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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第59回開催報告

 

当事者の声を「移民基本法」に

~移民一人ひとりと共に生きる社会へ~

 

 2019年6月18日、高山ゆきさん(ベトナム難民となり来日し35年余、技能実習生や留学生の救済や支援活動に奔走中)、山岸素子さん(NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長)をお迎えしたアドボカシーカフェを、SJFは東京都文京区にて開催しました。

 政府が閣議決定した「骨太方針2018 新たな外国人材の受入れ」をうけ、昨年12月に改定された入管法が4月より施行され、在留資格「特定技能」による外国人労働者の受け入れがスタートしました。この「特定技能」による受け入れ制度が、数々の人権侵害を引き起こしてきた技能実習制度の延長線上にあること、家族と暮らすことを認めていない点を山岸さんはとくに問題視しています。また、政府の「外国人受入れと共生のための総合的対応策」においても具体的な共生のビジョンと施策が示されておらず、一方で入国在留管理庁を設けて在留管理強化をしている点も問題視しています。永住等に結びつかない形での制度設計となっており、使い捨て労働者としてしか外国人労働者を見ていないのではないかという疑問を山岸さんは提示しました。

 この特定技能に移行できる従来からの技能実習生の実態は、人身取引と強制労働の温床であると国連から指摘されています。妊娠した技能実習生が強制帰国か中絶かを迫られ、支援する事例が多いことも高山さんから報告されました。妊娠しても働き続ける権利は技能実習生にも法で定められており、法務省・厚労省等が文書を出して周知していることを山岸さんは報告しました。来日前に日本語を勉強する時間的・金銭的余裕がなく、言葉の壁のために職業が限定され、様々な被害に遭いやすくなっている状況も高山さんから報告されました。日本で生まれた子どもが差別され、悩む問題もあげられました。

 だれもが排除されず、ありのままで生きられる社会へ。人としての尊厳が認められる政策、労働者としての権利、生活者としての権利が国籍にかかわらず保障されるような受け入れ政策が切望されています。日本で暮らす外国籍の人や外国にルーツのある人たちの声をもとに、山岸さんたちは政策提言をしています。労働力不足対策、出入国管理・在留管理という視点だけでなく、権利保障や共生社会という観点からの包括的な移民基本法が求められています。

 法律による改善だけでなく、利益で動いている民間団体がどうすれば正しい行動がとれるのかという視点も参加者から提示されました。少数ではあれ技能実習生をきちっと受け入れている企業もあり、そういうポジティブなことをつないで広げていくようなことはできないかという提案もありました。いい労働条件を確保して雇用している企業を多文化共生優良企業として自治体が認証するなど、少しでもポジティブなつながりを広げていくことができたらよいのではないかとの声もありました。

 外国人が生活の場に増えているなかで、共に生活することで共通意識も自然と育まれ、多様性や包摂性が当然の生活になっている事例も発表され、共生社会への明るい光が見えました。詳しくは以下をご覧ください。

※コーディネータは、黒田かをりさん(一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事)

SJF20190618ALL

 

――山岸素子さんのお話(前半)――

 みなさんこんにちは。

 今月、ちょうど移住連が『移民社会 20の提案』という冊子を発行したところです。

 今日は、「当事者の声を移民基本法に」というテーマですが、前提として、世界や日本のなかで外国人移住者の状況がどうなっているのか、現状をふまえてどんな政策が必要なのかお話したいと思います。そして外国人支援のネットワーク団体の移住連の取り組みの中から、なぜこのように移民基本法が必要だというプロジェクトを行っているのか、その背景もお伝えできればと思います。

 いま世界中で移住者の数が増えていて、2億4400万人(IOM,2018年)になっていますし、難民・避難民の数が急増し、6850万人(UNHCR,2018年)になっています。

 しかし全世界的な現象なのですけれども、トランプ大統領が登場した時にみなさん「えっ」と思ったかもしれませんが、政策として移民排斥を掲げる政権が各地で誕生したり、欧州でも移民排斥を主張するような政党が票を伸ばしたりという動きがあります。

 一方で、それと同時に、それらに対する抗議も世界中に広がっています。

 国連は初めて2016年に難民移住に関するサミットを開催し、そのなかで各国政府が2年間かけて難民と移住者の権利保護や受け入れに関する合意をつくろうという動きが出て、各国が議論を重ねてついに2018年12月に「難民」と「移住」に関する2つのグローバルコンパクトが採択されました。このコンセプトは、難民移住者の命や権利を守り、世界の移住現象の責任を各国が分担をしながら対策を講じていこうというものです。これは非常に画期的なことで、いままでも国連の国際人権関連の条約はたくさんあり難民や移住者の権利も定められているのですが、それとは別に、このグローバルコンパクトという形で、各国政府間の合意がなされたという流れがあります。

