ソーシャル・ジャスティス基金 第15回助成先(2026年助成公募)審査結果
◆公募テーマ:
―次の両テーマとも、未来を担う世代が中心になって取り組む活動を積極的に支援―
特設テーマ:『あらゆる人が共生できる社会、自然と共生する社会』に取り組むアドボカシー活動
※共生とは何か――。お互いが違いを認めながらも尊厳をもって共存できる社会に向けて、現実を直視しつつ可能性を追究し、希望ある道筋をつくっていく活動を積極的に支援。
基本テーマ:『見逃されがちだが、大切な問題』に取り組むアドボカシー活動
◆助成決定額:総額400万円(各事業100万円)。
※本助成公募への目的指定寄付をいただき、公募において広報した助成総額より100万円多く助成させていだけることになりました。ご寄付の志により、新たな特別枠を設けることはなく全ての申請案件を同等に審査いたしました。
◆助成決定先:4事業(下記)。
※助成公募を26年9月に行い(公募の概要はこちらから※ご参考)、有効応募総数73件より書類審査を通過した申請者への面接審査を経て決定。
◆助成期間: 2027年1月から1年間以上2年間以下。
◆一般社団法人精神障害当事者会ポルケ
『精神科医療の意思決定と地域生活を本人中心に変える当事者政策提言事業』(助成期間:2年間、助成額100万円)
【事業概要】
日本の精神科医療では、本人の同意によらない医療保護入院の届出が、2025年度に約18万3千件に上る。本事業では、本人の意思が尊重され、必要な支援を受けながら地域で暮らせる仕組みの実現を目指す。2030年の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定を見据え、医療・介護・障害福祉を横断する地域支援のあり方を検討する。当事者を政策形成と評価の主体に位置づけ、聞き取りや意見交換を通じて、制度間の課題を収集・分析する。その成果をもとに、本人の意思の尊重と地域生活の実現を評価する成果指標や、支援を支える報酬の仕組みを具体的に提案する。提案は、政策提言書とその要約版、「現行制度と改善提案の対応表」にまとめ、国の審議会や関係機関との意見交換に活用するとともに、議員、行政関係者、市民への働きかけを進める。これらの取り組みを通じて、関係者と連携しながら、誰もが意思を尊重され、地域で暮らす権利が保障される社会の実現を目指す。
【選考骨子】
・精神科医療と地域生活に関する重要な人権課題に対し、当事者主体で政策提言を行う意義の高い事業だ。調査から提言までのプロセス設計が綿密であり実現性が高い。
・メンタルヘルスの問題を抱える人が増える中、本問題を広く共有して制度改善する意義は大きい。医療、福祉関係者、法律家、行政など様々な立場の人たちとの対話を通じて実現可能性を高める見通しがある。
・地元地域での活動を地道に重ねるとともに、都市圏と地方圏の違いを課題として認識して地方団体との連携さらには海外との連携もとっている。
・強制入院をさせたほうが精神医療関係者の収入が増える評価尺度を課題としてとらえ、まだ具体化されていない3つの報酬制度の同時改訂に向けて政策提言を行うという、好機をとらえた事業だ。
◆さっぽろ自由学校「遊」
『森川海のアイヌ先住権を見える化するプロジェクト』(助成期間:1年間、助成額100万円)
【事業概要】
日本による150年にわたる植民地政策がアイヌ民族固有の権利を奪い、北海道の自然生態系にも深刻な影響を与えてきた。そして、アイヌ民族は日本の先住民族であると、2019年に成立したアイヌ施策推進法で明示されたものの、先住民族の権利回復には触れられていない。しかし、教育や議論の機会は非常に不足している。本事業では、先住権や自然資源の慣習的利用の実態を、資料や証言を横断的に収集・分析し、植民地化の過程で生じた変化を歴史的に検証し、地図やデジタルアーカイブにより可視化。それらを、アイヌ民族と和人(日本の非先住民族)を含む社会全体が歴史的経緯と現在の課題を理解するための共有資源として公開する。さらに、社会全体で深く共有して自分事として捉え直し、社会的関与を広げるため、多様な立場の人々の学び合いと対話を促進する報告会を全国展開する。アイヌ民族自身による権利の回復・保障に向けた取り組みを支えると共に、不公正の是正に向けた実効的な協力関係の構築を目指す。
【選考骨子】
