ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第79回開催報告
妊娠で羽を折られることのない社会に
―妊娠にまつわる不安の解消に向けて―
2023年7月31日、鶴田七瀬さん(一般社団法人ソウレッジ代表)をゲストに、末冨芳さん(日本大学文理学部教授)をコメンテータに、土肥潤也さん(NPO法人わかもののまち事務局長)をコーディネータに迎えてソーシャル・ジャスティス基金(SJF)はSJFアドボカシーカフェを開催しました。
人生を主体的に生きることができる社会を目指していると鶴田さんは活動について語りました。他国と比べても女性として生きていく際の課題が多い日本で、妊娠や出産をめぐる課題に注力しています。主体的な避妊へのハードルを下げる社会の仕組みづくりの一環で、予期せぬ妊娠を防ぐ、中絶の手前にある最後の砦である緊急避妊薬を無償化することに取り組んでいます。未成年の母親が意見表明し自己決定する権利が、保護者の監護権によって阻害されていることを問題提起しました。
課題を解決する方向に政策を変えるためには、いろいろな活動体が立場を超えて一枚岩になって政策提言をしていくこと、当事者の困難を具体で可視化することが重要だと末冨さんは強調しました。問題が複雑になると専門家の議論に終始して当事者の声が置き去りになりがちだと土肥さんは問題提起し、当事者の声を政策に反映していくにはどうしたらよいかと投げかけました。
政策提言を実際に予算編成に反映し実効性を持たせていくために、考慮すべき国や自治体のスケジュールが末冨さんから教示されると共に、政治家や官僚とのコミュニケーションのポイントがご経験に基づきアドバイスされました。大前提として、官僚との信頼関係が大切であり、官僚と敵対しない立ち位置で一緒に良くしていく問題解決志向で臨むことが勧められました。
法制度を変えていく過程では、前提を共有できず理解しがたい相手とも、その心配事と向き合い、社会のみなさんのためになる道筋を見出していく重要性が共有されました。批判は、改善策を示すことであり、怒るべきところは怒ることは必要ですが人格否定はせずに、対話をしていくことの大切さも話し合われました。
詳しくは以下をご覧ください。
——鶴田七瀬さんのお話——
一般社団法人ソウレッジという団体を立ち上げてから今年度で4周年を迎えるので5年目になります。もともと静岡県出身で、今、土肥さんが事業をされている地域と近いところで、大学も学部も一緒でした。
その学生時のテーマとしては、性教育が日本の中であまりされていないということに課題意識を持って、それをどうしたら日本でできるのかということを勉強するために、デンマーク、オランダ、フィンランド、イギリスの4カ国に行って来ました。その中で、やはり日本とほかの国の違いとか、こういうふうに日本が変わっていったらいいなというのが、かなり明確になったので、帰国してから女性として生きていく中で感じる課題の解決のためにソウレッジを創業しました。
そこからしばらくは性教育の教材を作って、子ども支援をしている団体さんたちに寄付することなどを2年ぐらいやっていたけれど、その中でいろんな課題が見えてきて、今は避妊薬や性知識、福祉や性教育とかを全部一緒に届けていく「おひさまプロジェクト」を開始しました。
人生を主体的に生きることができる社会に 妊娠や出産も
今、私たちが何を目指しているのかを、最近ちょっと定義し直して考えていたけど、「人生を自分が選択している」という状態を、「主体的に生きる」という言葉として、「人生を主体的に生きることができる社会」にしたいなあと思っています。これの主語はあまり狭めていなくて、子どもでもいいですけど、幅広く「みんな」、「誰でも」みたいな、そういう感じで受け取ってほしいと思います。
今の実施事業は、女性主体の避妊。避妊薬とか避妊方法とかの資金を私たちが出します。それによって利用者さんの声を集めて政策提言をします。それと同時に、性知識を避妊薬と一緒に届けていきます。そして最後に、知識を届けて避妊薬を届けても、家が無いから性的な職業に就いている方がいらっしゃるので、そういう課題を解決するために住居支援までを全部やっていこうとしています。住居支援はまだ出来ていないんですけど、こういう感じの流れで全体を捉えております。
最終的には生み出したい変化は、避妊薬の価格が下がって、みんな医療アクセスができるということと。避妊薬の種類が増える。避妊方法を適切に選べる知識を持っている状態になる。そして最後に、経済的な事情で、本当はしたくないけど性行為を行うような状況にいる人たちが減っていく。ここですね、生み出したい変化は。そういう感じの全体的なイメージを持ちながら、あの事業をやっております。
ではもう少し避妊の話に偏った話をしていこうと思います。今、日本で使える避妊薬は、緊急避妊薬とコンドームと子宮内に入れるミレーナと呼ばれる子宮内のシステムと低用量ピルです。あと海外で承認されているようなミニピルとか小型のミレーナとか膣リングとかパッチシールとか、腕に挿入するインプラントとかがあります。
日本ではまだ未承認なものは自費でやろうと思ったら、例えばインプラントは10万円ぐらいで入れるところもあるけど、現実的な価格ではなかったり、パッチシールも売っているところはあるけど、ちょっと高くて1枚5000円ぐらいで売っていたりして、1枚で1週間位使えるので日常的に使っていける値段ではない感じです。また、薬で副作用が出てしまった時に保証が無いので、本当に病気になって働けなくても保証されずお金がもらえないという状況になってしまいかねない。他の日本で承認されている薬は、副作用が出たらそのお金がもらえて、保障されている状況です。
こういう今の日本の状況で一番使われている避妊方法はコンドームです。その次に低用量ピルです。ミレーナはまだだいたい1%ぐらいの人しか使っておらず、ほとんど知られていなかったという状況にあります。
緊急避妊薬は予期せぬ妊娠を防ぐ、中絶の手前にある最後の砦
私たちが避妊薬のお金の負担をしているという話をしましたが、とくに緊急避妊薬に主軸を置いてお金の負担をしています。緊急避妊薬は何かというと、避妊に失敗した時、つまり性行為の後72時間以内に飲む薬です。コンドームが破れちゃったり、避妊すると言っていたけど結局してくれなかったみたいな状況や、途中でコンドームを外されちゃったり、いろんな状況で飲む薬でもあるので、全然避妊をしようとしていませんでしたみたいな状況をイメージしがちですけど、結構、失敗しちゃったり、性暴力になっちゃったり、そういう時に「予期せぬ妊娠を防ぐ、中絶の手前にある最後の砦」になっています。
緊急避妊薬は中絶薬と同じと認識されている方がよくいらっしゃるけど、全然違う薬です。緊急避妊薬はまだ受精卵ができる前に、受精卵ができないようにする薬なので、妊娠を妨げる、つまり避妊という薬です。中絶薬はもう妊娠をしてしまった後にその妊娠をストップさせる薬で、緊急避妊薬は飲む時期が違うというのと、妊娠をしないようにという意味で使われている薬であるということを知っておいてほしいと思います。
