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抄録=ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第38回 
 

◆ SJFフォーラムご案内 ◆  

ソーシャルジャスティス・ダイアログ2015
 【日時】911日(金)18:00-21:00
 【会場】新宿区四谷地域センター 11
 【パネリスト】エディさん(レインボープライド愛媛)
       白井草さん(OurPlanet-TV)他
  詳細 http://socialjustice.jp/p/20150911/   

  

教育の機会保障と多文化共生社会

貧困の連鎖を断ちグローバル人材要請につながる改革とは

 

 201576日、ゲストに鈴木寛さん(文部科学大臣補佐官)と樋口直人さん(移住連・貧困プロジェクト)をお迎えして、SJFは第38回アドボカシーカフェを開催しました。

 生まれや環境により教育の機会を奪われたまま就職困難となった親世代の経済的不安定さは、子ども世代への貧困の連鎖を生んでいます。この大きな問題に対し、具体的に何ができるのか。樋口直人さんは、自分の現場でできることがある強みを生かして中から何か動かせることから始めた、貧困家庭の子どもが不利になっている教育制度を変えていく取り組みについて報告されました。鈴木寛さんは、現憲法26条を「何人も学ぶ権利を有している」と改正――当然に国籍にかかわらずと――すべきだという持論を示され、個人的には、フリースクールについての議論のなかで、就学義務がかかっている人――日本人――か否かにかかわらず就学支援金の対象者とする可能性に道を開きたいと思うが、一方で、様々な意見や困難があり、容易なことではないことも報告されました。

当日鈴木さん

樋口直人さん講演

 移住者の貧困の問題は、移住連(移住者と連帯する全国ネットワーク)の1つの盲点でした。異なる文化を持っている子どもたち、とくに社会の低い階層に組み込まれている子どもたちがそもそもハンディを背負っていることに向き合うために2009年に移住連・貧困プロジェクトを立ち上げました。

 「平等な教育」という時、「異民族」かつ「貧困層」である子どもたちが背負っているバックグラウンドの差異を無視して、形式的に平等に扱うとドロップアウトが多く発生してしまいます。けれども、そういった格差を示す統計データがなかったこともあり、差異は社会では十分に認知されていませんでした。そこで、アドボカシー(政策提言活動)の方向性としては、まず、格差があることを社会に対し可視化し、その格差の是正に役立つ実現可能な対策を考えることにしました。

 国勢調査で、約300万円のお金を要しましたが、国籍別・年齢別の学校通学率データを得ることができました。そのデータにより、17歳時の通学率の推移を1995年から2010年まで国籍別にみると、韓国・朝鮮・中国籍者の通学率は日本籍と安定的に大差ないのに対し、フィリピン・ブラジル籍者の通学率は2000年時で日本籍者の50年前の高校進学率と同程度の20%~40%であることが示されました。2010年には、フィリピン・ブラジル籍者の通学率は60%近くまで急上昇していますが、これはリーマンショックにより多くが帰国せざるをえず母数が減ったことによるものです。そして当時、中卒のままであった子どもたちは失業に追い込まれています。

 文科省にこの結果を提示すると、日本語の問題があるから通学率が低いとの見解を返されました。果たしてそうなのか問うために、日本居住期間による通学率の差という切り口で見てみました。もし、日本語の問題が大きいのであれば、居住期間の長短で通学率に大きな差が出ることが予想されますが、2010年のデータをみると、5年間以上日本で生活していてもフィリピン・ブラジル籍者17歳の高校通学率は、日本・韓国・朝鮮・中国籍者より明らかに低く60%程度にとどまっています。ここには、「外国人」・「異文化」の問題と同時に「階層」・「貧困」の問題が存在しているといえます。

 文科省にこの結果を提示すると、「Good Practice」(高校入試に関わる優れた取り組み)の情報共有を実施していますとの回答が返ってきました。さらなるデータの収集を要請すると、国籍はプライバシーに関わる問題であり難しく、入試について教育委員会に介入できないとのことでした。各都道府県の施策にはばらつきがあり、神奈川県では120人程度の外国人が特別入試で高校に入学しているのに対し、対象となる外国人が多い愛知県では数十人くらいしかおらず、進学率が低くなっています。教育委員会は閉鎖的なところが多く、現地の団体に働きかけてもらうわないと有効ではなく、それらの団体は現場支援に忙しくアドボカシーまで手が回らないのが実情です。

