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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第8回助成最終報告

特定非営利活動法人ASTA活動報告(2021年1月)

団体概要

 2017年5月17日設立。性的マイノリティへの理解不足が原因で起こる差別やいじめ、当事者の自己否定などの問題の改善するため、延べ約30,625名の教職員・保護者・児童生徒・地域住民に対して、288回の出張授業・研修・講演会を実施してきた。(所在:愛知県)

 

助成事業名・事業概要

性の多様性を認め合う社会の実現に向けた地域ネットワーク構築事業

 本事業の目的は、LGBTなどの性的マイノリティの人権保障について、学校の教職員や保護者、自治体関係者を含む市民が互いに情報・行動連携できる地域ネットワークを構築し、性の多様性を認め合う社会の実現に向けた制度・政策提言を行うことである。

 弊法人の啓発活動はこれまで一定の成果を上げてきたものの、ダイバーシティをさらに推進するためには同性婚合法化をはじめとする社会のしくみの改善が不可欠であり、そのためには人権・多様性の理解を深めた市民が、当事者/非当事者の立場を超えて連帯することが求められる。「点から線、そして面」へとネットワークを拡大し、権利擁護者を「育てる」だけでなく「つなぎ」、さらに「動かしていく」こと、それが本事業の1年後のゴールである。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2020年1月~12月

助成事業の成果:   

LGBT出張授業」事業の成果

 LGBT出張授業の前後に行ったアンケート結果(設立当時からの累計)を比較する。中学生・高校生15,251人対象の場合、事前のアンケートでは「友人に性的マイノリティがいたら抵抗がある」と810人の生徒が答えたが、LGBT出張授業の事後では304人に減少した。また、「先生が性的マイノリティだったら抵抗がある」1,780人は579人に減少し、「家族に性的マイノリティがいたら抵抗がある」2,151人は790人に減少した。自由記述では、当事者と思われる参加者に「安心した」「自分を好きになりたい」という反応が多く、また参加者の多くが「ALLYになりたい」「ALLYになる」と書いていた。

 大学生・社会人11,010人対象のアンケートでは、「友人に性的マイノリティがいたら抵抗がある」427人は126人に減少、「同僚や上司、部下に性的マイノリティがいたら抵抗がある」583人は154人に減少、「家族に性的マイノリティがいたら抵抗がある」1,759人は449人に減少した。教職員研修の自由記述では、「生徒への対応以前に、自分自身を振り返りたい」「偏見は自分自身の中にあった」というコメントが多々見られた。また、数年前に比べると、性的マイノリティを受容できている教職員が多くなっており、担任が自ら生徒に向けて授業を行うにあたっての相談が増えてきている。また、トランスジェンダーを自認する生徒は、社会の変化に伴って声をあげやすくなってきているようである。一方で、無理解な保護者への啓発が今後の課題としてあげられる。

 

②「中部地域ダイバーシティ・ネットワーク構築」事業の成果

 ネットワーク構築(に向けた土壌の整備)の成果を定量的に示すことは難しいため、事実として2つのことを記しておきたい。

 第1に、先述のように豊明市、日進市、愛知県の事業に協力し、政策提言できたことである。特に長らく連携してきた愛知県豊明市は、県内で2例目(全国で48例目)となる「パートナーシップ制度」の導入を決定し、同年5月1日から施行された。5月8日にこの制度を使って、愛知県で初めてとなる同性カップルが誕生したことは大きな社会の変化であり、本事業も変化を起こすことに部分的に貢献できたと考えている。

 第2に、Nagoya Pride 2020において在名古屋米国領事館と連携し、「アメリカの大学留学から知る現地のLGBTQ事情」を紹介できたことは、特筆すべき成果である。ネットワークを生かして、愛知という日本の地域社会から国際的な情報を発信できたことは、アドボカシーの発展にとって意義を有する。

 

助成事業の成果をふまえた課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。

(1)当事者主体の徹底力

 当事者・当事者の親のメンバーを中心に活動している。助成事業を通してメンバーの拡大をはかるとともに、石川県の当事者とその親との連携を強化し、オンラインではあったが共同での出張事業を実現した。愛知県以外との当事者とのネットワークができたことで、当事者主体の徹底力がさらに強化された。

(2)法制度・社会変革への機動力

 連携してきた愛知県豊明市が「パートナーシップ制度」を導入した。豊明市とは引き続き協力関係を維持しており、小冊子「LGBT基本のキホン」の改訂に参加し、複数のコラムを提供した。また、愛知県日進市の委託事業を受け、出張授業を行うとともに、第三次男女平等プランに基づくリーフレット「性の多様性の基本情報」を作成した。このように、ダイバーシティの推進に向けて高まりつつある自治体からのニーズに、機動力をもって対応している。

