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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第65回開催報告

若者の妊娠葛藤の背景にある社会課題

~相談支援から見えてきたこと、市民のみなさんとできること~

 

 2020年8月3日、松下清美さん(ピッコラーレ相談支援員・理事/社会福祉士)と、細金和子さん(慈愛寮元施設長)をお迎えしたアドボカシーカフェを、SJFはオンラインで開催しました。
 

 若年妊婦の中には「申し訳ない」と自分を責める人や「野良妊婦」と自己否定する人が多くいます。そういった気持ちはどこからくるのでしょうか。その人の今は、その人だけの問題ではなく、社会の問題が組み合わさってそうなっているのだと松下さんは強調しました。

 若年妊娠を自己責任とみなす不十分な社会支援や医療保障のシステムのなか、独りで産み、子の命を絶ってしまった人たちは、安心できる居場所がなく、暴力、貧困、社会的排除の中で生きてきたケースが多いことが、相談支援事業の中で浮き彫りになっていることが提示されました。親権の壁があり、たとえ親に伝えられない事情を抱えた10代の妊娠でも、本人の意思で対応できない問題も指摘されました。

 妊娠出産期の手厚い支援は幼少期からのトラウマを回復させる重要な支援であり、妊娠をきっかけに、本人が考えて選択した道を自分の人生が豊かになる成長につなげる支援が望まれました。虐待されていたという認識や暴力等で無力化されていたという認識は、守られた状態になって初めてできることであり、自分のことを考えられ、今後のことを具体的にイメージできる安心な場と時間を保障することの重要性が、「projectHOME」や慈愛寮からでの取り組みをもとに提言されました。

 行き場のない若い女性の性を搾取する日本社会のなかで、「あそこに行けば何とかなる」と思えることが力になっています。居場所とシェルターの公民ネットワークが要請されるとともに、ハードルの高い行政の相談窓口へ同行する支援の必要性や、性教育に限らず自分の体のことを知り自分の生き方を決められる教育の重要性が話されました。

 「過酷な環境を生き抜いてきた力を、妊娠をきっかけに自分の幸せのために使って」との願いが語られました。「話を聴くよ」と受け止めてくれる人がたくさんいるということを伝えていきたい、「あなたは絶対ひとりではない」ということがもっと世の中に広まっていけばいい、SOSを出せる場所を発信し「助けてほしい」と言える社会にしていくことが重要なのではないかとの声が寄せられました。

 詳しくは以下をご覧ください。  

※コーディネータは、佐々木貴子(SJF運営委員)

 

――松下清美さんのお話―― 

 今日はみなさんに若年妊婦の人たちがどういう人たちなのかを体験していただく時間にしたいと思います。ピッコラーレの活動や、相談者のデータなどは、簡単に紹介するにとどめ、グループワークで紹介するケースをみなさんに考えていただくことで、若年妊婦はどういう社会課題を抱えているのか、どういう社会資源が必要なのか、どうしたらこの人たちの存在を可視化することができるのかを考えていただきたいと思っています。

250SJF20190723(松下清美さん出演)

 

 まず、若年妊娠についてデータからどのようなことが見えるのか、私たちの窓口にどのようにして彼女たちがつながるのかについてお話したいと思います。 

 私たちの妊娠葛藤相談窓口は、2015年12月に「にんしんSOS東京」として開設しました。その後、2018年7月に「にんしんSOS埼玉」、2019年1月に「にんしんSOSちば」という窓口を、それぞれ埼玉県、千葉県から受託して開設しています。2020年1月からは、東京都より「特定妊婦に対する産科受診等支援」を受託し、東京都が開設している「妊娠ほっとライン」につながった妊婦のうち、主に、医療機関や行政になかなかつながることができず、同行支援が必要だと思われる方たちの支援を引き受けています。

 

若年妊娠の問題を可視化する白書作成事業

 妊娠葛藤相談窓口に寄せられる声を聞くことによって見えてきた課題解決に向けての取り組みとして、現在、相談窓口の他に、3つの事業を展開しています。

1、「調査研究・政策提言」妊娠葛藤を社会課題として可視化するための白書作成

 若年妊娠の背景には、何があるのか。そもそも妊娠葛藤とはどういうことなのかを、相談窓口に寄せられる相談者の声をもとに、データ化し数量的にも可視化できるものを目指し、12月発行の予定で作成中です。

2、「project HOME」居所なし妊婦への安心・安全な居場所づくり

 ネットカフェやSNSで知り合った男性宅から相談してくる人も少なくありません。経済的な貧困や関係性の貧困を抱えている妊婦が安心・安全に過ごすことのできる場所は、現在あまりありません。それなら、自分たちで作ろうと「project HOME」を立ち上げ、居場所を確保し2020年8月現在2名の受け入れを行いました。

3、「研修・啓発」

 妊娠葛藤相談窓口や相談支援員は、まだまだ不足しています。そこで、研修・啓発を行い、仲間を作り、全国に窓口を広げたいと考えています。この事業は、私たちピッコラーレの相談支援員のスキルアップにもつながっています。

 

