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  報告=ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第35回  

 次回のSJFアドボカシーカフェ   
生活保護、バッシングに抗して活用策を考える
 【日時】513日(水)18302100
 【会場】文京シビックセンター 4階
 【登壇】尾藤廣喜さん(弁護士/日弁連貧困問題対策本部副本部長
              /生活保護問題対策全国会議代表幹事/元厚生省)
     寺中誠さん(東京経済大学他講師
              /アムネスティ・インターナショナル事務局長)
 【詳細】こちらから   

  

自然と共生する農業

ネオニコチノイド系農薬から考える

  

 201542日、SJFは第35回アドボカシーカフェを新宿区四谷地域センターにて開催しました。大規模化と低コスト化のために農薬と機械に頼る農業が進められているなか、「命を育む食」、自然環境全体を考えた農業を持続させるためには何が必要なのか、農業現場の声と客観的な情報をもとに、参加者とともに考え対話しました。

 福島第一原発から16キロの避難地域で有機農家が栽培している試験田の稲穂の上にトンボが飛んだことが報告され、放射性セシウムを吸着固定化し農産物への移行を低減したのは、多様な微生物の豊かな有機的土壌であると、日本の土の力が強調されました。生物への神経毒が危惧されているネオニコチノイド系農薬の残留基準を大幅緩和する案が意見公募を経て最終決定の予定となっています。農薬を使わざるを得ない農家の事情を踏まえながらも、農薬は天敵も殺し抵抗性をもつ害虫を発生させるとの指摘がありました。豊かな土を育み、天敵農法や病害菌を食べる菌の研究等を進めることで、農薬に頼らない農業、環境保全型農業を進めていく道筋があることへの理解が進みました。

 当日 岡田さん(写真=岡田幹治さん) 

 まず、ゲストの岡田幹治さん(ジャーナリスト/朝日新聞論説委員)から、日本でネオニコチノイド系農薬(以下、ネオニコ)の残留基準が大幅に緩和されようとしている現状をふまえ、参加者と共有したい事実の提供と、問題提起をいただいました。世界ではネオニコの規制が進んでいます。世界に逆行するかのように見える日本での農薬規制緩和が含意することは何でしょうか。背景にある問題を解決するための課題は何でしょうか。

 岡田さんのお話では、ネオニコは20年ほど前から使われ始め、サリンと似た構造をもつ有機リン系農薬の多くがヨーロッパで禁止されたのにともない急速に普及したそうです。ネオニコは、ニコチンと似た構造をもつ農薬であり、神経毒・浸透性などを特徴としますが、当初は「ヒトにはやさしい」という触れ込みで急速に普及しました。しかし、1990年代半ばに、まずフランスでミツバチに対する毒性が養蜂家から指摘され問題になり始めました。ミツバチは、非常に脳が発達している昆虫で群れをつくって暮らしているため、一部のミツバチがネオニコの神経毒に打撃をうけると、群れ全体が崩壊してしまいます。

 こうした事情を背景に、15カ国53人の国際的科学者チームである「浸透性農薬タスクフォース」が146月に、『世界的な総合評価書』を発表しました。この評価書は、間もなく日本語訳がネット上に公表される予定だそうです。評価書は、ネオニコなど浸透性農薬が土壌中にも水中にも長期間残留すること、被害は授粉昆虫・鳥類・両生類など広範に及び生態系が狂うことを指摘し、全世界で段階的な廃止または使用の大幅制限を実施すべきだと提言しました。同タスクフォースの公衆衛生ワーキンググループ座長の平久美子医師(東京女子医科大学)は、ヒトの健康への影響として、ネオニコは残効性が強いため連続的に経口摂取すると少しずつ蓄積されて毒性が発現し、中毒を起こすことがある点、脳血液関門を通過するため神経毒性や発達神経毒性がある点などの弊害を指摘しています。

 

 世界でネオニコ規制の先陣を切ったのはフランス政府です。完全に因果関係が証明されていなくとも非常に疑わしい場合には規制措置をとる「予防原則」に基づき、1999年、ネオニコ系農薬の一つであるイミダクロプリドのヒマワリ種子への使用を2年間禁止しました。続いてドイツ、イタリア、スロベニアでも2008年に似た措置がとられました。その後さまざまな研究や議論を経て、欧州委員会が135月にネオニコ3種(イミダクロプリド・クロチアニジン・チアメトキサム)の2年間の使用制限を決定しました。ミツバチが好む作物への使用を禁止したのです(施設栽培や開花期以後の使用は例外として認める)。アジアでは韓国政府が143月にネオニコ同種について、国内の新規・変更登録をEUの評価完了まで凍結しています。

