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『27年目のチェルノブイリから考える、日本の子どものいまと未来』
SJFアドボカシーカフェ第26回【報告】
福島原発事故から3年を経て、原発から20キロ圏の旧警戒区域への帰還が始まった矢先の2014年4月9日、SJFは第26回アドボカシーカフェを文京シビックセンターにて開催しました。
子どもたちが放射線を低線量であっても長期間被曝(ひばく)せざるをえない環境で育つことへの不安に私たちはどのように向き合っていくのか。チェルノブイリ事故から27年を経たウクライナの経験に何か学ぶことはないのか。昨年11月にウクライナの学校や医療機関そして家庭を訪れ、子どもたちの健康状態を取材したNPO法人OurPlanetTV代表の白石草氏は、ドキュメンタリーを作成し社会対話の糸口とする活動をしています(SJFはこの活動に助成しています)。今回、白石氏はこのドキュメンタリーをいち早く紹介し、原発事故後の被災者支援における、子どもの低線量被曝リスクへの日本とウクライナの考え方や支援体制の違いを提示し、日本でよりいっそう子どもの心身の健全性への支援が必要であることを強調しました。
これに対し、「子ども・被災者支援法」がより住民の納得ができる内容となるよう要望書を国に提出した野田市長の根本崇氏からは、この法律の趣旨そのままに添えば、そのドキュメンタリーが報告しているウクライナの子どもへの支援体制のように為されていくはずだったとコメントされました。しかし、そうは未だ為されなかったのは、被曝被害の有無の議論の収束が困難だったからであり、それは、この支援法にて支援対象地域を定める「一定基準」が不明瞭であるのが一因との見方が示されました。そして、「不安な人がいる」という本来の立法趣旨に立ち返り、もういちど国会で議論することの重要性が強調されました。
「日本の子どもたちの健康が大切に守られることを祈っています」というロシア教育科科学省主任専門官のメッセージでOurPlanetTVのドキュメンタリー紹介は締めくくられました。そして対話のなかで、日本の市民が心配や不安もふくめて大きな声をあげていけるような社会となることが、市民の思いに寄り添った行政のためにも重要だとの意識が共有されました。
◆ 概要と映像アーカイブ ◆ (敬称略)
~ 子どもの低線量被曝についてウクライナを取材 ~
◇ 取材の目的は、子どもへの低線量被曝について、細かく日本とロシアの状況を比較したかったことと、生活面としてロシアの政府・医師・学校はどう考えているのか調査し、福島原発事故後も低線量被曝の恐れのある地域に留まっている子どもたちの支援へのアプローチを探ることだ。
長期の低線量被曝による健康状態を把握するため、主な取材地に選んだのはウクライナのコロステン地域。チェルノブイリ原発から140キロ程離れており、事故直後の1991年は年間0.5ミリから5ミリシーベルトで、自主避難地域と放射線監視区域が混在しており、事故後25年間の積算線量(パスポート線量=外部被曝+内部被曝)は15ミリから25ミリシーベルト程。これに相当する日本の地域は大雑把ではあるが、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の積算線量予測リポートによると福島市が該当している。
『伊達市の挑戦』というVTR(OurPlanetTV)を作成したことがあるが、日本では、子どもたちを被曝から避難させるために2011年に学校まるごと福島県外に移動し普通に授業をやるような保養は唯一、伊達市の小学校のみで、こういった保養は日本の学校関係者には負担が大きく不評のようだった。今年度になってようやく「ふくしまっこ自然体験事業」が文科省で事業化されたが、学校単位で3泊4日程度のささやかな支援策にすぎない。いっぽう、ロシアでは保養は数カ月におよぶ長期かつ好評であり、実務的にどう保養を運用しているのか関係者に取材した。
日本では、ほとんどの子どもたちが事故日本の被災地の子どもたちへの支援では、行政管轄庁の担当者が余り子どもたちに関心がなさそうな感触を受けており、学校関係者のほうがコミュニケーションの可能性を感じるので、そこから打開しようと思っている。(白石)