 窓口の運営ですが、365日、メールは24時間対応、電話は16時~23時まで受け付けています。助産師・看護師・医師・保健師・社会福祉士・保育士・教員・臨床心理士、公認心理師など医療・福祉関係の国家資格取得者や相談員経験20年以上の者が相談にあたっています。家庭を持ち、子育て真っ最中でも相談を受けることができる体制にしたいと考え、電子カルテシステムとコールセンターを導入し、リモートで行える環境を作りました。それぞれの自宅で受けたことをこのカルテに記録することによって、今どんなケースが動いていて、どのような支援やアセスメントがなされているのかが、瞬時に分かるようになっています。

 

 相談窓口を続けている中で、若年妊娠の課題の大きさに気づきました。若い人たちに、妊娠葛藤相談窓口があることを知らせるために、毎日Twitterで相談開始を告知しています。また、スマホはあっても携帯代未払いで、電話番号を持てない人たちもいます。その人たちとつながることができるよう、Wi-Fiを利用しての通話アプリもつくりました。

 相談数は右肩上がりでどんどん増えており、最近はとくに10代が増えています。2019年度の全相談者の4割が10代です。2019年度の相談データをみると、新規相談者数は横ばいですが、相談の総回数は増える傾向にあります。これは、10代の割合が増えていることと関係しています。10代の人たちとのやりとり回数8571回のうち、6728回(約78%)がメールでのやりとりです。メールはどうしても電話より情報量が少なく、何度もやり取りする作業が必要となり、回数が必然的に増えていきます。

 10代の相談の内容で一番多いのは、「妊娠したかもしれない」という相談で、72%を占めています。ただ、思いがけない妊娠12%、中絶4%あります。また、10代の相談者の60%が相談相手は誰もいません。

 

性教育、自分の体のことを知り自分の生き方を決められる教育を早期に

 若年妊娠をめぐる社会課題について、全国的なデータを見てみましょう。

 10代の性交経験は減少傾向です(日本性教育協会 第7回青少年の性行動全国調査報告)。2011年までのデータですが、高校生・大学生は2005年のそれぞれ約30%・約60%強をピークに減っています。中学生はもともと少なかったというのもあるのですが、ずっと約5%弱で横ばいです。この中学生たちが、高校・大学生となり、性交経験が増加する前に、性教育を受けることが重要なのではないかと思っています。

 日本では、10代は、1日に、37人が中絶し、24人が出産しています(厚生労働省平成30年{2018年}人口動態統計の概況)。2018年は、10代の15歳~19歳は中絶数が13398、出産数は8740でした。ここで注目していただきたいのは、この出産数8740のうち、53人は第3子以上だったことです。15歳~19歳で3人以上を産んでいる。妊娠が繰り返されていることを知っておいていただきたいと思います。

 さらに10代でも14歳以下ですと、2018年は、190人が中絶していて、37人が出産しています。この37人は、妊娠に気づくのが遅すぎたり、中絶を選択できなかったりする事情があったと思われます。私たちの相談窓口でも、部活動で腰をいためたために整形外科を受診し、そこで撮ったレントゲンによって妊娠が発覚したということがありました。若ければ若いほど、月経周期も定まっていませんし、自分の体の変化にも無頓着なところもあり、妊娠に気づきにくいのではないかと思います。

 

独りで産み、子の命を絶ってしまった背景

 子どもの虐待死と若年妊娠の関係も注目されています。虐待死は、生まれたその日に亡くなる命が最も多く、52人中14人という結果になっています(子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について・第15次報告)。この日齢0日児の死亡14人すべての事例において医療機関での出産はありませんでした。自宅のトイレでの出産が38.2%。母子健康手帳の未交付・妊婦健康診査未受信が約90%(同第14次報告では100%)となっています。つまり、どこにもつながれずに独りで出産した結果の死であることがわかります。

 この子どもの虐待死事例において、10代の割合が顕著に高いことがわかっています。全出生数のうち母親の年代が若年(10代)の割合は約1.3%前後で推移している一方で、心中以外の虐待死事例における若年妊娠の割合は17%もあります(同第14次報告)。

 実際に遺棄してしまったお母さんは、次のように話していたそうです。「赤ちゃんを助ける気持ちよりも誰にも知られたくない気持ちのほうが強かった」(同第15次報告)。

 

 この、「誰にも知られたくない気持ち」の背景に何があるのかを、これからのグループワークで考えていきたいと思います。「知られたら、仕事がなくなる」、「居場所がなくなる」、「生きていけなくなる」可能性もあることを、頭の片隅に置いてワークをしていただければと思います。

 

安心できる居場所がなかった人が妊娠をきっかけに孤立しない自分のHOMEを

 思いがけない妊娠をして私たちの相談窓口につながった若年妊娠の人たちの多くは、家が安心安全な居場所ではありません。それでは、どこに居場所を求めるか。それは、援助交際、性産業、神待ち(男の人を待つ)などをして、収入を得てネットカフェで宿泊する。または、SNSで知り合った男の家でしばらく過ごす。