 

誰もが排除されず、ありのままに生きられる社会へ

 日本のなかではどういう動きがあるかと言いますと、移民排斥の動きとして、社会問題として言われているヘイトスピーチなどがあります。とくに在日コリアンをターゲットとした動きは、与党が深刻な事態だと認識してヘイトスピーチ解消法をつくったほど社会問題になったのですが、法律がつくられてもヘイトデモやネットでのヘイトスピーチは全く減らない状況です。また、テロ対策としてイスラム圏の人たちがターゲットにされて、個人情報を提供されるといった様々な問題が起きています。このように日本でも移民排斥や排外主義が広がっています。

 このような中で移住連は、「移住者の尊厳と権利が保障され、誰もが排除されず、ありのままに生きられる社会」をめざして活動してきました。1997年に全国のネットワーク組織として、主に外国人移住者支援の100ぐらいの団体と、400人ぐらいの個人が加盟している組織です。

 1980年代後半に日本がバブルで人手が不足してきた時にアジアからたくさんの労働者が入ってきて、人手不足の日本を支えていました。ただ多くはその当時日本は正式に受け入れていませんので、短期滞在で入ってきて、観光ビザなどでオーバーステイして働くなどで何十万人もが働いていました。そうした中で賃金未払いとか、労災になるとすぐに保障もされずに職場から放棄されたり、簡単に解雇されたりしました。また病気になっても医療拒否にあうといった問題が各地で発生しました。そこで各地で様々な支援団体が発足して、そこから全国ネットワークとして移住連が発足することになります。

 現在ではNPO法人として活動しています。発足の時から20年近くたっていますので、こうしたバブル期の労働者の問題、働きに来ていろいろな権利侵害に遭ったという労働者の問題から、今では国際結婚で日本に定住するようになったたくさんの移住女性たち、それから国際結婚で生まれた外国にルーツのある子どもたち、多様化している労働者の問題にも取り組んでいます。20年たつと、20代で来日した人が高齢化に伴う問題に直面したりなどいろいろ出てきています。また差別にともなう問題も起きています。

 しかし、かなり長い間移民を受け入れた欧米諸国や、アジアでは韓国などでも外国人人権基本法や差別撤廃法をもっている国が多いのですが、日本では全くそういった法律がつくられてこなかったのです。つまり関連する日本の法律としては、出入国管理及び難民認定法(通称「入管法」)という外国人の入国や在留を管理することを目的とした法律しか存在せず、移民や難民の権利保障という点では非常に遅れてきたのです。

 そうしたなか私たちが当事者や支援団体のネットワーク組織として取り組んでいるのは、大きく3つあります。ネットワークとしてつながって各地での支援活動を連携させて強めていくという活動と、解決できない個別の問題の元には社会の法制度の問題、社会的な意識の問題がありますので、それをアドボカシー・政策提言につなげていくという活動と、それらを発信していくという活動です。

 

 いま日本にいる外国人移住者の現状を紹介します。

 一つは労働者の問題が大きいです。これから高山さんがお話くださる技能実習生、外国人労働者の問題がフォーカスされていますが、「使い捨て労働力」として日本社会で活用の対象となっているという問題があります。ほんとうにひどい人権侵害が現れています。

 もう一つは、国際結婚や外国籍の親同士から生まれた外国にルーツのある子どもが非常に増えていますが、差別やいじめがあってアイデンティティに問題を抱えたり、進学格差があり、就職ができずずっとアルバイトの状況に置かれている、貧困の連鎖など、課題は大きいです。

 それから典型的な課題として、DV被害や貧困状況に陥りやすい移住女性の問題があります。国際結婚して日本に定住している女性は1980年代から増えて今推定で40万人ぐらいです。「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」などの在留資格がありますが、こういった人たちは暴力の被害を受けやすいですし、地域のなかで孤立しやすいです。貧困問題も挙げられています。

 

 こうしたなかで移住連がずっと継続している活動の柱の一つは、国政への働きかけです。たとえば、関連省庁との交渉を年に2回定期的にやっていて、外国人政策について関連省庁を呼んで丸2日間の議論をしています。また、議員さんを通して省庁との個別の協議を重ねています。そして、国会に法案が出ると、たとえば昨年ですと入管法改定案が国会で審議され、その前にはヘイトスピーチ解消法や技能実習新法がありましたが、そのたびにその法案に対するロビー活動を全国組織として行っています。