緊急避妊薬は避妊薬の中でも特殊なもので、コンドームを使うことがいわゆる正義だったり、妊娠したくないなら性行為をするべきではないといった多くの人が持つ基本的な価値観があったりして、それによって非常に相談がしづらいという特徴がある薬だと思います。
避妊に失敗しちゃった時に親に相談できなくて、お金が無くて買えないとか、知り合いにバレたらどうしようとか、親にも怒られるとか、病院に行くのが怖いとか、障害があって一人で移動ができないとかで、時間制限がある薬なので、飲めないで終わって時間が過ぎてしまって結局飲めなかったみたいな特殊な状況に陥りやすい薬です。特にこの中でも、最新の調査である2021年に行われた“#なんでないのプロジェクト”によると、だいたい半分ぐらいの人はお金が理由で諦めているという結果が示されています。
これを解消したいと思って、私たちはお金の負担、つまり病院に行ったら無料で薬をもらえますよ、という「おひさまプロジェクト」をしています。
若者支援団体に相談があったりとか、若者個人で情報を仕入れたりというのもあるけど、そこから連携先の病院に行ってもらいます。その病院で薬を無料で提供してもらって、緊急避妊薬は早く飲めば飲むほど効果が高いという薬なので、その場でお薬とお水をお渡しして飲んでもらうというようにできる限りしてもらっています。
そして、その場でLINEに登録をしてもらって、性知識とか福祉情報がその後届くようにしています。そのLINEで最初に届けるのは、「緊急避妊薬を吐き戻しちゃったら、どうしたらいい?」とか、「緊急避妊薬の後こういう状況になった時にはこういう対処をしてくださいね」とか、「結局、妊娠しちゃった時はここに相談したらいいですよ」とか、そういう情報です。
最後に、若者からはお金が病院に入らないということで、どういうふうにしているかというと、ソウレッジと病院で直接お金のやり取りをして、実際に使われたお金だけ私たちが払いますという仕組みにしております。
今までは緊急避妊薬だけでプロジェクトをやっていたけど、やはり緊急避妊薬の後にもっと確実な避妊方法が使われて欲しいなあと考えています。ミレーナとか低用量ピルとか妊娠検査薬とか、結局その後、その人が必要になるようなものは全部お金を負担しようと取り組んでいます。また、対象を24歳以下にちょっと年齢を引き上げました。これは、いろんな調査で24歳以下という区切りをされているという理由で、24歳以下に変更しております。
今は、病院の連携先を拡大し、若者支援をしている団体さんの中で認知を広げて、処方数を増やしています。東京ではだいたい13の病院で、関西では今病院と連携の話を進めていて、岡山に1病院連携しているところがあります。
どのような若者の現状があるのか、私が把握しているものだけにはなってしまうけれど、若者からの声を話していこうと思います。
「おひさまプロジェクト」はすごく特殊で、私たちはお金の負担だけをしているので、たくさんの声を拾い上げられているわけではないですが、若者からお手紙が届いたりしたのをちょっとまとめてみました。
「こういうことをしている団体があるっていうのを今まで知らなくて、偶然見つけたので、本当にありがとうございます」。あと、これは文字にするとあまり感動が伝わりづらいかなってとは思いますが、「本当によかったです」みたいな感じの文章もありました。
また、行動として仙台から東京まで薬をもらいに来た方がいて、新幹線に乗ってきているので、薬のお金を負担する意味はあんまりないけど、なぜそういう行動をされたかというと、「地元だと身バレしちゃって、怖いから薬がもらえなくて」みたいなこととか、「地元の病院だと理解してくれるような先生が探せなかった」みたいなことがあって、東京で私たちが連携病院をつくっているので、「交通費だけで結構かかって、さらに緊急避妊薬で1錠1万5千円とかすると、さらにお金が無くなってしまって大変なので、交通費だけの負担でなんとかなってよかったです」みたいなことを言う方もいらっしゃいました。
あと、これは「おひさまプロジェクト」の利用者さんではないけれど、私に個人的に相談があった時の声をまとめてみました。
「コンドームを自分はしてほしかったんだけど、相手に勝手に外されてしまって、避妊に失敗したため、緊急避妊薬をもらいに産婦人科に行ったけれど、お医者さんや看護師さんにすごい説教をされた。若いのになんでそんな無責任なことをするのかとか、ちゃんと避妊しないとダメでしょうとか、いろんなことを言われた」。でも私は、緊急避妊薬をもらいに行くって、ちゃんと避妊をしようとしていると思うんですよね。「ちゃんと避妊をするために病院に来たのになんで説教されているんだろうっていう 疑問、ちょっと不信感みたいなのが病院に対して湧き上がる経験がありました」。
あと20歳の方から相談がきて、「学費を払うために風俗で働いてます。普通の昼のバイトもして、風俗でも働いて、自分で学費を払わないといけない」という話をされていました。その時にお客さんが避妊をしてくれなくて、自費で1万円ぐらい立て替えて緊急避妊薬を飲んだけど、結果的には妊娠をしてしまって中絶をしないといけないってことで15万円をお店に借金をして中絶をしました。「もうその状況だけでもすごく精神的には辛くて、もう絶対に風俗で働きたくない。でもお店に借金をしちゃって、返さないといけないから、また風俗で働かなきゃいけない。どうしたらいいですか?」と相談があったりしました。
「おひさまプロジェクト」をその時はまだやっていなかったけど、こういうのが個人的にダイレクトメールでたくさん来ていました。お金が理由で、「本当はこれをしたくないんだけど、しなきゃいけない」とか、「本当は学校に行きたいんだけど、諦めなきゃいけない」とか、「風俗で働きたくないんだけど、働かなきゃいけない」とか、自分の人生を主体的に選ぶのがいろんな理由で非常に難しくなっている状況を知りました。その中で特に、妊娠や出産が絡んでいるような課題にいっそう関心が高まっていった感じです。
避妊薬を無償化し中絶率の減少へ
それらを解決するために今後やっていこうと思っていることや、今やっていることをお話します。
緊急避妊薬をはじめとした避妊に関する医療制度を改善するための政策提言をしていこうと思っております。
あと、今は連携病院や支援団体を拡大して支援の幅を広げたり、政策提言の時に一緒に後押ししてくれる協力者をつくったりしております。
また、これはもっと頑張らないといけないと思っているところではあるけど、自民党の勉強会に呼んでいただいたり、ポリスタという番組に出させていただいたりして、避妊薬に関しての理解を促進しています。「緊急避妊薬って何? 中絶薬と何が違うの?」みたいな議員さんの状況から、もう少し知識をつけて、「そういう時に必要なんだね」みたいな感じで解像度を高めていくことを地道にしております。
もう少し打開策が見つかればいいなと思って、今日はお話を聞けたらと思っております。
