ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第2回助成先
= 公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本=助成事業最終報告(Dec.2014)
◆団体概要:
アムネスティ・インターナショナルは、1961年に発足した世界最大の国際人権NGOです。市民の自発的な行動による人権状況の改善へのさまざまな取り組みが認められ、1977年にはノーベル平和賞を受賞しています。
日本支部は、1970年4月23日に創設され、2011年8月には内閣府より公益社団法人として認定されました
◆助成事業名:『名張毒ぶどう酒事件・奥西勝死刑囚と袴田事件・袴田巌死刑囚の再審開始を通した死刑廃止の世論喚起事業』
アムネスティ・インターナショナルは、40年以上も死刑確定者として拘禁されている、奥西勝さんと袴田巖さんの救援活動を国際的に行ってきました。今回の助成事業では、メディア、一般、議員などに向けて、緊急再審請求キャンペーンを行います。
刑事司法の問題を他人事としている市民に、両名が受けた密室の取調べや偽装すらも行われる鑑定の問題点を周知させ、そのためのメディアを最大限に活用したキャンペーンです。同時に議員にも働きかけることで、再審の可能性を広げていきます。
◆助成金額 : 50万円
◆助成事業期間 : 2013年10月~2014年9月
◆助成事業の成果・助成の効果:
死刑廃止運動を行っている、日本の市民団体は数少なく、その中でもアムネスティへの期待は高いと感じています。しかし、アムネスティの会員の中ですら理解を得られにくい人権問題であり、より分かりやすく、参加しやすい形の活動が求められています。
『約束』の映画借用料は高額でしたが、助成によって上映を実現することができ、映像の力によってより多くの方に問題をわかりやすく知ってもらうことにつながりました。
また、静岡への交通費・宿泊費を助成していただいたことで、静岡という袴田さんの地元での要請行動が可能となり、大きなアピールにつながりました。釈放は静岡地裁で決定されたため、直接的な因果関係は明らかでないとしても、影響は強かったのではないかと考えられます。
さらに、袴田さんへの関心が強い時期に実姉の秀子さんを東京のイベントに招くことができました。イベントでお話しをしていただくにも、地方からの場合は謝金だけでなく交通費もお支払する必要があります。様々なイベントを開催しましたが、助成金により多彩なゲストを招くことができ、より多くの参加者を集めることができました。
死刑廃止運動は、日本国内で停滞している状態にあります。アムネスティ会員だけでなく、より多くの人びとを巻き込んだ市民運動を展開する必要があります。アムネスティ日本の使命は、人権問題を伝え、行動する人の輪を広げ、それをつなげていくことにあります。まず伝えるという、活動の第一歩を助成していただき、大変感謝しております。
写真=他団体主催のイベントに参加した袴田さん©アムネスティ・インターナショナル日本
◆助成事業の成果をふまえた今後の展望:
袴田さんと奥西さんの事件について、まず伝えるという点を取り組むことができ、えん罪と死刑について意識喚起を行うことができました。しかし、死刑廃止という最終目標までは時間がかかると考えられます。
そこで、個人の支援を通じて、行動する人の輪を広げるために、アムネスティの活動により積極的にかかわるボランティアや会員を増やすことを予定しています。
袴田さんは、長年の拘束による精神的な病をかかえ、回復は道半ばですが、徐々に体調も良くなってきているため、東京の集会に参加するなどが可能となってきています。再審はまだ実現しておらず、再度の収監の可能性が全くないとは言えません。しかし、袴田さんが公に出て、えん罪と死刑廃止を訴えることが今後も世論に対する問題提起となります。アムネスティは、袴田さんを死刑廃止関係のイベントに招聘するなど継続して支援を行う予定です。そして、袴田さんの支援をしたいという人の輪を広げることで、死刑廃止運動につなげたいと考えています。
奥西さんに関しては、再審開始を求めるだけでなく、処遇の問題について取り組むことが必要です。現在、八王子医療刑務所に収監されていますが、手紙の差し入れが禁止されています。そのため、法務省矯正局に対する働きかけを中心に、他団体と連携して、奥西さんの処遇の現状を改善することを予定しています。
