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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成最終報告

NPO法人デートDV防止全国ネットワーク(2024年8月)

助成事業名・事業目的

デートDV防止から始めるジェンダー平等な社会づくり

 デートDVは深刻な人権侵害であり暴力であることを社会全体に啓発し、デートDV予防教育や啓発グッズの作成などを通して、ジェンダー平等社会の実現とDVや虐待など暴力の連鎖が起きない社会の構築を目的とする。

 デートDV予防教育は、小学校から大学までの学校現場で広がりつつあるが、子どもたちや教職員だけでなく、社会の構成員全てが学ぶ必要があるものだと考え、企業の人や国会議員など社会システムに関わっている全ての層に対しての啓発講座の開催や予防教育プログラムの提供を通し、社会全体への啓発と社会変容を目指す。さらに、障がいのあるカップル、LGBTQ+など、様々な立場のカップルでもDVが起きていること、相談機関へつながることがより困難であることから、当事者のコミュニティと交流しながら、どんなプログラムを届けることが有効かを考える。

 

助成金額 : 300万円 

助成事業期間 : 2023年1月~24年7月

実施事業の内容: 

1)啓発講座

① 企業向け研修

1.九州内のグループ企業A社にて「ヘルシーリレーションシップ」

2023年12月21日(木)9時から10時半

A社本社研修室 対面及びZOOM Meetingにて実施

対面参加 35名 オンライン及び録画参加25名

2023年12月22日(金)10時から11時半

A社グループ企業会議室 対面と後日の録画視聴で実施

対面参加12名 録画視聴約50名

*講師担当 NPO法人デートDV防止全国ネットワーク代表理事 中田慶子

 

2.デロイトトーマツグループ社員対象「DV・デートDVの現状と予防の重要性」

2023年12月11日(月)12時から13時 オンライン 参加346人

*講師担当 NPO法人デートDV防止全国ネットワーク事務局長 阿部真紀

 

3.デロイトトーマツ高畑氏を講師に、企業の取組についての勉強会「今、企業がDV施策を推進すべき理由」を会員向けに開催した。

2024年2月2日(金)19時から20時15分 参加者20人

 

 障害福祉施設およびLGBTQコミュニティ向け

2023年11月28日(火)大阪QWRC LGBTQコミュニティ向け 6名

2024年4月7日(日)横浜SHIP LGBTQスタッフ向け 4名

2024年5月25日(土)横浜SHIP LGBTQコミュニティ向け 4名

2024年7月4日(木)京都ALBUM 障害福祉施設利用者向け10名

 いずれも講師は、阿部真紀および高島菜芭が担い、デートDVの実態、境界性、性的同意、カードゲーム等を実施した。

 

③ 国会議員向け(院内勉強会)

DVの社会的コストと予防教育の効果~すべての子どもたちにデートDV予防教育を~

 2024年6月6日(日)13時45分から14時45分 衆議院第一議員会館第5会議室にて 参加者30人(うち国会議員4人)後日録画配信も行った。

 中央大学商学部教授武石千香子氏による「DVの社会的コストについて」講演他、「デートDVの実態と予防教育の必要性」「デートDV予防教育の効果測定調査報告」「生命の安全教育の現状と課題」「家庭法改正後、求められる予防教育」について当団体理事が講演した。

 

2) デートDV防止スプリング・フォーラム2024「ここから始まるヘルシーリレーションシップ~対等で大切にしあう関係をあたりまえに~」

2024年3月10日(日)10時から17時 オンライン 参加者157人

<午前の部>

行政説明:内閣府男女共同参画局、文部科学省、警察庁

基調講演:「自分らしく生きるためのヘルシーリレーションシップ」シオリーヌ

ユースプロジェクト報告:カードゲーム制作

<午後の部>

講演:「今、企業がDV施策を推進すべき理由」デロイトトーマツ DEIグループ 高畑有未氏

講演:「発達がゆるやかな人に伝えるデートDV予防教育~放課後等デイサービスAngeの性教育の実践から」徳洋福祉会 郡奈美氏

講演:「多様な性の視点から考えるヘルシーリレーションシップ」一般社団法人fair 松岡宗嗣氏

参加者とのオンライン交流会の後、大会宣言、終了。

 

3)ユースプロジェクト カードゲーム「サチヨと恋バナ」の制作

2023年9月~2024年5月

 カードに書かれたお題に答えていくことで、対等な関係性が構築できるカードゲームを制作した。ユース世代へのヒアリング30人以上、またテストプレイ5回以上を行い、内容を吟味し、200部を制作し、ユース団体等に配布中。