 そこで、貧困プロジェクトのメンバーに大学教員が多い特性を生かして、個別に意思決定できる大学の方に働きかける方が成功しやすいと考えました。2014年から国立大学で、大学進学での格差の是正について、何をどうすれば制度が変わるのか、議論や活動を始めました。2010年の20歳時通学率のデータによると、フィリピン・ブラジル籍者は20%程であり、日本籍=60%程、韓国・朝鮮籍=70%程、中国籍=40%程となっており、大学進学での格差是正を議論すべき時期です。

 実際の行動としては、「帰国子女」や「中国帰国者」といった入試枠があり、これらは文科省が各大学へ通知し各大学が特別入試として実施しています。その延長として「外国人特別入試」を提示するべく、可能性がある大学へのアドボカシーを考えました。実際には、いきなり「外国人特別入試」といっても通らず、各大学の政策に添った形で、「多様な入試」「多様な構成員」を提言していきました。進学格差の是正のための施策として、奨学金等は予算措置を伴い、予算が減っているなかでは政策導入は難しいでしょう。一方、入学枠や特別入試によるアファーマティブ・アクション(積極的是正措置)は、予算がかからず、進学率向上も見込めます。

 各大学には文科省から押し付けられているともいえるプレッシャーがあります。入学者数が2018年から急速に減ることが予測されており、2016年度までに大学が改革したと評価されなければ、交付金が激減することになります。自身が所属学部の将来構想委員となって大学改革関連の資料を目にすることもあり、この改組の時に、「外国人」の問題を入れられるとよいと考えました。「大学改革実行プラン」には、グローバル化に対応した人材育成人材の確保や、地域再生の核となる大学づくり等が掲げられています。ここで、日本で生活する外国人の権利が問題となった1980年代の「内なる国際化」に立ち返って考え、大学の評価基準に、留学生ではない外国人学生の比率を加えることは効果的ではないかと考えています。とくに、地方国立大学については、地域で必要とされることを存在意義とする方向に添って、外国人人口が多い地域で、外国人枠を特色として打ち出すことを協働できると考えています。

 トップ10の大学は理系中心であり数学重視のため、外国人枠を働きかけても可能性は低いと考えられます。それに続く20校については、地方大学の特色を打ち出すこと、およびグローバル対応と協働して働きかける可能性はあります。また、学部が少なくコンセプトを共有しやすい国際・福祉等の学部のある大学についても、意思決定が容易で可能性は高いでしょう。

 

 フランスのパリ政治学院は2001年に入学定員の1割を貧困地区向けの特別入試にあてました。導入当初は反発もありましたが、成功していき、他の大学校にも波及していきました。1つの先例をまずつくることが大切です。

 日本で先例になったのは、宇都宮大学国際学部です。HANDSプロジェクトなど外国人と教育に関わる取り組みの先例があり、外国人の入学者も存在し、理解がありました。そこで、14年から働きかけを開始し、学部長に多文化フォーラムへの登壇などを通して関心を維持していただきました。そうして、15年には、全学会議で外国人特別入試が通り、文科省で許可され、16年度入試から導入されることになりました。

 アドボカシーは、小さなところでも実現できること、中から何か動かすことができることから始めることが大事だと思っています。徳島は外国人人口が1%程で、徳島大学で外国人枠を働きかけた際に、ほんとうに外国人学生は来てくれるのか?と問われて私は反論できませんでしたが、内部の人間ならば具体的な政策として考えてもらえるわけです。外国人比率の高い県にある愛知県立大学と茨城大学で、シンポジウムを1512月に開催したことを契機に、外国人特別入試という選択肢を大学執行部に意識していただいています。上智大学でも11月にシンポジウムを開催します。

 子どもにとって、最終学歴は一生つきまといます。日本の大学の教育の多様性が問われています。大学教育の評価基準に「多様性」をいれることを大学改革に取り入れ、個々の大学の試みを国策につなげることが必要です。

 

(上村英明・コーディネータ)私は私立大学に勤めていますが、この「多様性」は大事だと思っています。

 

(以下、鈴木寛さんのお話については当日会場にて共有していただいた通りです

 

グループ発表――グループ対話にゲストも参加、各グループの対話内容を会場で共有

 

 フリースクールの法案が足踏みしているのは残念です。この支援対象には、夜間中学を運営しているフリースクールも入っていて、その7割くらいは外国人が通っています。
 フリースクールの法案に多国籍が対象となっているのは画期的だと思います。

 