 また情報発信としては、ホームページだけでなく、会員だけのメーリングリストですとか、Mネットという情報誌を2か月に1回つくって情報共有や発信をしていますし、世界の移住者支援のネットワークともつながって、国連の条約審査、例えば昨年であれば人種差別撤廃条約の日本審査に、日本での移住者の状況についての報告をつくって国連に提供したりといったことを、日本国内のNGOやアジアのNGOと連携しながら働きかけています。最近では、移住連はインターネットでの情報発信を強化していて、HPのほか、Facebookでも一日に4回定期発信しています。

 そのほか、課題別に取り組みがあって、女性移住者の問題や医療・社会福祉の問題、技能実習生の問題など、課題別に全国の団体が加入しているサブネットワークが多くあります。どこの部会も月に1回くらいは定例会を行っていて、独自のメーリングリストを持っていて、そこから政策提言をし、支援の連携を行っています。

 それ以外に、人身取引や、子どもの教育など、移住者の問題だけでなくもっと広くマイノリティの権利問題に関わるネットワークにも移住連は参加しています。

 

「ここにいる」キャンペーン 日本で暮らす外国人移住者の声から政策提言

 今日テーマになっている「移民基本法」ですが、どういう形でここにフォーカスしてきたかというと、長い間、外国人の管理を中心とした入管法が日本の外国人政策の中心だったのですが、ここに外国人移住者の権利を保障する法律をなんとしても実現させなければという思いがありました。ですが、それを支援団体だけがネットワークを作って省庁や国会議員と話をしていてもなかなか声が反映されない。もっと幅広く社会のなかで、そうした提案、外国人の人権、移民の基本的な権利を謳うような法律が絶対に必要だということ合意にしていこうと、世の中に向けて発信するようなキャンペーンを行い、それと同時に政策を実現するということを考えたのです。

 この移住者の権利キャンペーン「ここにいる」は2017年にスタートしました。いまもう20年~30年日本で実際に生活している270万人以上の当事者、その人たち一人ひとりの声、生活のバックグラウンドや視点を発信していくというところから新たな政策提言を作りたいと始めました。そして、いろいろなところで小さなタウンミーティングや集会を重ねてきました。

 そして2018年に移民政策に関するワークショップに全国から集まってきた人たちがさまざまなテーマで話を進め、いろいろなワークショップをしながら最終的に作り上げ、2019年6月に発表したものが、『移民社会20の提案』という冊子です。このなかに移民基本法も一つのコンセプトとして入っていますが、移民社会に必要なさまざまなコンセプトを2年間ぐらいのワークショップを重ねながら整理をしていって20項目にまとめたものなので、移民基本法のもととなるようなコンセプトが含まれているものです。

 こうした取り組みに2019年1月からソーシャル・ジャスティス基金から助成していただいていて、この提言づくり自体にも助成をいただいています。

 この冊子を発表した6月のフォーラムには900人ぐらいの方々の参加を得ました。若者や移民当事者をふくめて幅広い人たちが参加して、政策提言についても発表し一緒に課題のディスカッションをする場がありました。

 こうした場をいまもっと日本社会に広めていって、移民基本法が必要だという世論をつくっていき、そして国会、法律制定に反映していきたいというのが私たちの活動ですし、いま日本社会で求められているのではないかなと思いますので、みなさんにも今日のディスカッションに加わっていただければと思います。一度ここで私の話を終えます。

 

 これからお話いただく高山ゆきさんは、ベトナム出身で、ベトナムから難民のボートピープルとして日本に逃れてきて、37年も日本に定住しておられます。逃れてきた時は命がなんとかつながれたという状況でした。その後も日本に定住していくなかで、仕事の面や子育てなど様々なご苦労がありました。さらに現在、新しく日本にきた技能実習生を支援していらして、その立場から今のベトナム人の状況をお話しいただき、ご自身がベトナムに行って通訳を務めて作った技能実習生の実態をうつしたDVDを伝えていただきたいと思います。

 

 

 

