに惑わされ子どもを連れて出て来てしまったヨメとみなされている人もいる。金曜日毎に来てくれるお父さんもいれば、3年間一度も来たことのない父親もいる。
子どもも皆が納得しているわけではなく、部活をやめさせられ友達と引き裂かれたと子どもに恨み続けられている母親がいる。新しい場所や学校に馴染める子もいれば、いじめに苦しむ子もいる。「ぼくの故郷はどこ?」と問いかける子どもへの答えが見つからない。みんなの前では話せないこと、本人が語らない現実もある。
精神的にも経済的にも二重生活の負担は大きい。住民票を移すかどうかについて、行政からの支援の違いに翻弄される。この新学期で、不安を抱えながら福島に戻っていった家族もいる。100ベクレルの放射能は1秒間に100回放射線を出し、細胞・遺伝子を傷つけ分断する。そして放射能が分断しているのは遺伝子だけではない。親子を、家族を、コミュニティを、友情を引き裂く現実を、お母さんたちの声からあらためて実感させられた。
しかし、この複雑な対立を伴う社会的な分断は、放射能が直接原因ではない。問題の捉え方、向き合い方の違いによるなど、そもそも流動的なものだ。健康影響についての不明点も多い。そういう問題故に、情報の扱いや行動の起こし方において、強者と弱者の格差は大きい。SJFは「対話」をひとつの柱にしているが、対立する異なる立場からの対話は、双方の強弱の差を前提に含めて設定し評価すべきことは肝に銘じるべきだ。「いろいろな立場があるから」などと単純に並べられると、資金力・支配力に勝る方に、傍観者的なマジョリティほど絡め取られていく。立場的に声の出しにくい人、出せない人はもちろん、死者やこれから生まれてくる命の声も、無視したり、切り捨てたり、忘れることなく拾い上げていく努力を重ねていかなくてはならない。
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今月号執筆者のプロフィール
- 上村 英明 (SJF運営委員長、恵泉女学園大学教授、市民外交センター代表)
- 田辺 有輝 (「環境・持続社会」研究センター(JACSES)理事/2003年2月からNPO法人「環境・持続社会」研究センター(JACSES)のスタッフで、現在は同団体の理事および持続可能な開発と援助プログラム・コーディネーター。原発輸出など、海外の開発事業における環境問題・人権問題の調査・提言活動を実施している。国際青年環境NGO A SEED JAPANの理事、国際NGOであるNGO Forum on ADB(本部:マニラ)の国際運営委員も歴任。)
- 大河内 秀人 (SJF運営委員、江戸川子どもおんぶず代表、NPO法人パレスチナ子どものキャンペーン常務理事ほか)
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