ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成最終報告
NPO法人ピルコン(2025年5月)
◆助成事業名・事業目的:
「日本におけるジェンダー平等に基づく包括的性教育についてのアドボカシー事業」
日本におけるジェンダー平等の実現を目指す取り組みとして、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(以下、SRHR)に関するトピックの中でも、特に人権尊重と科学的根拠に基づく包括的性教育についてのアドボカシーを行う。
現在日本において、包括的性教育の実践事例は十分になく、またその根拠となる法律や制度の整備も進んでいない状況がある。そのため、国内外の機関や専門家とも連携し、包括的性教育についての情報や教材について発信し、若者と共に啓発を行う。包括的性教育についての科学的根拠や、ジェンダー平等との関連性、ポジティブなメッセージをインフルエンサーと共に社会に広げ、政府・政治家やステークホルダーにはたらきかけを行い、包括的性教育の教育機関・地域等で、教員・保護者や学生を対象に、学習機会の充実や包括的性教育の実践に向けての環境づくりを目指す。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2024年1月~25年4月
◆報告時点までに実施した事業の内容:
【調査】
・国内外における包括的性教育の情報を調査し、ユネスコ、WHO、ルトガーズ(オランダの性教育シンクタンク)、プランインターナショナルなどの包括的性教育についてのガイドラインやQ&Aを翻訳、まとめた。
【イベント・啓発】
・3/30、4/23 ユースと包括的性教育に関するインスタライブを開催
・5/19 性的同意をテーマにオンラインイベントを開催
・9/21 ユースと考えるソーシャルアクションをテーマに対面イベントを開催
・10/18-10/21 ユネスコ・東海大学と、3日間のユースセミナー「UNESCOユースセミナー」を共催。(写真上=東海大学ユネスコユースと共催した「UNESCOユースセミナー」プレイベントの様子。中央にいるのがユネスコでジェンダー平等教育を担当するジェネル・バブ氏。)
・11/19 HIVと人権をテーマとするオンラインイベントを開催
・2/18 差別論をテーマとするオンラインイベントを開催
→上記イベントにおいてもイベントにおいて包括的性教育の紹介やサイト「+C」の告知、紹介を行った。
→イベント報告はnote記事にもまとめ、発信を行った。
【サイト・コンテンツ制作】
・2024年11月に「しあわせにつながる性教育って?+C」をオープンした。
・包括的性教育やジェンダー平等に関する発信をピルコンのInstagramから行った。
【提言書作成】
・2024年11月から2025年3月にかけて、生命の安全教育をより充実化し、包括的性教育への発展を求める提言書を作成。しかし、提出までには至らなかったため、ピルコンによる提言書の作成と公開というところにまででとどまった。
しかし、提言の内容やその参考資料などは、関連団体とも共有し、ピルコンのサイトや包括的性教育のサイト「+C」でも公開した。(提言はこちらから)
今後のロビイングにも活用していく予定である。
【ロビイング】
・2024年6月~11月:国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)における日本審査での市民社会からのレポート作成に協力。
– 日本の性教育・ジェンダー平等が遅れている現状を伝え、勧告作成につなげた。関連団体と東京ウィメンズプラザやオンラインでの報告イベントを複数開催し、市民にも周知した。
-2025年2月 SRHR市民社会レポートチーム/ 公益財団法人ジョイセフ主催院内勉強会「女性差別撤廃委員会からの勧告と日本政府が果たすべき役割」開催・登壇し、包括的性教育の課題について発表。国会議員と意見交換を行う。
◆事業計画の達成度 :
【調査】
・国内外における包括的性教育の情報を調査を実施。Q&Aをまとめ、サイトにも掲載した。
【イベント・啓発】
・3/30、4/23 ユースと包括的性教育に関するインスタライブを開催、合計で約4,000回再生。
・5/19 性的同意をテーマにオンラインイベントを開催、30名が参加し、後日視聴動画は約40回再生。
・8/3 ソーシャル・ジャスティス基金 アドボカシーカフェの開催協力
・9/21 ユースとソーシャルアクションを考えるイベントを開催、3名のゲストと、4つのユース団体の発表をしてもらい、24名が参加。
・9/26世界避妊デーにちなみ、他団体が主催する9/27 SRHRスタンディングイベントに参加、告知協力
・10月にユネスコ・東海大学と、3日間のUNESCOユースセミナーを共催(参加者ユース128名と教育・支援関係者約20名が参加)
