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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第9回助成報告

認定NPO法人 FoE Japan(2022年11月)

団体概要

 FoE(Friends of the Earth)は、世界73カ国・地域で活動する草の根の環境団体のネットワークです。気候変動などグローバルな課題に対しては、共同で国際社会に働きかけ、アクションを行っています。この地球で生きるすべての者たちが、公平で心豊かに暮らせる持続可能な社会の実現を目指し、脱原発・エネルギーシフトを実現するための活動の他、気候変動や森林破壊、途上国での大規模開発による環境・人権問題への取組みなど、幅広く政策提言活動を行っています。政策研究や現場での調査を基に、根本的な解決のためのしくみのあり方を検討し、政府や企業に提案しています。

 

助成事業名・事業目的

国内最大規模のリニア開発~国民的議論による見直しを~

 国内最大規模の開発事業となるリニア中央新幹線の工事は、広大な範囲の生態系、国内交通網、地方開発、これからの社会のあり方自体にも多大な影響を及ぼします。すでに始まっている工事により、沿線の生態系、住民の暮らしは破壊的に脅かされています。本活動は、リニア計画の妥当性、政策決定プロセス、環境アセスメントの問題点を今一度検証し、さらに沿線各地の工事影響や問題点を明らかにします。問題点を市民が知る、考えるきっかけを作り、住民や若い世代を含む市民が、この国の将来に何を残したいか、本当に必要な開発であるかを議論する機会を設けます。本活動を通じて、環境や社会に甚大な影響を及ぼす開発事業に科学的な検証と十分な国民的議論の必要性を訴え、時代に即した持続可能な社会の構築を目指します。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2021年1月~22年11月

実施事業の内容: 

(1) 影響調査

・大鹿村送電線工事影響地の視察、住民からの聞き取り(1月)

・飯田市長野県駅予定地周辺住民から聞き取り、現地視察、移転代替地視察(3月)

・山梨県大月市車両基地に関する聞き取り(4月)

・豊丘村非常口工事現場、残土置き場、変電所予定地視察、住民からの聞き取り(5月)

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写真上=土砂災害が心配される豊丘村本山の残土置き場

・松川町リニア残土運搬問題を懸念する住民からの聞き取り(8月)

・大鹿村住民運動のフォローアップ(1月~12月)

※NHKの巨樹百景「神様の樹に会う」で取り上げられ、ブナの木の伐採取りやめに繋がる。

・南アルプス市住民による差し止め訴訟、静岡住民による差し止め訴訟の傍聴(4月~10月)

・駒ヶ根市残土置き場予定地周辺住民からの聞き取り(1月~12月)

・リニア新幹線沿線住民ネットワーク・ストップリニア訴訟事務局会議、訴訟報告会(隔月)参加(1月~12月)

・山梨差し止め訴訟傍聴、静岡差し止め訴訟傍聴

・静岡県住民による大鹿村視察に参加(2022年4月)

・長野県沿線問題聞き取り、飯田市黒田地区視察(2022年4月)

・大鹿村住民と共に神奈川県相模原市視察(2022年4~5月)

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写真上=神奈川県駅の建設工事

・長野県飯田市上郷黒田地区住民聞き取り(2022年7月)

・長野県大鹿村青木地区、釜沢集落の住民からの聞き取り(2022年9月)

・長野県飯田市住民からの聞き取り(2022年10月)

 

(2) 情報整理・発信

・問題、論点の整理(2021年1月~12月)

・ニュースレター、メールマガジン、HPで発信

リーフレット『リニアのリアル』=写真下=制作(2021年11月~2022年11月)
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特設HP=こちらから=制作(2021年11月~2022年11月)

動画『「より速く、より便利に」の裏側で リニア沿線住民の証言~長野県編~=こちらから=制作

・ハイブリットセミナー・オンラインセミナー、オンラインシンポジウム及び録画配信にて情報発信

 

(3) SNSを活用した参加型アクション

・オンライン署名を実施(2021年1月~2022年6月)

 

(4) 市民参加型ワークショップ

・オンライン・品川区内会場開催とのハイブリットで「緊急学習会 リニア大深度工事 陥没が心配!」を開催(一般公開)(2021年9月)

・長野県リニア沿線住民オンライン座談会(非公開)開催(2021年11月)

・緊急オンラインセミナー「リニアトンネル崩落事故~岐阜で何が起こっているのか?!」を開催(一般公開)(2021年11月)

・オンラインシンポジウム「未来の交通インフラが環境破壊!?~リニア・北海道新幹線・北陸新幹線の現場から」を開催(2022年6月)