今、私たちが目指している政策提言の内容としては、結構いろんな道筋があるなと思っているけど、一番やりたいものとしては、避妊薬を無償化することです。避妊薬の無償化をしている国はいくつかあって、イギリスもそうですけどイギリスはそもそも医療費が全部無料なので枠が違いますが、フィンランドやスウェーデンやフランスだと避妊薬は無償です。特に未成年に対してはお金を負担していますよとか、中絶も同時にあの無料にしているような状況にあります。その結果、中絶率が減少するなどの結果が出ているので、それを日本でもできたらいいなと思っております。
主体的な避妊へのハードルを下げる制度を 保護者の同意が必要な医療制度、避妊薬の選択肢の少なさの改善を
避妊薬の値段以外にいろんな課題が見えてきました。「おひさまプロジェクト」の中では、緊急避妊薬を使用後の、例えば低用量ピルを飲み始めるとか、そういう自分でできる避妊方法に移行して行きたいと思っているけど、最初のお金だけ負担して後は自費ですという今の立てつけだと、「結局自分で払うんだったら、したくないです」みたいな感じになっちゃって、なかなか移行が難しい状況です。
あと、婦人科を訪れるハードルの高さも課題です。これは、怖いという先ほどの話もあるけど、それ以外にも、今、病院の中では緊急避妊薬や中絶薬は保護者の同意がないとできないという理由もあります。本当は子どもとしては、例えば親から性被害に遭っている時に、親の同意なんて得られないじゃないですか。病院に行く時にバレちゃう親としては誰にも言わないでほしいじゃないですか。でも性暴力を受けている側の子どもとしては、本当は病院に行って緊急避妊薬を飲んだり、ピルを飲んだり、中絶したり、そういう医療的なものを受けたいのですけど、親の同意が取れないと手術もできないし薬も処方してくれる病院を探すのが難しくて病院に行けない。そういう医療的な制度のハードルの高さもあると思っています。
最後に、避妊薬の種類が少ないという課題があります。例えば、シールで貼るパッチは、日本の感覚にすごくフィットしそうだなと思っています。子宮の中に入れるミレーナは怖いのであまり使いたくないという人が日本だと感覚的には多くて、パッチみたいな形で、体内に入れたり飲んだりはしないけど、湿布のように貼ると体に効果があるものの方が日本人の感覚としてはすごく使いやすいんじゃないかと思っています。でも、市場が小さいということで、輸入する製薬会社さんがいなくて、厚労省に申請をするには製薬会社の協力が必要で、進まない状況にあります。
今日特にお話ができたらいいなと思っているのは、この婦人科を訪れるハードルが、法律によって非常に高くなっていることについてです。それは、子どもが何か詐欺に遭ったりした時に守るために監護者の権限が非常に強くなっているのかなと思っているけど、結局その子どもが医療を受けられない状況に今かなりあるので、どうしたら制度として、こども家庭庁や厚労省などの力を借りながら実現していけるのかなと考えています。どうしたらもっとハードルを下げていって、子どもが医療を必要だと思った時に行動に移せるのか、みたいなお話をできたらいいなと思っております。
土肥潤也さん) このあと末冨先生からコメントをいただきますが、そのアドボカシーや政策形成にどういうふうに反映させていくかというところもテーマとしてあると思うけど、そういう意味で、ソウレッジで取り組んでいてなかなか変わらないなあとか、変えていくときの障壁になっているものはどんなものがあるのかとか、鶴田さんからもう少し整理してお話してもらえますか。
鶴田さん) 私たちはみんな性教育を受けずに育ってきてしまったんですよね。それって、政策の中でもすごく大きな意味を持つと思っています。こういう話をした時に、議員さんで避妊が何かっていうことがあまり分かっていない人がたくさんいるんですよ。ほとんどの人たちは性教育を受けてないので、「避妊薬って、いつ飲むの?」とか、「それって中絶薬だよね」とか聞かれて、そこから話をして行かないといけなくて、基礎知識の無さがものすごくネックになっていると感じます。「望まない妊娠や虐待を無くしたいです」と言ってくれている議員さんでさえ分かっていない、というのがあるかなとは思いました。
土肥さん) もう少し具体的な議論になると、テクニカルな障壁が出てくるのですか。
鶴田さん) そうですね。多分、私がそこまで具体的な議論に移れていないのかもしれない。私が経験としてあまり政策提言をしてきたことがないので、イメージ解像度が低いのかもしれないです。
土肥さん) 提言活動自体はどういうふうにやっているのですか。
鶴田さん) こういうことをしていると言えるのがほとんどなくて、政策提言は今後していきたいな位の段階にいると思ってもらえた方が正しいと思います。お話をする機会をいただくことはあって、院内集会で中絶薬の議論や緊急避妊薬を薬局で販売することについての議論に参加させてもらって議員さんの開拓をしたり、自民党でこういう話をしてもらえませんかと話したりとか位です、まだ。
土肥さん) じゃあ、活動する中で壁になっていることや、変えたほうがいいなあって思っていることもだんだん見えてきているけど、それをどういうふうに形にして政策提言につなげていけばいいか分からない段階ですか。
鶴田さん) そうです。
土肥さん) わかりました。ありがとうございます。ここから、末冨先生からコメントいただければなと思います。もしコメントの中で鶴田さんに質問したいことがあれば、その場で質問していただいてもいいかなと思います。では、お願いします。
——末冨芳さんのコメント——
私自身は特に性教育が専門というわけではなく、教育政策、子ども政策全般に関わっていて、今、こども家庭庁の委員をしておりますし、過去に文科省、経産省、内閣府党の委員もしてまいりました。
今からする話が多分オーディエンスの皆さんにとっては非常にテクニカルな話になってしまうので、何をどうお話ししたらいいかなと思っております。必ずしも、政策提言にご関心がある方たちばかりではないと思うので、十代への支援みたいなところにフォーカスを合わせた方がオーディエンスの皆さんのニーズにはあっているかもしれませんけど、土肥さんの方で少し整理いただきたいです。今の鶴田さんのお悩みにフォーカスした方がいいのか、あるいは若者支援の話にも引き付けた方がいいのか、今お話を聞いていて非常に悩ましいと思ったので。
土肥潤也さん) アドボカシーカフェ自体が、オーディエンスの皆さんを無視するわけではないですけれども、この活動をより活性化させ深めていくことを趣旨として取り組んでいる部分もありますので、後半でグループ対話の時間もありますし、このあとパネルの時間もあるので、この時間はもし可能であれば、政策提案に寄せてコメントいただいてもいいのかなと、勝手ながら司会の独断で思っています。
末冨さん) わかりました。じゃあそのようにお話させていただきますので、その話は自分のホットスポットじゃないなという方はお茶でも飲みながらゆったり聴いていただければと思います。
まず、基本的には官僚と話すことが非常に大事ですけど、鶴田さん、そのあたりはどういうふうにしていらっしゃいますか?