・日本では、先住民族であるアイヌ民族に対する植民地政策の歴史的事実はあまりに不可視化されてきた。アイヌ民族は尊厳を奪われ、過酷な差別を被り、そのトラウマは世代を超えて今も多くの困難をもたらしている。そうした責任を引き継ぐ社会全体、そして社会を構成する一人ひとりが、共に本課題に向き合う契機となる。
・活動の全国的な展開を、本助成による社会対話の場づくり等により後押しする。
・非先住民族に都合のよい側面に偏った情報発信のされ方と、歴史的事実やアイヌ文化を学ぶ教育機会の欠如等により、アイヌ民族の多様な個人の実態とは異なるステレオタイプに拘束される苦しみもある。本プロジェクトに取り組むそれらの是正を望む人たちの想いが団体事業として計画化されることを期する。
・当プロジェクトの中でも、アイヌ民族の高齢の協力者の語りを聴取し公表してきたサイト「フチとエカシのストーリー」の内容が濃く、個人の経験から歴史や権利の問題が浮き彫りになっており、その事業の発展的継続を期する。
◆特定非営利活動法人アジア女性資料センター
『「あらゆる人の命を平等に支える」ジェンダー公正な税と社会保障システムの提案』(助成期間:2年間、助成額100万円)
【事業概要】
現行の税と社会保障システムは近年の軍事費増額も相まって、介護・医療・福祉など多様な市民の生活を支えるために必要不可欠な社会保障予算を圧迫している。公的ケアの弱体化は、地域・家庭内ケア労働を当然のものとみなしジェンダー差別構造の固定化を強める。本事業は、税と社会保障システムの公正化に向けた草の根の当事者ネットワークの可視化と拡大を目指し、より多くの人が公正な社会システムについて自ら考え行動するように働きかける。27年7月に日本で初開催される国際フェミニスト経済学会に合わせて、税と社会保障システムのメリットを享受しにくい多様なマイノリティ当事者とのワークショップを開催し、市民社会に広く発信し議論を活発化させる。これにより海外の市民運動との接続を図ると共に、ジェンダー公正な経済政策を求める世論の形成に寄与する。
【選考骨子】
・税制に関する国レベルでの議論が様々な観点から合意形成に努め続けられている今だからこそ、ジェンダーやマイノリティの視点からの公正性が看過されないよう、本アドボカシー活動には意義がある。
・税と社会保障制度というテーマは社会の根幹に関わる。
・発信を、多様な個人の本社会問題にまつわるストーリーテリングをもとに行う構想があり、あらゆる人に対して伝わりえる手法を期する。
・多方面と連携した活動の積み重ねがあり、多様な当事者が対話を通じて課題を共有し、ネットワーク形成やエンパワメントにつなげる事業の実現性の高さを鑑みた。
◆トラウマ取材を学ぶ日本のジャーナリストの会
『トラウマを理解した取材報道とピアサポーター育成のための研修』(助成期間:1年3か月間、助成額100万円)
【事業概要】
記者はさまざまなトラウマを負った人に接する機会が多く、心身に深い影響を受けることがあるが、強靭さが当然視される記者カルチャーのなかで語られることは少なかった。痛みを負った人の話を聴くことは、実は様々な職業や立場の人と共通するものがあるだろう。トラウマやその聴き方について学ぶ機会を記者に提供し、相手の傷を深めたり決めつけたりすることなく、自分たちの回復も図りながら、声が聴き届けられにくい人たちの話を伝える仕事を持続可能にし、弱さや痛みを共有できるものに変えていく。痛みをきちんと聴いて社会で共有しないと「なかったこと」にされ続けてしまう。記者が痛みを抱えて話しにくい人の声を聴いて社会化できるよう学び、取材相手との信頼関係に基づいたよりよいアウトプットができるようにし、公正な社会に近づくことに貢献したい。
【選考骨子】
・「共にある」公正な社会をつくっていくに際し重要な基本となる「聴く」ということは、トラウマケアの根幹でもあり、それを具体的かつ効果的に実践しうる事業だ。
・トラウマを抱えた聴かれる側の想いを踏みにじらない取材や報道には、聴く側自身が内にあるトラウマと向き合える機会が必要だ。
・他業界のトラウマケアへの取り組みに対する波及効果を期する。
・健全なジャーナリズムは市民社会あるいは民主主義を成熟させる要の一つであり、本取り組みがジャーナリズムの活性化に向けての土台作りになることを期待したい。
・トラウマケアは他のSJF助成先の活動テーマとも通底しており、連携による創造的発展が促進されうる。 ■