Kaida SJF

 

4)報告書の作成

 本事業の報告書を作成、500部を印刷し、会員や関係機関に配布した他、HPに掲載した(sjfhokoku.pdf (notalone-ddv.org))。

 

   

助成事業の達成度:

 計画をほぼ達成することができた。

 企業向けに関し、当初のアプローチでは、DVは個人の問題であるから企業は扱わないとの返答が多く苦戦したが、企業こそDV施策に取り組むべきというデロイトトーマツグループに出会うことができ、先駆的な取り組みをスプリング・フォーラムで一般にも知らせることができた。また、九州の企業でも研修を実施し、好評を得ることができた。

 LGBTQコミュニティ向けには、大阪のQWRC、横浜のSHIPと連携し、小規模ではあるが対等な関係について深く話しあうことができた。

 障害者施設については、何件も断られ実施先確保に難航したが、カードゲームをリリースしたところ、京都の作業所から依頼が入り、新たな連携が生まれた。

 国会議員向けの開催も苦労をしていたが、家族法の改正を受け予防教育の必要性を伝える勉強会を開くことができた。本会議や委員会がある中で、4人の国会議員が駆け付けた他、録画を議員や秘書に共有することができた。

 デートDV防止スプリング・フォーラムでは、ヘルシーリレーションシップというテーマで完全オンライン開催し、150名を超える参加者を得ることができた。企業の取組、障がいのある子どもへの取組、LGBTQの取組等を報告した後、参加者との意見交換の場も作ることができた。

 カードゲームは、試行を繰り返した後完成することができ、プレスリリースしたところ多くの問い合わせをいただいた。特にこれまで関連のなかった婚活を進める企業や自治体からの連携が生まれ始めている。

 

助成事業の成果:

<企業との連携の成果>

 DVは個人の問題であり、企業が取り組むことではないという意見も多くあった中、研修を実施できた九州の企業では、80名からの感想が寄せられ、企業でもDVの研修が必要であり、子どもへの影響の深刻さについて学んだ、職場での関係や家庭の子どものデートDVについても目を向けたいという感想が多くあった。

 デロイトトーマツグループの社内研修では、DVの社会的コストについて伝え、デートDVが若年層にとって大変身近な問題であるからこそ予防教育の大切さを300人を超える社員に伝えることができた。さらに、「会社は社会の縮図であり、社内にも被害者がいるはずであり、企業がDV対策を行うことは、経営戦略でもある」と考えるこの企業の考えを、スプリング・フォーラムに広く知らせることができたことは、日本社会に潜在するジェンダーベースドバイオレンスであるDVやデートDVへの気づきを広げるきっかけになったと考える。

 参加者からは、「企業に働く人へDVが知られるようになることは、個人の問題ではなく社会の問題であるという認識が社会に広まる大きなきっかけになると思う」などの感想が得られた。

<LGBTQコミュニティや障害福祉施設への啓発>

 デートDVやDVは、同性愛のカップルや障がいのある人同士のカップルでは、特に他の人に相談しにくいという背景があることから、深刻になりやすい傾向がある。とても繊細なコミュニティに対してであったが、スタッフとの綿密な事前打合せの上「ヘルシーなパートナシップを築きかた」と題し、カードゲームも取り入れながら、ワークショップを実施することができた。今回の取組をきっかけに、LGBTQコミュニティや障がいのある人向けに、啓発を広げることは、差別を受けやすく、被害が深刻になりやすい人たちが傷つけられた尊厳を回復することに繋がっていくと考える。カードゲームという新しい手法も大変有効であることも確認することができた。

<国会議員への啓発>

 中央大学武石教授により、日本社会におけるDVの社会的コストが年間6.7~11.2兆円と推計されることを報告することができ、この膨大なコストをなくしていくためには予防教育が効果的であることを国会議員に伝えることができた。台湾では、3つの法律により、子どもたちが毎年20時間の予防教育が義務付けられていることも紹介し、日本の法制度を整備していくことを要望することができた。一筋縄ではなかなか難しいが、ジェンダー平等のためのデートDV予防教育が法制度化されるための一歩前進だと考える。