鶴田七瀬さん) その政策提言に関する担当部署の官僚という意味ですよね。それは、できているとは言い難いです。
政策提言を予算編成に反映し実効性を持たせるためのスケジュールやコミュニケーション
末冨さん) そこも急いでやった方がよいです。特に包括的性教育等は、日本はごく一部の議員によって今までブロックされてきましたが、今ようやく、なんとかしなきゃいかんという話になっているんです。
教科書行政は特殊ですが、例えば避妊薬を無料化したいみたいな話があるとすると、一年間のサイクルがあります。だいたい国としては今、8月に向けて予算編成中です。その前に6月の骨太方針があります。その骨太方針に何かが書かれなければ、予算編成には絶対に盛り込まれません。
その上でいろいろ調整して予算が成立する。例えば避妊薬が無料になりますみたいな話があるとすると、もう今年は既に勝負はついたと思っていただいて間違いないですね。6月の骨太方針に今お話されたようなこと何か入ってますでしょうか?
鶴田さん) いや、入ってはいないですね。ただ、厚労省の予算の中で今、若年妊娠やハイリスク妊婦の支援をしていくという中で、医療費の予算、医療費の保証をしますみたいなのは入っています。自治体で予算を作ってくれたらその半分は国で負担します、みたいな内容は入っています。
末冨さん) だとしたら、その政策を改善し続けなきゃいけないので、予算成立後に自治体でも、国より1ヶ月遅れぐらいで予算編成して行きますので、動いていく時につながっている自治体と予算編成してもらって、成立した後の来年度どういうふうに予算が動いているか、そしてどういうふうに若者に届いたり届かなかったりしているのかというのを検証して、やらなきゃいけない。
私もいろいろやっていますけど、年明けが一番忙しいです。1月から5月ぐらいまで。そして6月の骨太方針ギリギリまで。どちらかというと、前の半年の方が忙しくて、後の半年は もう今年も一山越えたという感じにしたいけど、実はこの12月もすごく大事なタイミングになるので、いろいろ山があります。
ただ、その時にどの予算、あるいは今予算に盛り込めない項目があるとしたら、どうやって予算にするかを考えながら、1年間計画立てて動いていくことがまず基本になります。
その時に、各省庁の官僚とかなり信頼関係をつくりながら、担当者がもうそろそろ6・7・8月で動いていくので、例えば9月以降に、「こういうことを今までやってきたんだけれども、ちょっと上手くいってない」とか、「そういうとこに予算がついてない」とかについて壁を教えてもらうことです。
それで、今のその基盤には法令がありますので、「今の法の下でこういうふうに予算が組まれていて、だからこの予算はまだ付いていない」とか「付けたいけど、付けられていない」みたいな話があるので、それをまず明らかにした上で、国会議員、特に現在の与党議員にその困り感をきめ細かく整理して届けていかなきゃいけないことになります。
官僚との信頼関係が大前提
鶴田さん) 官僚との信頼関係をつくるっていうのは、具体的にはどういうステップで末冨先生はされてきたのですか?
末冨さん) 簡単に言うと、接触頻度を増やすことですね。「ちょっとこういう案件があって、アポを取りたいんですけど」と言って、何回か通うみたいな感じですかね。
鶴田さん) 今、自分の団体だったらどういう接触の仕方があるのかな、と考えています。
末冨さん) 単純に、意見交換から始めるほうがいいと思います。「今までみたいなことをやっているんだけれども、中高生の段階で避妊や相談できる医療機関の知識をもっといっぱい――ゲストスピーカーみたいな授業がたくさんできているけど――全ての子どもが学べるにはどうしたらいいですか?」みたいな。その上で、でも、そういうことで大雑把に政府に相談すると、「これはこうだけど、これはこう」みたいな官僚的な切り分けが出てくるのです。それを理解しておくのが非常に大事なことです。素人みたいに「何でそうなっているんですか!」といくらでも怒れる案件ですけど、「だから、この国の子どもは置き去りにされているんだ」とかも言いたくなるけど、「なるほど。では次に向けて、もう1回、整理してきますので、また次よろしく」みたいにシレっとまた次のアポを取るようなことを続けるのが大事です。
鶴田さん) 官僚に切り分けを話された時に、自分の担当、仲良くなるべき場所はここじゃないなとなったら、別のところでアポとって。
末冨さん) そうそう。1回目はそこだけど、「本当はこっちの部局でこういうことをしているんですよ」みたいな話があれば、もうそっちにアポを取った方がいいと。それで親切な担当者だったら関係部局も呼んでくれるのですが、全員が親切で気が利くわけじゃないということですね。
予算を得る根拠法を 内閣提出法案あるいは議員立法で 法案作成あるいは改正
基本的にこの一年間の流れを念頭に置いて、かつ、予算をつくるにしても、根拠法が無い場合には、こども基本法は典型的ですけど、まず立法しなきゃいけない、法律をつくったら改正したりしなきゃいけない。
そういった時に、法律をつくるタイミングは二つあります。一つが3月末に向けての、例えば厚生労働省や文科省が提出する法案です。内閣提出法案と言いますけど、各省庁が出してくる法案が3月末に向けて改正で、その緊急避妊薬の無償化の例ですと、おそらく医療保健関係の法改正が必要になる前には厚労省と相当打ち合わせして、厚労省の審議会を動かしてもらって、この3月末の法案・法改正を実現しなきゃいけない。このハードルは結構高いです。ただ、今の国の動き見て、決して厚労省だけが動かないわけじゃないので、この3月末の内閣提出法案で、厚労省と連携して何か法改正を狙うタイミングもあります。
もう一つが議員立法です。例えば、こども基本法や子ども関係の法案で子どもの貧困対策法や児童虐待防止法は全て議員立法です。議員立法の場合は、実はこの3月末が終わって、4・5・6月の間で集中的に審議されて可決されたりされなかったりします。となると今度は、例えば、どうしても厚労省が崩壊して難しいとなった場合には、議員立法でその望まない妊娠を防ぐための法案をつくることになるとすると、4・5・6月で議員立法を目指すと。これはこれで、またそこに向けた動きが必要になります。
そのあたりの根拠法の有る・無し、それから根拠法が有る時・無い時を含めてこの予算をどうやって実現していくかというのは、いずれの法律のつくり方でも、あの年間スケジュールを見通しながら動いたほうがいいということになります。