――高山ゆきさんのお話――

  37年前、1982年にボートピープルで日本に来ました。まだ日本語もそれほど上手ではありません。

 なぜ、日本に来たのかは、それは縁だと思います。行くときは実際には日本には行きたくなかったのです。日本語もできないし、日本の国もあまりわからない。そのころはアメリカやオーストラリアの方が人気で、生活が楽になりそうでしたし、自分がカトリックだったので少し自由を求められるのかなと思っていました。でもこの機会に日本に流れて、今では日本に来てすごくよかったと思っています。

 

日本で生まれた子どもも差別される 日本語とベトナム語の狭間で

 私の家族について少し話します。日本に来た時は独身でした。日本で決められた大村入国管理センター(長崎県)で健康診断、いろいろな検査を受け、その時も日本語ほとんどわからず、全部診られましたが、この検査も規則かなと思って、受けました。

 その後1か月くらいして、少しずつ慣れて、病気もないということで、支援していただいた大村センターからグループごとに外に送り出されて、直接、新潟に行きました。2月で寒くて、最初は雪がうれしかったのですが、出身のベトナムは暑かったので、寒すぎて1か月で嫌になり、部屋に閉じこもっていました。

 政府の日本語センターで3か月間、社会人になる前に日本語を教えてくれるのです。その時も、たぶんみなさんの税金で私たちの日本語教育がなされたと思います。ありがとうございます。

 そのあと、カトリック教会で旦那に出会い、1年後に結婚しました。結婚した後にすごい苦労をしました。新居を探す場面で、アパートを借りに行ったりすると、外国人がOKでも保証人は日本人でないといけないとか、外国人だと難しいのだ、と思いました。

 その時に、帰化を決めました。日本国籍を取らないと、子どもが生まれた後にも影響があるだろうと。がんばって日本の国籍をとる手続きをして、帰化しました。結局、帰化して名前をもらうまでの間に、長男が生まれ、長男はベトナムの名前でしたので、小学校へ行ったらいじめられました。私は子どもが3人います。子どもが生まれる前は市営住宅のようなところを紹介いただいて住み、自分の暮らしは自由にできるかなと思ったのですが、お隣のおばさんから「うるさい」と言われることもありました。がんばってなじもうとしていくなかでストレスがありました。どういうふうに近所と付き合うかわからなかったし、わかってからもかなり大変でした。

 子どもが生まれた後は、子どもも差別されました。言葉をどうやって教えるか悩みました。子どもたちは3歳になっても言葉がちゃんと話せなかったのです。ベトナム語と日本語のどちらを話すか本人も不安だったようです。これはまずいなと思いながら、結局、3人とも幼稚園のころは家にいるときはベトナム語を喋れたのですが、幼稚園や小学校に行くようになってほとんどベトナム語をしゃべらなくなりました。なぜなら、ベトナム語を話すと友達が集まって「外人」と言ってきて、自分も悲しいなと思いました。それで、本人たちも「日本にずっといるなら日本語でしょうがないな、ベトナム語を話さなくていいわ」となって、ずっと日本語を話していました。でも、娘は大人になって、「私もちょっとベトナム語が話せたら、ベトナム人と話せるのにな」と言うようになりました。ベトナム語を聞き取れるのですが、話せないのです。

 

 なぜ、私が技能実習生の支援にかかわっているか。うちの教会ではすごく多くのベトナム人が5~6年前から集まっているのです。偽造結婚もありますし、偽造ビザもつくっているし、万引きもいっぱいありました。私は長かったから関わるようになりました。通訳はいなくて、やはり弁護士も必要でした。

 

 みなさんにこれから見ていただくビデオは、2年前に山村医師と一緒にベトナムに行って、私たちが支援した技能実習生たちのうちベトナムに帰国した人たちに地元でインタビューを撮ったものです。

 

~山村医師のインタビュービデオ『だまされるな!技能実習生』を放映しました~

YouTubeからもご覧になれます(約12分 こちらから )。

 

 ちょっと説明させてください。このビデオは山村先生が自費で作成しました。先生一人だとちょっと厳しいので私も同行しました。

 ホテルで泊まった次の日に、ビデオにも出ている彼女が突然ホテルの前に現れて「どうしたの」と聞いたら、監理団体による強制帰国で、ハノイに着いたら直接このホテルに来たそうです。「なんで?」と聞いたら、「やっぱり、意見を出したから」。働いている間に、納得いかなくて仲間とちょっと意見を出したら、彼女は反抗的で使いづらいと返品みたいな形で強制帰国させられたのです。「じゃあ送り出し機関に話しにいこうか」と話し、送り先に行きました。全統一労働組合の人が送り出し機関に「監理団体と団交とかの話になるとあなたたちも厳しくなるよ」と言ったら、じゃあ帰国した後だから、保証金を返金する形でいこうとなりました。彼女は私たちと出会えて運が良かったし、私も手伝えてよかったです。