 さらに、ヒトへの発達神経毒性――脳神経系器官が急速に発達する胎児期などに農薬類を体内に取り込むと発達が阻害される毒性で、発達障害などの原因になる――を持つ可能性があるとして、欧州食品安全機関はネオニコ系2種(イミダクロプリド・アセタミプリド)の一日摂取許容量などの引き下げを1312月に勧告しました。

 

 米国では、働きバチの急速な減少による群れの崩壊が広範な地域で起きる現象=蜂群崩壊症候群(CCD)=が2006年秋に突然、発生しました。原因は複合的であるとされていますが、突発した時期とネオニコが普及した時期とが一致することに注目すべきです。EUの規制決定もあり、13年には米・環境保護庁がネオニコについて「花粉媒介昆虫がいる場所での使用禁止」をラベルに明示させる措置をとりました。さらに146月には、オバマ大統領が農務省や環境保護庁など15機関で組織する特別委員会に対し「花粉媒介昆虫の健康を促進する戦略」の策定を指示しました。当初6カ月以内の策定を目標としていましたが、取りまとめが遅れており、まだ発表されていません。オバマ大統領が指示した検討項目の中には、「ネオニコ系など農薬が与える影響の評価と対策」も含まれています。農務省のジェフ・ペティス博士が148月に来日講演した際に、岡田さんが「EUのような規制措置が戦略に含まれる可能性はあるか?」と質問したところ、「EUは予防原則に立っているが、米国はそうではないので、同じような規制が含まれることはないだろう」という趣旨の回答だったそうです。一方、米・内務省は14年7月に、四つの州の野生生物保護区内の農地ではネオニコの使用を16年1月まで禁止することを決定しています。

 

 翻って、日本ではどうなっているのでしょうか。

 日本では、2009年の春に交配用ミツバチの不足で大騒ぎとなり、農水省が対策を取りました。しかし、その効果は限定的であり、ミツバチの大量死は多くの地域でいまだに発生しています。

 EUが使用制限を決めたとき、ネオニコ(クロチアニジン)のメーカーである住友化学は、ネオニコがミツバチ大量死の主原因ではないとする当社の見解には何ら影響しないと発表しています。また農水省は「農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組」を公表し、EUと日本では農薬の使い方が異なるので同じ規制は必要ないとし、イネのカメムシ防除に焦点を当てた調査研究を開始しました。

 日本では2000年以降ネオニコの使用量が急増し、近年は年間400トン前後が国内に出荷されています。用途の一つが、斑点米(着色粒)の原因となるカメムシ類の防除です。イネが穂をつけ始めると、カメムシ類が雑草地から飛んできて稲穂から汁を吸います。すると玄米に茶褐色のシミがついた斑点米になります。斑点があっても安全性に問題はなく、味も変わりません。見た目が悪くなりますが、色彩選別機にかければ除去できるのです。ところが米の検査規格では0.1%(1000粒に1粒)以内でないと1等米になれません。2等米なると安くしか買ってもらえないので、農家は躍起になってネオニコなどの殺虫剤を散布します。意味のない斑点米の規格を廃止すれば、ネオニコの使用を減らすことができますから、一部の農家や環境保護団体は規格の廃止または緩和を求めていますが、農水省は応じていません。

 一方、住友化学がネオニコ(クロチアニジン)の新しい使用方法を申請したため、作物への残留基準を大幅に緩和する必要が生じました。農水省と厚労省は14作物についてクロチアニジンの残留基準を大幅に緩和する案を決め、意見公募(パブリックコメント)の手続きを取りました。新基準案は、たとえばホウレンソウが40ppm(現行は3ppm、国際基準は2ppm)となるなど大幅な緩和だったので、「40グラム(1株の半分くらい)を子どもに食べさせると急性中毒を起こす可能性があるほど危険なものだ」といった反対意見が殺到し、143月に再審査となりました。しかし再審査の結果、緩和の対象をさらに16作物増やした案を1412月に決定。間もなく最終決定の予定になっています。

 