◆助成事業計画:
・2013年10月~: 奥西さん、袴田さんの再審開始の可能性状況の情報収集につとめ、推移を注視しつつ、メディアワーク開始。メディアワークに合わせ、SNSでの発信開始。
・2013年10月19日: 助成発表イベント
・2013年11月: 再審の状況次第で戦略小変更。アムネスティ他国支部との袴田さん、奥西さんキャンペーンとの連動を図る。
・2013年12月1日: 静岡での袴田さん支援大集会に参加。世界人権デー(12/10)の機会に、再審請求更なる働きかけ。
・2014年1月~: 事業継続。奥西さんに関する映画『約束』上映会。
・2014年4月~: 事業半期総括、後半戦略策定。中間期活動報告実施。
・2014年4月~9月: 事業継続
・2014年10月: 最終報告書提出
◆事業計画の達成度:
2014年3月に袴田さんが釈放されたことにより、世論の関心が集まり、その間にイベントを開催することで約600名をこえる参加者、約6万5千筆の署名を集めることができ、えん罪と死刑の問題をアピールすることができました。また、国際的なネットワークを活かし、海外メディアにも対応しました(AFP通信など)。国内では、通信社(時事、共同)、新聞各社(朝日、読売、毎日、東京、ジャパンタイムズなど)テレビ局(NHK、TBS、東海テレビ)など関係各社に取り上げてもらい、より広く伝えることで日本国内に関心を持つ層を増やすことができました。
さらに、SNSでの発信に取り組み、2013年12月のフェイスブックで袴田さんを取り上げた時は、「いいね!」数が121であったところ、3月の再審決定前は221に増え、再審決定時には430という多くの反響を得ることができました。その後も袴田さんや奥西さんの記事には、関心を持つ方が増え、常に200は超えるようになりました。意識喚起という点で、SNSを良く活用することができました。
◆実施助成事業と内容:
死刑確定者の奥西勝さんと袴田巖さん両名に共通する社会背景は、密室の中での自白偏重の強引な取調べや偽装が疑われる鑑定結果をなどですが、これが冤罪を招く根源であるにも関わらず、この問題認識がまだ日本社会で十分認知されていないことにあります。
両名の救援活動を国際的に行ってきたアムネスティとして、メディア、一般、議員などに向けて、奥西勝さんと袴田巖さんの緊急再審請求キャンペーンを行いました。
刑事司法の問題を他人事としている市民に、両名が受けた密室の取調べや偽装すらも行われる鑑定の問題点を周知させ、そのためのメディアを最大限に活用したキャンペーンです。同時に議員にも働きかけることで、再審の可能性を広げていきます。
○一般向け意識喚起
・10月12日に他団体との共催による死刑廃止についての集会で、奥西、袴田両名の再審請求の問題点を伝えました。
・映画『約束』を活用したキャンペーンを行いました。
・FacebookやツイッターなどSNSでの広報を通して意識喚起しました。
○メディア向け意識喚起
両名の再審状況を注視しながらメディアワークをしました。記者へブリーフィングを行い記事にしてもらいつつ、集会などを告知しました。静岡、三重などの地方メディアへの情報提供も併せて行いました。
○議員向け意識喚起
国会質問でこの問題を取り上げるよう議員に働きかけました。また、国会内に死刑制度廃止のための調査会を設置し、その間は死刑を廃止(モラトリアム)するように要請しました。
2013年10月から2014年2月
1 SNSでの発信開始
袴田巖さんと、姉・ひで子さんへの応援メッセージを集め、900枚以上がアムネスティに届いた。その一部を、11月19日、Facebookで紹介した。
2 袴田事件:検察庁に即時の再審開始を求める署名活動
2013年10月よりアムネスティ他国支部と協働しておこなった署名活動で、約4万人の署名を集めることができた。若林事務局長とひで子さんは、2014年1月14日に署名を静岡地検に提出し、再審が決まった後に即時抗告をしないよう要請した。
3 支援集会
2014年1月13日、静岡県静岡市葵区の総合福祉会館で、袴田事件の再審(裁判のやり直し)を目指す支援集会が開かれ、約350人が集まった。再審開始の早期実現と、袴田巖さんの釈放を求める集会アピールを採択した。アムネスティ日本支部からは、事務局長の若林が参加した。
