ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成中間報告
ふくおか摂食障害ともの会(2024年12月)
◆助成事業名・事業目的:
「摂食障害の当事者の実態把握と支援のあり方の検討、当事者のエンパワーメントを促すコミュニティの構築」
摂食障害の当事者が病気に脅かされず、必要な支援や情報を得ながら病気の回復に向かえるよう、当事者の実態やニーズを定量的・定性的に明らかにした上で、医療・福祉などの関係機関と課題を共有し、支援のあり方について検討・改善できる場をつくる。その際、有益な支援や情報提供方法のあり方を検討する手がかりを得ることを目的として、摂食障害経験者の回復体験を把握・分析し、回復における重要な要因を探る。
また、当事者の孤立を防ぎ、エンパワーメントを促す場として、当事者・経験者によるWEBコミュニティを構築し、経験者の回復体験から得られた回復のヒントの共有や、多様なロールモデルとの出会い・交流ができる場をつくる。このコミュニティは、当事者のニーズを継続的に把握することも目的とする。
さらに、摂食障害に対する社会的な認知拡大に向けて、本事業のプロセスや調査結果を広く発信することも目的とする。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2024年1月~25年12月
◆報告時点までに実施した事業の内容(主に前回の報告時以降=24年7月~):
①当事者の実態やニーズを定量把握するWEBアンケート調査
得られた結果について、単純集計に加えて、症状別のクロス分析を行い、症状別にみた困り事の違い等を明らかにした上で、調査レポートとしての取りまとめを行った。これらの結果をシンポジウムで発表することで、当事者の実態を関係者間で共有することができた。
②回復のヒントを探るヒアリング調査
ヒアリング対象の抽出と、ヒアリング依頼文・ヒアリング項目を取りまとめたシートの作成、ライターさんとの調整が完了。ヒアリング項目の整理にあたり、今後作成予定のWEBサイトにおいて、どのような体験談のアウトプットを行うかについて、議論を重ねてきた。(その際、11月16日の連携ダイアローグにおいて情報共有いただいた、他団体さんのWEBメディアや手記等の事例を大いに参考にさせて頂いた。)その中で、体験談は、「人それぞれの摂食障害との付き合い方や回復のプロセスがあることが伝わる読み物とする」旨を確認した。
③支援のあり方を検討する意見交換
福岡摂食障害拠点病院の高倉医師との意見交換の結果、当会主催の「ともに向き合う摂食障害シンポジウム」に高倉医師をお招きし、基調講演をお願いする運びとなった。また、福岡県摂食障害拠点病院の積極的なご協力のもと、シンポジウムの開催告知(以下)を実施いただくなど、行動レベルでの具体的な連携が叶った。
・チラシを九州大学病院の掲示板に掲示、九大心療内科の他班に配布
・同院ホームページのお知らせに掲載
・情報配信サービスにご登録の方、団体にメールで案内
・福岡県教育委員会を通じて、県下の全学校に案内
・県を通じて保健所・精神保健福祉センターなど行政に周知
高倉医師からは、シンポジウムにおいて以下の通りコメントを頂いた。「当事者と方と交わる機会に今まで出席したことがなかった。皆さんすばらしい活動で、困っている患者さんを助け、治療に繋げていくプロセスが出来る活動であると思った。今後、我々も、積極的な連携が出来ればと思う。」
(写真上=関係者意見交換の成果として、福岡県摂食障害拠点病院との連携により、「ともに向き合う摂食障害シンポジウム」を開催(2024年10月27日)。治療者・当事者によるパネルディスカッションの様子)
④当事者のエンパワーメントを促すWEBコミュニティの形成
体験談の検討と並行して、WEBサイトのイメージについて、参考事例の収集に着手。
⑤摂食障害への理解促進を目指す白書の作成
一般の方に摂食障害を理解していただくにあたり、当事者以外の視点を交えて検討したいとの意識から、「NPO法人二枚目の名刺」様とのコラボレーションのもと、社会人プロボノとの連携による検討を行うこととなった。当会の活動趣旨に賛同して下さった社会人プロボノ6名の方々とのプロジェクトチームが11月に立ち上がり、現在まで3回のミーティングの中で、理解促進に向けて何が必要かを議論している。
◆今後の事業予定 :
①当事者の実態やニーズを定量把握するWEBアンケート調査
今後は、会のWEBサイトでの一般公開を行うとともに、全国的にも珍しい調査結果が得られたことについて、メディアへのプレスリリースを実施予定。白書への反映方法についても検討していく。
