アドボカシーカフェ『子どもの権利と地域・自治体での取り組み』
シリーズ:「日本で生かそう!国連人権勧告」第1回 【報告】
SJFは2013年12月2日、文京シビックセンターにて、第21回アドボカシーカフェを開催しました。国際人権の主流から孤立する日本の人権政策に関する社会課題を取り上げ、私たちの身近なところから国連人権勧告を実地に活かしていく方策について、ゲスト、コメンテーター、参加者の皆様と一緒に考え、対話するシリーズの第1回目の企画です。今回は、全ての人が当事者=子どもであった唯一の人権条約である国連「子どもの権利条約」の理念に基づきつつ、誰にも相談できずに苦しみ堪えている子どもたちと自己肯定感を築いていく歩みを進めるべく、多様な視点から参加者とともに考え対話した実り多き会となりました。
◆ 主なプログラム ◆
◇ 寺中誠さん(アムネスティ日本前事務局長/東京経済大学非常勤講師)から国際人権保障体制の概説
◇ 浜田進士さん(子どもの人権ファシリテーター/子どもの権利条約総合研究所・関西事務所所長)からの提言
◇ 半田勝久さん(東京成徳大学子ども学部准教授/せたがやホッと子どもサポート委員からのコメント
◇ 参加者のグループディスカッション
◇ 登壇者との対話
◆ モデレーター 大河内 秀人(江戸川子どもおんぶず代表/SJF運営委員)
◆ 概要と映像アーカイブ ◆ (敬称略)
~ 子ども時代は楽しかったですか?子どもは好きですか? ~
◇ 子ども時代を振り返るのは大事なようだ。2人対面で、子ども時代の部屋を案内するというワークショップを実施したところ、一切の記憶が出てこず、最後に「私は、いまだに居場所がみつからない」とつぶやいた人がいた。(浜田)
~ 子どもの権利条約にこめられている子ども観 ~
◇ 子どもは存在するだけでチカラがある。岩手の被災者を訪ねた時のこと、赤ちゃんの泣き声が聞こえると、笑みを浮かべ「子どもは居てくれるだけでボランティアになる」という人がいた。(浜田)
◇ 子どもは、自ら関係を結ぶチカラがあり、本来、積極的に社会に関わっていく存在だ。たとえ、傷ついても、傷ついても、回復するチカラがある。心の傷も、誰かが、その子の気持ちに寄り添えば、子どもは自分のチカラで治癒していく。虐待された子どもの自立支援ホームを運営しているなかで出会った、1年で15cm伸びた子、丸まって眠っていたのがダラッと伸びて眠れるようになった子、施設を“うち”と呼ぶようになった子、みな安心できる居場所の大切さを教えてくれた。(浜田)
◇ 多様な子ども観があるなかで、オンブズパーソンなど子ども支援現場で働く人たちの間で、子どもの権利条約に添うように、子ども観を養成するような取り組みはなされているのか?(参加者)
◇ 自立支援ホームの職員採用では、試用期間に子どもと食事を共にしてもらい様子を見る。一人ひとりの子どもへのキャパシティの問題は、自分の子ども時代の宿題を背負っていることと繋がっていると感じている。いい子疲れしている人、過干渉など「やさしい虐待」を受けてきた人もいる。みな自分の子ども時代の相対化が大切なのではないだろうか。(浜田)
◇ 子ども観の違いを、多視点からの問題解決につなげ、立体的に問題を解き明かしていくことにつなげるようにしている。(半田)
~ 社会をエンパワーメントする子ども ~
◇ 子どものエンパワーメントとは?―自分の経験を自分で定義することから始まる。子どもは他者に勝手に○○児とラベルを張られたくない。子どもが自らの権利に気づき、自己肯定感が上がっていく過程で自らと社会をエンパワーメントできる存在だ。(浜田)
◇ 子どものエンパワーメントが上手くいくための3つの条件として、①安心できる居場所――「がんばってるな」と言ってくれる人が上下関係なく隣にいてくれる場所があること、②子どものチカラを信じて待てる人や悲しい・苦しいという気持ちをきちんと聴いてくれる人がいること、③子どもを支えるシステムが機能していることがある。(浜田)