集会では、弁護団の西嶋勝彦団長が、第二次再審の経過と、静岡地裁に先月提出した最終意見書について説明。続いて、死刑確定後に再審無罪となった元死刑囚の免田栄さんや赤堀政夫さん、また、「布川事件」で3年前に再審で無罪が確定した、杉山卓男さんと桜井昌司さんの2人が登壇し、袴田巖さんへの応援のメッセージを送った。ジャーナリストの江川紹子さんは「冤罪(えんざい)の構図と裁判官の責任」と題して、講演をおこなった。
袴田巖さんの姉のひで子さんは「こんなに大勢集まったのは初めてかもしれません。」「長い道のりだったが、ここまで来ました。どうか最後まで応援をよろしくお願いします」とさらなる支援を呼びかけた。
最後に、若林事務局長は、閉会の挨拶の中で、アムネスティに集まった全世界からの署名に触れ「世界が注目する袴田です。我々の目標は、公正な裁判を実現して、巌さんをひで子さんのもとに返すことであり、その日まで共にがんばりましょう」と会を締めくくった。
さらに、翌14日、若林事務局長とひで子さんは、約4万人の署名を静岡地検に提出し、再審が決まった後に即時抗告をしないよう要請した。今回の要請キャンペーンでは、アムネスティの各国支部の協力で、下記のとおり合計41,327名分の署名が集まった。この他、スペイン支部からは、要請の手紙が約1,000通、地検に送られた。
・オーストラリア支部 17,252名
・イギリス支部 17,048名
・オランダ支部 4,279名
・ドイツ支部 535名
・日本支部 2,213名
合 計 41,327名
4 メディアワーク
この集会と署名提出には、多くのメディアが取材に訪れた。報道は、テレビで2社、新聞では全国紙で4社が、地方紙も数社が取り上げ、社会的な関心を広げた。
5 大阪での講演会
2014年1月24日、大阪市内のエル大阪で、ジャーナリストの青木理さん講演会「なぜ、死刑を止められないのか~死刑囚の再審請求にたちはだかる壁~」を開催。難しいテーマにもかかわらず、当日は約40名の参加があった。
講演で青木さんは、日本で近年つぎつぎとえん罪事件が発覚し、無罪となり釈放されるケースもあることを紹介、それらがすべて無期懲役事件であり、死刑事件では決してえん罪が発覚しないことを指摘した。
被疑者が犯行を否認すれば決して保釈されない現状を踏まえ、日本では、「無実の時に無実を主張するのは無謀だ」と言われるほどであること、起訴された場合の有罪率は99.7%を超えること、“最良証拠主義“によって、検察側に有利(つまり有罪)な証拠のみが裁判に提出されることをあげ、日本の捜査・裁判のありかたに疑問を投げかけた。
また、具体的な事例として袴田事件のケースを紹介。有罪の証拠に疑問があることや、自白の強要があったこと、裁判が不公正であったことなど、問題点を挙げて指摘した。続いて、「なぜ死刑事件で再審が認められないのか」という点で、権力側の「過去の判決を覆すことへの遠慮」、「“死の刑罰“が間違っていたと認めることへの抵抗」、「世界で死刑廃止国が着実に増えていく中で死刑制度を維持するため、死刑えん罪事件だけは絶対に認めることはできないという強い意思」などがあると述べた。
そして最後に、袴田巌さんの再審の道を開くことが死刑制度の問題についての議論の道を開くことにつながり、もしも裁判でえん罪が明らかになれば、死刑に賛成する人びとにも、この刑罰についての再考を促すことになる、と締めくくり、正義が行われるべきであるとの熱く強い思いを示された。
2014年3月から5月
2014年3月27日(木)、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)との共催で、アドボカシーカフェ第25回「裁判員制度がなげかける死刑の情報開示」を開催した。裁判員経験者の田口真義さんとアムネスティ事務局長の若林秀樹による報告を行い、約30名が参加した。
当日、アムネスティが毎年行っている死刑統計に関する記者会見が行われたが、静岡地裁にて袴田巖さんの再審開始決定および勾留の執行停止による釈放と重なりメディアに取り上げられることができた。
袴田さんの釈放により、えん罪と死刑の問題に注目が集まり、3月から5月にかけて取材の申し込みが多数あった。
2014年6月