 就学後の支援はどうしていくのか、語学支援や、個々の学力やのびしろを考慮した支援が制度化されるとよいと思います。
 アファーマティブ・アクションは学力が十分でない生徒が入学した後の対応をどう考えていくかも大切です。
 就学すると、労働できなくなり困窮する人もいるので、生活の援助について厚労省と文科省の連携が必要だと思います。世帯収入に応じた大学生の支援を、全国一律で大学就学支援金を支給するのも一案です。
 貧困層の支援について、両親とも市民として認知されず労働条件が悪い方がいる状況も考えてほしいです。
 大学の手前でのサポートが必要なのではないでしょうか。神奈川県では中国籍の方も高校進学率は高くなく、高校の手前、小中・学校でのサポートが大切だと思います。マレーシアでは言語の多角的な教育カリキュラムがあり、参考になります。
 地域ごとに外国人の受け入れ先となる学校の条件に違いがあり、人権意識の差が表れていると思います。
 そもそも大学が無償教育になっていない等の問題があり、私大生全体の卒業率は8割であることに表れている貧困の問題があり、「平等」をどう考えるか、という問題に直面するのでは。
 大学を出ても就職差別を受けている在日の方はいらっしゃいます。大学を最終目標としてよいのかは疑問です。

 

 行政の人が、多様な文化的な背景を持つ子どもたちがこの国に暮らしていることを認識していず、理解していないのではないでしょうか。
 行政や文科省も知っていても、プライオリティが低く予算がつかないのです。行政を動かすのは政治であり、政治は世論に動かされます。世論をつくるアドボカシーやメディアの動きが重要となります。
 外国人には選挙権がないという問題があります。また、北海道のアイヌ人は、10万人の支持がないと当選できない選挙区に、2.5万人しかいないため意思を施策に活かすことは難しいという事例があり、マイノリティへのアファーマティブ・アクションの大切さが示されています。

 行政や文科省ですべてを対応することはできないとのことですが、文科省は、助成教員の数を平成27年までに2割まで増やすようにと対応しているのですから、同じような観点で、外国籍の子どもについても一定割合まで増やすようにといった対応ができるのではないでしょうか。
 文科省は、表向きは、大学の自治に任せる、地方自治体の教育委員会に任せると言い続けていますが、実際は、地域の大学は文科省に振り回されていて、見えない圧力があります。でも、良い圧力は何か?と考えた時に、文科省は日本全体を見渡して長期的な将来像からどういう教育が必要なのか考えてほしいと思います。また、間接的な圧力になるものとして、大学の評価基準に「多様性」を入れるというメッセージを通知・通達・事務連絡等で伝えることはできるのではないでしょうか。

 

 外国籍の人の学習権や就学義務について定めるために、憲法26条を「何人たりとも」に変えていくことは必要だと思います。
 むしろ、憲法13条の幸福追求権を、基本教育件に変えられればと考えています。
 貧困を解決できるか、は教育の解決にかかっているのではないでしょうか。

 

(樋口直人さん)鈴木さんが副大臣の時に、文科省の予算が国交省を超えましたね。でも、予算が必要な政策は難しいと思うのですが、予算措置をともなわない是正措置はどのようなものができるのでしょうか。アメリカのアファーマティブ・アクションは、予算がかからない措置という観点からも導入されています。
 また、予算措置をともなうアクションでも、どういうふうにすれば実現可能でしょうか。世論が高まれば予算がつくというのでしょうか。

 大学の評価基準に「多様性」あるいは外国人学生の比率を入れるだけで大学は激変するでしょうけれど、これは通達も法律もいらないので文科省でもできるものではないでしょうか。また、帰国子女枠は文科省の局長通達が出てそれが大きくきいて導入に結びついたわけで、「外国人枠」の設置もできないわけではないと思います。

 (大学改革実行プランに関連し、外国籍の学生比率を増やすことについて)外国籍であれば日本在住であっても留学生であってもコミコミで考える、ということですが大学のレベルでは全くそういう認識はされていません。文科省の人が省庁交渉の時に、そう考えるとはいっていましたが、少なくとも文科省の内規のレベルではそういう認識は共有されていません。ですから明示的に「留学生および日本在住の外国籍学生の比率を何%にする」と(文科省から)いっていただけると違ってくると思います。
 入試枠には意味があるのです。枠を使って入学した人には当然ハンディがある、けれども枠が大きく改善に結びついたというのが、欧米の事例研究では通説になっています。たしかに、サポートは必要ですが、それは別の問題として、枠自体には意味があると思います。 

(上村)世論の実態は何なのか。行政官、活動家、政治家のひとたちにとって何が大事なのかというと、人権に関していえばその原則なのです。人権の原則は多数決ではありません。人権が侵害されれば、ひとりでも人権侵害であるし、そこから世論はつくっていかなければならないのです。あらためて、そういう原則が生きる社会をわれわれは実現しないと、世論だけを気にしている社会は、間違った世論に影響されてしまうのかなと感じました。 ■

 

 

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