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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第8回助成

NPO法人 メコン・ウォッチ=SJF助成事業中間報告(2020年6月

 

団体概要 

 メコン河流域の国々(中国西南部、ミャンマー/ビルマ、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナム)に住む人々が開発の弊害をこうむることなく、地域の自然環境とそこに根ざした生活様式の豊かさを享受できることを目指し、現地の自然資源の豊かさや人々の暮らしの調査・記録、開発事業や開発政策の影響監視等の活動を行っている。

 

助成事業名日本の開発援助による被害防止のために
~JICA・JBICのガイドライン改定と適切な運用へ向けて~
  

 本事業では、日本の開発援助における、環境や社会への配慮を向上させることを目指し、日本の開発援助を主に担っている国際協力機構(JICA)および国際協力銀行(JBIC)がそれぞれ持つ「環境社会配慮ガイドライン」の適切な運用を促進し、その改訂にあたり、基準が強化されるよう働きかける。

 

事業計画 

計画1)ガイドラインの適用に問題があった事例の教訓化

当団体が継続してモニタリングを行っている上述のミャンマーやベトナムの案件に加え、人権侵害や環境破壊が起きた案件をまとめ、分析を行う。

 

計画2)JICAやJBICとの協議

1でまとめた事例を用い、JICAについては主に、JICA環境社会配慮助言委員会での議論に参加。同様の委員会がないJBICに関しては、監督官庁である財務省とNGO間の定期協議会で問題提起・議論をする。その他、適宜メールや書面、面談で、運用の問題や改訂すべき点について情報提供を行い、実施・監督者の理解を促す。

 

計画3)改定に影響を与えるアクターへの働きかけ

開発援助政策の決定に大きな役割を果たす国会議員に情報提供し、問題が発生した場合、監督官庁に対して働きかけてもらえる下地を作る。

日本の市民およびメディアに適宜情報を提供し、開発援助の問題やガイドライン強化の重要性について世論を醸成する。

(変更)市民向けの情報提供については、対面でのセミナー開催を想定していたが、ウェビナーへ移行する。

 

計画4)日本/海外のNGOとの情報共有と協働

改訂においては、海外の市民社会からのインプットが重要である。メコン河流域の市民社会へ、ガイドラインの現状や問題案件を共有、改訂へのコメント提出を促す。

(変更)当初、タイまたはミャンマーに出張し、情報交換とガイドラインに関する小規模な講習会の開催を予定していたが、コロナウイルス感染拡大の影響で、今年中の海外出張は難しいと予想され、メールやインターネットを利用した情報交換の会議に切り替える。

 

助成金額 : 100万円

助成事業期間 : 2020年1月~2020年12月

実施した事業と内容:  

