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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成最終報告

摂食症ともの会(2026年6月) 

助成事業名・事業目的

摂食症の当事者の実態把握と支援のあり方の検討、当事者のエンパワーメントを促すコミュニティの構築

 摂食症の当事者が病気に脅かされず、必要な支援や情報を得ながら病気の回復に向かえるよう、当事者の実態やニーズを定量的・定性的に明らかにした上で、医療・福祉などの関係機関と課題を共有し、支援のあり方について検討・改善できる場をつくる。その際、有益な支援や情報提供方法のあり方を検討する手がかりを得ることを目的として、摂食症経験者の回復体験を把握・分析し、回復における重要な要因を探る。

 また、当事者の孤立を防ぎ、エンパワーメントを促す場として、当事者・経験者によるWEBコミュニティを構築し、経験者の回復体験から得られた回復のヒントの共有や、多様なロールモデルとの出会い・交流ができる場をつくる。このコミュニティは、当事者のニーズを継続的に把握することも目的とする。

さらに、摂食症に対する社会的な認知拡大に向けて、本事業のプロセスや調査結果を広く発信することも目的とする。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2024年1月~26年5月 

実施した事業の内容: 

    • 当事者の実態やニーズを定量把握するWEBアンケート調査

     全国の当事者を対象として、現在の症状や病歴、困りごと、治療状況、相談相手の有無、心境等を把握するためのWEBアンケート調査を実施し、155名から回答を得た。調査結果をレポートとして取りまとめ、当会のWEBサイトで公開した。また、白書にも一部の結果を反映した。

    調査レポート

     

    • 回復のヒントを探るヒアリング調査

     摂食症の当事者・経験者12名を対象として、回復のプロセス等を把握するためのヒアリング調査を実施した。結果は、WEBコミュニティでの公開用に体験談として取りまとめ、公開した。また、当事者にとっての症状の役割や、回復において重要な要因、発症の背景にある社会的要因等を分析し、白書に反映した。

     

    • 支援のあり方を検討する意見交換

     医療関係主体と、当事者支援のあり方について意見交換を行った。そのうちの1回は、福岡県の摂食症治療の第一人者である九州大学病院の高倉医師・八幡厚生病院の米良医師を交えたシンポジウムのパネルディスカッションとして実施し、記録冊子をとりまとめ、当会のWEBサイトで公開した。また、九州大学病院の高倉医師からは、白書に対して専門家のお立場でのコメントを寄せていただいた。

    記録冊子

     

    • 当事者のエンパワーメントを促すWEBコミュニティの形成

     当事者の孤立を防ぎ、エンパワーメントを促す場として、WEBコミュニティ(WEBサイト)を構築した。経験者の回復体験から得られた回復のヒントを共有するための「体験談」をメインコンテンツとしつつ、Instagramとの連動により、読み手が共感を表すことができ、多様なロールモデルとの出会い・交流ができる場とした。

    コミュニティサイト

     

    • 摂食症への理解促進を目指す白書の作成

     上記の調査結果をふまえ、当事者の実態や、摂食症をめぐる課題を発信する白書として取りまとめ、当会のWEBサイトで公開した。

    白書URL

 

事業の達成度 : 

    • 当事者の実態やニーズを定量把握するWEBアンケート調査

     以下の理由から、計画を達成したと考える。

    ・対象者数は100程度を想定していたが、過去のオンライントーク参加者への直接の依頼やSNSでの周知を行った結果、全国の当事者から、想定を上回る回答数(155件)が得られた。

    ・当事者の視点から、当事者の実態を明らかにすることができ、過去に例がない調査結果として反響が得られた。また、シンポジウムをはじめとする発表機会においても、関係者と問題意識を共有する資料として役立てることができた。

     

    • 回復のヒントを探るヒアリング調査

     以下の理由から、計画を達成したと考える。

    ・対象者数は12名で、当初想定していた対象数(20名)には至らなかったものの、事前の想像以上に、それぞれの体験が複雑で奥深く、示唆に富んだ内容であり、お一人ずつの体験に丁寧に真摯に向き合う中で、当初想定していた「回復において重要な要因」や、「発症の背景にある社会的要因」はもちろんのこと、「当事者にとっての摂食症の役割とは」、「摂食症からの回復とは」などの問いに向き合い、考察することができた。

