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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第8回助成最終報告

特定非営利活動法人監獄人権センター(2021年6月)

団体概要

 拘禁施設内の人権侵害の事実を調査し、国内外に公表する。
 必要なケースについては弁護士による助言、訴訟提起などにより個別的な救済を図る。
 刑事拘禁に関する国際人権諸基準を研究し、紹介しながら人権条約の批准を求める。

 

助成事業名・事業概要

重い罪を犯した人の社会復帰と刑罰のあり方~無期刑・終身刑に関する政策提言

 日本でも、超党派の議員連盟において死刑制度が廃止された場合の代替刑の検討が始まるなか、「仮釈放のない終身刑」の是非が国際的な問題となっている。犯罪者を「更生の可能性がない人間」と見なし、社会との繋がりを生涯絶つというこの刑罰の実態を調査・研究したうえで、運用のあり方に疑問を呈し、国連の国際基準の改訂にもNGOの立場から関わるピナル・リフォーム・インターナショナル(PRI)のメンバーを講師に招いたシンポジウムの開催、日本の無期懲役に関する映像のオンライン上映・講演と参加者との対話、重い罪を犯した人の社会復帰について問題提起するキャンペーン、法務省・国会への政策提言等を通じ、無期刑・終身刑の望ましいあり方について提案する。厳罰化を求める世論の高まりが顕著な日本において、統計等の根拠に基づいた正しい情報を市民に提供したうえで、重い罪を犯した人の社会復帰と刑罰のあり方を議論し検討する。誰もが排除されない、生きる希望のある社会づくりに貢献する。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2020年1月~21年6月

事業計画 : 

A)日本の無期懲役に関する映像のオンライン無料上映と講師(映画制作者、元受刑者等を想定映像制作者)による講演・ディスカッションを行い(年21~2回、100名程度の参加を想定)、重い罪を犯した人の更生の可能性について、参加した市民とともに考え議論する。

B)世界の刑事司法制度の改革に取り組むイギリスのNGO、ピナル・リフォーム・インターナショナル(PRI)のメンバーを講師に招いたシンポジウムを開催し(年1回)、国際基準としての終身刑のあり方を学ぶ。

C)法務省、国会に対して、罪を犯した人の社会復帰が可能な刑罰の検討と、無期刑のあり方、終身刑が導入された場合にもたらす影響についての政策提言を行う。

D)A、Bの内容(講師の発言や配布資料、来場者からの意見等)を利用し、ウェブサイトやSNS、監獄人権センター機関誌「CPRニュースレター」で、重い罪を犯した人の更生について問題提起するキャンペーンを行う(年2回程度)。

E)本事業実施メンバーが2021年3月に京都で開催される「国連犯罪防止会議」に参加、サイドイベントに登壇し、国連や各国の刑事司法関係者(日本も含む)に「日本の無期刑の現状と終身刑のあり方」について問題提起・情報提供を行う。

 

実施事業の内容: 

【2020年1月~12月】無期刑、終身刑に関する報道、調査等の収集。無期刑受刑者からの手紙相談への対応。

事業計画C)【20年3月4日】国会議員、メディアを対象とする院内セミナー「国際基準から見た終身刑・日本の無期刑の問題点」を参議院議員会館で開催。IWJ https://iwj.co.jp/wj/open/archives/469206 で生中継した。

内容:終身刑に関する国際情勢、日本における無期懲役刑の実情、死刑の代替刑について考える

参加:議員8名、秘書8名、メディア5名。参加議員は「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」メンバーが中心。質問、意見も多数あり、仮釈放のない終身刑導入の問題を提起できた。

事業計画D)【6月7日】映画「ライファーズ」、「プリズン・サークル」をテーマとした無料オンラインセミナー開催。映画「ライファーズ」の上映会は前述の事情で延期となったが、同作を基に制作された映画「プリズン・サークル」がメディアで話題になり、受刑者の処遇や社会復帰に対する関心も高まっている時期であった事から、オンラインでの開催を実施した。当日の模様は編集後、Youtubeで無料公開している。 https://youtu.be/o-QucBG5S8U 

ゲスト:坂上香氏(映画監督)聞き手:海渡雄一

内容:映画「ライファーズ終身刑を超えて」(2004年)で紹介された、アメリカの刑務所で行われる「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」プログラムについて。プログラムを受けた受刑者の再犯率が低いという点について。受刑者の”人生のやり直し”について。