 こんなふうにして、日々をやり過ごしていた人が、妊娠した時、収入の手段も居場所もいっぺんに奪われてしまうことになりかねない。

 また、妊娠をきっかけにSOSを出したけれど、誰も受け止めてくれなかったり、自己責任なのだから自分で何とかしなさい、と言われたりする。

 私たちの相談窓口につながった妊婦は、こんなふうに傷ついている人たちも少なくありません。大切なのは、妊娠しても、中絶しても、出産しても否定されないこと。そして、少し休んで、これからのことを考えられること。そして、「ここにいていいのだ」「生きていていいのだ」と思えること。そのために、私たちは、彼女の話を聴き、これからを一緒に考え、必要な資源につなぎ、思いをかなえる資源が無ければ作り出すということをしています。

 妊娠をきっかけに、だれもが孤立することなく、自分自身として、自由にしあわせに生きていくことができる社会を目指して、私たちは日々、相談窓口を運営しているのです。

 

―グループワーク「あなたの気持ちを見つめよう」とグループ発表―

(ピッコラーレ・松下清美さんから、グループワークについて)

 それでは、これから、クループワークを行います。どのように進めていくか、少し説明させてください。2つの相談事例(ケース)をもとにワークをしていただきますが、どう支援するかということは、今回は考えないでください。

 今回のワークの目的は、ケースを読んで、自分は、どこに「共感」して、どこに「反発」を感じたのか。そして、自分のその気持ちは「どこから来るのか」。自分の「これまでの経験がどう影響を与えているのか」。そういったことを感じて考えていただくことです。

 これからグループに分かれますが、まずグループ内で自己紹介をしましょう。呼ばれたい名前だけでも構いません。お互いの人となりを少しでも知るためと、口慣らしのウォーミングアップですので、気軽に1分程度でお話しください。

 ケースは、これまで「にんしんSOS東京」で受けた、電話やメールによる相談事例を基にしていますが、加工したり単純化したりの変更を加えています。プライバシーには気を付けて提示していますが、他の場所で話をするのはやめてください。

 2つのケースを用意しました。

 Aさんは18歳で、「野良妊婦」と自分のことを呼んでいて、リフレで働き、その後デリヘルで働いていて妊娠してしまった人の話です。

 Bさんは22歳で、今まで道を踏み外した経験がない方で、アフターピルを飲んだけれども妊娠しているのではないかと不安な人の話です。

 このケースを読んだ後に、自分の気持ちを見つめてください。そして、グループの中で、自分の気持ちを話してみましょう。自分の気持ちを話すのでハードルがちょっと高いかもしれません。安全でないと話せないと思いますので、メモをとることはやめてください。話したくない時はパスもありです。自分が傷つく場合もあるので、そういう場合は少し休憩していただいても構いませんし、ずっとパスでも構いません。誰かが話したことについて、批評や批判はせず、共感的に聴く時間にしていただければと思います。3回ぐらいみんなが話せるよう時間をシェアしていただければと思います。

 ファシリテータが各グループに入りますが、順番に回していくだけで、質問にもあまり答えられないかと思いますが、あらかじめご了承ください。

 この後、それぞれのグループで話したことをシェアしたいと思いますので、発表者を決めておいてください。発表者の人もメモする必要はなく、そこで話し合ったことによって、自分の中で起きた気持ちの変化や、視点が変わったことなどについて話していただければと思います。

 

~グループワークを行い、それを会場全体で共有するために発表しあいました~

(参加者からのグループ発表より)
「それぞれの視点で話したので、ケースの妊婦への見方がとても広がりました。

 どの切り口から支援していくとよいか、まさかと思う切り口を教えていただき、自分の活動の参考になりました。」

 

「10代の妊婦、若年妊婦、『野良妊婦』と自称する方への社会の認知があまりに低いということと、10代はまだ子どもでもあり、大人が手を差し伸べて解決していければという話になりました。

 性教育も話題になりました。性教育をもっとオープンに話し合える環境が、家庭や社会であるように改善できると、望まない妊娠や、女性だけが困るようなこともなくなるのではないかという話もありました。

 私自身がAさんに立場を置き換えてみたときに、そうなってしまうのは仕方ないと共感する部分はありましたが、目を向けてくれる大人がいれば、それは変わるのではないかと思いました。」

 

「Aさんのケースを取り上げて感想を述べあいました。

 自分自身を『野良妊婦』と呼ぶようなAさんについて、なぜ自己肯定感が低いのか。

 ピッコラーレさんにたどり着けたのはすごくよかった。たどりつけない若い人たちが多いのではないか。

 子どもたち、若い人たちを支援する際は、一つの課題だけを追いかけている活動による支援だけでは足りないので、さまざまな役割を持った人が複合的に関われるような環境をつくっていくのが大事ではないかと感じました。」

 

「Bさんの事例で話し合いました。

 『申し訳ないです』という言葉を繰り返されていて、すごく辛い状況にある中で申し訳ないという気持ちになることが、よけい辛くなると思いました。何に、だれに対して申し訳なく思っているのか。優等生なので、親に対してなのか、つきあってもいない男性と性行為をしてしまったことなのか、妊娠してしまったことなのか。Bさんは知識があっても、アフターピルを飲んでいても防げなかった。世の中の自己責任論の強さを感じていると思うので、親や過去の出来事に対してだけでなく、相談相手に対しても申し訳なく思っているのではないか。