1 イベント
全2回シリーズ「冤罪と死刑2014」を企画し、2014年6月15日、アムネスティ日本の東京事務所にて、「冤罪と死刑2014・その1『袴田事件ってなに?~無実を叫び続けて48年~』」を開催し、約40名が参加した。袴田事件をテーマに、小川秀世さん(袴田事件弁護団事務局長)と寺中誠さん(アムネスティ日本前事務局長)をゲストに、講演と参加者の間でのディスカッションというプログラムで行った。
イベントでは冒頭に、一貫して袴田さんを支えてきた、姉の秀子さんが登壇され、巖さんの釈放当日や現在の様子などについて報告。続いて、弁護団の事務局長である小川秀世さんが講演を行い、参加者はテーブルごとに感想や意見を述べ合った。
小川さんの講演では、証拠の捏造など、取調べや裁判がいかにひどいものであったか、などについて説明があった。また、寺中さんの講演「国際人権法の観点から見た、日本の死刑制度」について話があり、グループディスカッションが行われた。
2 死刑執行
2014年6月26日に死刑執行が行われた。そのため、袴田さんの件にふれて抗議声明を発表[i]、記者会見でも多くの報道陣が集まった。
2014年7月
2014年7月5日(土)、明治大学リバティタワーにて、「冤罪と死刑2014・その2」として、映画『約束~名張毒ぶどう酒事件死刑囚の生涯~』の上映会と、作家で映画監督の森達也さん、子ども人権ファシリテータなどの活動をしている浜田進士さんによるトークを開催し、約150名の参加があった。
森達也さんは、リテラシーということを強調され、メデイア報道も人の話も、ネットの情報も一人ひとりが自分でよく吟味して考えること、またいろいろな角度から物事は見なければいけないということを述べた。
浜田進士さんは、母親が当時妊娠7カ月の毒ぶどう酒事件の被害者で、映画「約束」を見るまでは、奥西さんが真犯人であると信じていたという。事件のあったコミュニティは狭く、ほとんどの人が知り合いで、奥西さんが冤罪であるとはとても言い出せない雰囲気だったという。浜田さんはその後、生まれ育った土地を離れて自由になることで、やっと真実を見据えることができるようになったと語った。
イベントでは、7月の七夕にちなんで、再審開始への願いを求める短冊を参加者に作成してもらい、事務局でまとめて袴田さん、奥西さんへ届けた。
2014年8月
2014年8月29日、再度死刑執行が行われた。前回の執行からの間に、国連自由権規約委員会の日本政府審査が行われ、委員会から死刑制度に関する強い勧告が出された。その中で、袴田さんに関する意見も取り入れられていた。アムネスティ日本支部として抗議声明を発表し、袴田さんについても言及した。[ii]
2014年9月
2014年6月~9月にかけ、袴田巖さんの再審開始決定に対する即時抗告を取り下げるよう世界中で署名活動を実施、9月24日、集まった24,000筆の署名を東京高等検察庁へ提出。今回提出した署名は、日本支部921筆、ベルギー支部251筆、イギリス支部 22,883筆、合計24,055筆。
東京高等検察庁では、検察事務官が対応し何の回答も得られなかったが、他団体と共に現在の袴田さんの状況や、証拠の問題など申し入れることができた。
写真=集まった署名を検察庁へ提出に行く若林事務局長©アムネスティ・インターナショナル日本
今回初めての試みとして、日本支部のオンライン署名のホームページ上で英文による署名の呼びかけを行った。「Demand Justice for Hakamada:袴田巖さんの再審実現にあなたの力を!」として、2014年6月16日~2014年9月12日に署名を集め、833筆が集まった。また、この署名活動をアムネスティ国際事務局が運営するブログ「Live Wire」の記事とリンクさせた。
▽Demand Justice for Hakamada:袴田巖さんの再審実現にあなたの力を!
▽Live Wire / Seizing the momentum
◆ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第3回助成発表フォーラム2015
開催決定! =15年1月16日(開場18:00)=詳細はこちらから。
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