計画1)ガイドラインの適用に問題があった事例の教訓化

6月までの間に、当団体がモニタリングを行なっているミャンマー、ベトナム案件に関し、ガイドラインの適切な運用が行われるよう、以下の活動を実施した。

  • JICAが出資及び融資するミャンマーのティラワ経済特別区(SEZ)の事業では、2014年に、ガイドラインに基づく異議申立制度を使い、被影響住民がガイドラインの不遵守を指摘した。なお、JICAの現行ガイドラインおよび異議申立手続要綱はそれまでのものを改定し2010年から施行されているものだが、この異議申立ては現行の施工後、初めての案件であった。第三者として判定する審査役が受理後に現地調査等を行い、その結果、違反は認められなかったが、影響住民の生活改善について、いくつか提言が出された。
    その一つが、住民への共有地提供であったが未だ実現していない。この点につき、「ミャンマー・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業のフォローアップについて」と題した書簡を審査役に2/19に送付。JICAが提言を実現するよう、審査役が引き続き情報収集・状況確認を行い、理事への提言を行うこと、また、2019 年度の異議申立審査役年次活動報告書を含め、市民社会に対するより具体的な説明をするよう求めた(添付文書1)。
  • 同じくティラワ事業では、2020年2月に現地訪問したところ、新規開発地域(移転区域2-2西部)で、まだ13世帯が移転に合意していないにも関わらず家や農地の至近で工事が始まり、住民の通行に危険が及んだり、土埃や騒音など劣悪な環境で生活せざるをえない状況が確認された。また、ミャンマー政府(ティラワSEZ管理委員会)からは、立ち退いていない世帯に対して脅迫とも取れる通知書が出されていた。これらは、ガイドラインの不遵守が疑われる状況であった。この状況を受け、JICAに現状確認とミャンマー政府が住民と丁寧な合意形成を行うよう働きかけるべきと要請したが、ミャンマー政府の対応は強硬なままだったため、再度JICAに対し抗議文(添付文書2添付文書3)を送付、結果、予断は許さないものの、現時点まで強制収用は回避できている。
  • JBICが2月下旬に、ベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業について公式に融資検討を開始したことを受け、同案件についての意見交換をJBICとしている。3月と5月の会合で、JBICは住民移転計画および生計回復計画の有無と入手状況について回答しなかった。これはガイドラインで、JBICが確認しなくてはいけない事項となっている。また、ガイドラインでは、「環境レビューのアカウンタビリティ及び透明性を確保するため…環境レビューに関し重要な情報につき、環境レビュー期間中に…公開する」と規定されており、JBICが移転や生計回復に係る情報を回答しないことは、明らかにガイドラインの不遵守であった。
  •  こうしたJBICのガイドライン運用の問題について、6月に開催されたNGO財務省定期協議会において提起し、財務省の監督責任を問うた。また、同協議会に出席し部分的に回答したJBICから、ガイドラインの別の文言についてNGOとは違う解釈をしていることが露見したため(第2部1(1)「…環境への影響について、できる限り早期から、調査・検討を行い、これを回避・最小化するような代替案や緩和策を検討し、」)同案件については、「環境への影響」には「地球温暖化」もあり、それを回避・最小化するような代替案や緩和策が検討されていなくてはならないはずだと指摘した。このように問題は現在進行形で、それぞれについて要請書や個別会合の議事録などで記録を積み重ねている。改定が開始されたら適宜その情報から提言書などを作成していく。

計画2)JICAJBICとの協議

  • JICA環境社会配慮助言委員会にスタッフが委員として出席。ガイドライン改定に向けての包括的検討の議論に参加。8テーマについて開催された関連委員会のうち、以下4テーマに参加し、住民移転時の補償の確認の強化等を意見した。((3)国際基準、審査方法、(5)人権、ステークホルダージェンダー、(7)自然生息地、(8)住民移転、先住民族)議論の内容は、今後、ガイドライン改定を議論するために設置される諮問委員会に送られることになる。
    改定に関連する議事録等詳細はこちらに掲載されている。
  • JBICにガイドライン改定に向けたスケジュールを確認、現在の予定では8月までにJBICがレビューを終了し、9月にその結果を受けての公聴会が開催される予定で、そこで意見を述べる機会があることを確認している。

 

計画3)改定に影響を与えるアクターへの働きかけ

  • 改定プロセスが当初予想したよりも遅く、今期は活動していないが、昨年発出したNGO提言を元に、参議院・政府開発援助(ODA)等に関する特別委員会(2020年3月19日)でミャンマー、ティラワの事例が言及された。

 

計画4)日本/海外のNGOとの情報共有と協働

  • 海外NGOへの情報提供:2月にミャンマーをスタッフが訪問した際、JICAガイドライン改定の進捗についてEarthRights International等に情報提供した。
  • 日本のNGO間での情報共有:少数民族/先住民族の権利とFree, Prior and Informed Consent (FPIC)、また、森林やパーム油の認証制度におけるFPICの確認について、6/5、 12の2回にわたり勉強会をインターネットの会議システムzoomで開催、延べ31名の参加があった。(講師:市民外交センター上村氏、木村氏、Rainforest Action Network川上氏)

 

 

助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望   

【Ⅰ】次の5つの評価軸※)それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。

※この評価軸はソーシャル・ジャスティス基金がこれまでの助成事業の成果効果を分析した結果、アドボカシーを成功に導く重要な評価軸として導出した。

(1)当事者主体の徹底力
 本活動は、日本の援助機関(JICA、JBIC)の持つ環境社会配慮ガイドラインの水準の維持・強化を通し、被援助国の被影響住民の人権や生活を守ることに資する活動である。
このガイドラインはただあるだけでは実効性は担保されず、その遵守と向上に関し、モニタリング→問題指摘→適切な運用→基準強化→モニタリングというサイクルにおいて、市民社会がどれだけ関与し、現地政府以外からの情報を日本の援助機関や関係者にインプットできるかが鍵である。