 でも、よく相談してくれたよね、という気持ちを大事にしたい。私たちのグループはだれもBさんを責める気持ちは持っていず、相談してくれたことがすごいよねという姿勢でした。どうしても自己責任論が強い世の中ですが、『力になるよ』、『話を聴くよ』と受け止めてくれる人がたくさんいるということを伝えていければと思いました」

 

「Aさんのケースを話し合いました。グループには様々な立場の方がいらして、医療者、若者支援、情報発信をしている方もいらっしゃいました。

 産婦人科が行きにくいのかな、もっと身近に考えてくれればよいのにという医療者からの視点もありましたし、『行きにくいの、わかるよ』という共感もありました。行き詰まり感がよくわかるという見方もありますが、Aさんは家を出てから長く、社会経験もあり、助けてと言う力もあり、生きる力があるという見方もありました。

 一人の視点ではなく、いろんな人の視点で考えることが、支援者としてすごく学びになると思いました」

 

「Aさんの事例を話し合いました。Aさんが、自分が悪いと思ってしまっているところ、自分の責任だと思ってしまっているのですが、Aさんの状況をみると、追い込まれるようにそういう状況になっています。健康保険証も2年前からなく、もっと早い段階から誰かが助けてあげなければいけなかったのに、自分から助けを求めることができなかったし、周りも気づいてあげられなかった。そういうことが蓄積して、こういう状況になった。決して、安易な道を選んでこういう状況になったのではないと思いました。

 家庭以外にもどこかに、学校の先生や近所の人でもだれか人とつながれる手段が普段からもっとあるとよいのではないか。日本には、行政は未熟ですが、こういった人を助ける方法があって、助けたいと思っている人たちもたくさんいるのですが、そこに助けを求めてはいけない、お世話になってはいけないというような気持ちがある。

 世の中は助け合いで成り立っているんだよ、困ったときは助けを求めてよいんだよ、自分に余裕があるときは人を助けられるように、そういう制度があるということを、義務教育の段階から知ってもらえたら、もっと早い段階から『助けてほしい』と言えたのではないか」

 

「Aさんの事例で話しました。

 孤立感の強さを感じます。誰かしら気づけなかったのか。こういう子が近くにいた時に自分たちは気づけるのか。何かしらのつながりがないと、見た目だけで判断できないので、探し出す難しさを感じました。Aさんのように、情報量が圧倒的に少ない人たちが多くいるので、周知は必要だと感じました。

 『野良妊婦』という言葉の始まりは、『コウノドリ』の一巻の言葉だったようですが、マイナスの言葉ばかり出てしまって、自分にとても否定的な状況があるので、どういう人でも支えてくれる人たちはいるし、『あなたは絶対ひとりではない』ということが、もっと世の中に広まっていけばよいなと思いました」

 

「Bさんの事例について検討しました。メールの文面や、アフターピルを服用していたことから、しっかりした人生を歩んできた人なのかなと思いました。その性格があってかと思いますが、『自己責任』という言葉が2度も出てきて、申し訳なさを強く感じている方です。その背景について、SOSを出しにくい社会であることが原因であり、親子関係に問題があるのではないか、だれにも相談できていない状況があると話しあいました。

 居場所がないという状況が、松下さんのお話にもありましたように、『ここにいていい』、『生きていていい』というメッセージを周知してもらうことが大事だと思いました。

 他の人に相談したときに責められるのではないかという恐れが私自身ありましたので、ピッコラーレさんのようにメールでも相談できる、SOSを出せる場所を今後も発信していくことが重要なのではないかと思いました。」

 

 

――細金和子さんとの対談 ~思いがけない妊娠の背後にあるもの~――

松下清美さん) グループワークで、妊娠葛藤は、本人だけの問題ではなく、社会に内在しているいろいろな問題が組み合わさって起きていることなのだという視点を、みなさんがいろいろな語り方でお話しくださっていました。そのことに、とても元気をいただいています。ここでこれだけの人が、気付いてくださっている。これからも発信し続けていけばきっと社会は変わっていく、と確信が持てました。ありがとうございました。

 

 さて、ゲストの細金和子さんをご紹介します。 細金さんは、日本では、東京と沖縄の二箇所にしかない妊産婦のための婦人保護施設「慈愛寮」の前寮長をしておられた方です。私たちピッコラーレの相談役をお願いしています。

250SJF20190723(細金和子さん出演)

 

細金和子さん) 慈愛寮は婦人保護施設で、東京にあります。逃げてきた人が入れる施設です。

 たった一人で出産の時を迎えることになってしまった女性。たった一人ということは、赤ちゃんの父親はもとより親兄弟をも頼ることができない。生活する場はほとんどの人が失っている。行き場のない妊婦さん、赤ちゃんを産んだ人。時には飛び込み出産で赤ちゃんを産んでみたらこの人は行き場のない人だったとか、あるいは病院以外で出産してしまって救急搬送されて、そのあと慈愛寮で赤ちゃんとの生活を始められる人など。女性たち、赤ちゃんたちがこういうところから出発をするのかと、その過酷さに息をのむことも多い施設の現場です。

 

250SJF20190723

 