・11/19 、2/18に人権や差別をテーマとするオンラインイベントを開催。それぞれ24名、31名の申込があり、後日視聴動画もそれぞれ27回、30回の再生があった。
→のべ200名以上にイベント参加いただくことができた。
【サイト・コンテンツ制作】
・「しあわせにつながる性教育って?+C」を製作・公開した。
包括的性教育の概要、ファクトチェック、性教育に関する勧告や提言、ジェンダー平等に関する記事をまとめ、合計15記事を掲載した。今後、追加の記事やインフルエンサーからの応援メッセージを掲載予定。
・上記サイトの情報をもとに、2025年2月から3月にかけて、包括的性教育やジェンダー平等に関する投稿をピルコンのInstagramから画像を製作して発信し、のべ1.5万ビュー以上閲覧された。
【提言書作成】
・生命の安全教育の充実化を求める提言書を作成。ピルコンサイトや「+C」サイト上に公開した。
・関連する活動を行うSRHR市民社会レポートチームやジョイセフなどにも提言の内容を共有し、今後のロビイングについての意見交換を行った。
【ロビイング】
・国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)勧告に際して、市民社会レポートの執筆を担当
→勧告に、「若年妊娠と性感染症を予防するための責任ある性行動に関する教育を含む、年齢に応じた包括的な性教育(CSE)が、その内容や使用される言語について議員や公務員による干渉がされることなく、学校教育課程に適切に組み込まれること」が掲載(勧告はこちらから)。
・上記関連で、2回のオンラインイベント、東京ウィメンズプラザへの対面イベント、2025年2月 SRHR市民社会レポートチーム/ 公益財団法人ジョイセフ主催院内勉強会に出演、国会議員との意見交換を行った。
◆事業の成果 :
・他関連団体と連携してイベントを開催することで、若者や関連団体とのネットワークを強化しながら、包括的性教育の理解・増進に若者、一般市民に広げた。
・海外の論文やレポートなども参考に、最新の知見を日本語でまとめ公開することができた。
・SNSを活用して、包括的性教育に関する発信を広げた。今後、サイトやさらなる発信によって若者や保護者にリーチしていきたい。
・国際条約に基づく勧告に包括的性教育の導入や、またそれが議員や公務員によって干渉されないことも含めることができた。今後の提言・ロビイングにも根拠として活かしていきたい。
・「生命の安全教育」を包括的性教育に発展させていくための要点を提言にまとめ、他の市民団体や一部国会議員とも共有を図った。すぐに施策として進むステップには至らなかったが、そのために必要なことやアプローチについて、他の市民団体や議員などとも意見交換を行い、今後も模索を続けたい。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
発信の際には、若手スタッフを中心に行い、デザイナー等の起用も若者や女性、LGBTQ+当事者を中心に依頼した。学生団体や女性支援団体、LGBTQ+当事者との連携により、イベントを開催した。
(2)法制度・社会変革への機動力
国連女性差別撤廃委員会における勧告についての市民社会レポート執筆に協力し、勧告に包括的性教育に関する記載も入れることができた。
(3)社会における認知度の向上力
包括的性教育のInstagramの発信では、1.5万ビュー以上閲覧された。今後サイトの発信にも注力したい。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
政策提言を2018年から取り組んでおり、生命の安全教育の充実化に向けた提言の内容を共有することができた。改めて必要な施策やアプローチについて、検討を進める土台ができた。
(5)持続力
今回の助成金により、コミットするスタッフや協業者に適正な謝礼を用意する。各施策でゴール設定を行い、PDCAサイクルを回していく。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
性についてのタブー感・文化的な風潮と、現在の与党である自民党が性教育に慎重な姿勢を示してきたことにより、社会的機運が盛り上がることが難しく、また政府の政策として性教育が積極的に導入されてこなかったこと。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
包括的性教育の科学的根拠・人権に基づく情報を分かりやすく情報発信することで、世論形成を行うこと。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
クリエイターやインフルエンサー、若者、専門家、保護者、政治家・メディアと連携し、包括的性教育が必要であることの社会的なムーブメントを作っていくこと。海外の事例を視察したが、特に、アートやクリエイターとの協業も今後の余地が大きいのではと考えている。■