 このようなことでよいのでしょうか。農薬を使っている限り、必ず抵抗性害虫が発生し、新しい農薬の開発を迫れられるという「いたちごっこ」が永久に続くのです。やはり農薬を使わない農業をめざすべきでしょう、農薬を使わない農業には三つの類型(方法)があると、岡田さんは紹介しました。ひとつはIPM(総合的有害生物管理)。病害虫防除のためにいくつもの手段を用意し、それらを状況に合わせて適切に組み合わせて使い、農薬の使用をできるだけ減らそうというものです。二つ目の有機農業は、化学肥料や農薬を使わず、自然の恵みを上手に生かして作物をつくるものです。さらに最近は「アグロエコロジー」という考え方が出ています。農薬を使わない農法だけにとどまらず、生態系を守る農業や社会をめざすものです。

 まだ大きくはありませんが、日本各地で挑戦は始まっています。たとえば一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストは、「脱ネオニコ宣言」を146月に発表しました。ネオニコに頼らない農業を確立し普及させるために、まず「生産の場」では技術の確立と普及に努めることが必要です。いま日本ではコメについては農薬なしの技術が完成しており、畑作は可能なものとまだ難しいものがある状態です。そして果樹は非常に困難だとのことです。次に「消費と流通の場」では、本当に体によいものを食べることで応援し、「科学研究の場」では、有機農業技術の研究やヒトや生態系への影響についての科学的立証をすることが重要だと提言しています。

 また、ネオニコ不使用の米を販売しているよつ葉生協(栃木県小山市)、ネオニコ系や有機リン系の農薬を使用しない「選別農薬農法」を推進する認定制度を開始した群馬県渋川市、トキ保護のために水稲のネオニコ使用量を9割削減した新潟県佐渡市、ナスの施設栽培で約8割が天敵類を利用している高知県安芸郡、適正な土づくり・農薬使用の減量・天敵利用による総合的作物管理を推進する宮崎県など、さまざまな動きが出ていると希望が語られました。

当日 菅野さん(写真=菅野正寿さん)

 続いて、福島県で有機農業を30年以上営んできた菅野正寿さん(福島県有機農業ネットワーク理事長)から、農業の現場経験に根差し、持続可能な共生社会をつくるため、有機農業による地域の力を活かす新しい関係づくりへの展望が語られました。菅野さんは、棚田を近隣の農家から継承した分もふくめ50枚ほど営むほか、トマトやダイコンなど、娘さんとともに30種ほどの野菜・雑穀を育て、冬場は里山にある素材を使った餅加工を営んでいます。

 福島原発事故から4年経過し福島についての報道が乏しくなってきていますが、避難生活によるストレス、低線量被ばくの不安によるストレス、放射線量による損害賠償金額の線引きが招く地域コミュニティーの分断等の解消が進んでいない現状が報告されました。

 放射性物質の除染については、福島県の70%を占める山林は汚染が深刻にもかかわらず手つかずのために、腐食した3年前の落ち葉から放射性セシウムが新たな植物・生物に吸い上げられる循環汚染が発生しており、野生キノコ・原木しいたけ・山菜類の出荷制限、栗・柿・梅・ゆずなど永年作物からの放射性物質移行の原因となっています。ことに春先、杉などの花粉飛散とともに放射性セシウム濃度が山林隣接地帯は高まり、山林除染は喫緊の課題となっています。また、水田の用水が、汚染された山林やダム・ため池から流れる水とならないよう対策をとる必要があります。大雨台風の濁り水は普段の10倍くらい放射性セシウムを含有するという調査結果が示されました。さらに、個人線量の推移を計測した際に、農作業をした日は線量が突出しており、農業に従事する青年の健康調査が必要であり、農水省にはもっと農業の現場に足を運んでほしいとの要望が出ました。一方、住宅除染は環境省の管轄で、その費用は大手ゼネコンに流れていますが、十分に進んでいないという問題も指摘されました。

 

 放射性物質という見えない環境汚染物質に汚染された福島だからこそ、環境保全型農業を実践していくと、放射性物質や農薬など様々な環境汚染物質への対策の必要性を菅野さんは強調しました。環境保全型農業を推進するために、見えない放射性物質や農薬の影響を「見える化」することが重要であり、農家住民と大学研究者による共同の実態調査が報告されました。その調査課程であらためて国や東電による情報公開が不十分であることが浮き彫りになり、がれき撤去が周知されずに行われたため汚染土からのフォールアウト(放射性降下物)への対策が遅れて局地的に100ベクレルを超えるコメが出たなど、福島での生活を妨げている事例があげられました。