 松下さんから漂流していた妊婦さんの絵(上掲)が紹介されたと思いますが、まさにそういう方たちが、妊婦から入る方もおられますし、出産後退院と同時に赤ちゃんと入ってこられる方もいます。3・4か月、長い方は半年ぐらい慈愛寮で生活をして、次の生活の場の基礎を作って、母子生活支援施設などの施設に移って行かれるまでの生活をする婦人保護施設です。産前産後の女性たちと赤ちゃんたちを専門に見ているのは慈愛寮だけなのです。

 

暴力、貧困、孤立、社会的排除の中で生きて迎える妊娠出産をターニングポイントに

 慈愛寮に入ってくる方たちは9割近くが、小さいころから今までの間に何等かの形で暴力を受けてきた方たちです。虐待や性的虐待を受けて育ってきた方も多いです。社会的養護といわれる児童養護施設や乳児院、児童自立支援施設など子どもの施設で育った方も2割から3割、毎年います。それから、障害を持っている方、知的な障害や発達障害を持って、とても生きにくい中で妊娠出産となる方もいます。母子家庭で育った、あるいはDV家庭で育った、あるいは生活保護家庭で育った、外国にルーツのある父母のもとで育った、そういういろいろな暴力、貧困、孤立、あるいは社会的排除のある中で生きてきた人たちです。そして、若い人たちだけでなく、そうした妊娠出産を繰り返してきた人たちも慈愛寮にはいらっしゃいます。

 ですから、若い時に支援に出会って、確実に安心して暮らしていけるターニングポイントになっていくことは本当に大事なことだと思います。これまで慈愛寮で出会ってきた方たちの顔が、松下さんのお話を伺いながら思い浮かびました。そういった方たちを思いながら対談させていただきたいと思います。

 

 

松下さん)まず、Aさんのケースについて振り返ってみたいと思います。私たちがまず驚いたのが「野良妊婦」という言葉です。自分のことを「野良妊婦」と呼ぶ。そこには、随分な絶望感、孤立感があるのではないかと感じ、とても打ちのめされました。

 「野良妊婦はたらい回しにされるとネットで見て、自分がすべて悪いのですが」とも書かれていて、Bのケースにも関わるのですが、妊娠は自己責任と思っている。妊娠は1人ではできないのに、相手については、ほとんど責任の追及はなされず、妊婦だけの自己責任とされる。そんな理不尽さを、相談を受けながら感じることが多いです。

 

虐待されたという認識は、守られた状態になって初めてできる

誰かを頼りにし、誰かに対して心を許すことが難しかった背景

細金さん) Aさんのケースについて皆さんの発表をうかがって、私のグループでも話しあいましたが、とても温かい、こういう眼差しで社会がこの人を見てくれたら、この人はこんなに「野良妊婦」と言って「すべて自分が悪いんです」と感じることはなかっただろうな、というお話合いがされて、私も温かい気持ちになりました。

 「母子家庭で虐待とかそういうものがあったわけではないのですが」とAさんは言っています。慈愛寮に来られる方たちからも「殴ったり蹴ったりはあったけど、虐待とかは無かったし」と、そういうことをよく聞きました。私たちから聴けば、この人は本当にネグレクトされてきたんだな、見てもらえなかったんだなと思うのですが、その人にとってはそれが当たり前で生きてきていますから、本人は分からない。

 虐待されたという認識を持つことも、その人が守られた状態にならなければできないことです。とくに親が精神的に不安定だったり、気分に変動があったりする中で、「今日はどういうお母さんがいるんだろう」と思ったら怖くて家に帰れない。その人にとって、家が安心できる場所ではない子どもたちのために何ができるのだろうかと考えます。

 

 若い10代の妊婦さんからよく感じることに、10代ですから生活していく実力はまだないのですが、そういう現実とは別に――そういう現実を検討する力が育っていないこともあるのですが――、妙にお腹の赤ちゃんに対して期待感がある場合があります。この方はたぶんお金もなくて中絶の時期を逃してということは大きいと思うのですが、どこかで赤ちゃんに期待していることがあるかもしれない。

 「私に初めて家族ができたから」、「親はいたけど家族じゃなかったから」、「この子だけは私の味方だから」という言葉を慈愛寮でよく聞きました。「虐待をされてはいないけど」と言いながら、誰かを頼りにしたり、誰かに対して心を許したりすることがすごく難しかったりした10代の人だと思いました。

 その親御さんも、もしかすると、もう精いっぱいで、どうにも仕方がないことを独りで抱え込んできたからそうなったかもしれない。そういう時に、グループ発表でも出ていましたが、親以外の人がかかわってくれたらなと思いました。

 

松下さん) 先日、台東区で、生後3か月の赤ちゃんが16時間自宅で放置されて亡くなる事件がありました。彼女は、自宅で赤ちゃんを独りで産みました。自分が死ぬかもしれない状態で産んだということですね。赤ちゃんは産着を着ていたそうです。お母さんはしっかり育てようと思っていたのではないでしょうか。でも、ミルク代や食費、生活費を稼ぐためには仕事をしなければならなかったのでしょう。16時間赤ちゃんから離れなければならなかった。その間に、赤ちゃんは亡くなってしまったのです。