◇ 子どもの権利を支援する仕組みとして、国際レベルでは、国連・子どもの権利条約がフランス革命から200年を経てようやくでき、アジア地域では韓国の国家人権委員会などパリ原則に基づいた動きがあるが、日本では国レベルの仕組みがなく、各自治体レベルで子どもの権利条例が制定されてきた。(浜田)
◇ 地方自治体が主導して子どもの権利条約を実施する試みの例として、奈良市では「子どもに優しいまちづくり条例」の制定が検討されている。ユニセフはチャイルド・フレンドリー・シティの九つの枠組みを提示しており、子どもの権利部局や調整の仕組み、事前・事後の施策の子どもへ影響評価、独立した子どもアドボカシ―システム等が挙げられている。(半田)
~ ジュネーブの子どもの権利委員会の勧告に基づき設置された「子どもの人権オンブズパーソン」
―「せたがやホッと子どもサポート」の事例にみる ~
◇ 声の上げられない子ども、誰にも相談できずに我慢している子どもを何とか救おうと、地域・自治体では設置されてきた「子どもの人権オンブズパーソン」制度。これは、子どもの個別救済を社会変革―制度改善につなげる仕組みだ。子どもの言いなりになることではない。子どもの“views”=意見・気持ち・思いなど様々な表現を尊重し、子どもの最善の利益のために、子どもと子どもをめぐる大人との関係を変え、救済や課題解決にあたる。(浜田)
◇ 子どもの人権オンブズパーソンは自治体の付属機関であり、相談を受け付けるのみでなく、関係機関への調査権限がある。裁判にまでいかないように、迅速に相談から調査・是正勧告まで実施し、関係者を調整することができる。豊田市の例では、いじめ被害者からの訴えにより加害者を処罰したところ加害者の方が不登校になり、子ども人権オンブズパーソンが相談機関を調査したところ似たようなケースが多かったため、被害者と加害者の両者あわせた関係調整の仕組みへの改善を進めた。(浜田)
◇ 国連人権勧告を生かした、子ども主体での問題解決を目指す第三者機関である子どもの人権オンブズパーソンのシステムは、日本の国レベルには未だない。地域・自治体では、生活圏レベルで子どもの立場に立ち、子どもの気持ちや考えに寄り添い問題解決に当たり、子どもを権利侵害から救済する公平・公正なシステムとして設置が各地で進んできた。世田谷区では、いじめ防止対策推進法に先がけ、いじめ対策をふくめた子どもの権利侵害からの救済システム「せたがやホッと子どもサポート」を設置した。世田谷区のケースの特長は、区長の付属機関であるだけでなく、教育委員会の付属機関である点であり、これにより区全体で子どもの権利侵害の事案に取り組んでいくことを明確にしている。(半田)
◇ 国レベルでは子どもの人権オンブズパーソンシステムで設置されていないことのネックは?野田政権による法案はどこまで進んでいたのか?(参加者)
◇ 「人権委員会設置法案」が野田政権の2012年11月に国会に提出されたが通過の直前で衆議院の解散により廃案となった。子どもの生活圏レベルで対応するためには、身近な自治体のネットワークをいかした子どもに寄り添う仕組みが望ましいという点はある。一方、韓国の国家人権擁護機関のように幼児期からの人権教育を全国で進めるなど国家レベルで問題解決にあたることも重要だ。国レベルでは法務省の付属機関として設置できると、地方の法務局や人権擁護局との連携が図りやすく、より望ましいだろう。(半田)
◇ 自治体での取り組みを国レベルまで広げて行くための提案として、子どもの人権を擁護するシステムができている自治体などが全国から集まる交流集会を定期的に開催するのはどうか。全国的な関心を集められ、大きなうねりとなり、システムができていないところでの設置促進にもなるのではないか。(参加者)
