ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第9回助成
NPO法人ASTA
SJF助成事業中間報告(21年6月)
◆助成事業名:『地方におけるダイバーシティ実現に向けた能動的市民の育成』
本事業の目的は、LGBTQなどの性的マイノリティの人権保障について、各地方において支援・啓発活動を担うことができる能動的市民を育成し、性の多様性を認め合う社会の実現に向けて制度・政策提言できる地域団体を創設することである。
弊法人の啓発活動はこれまで一定の成果を上げてきたものの、活動地域は主に愛知県と岐阜県に限られてきた。偏見や差別等が根強く残る地域社会を改善していくためには、その地域に根差した市民がアドボカシー活動を展開することが不可欠である。弊法人がこれまで培ってきたノウハウや連携実績を活かして、市民運動のリーダーとなれる人材を育成し、パートナーとなれる団体を立ち上げることで、アドボカシー活動に関する地域間格差を是正すること、それが本事業のゴールである。
◆事業計画 :
2月 第1回 地域連携型LGBTQ出張授業(石川)
現地の当事者およびその家族、支援者とともに、自治体、学校、地域住民等を対象とする出張授業を行う。
3月 第1回 地域団体の立ち上げに向けた連絡会(オンライン)
地域団体の創設に向けて、活動方針やメンバーの募集について協議する。
5月 LGBTQに関する勉強会(石川)
現地の当事者およびその家族、支援者とともに、外部講師を招いた研修を行う。
◆助成金額 : 50万円
◆助成事業期間 : 2021年1月~2021年12月
◆実施した事業と内容:
①「地域連携型LGBTQ出張授業」事業
1月23日 第1回地域連携型LGBTQ出張授業 越前市:市民80人
写真上=越前市主催での主張授業(21.1.23)、オンラインと対面のハイブリット形式で開催
2月19日 越前市立北新庄小学校:5年生24人・6年生27人
②「地域団体活動支援」事業
3月8日 第1回地域団体の立ち上げに向けた連絡会(オンライン)
3月30日 LGBTQに関する勉強会(金沢レインボープライド)
金沢ダイバーシティ ツーリズムスタッフ参加
4月1日 北陸メンバー、他団体とのミーテイング
③その他の出張事業・講演会(助成金を使用していない案件も含む)
1月7日 刈谷市立小垣江小学校:教職員30人
1月8日 中京大学1回目:学生60人
1月14日 中京大学2回目:学生90人
1月14日 中京大学3回目:学生90人
1月16日 江南市 市民17人
1月15日 MFAJ裁判 報告会
1月17日 犬山市てつがく対話:市民30人
1月19日 日進市(2回):職員60人
1月21日 刈谷市立富士松中学校・富士松東小学校:教職員60人
1月28日 刈谷市立富士松南小学校:教職員34人・市議1人
1月29日 豊川市:生活指導主事36人
2月3日 守山生涯学習センター:市民12人
2月4日 中生涯学習センター:市民12人
2月5日 蒲郡市:教職員50人
2月18日 刈谷市立双葉小学校:教職員30人
2月25日 刈谷市立富士松北小学校:教職員22人
2月26日 行政意見交換会:行政関係者20人
2月27日 中北薬品労働組合:組合ユース60人
2月28日 ガールスカウト愛知県連盟 関係者・議員50人
3月1日 蒲郡市:市職員30人
3月2日 名東高校:1.2年生720人
3月6日 一宮市:市民60人(府中市)
3月7日 第2回みんなで保護者会:保護者22人
3月10日 桑名市立光陵中学校 2年生195人
3月23日 豊川市立西部中学校:教職員40人
3月24日 岡崎市:市職員60人
3月25日 刈谷市立依佐美中学校:教職員50人
4月9日 江南市立草井小学校:教職員20人
4月12日 刈谷市立朝日中学校:教職員40人
4月18日 第3回みんなで保護者会:保護者18人
4月20日 MFAJ第8回期日報告会
4月21日 ライラカンパニー:社員6人
4月28日 立憲民主党:市議・県議18人
5月2日 名古屋あおぞら部:部員20-30人
5月10日 名古屋市立鳴子台中学校:教職員30人
5月12日 戸田建設株式会社労働組合:組合員14人
5月13日 豊田市立高橋中学校:生徒675人
5月16日 名古屋レインボープライド
5月17日 岡崎城西高校:教職員60人
5月18日 西生涯学習センター:市民18人
5月19日 椙山女学園高校:1年生40人
5月20日 安城市立桜井中学校:生徒211人・教員10人
5月23日 第4回みんなで保護者会:保護者10人
5月26日 愛知県立大学:教員・大学院生15人
5月29日 デンソーはあとふる基金 豊田市:教職員20人
5月30日 デンソーはあとふる基金 小牧市:教職員28人
6月1日 岐阜県土岐市小中学校人権担当研修:25人
6月2日 星城高校生:1年生417人
6月3日 東邦高校:配信のため人数不明
6月8日 亀井労務管理事務所:14人
6月10日 亀井労務管理事務所:13人
6月13日 第5回みんなで保護者会:10名
6月18日 岡崎市立本宿小学校:4・5・6年生140人
6月23日 岐阜県土岐市小中学校生徒指導主事研修14人
6月26日 岡崎市立三島小学校:教職員25人
6月26日 岡崎市 市議勉強会:30人
6月28日 あま市立美和中学校:教職員・保護者40人
3月19日~4月30日まで、愛知県・岐阜県に在住・在勤・在学(過去も含む)を対象として性的マイノリティに関する「声をあつめる」プロジェクトを行った。回答467名
6月4日「声をあつめる」プロジェクトアンケート結果報告会を開催
【成果】偏見や差別等が根強く残る地域においても、性に関する多様性の尊重に向けた変化の兆しがみえる。1月に越前市の主催で実施した出張授業では、以下のような感想が寄せられた。
「『福井が好きだから福井に帰りたいけど、今はまだ帰れない。』という思いを聞き、みなさんがどこにいても生き辛さを感じることがないよう「『ALLY』になろうと思います。」