    ・体験談の編さんにあたっては、それぞれの複雑な背景や思いを言葉で表現する難しさや限界にも直面しつつ、当事者の視点で何度も校正を重ねる中で、単なるサクセスストーリーに陥らず、渦中にいる方にもそっと寄り添えるような内容として推敲できた。その過程で、体験談の編さんにこめた思いや、当会が大切にしたい価値観についても、再確認できた。

    体験談の編さんを終えて

     

    • 支援のあり方を検討する意見交換

     以下の理由から、計画を達成したと考える。

    ・当初は、机上での意見交換を想定していたが、実際は福岡県摂食障害支援拠点病院の協力のもとに、シンポジウム開催に至ったこと、白書に対して専門家からのコメントを得られたことなど、具体的な連携に発展させることができ、想定以上の成果を得られた。

    ・シンポジウムについては、福岡県摂食障害支援拠点病院においても、普及啓発活動の一環として捉えていただき、「摂食障害治療支援センター設置運営事業報告書」(P.168)において、「当事者団体と連携し、シンポジウムを開催した」として、その成果を記載いただくなど、相互にWin-winの関係を築くことができたと考えられる。

    摂食障害治療支援センター設置運営事業報告書

     

    • 当事者のエンパワーメントを促すWEBコミュニティの形成

     以下の理由から、計画を達成したと考える。

    ・WEBコミュニティの構築にあたっては、WEB制作会社さんの提案を受け、「あなたとともにありたい」というメインメッセージや、一人の手に仲間の手が重なっていくメインビジュアルなどを採用したことで、「コミュニティ」としての趣旨を表現することができた。

    ・メインコンテンツである体験談に対しては、Instagramの「いいね」などで一定の反響が得られた。定期的に体験談の投稿があることで、Instagramのフォロワー数も伸び、オンライントークへの新規参加者が増加するなど、新たなつながりができた。                                                              

     一方で、以下の点は今後の課題と考える。

    ・Instagramで体験者への質問受付をしたものの、質問は全体を通して1件にとどまり、Instagramという公の場では質問しづらい様子もうかがえた。当初意図していた「多様なロールモデルとの出会い・交流」については、WEBサイト上では限界があり、オンライントークを受け皿としていくことが妥当と考えられた。

    ・体験談による当事者のエンパワーメントへの効果は、直接的に測定が難しく、長期的な視点も持ちながら確認していく必要がある。

     

    • 摂食症への理解促進を目指す白書の作成

     以下の理由から、計画を達成したと考える。

    ・白書の内容は、当初想定していた「摂食症」そのものへの理解促進に加え、当事者を取り巻く実態や社会的課題の可視化、問題提起に重点を置く構成とした。結果として、当事者の声を社会に届けるという今回の助成事業の趣旨(アドボカシー)により合致した成果物となったと考える。

    ・Instagramのインサイト分析の結果、「摂食症白書」の公開を周知する投稿は、その他投稿(体験談等)と比較して反響が大きく、会の認知向上や新たなつながりの獲得に寄与した様子がうかがえた。

    ・具体的には、白書の投稿は、リーチ数、いいね数、プロフィールアクセス数、フォロー獲得数のいずれも高い数値を示した。特にプロフィールアクセス率は約10%と他の投稿より高く、多くの閲覧者が白書をきっかけに会の活動へ関心を持ち、さらに情報を求めてプロフィールを訪れたものと考えられた。

     一方で、以下の点は今後の課題と考える。

    ・白書公開に合わせてメディア向けのプレスリリースを実施したものの、取材や報道にはつながらなかった。今後は発信方法を工夫しながら、引き続き当事者の視点から摂食症をめぐる実態や課題を社会に発信していきたい。

 

