ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第13回助成中間1次報告
原子力資料情報室(2025年6月)
◆助成事業名・事業目的:
「核ごみ調査に揺れる地域の声をすくい上げ、政策変更を促すアドボカシー活動」
原発を運転することによって生まれる高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの処分政策に対して、政策変更を求めるアドボカシー活動です。具体的には、核のごみの第一段階の調査である文献調査の実施がきっかけで発生した地域の分断に苦しむ北海道寿都町、文献調査の応募をめぐり地域対立が発生した長崎県対馬市、文献調査の本格的な進行により地域の分断の懸念がある佐賀県玄海町を中心に、処分場調査拡大の動きの中で、周辺化された地域の声をすくい上げ、それに対する共感を社会に広げ、政策変更を要求する社会運動を作ることを目的としています。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2025年1月~26年12月
◆報告時点までに実施した事業の内容:
〇北海道の文献調査への対応
2月26日~3月3日まで北海道を訪問。市民団体主催のイベント「どうしてこうなってる? 寿都町・神恵内村文献調査報告書とその説明会を検証する」に講演者として出席し、文献調査の問題点を解説しました。内部ミーティングも開催し、今後の文献調査への対応について協議しました。
5月19日∼20日には文献調査実施地域の寿都町と神恵内村を訪問しました。神恵内村に関しては、文献調査関連の住民組織がないのでコンタクトが難しかったが、2つの商店を訪れ、経営者に文献調査に関する考えを聞きました。また、NUMO神恵内交流センターを訪問し、神恵内村でのNUMOの取組や住民の反応、地域交流に関する職員の考えを聞きました。その他、NUMOが仲介して始まり、現在、中断しているウナギ養殖場建設予定地も訪問しました。
一方、2月21日には「NUMOによる環境団体合同の文献調査説明会」を東京で開催しました。文献調査報告書に関して、環境団体を対象とした説明会を開くよう、環境団体の有志がNUMOに要請したものです。私がNUMOと交渉しながら、この要請及び企画の構成を進め、実現させました。当日は環境団体側が26名、NUMOが11名参加しました。
〇佐賀県玄海町の文献調査への対応
3月16日に佐賀市を訪問し、市民グループとミーティングを実施しました。開催が予定されていた「対話を行う場」への対応を協議しました。また、3月末にはこの市民グループを中心に「核ゴミお断り!10万年先の子どもも守る九州の会」が結成されました。
〇対馬に関する調査
5月24日に投開票の対馬市議選では、文献調査反対の市議が多数当選し、2023年に調査請願書に賛成票を投じた議員の複数名が落選する結果となりました。この選挙過程や結果について、対馬住民から電話で意見交換を行いました。今後の核抜き条例の制定の動きや対応についても協議を行いました。
〇ロビーイングなど国会議員への折衝
1月24日に逢坂誠二議員(立憲民主党)と、2月6日には大築くれは議員(立憲民主党)と議員事務所で面談。国会質疑で北海道の文献調査報告書及び最終処分政策の問題を提起するようレクチャーを実施しました。6月11日には「高レベル放射性廃棄物等の最終処分に関する議員連盟」総会に出席し、最終処分問題に関心のある議員の考えを把握しました。
◆今後の事業予定:
8月6~10日の間に長崎県対馬市と佐賀県玄海町を訪れる予定です。対馬市では住民との意見交換、玄海町では住民と交流するイベントを企画しています。玄海町では文献調査の進展状況に合わせて、地層処分賛成・反対双方の専門家が参加するシンポジウムを開催したいです(来年以降になりそう)。
寿都・対馬・佐賀の住民との内部オンライン・ミーティングを、この8月の訪問以降、8月下旬をめどに開始したいです。このミーティングでは、それぞれの地域の現状を共有し、意見交換をしながら、どのような政策変更が望ましいか議論して、政策提言集にまとめたいです。1~2ヶ月に1回、定期的に開催する予定です。
政策提言集がまとまったら記者会見を通じての告知や院内集会、国会議員へのレクチャーなどを企画したいです。国会議員への働きかけは私一人、あるいは原子力資料情報室だけでは限界があるので、原子力市民委員会などと協力して進められればと考えています。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
文献調査関連地域の住民との信頼関係の構築、定期的なコミュニケーション、現地交流プログラムの実施などが重要と考えていました。その点で、寿都住民と定期的にオン/オフラインでコミュニケーションをとり、文献調査の何が問題なのか、どういう支援や連帯が必要なのかなどについて意見交換を行いました。2月20日には原子力資料情報室主催のウェビナーを開催し、寿都町民自ら、この4年間の文献調査がコミュニティに与えた影響について語ってもらい、報告書に対する意見提出を直接呼びかけてもらいました。
佐賀県玄海町については、玄海町民も入る「核ゴミお断り!10万年先の子どもも守る九州の会」メンバーと定期的に意見交換を行っています。このメンバーは、政府の審議会である特定放射性廃棄物小委員会の議論をあまりフォローできていなかったので、情報提供や政策の進行状況を伝えながら、政府やNUMOに対して、当事者として主体的にどのような対応や要請を行えばいいのか協議しました。その成果の一つとして、この会が、審議会の議論を踏まえた形で、NUMOに対して「対話を行う場」への質問・要請文を6月20日に提出したことが挙げられます。