ただ、議員から先に入るよりは、政治家の人も真面目な人ほどいくつも課題を抱えていらっしゃるので、どちらかというと専門の官僚から入って、まず「こういう政策をつくりたいけど」と言って、そこから、「何が今この予算をつくることを阻んでいるのか」と阻害要因を明確にして、どうやってクリアするかという攻略を立てるほうが大事です。官僚ベースから始めるほうが大体上手くいくと思います。
官僚と敵対しない立ち位置で一緒に良くしていく姿勢で 当事者の困難を具体的に可視化
私が最近やっている活動で例示します。
今、教員不足の話をやっていますけれども、基本的には私と、教育関係では有名な学校の働き方のアドバイザーをしてらっしゃる妹尾昌俊さんと、School Voice Projectさんという現場の声を文科省だけじゃないですけど政策につなぐ提言をしていらっしゃる団体さんが連携してアクションしています。
ただ、この連携してアクションして記者会見して、「けしからんじゃないか」みたいな会見は一切していません。
大事なことが、もともと文科省とのすり合わせがある、信頼関係があることと、そして一番大事なことが、調査をしつつ、若者や支援者や当事者の声を届けることです。これがたぶん活動にも関わる。自民党の議員さんがなかなか理解してくれないみたいな話があるけど、“人”が見えないとダメです。率直に言うと、多くの政治家とは世代差もジェンダー差もあるので、若い人の妊娠なんて自己責任じゃないかみたいな発想が往々にしてあるけど、実はそうじゃなく、こうやって苦しい状況に若い特に女性が追い込まれていくみたい具体の姿が見えるようにしなきゃいけない。
シングルマザーの団体さんとか、オンラインでその場でシングルマザーさんとつながって自民党の議員さんとしゃべってもらうことをされているのです。やはり人の姿が見えると反応が全然違います。
立場を超えて目的を共有できるいろいろな活動体が一枚岩に 政策を変える
未婚ひとり親の寡婦控除の話というのは、今まで私が見てきた中でも女性の分野では一番の成功例で、非常に頑なだった自民党を変えて、税制を変えたのです。未婚ひとり親、結婚しないまま出産された女性が、それまで税制上すごく差別されていたのを、結婚歴がある人と同じようにしたのです。よく考えたら当たり前のことですけど、自民党は、未婚ひとり親は自己責任で結婚もせずに産んだとみなしていたのが、自民党もご理解、厚労省もご理解いただいて、厚労省のご理解のほうが当然早かったですけど。
といった時に、未婚ひとり親支援の団体さんは、非常に成果を上げてきました。ただ、この時に私自身は中心にいたわけじゃないですが、傍から観察できる立場にいたので分かったのが、なぜこれが動いたかというと、一つは、ひとり親関係のいろんな団体さんがそれぞれ動いていたことです。それだけでは上手くいかなくて、最後の最後で自民党の女性議員さんたち、特に精力的に動かれた国会議員さんから、ひとり親支援の団体が言われたのが「全国組織を作りなさい」。
それで今、ひとり親の全国組織が出来ています。なぜ出来たかと言ったら、一枚岩になっていることが非常に大事です。それを私自身も今までの活動の中で意識してきました。
誰と組んで、どういう成果を出すか。逆に言うと、成果から逆算して誰と組むかも決めた方がいいので、私はその時々で組む相手は変えています。私は誰でも組む相手の原則が決まっていて、基本的には超党派で活動できることで、超党派で活動できるというのは、誰かのことを否定しないことです。ちゃんと会話ができる人たちであるということなので、そういったことを意識されると、もしかしてちょっと進むかなと思います。
以上、非常にテクニカルなアドバイスになりましたけれども、なにか鶴田さんからご確認されたいことがあればお願いします。
鶴田さん) スケジュール感の全体が分かっていなかったので、非常にありがたかったです。
また、超党派の一枚岩になって行くみたいなことは、問題意識としては結構ずっとあって、女性支援団体の中でちょっと派閥があったりとか、どこの政党と組むかっていうのがすごく難しい状況にあったりとか、そういうことは課題感を持っていたので、やっぱりそうだよなと考えています。
——パネル対話——
理解しがたい相手の心配事とも向き合い、社会の皆さんのためになる道筋を見出す
土肥潤也さん) お話を伺っていて、お二人に聞いてみたいと思ったのは、鶴田さんからもあったように、性教育を今の議員の世代の人たちが受けていないという前提の中でいろんなアドボカシーやロビング活動を進めていかなければいけないというのがあるのかなと思っていて、そういう前提が共有できない相手と、どういうふうに対話をしていくか。すごく骨が折れる作業だなと思っていて、僕もけっこう根気がないと、そこまでもう理解できないんだ、と途中であきれちゃうこともある。
理解を求めていく姿勢がいいのか。相手の立場になって、到底理解できない相手とも対応していかなければいけないことって結構あると思うんですよね。その時に、もちろんその権利とか正義を主張すればいいけど、それだけだと前に進んで行かないことの方が多いから、何も変わっていかないこともあるのかなと思っています。そのあたり、どういうふうに進めていくのがいいだろうと、今お話を伺いながら思っていたけれども、末冨先生、ご知見があれば。
末冨芳さん) 特に包括的性教育と聞くだけでもアレルギーが出る人たちがいて、包括的性教育の誤ったイメージがネット上でも非常に流通しているので、「包括的性教育っていうのは、そもそも我が国の憲法にも男女としか書いてないですが、性別に関わらずお互いに尊重しあって行くための教育なんです」みたいな言い方をして、「それが、ちょっと誤ったイメージがあるので、そこは私たちも心配していて、こういうふうに改善策があります」とか、とにかく相手の心配事を聞くことが非常に大事になる局面があります。
ただ、そこに行けたら結構ラッキーなことで、そこにすら到達できないパターンがあります。
多分、私が年を取って経験したことを皆さんたちはもっと若いうちに経験されているので結構ショックだと思います。私も若いうちに聞いていたら本当にガチ切れしていたと思うけど、この経験を先に伝えておくので、その程度ではガチ切れしないように。逆に、そこでガチギレしそうになってなるってことは、これはもう相手と絡むいいチャンスだと思って、「何がそうなの? それ、具体的にもっとご心配を教えてください」みたいな感じで、「私たちも対応して行きます」みたいに話すチャンスだとすら思ったほうがいいぐらい。ほぼ修業ですね。
土肥さん) それを受けて、鶴田さんからは、実際にいろんな議員さんや官僚の皆さんともう接触しているけど、この今やろうとしている分野における心配事と言われたようなものは何か見えているのですか?