 

 労災隠しに遭った男性もいます。今、彼は手術のために入院していますが、一週間前は、会社はこんなぐらいで労災を申請しなくていいと認めてくれなかった。労働組合が一緒に会社まで行って、これを労災申請しないと労働基準監督署に出すよと話して、やっと先週の水曜日に労災申請してもらえました。結局、この事故が起きてからここまでに2か月かかりました。社長は最初ほとんど適当な治療をやらせて、こんなぐらいでなぜ労災申請しなければいけないんですか、そういう言い方をしていました。いままで会う社長たちはいいイメージだったのですが、こういう社長もいるので、気を付けなければいけないと思うようになりました。

 

妊娠した技能実習生を救出 迫られる強制帰国

 いま支援を続けているのは妊婦さんです。女性が来日して技能実習で働き始める前、研修センターにいる間に妊娠していることがわかり、ベトナムの送り先機関に聞いたらやはり強制帰国の形だということで、内緒で連れて帰ろうかなと思っていたそうです。私たちにその妊婦さんからメールが来て、ちょうど山岸さんも教会の会議で私と一緒でそのメール見て、「今日中に何かあっても行かないで、明日お迎えに行かせるから」と妊婦さんに伝えました。彼女が逃げるための手配を私が行い、山岸さんがシェルターを手配し、いろんな形で彼女も救うことができました。いま産休でいったんベトナムに帰っていますが、お産してからまた日本にまた戻って技能実習を続けられることになりました。

 

黒田さん) そのベトナムで赤ちゃんができた人の事例は先日テレビでもとりあげられていて、同じ人かはわかりませんが、みなさまの努力で少しずつ少しずつですけれども、状況が改善しているのかなと思っていたところでした。

 

SJF20190618YamagishiTakayama

 

 

――山岸素子さんのお話(後半)―― 

 高山さんから紹介があったように私も高山さんと一緒に支援活動をすることが結構あります。高山さんが支援活動にたずさわっている全統一という労働組合と移住連の事務所は2階と3階で同じ建物にあって、ほんとうに日々、このようにひどい労災や、妊娠出産のケースがたくさんあります。

 

妊娠しても働き続ける権利 技能実習生にも法で定められている

 技能実習生で妊娠してしまうと、会社からは帰国か中絶かを即座に迫られるケースが本当に多いです。高山さんのところや先のビデオに出ているカトリックのシスターの所などには、週に何件も同じようなケースが来ています。たまたま強制帰国の前にすぐに救出できたケースでは、保護して会社から切り離して、そのなかで労働組合が交渉しました。

 実際には、妊娠しながら働き続ける権利は法律で定められているのだけれど、技能実習だとそれができないと企業も思い込んでいたり、法律を知らなかったり、当事者もどうしようと思って逃げなければならないと思ってしまう場合もあるのです。

 救済されたケースをもとに省庁と権利について話し合いをした結果、厚労省や法務省から、技能実習生が妊娠した場合でも働き続ける権利が当然にあるということを、改めて注意喚起するような文書が出ました。そうしたものをぜひ周知していきたいと思っています。現実は妊娠してしまってどうしようという相談がひっきりなしで、多くの場合はこのような権利を知らずに、妊娠すると薬を飲んで中絶してしまう。ベトナムには安い薬があるらしいのです。

 

新たな外国人労働者の受け入れ方針「特定技能」制度 家族と暮らすことを認めず在留管理体制を強化

 どうして技能実習のなかでこういうことが起きてしまうのか。そして昨年、日本政府が新しく外国人労働者を受け入れるということで入管法を改定しましたけれども、この実態がどうなのかということについて少し話したいと思います。この外国人労働者受け入れ政策は日本にいろいろある外国人政策の一つですが、それが象徴的に表しているものがあると思いますので、少し深くみていきたいと思います。