◇ 「子どもの相談救済に関する関係者会議」を毎年一度、子どもの人権オンブズマンや自治体職員が全国から集まって開催している。事例研究や制度改善などについて、制度ができたばかりの段階から成熟段階までについて、守秘義務のもと、情報交換する集会を開催している。いじめ自殺の案件のなかで、公的第三者機関がどのように活動できるのかというテーマを扱ったこともある。今後、「アジア子どもの権利フォーラム」立ち上げに向けて浜田さんと活動中だ。(半田)
◇ 子どもの人権問題は、子どもの貧困問題や子どもの虐待問題など全ての問題が繋がっていると思う。関係機関がバラバラだという課題に対し、子どもの権利にかかる大きな枠組みをつくり、その中で各関係機関が各問題に取り組むとよいのではないか。(参加者)
◇ ライフ・サイクル・アプローチ(ユニセフ)のように、子育ち・子育て、就学、就労、親支援など子どものライフ・サイクルに合わせた包括的な法律をつくり、大人の意識にあることだけでは漏れる子どもからの課題をも含めた施策が重要だ。(浜田)
~ 個別的なことは極めて社会的なこと ~
◇ 子どもの人権オンブズパーソン制度は、子ども自身が問題解決の主体なのだと実感できるように配慮しつつ、子どもの相談から制度改善にまで結び付け、子どもの個別救済のみでなく制度の是正や改善をし、社会変革につなげる仕組みだ。死にたいくらい苦しい思いで自分を責めている子どもに、あなた一人の問題でなく、まち全体の問題なのだよと声がけできる仕組みだ。川西市の子ども人権オンブズパーソンに相談に来る子どもに共通する課題点としても、その子の個人の問題として考えられていて周囲との関係を変えることに注目せず自分で自分を責めている点や、関係機関が苦しんでいる子どもと連携がとれていないという点がある。(浜田)
◇ 子どもたちに、どのような救済システムがあるか、もっと知らせるとよいのでは。子どもが自分でアクションを起こすとは、どのように出来るのか広報するとよいのでは。(参加者)
◇ 家族と子どもの関する事案に弁護士として携る中で、当事者の大人が自分たちで解決することが難しい事例に多く出会うが、子どもの頃から、自分たちで問題を解決できるスキルをアップする必要性を感じている。(参加者)
◇ オンブズパーソンによる自己発意案件で、アドボカシ―機能を発揮し、個別の問題から区のみんなの問題としてあつかい、システムを是正していったケースがある。このプロセスに関わった子どもは、自分の問題が公の大きな問題として扱われ、自分自身もエンパワーメントされたという浜田さんの調査がある。(半田)
◇ 性暴力の被害者支援にたずさわっているが、被害を受けた子どもへの対応が早いほど回復が早いと感じている。被害者が小さい子で、まだ自らは相談出来ない場合には、周りで気づいた人が速やかに対応できるようなシステムをオンブズパーソンにも考えてほしい。(参加者)
◇ 性被害から立ち上がってきた子どものパワーを感じている。子どもに分かりやすいパンフレットの作成などはしているが、子どもにとって、“知る⇒分かる⇒使える”の各ステップ間にはギャップがあり、使えるまでにたどり着くまでの周りの人の存在が重要だ。イギリスでは、2・3歳から性暴力へのSOSが出しやすい研修をしている。川西市では、人形劇やビデオによる広報や、子ども同士の“わかった!”“使えた!”という口コミなどにより、オンブズ制度ができて5年を経て子どもからの相談が大人からの相談を上回った。(浜田)
◇ セクシャル・マイノリティや移住労働者の子ども等、マイノリティへの理解や対応は実際にどのように行われているのか。(参加者)
◇ 条例の改善に取り組む中では最大公約数的な課題を取り上げている事は否めない。しかし、多文化・多様な子どもたちの課題について、自己発意案件として制度改善を進めたり、全国研究集会で特に困難な子どもの課題として取り上げたりすることで、より主流な課題になるように努力していきたい。(浜田)