参加:75名(刑務所職員、弁護士、研究者、当事者支援団体、元受刑者、支援者など)。事前に多くの質問・意見が寄せられ、参加者の関心の高さがうかがえた。「共感はするのに何も出来てない自分に虚無感がある。暴力のない世界へ繋がる小さな行動を教えて欲しい」といった率直な思いも寄せられた。

事業計画C)【9月15日】国連自由権規約委員会・第7回政府報告書審査(日本に対する審査)NGOレポート(無期刑の諸問題を含むレポート)を国際人権連盟(fidh)と共同で作成し、国連自由権規約委員会に提出。

(レポートは英文)http://www.cpr.jca.apc.org/archive/report

日本語版 http://www.cpr.jca.apc.org/archive/report を国会議員10名、メディア関係者45名、市民190名に配布。

【11月11日】レポート発表のオンライン会見・セミナーを開催。国会議員(秘書代理参加含む)5名、メディア2名が参加した。当日の模様はYoutubeで無料公開している。 https://youtu.be/hVt9K5xxixA

その他)【10月6日】NHK報道局記者から依頼を受け、無期刑に関する情報提供を行った。

事業計画D)【10月10日】会員向け機関誌「CPRニュースレター」104号を発行。国連レポートの「無期刑」のパートを掲載したほか、無期刑の問題点や有識者のコメント、無期刑受刑者からの相談等をまとめて特集記事として掲載。会員のほか弁護士、メディア、市民ら約1000名に送付した。

事業計画D)【11月、12月】ツイッター、facebookにおいて、国連レポート及び無期刑の処遇のあり方に関する情報発信を行った。

事業計画B)【12月12日】Penal Reform International代表・ノッティンガム大学名誉教授のダーク・シュミット氏、ノッティンガム大学社会科学学部上級研究員のキャサリン・アップルトン氏を講師に招き、「監獄人権セミナー「国際人権基準から見た終身刑の課題:死刑の代替刑となり得るか?」」をオンラインで開催(逐次通訳)。当日の生放送は国会関係者、弁護士、研究者、メディア、大使館、市民ら約80名が視聴。

内容:法律上の終身刑の定義、世界の終身刑の状況、終身刑受刑者の「希望に対する権利」について、望ましい処遇について等。アーカイブをYoutubeで公開している。 https://youtu.be/aycS_fadSMI 視聴者からの質問をチャットで受付、沢山の質問が寄せられた。

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写真上=監獄人権セミナー「国際人権基準から見た終身刑の課題:死刑の代替刑となり得るか?」(2020年12月12日)

事業計画C)【12月16日】逢坂誠二衆議院議員、法務省矯正局との面談・意見交換を実施。9月発表の国連レポートを配布した。

事業計画A)【21年3月28日】無期刑で61年間服役して出所した高齢男性を追ったNHKドキュメンタリー「日本一長く服役した男」取材班を講師に迎え、「オンライントーク&ティーチインNHKドキュメンタリー「日本一長く服役した男」をめぐって」をオンラインで開催。弁護士、地方公務員、牧師、大学教員、学生、会社員、大使館関係者ら約75名が参加。

内容:重い罪を犯した人をテレビ番組で扱う事について、被害者への取材についての難しさや映像表現について、視聴者から寄せられた反応等について等を3名の記者から報告。後半は参加者から多数寄せられた質問に回答した。

事業計画E)【21年3月7日~12日】本事業実施メンバーが京都で開催された「国連犯罪防止会議」に参加し、国連や各国の刑事司法関係者(日本も含む)とネットワーキングを行ったほか、サイドイベントに登壇し、日本の無期刑の現状等について問題提起・情報提供を行った。同会議には全体で、全世界から5600人が参加したが、感染防止対策で4200人はオンラインで参加した。

事業計画A)【21年6月12日】布川事件元被告人・無期懲役で1996年に千葉刑務所出所した桜井昌司さん、2020年に島根あさひ社会復帰促進センターを出所したSさんを講師に迎え、「オンライントーク 元受刑者の対話」をオンラインで開催した。

内容:旧来の刑務所処遇を行う千葉刑務所と、教育プログラムや職業訓練を通じて先進的な処遇を行う島根あさひ社会復帰促進センターの出所者それぞれが自身の受刑体験を振り返り、監獄法の改正から15年を迎えた日本の刑務所は変わったのか、そしてどのように変わろうとしているのか、議論した。弁護士、研究者、学生、メディア、受刑者支援団体、市民ら約100名が参加。後半は参加者から多数寄せられた質問に回答した。当日の模様はYoutubeで無料公開している。 https://youtu.be/OE46zZD4MYI 