―「子ども・被災者支援法」は骨抜きのままであり、福島で甲状腺癌の子どもが43件出ているにも関わらず直接の因果関係なしとされている昨今だが、低線量被爆の長期的な健康被害を直視するため、原発事故から27年経たチェルノブイリの子どもたちの実態を現地取材し、伝え、あらためて社会対話・議論の糸口としたい(白石=SJF助成発表フォーラム2013/10/19)
『チェルノブイリ・28年目の子どもたち―長期低線量被曝の現場から』
(OutPlanetTV ドキュメンタリー)
― 子どもたちは疲れやすく、勉強も難しくなっている(コロステン第12学校長)
― 多くの子どもが様々な疾患を抱えており、健康状態にあわせて、子どもたちを4つのグループに分けて体育の授業を行っている。特に問題がなく普通の体育を受けられる子どもは「基本グループ」は24%(同校)にすぎない。「基本グループ」と同じカリキュラムを受けるものの、激しい運動はしなくていい「準備グループ」は59%、慢性疾患などがあり、特別の運動をする「特別グループ」は14%。更に、障害などがあり体育を受けられない子どもは、体育が免除(3%)さている。体育教師によると、「特別グループ」や「体育免除」の子どもたちは、目がおかしい、喘息、胃潰瘍、肝臓炎、甲状腺炎、心臓疾患、脊椎側湾症、先天性の心臓疾患などにかかっているとのこと。体育の授業中に、心筋梗塞で死亡する子どもが目立ってきたことから、ウクライナでは2年前に、心臓負荷や状態を調べる「ルフィエ」というテストを導入し、このグループ分けに活用するようになった。
― 子どもたちの消化器系疾患は体内にセシウムが入った影響だ。汚染地に住み続けることによって血液にも影響がおよび、慢性的な貧血は酸素の欠乏を引きおこし、酸素を必要とする脳の働きに支障をきたし、疲れやすくなり集中力や記憶力も低下する。(ロシア国立放射線医学研究所の小児科医ステパノワ博士)
― 子どもたちの治療を学校と連携して行っている。疾患のある子がチェルノブイリ事故当初にくらべ2011年には3倍となっている。全ての疾患の原因が事故だとは限らないが、少なくとも甲状腺疾患、甲状腺癌、骨筋疾患、先天性疾患はチェルノブイリ事故が直接の原因だといえるだろう。(チェルノブイリ事故の翌日から27年間その健康問題に関わってきたコロステン市外来病元院長ザイエツ医師)
― ウクライナ市はチェルノブイリ法を実現し無償で被災者に支援を行っている。まずは、子どもたちの健康を守るべきだと思う。汚染されていない食材の給食を無償で提供し、保養も実施し支援の形は様々だ。(ウクライナ市長)
― 『Safety for the future』(ウクライナ政府報告書)は、25年間にわたる疫学や臨床の科学的研究の結果をベースとし、住民保護や予防原則にたったものだ。IAEA(国際原子力機関)と対立するものとは思っていないが、IAEAが報告書と大きく異なる点は、因果関係が認められるのは被曝線量が分かっている場合のみである点であり、チェルノブイリ事故について初期の被曝線量が分かっていない研究は除外されている点だ。また、ウクライナで書かれた論文は当初英語でなかったものが多く、国際社会で認められるには3年から10年かかったため、例えば、甲状腺癌について初めて論文が発表されたのは1990年だったが、WHOやUNSCEARが認めたのは6年後のことだった。(同報告書を統括したチュマク博士)
― 補償対象エリアの縮小案が出ているが、子どもたちの保養は大事な健康対策なので国はこれからも継続する考えだ。日本の子どもたちの健康が大切に守られることを祈っています。(ロシア教育科科学省一般教育校の主任専門官エレーナ氏)
◇「子ども・被災者支援法」を素直によめば、ドキュメンタリーが報告しているようなウクライナと同じことが為されていくはずだったが、閣議決定では、そうは為されなかった。被害の有無を科学的な証明することで論争を決着させるのは難しいだろう。野田市が「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(案)」に係り、パブリックコメントに提出した意見では、支援法の趣旨に立ち返り、住民の健康上の不安を解消することに重点を置いた。(根本)
~ 子どもの今そして将来の健康を守るには ~
◇ ウクライナでは、子どもたちの健康について、医師と学校と行政がともに非常に強い関心を持っていることが取材でわかった。