 どうして周りの人は気づかなかったのか。何か異変を感じた人はいなかったのでしょうか。そこには無関心な視線しかなかったのかもしれません。

 

行き場のない若い女性の性を搾取する日本社会 

細金さん) 「リフレ」って何ですか、というご質問も出ました。リフレというのは、風営法にも引っかからない、法の網目をぬって10代の女性たちを性的に搾取する仕組みです。「お散歩」とか「リフレ」、「マッサージ」と称して、じつはオプションとして性を提供する、ビジネスという名の性搾取です。「JKビジネス」と言われるのも、女子高校生の性的な商品化で付与されたネーミングだと思います。

 若い女性たちの性を商品にしようとする社会なのです、この日本社会は。行き場のない若い女性たちが家出して最初に声をかけられるのは、そういう違法風俗や法の目をくぐった性産業のスカウトや、買春しようとする男性からです。Aさんが「店長の家に住まわせてもらった」時に、この方は「助かった」と思ったかもしれませんが、いわゆるJKビジネスと言われる「お散歩」や「リフレ」などは、その次の風俗にしっかりと結び付いているのです。ですから、Aさんは今デリヘルで働いて、そこの寮にいる。そういう女性たちの性を搾取していく仕組みがこの社会には厳然としてある。10代の行き場のない女性たちは商品として狙われる社会であると私たちは認識したいと思います。

 家に居場所がない、家にいたら辛いという人が、小さな家出をする安全な場所があれば、そういう目には遭わなかったと思うのです。

 

250SJF20190723(並んで対談する細金さんと松下さん)

 

「あそこに行けば何とかなる」と思えることが力に

松下さん) project HOMEで「ぴさら」という居場所をつくりました。プチ家出をしたい人を預かったことがあります。家が苦しいことは変わらないけれど、もしこれから何かあっても「ぴさら」に行けばのんびりできる、何とかなると思えたのかもしれません。「ぴさら」から帰宅した彼女は、無事出産し、子育てをしています。

 また何かあったらいつでもおいで、と伝えていますが、今のところ、自宅で頑張っています。いつでも行くことができる場があること、安心安全で、ご飯が食べられて、布団で寝られて、ゆっくりお風呂に入ることができる、そんな場があると思えるだけでも、もしかすると日々をやり過ごす力になるのかもしれないなと思います。

 

細金さん) お腹が空いちゃうのよね。性産業のスカウトが提供する3点セットというのは、お腹が空いた時に食べ物やお金がもらえる、住むところが用意される、携帯が使えなくなっているのを使えるようにしてもらえるであり、これで近づいてくる。逆に私たちは、そういった必要なものを用意して、この少女たち、若い女性たちにつながっていきたいですね。

 

参加者) 仙台のNPOで、ピッコラーレの中島さんにアドバイスをいただいて団体を立ち上げたばかりです。一点伺いたいのは、男性から性的搾取されることに救いの手を差し伸べていった時、危ない経験などはございますか。

 

居場所とシェルターの公民ネットワークを

細金さん) 慈愛寮では性産業の男たちが付け狙う、ストーカー行為という経験は何度かあります。難しいところですね。オープンな場で来てほしいことと、時にはシェルターでなければならない時もあります。オープンな場所があって、シェルターが別にあって、それは公的なシェルターがもっと役に立たなければならないので、連携しあいながら危なくなった時にそういうところに移すことができる、守ることができるネットワークが必要かと思います。

 いよいよ本当に居場所を探して来てしまう性産業の男たちから「赤ちゃんを産んだら預けてまた働きに来い」という働きかけがあったりします。そこで女性たちが揺れたりする、それをどうサポートするかということもありました。

 暴力で支配されて、無力化されて、言うことを聞いてしまうということもあります。「彼」だと彼女は思っているけど、それは仕事で命じられてやっている、そういう構造と闘っていくことは大きな使命だと思います。すごく難しく感じる時もあります。

 ネットワークで必要な時は別なところにつなげながら、私たちは歌舞伎町と闘って、「こっちよ、こっちよ」と綱引きをしていると感じられることもありました。そういうことが共有できる民間のネットワーク、また公的なところも含めて、そういうネットワークができるといいなと思います。

 

参加者) 慈愛寮はどうしたら利用できますか。

 

ハードルの高い相談窓口へ同行する支援を

細金さん) 福祉事務所の窓口に行っていただく。女性相談員や婦人相談員という人が窓口になっています。東京都は福祉事務所に女性相談があるところもありますし、子ども家庭支援のほうに窓口があるところもありいろいろですが、まず相談していただく。

 ただ、やはり役所に相談するというのは、すごくハードルが高いことなのです。ですから、ピッコラーレのような同行支援もするという、必要な支援に独りではドキドキして行けないけれど、そこに同行して「大丈夫、一緒に行こうね。私の知っている人がいるよ」のような形でつなげていく支援が今とても必要だと思っています。役所のほうも敷居を下げる努力をしなければいけないですし、そこにどうやったらつながりやすいかということを求めていきたいと思っています。

 役所で相談を受けた後、婦人相談所というところを各県で持っておりますので、東京ですと東京の婦人相談所である東京都女性相談センターが入所を決定して、慈愛寮に入ってくるという仕組みになっています。 