事業計画C)【21年6月17日】「マル特無期通達の廃止を求める要請書」を検事総長に提出した。同通達は、無期懲役刑受刑者の中でも検察庁が特に犯情等悪質と判断した者について、相当長期間にわたり服役させる目的で、本人の仮釈放が検討される際に反対意見を一律に示すことを各地の検事長・検事正に求めるものである。犯した罪を反省し、更生が進んで再犯のおそれがなくなっても出所できないような仮釈放の運用は、受刑者の更生意欲を阻害し、本人の処遇に重大な影響を及ぼす可能性が高いと考えられる。今後は引き続き、検察庁に対して同通達の廃止を求めていく。

 

助成事業の達成度・成果:   

 新型コロナウイルスの感染拡大により、時期の変更はあったものの、オンラインツールを採用する等の対応を行い、最終的にはセミナー開催、政策提言ともにじゅうぶんな回数、内容を実施することができた。 

 プロジェクト内で実施したイベント(21年6月12日)のアーカイブ動画が公開早々に再生回数1000回を超え、動画を見た受刑者の家族や支援者から本人の処遇に関する問い合わせや新規入会が増加した。動画や資料は団体の資産として、今後も積極的に活用していきたい。

 院内セミナー等を通じ、本事業や弊会の活動への理解を示している複数の国会議員と日常的に連絡が取れる体制が構築されつつある。法務省矯正局との意見交換も毎年実施する予定である。

 英国大使館との連絡体制を構築している。

 NHKが無期懲役(61年服役・日本最長)で出所した男性のドキュメンタリー番組を放送する時期と重なり、情報提供依頼があったが、これまでの活動で蓄積したデータを含めプロジェクト内で収集した情報等をご説明する事ができた。また、21年3月28日開催セミナーの講師としてNHKの記者3名に登壇して頂くことができた。NHKには引き続き、刑事施設に関する情報提供を随時行っている。

 

助成事業の成果をふまえた課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。

(1)当事者主体の徹底力

 弁護士、市民だけでなく、長期刑で服役した元受刑者や支援者も関心を寄せ、活動に参加している。「CPRニュースレター」に無期刑の特集を掲載したところ、会員でない受刑者からの購読申込が増加したほか、無期刑受刑者からの手紙相談も増加した。

(2)法制度・社会変革への機動力

 院内セミナー等を通じ、本事業や弊会の活動への理解を示している複数の国会議員と日常的に連絡が取れる体制が構築されつつある。法務省矯正局との意見交換も実施している。英国大使館との連絡体制を構築している。

(3)社会における認知度の向上力

 「映画」をテーマとしたオンラインイベント(20年6月)、元受刑者が登壇したオンラインイベント(21年6月)に、本事業のテーマに元々関心がある層以外の層が参加した。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 「映画」をテーマとしたオンラインイベントに刑務所職員が参加した(20年6月)。国会議員を通じて、法務省矯正局との面談・意見交換を行った(20年12月)。

(5)持続力

 団体設立時から蓄積しているデータや経験が大いに役立っており、新たに加わったプロジェクトメンバーにも直ぐに共有できている。新型コロナウイルスの影響で延期を余儀なくされた計画についても、延期までの期間も中断することなく、情報収集や関係構築に努めている。オンラインツール等を活用し、社会情勢に即した内容でのプロジェクト実施に対応できている。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 国民の厳罰意識が高いことと、罪を犯した人や失態した人は誹謗中傷されるべきであるという国民の意識。行政、福祉、更生保護の現場で、制度化・システム化や効率化が重視されている事。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

 刑罰の本来のあり方や運用実態等を含め、正しい情報を市民に提供し、対話する。行政、福祉、更生保護の現場で、罪を犯した人の社会復帰をより良いものにしたいと考えている人達とつながりを持つ。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。

 映画、テレビ、新聞等、市民が注目しやすい分野との連携。地域生活定着支援センター、更生保護法人、社会福祉士等との情報交換。

 

関連するSJFアドボカシーカフェ:『生きる―重い罪を犯した人の社会復帰と刑罰のあり方―』の報告はこちらから

 

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