(2)法制度・社会変革への機動力
 「ガイドライン」という制度は既にあるものの、運用上の問題が多く見られ、(1)で述べたように、ガイドラインの実効性には「サイクル」に市民社会がどれだけ関与するかが鍵である。
しかし、世論は、経済特別区は必要で、日本の石炭火力発電技術は質が高く輸出することは問題ないことだと信じているとみられる。影響住民が直面する状況を、より多くの市民に「自分事」として捉えてもらう必要がある。人権や環境、民主的なプロセス、援助は誰のためなのか―について人々の意識が上がれば、世論が変わるはずである。
当団体では、ガイドラインは勿論のこと、国際援助の現場で起きている問題や人権・環境問題の情報をメールニュースやフェイスブック等で発信しているが、世論形成までには至っていない。

(3)社会における認知度の向上力
 同様の問題意識を持つNGOとは情報交換を継続できており、また、勉強会の開催でネットワークが強化されていると見ている。しかし、一般社会への認知を広げる点は課題である。本事業では、ウェビナー開催、メールニュースの発信に取り組む予定であるが、特定の援助機関の専門的な内容でもあり、一般の方の関心の高い課題ではないため、どのような話題でウェビナーを設定するかは検討中である。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
 ガイドラインについて一定の建設的な議論ができる状態にない相手とは、他団体とも連携しながら、対話の機会を増やし、関係を維持するよう努めている。

(5)持続力
 当団体を含むNGOのネットワークでは、20年かけ、環境社会配慮ガイドラインという一般にあまり知られていない制度の構築と運用の監視に取り組んできた。活動するメンバーは変わったが、知識や経験は一定継承されており、日本の経済開発による人権侵害をある程度防いできたと自負している。しかし、このような地道な活動を今後も長く続けることには資金面を含め課題が多い。
NGOに関わる多くの人たちにその存在を知ってもらい、活用を促すことが課題であると考えている。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

開発に関わる人の中でも一般にも、現地の人たちも当然、日本のような経済・社会構造になりたいと思っている、という見方が一般的であることと、既に産業構造や社会が変わった日本の多くの人にとって、第一次産業やコミュニティを重視したいという影響住民の希望はおそらく共感しにくくなっていること。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
 ガイドラインは、現在の経済の枠組みの中で大規模インフラ事業をよりよく進めるためのものであり、問題の根本原因かもしれない現在の経済システムを温存させる側面も持っている。しかし、目前で起きる人々の暮らしの破壊を軽減することにガイドラインといった制度強化は重要な役割を果たしており、そこに市民社会の参加スペースを維持し続けることは重要である。
一方、日本でも、環境や社会に対する価値観の揺らぎがみられる。海外開発の現地で得た人々の思いや世界観について伝え、日本で別のあり方を模索する人たちに情報を提供する一助にもなればと考えている。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
ガイドラインに関しては、各イシューの中で、それぞれの分野で活動するNGOや研究者と協力していくことが有効と考える。
また、開発を実施する中でも、ジェンダー平等、意味のある住民参加、少数民族の権利、気候変動対策強化を通し、開発の意義自体もより深く問われるようになった。開発の現場で暮らす人々と引き続き協力し、各地の多様な価値観を日本の学生や一般に伝えていく。
課題は日本の大学や、SNSを活用した情報発信に長けたグループとの連携をどう効果的に構築していくかだと考える。

 

今後の事業予定:
2020年7月-9月
・ NGO間のzoom勉強会開催。ジェンダー平等の国際動向、開発の中でのジェンダー配慮について。
・ NGO、研究者、ジャーナリスト向けの勉強会(→当初予定の対面形式からインターネットを利用する形式に変更)
・ JICA環境社会配慮助言委員会出席
・ メコン河流域のNGOと公的資金による開発事業について情報交換
2020年10月-12月
・ ミャンマー/タイNGOとの意見交換・勉強会開催(→当初予定のスタッフが出張しての対面形式からインターネットを利用し個別での情報交換に変更)
・ 日本での市民向けウェビナー開催(→当初予定の対面形式からインターネットを利用する形式に変更)

通年(適宜)
・ NGO財務省定期協議で問題提起・議論
・ JICA、JBICへ書面での意見の提出、面談での議論
・ 国会議員への情報提供
・ 当団体のホームページやメールニュースで事例や改訂プロセスに係る情報発信

 

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