(3)社会における認知度の向上力

 事業を行うたびにすぐに報告をウェブサイトに掲載し、積極的に情報発信することで認知度の向上に努めている。メディアへの出演や雑誌への寄稿も引き続き行っており、日本テレビ「Oha!4」に理事が出演し、「カミングアウトについて」のコメントを行った。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 本事業では自治体(教育委員会を含む)をステークホルダーとして重視し、性的マイノリティの権利擁護に必ずしも積極的でない地域も含めてアプローチしている。11月には愛知県による次期あいちビジョン政策検討調査のヒアリングに応じ、多様性を尊重する社会づくりに向けた方向性を提案した。

(5)持続力

 LGBT出張授業等は対面を前提としていたため、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、3月~5月にかけて中断を余儀なくされた。しかし、この間にオンライン(リアルタイムおよびオンデマンド)での講義やグループワークについて研修を積み重ねることで、対面とのハイブリッド方式を確立し、7月以降は従来通りのペースで持続的に事業を行うことができている。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

性的マイノリティが「いない」のではなく「見えない」存在となっていることに起因する多様性への無理解と差別

 非当事者にとっては、当事者が身近にいない(みえない)ことが意図せず差別的言動をとったり、苦痛を強いる制度が維持されたりすることにつながり、そのことでカミングアウトによって当事者が可視化されない、という負の循環が依然として継続されている。こうした構造の中で、弊法人が最も重要だと考える「大切なのは性別や国籍、身体的特徴などではなく、人格や人柄であること」が埋没している。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

共生に向けた権利擁護者(Ally)の連帯

 性というものを「個性」として尊重することが、当事者も非当事者も「自分らしく」生きることにつながるということを全ての市民が理解する必要がある。そのためには、性的マイノリティの人権保障に向けて連携し協働する地域の自律的ネットワークが継続的に機能する必要があり、本事業では弊法人を核とする、東海3県の中でのゆるやかなつながりの確保を実現できた。一方で、アドボカシーの地域間格差を是正するためには、人権保障が停滞している地域において支援・啓発活動の拠点になり得る団体や人材を育て、そこを中心に地域に根ざしたネットワークを形成することが重要であることも明らかになった。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。

市民のアドボカシー活動が十分でない地域の当事者との連携

 自治体および法曹関係者との協働に有効性がある。それに加えて、性的マイノリティに関するアドボカシー活動が不十分な地域の当事者との連帯を強化し、性の多様性を認め合う社会の実現に向けて、市民運動を担うことのできる人材の育成、および地域団体を創設する必要性が、本事業を通して浮き彫りになった。こうした地域団体が自律的・継続的に活動し、ネットワークを拡大することで個々の取り組みが結びつき、点から線、さらには面となって地域社会全体に波及していくことが期待できる。

 

 国際人権団体NQAPIA・PFLAGとの連携も続いており、アメリカと日本の保護者ミーティングを開始、2020年11月16日、12月21日と毎月継続しており、国際的な観点・違いから多くのことを学んでいる。助成事業の成果と反省を生かして、性というものを「個性」として尊重し、自分と他者を誇りに思える社会を実現できるように、引き続き邁進していきたい。 

 

 

実施した事業の詳細: 

「中部地域ダイバーシティ・ネットワーク構築」事業

・1月20日 岐阜県庁「多様な性に関する懇話会」出席

参加者:有識者・岐阜県・商工会議所など25人

・1月21日 行政意見交換会(ネットワーク構築に向けた連絡会)

参加者:行政(関市・豊明市・春日井市・西尾市など)ASTA・その他

・2月8日 LGBT成人式

後援:名古屋市教育委員会・愛知県教育委員会・豊明市など

・2月16日 ネットワーク構築に向けた連絡会

参加者:行政職員・ASTA理事・他NPO法人理事など 20人

内容:パートナーシップ制度についての勉強会

・6月28日 Nagoya Pride 2020 (オンライン配信)

出演者:ASTA・アメリカ領事館など 約10名

内容:学校あるある物語、PRIDE カーニバル、LGBTQ米国大学留学事情

Kaida SJF
写真上=「Nagoya Pride 2020」(6月28日

 

・8月9日 LGBT出張授業 IN 金沢 (オンライン開催)

参加者:北陸拠点のLGBT関連団体・一般参加者約60人

・9月5日 ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ

内容:LGBT出張授業オンライン“LGBT”をきっかけとして人権・多様性について“自分ごと”で考える対話

・9月23日 小牧市教育委員会 ネットワーク構築に向けた連絡会

内容:市民からのSOSを受けて相談

・11月10日 行政意見交換会ネットワーク構築に向けた連絡会

参加者:自治体(関市・豊明市・春日井市・日進市・西尾市・みよし市)

ASTA理事・その他NPO法人理事

・11月21日 金沢市「第4回LGBTと教育ダイアログ」登壇

主催:国連大学サステナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわ

オペレーションユニット(UNU-IAS OUIK)アーカイブ有

 

LGBT出張授業」事業(助成金を使用していない案件も含む)