鶴田さん) そうですね。緊急避妊薬だったら分かりやすい例で言うと、「男性が悪用するんじゃないか」はさっきの話の文脈的にはあったなと思います。
あとは、今は医薬分業、薬を病院で出すのではなくて薬局に処方箋を持って行って買う形を、チェックが2回入るようにと国としては勧めているけど、だいたい産婦人科の中だと院内処方という薬を病院で渡される形がけっこう主流です。なので、緊急避妊薬も薬局に行って飲むのではなくて、病院で飲むっていうのが今までずっと主流だったからこそ、薬局には扱ったことがある薬剤師さんが少なくて、お薬の相談された時にちゃんと対応ができないのではないかという懸念が出てきています。
また、これははっきり発言されているものではなく予想ですけれど、病院の取り分が減るというのは可能性としてはあるのかなと思っています。薬を今まで病院で売っていたものを薬局で売るようになるので。
末冨さん) 今、厚労官僚はけっこう思いがある人も多いので、もしかして、その辺の試算を出してくれると思います。
鶴田さん) そうですね。
土肥さん) はい、ありがとうございます。進めて行く時に完全に理解してもらえないことも、例えばさっきの子どもわがまま論の話とか、要するに心配事は完全に解消されないこともあったりすると思うけど、それはちょっとずつ解消していく、折り合いをつけていくっていうやり方ですかね。
末冨さん) そうですね、「何か気になることがあった時には、私たちの方にご確認ください」という関係が作れるといいかなと思っています。
今まで理解しようとしてこなかった相手を理解しなきゃいけない時に、政治家や官僚の心配事が自分たちの団体に届くようにしておくと邪魔はされなくなるのです。
例えば、「緊急避妊薬を認可したら乱れた男女関係が」みたいなことを言う人がいますけど、実際には性教育を受けていないせいで、セックスが怖いとか、妊娠させたらいやだから、みたいな面もあるじゃないですか。そういう意味で言うと、完全に理解してもらえなくても、「そういう心配はない。むしろ、性への正しい理解が進むことで、今怖がって例えば『梅毒が流行ってる。でも何も予防法が無い、知らない』みたいな状態じゃなくなりますよ。男性も女性も性別を超えて自分たちの体を守れるようになるし、安心して相手と交際したり結婚して妊娠出産につながったりすることになるんですよ」みたいな感じで話す。
相手が心配していることに向き合い、むしろ国民のためになるっていうロジックをどうやってひねり出していくかが大事なところだと思います。
鶴田さん) そのロジックで、根拠をすごく用意して持って行った時に、その根拠はどう見たって合理的なのに、よくわからない主張をしてくる人がたまにいませんか。自分の信じたいものを信じていくみたいな。
末冨さん) いますけど、そこは都合よく聞き流して、聞かなかったフリでもう1回同じことを言う。
もしくは、聞いたふりをしてもう1回同じことを言う。1回、叩き返されたぐらいでは折れない。シレっと聞き流して大事なところを繰り返し言う。ここが大事なんだ、ここは曲げたくないんだということを伝えることの方がよっぽど大事なので。
怒るべきところは怒る 改善策を示して批判を 人格否定はせずに
土肥さん) なるほど。これも俯瞰して言うと、もちろん権利を侵害するような発言はよくないっていうのは前提ですけど、その政治家も政治家の正義の中で発言をしている部分はあるし、その人の生きてきた背景もあるから、もうこの人は駄目だっていうふうになっちゃうそこで全部終了してしまうから、上手く折り合いをつけていくのが必要だなと、伺いながら思いました。
ただ一方で、こういう発言するとあまりよくないかもしれないですけど、性教育やジェンダーの問題に関わっている若手――若手に限らないですけど、SNS見ていると若手の人たちが多いので若手が多いので――は怖いという印象を持ちました。差別に対する怒りを出すのはすごくいいけど、SNS上で「この時に会ったおじさんがこんなこと言ってた」みたいなことを後からTwitterでみんな書いてたくさんリツイートされていて、それは怒りとして表現した方がよいだろうなと思いつつも、全然前に進んでいかないし、むしろ分断がどんどん生まれてしまっているじゃないかという感覚もあって。僕もたまにボソッとそういう事をつぶやいちゃったり書き込んじゃったりすることもあるので人の事を言えないですけど、そういうのって、末冨先生や鶴田さんにはどういうふうに見えていますか。
鶴田さん) 私は多分そういう怒り出身で始めたところがあるので、かなり変わってきたとは思うけど、過去の自分にそのフェーズは必要だったと思いつつ、でもやっぱり社会の中で人と関わり協力をしながら変えていかなきゃいけないフェーズに自分は今来ているので、その時に協力できる人を見つけていこうみたいな感じのタイミングになっているけど、みんなそういうフェーズがあるのではないかなと感じます。若い人が怒っているように見えるのは、若いからなのかな。歳をとってくると、みんなそれぞれいろんな事情があるんだな、みたいな気持ちになってきて、あんまり怒らなくなってくるじゃないですか。
末冨さん) 批判はしていいです。じゃないと民主主義って必ず駄目になりますから。ただその時も、批判というのは「こう改善してほしい」ということです。児童手当の所得制限撤廃の話などをやっていると、もう議員さんたちの人格否定に走っている人がいて、それは絶対やっちゃいけない。ただ、「こういうふうな支援が絶対足りてない」ということを何回も繰り返し言うのはすごく大事です。児童手当の所得制限は、じゃないと動かなかったと思うので。私だけの力じゃない、そうやって子育て当事者が動いて、「まずいな」って自民党に思わせたから急にここまで動いたのであって。
怒るべきところは怒るのがすごく大事ということですね。私も2021年ぐらいは参議院の内閣委員会の参考人で、「でも児童手当の所得制限なんかやったら絶対少子化するので、何バカなことやってるの」みたいなことを言っていたけど、そうしたら23年になってちゃんと変わるわけじゃないですか。意味なく批判しているわけじゃなくて、「少子化の中で子育てしてくれている家族のために全然良くないよね」みたいな根拠があってこうしなきゃいけないっていう怒りは絶対大事にしないといけないとは思います。
土肥さん) 鶴田さんが今壁にぶち当たっていることを聞く会みたいな進め方でここまでを終えての感想は?