助成事業の成果

公正な社会づくりの観点からみた成果

 これまで、摂食症を社会課題と捉え、当事者が声をあげる活動自体、ほとんど例がなかった中で、当事者の声や実態を浮き彫りにし、社会に発信できたことが、大きな成果であると考える。

 

■助成申請書の「3-8助成対象事業の成果イメージ」との対応

◇当事者の実態調査は、当事者団体が行った全国でも珍しい調査として注目を集めるとともに、その結果が政策提言を行う上での根拠資料として役立っている。

⇒当事者の実態調査の結果は、シンポジウム参加者や関係者から感想や問い合わせが寄せられ、メディア関係者にも注目いただいた。また、当時、長野県で摂食障害支援拠点病院の設置を要望する運動をされていた「長野県摂食症自助グループ『パステル・ポコ』」様から、長野県知事懇談会において本調査結果を提示したいとの依頼があった。実際に、県知事懇談会において、当事者の実態を説明する資料として役立てていただいた。その後、2025年8月1日に長野県で摂食障害支援拠点病院が指定された。

 

◇関係機関とのネットワークができ、摂食症の当事者をめぐる課題についての共有認識を持つことができ、それぞれが課題解決に向けた取組みを実践している。また、福岡県における病院・行政・当事者団体の協働の事例が、好事例として全国に展開されている。

⇒九州大学病院の高倉医師及び、八幡厚生病院の米良医師とは、一連の意見交換を通してつながりができ、課題についての共有認識を持つことができた。高倉医師とは、次のシンポジウムの企画として、教育分野の関係者を交えたディスカッションなどをご相談しているところであり、課題解決に向けた取組みの実践につなげたい。WEBで公開したシンポジウム記録冊子は、メディアからの取材につながるきっかけの一つとなっており、摂食障害治療支援センター設置運営事業報告書においても、協働の事例を発信していただいた。これらを通して、好事例としての情報発信は一定程度できたと考えられ、今後、他の拠点病院でも、協働の取組み事例が生まれることを期待するところである。

 

◇確立したWEBコミュニティを活用して、当事者ニーズ把握→関係主体との協働による支援策の検討→実践→改善のPDCAサイクルの土台が構築されている。また、WEBコミュニティを通して当事者同士のネットワークが広がり、当事者の中に「摂食症は恥ずかしくない、一人ではない」という認識が広がり、回復への道のりをイメージできる当事者が増えている。

⇒WEBコミュニティの構築が、Instagramのフォロワー増、オンライントークへの新規参加者増につながり、当事者同士の新たなつながりが広がったことで、当事者ニーズ把握→改善に取り組む上でのさらに強い土台ができたと考える。摂食症の背景や症状、回復のプロセスは、患者の数だけパターンがあると考えられることから、今後も多様なモデルの体験を収集・発信することで、「摂食症は恥ずかしくない、一人ではない」という認知拡大や、回復への道のりをイメージできる当事者増につなげたい。

 

◇さらに、白書やメディアの報道で活動を知った当事者がコミュニティに参加してくれることで、コミュニティが活性化している。

メディアの報道やInstagram等で当会の活動を知った当事者が、オンライントークに参加され、体験談を語って下さり、その体験談を読んだ方がオンライントークに参加されるという好循環ができた中で、コミュニティの活性化を実感しており、今後も体験談や各種調査結果の公開などを通して、新たなつながりが生まれ、エンパワーメントにつながる好循環を目指したい。

 

助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。

(1)当事者主体の徹底した確保

 一貫して当事者主体を徹底して活動してきた。特に、シンポジウムでは、当会の当事者3名(うち2名は学生)が体験談の発表を行い、大きな反響が得られ、当事者が声をあげることに対する手ごたえが得られ、当事者主体の機運がさらに高まった。

 また、体験談の編さんにあたっては、当事者ではないライターさんが執筆された文章に対して、当事者の目線から、多くの試行錯誤と校正を重ねている。渦中にいる方が読んだときに、どう受け止められるかに細心の注意を払い、傷ついたり落ち込んだりしないように、動揺や混乱・症状の悪化を招かないように、あるいは過食嘔吐などの手段の助長につながらないようになど、工夫した。また、語って下さった体験者の方にも批判の矛先が向き、傷つくことがないようにという視点でも、注意を払った。