~ オンブズパーソンと出会った子どもたち―問題解決の主体としての子ども ~
◇ 子どもの最善の利益の観点から、子どもと一緒に考え、大人が解決策を示すのではなく、子ども主体で問題を解決していくための第三者機関として子どもの人権オンブズパーソン制度がある。(半田)
◇ 子どもがやりたいということを、周りがサポートしてあげるとモチベーションが高まると思う。また、学校以外で幅広く人と接する場があるとよいと思う。(参加者)
◇ 単発的な子どもとの個別相談だけでなく、常設で子どもが思いのたけを語れるような自助スペースがあるとよいと思う。(参加者)
◇ プレーパーク、自立援助ホーム、チャイルドラインを、世田谷区では全国に先駆けて設置している。さらに、子どもの人権を擁護する公的第三者機関である「せたがやホッと子どもサポート」には、子どもの人権の関係機関の橋渡し的役割もあり、各機関を視察し課題を話し合ってきた。「せたがやホッとサポート」は、子どもの最善の利益のため、関係者を裁くのではなく、共に考えていく機関であり、“見守り期間”を条例で設けているのが特長で、苦しんでいる子どもに地域の中で居場所をつくり、そこと連携して見守っていく期間を設定している。また川西市のように、子どもの相談機関と居場所を併設している自治体や、小学校の社会科見学にオンブズパーソンが参加するケースもある。(半田)
◇ 問題解決に取り組む子どもに、解決までのタームなどの情報を示すなど、解決までのスケジュールを透明性の高いものにするとよいと思う。(参加者)
◇ 子どもたちが情報にアクセスし、問題解決の主体になるというのは、日本の民主主義を徹底することの一つだとの観点から、ネットワーク作りをすすめている。(浜田)
◇ 虐待を受けて施設にはいった経験があるが、施設の同期で大学へ行けた人は少なく、就職も難しい人の例も多くみてきた。日本の政府には、お荷物のような子どもの問題にもちゃんと投資して、将来ちゃんと税金として返してもらった方が国益につながると言いたい。(参加者)
◇ これまでの活動で解決に至った例や成功例は?(参加者)
◇ オンブズパーソンは子どもに“こんな選択肢があるよ”“必要なら学校の先生に会うよ、加害者の友達に話すよ”と問題を整理するが決めつけることはなく、子どもは、自分がどこに訴えても無視されてきた問題がオンブズパーソンによって初めて動き出したことにより大きくエンパワーメントされる。解決した子どもに“最後にいいたいことある?”と尋ねたら、“今度何かあったら自分で解決する。でも、仲間になにかあったらオンブズパーソンを紹介する”と言ってくれた。また、学校で体罰を受けた子どもの“3年たっても先生あやまってくれへん”という話をじっくり聴いたところ、教師の謝罪は子どもの心に届いていず、本当に子どもが求めていたのは、体罰の事実認定ではなく、“僕のこと大事にしてほしい”“何も考えないでよかったクラス=日常に戻りたい”ということだとわかった。子どもの生きづらさに対し、カウンセリングワーク、ソーシャルワーク、オンブズワークをあわせて関係再構築をしてきた。(浜田)
◇ 子どもにとっての感じていることを語ることの重要性を感じている。子どもの声を施策につなげるようなアドボカシ―機能を子どもの人権オンブズパーソン制度がどう果たしていくのかは今後も課題だ。(半田)
◇ 地域や自治体で子どもに寄り添い、現場の問題にかかわっている人が、国際的な人権問題について、実際に動かして価値を流し込んでいる様子がうかがえて大変良かった。(寺中)
◆ 次回アドボカシーカフェ ~参加募集中~
『「慰安婦」問題って、なんでこんなに話題になってるの?』
シリーズ:「日本で生かそう!国連人権勧告」第2回
12月17日(火)18:30- 於 文京シビックセンター4階
詳細やお申込みはこちら ◆
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