 農業再生の光は、多様な土壌微生物の多い有機的な土づくりであることが実証されてきました。2014年の福島県玄米全量全袋検査の結果、99.99%が10Bq/kg以下、野菜類も耕作したものは不検出となりました。粘土質と腐食の複合体である肥沃な土壌が放射性セシウムを土中に強く固定化するためだと考えられています。また、新潟大学による水田の放射性セシウム濃度のデータでは、玄米からは検出されない一方、モミ殻やワラには残留が検出されました。このようにモミやワラが種であるコメを守る稲という作物の力が、日本の稲作が3500年続いてきた源泉であり、日本の民謡や舞、米文化を育んできたとの見方が示されました。

 有機農業にむけた取り組みを、福島県二本松市の東和地区は地域全体で進めています。農薬の空中散布による登校児童への影響や有機農業地への影響が危惧された際に、菅野さんは自分だけ有機農業をやっても環境保全型農業としては不十分だと思い至ったそうです。そこで、東和地区では、土が良くならない間は完全無農薬が難しいため、新規就農者への配慮もあり、減農薬を認めつつ(農薬の空中散布は現在行っていない)将来的には有機農業を目指す方向で進めています。

 稲作において一般的に農薬を使用する時期として、種子吸水・育苗・田植え・イモチ病防除を挙げ、とくに田植えを兼業農家が会社の休暇に合わせてGWに済ませようと早める傾向が、イネを病害菌に弱くし、農薬に頼ることにつながっていると菅野さんは指摘しました。さらに、稲穂被害をおこすカメムシの防除にはネオニコが一般的には使われていますが、ネオニコの危険性について農家にまだまだ伝わっていないのは農協と農薬会社との癒着があるからだと言及されました。ネオニコに頼らずとも、雑草刈りなど農地の管理による環境整備や、病害菌を食べる菌を活用した農薬の研究の進展により、カメムシ防除が可能になっています。カメムシに吸われたコメは黒班が出ますが、二本松市でカメムシが大量発生した年には菅野さんは色彩選別機で除去し、消費者から無農薬のコメとして高い評価を得ています。

 

 ここで、これまでのお話を受けて、ゲストのお二人とコーディネータの黒田かをりさん(一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事)がパネル対話します。

 「水田に農薬を使わないと、クモやカエルがたくさん育ち、これらがカメムシを食べるので、カメムシは大量発生しないと有機農家の方から聞いているが」という岡田さんからの質問に対し、菅野さんは、米価の値下がりにより大規模化を進めざるを得ない農家は、コスト削減のために機械と農薬に頼り、田植えをしながら化学肥料や農薬をまくために狂った生態系や、地球温暖化の影響などによりカメムシが増えたとの見方を示しました。

 農薬を使わない3つの農法を岡田さんが紹介したことについて、なぜ日本ではそういう農業が普及していないのか?という黒田さんからの質問に対し、岡田さんは政策の違いが最大の理由だと指摘しました。EUは早くから、環境保全対策を実行している農家に「環境直接支払い」という補助金を支給しており、このためいくつかの国では有機農業が全農地の10%を超すまでになっている(ただし、約半分は畜産用の牧草地)。韓国もこれにならって1999年から直接支払いを始めている(ただし、対策として外来種のジャンボタニシを投入する農家が増え、これが生態系に悪影響を与えていると聞いている)。これに対して日本では、農水省が「日本型直接支払い」を2000年度から実施しているが、少額であることや農家には使いにくい制度になっているため、効果を上げていない。また06年には「有機農業推進法」ができたが、在来型農業にこだわる農水省が熱心でない。この結果、日本の有機農業は全体の0.5%にも達していない。日本社会で主流になっているのは、環境や安全より便利・安価・豊富を優先する考え方であり、農業もまたそうした流れのなかにある。これをどう変えていくのか、と問いかけました。

 菅野さんは、イチゴの有機農業を始めている娘さんに福島県の有機農業推進室がアブラムシを食べる天敵を紹介してくれた事例や、トマトの葉カビ病には葉カビ菌を食べる菌で対応できる事例を紹介し、農水省や研究機関は、もっと天敵農法や病害菌を食べる菌の普及や研究を進めることが重要であり、そういった農業の方向を国が選択すれば農家もシフトしやすくなるだろうと述べました。

当日3登壇者 

 今度はしばらく、参加者は6名程ずつでグループ対話を行います。ゲストお二人にも各テーブルに参加してくださいました。農業を営んでいる、これから有機農業を始めようとしている、行政に携わっている、生協を運営している等々、多様な立場から率直に対話が繰り広げられました。