 今後は、体験談の公開により、当事者が声をあげてもよいという機運がさらに高まることを目指す。

(2)法制度・社会変革への機動力

 一連の活動を通して、取材機会が増加したことで、福岡県の摂食症の分野において、当会が当事者団体として一定の立ち位置を得つつある。今後も、会としての活動実績と地道な情報発信を積み重ね、信頼の基盤を作る中で、発言力を高めていくことが、法制度・社会変革への機動力につながっていくと考える。

 また、「助成事業の成果」で記載した通り、当会の調査結果が、他団体の政策提言活動に活用いただけたことも、法制度・社会変革に対して間接的に貢献できたと考える。

(3)社会における認知度の向上力 

 積極的にプレスリリースを実施する中で、助成事業の期間中、以下の5件の取材を受け、メディアを通した情報発信が、当会の活動や摂食症に関する認知度向上につながった。

 

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 行政の関係主体(福岡県精神保健福祉センター、福岡市精神保健福祉センター、北九州市精神保健福祉センター)とは、定期的にご挨拶に伺ったり、主催イベントの案内などの情報提供を行ったりする中で関係を維持している。

 また、福岡県を代表する治療者である九州大学病院の高倉医師・八幡厚生病院の米良医師とは、メールなどで連絡を取り合える関係性を維持している。

 現時点で、「相反する立場をとる利害関係者」は心当たりがなく、私たちの問題意識に共感して下さる仲間を増やすことが、最重要課題と考えている。今後、摂食症をめぐる課題解決を進める上では、行政・医療以外に、教育・福祉などの分野の関係主体とも連携できることが望ましく、引き続き、私たちが取り組む社会課題の重要性や意義をアピールしていくことで、問題意識を共有できる主体を増やし、良好な関係構築を図っていきたい。

(5)持続力

 助成事業の活動を通して、私たちの活動趣旨に賛同し、参加・協力・支援してくださる方が増えていることが、持続するための何よりのモチベーションになっていると感じる。

 長期的には、組織基盤を強化し、会としての信頼性を高めるためのNPO法人化なども、視野に入れていきたい。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 根本にあるのは、社会における多様性・包摂性の低さにあると考える。「こうあるべき」が強く求められ、多様なあり方が包摂されない社会では、「このままの自分では認められない」という感覚を抱きやすい。その結果が、自己肯定感の低下を招き、他者比較・同調・自己修正を強いられることに、生きづらさが生まれる。摂食症においては特に、容姿(体型・体重)や成果(成績)が、自己の評価基準と結びついたときに、発症のリスクが高まりやすいと考えられる。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

 これまで実施してきたアンケートやヒアリング調査の結果もふまえ、白書等を通して問題の本質を明らかにし、関係者間で共有し、まずは共通認識を持つこと。摂食症を「個人の問題」に矮小化せず、社会課題として広く発信し、改善の必要性等を訴える世論形成に結びつけていくこと。

(3)他団体と連携したプロジェクトのアイディア、あるいは具体的な構想、あるいは希望などはあるか。

希望:思春期の子どもやその親、学校関係者(特に養護教諭やスクールカウンセラーなど)を対象として活動されている団体さんがあれば、啓発活動などにおいて連携してみたい。

理由:摂食症は早期発見・対応が重要であるものの、現在、当会で実施しているオンライントークの参加者の年代は、30代以降が多く、若年層の方へのアプローチができていない。発症を未然に予防する、あるいは症状の長期化を防ぐ観点からは、若年層へのアプローチが重要と考えるため。また、思春期のメンタルヘルスをめぐる問題は、摂食症以外にも様々なものが考えられることから、情報を受け取る側のニーズを考えると、摂食症にとどまらず、様々な観点からの情報提供がある方が、関心を持ちやすく、またメリットも感じやすいのではと考えるため。  ■

 

 

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