ソーシャル・ジャスティス基金 第9回助成先(2020年助成公募)審査結果
◆公募テーマ:「見逃されがちだが、大切な問題に対する取り組み」を対象としたアドボカシー(社会提案・政策提言)活動
◆助成決定額:総額350万円
◆助成決定先:助成公募を20年9月に行い(公募の概要はこちらから※ご参考)、有効応募総数48案件となりました。書類審査と面接審査を経て、下記4団体の事業に助成を決定しました。
◆助成期間 2021年1月~12月
◆ NPO法人Accept International
『取り残された非行少年へのケア拡大
-社会全体での包括的支援の実現と保護司制度の改革-』
【事業概要】
本事業の目的は再非行少年を受容して、やり直しを支援できる社会への変革を促すことである。現在、少年犯罪は減少傾向にも関わらず、再非行少年率は15年以上にわたり上昇傾向。その背景として本人の問題だけでなく、本人を取り巻く環境や社会全体の受け入れ体制が不十分であることも大きな要因となっており、改善が必要だ。さらに、新型コロナウイルスの流行により保護司制度を中心とした対面での支援実施が難しい状況にある。こうした状況は早期に改善が必要な一方で、世間の認知度は低くなかなか当事者意識を持ちにくい課題である。
そこでまずは更生支援の民間ボランティアで大きな役割を果たしている保護司の更生支援活動を一部オンライン化し、保護司経験者だけでなく今まで関心のなかった方への参加の促進や活動紹介イベントを通じて社会の認知を広める。また、一過性の活動で終わらないように上記活動を元に政策提言書の作成及び専門家との意見交換会や、社会の認知度を広めるための広報活動を通じて社会全体での包摂的な支援の必要性を共有していく。
【選考骨子】
・海外でテロや犯罪に関与した若者ギャングの更生支援をしてきた経験と知見を、日本国内で犯罪を行った少年の更生支援に生かす力量を評価した。
・法務省や自治体、保護司などステークホルダーの方々と良好な関係を築いているとともに、一般市民の声を取り入れる重要性も認識している点を評価した。
・現在の保護司制度がかかえる問題点を実地で把握しながら、少年と年齢の近い世代にも保護司の活動を広げ、少年の更生支援を拡充する可能性が期待される。
【助成金額】100万円
◆ NPO法人 FoE Japan
『国内最大規模のリニア開発 ~国民的議論による見直しを~』
【事業概要】
気候変動リスクや感染症拡散リスクが高まる時代に即した持続可能な社会の構築を目指す。若い世代を含め市民が、将来に本当に必要な開発であるかを議論する。リニア中央新幹線の工事は環境や社会に甚大な影響を及ぼす開発だが、沿線各地で発生している問題を訴える住民の声は「国家的事業」だからと封じ込められてきた。計画の妥当性、政策決定プロセス、環境アセスメントの問題点を検証し、工事現場の実態調査を行い、問題点について市民が知り、考え、議論する基盤をつくる。賛成・反対に関係なく様々なステークホルダーや市民の対話ワークショップを実施し、調査結果や市民の意見をまとめ、事業者・国・関係自治体に提出し対話する。
【選考骨子】
・直面している問題とともに、近代社会そのものが持つ高速性や利便性に関する問題も把握している点を評価した。コロナ禍の中で検討されなければならない分散型の社会ビジョンに対し、都市集中型の社会開発のあり方を検証する視点や、国策を後ろ盾にした巨大民間事業に対して声を上げられなくなっている沿線の住民という構造を問題視している点を鑑みた。
・孤立している住民の声を可視化し、環境や社会への影響を発信する力量を評価した。開発反対ありきではなく賛成や中立の立場の方々とも対話の場を持ち、市民社会全体の中で進めることを重視している点を評価した。
・問題の当初から関わっていたわけではないが、これまでのNGO活動の蓄積を含めて、各地の住民運動をネットワーキングする力量に可能性が見える。
【助成金額】100万円
◆ ジュマ・ネット
『インド、アッサム州における国籍を奪われた人々の生活と法的支援事業』
【事業概要】
190万人が無国籍化される危機にさらされ、政治的緊張が広がり千人以上が拘束されているが、現地NGOの大半は問題から距離を置く中、自殺する被害者も多数出ている。背景には、主にバングラデシュ人が多い不法移民に対する強い排斥運動があり、複数の民族間の襲撃や対立が続いている。ミャンマーの少数民族・ロヒンギャ問題と構造が似ており、さらに被害が広まるリスクが高い。そこで、無国籍化された人たちの中で、特に貧困層で課題を多く抱えた子どもと女性に重点を置いて生活支援や教育支援を行う。また、被害者たちのネットワークづくりや、政府への提言活動の場を作る支援を行うとともに、アッサム州の高裁での裁判支援を行い法的な成功ケースをつくり、被害者のエンパワメントを図る。さらに、被害者が地域社会に声を伝えていく場を現地でつくるとともに、日本や国際社会に警告を発して被害者の実態や声を伝えていく。
【選考骨子】
・日本国内でほとんど認知されていない問題であるが、ロヒンギャ等の問題構造と類似点が多く、今後の問題への認知度を上げると共に、潜在的リスクに緊急に取り組む重要性を鑑みた。
・国境を越えた難しい課題に取り組むが、バングラデシュや近隣国など南アジア地域での人権擁護活動の経験の蓄積から、問題の進め方やその課題を十分認識している点に、実行力を期待できる。
・現地で被害者のネットワーク化や生活支援活動、子どものためのノンフォーマル教育活動とともに、法的に裁判を後方支援する活動手法の意義を鑑みた。
【助成金額】100万円
◆ 団体名 NPO法人ASTA
『地方におけるダイバーシティ実現に向けた能動的市民の育成』
【事業概要】
カミングアウトが難しい環境にある性的マイノリティが多い北陸地域で、地域性に類似点の多い名古屋で性的マイノリティをきっかけとした人権・多様性に関するアドボカシー活動を行ってきたASTAが、地域の主体性を尊重しながら、地域連携型LGBTQ出張授業や地域団体活動支援事業を行う。それにより、地域の活動をつなぎ、性的マイノリティの人権保障に向けた共同体創設への突破口を開き、アドボカシー活動が地方でも進展する土壌をつくる。
【選考骨子】
・昨年の助成事業によって構築した性的マイノリティのアドボカシー活動の連携を、点在していた活動の大きなネットワーク化に拡げ、その地方で自走できるアドボカシー活動が育つ基盤づくりを行うという支援活動の意義を重んじた。
・地方によってアドボカシー活動の進展度合いが異なる中で、あらゆる地方で、性を理由とする偏見や差別を解消していく契機となる可能性の高さを評価した。
【助成金額】50万円
『ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)助成発表フォーラム第9回』
~2021年1月22日13時半からオンラインで開催します。詳細や参加申込はこちらから~