チェルノブイリ基本法にしたがって、事故当初からほとんどの子どもたちに保養を実施して28年目となる。キエフでは、事故直後の5月頭には全員の子どもが保養地にむかい8月まで過ごしたそうだ。現在は、夏休みを中心に40日程度のプログラムとなったが、保養によって子どもたちは体調がよくなると保護者に評価されており、ウクライナ医学研究所の医師も保養の効果を認めている。特長的なのは、教育委員会と学校と病院が三位一体となって、それぞれの子どもにあわせた保養プログラムを実施している点だ。
日本とウクライナの根本的な違いは、被曝リスクに対する考え方だ。日本政府は、主に経済や物理系の研究者の意見を拠り所に、年間の放射線量が100ミリシーベルト以下は健康に影響がなく、子どもの甲状腺癌も起きないという考え方であるのに対し、ウクライナ政府は、放射線医科学研究所や地域医療に携わる医師の見解に基づき、低線量被曝でも白血病や甲状腺癌はもちろん、癌以外の疾患も観察されているという考え方をとっている。
健康診断についても異なり、ウクライナでは、年間放射線量が0.5ミリシーベルト以上の地域住民は年一回の健康診断を実施し、そのデータは、国立情報センターが一元管理し、自分のデータは任意に取得でき、登録者には治療費など経済的支援がされ、被災者からの信頼が高い。一方、日本では、福島県民を対象とした県民健康調査のみであり、登録者への支援策はなく、基本調査回収率は35%程にとどまり、データの閲覧は限定され、被災者の信頼感は低い。(白石)
◇ 健診の仕組みと保養の仕組みとをウクライナではどう関連付けているのか。(参加者)
◇ ウクライナでは、地域で外来病院と学校が健診データをふくめて連携している。日本では、健康診断は詳細に進んでいるのだから、何かの疾患の恐れがある場合その理由まで入力する等、データベース化をより進められたらよいと思う。管轄が今は環境省だが、厚生労働省に移管するとよいのではないか。いずれにせよ、その前提として被曝の問題をどう位置付けるのかが問われており、ウクライナでは、リスクがあることを前提とした健診システムとなっている。また、保養先についてウクライナでは、外部委員会が子ども各々にあわせてマッチングし決定している。クリミア半島には素晴らしい保養地があるが、ロシアに編入となっている昨今の状況から今後の対応が気になるところだ。(白石)
~ 「不安を感じている住民が納得する」子ども・被災者支援へ ~
◇「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(案)」に係り、パブリックコメントに提出した意見とともに、あらためて復興大臣に要望したのは、①「年間放射線量が1ミリシーベルトを超える『汚染状況重点調査地域』は全て「子ども・被災者支援法」の定める『支援対象地域』に指定すること」と、②「被災者生活支援等施策に関する基本的な事項のうち、放射線による健康への影響調査、医療の提供等については『汚染状況重点調査地域』の対象として行うこと」だ。
「子ども・被災者支援法」の第1条(目的)と第8条(支援対象地域で生活する被災者への支援)の見方によって立法時に意図していたものと乖離(かいり)してしまったのではないか。
この法の本来の意図は、第1条にあるように、「(東京電力原子力事故により放出された放射性物質による)放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと等のため」「健康上の不安を抱え、生活上の負担を強いられており、その支援の必要性が生じていること」「特に子どもへの配慮が求められていることに鑑み、子どもに特に配慮して行う被災者の生活支援」だ。
しかし、支援対象について「一定の基準以上{下線筆者}の放射線量が計測される地域に居住し、又は居住していた者及び政府による非難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずるもの」としながらも、「一定の基準」を政令で定めることなく不明瞭のままであり、第8条で定める支援対象地域についても、「放射線量が政府による非難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上{下線筆者}である地域」としながら「一定の基準」は詳しく定められていないままだ。