鶴田さん) 政策提言の相手として官僚から行く人と、議員から行け派の人がいて、議員の中でもここに行けみたいにいろんな人からいろんなこと言われて、どうしようと感じていたけど。官僚の方で特に母子保健課とたぶんこども家庭庁の担当の方ともっとコミュニケーション取りに行こうかなと思ってお話を伺っておりました。
未成年の母親の意見表明・自己決定権と保護者の監護権の問題へのアプローチ
聞きたかったことがあります。
こども基本法の中で全ての子どもが医療をちゃんと受けられるように保障するみたいなのが文脈としてあったと思っていて、そのこども基本法の下で作られる制度の中で、さっきの出産妊娠に関する意思決定を子どもができるようにすることを入れられないのかと最近考えておりまして、お二人的にはどうですか?
「子どもが」というのは、未成年の母親。今は、未成年で母親になった人の意思決定じゃなくて、その保護者が医療に関しての意思決定権を持っているじゃないですか。いろんな理由があって、子どもは何か事件に巻き込まれた時に親が守るものだからみたいな建付けでもともとあったと思うけど、でも避妊や中絶の意思決定を母親である子ども自身ができないのは、未成年だからという理由でできないのはおかしいじゃないかと思っていて。それをこども基本法の土台の上に作っていけないかと。
土肥さん) なるほど。すごく具体的な話なので実際にできるかどうかは僕もよくわからないところはありますけど、そういうことを進めていくこと自体はできなくはないのかなって気がしました。その周りにある課題や背景がまだ完全に理解できてないので今ちょっと発言できない感じですけど。
末冨先生からコメントありますか。
末冨さん) テクニカルに言うと、こども基本法はできたばかりなので、今から関連する法律をどうやって子どもの権利・利益を実現するために改正していくかというのに割と長くかかるのです。ただ、できることからやっていったほうがいいので、「こども基本法ができて、あくまで理念法だけれども、子ども政策に関することはこども基本法に基づいてやるって決まっていますよね。子ども政策は子どもが関すること全ての政策なので、たとえば母子保健分野の場合、この法令をこう改正してもらいたいです」と要望を出していくのがすごく大事なことです。
こども基本法に「子どもの最善の利益を実現する」と書かれている時に、例えば「母子保健の分野でこういう改正が要りますよ」ということを丁寧に突き詰めていくと案外すんなりいける時もあるかもしれない。その突破口を開いていかなきゃいけないし、子ども大綱に向けて、こども家庭庁にも要望書を出すなど割と早いタイミングですることをなさった方がいい、もう秋には決めるとおっしゃっているので。こういう法改正を実現したいですという提言を具体で入れていかれると変えられると思います。
――グループ対話とグループ発表を経て、ゲストからのコメント――
※グループにゲストも加わり、グループの方々に感想や意見、ご質問を話し合っていただいた後、会場全体で共有するために印象に残ったことを各グループから発表いただき、ゲストからコメントをいただきました。
鶴田七瀬さん) ソウレッジがやっている取り組みはどうやったら他の団体でもできるのかなといったご発言があったとのことで、それについていかがですか。
参加者1) 今ちょうど授業で「若年層のかかりつけナースによるチャットサポート」っていう事業をしているけど、協力校の方からやはり緊急避妊薬のことや、妊娠の際にどうするのかといったお題をいただいている中で、ソウレッジさんの取り組みは以前からすごく関心があったのです。今日お話を聴かせていただく中で、支援の連携している病院の話があって、私の居住地は若い女性がすごく多いですが、この地域でも何かできないかなと。性被害も多いのかなと思っていますので、そういった医療機関との連携はどういう流れでされているのか具体的に気になります。
鶴田さん) 私たちが最初にやったのは予算を作って、クラウドファンディングで2000万円集めました。そこからスタートしていますけど、これは、もう既にお知り合いの財団さんがあったり寄付者さんがいたりしたら別に小さい予算で100万円とかからでも予算があればスタートできるかなと思います。
予算を作ったら、次は病院に電話をして、「うちの団体と一緒にこういう事しませんか」と言って、「無料にしませんか」と。それで協力してくれる病院さんが見つかったら、何かあった時にトラブルにならないように病院と契約書を結んで、あとは請求書送られてきたら払う。簡単に言うと、そういう感じで行っています。
参加者1) ソウレッジさんはその予算というのはクラウドファンディングでやっていらっしゃる?
鶴田さん) そうですね。最初はそれでやっていて、そこからは財団さんや寄付者さんに協力していただきながら、ちょっとずつ継続していけるように頑張っているところです。
参加者1) わかりました。ありがとうございます。またいずれ、そういう仕組みづくりのこともご意見交換させて頂けたらと思います。一緒に共同で、ソウレッジさんの実績として、そういう活動が広まっていくことの方に私は関心がありますので。
鶴田さん) ぜひぜひ。私たちは病院さんで協力してもらえるところを探す方が大変で。
参加者1) そっちは簡単です、逆に。
鶴田さん) ほんとですか。病院さんでそういうところがあって、かつそこに集まる若い女の子たちに情報をリーチする手法があれば、病院とリーチする手法の両方があれば、例えばユースセンターさんと病院さんがあるとか、そういう感じの場所だと、私たちとしては契約書結んでお金のやり取りをして簡単に進められるので。もしご協力いただけるのであればぜひ。
参加者1) はい。逆に、医療機関との連携はすごく得意な団体ではありますので、ただ若者へのリーチの仕方はソウレッジさんにちょっとお知恵をいただきながらできたら。
鶴田さん) 多分そういう地域だったら、やっている団体さんはあると思うので、そういうところを開拓していく感じになると思います。
参加者1) はい。ありがとうございます。
土肥潤也さん) 縁がつながっていいですね。
鶴田さん) 他にも、もしうちの地域でもやりたいですという方がいたら、個別でぜひ連絡ください。
参加者2) 末冨先生、よろしいでしょうか。去年の3月に厚生労働省が作った「スマート保健相談室」というサイトご存知でしょうか。文部科学省がやってくれないので、厚生労働省が高校生の意見を聞きながら作ったという、生徒妊娠の情報提供サイトです。これ、有名な産婦人科の高橋幸子さんと、高校生で赤ちゃんを2人産んだ重川茉弥さんが対談したコラムも掲載されていたりするサイトで、今後の充実が楽しみだったのです。
でも実は今年の5月頃、このサイトの運営が何の告知もなく、こども家庭庁に移管されてしまいました。そのサイトを移管したことが、厚生労働省からもこども家庭庁からもう一切宣伝がないのです。なので、今、地方公共団体や各地の公立学校のウェブサイトにスマート保健相談室のリンクもあるけど、厚生労働省の時代のリンクのままで無効になっているのが多くて移転しましたという案内もない。