・1月8日 大垣特別支援学校

・1月16日 愛知県幸田町立北部中学校 教職員研修

・1月16日 豊田市福祉部障がい福祉課 職員研修

・1月23日 愛知県立瀬戸高校 生徒研修

・1月24日 豊田みよし親子劇場 会員研修

・1月27日 名古屋市立徳重小学校+常安小学校

・1月30日 愛知県立春日井工業高校 教職員研修

・2月1日 UAゼンセン

・2月5日 あま市市民人権講座

・2月9日 三河自立サポートアクセル

・2月12日 豊明市保育士研修

・2月13日 みよし市三好丘中学校

・2月15日 名古屋市市民活動推進センター

・2月17日 愛知教育大学

・4月4日 CBCテレビ

・7月2日 名古屋市立猪子石中学校 2年生「思春期セミナー」

・7月4日 知多市 あいち男女参画財団主催 市民研修

・7月15日 私立星城高校 1年生研修

・7月27日 豊橋市市民協働推進課 市役所職員研修1日目

・8月3日 豊橋市市民協働推進課 市役所職員研修2日目

・8月23日 コロナ禍対応 LGBT出張授業(オンライン&現地)

名古屋人権啓発センターソレイユ

・8月24日 刈谷市立住吉小学校 教職員研修

・8月27日 みよし市三好丘中学校 教職員研修

・8月30日 コロナ禍対応 LGBT出張授業(オンライン&現地)

名古屋男女参画センター イーブルなごや

・9月7日 三重県津市 教職員研修

・9月9日 豊田ボランティア連絡協議会 相談員研修

・9月30日 コロナ禍対応 LGBT出張授業(オンライン&現地)

名古屋国際センタービル 名古屋市市民活動推進センター

・9月17日 三重県私立三重高校 1年生研修 1日目

・9月18日 三重県私立三重高校 1年生研修 2日目

・9月29日 豊田市 市職員研修

・10月1日 名古屋市教育委員会 矢田小学校5年生研修

・10月12日 豊明高校 生徒研修

・10月14日 名古屋市立明豊中学校PTA 保護者研修

・10月16日 豊田市 市内事業者向け研修

・10月21日 私立金城学院中学校 生徒研修

・10月28日 私立東邦高校 生徒研修(収録)

・11月5日 愛知県立緑丘高校 教職員研修

Kaida SJF
写真上=LGBT出張授業(愛知県立緑丘高校 20年11月5日)

・11月9日 岐阜大学医学部附属病院 医療者研修

・11月13日 瀬戸市教職員組合 教職員研修(オンライン)

・11月12日 豊明市 市役所職員研修

・11月16日 刈谷市立東刈谷小学校 教職員研修

・11月16日 南山大学  (オンライン)

・11月20日 岐阜県各務原市立蘇原中学校(オンライン)

・11月24日 名古屋市中村区生涯学習センター 市民研修

・11月24日 刈谷市立日高小学校 教職員研修

・11月26日 豊田市立朝日丘中学校 教職員研修

・11月30日 愛知教育大学 学生研修

・12月2日 春日井工業高校 生徒研修

・12月3日 愛知県立一色高校 生徒研修(ラジオ形式※下記の成果の項参照)

Kaida SJF
写真上=LGBT出張授業(愛知県立一色高校 20年12月3日)

・12月4日 名古屋市立工業高校定時制 生徒研修

・12月8日 豊川特別支援学校 教職員研修

・12月8日 豊川特別支援学校 生徒研修

・12月11日 愛知県立犬山高校定時制 生徒研修

・12月11日 愛知県立富田高校 生徒研修(オンライン&現地)

・12月12日 豊田市家庭科教員勉強会 教職員研修

・12月14日 愛知教育大学(同日に2回実施)

・12月14日 NTT労働組合東海支部(オンライン&現地)

・12月17日 岐阜県本巣市 人権教育主任会・教育委員会

・12月18日 椙山女学園大学(オンライン)

・12月21日 愛知県立半田高校 希望生徒と希望教職員研修

・12月23日 刈谷市立朝日小学校 教職員研修

・12月24日 安城市職員研修

・12月28日 愛知教育大学

 

 

事業計画の達成度:

 「LGBT出張授業」事業については、新型コロナウイルスの感染拡大による停滞時期があり、年間90件には届かなかったものの、オンライン実施も積極的に行い、57件の授業を実施することができ、ある程度計画を達成できた。

 「中部地域ダイバーシティ・ネットワーク構築」事業については、当初の事業計画で目指していた組織体としてのコンソーシアムの立ち上げと政策提言には到らなかった。一方で、出張授業の成果を生かして、豊明市、春日井市、西尾市、日進市、みよし市、関市、岐阜県などの自治体や市民とのゆるやかなつながりを拡充・進化できた。ゆえに、ネットワーク形成に向けた土壌整備という変更後の計画は、完全とはいえないまでもおおむね達成できたと判断している。特に豊明市、日進市、愛知県などの事業に協力する過程では、弊法人として政策提言することができた。

 また、コロナ禍で対面での事業が難しい中にあって、インターネット環境や教室備品の都合でオンライン開催や収録の配信ができない学校において、放送室を使用した「ラジオ形式LGBT出張授業」を初めて試みた。このトライアルの経験を踏まえ、今後、ICT環境が整っていない学校でも、放送室を使って事業を開催できる道筋ができた。■

 

 

 

 

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