<デートDV防止スプリング・フォーラムの成果>

 デートDVは深刻な人権侵害であり、デートDVについて社会全体に啓発することは、ジェンダー平等社会の実現やDVや虐待など暴力の連鎖が起きない社会の構築に寄与する。しかし、デートDVという言葉がどうしても他人事として捉えられる傾向があることから、逆に「ヘルシーリレーションシップ」という言葉でジェンダー平等であり対等な関係を啓発することを試みたいと考えた。「ヘルシーリレーションシップ」をテーマにスプリング・フォーラムを開催し、各講師にも講演いただくことができた。

 デートDVについて学校現場での予防教育だけでなく、企業の人、障がいのある人、LGBTQコミュニティにも啓発していくことの必要性と有効性を多くの人に報告することができた。

<ユースプロジェクト「カードゲーム」について>

 カードゲームを制作するプロセスの中で、大阪や首都圏のユース団体が参画し、一堂に会し、協力を得ることができた。

 カードゲームの中では、カップルが交際の初めから互いの価値観や感覚の違いや性的同意の大切さについて、気軽に話し合い、気づきあうことが組み込まれている。話しにくいとされる性についてゲーム感覚で話しながら、互いの違いに気づくことは、最も重篤な暴力である性暴力を防止していくために有効である。

 本カードゲームについて、婚活事業を進める企業や自治体から問い合わせがあり、カードゲームを活用したイベントの企画が始まっている。これから結婚をしようとする人がヘルシーな関係を学ぶことがDVや虐待を防止することに繋がると考える。

 

助成事業の目的と照らし合わせた成果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。

(1)当事者主体の徹底した確保

 ユースプロジェクトとして、カードゲーム制作にあたりすでに30人以上のヒアリングを行っていたが、2月12日最終試行会を開催し、大阪や首都圏の若者16名が集まった。カードゲームを試行しながら、忌憚ない意見を出し合うことができた。

 LGBTQコミュニティにおいて3回、障害福祉施設において1回のワークショップを開催することができ、合計24人の参加を得ることができた。少人数ずつであるからこそ、繊細な話題について意見交換することができた。

(2)法制度・社会変革への機動力

 開催まで時間がかかったが、6月についに、国会議員対象の議員勉強会を野田聖子事務所の協力で開催することができた。事前に議員会館の全ポストにポスティングおよび秘書訪問などを行い、当日は本会議、委員会などがある中も4人の国会議員のほか、秘書やメディアの参加を得、さらに録画配信もすることができた。ここで、DVの社会的コストが10兆円にも上ることを紹介することができたことが、法制度や社会が変革していくためのきっかけとなる。

(3)社会における認知度の向上力

 デートDVの認知をあげるために、ヘルシーリレーションシップという新たな言葉での啓発も始めることができた。また、当団体が自主事業としてオンラインで実施した「体験シリーズデートDV予防教育」には4回で延べ200名以上の参加者を得ることができた。中には助産師の割合が多く、今後、助産師会との連携を始めていく。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 多くの日本企業がDVを個人の問題としたことに対し、企業のDV施策は経営戦略でもあるという外資系企業の取組を広く知らせることができた。九州の企業での研修も大変好評であり、こういった声を活用し、今後も学校現場だけでなく企業や様々なコミュニティに対して働き掛けていくための貴重な足掛かりを作ることができた。

(5)持続力

 団体の継続には事業収入の確保が必須だが、カードゲームについて婚活イベントでの活用が浮上してきたことは、新たな戦略としてぜひ実現させていきたい。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 日本社会の中で、ジェンダーベースドバイオレンスであるDVやデートDV、あるいは性暴力が個人の問題として他人事として捉えられること。あるいは性についてタブー視されることで、正しい知識が与えられていないこと。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

 これまで主に学校現場で生徒や教員に対して実施してきたデートDV予防教育について、企業や国会議員、LGBTQコミュニティや障害福祉施設でも実施することに意義があることを実感することができた。カードゲームという遊び感覚で啓発する手法も新たに作ることができた。この実践をさらに広め、学校だけでなくインターセクショナルなアプローチを行うことで、ジェンダーに気づき、対等な関係作りの大切さを自分ごととして広めていきたい。

(3)他団体と連携したプロジェクトのアイディア、あるいは具体的な構想、あるいは希望などはあるか。

 婚活イベントを開催する企業と、カードゲームの活用について連携が始まった。

 刑法の改正も受け、デートDV予防教育の中で、性的同意の大切さを伝える勉強会を今後開催していく。そこでは、助産師会、弁護士会との連携を促進していきたい。■

 

 

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