 新しい「特定技能」の制度は、技能実習生の制度ととてもリンクしていて、技能実習生から新しい特定技能に移行できるのが半分以上想定されているような制度です。

 政府は「骨太方針2018 新たな外国人材の受け入れ」を昨年6月に閣議決定しました。この内容は、一定の専門性・技能を有する「外国人材」を、人手不足の業種に受け入れる、そのために新しい在留資格を創設するというものです。1980年代からずっと、単純労働では外国人労働者を受け入れないとしてきた日本の政策を大きく転換するということで社会的に関心を集めました。どういうことかというと、簡単に言うと人手不足分野、14業種分野が指定されていますが、その分野に限って受け入れをする。それは、建設や介護や農業など典型的な分野が定められています。一定の技能水準など日本語などのテストがありますが、3年の技能実習を終了したものにはそのテストを免除し、技能実習からこの特定技能に移行できるようになっています。  私たちが一番問題だと感じているのは、この特定技能は最長5年しか認められず定住や永住への道が制限されていること、また家族を連れてくることは認められていない、一緒に暮らすことは認められないことです。もう一つは、これによってさらにたくさんの外国人を受け入れるにあたって、在留管理体制を強化しようとしていることです。

 

特定技能に移行できる技能実習生の実態 人身取引と強制労働の温床

 去年12月に改正入管法が成立しましたが、これに至るまで11月ごろから1か月強国会で審議されたころには、毎日のように新聞報道されました。外国人問題がトップ報道になることはめったになかったのですが、昨年の秋は、新聞の1面記事でも何度も紹介されました。

 失踪した技能実習生の聴取票を野党が開示したことも報道され、すごく問題にしたので、技能実習生の実態が明らかになって、さきほどのビデオや高山さんがお話くださったような現実が見えてきました。失踪者の聴取票から、時給は平均500円台で、手取りが月収で5~6万円、週130時間位働いているけど月収は9万円しかないし、実際に定められている給料からどんどん天引きされて手取りが非常に少なくなっているというようなことが明らかになった。特徴的なのは、来日のために巨額の借金していることで、ベトナムの方の場合は平均的に100万円の借金をしている。そうすると技能実習で3年働いて借金を返済して+α稼いで帰国することを目標に来日しているので、日本に来てみたら思っていたことと全然違ったとしても途中で辞めることができない。途中で辞めると帰国はできるけど借金だけ残るし、少しでも権利改善しようと意見するとぱっと強制帰国されてしまう。そうすると借金を返せないので、権利侵害を訴えられないという構造があります。

 

 実は、新しい政策をとる以前から、既に2017年の統計で130万人ぐらいの外国人が働いています。どういう人たちが働いているか在留資格別に見てみます(厚労省,2017年)と、国際結婚で定住している人などの永住者や、日系人などの定住者が45.9万人位で、この方たちはどういう職種でも働ける自由があります。

 いわゆる高度人材(専門的・技術的分野)は就労目的で在留が認められる人ですが、たった23.8万人しかいない。

 それ以上多いのは、30万人を超える技能実習生とか、30万人を超える資格外活動である留学生のアルバイトたちです。この人たちあわせて60万人以上が日本の産業を支える労働力として来日していて、日本の外国人労働者の半数近くを占めていることになります。

 

 技能実習生の特徴は、多額の借金をして来日していますし、複雑な制度、送り出し国では送り出し機関がかかわっていて、日本でも企業だけでなく監理団体が関与していて、ものすごく複雑な契約関係があって中間搾取にさらされやすい。それから実習先を移動できず権利侵害を訴えられず泣き寝入りしている。

 こういった仕組みは、国連から人身取引と強制労働の温床になっていると指摘されて制度の改善が求められています。多くは団体監理型という仕組みで送り込まれていて、送り出し機関が送り出し国で強くリクルートし様々な手数料をとっています。さらに、日本にくると企業にダイレクトに雇われているのですが、その上に監理団体というスーパーバイズする機関があってここがいろいろ搾取しやすい制度になっているのです。

 

永住等に結びつけられない労働力活用にとどまる「特定技能」制度

入国在留管理庁により在留管理強化が強調された「外国人受入れと共生のための総合的対応策

 それに対して、今回の新しい制度は、「骨太の方針2018」を受けた出入国管理及び難民認定法の改正により、「特定技能」という新しい在留資格を創設して、人手不足の14分野に労働者として受け入れるという制度です。

 これはどういうことなのかよく考えてみたいと思います。

 これまで外国人労働者を既に130万人位受け入れていますけれども、その受け入れ政策は専門的労働者を対象とするものであって単純労働者は受け入れないとずっと言ってきました。もう一つはっきり言ってきているのは、日本は移民政策をとらない、移民を受け入れないということです。首相が昨年はっきり言いましたね。