(2)法制度・社会変革への機動力
核のごみの処分政策を規定する「最終処分法」は、原発の継続利用のために処分場を探すという目的になっており、選定プロセスに住民参加や熟議の機会が保障されていないなど問題が多いです。この変革のためには、経産業やNUMOだけではなく、国会議員への働きかけも重要と考えました。
その観点から、北海道選出の立憲民主党の国会議員2人と面談し、北海道の文献調査の問題点を説明し、国会での議論を求めました。しかし、なかなか具体的な動きや成果を上げることは難しく、課題解決に向けた継続的な取り組みが必要と考えます。高レベル放射性廃棄物等の最終処分に関する議員連盟へのアプローチなど、より幅広く議員にロビーイングをすることも検討しています。
(3)社会における認知度の向上力
原発政策の中で核のごみの問題は、比較的関心が薄いです。要因としては、調査実施地域の問題に矮小化されてしまう傾向があるからだと考えます。したがって時宜相応に、継続的な情報発信が必要だと考えます。
その観点から、文献調査報告書が完成し、市民の意見提出が受け付けられていた4月までの間に、集中的に報告書の問題点を解説する講演会やウェビナーを開催しました。原子力資料情報室主催のウェビナーを1月から3月にかけて複数回開催しました。2月には北海道の市民団体の招待で、札幌で講演を行いました。
文献調査報告書への市民の意見提出は約200件だったとのことで、この数字にこのプロジェクトを通じた取り組みの成果がどれだけ反映されているかは不明ですが、引き続き精力的な情報発信に努めるつもりです。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
相反する立場をとるグループは大きく2つに分けられます。第一に、政策や調査を推進する経産省とNUMOです。第二に、調査実施地域における調査賛成住民が挙げられます。
経産省とNUMOに対しては、特定放射性廃棄物小委員会で意見交換や政策提言ができる関係性が存在します。それに加えてNUMOに対しては、2月に「NUMOによる環境団体合同の文献調査説明会」を開催し、文献調査に対する立場は違うものの、対等に意見交換ができる関係性の構築のために努力しました。今後も定期的な意見交換ができる対等なパートナーシップの構築に向けた取り組みを企画したいと思います。
調査賛成住民については、5月に神恵内村を訪問し、賛成派の住民からも意見を聞きました。しかしそもそもコミュニティの中に調査賛否の意見を自由に言える雰囲気が乏しく、賛成派住民との関係性構築は困難な課題です。玄海町も同様で、そもそも原発立地地域なので原子力行政に対して意見を言うことを控えるコミュニティ文化がある中で、調査賛成の住民とコンタクトをとること自体が困難です。しかし8月に予定している玄海町訪問の際には、調査への賛否を問わずまずは住民と雑談形式で対話できるような企画を、周辺自治体住民と共に準備しています。
(5)持続力
文献調査が進む地域は、小さく貧しい自治体が多いです。そのため住民自身が反対運動やアドボカシー活動を継続的に行うリソース、つまり資金や人的資源が乏しいです。また当該地域の住民が、影響力を与えられるような政策へのアクセスも制限的です。
リソースの少なさの克服のために、当プロジェクトや原子力資料情報室の支援・連帯により、寿都町民が直接文献調査の問題点について話すウェビナーを開催しました。しかしこの課題を解決するのは困難なので、引き続きより良いアイデアを模索していきたいと思います。
政策へのアクセスの制限については、私が委員を務める特定放射性廃棄物小委員会の場を活用し、なるべく現地住民の声や意見を確認し、私が委員会で発言する努力をしています。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目について考察。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
核のゴミ問題は調査が進む地域の問題として矮小化される傾向にあります。小さなコミュニティで進行しているので人々の関心は低く、コミュニティ分断など深刻な弊害が起きているにもかかわらず、政策の失敗や社会的な問題としてそれが認識されづらい構造になっていると思います。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
地域住民をエンパワーメントしながら、粘り強く地域の現状を広く社会に共有することが必要です。一般市民には核のゴミの政策的矛盾や問題点を説明するだけでなく、当該地域住民の語り(ナラティブ)を通して、感性に訴えることも有効と考えます。経産省やNUMOなど政策当事者に対しても、政策の批判だけでなく、透明性のある住民参加型の意思決定を対案として提示することで、核のゴミ問題に関してより社会的な議論が進み、ひいてはよりよい問題解決につながるのだということを訴える必要があると思います。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
脱原発運動の中で、核のゴミ問題は比較的マイナーな分野なので、より大きな問題として認識してもらえるよう、運動内部での協力・連携を強化すべきだと考えます。また気候正義運動に参加している若年世代に対しても、世代間倫理の問題として積極的に発言してもらえるよう働きかけることは有効だと考えます。彼ら・彼女らは社会正義にも敏感な感性を持っているので、政府や電力会社の無責任さを小さなコミュニティに押し付けている政策の問題構造を理解してもらうことで、関心を持ってもらい、積極的に活動に参加してもらうことが期待できるのではないかと考えます。 ■