 その後、各グループの対話概要を、会場全体で共有するために、それぞれ発表いただきました。政策決定には、農業の当事者が加わり、現場の声を活かし、食と農を市場原理のみに任せるのではなく、顔が見える関係が大切なのではないか。祖父母は農薬を使わずに農作物を育てていたが、父母(現80代・90代)は農薬なしでは作物が育てられないというのは、戦後にDDT農薬が導入されたことや商売に合わせた早め早めの農作業サイクルにより自然界とあっていないことが原因であり、そのような農作物を食していると病気になる。食べ物は命を支える物。ネオニコを使いたくない人・使わないわけにはいかない人とのかい離、関心の差をどうやって埋めていけばよいのか、教育、消費者と生産者の対話、消費者の安全とともに環境保全の問題として自分の言葉で隣の人に問いかけることから始めたい。大きな仕組みを変えていく必要があるが、私たちの小さな地域コミュニティーの意識を変えることから始めたい。有機農業を始めたいと考えているが、今まで携わっていなかった人としての意識を持ちながら有機農業に入っていくことで変えていくきっかけを見いだせるのではないか。と、真面目に考えている方々と出会いました。

 「予防原則を取らない米国で、なぜ野生生物保護区でネオニコを禁止する決定がなされたのか」という質問に対し、岡田さんからは、予防原則は政策を決めるさいの基本的な姿勢であって、予防原則がないから農薬の規制ができないというわけではない。推測するに、米国には野生生物の保護を重視する伝統があること、野生生物保護区は(農業振興を担当する)農務省ではなく内務省が担当していることなどが関係しているのではないか、と回答されました。グループ対話の報告への感想として岡田さんは、自然と共生する農業を広げていくには、経済や地域のあり方と併せて考えることが必要ではないか、と問題を提起されました。日本にはいま、世界との競争に勝って成長を遂げようとする「グローバル(G)経済」と地域で心豊かに生きていこうとする「ローカル(L)経済」が併存している。安倍内閣はG経済を元気づけようと躍起だが、私たちにとって大切なのはL経済ではないか。そして、暮らしに不可欠な食物(フード=F)とエネルギー(E)と介護などのケア(C)を地域内でまかない、地域内でお金を循環させていくという地域づくりをめざす動きも始まっていると紹介されました。

 菅野さんは、企業の博報堂と研修ファームを今年も実施することに言及し、種をまいて作物を育てることが、人を育て、社会を育てると強調されました。農協はコメを150円/1kgで買い取るが、最低300円/1kg400俵みなさんに食べていただければ、農業就業者に時給700円を支払うことができるそうです。支え合う顔の見える関係が大切であり、○○さんが食べてくれると思えば農薬をバンバン使えないというように想像の翼を築ける関係づくりが大事だと強調されました。

 農薬を一番使いたがっていないのは農家だと黒田さんはうかがったそうです。菅野さんは、農薬を多く使用する果樹農家の寿命が短い事例にふれ、農薬の使用については農家の健康を真剣に考える必要があると懸念を表しました。

 

 さらに、福岡県で始められた直接支払い(環境保全型農業直接支払交付金)や、福島県の有機農業推進室のような地域の動きは他には?という会場からの質問に対し、岡田さんは、直接支払いを実施している自治体はいくつもあり、中では滋賀県が熱心であること、農水省の「日本型直接支払い」も今年度からは、新しく立法化された「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律(多面的機能法)」に基づいて使いやすいものに改善されたことを話されました。

 「何より、もっと農業について正しい情報を知るべきだ。日本は農業に手厚い保護をしている印象があるかもしれないが、実は先進国のなかでは農業に対する補助が少ない」という岡田さんの発言をうけ、菅野さんは、農水省からの補助金は農林土木をひとまとめにしたものであり、本当に農家に役立つ補助は不十分だとの考えを示しました。菅野さんは156年前にスイスにいた際、その美しい風景は、標高別に環境保全事業費の8割近くが国からの直接支払金により補助されていることによって保たれ、観光・環境保全立国の姿勢が明確に表れていることが印象的だったそうです。日本も地域の力を活かし、環境保全型農業を進めていくことが重要だと強調されました。

 命を育むよい食べ物を見出す消費者の目を問う参加者の言葉を受けて、菅野さんより、巨大化した流通や、消費者のニーズを一方的に農家に指導する農協は、消費者と農家の関係性から乖離しており、顔の見える関係を育む生産と消費のつながりから「命を育む食」を育てていこうと締めくくられました。
 
 次回のSJFアドボカシーカフェ   
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              /生活保護問題対策全国会議代表幹事/元厚生省)
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              /アムネスティ・インターナショナル事務局長)
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