 1980年代、移住連が生まれたころですが、バブル経済を支えた外国人労働者は観光ピザで需要があるから入ってきてオーバーステイで働いていた。それがピーク時には30万人いた。さらに人手が不足しているから、1990年に日系人に定住者のビザを与えて、ブラジル日系人をやはり30万人以上受け入れた。その次に問題となる「外国人研修・技能実習生制度」を1993年に創設した。その後リーマンショック等で日本が不況に陥ると、これらの人たちが一斉に解雇されて、帰国支援事業のようなものを行って、帰されているのです。それが2012年以降になって、少子高齢化で人手不足が予想され、経済界からの要請もあって、「外国人材の活用」という成長戦略が出て、建設や造船、家事労働分野や農業分野、国家戦略特区での外国人労働者を受け入れるいろいろな政策をつくってきました。それでも足りなくて、2017年には技能実習法をつくり、権利を保護しながら技能実習制度を拡大しました。

 そして今回、2019年4月に改正入管法が施行され、新しい在留資格「特定技能」による外国人労働者が始まりました。5年間で34万人位受け入れると言われていますが、どうなるかはわかりません。

 ただし、「移民政策ではない、定住する外国人政策ではない」と政府は強調しています。この制度では、特定技能1号は、在留期間を1年か6か月または4か月ごとに細々と更新していく形で契約によって在留期間が細々と定められていて、どんなに長くても5年までしか認めないとしています。そして、家族の帯同も基本的に認めない。要するに限定期間をつけて一定の技能のある外国人を受け入れる制度です。

 特定技能による受け入れ分野のうち7割位の特定産業分野については技能実習生から移行できることになっています。基本的には、技能実習2号を3年間修了した外国人は試験無しで(いったん帰国して再び日本に来る場合や、日本に居続ける場合)特定技能に移行することが可能です。

 

 結局、技能実習で3年や5年いた人は、さらに特定技能の分野で働き続けられるけど、あと5年までしか日本にいられない。

 永住等に結びつかない形で労働力として働いてもらう制度にしかなっていない。使い捨て労働者としてしか外国人労働者を見ていないのではないかという疑問が強くあります。

 政府は、「外国人受入れと共生のための総合的対応策」を2018年12月に閣議決定をして、目玉の政策である全国100か所の多文化共生総合相談ワンストップセンターへの支援や日本語教育支援の拡充など、いろいろ盛り込まれたのですが、よく見ると、それはもともと各県の国際交流協会等が行っていたサービスにちょっとプラスした政策でしかなく、わずかな予算措置でしかありません。

 一方で、これまでの法務省の中にあった出入国管理局が「入国在留管理庁」に格上げされて、今まで私たちがとても懸念してきた在留管理がさらに強化されるようになっていますし、わずかに残っている非正規滞在の方々、何とか残っている方々に対するの対策強化に膨大な予算措置がされています。

 この「総合的対策」にはとてもたくさんの項目があげられているのですが、もともとあった政策にちょっと加えられただけであり、ほんとうの共生施策とは程遠いのではないかと思います。

 

ほんとうの共生とは 

 新しく特定技能という在留資格をつくって、改正入管法が施行されたばかりですが、これが技能実習制度の延長線上にあって人権侵害をさらに拡大してしまうのではないかという懸念があります。これに対して、人として、労働者としての権利が保障されるような受け入れ政策、そして受け入れられた後に日本の中でほんとうに生活者としての権利が認められる、尊厳が保障される政策を私たちは求めています。そのためには移民基本法が必要なのではないかと、これまでみんなで議論してきたことからも言えるのではないかと思っています。

 

 最後に、『移民社会20の提案』をぜひ皆さんにも読んでいただければと思います。その中には、移民基本法はどうして必要なのかですとか、差別禁止法のことや、個別の権利保障――多様な教育の保障や医療・福祉・社会保障の権利や女性と子どもなど――の項目が提案として掲げられています。

 私たちが求める移民政策は、出入国・在留管理だけでなく、外国人・移住者の権利保障と社会統合を含む包括的な移民基本法です。そして、人種差別撤廃基本法の整備です。

 

 

黒田さん) いま日本の企業のなかでも、外国人労働者が急浮上しているテーマになっています。外国人労働者のいる企業の人を対象としたラウンドテーブルがあるところで開かれたのですが、ほぼ全業種が集まっていました。みなさん自分たちは関係ないと思っていても取引先などを含めるとものすごくたくさんの外国人労働者がいらっしゃいます。例えばみなさんもよく使っておられる宅配サービスでは、ある企業の方にお話を伺ったら倉庫に5000人位の外国人の方が働いていらしたり、空港でスーツケースを運び出したり、コンビニのおにぎりを作るとか、私たちの生活はこの方々に支えられていると言って過言ではないと思います。