※長野県飯田市で開催した住民主催の学習会の運営サポート(2022年5月)

※上記の他、梨の木ピースアカデミーにて全6回の連続のリニア講座を開催し、参加型でディスションを実施(内4回を12月末迄に実施)

 

(5) 提言の提出、対話の提案

・川勝静岡県知事への署名提出、要望書の提出(3月)

 

 

助成事業の達成度:

① 影響調査・・・達成できました。

・ 沿線影響地の現地調査、住民からの聞き取りを実施できました。

・ 沿線住民による状況記録、住民運動を支援できました。

 

② 情報整理・発信・・・70%達成しました。

・ リニア諸問題に関して専門家からの聞き取り、論点整理できました。

・ リニア論点、沿線各地の実態をセミナー等を通じて発信しました。

・ ニュースレター、メールマガジン、HPを通じて情報発信しました。

・ リニア沿線への影響に特化したHPを開設し、今後の継続した情報発信のためのプラットフォームを整備しました。

・ リニア工事の影響を受ける住民の証言動画を作成しました。

 

③ SNSを活用した参加型アクション・・・30%達成しました。

・ オンライン署名を実施しました。

 

④ 市民参加型ワークショップ・・・100%達成しましました。

・ ハイブリット、オンラインで市民が参加、議論する参加型セミナー、座談会、シンポジウムを開催しました。

 

⑤ 提言の提出、対話の提案・・・40%達成しました。

・ 静岡県知事に要望書、署名を提出し、対話の機会を持ちました。

 

 

助成事業の成果:   

 リニア事業の現地視察、住民、関係者からの聞き取りにより、報道されることの少ない各地の環境社会影響の実態や住民の苦悩が明らかになりました。聞き取り結果は、沿線への影響をまとめる新たなHPにて、継続的に情報発信していきます。また、住民の証言動画も制作し、住民の切実な思いの可視化を行いました。

 各地の状況を整理、まとめる中で、特に緊急性の高い問題を取り上げた学習会やセミナー、シンポジウムを開催しました。住民や専門家から状況の解説、問題提起を行い、市民の理解と行動への参画を促進しました。

 品川区での学習会の開催については、大深度地下問題の周知が急務であったことと、区内でリニアの事業の概要や問題点について沿線住民に周知が遅れていたため、学習会の開催により、これまで問題を知らなかった層への発信と参加の機会を作れました。また、品川区民と共同開催したことにより、今後の品川区での活動を展開していく基盤づくりに繋がりました。

 岐阜県の問題を取り上げたオンラインセミナーでは、 トンネル事故やトンネル残土の汚染問題等を検証し、沿線の住民が今最も心配している問題について議論しました。公開している録画映像は1500回を超える再生回数を得ており、沿線住民や市民の高い関心を得ていることがわかります。

 沿線の住民の座談会の開催では、各地から参加した個人や住民グループが問題や不安、悩み等を共有し、リニア事業による地域分断や孤立を防ぐための地域を越えた連携、連帯のネットワーク構築が始まりました。影響調査で聞き取りを行った住民同士の交流も促進し、別地域の工事視察や情報共有ができました。

 SNS等も利用した署名活動では、若い層やリニア問題に関心のなかった層への問題を発信することができました。また、若者と静岡県知事との対談も実現し、多くのメディアにも取り上げられました。全国から連帯の気持ちを記した手紙と共に署名が届きました。神奈川県では中学生が、卒業発表としてリニアの問題を取り上げ、署名を集めてくれました。署名は彼女らの意見を添えて神奈川県知事に提出したとの報告を頂きました。

 本助成活動期間の集大成として開催したオンラインシンポジウムでは、リニア問題と共に、現在工事や計画が進められている北海道新幹線と北陸新幹線の問題をとりあげ、同様の環境社会問題が生じていることや交通インフラのあり方の見直しの必要性について議論しました。参加者からは情報共有、連携、議論の場の継続を求めるコメントが多数寄せられており、これからの時代に合う、住民に寄り添った地域主体の交通システムを実現させるための継続した市民の議論の場の必要性が確認できました。

 

 

助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。

(1)当事者主体の徹底した確保

・学習会の開催、セミナー、座談会、シンポジウムの開催によって、住民や市民がリニア問題について議論し、具体的な解決策についても話し合うことが出来ました。

・事業の影響の実態を住民の声を通して伝えることで、参加した市民が開発の負の側面も知った上で、これからの日本の交通体系、インフラのあり方について議論、行動する機会となりました。