この「一定の基準」が決まらない以上は、「被害がある」と主張しても証明できない。本来、幽霊がいるか・いないかを証明する場合、いる事を証明するほうが簡単なはずだが、被害の基準が定まらない中では被害の有無の議論は不毛となる。不安な人がいるという本来の立法趣旨を考えふまえ、もういちど国会の中で議論するのが肝要だ。(根本)
◇ 日本はWHO(世界保健機構)憲章に批准しており、また憲法98条2項の規定により、締結した条約は誠実に遵守することが必要と定められている。そのWHO憲章により健康を享受することは基本的権利とされ、その健康の定義は、身体的な健康だけでなく、精神的・社会的に満されている状態をさしており、原発事故により「不安」を抱えていることや、移住を余儀なくされることは健康被害にあたる。この点から、野田市の要望書にある住民の「健康上の不安」は、より広くとらえ見方を変えられると思う。(参加者)
◇ どうしたら行政を動かせるのか。(参加者)
◇「子ども・被災者支援法」は議員立法であり、本来の意図と解釈の溝を埋めるよう、もういちど国会の中で議論することが望ましいのではないか。そのためにも、不安を持っている皆さんが、声を大きくしていき、自治体や国をかえていく元となれるとよいのではないか。(根本)
~ 課題とどう向き合い、乗り越えるか ~
◇「差別」や「風評被害」はロシアにはあるのか(参加者)
◇ ロシアでは、遺伝的影響もふくめて避けて通れない問題として向き合っているが、日本のような差別や風評被害はあまりないようだ。チェルノブイリ事故後ずっとキエフの校長を務めてきた先生によると、避難してきた子どもが慣れるのには時間がかかったが、避難者だからと差別されることはなかったし、避難者2世についても同様だ。ロシアでは食物の汚染は認めているが、あまり風評被害とならない点については次回の取材課題の1つだ。
日本では、支援地域の指定が、放射線量に関わりなく自治体ごとなどで区切られており、地域の中で線量に応じた補償や支援が受けられないが故に分断が発生している。また、健康被害を認めないとする空気が強いために、被曝の問題が一部の人に限られている結果、潜在的な差別意識が生じやすい状況だ。ロシアでは、線量によって支援地域を区分しており心理的な分断は少なく、年間0.5ミリシーベルト以上の広い地域において被災者認定され、被害があっても悪いのは原発との認識が浸透しており、被曝疾患の問題も社会的に共有されている。(白石)
◇ 世界の他の国々の行政担当者たちから見て、日本の被災者の健康に関連するデータは、どう評価されているのかについて調べ、日本国内にその情報を広めると意義があるのではないか。(参加者)
◇ 日本政府から海外にでているレポートでは、福島原発事故では健康被害は起きないと、ほぼ言いきっているに等しい。国内の多様な情報を、英語でもっと海外に発信していけるといいと思う。そのためにも、健康への不安について声をあげられるような社会づくりが大切だと思う。(白石)
◇ 地方政治では、そのつど判断して実行してきた。汚染状況重点調査地域とは、子どもに関する地域で地上50cm、それ以外では地上1mで放射線量が1時間あたり0.23マイクロシーベルト以上の地域で、この線量はおよそ年間1ミリシーベルト以上に相当するが、それ以上の放射線量なら除染の補助が国から出る。野田市は、同地域に指定されているが、地上5cmで計測して除染を実施しているためより多額の費用がかかったが、危機対応として必要だと決断し、後の責任は自分が取るとして実行した。いっぽう、健康被害の調査を野田市が、10年20年の長い期間にわたって制度として実施することは、治験の積み上げで顕著な事例が出てこない限り、予算は少額だとしても市議会を通らない話だろう。世のなかに蔓延している無駄遣いという言葉が気になるが、危機管理で必要なら実行する。地方行政として積み上げていくことが国の行政につながると思う。みなさんに、地方行政にも注目してほしい。(根本)
◆ OurPlanetTVオリジナル・ドキュメンタリー『チェルノブイリ・28年目の子どもたち』:4月18日より頒布、予約受付け中。詳細はこちらから
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総集編(SJFアドボカシーカフェ20140409)