 

松下さん) Bさんのケースでは、皆さんがおっしゃっていたように、「自己責任である」とか「申し訳ない」という気持ちがどこから来るのかを考えさせられました。

 妊娠を「自己責任」と言ってしまわなければいけない社会があることが問題なのかな、と思います。

 

参加者) 週末に連絡があったら、アフターピルが必要な場合、すぐにつながる先は確保していますか。

 

妊娠を自己責任とする社会、親権に依拠する医療システムの転換を  

松下さん) 連携先の医療機関はありません。

 ですので、週末だけでなく、年末年始などの長い休みがあるときは、まずその間も開いていて、アフターピル(緊急避妊薬)を処方している病院を探すところから始め、リスト化し、相談者に情報提供できるようにしています。

 問題なのは、最近は少しずつ減っては来ているものの、高校生がアフターピルをもらいに病院に行った際に「保護者と一緒に来ないと緊急避妊薬を渡せない」と断られてしまうことがあることです。そもそも親には話せないから、私たちのところに相談してきているわけです。それでも、自分たちが失敗してしまったことをどうにかしようと、必死に避妊行動をしているのに、そこに協力しない医療機関がまだあるのです。そんなこともあり、病院ではなくてドラッグストアでも手に入るようにと提言もしています。

 

参加者) 中絶を決めた場合、10代だと親の同意と、費用が問題になると思いますが、それについてはどのように動けますでしょうか。

 

松下さん) 法律的には16歳以上であれば、本人の意思で手術をすることは可能です。が、受けてくれる病院はほとんどありません。性暴力など事情によっては親に言えないこともあるので、10代でも医師の裁量でやってくれるところもあります。母体保護法は中絶するかしないかを決定するのは医師になっているので、やってくれるところとやってくれないところがあるのはその法律があるからかもしれません。

 虐待などがある場合は、親に頼ることはできません。それでも親権はとても大きな権利になっています。この親権の壁を何とかできないのだろうか、と私たちも考えているところです。

 費用の面については、中絶でも70万円近くかかる病院もあります。中期中絶(12週以降)で健康保険証を持っていれば、出産一時金(42万円くらい)を利用することができますが、出産一時金内で手術費がおさまる病院が少ないのが現状です。クレジットカードを利用できる病院はあるのですが、10代でクレジットカードを持っている人はほとんどいません。ですから、出産一時金の範囲で処置をしてくれる病院を探したり、生活保護を受けることができないか、など様々な社会資源を探したり、繋ぎ、利用できるように知恵を絞っています。

 

細金さん) それだけ手をかけて支援する人がいなければ越えられない壁がどれだけ多くあるか、ということです。若い10代でどうしてそんなことが一人でできますか、ということです。

 

250SJF20190723(コーディネータを務める佐々木貴子)

 

佐々木) 松下さんが仰っていたリスクに関しては、中学生・高校生のうちから、自分の体のことを知りながら自分の生き方を決められるような教育――性教育だけではないと思いますが――も必要です。また、妊娠した場合にどういう支援が受けられるのか。いま相談員の方たちも研修をしながらネットワークも広げていかなければ間に合わない状態になっています。何千件という相談を受けて白書をまとめられるわけですが、仕組みや法律について、今も皆さんの発言の端々に出てきましたが、どういう社会的資源を増やしていったらよいか、お二人からひと言ずついただけますか。

 

妊娠出産期の手厚い支援で幼少期からのトラウマの回復へ

細金さん) 妊娠出産期の支援にどういう意味があるかというと、実はもっと早く支援が必要だった人が妊娠出産でようやく支援につながることがよくあるのです。虐待を受けてきたり、いろいろな困難を抱えながら支援につながらなかったり、小さい時に支援につながったのだけれどその支援で嫌な思いをして二度と嫌だと思っていたり、でも本当は今サポートが必要な人たちが妊娠出産という本当に一人ではどうにもならない時をきっかけに必要な支援につながる。

 ですから、その時限りでないこういうprojectHOMEができたということも、そこから支援が始まっていくという大きな意味があると思います。

 産前産後の時期に福祉的な、心理的な、医療的な支援を受ける、あるいは生活支援を手厚く受けるということは、その女性が小さい時から抱えてきたトラウマの回復にすごく有効だということを、慈愛寮で精神科の嘱託医をされていたトラウマ精神医学の先生が仰っていました。この時期というのは、ものすごく大事。

 

 若くて妊娠するとか一人親であるとかに対して社会の眼差しが厳しいので、みんなSOSを出せなくなっている現状があります。また小さいころから助けてもらったことがない、助けてもらってよかったことがない人たち、暴力を受けて自分で何かを決めるという力も奪われてきた人たちにとっては、社会の眼差しが「何を言ってもOKだよ」と言ってくれることが大事だと思います。「ダメな母親であってはならない」と刷り込まれているから、――この間、2件続けて赤ちゃんと3歳のお子さんの虐待死がありましたが、その時もそうであったように――お母さんが隠さなければならない。自分はみっともない、ダメな母親だから隠さなければいけないと思って、SOSを出せなくなってしまう社会をまず変えていきたい。

 そういう時に、いくらでも声を出しても大丈夫という窓口を作っていきたいと思いました。

 