(2)法制度・社会変革への機動力

・大深度地下利用法の適用地域の住民を招いての学習会では、住宅街地下にトンネルを掘ることによるリスクや権利侵害等を具体的に洗い出し、問題提起しました。

・「国策だから」と沿線住民の反対や不安の声を押さえ込まれてきた中、署名活動を通して若い世代が知事や事業者に対して声をあげたことは、沿線住民には希望と勇気を与え、また新たな市民層を巻き込むきっかけを作りました。

・利便性や一部の企業の利益のみが優先されてきたリニアや新幹線の推進政策のあり方に、セミナー、シンポジウムを通して問題提起しました。今後も市民参加型議論を深め、住民のネットワーキング、さらにSNS等を活用したキャンペーン等、広く世論に問いかける取り組みが必要とされます。

(3)社会における認知度の向上力

・リニア工事によって生活を脅かされている沿線各地の現状や住民の声を発信していくことで、環境社会影響の大きさ、深刻さの実態を周知しました。リニア問題に新たに関心を持つ市民やメディアからの問い合わせが増えました。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

・影響住民の声や活動を発信することで、広く理解者や支援者が増えています。

・地域を越えた沿線住民の連携が強まり、情報共有、相談し合える関係性が出来つつあります。今後も継続、また対象地域を増やすことで、影響住民の孤立を防いでいきます。

・参加型の学習会やセミナー、シンポジウムでは、様々な意見を聞きながら、より持続可能な交通、開発のあり方を議論できました。今後は、さらに様々な立場の市民が議論できる場を作ることでの必要性を訴えていきます。

(5)持続力

・長期間に渡る工事の影響、そして運行開始後の影響にも住民が対策を講じることができるように、沿線住民の連携、住民の環境調査力、情報発信力の向上が重要であることを再確認できました。助成活動によって構築した住民同士の連携や全国からの支援の輪が、今後の持続力の基盤になると考えます。今後も住民支援を継続していきます。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 リニア中央新幹線は日本の交通網、自然生態系に大規模に改変を与え、沿線地方政策・経済、住民の暮らしに多大な影響を及ぼす事業でありながら、国民的議論を経ずに「国家的事業」として進められてきました。
 影響を被る住民への説明や意見を述べる機会も十分にもたれず、詳細計画も決まっていないまま環境影響評価が実施され、着工されました。政府及び沿線自治体の強力な後押しにより住民の不安の声は封じ込められてきました。すでに生じている様々な問題もメディアが報じることは少なく、現場で何が起こっているのか一般の市民には知られていません。
 自然災害が頻発し、持続可能な社会の構築が急がれる今の時代に、自然破壊や地域分断、大都市集中を生じさせる事業を開発ありきで進めてしまう社会の仕組みに問題があります。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

 リニア沿線の影響の実態を明らかにし、広く周知することで、事業のリスクが市民に理解されてきています。
沿線の住民は活動を通して、他地域の住民とつながり、情報交換や連携していくことで、事業者への対応や対策、情報発信の方法を習得することができるようになります。
住民や市民が意見を発信する機会を設けることで、事業の必要性から議論し直すことの緊急性、重要性を訴えました。
今後、さらに広く世論に問いかけると共に、事業者や国、自治体に届け、交通インフラのあり方から見直しを求めていきます。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。

 沿線の住民を孤立させないため、地域を越えた連帯が重要です。情報共有や共同アクションを通して連携を深めることができます。また、沿線の住民を支える全国からの支援も欠かせません。
 リニア問題は沿線地域だけの問題ではなく、これからの交通システムのあり方、また都市形成のあり方にも影響します。持続可能な社会の構築に向けて、自分ごととしてリニア問題に向き合い、沿線住民に寄り添い、声を上げていく市民の輪が必要です。さらに、国及び各地の政策決定者や地域のステークホルダーへの働きかけ、巻き込みが問題解決に向けての重要なステップとなります。

 

――リニア事業はすでに着工されながらも、当初から指摘されていた問題点に解決策が示されるどころか、新たな問題や事故が次々と生じており、危険な状況です。これ以上の取り返しのつかない環境社会影響、事故を発生させないために、事業はいったん中止し、国、沿線自治体、市民、住民の間で事業の必要性から問い直さなければなりません。

 また、本助成活動を実施する中で、リニア事業だけでなく、全国で住民や生態系を蔑ろにした交通インフラ開発が進められている事に対し、今後の交通システムのあり方から議論が必要であると認識させていただきました――

 

関連するSJFアドボカシーカフェ:『地域から問う持続可能な社会経済のあり方~リニア新幹線の開発事業をめぐって~』の報告はこちらから

 

 

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