すごい縦割り行政だなって思ったけど、管轄の省庁が変わってしまうと、こういうことが起きてしまうのですか。
末冨芳さん) 申し訳ないですけど、たぶん他の分野でも起きています。厚労省の旧子ども家庭局の所管だった政策事業は全てこども家庭庁に移管されましたので、割と他でも起きていますから、こども家庭庁のホームページ等から、そのことをご指摘いただいて、通知お願いしますということを届けられたらよいと思います。
参加者2) さっそく私から後で問い合わせしてみます。中身は非常にいいサイトなので、このまま放置しておくのはもったいないのです。どうもありがとうございます。
末冨さん) そうですよね。よろしくお願いいたします。
参加者2) なんで厚生労働省がやって、文部科学省はやらなかったのだろうって思うけど、それはともかく、あのこちらからもあのアクションをかけています。どうもありがとうございます。
土肥さん) はい、ありがとうございます。
末冨先生、鶴田さん、最後に今日の総括的な感じでコメントいただけますか。
末冨さん) 先ほど私は最初のグループルームに入っていましたけれども、自分たちが相談したくないとか、相談できるとも思ってないという話がありました。権利があるというのはまず、相談しても大丈夫だよということですけど、大人側が相談されても無視するとか、何も動かないとかがあまりにも多すぎるところもどうにか変えていかなきゃいけないなと思いました。
ユースクリニックについては、私自身もつながっている研究者や団体さんがいくつもありますので、全国化が急がれるのはそちらの方かなとも思います。そして、大きなネットワークになって、例えば、「保健の教科書、こういうふうに変えられますよね」とか言う。
最近、「生命(いのち)の安全教育」というのも文科省がやるようにと言っていますが、特に学校においては加害者サイドである教員や児童生徒、そして家族の意識を変えるためには、子どもや女性の軽視をどうやって改めていくか。性犯罪という表層だけを見ても仕方がないというご意見もありました。それは全くその通りで、私も女性ですから、性犯罪歴のある女性蔑視の価値観を持つ方からは、たぶん人間だと見られてないという実態がありますが、それは止めましょうと。
その前提として、性犯罪の厳罰化は非常に大事で、理解をしようとしてもできない相手に対しては、端的に申し上げると、国家権力で一番強い手段の行使が刑罰ですので、刑罰の対象にしていくということ自体は社会設計として間違ってないと思っています。ただ、それだけであまりにも不足していて、特に教育を変えなきゃいけないということは、皆さんおっしゃってくださっているので、私もできる努力をしますが、非常に差別的な方たちでも、その方たちとも対話を大切にしなければならない。
その先に、学校での子どもや若者たちだけでなく家族も含めて性の学びというものができる日本はやってくるはずです。現場からも変えていきましょうとの声がたくさん上がっていることも本当に心強く思います。今日は本当にこのような機会をいただいて、大変ありがとうございました。
鶴田さん) まず、今日参加してくださった方がすごくたくさんいて嬉しいなあと思っています。しかも、こういうイベントをやると女性ばっかりみたいなのがあるあるですけど、いろんな性別の方が参加してくださっているのかなとお見受けしていて、そこもまた非常に嬉しいなあと思います。
今日の話の中で末冨先生がずっと言っていたのは、理解し合えない人はこの世の中にはたくさん既にいて、そういう人たちとどう協同していくかみたいな話だったと思いました。
土肥さんからも途中で、権利を主張することは大事なことだけれど、やっぱりちょっと怖かったりとか、コミュニケーションをとるのに不安な気持ちになったりするみたいな話があって、それはフェミニズムに対してかもしれないけど、私は障害者差別を日常的にしていると思うのです。だけど、それを障害者の方に指摘をしていただいた時にすぐに受け止め切れる自分のスキルがあるのか、そういう事を考えた時、めっちゃごめんなさいと思うけど、対応しきれないような気持ちになる。頑張りたいけど頑張りきれない時もある。それ以外にも、自分が日本人として特権を享受している部分もたくさんあって、そのことをたぶん無自覚に享受しているけど、その他の人たちの権利に対して何も言ってないことはたくさんあると思うのです。
私は女性の権利についてたくさんの人に考えて欲しいと思うし、特に男性に考えてほしいと思いつつも、自分が特権を享受している側として他の人たちの権利についてもっと協力をしなきゃいけないなと思いました。特権を持っている人と、何かで困っている人が協力していくということの過程に、コミュニケーションをとることは絶対に必要で、それは、めちゃくちゃ権利が踏みにじられていると感じている側からしたら、すごく酷な過程だと思いますが、どうしたら相手が受け取りやすくなるかを考えるフェーズがどこかで出てきたりするのかな。自分は今余力があるので、そういうのをできるだけ考える側に自分は入れるように頑張ろう、でも逆に今本当につらい状況にいる人たちは頑張らなくてもいいように、自分が頑張れるタイミングで頑張っていこうかなと考えました。
土肥さん) 僕も実はこども家庭庁の部会の委員会でずっと委員をさせていただいていまして、自分の専門は子ども・若者の参画や意見反映、特に社会参画で、まちづくりへの参画みたいなことを仕事として取り組んでいます。
性教育や妊娠のこともそうですけれども、問題が複雑になればなるほど、専門家が議論してばかりで、そこに当事者の声が届かないことが多いなあと感じていまして、大人たちは良かれと思ってやっているけど、当事者の子どもたちの声が置き去りになってしまっている。当事者の声を聞こうと思っても、国の方でこれから子どもの声聞こうと言っているのに、こういう複雑な問題になると、子どもの声は、彼らは未熟だから聞いてもしょうがないとされてしまうのだろうなと思っています。
どういうふうに当事者の声を政策に反映させていけるかということを今日改めて感じさせられたなと、お話を伺いながら思ったところです。僕は国レベルでのアドボカシーはもちろん取り組んでいきたいと思いますけれども、地方レベルでも取り組んでいくことがいろいろあると思いますので、今日、末冨先生が出していただいたいろんなノウハウを共有させていただき、そのノウハウを参考にしながら僕ももっと頑張らないとなあとちょっと奮い立たされるような会だったと思います。 ■
●次回SJFアドボカシーカフェのご案内★参加者募集★
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※今回23年7月31日のアドボカシーカフェのご案内チラシはこちらから(ご参考)