②回復のヒントを探るヒアリング調査
今後、ヒアリング対象者の方々とのアポ取りを実施し、順次、ヒアリングを実施。ライターさんのご協力のもと、体験談として取りまとめを行う。
③支援のあり方を検討する意見交換
高倉医師から、今後も積極的な連携をしたいとのお言葉を頂いたことを受け、今後の連携方策について検討していく。シンポジウム参加者からは、次回の開催を望む声も聞かれたことから、次回のシンポジウム開催なども視野に入れ、具体的な行動レベルでの連携アイデアを投げかけたい。また、現在、シンポジウムのアーカイブ動画の編集と記録冊子の作成を進めており、まとまり次第、メディアへのプレスリリースを行うなど、成果をアピールしていきたい。
④当事者のエンパワーメントを促すWEBコミュニティの形成
具体的な検討は2025年以降に着手予定。
⑤摂食障害への理解促進を目指す白書の作成
来年1月末までに社会人プロボノとの連携による検討成果を出し、白書に反映する予定。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
中間報告以降も、本事業の取組みに参加したいという当事者(学生)メンバーが増えた。また、シンポジウムでは、当事者の手でシンポジウムを作りあげた成功体験が得られたほか、当会の当事者3名(うち2名は学生)が体験談の発表を行い、大きな反響が得られたことから、当事者が声をあげることに対する手ごたえが得られ、当事者主体の機運がさらに高まっている。
(2)法制度・社会変革への機動力
シンポジウムの開催にあたり、新聞各社へのメディアへのプレスリリースを行う中で繋がった記者の方や、ホームページを通してお問合せいただいた記者の方とやり取りをする中で、摂食障害をめぐる課題(医師や治療施設の少なさ、病気への理解不足等)について、重要な社会課題として認識して下さる方が多く、摂食障害を個人の問題のみならず、社会課題として捉える視点が、会の中でも芽生えてきたところである。メディアを通して、法制度・社会変革の必要性を発信していただくことで、変革の機動力の後押しとなることが期待でき、今後も、積極的なプレスリリースを実施していきたい。
(3)社会における認知度の向上力
一連の活動のお陰で、ホームページの問い合わせフォームを通したメディアからの取材依頼が増えるなど、少しずつ反響が出てきており、メディアを通した認知度の向上を図りたい。これまでに問い合わせがあったのは、日経新聞、読売新聞、NHK、RKB毎日放送など。なお、シンポジウムについても多くのメディアから取材をしたい旨の反応が得られたものの、衆議員選挙の日程と重複してしまい、いずれのメディアも取材を断念される結果となったのは残念だったが、メディアとの繋がりを今後に生かしたい。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
一連の活動を通して、賛同者・協力者の方々と関わる中で、報酬などのメリット以上に、社会課題の重要性に共感して下さる方が多く、私たちが取り組む社会課題の重要性や意義をアピールしていくことが、良好な関係構築に繋がると感じている。
(5)持続力
一連の活動を通した学生メンバーの活躍が顕著であり、学生の中から、活動の持続可能性(具体的には活動報酬の可能性など)について問題提起が生まれている。また、活動を通して多くの賛同者・協力者との繋がりができ、今後の持続可能な取組みに向けて少しずつ基盤ができつつあると感じている。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
ⅰ)子どもの自己肯定感の低さ、ストレスの多い競争社会
ⅱ)痩せ礼賛社会
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
ヒアリング調査等を通して問題の本質を明らかにし、関係者間で共有し、まずは共通認識を持つこと。課題について広く情報発信し、改善の必要性等を訴える世論形成に結びつけていくこと。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
・医療・福祉等の関係者との連携(根本課題の解明と認識共有等)
・メディア等との連携(情報発信等)
・著名人・インフルエンサーなど、この問題を広く発信する力のある方との連携(情報発信等)
・ⅰ)については教育分野との連携(自己肯定感を育む教育の重要性についての認識共有等)
・ⅱ)についてはファッション業界、ダイエット産業との連携(痩せすぎモデルの規制や、行き過ぎたダイエット情報の規制等の働きかけ等)■