過酷な環境を生き抜いてきた力 妊娠をきっかけに自分の幸せのために使って

松下さん) 10代の人たちが妊娠してしまった時に、「中絶したら、命を殺すことになるから、どうしたらいいんだろう」と悩むことが多い気がしています。「昔はみんなでカンパを集めてやったよね」という話が私のグループワークで出ましたが、今はそういうこともできなくなってきている。妊娠や中絶も自分で全部抱え込まなくてはいけなくて、しかも「命が大事」ということから抜け出せなくなっている。

 SOSを出しにくい社会なのだな、と思います。

 この社会をつくったのは誰なのか、ということをいつも思っていたい。私たちの窓口に相談に来てくれる人たちは実はすごく力のある人だと思っています。自分がこれ以上この家にいたら潰れてしまうと思うから出たわけで、どれほどのエネルギーだったか。どれほどの人がそれをできるか。それほどの力があるということを、妊娠をきっかけに今からもっと自分の幸せのために使っていただければと思います。

 

細金さん) これだけ過酷な中を生き抜いてきた自分の力を信じて。

 

妊娠から本人が考えて選択した道を自分の人生が豊かになる成長につなげる支援に

参加者) 今のお話の中で、10代の妊娠してしまった子どもたちには「命が大事」という刷り込みがあって、中絶を躊躇するというお話があったことに関して、ピッコラーレさんは、10代という早目の妊娠が分かったときに、その子の状況によって、どういった声掛けをなさっていますか。産む方向でお話を進めていくのか、中絶なのか、その子その子で異なるかもしれませんが、教えていただけますか。

 

松下さん) 本人がどう考えるかをやはり一番に考えますが、「中絶はいけないことだ」とどこかで思っていたとしたら「そういうふうに考えなくてもいいのじゃないかな」と言っています。「まだ、あなたは子どもで、自分がこれからどうしたいのか、を第一に考えていいのだと思う」と。

 妊娠は考える時間に限りがありますが、でも、中絶を決めた時に「命を捨てた」とならないように、自分はあの時あれだけ悩んで考えて、こういう選択をして、こういうふうに生きようと思った、だから中絶が必要だったというように納得してもらいたい。産むにしろ、中絶するにしろ納得することが大事だと思います。そこに私たちは付き合い、伴走したいと考えています。先を行くのでもなく、後押しするのでもなく、並んで歩いて伴走していくイメージを私たちは持っています。

 

細金さん) 支援者は「中絶する」ということについても、価値中立な立場で聴いて、本人が決めていくことをサポートすることが大事だと思います。産む・産まないもそうですが、その先に育てる・育てないという選択もあるわけです。そういう時に、自分の人生の中で、あの時すごく考えて一つの道を選び取ったということが、その人自身の豊かさ、成長につながっていくような支援をしたいなと思いますね。

 

参加者) 「中絶をすると命を捨てる」とならないようなケア、その子が本当に考えての自分の人生を豊かにするための選択だったと思えるようなフォローがあるということですね。中絶をすると命を捨てるというイメージは確かにとても大きいですし、保健の授業でも「命が大事」で進められているので、重大な問題だなと思いました。

 

自分のことを考えられ、今後をイメージできる安心な場と時間の保障を

参加者) ピッコラーレさんが今年の5月から事業を始めた若年妊婦の居場所(projectHOME)は定員が2人だと伺いましたが、どのようなところですか。先ほどのケースで性風俗の寮に住んでいたようなので、安心安全ない場所があればと思いました。

 

松下さん) projectHOME、家の名前は「ぴさら」と言います。安全な居所がなく、ネットカフェなどで暮らしている妊婦さんに来てもらって、ここで美味しいものを食べて、あったかいお風呂に入って、好きな時に寝て、、、と、しばらく休んでもらう場所です。

 また「ぴさら」は自分の居場所を見つけるための中継地点、というふうにも考えています。

 期限はあまり切っていませんが、妊婦さんが出産するまでここにいていただくことは対応が難しいので、例えば慈愛寮は36週から入れるので、慈愛寮に入れるまでの間ここで生活をしてもらったりします。

 ここに来る妊婦さんはそれまで、ちゃんと自分のことを考える時間がなかったり、誰かに助けてもらった経験がなかったり、今後どういうふうにしていくことができるのか、といった具体的なことを考えてこなかった人たちが多いのではないかと考えています。ここから先どういうことができるのか、自分は実は何がしたいのかなど、自分のことを考えるには、安心安全な場と時間を保障することが何より大事です。

 まだ始まったばかりの事業ですが、ぴさらが、そんな場になったら、そんな場にするにはどうしたらいいのか、試行錯誤の連続です。■

 

 

●次回のアドボカシーカフェご案内★参加者募集★
“LGBT”をきっかけとして ~人権・多様性について“自分ごと”で考える対話~

【ゲスト】NPO法人ASTAの性的マイノリティ当事者やその家族・友人たち
【日時】2020年9月5日(土) 13:30~16:00 
【会場】オンライン開催
【詳細】こちらから

 

 

※今回20年8月3日のアドボカシーカフェのご案内チラシはこちらから(ご参考)

 

 

 

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