「話を聞くという事自体に違和感があり避けてきたが、こうやって話を聞いて理解をしている、それだけでも支えになるのであればと思った。私たちが、自分自身を愛し、皆を認め合いながら何事にも屈することなく何処でも生きていける。そんな世の中になればと思います。」
3月4日北陸チームは、中心となる助産師団体「にじはぐ石川」が出張授業を白山市男女参画・人権擁護委員に向けて行った。ASTAのグループワーク形式で実施し、全員地元のメンバーで完結させた。参加者からは大きな収穫を感じたとの声が寄せられた。しかし、今回は行政内の研修のため問題がなかったものの、今後オープン参加の案件が発生した場合、身元が意図せず公開される危険性が高く、地元での参加は厳しいという課題も露呈した。
◆助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例を挙げてください。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか記載ください。
とくに、助成申請書の3-5で5つの評価軸について記載なさった「課題と考えることとそれへの対策」に関連させて、どのように変化したのかも記載ください。
(1)当事者主体の徹底力
新たな地域団体においても当事者の参加は不可欠であり、石川県では金沢市に在住の当事者およびその家族を中心に団体を組織している。7月には弊法人と連携して2回目の出張授業を実施予定である。
(2)法制度・社会変革への機動力
同性婚は合法化されていないものの、「パートナーシップ制度」の導入が進むなど、一定の社会変化はみられる。弊法人では、一般社団法人「Marriage For All Japan –結婚の自由をすべての人に-」と協力して裁判の報告会を実施したり、共同代表が「愛知・岐阜にパートナーシップ制度を求める会」に参加したりしている。こうした機会を通してキャッチした社会情勢を出張授業や研修に反映している。
(3)社会における認知度の向上力
弊法人は愛知県を中心とする東海地方では一定の知名度があるが、北陸地方を含む他地域では十分でない。全国や地方のメディアに積極的に継続的に情報発信してきたが、2021年6月3日の朝日新聞朝刊2面の連載「ひと」において、弊法人共同代表およびその活動が掲載された。性的マイノリティのアドボカシーの必要性に対する社会認知を高めることに貢献できたと考えている。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
地域において、パートナーとなれる団体を創設し自律的に活動するためには、自治体の協力が欠かせない。そのため、金沢市での出張授業を実施するにあたっては金沢市および金沢市教育委員会の後援を獲得している。また、2月にはダイバーシティ推進のための行政意見交換会を開催した。北陸地方からの参加はまだないものの、今後積極的に参加を呼びかけ、ネットワークを拡大していきたい。
(5)持続力
新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、出張授業が停滞した時期もあったが、Zoomや動画を活用した授業のオンライン化に踏み切り、研修を積み重ねたことで、従来の頻度にかなり近づいた。現在では、オンラインと対面のハイブリッド方式で、出張授業を実施している。また、福井や石川の地域団体を支援するにあたっては、オンラインでの会議や相談が有効に機能している。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
性的マイノリティが「いない」のではなく「見えない」存在となっていることに起因する、多様性への無理解と差別が要因である。非当事者にとっては、当事者が身近にいないことが意図せず差別的言動をとることにつながり、そのことでカミングアウトによって当事者が可視化されない、という負の循環が継続されている。こうした構造の中で、弊法人が最も重要だと考える「大切なのは性別や国籍、身体的特徴などではなく、人格や人柄であること」が埋没してしまっている。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
性というものを「個性」として尊重することが、当事者も非当事者も「自分らしく」生きることにつながるということに、当事者との直接対話を通して気づくことが重要である。そのために本事業は、市民運動を担うことのできる人材の育成、および地域団体の創設を活動の中心に据えている。こうした団体が自律的・継続的に活動することで、アドボカシー活動の地域間格差の解決に貢献できる。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
自治体、法曹関係者、関連団体との協力が必要である。特に、各自治体の行政機関(教育委員会を含む)との連携が最も有効であるが、その推進には法曹関係者の人権に関する専門的知見や、関連団体を通して各地の当事者の声を集め、届けていく必要がある。
*共同代表・松岡成子さんが、朝日新聞6月3日朝刊「ひと」欄に掲載された:「性的少数者の子を持つ親として出張授業を企画する」=記事はこちらから
◆今後の事業予定:
7月 ファシリテーター研修(石川)
地域のパートナー団体のメンバーに研修を行い、ファシリテーターを育成する
8月 第2回 地域団体の立ち上げに向けた連絡会(オンライン)
パートナー団体に対して運営方法を指導し、設立に必要な諸手続きを指南する
9月 第2回 地域連携型LGBTQ出張授業(石川)
10月 アドボカシーカフェの開催
テーマ:地方におけるダイバーシティ実現に向けた課題と展望(仮)
11月 パートナー団体によるLGBTQ出張授業(石川)
団体の自走に向けて、出張授業のスーパーバイズを行う
12月 第3回 地域団体の立ち上げに向けた連絡会(オンライン)
北陸3県における地域に根差した団体の正式発足 ■