 山岸さんは、移民基本法をつくろうということで、政策提言ワークショップ等を行っておられますが、実際に移民基本法についての議員さんの感触だとか、どういう形で進めておられるのか少しお話いただけますか。

 

山岸さん) 与党はこうした入管法で政策を定めていて、でもこれは移民政策でないと言っているわけです。それに対して、野党のなかには外国人の受け入れにあたって権利保障していくといった観点で政策を立てている党も無きにしもあらずではあります。

 旧民主党を中心に超党派の「外国人の受け入れと共生社会を考える議員連盟」あって、これまでにも、外国人労働者の受け入れに関する法律や多文化共生社会に関する法律などを検討してきています。「多文化共生社会基本法」は、政府が出している「外国人受入れと共生のための総合的対応策」を改善して法案にしたような中身ですが、立憲民主が法案を先週国会に提出したそうです。そうした機運が野党のなかでは出てきています。

 

黒田さん) 韓国の政策が比較でよく出てくると思いますが、韓国は比較的いい政策を持っていると言われるので、それについて少しお話しいただけますでしょうか。

 

山岸さん) 韓国は日本と社会状況は似ていて、日本より遅れて1990年代に国際結婚の人たちがたくさん入国しましたし、2000年代に労働者が急増しました。そうしたら韓国ではすぐに法律ができました。外国人の人権基本法のような法律や、多文化家族支援法という国際結婚している家族の生活支援法のようなものをつくりました。労働者政策では同じように技能実習制度と似たようなものがあったのですが、それを廃止しました。日本と同じような諸問題があるから、人身取引の温床になるような制度だからということで、雇用許可制といって一般労働者受け入れ制度のようなものを創設したのです。歴史的には受け入れは少し遅かったのですが、政策はどんどん進みました。

 

参加者) ビデオで紹介されたケガ、目に釘が刺さったとか、手に大火傷を負ったとかは、どういう状況でそうなったのでしょうか。

 

高山さん) 彼の目の怪我は、彼がスノーガンを修理するときに自分で目を指してしまったのです。ただ、使う時と修理する時の注意を教えてもらっていなかった。何でも自分でやって、そういうふうに怪我してしまった。監理団体や会社に責任があるので、労災隠しとか、労災を無視したりせず、労災認定はやってほしいなというのが私たちの支援のやり方です。

 火傷は、今日が入院手続きで、スマホで通訳しながら行いました。2か月前に起きたのです。クリーニング店で機械を操作する時、社長に後ろから毎日じっと見られていました。お客さんのワイシャツなどにアイロンをかけるとき壊れたり汚れたりするとお客さんから苦情が出てくるので、社長が教えながらアイロンがけをさせるために後ろから見ていたのですが、技能実習生はそういった理由を知りませんでした。センサーも甘くて、アイロンを落としたときに、社長から見られていると焦って取って火傷をしたのです。両手の怪我でしたので非常に大変でした。インターネットで検索したら全統一が労働組合として載っていて、私たちの支援につながりました。

 

 

 

――グループ発表とゲストのコメント――

~グループ対話を行い、それを会場全体で共有するために発表しあい、ゲストにコメントいただきました~

 

(参加者)「自治体の外国人政策にゆだねて自治体での事例が法律のバックグラウンドになると、国の法律が作りやすくなるのではないかという議論がありました。いっぽう実際問題、利益優先でやっている民間企業が技能実習制度を、それから受け入れ団体も、監理団体もやっているわけだから、民間で法律を考えていかないとスピード感がないからまずいのではないか。これらが対立点になりました。

 そこから、法律的なバックグラウンドで縛りをつくるのではなく、利益で動いている民間団体がどうすれば正しい行動がとれるのか話し合いました。例えば大手民間企業だったらブランドイメージがあるので不買運動の対象となるとか、そういった形で経済的なメリットデメリットに直結するわけですが、中小企業で自転車操業がいっぱいいっぱいなところでどれだけ企業ルールを守れるのかは難しいのではないか。監理団体や送り出し機関も一生懸命やっているところもダメなところもあって、すべてがダメとは言えない。では、労働者を守るためのガイドラインをどうしたら経済的メリット・デメリットに結び付けて、こういうふうな不利益を最終的に生んでしまうのだから、きちんと利益を出すためには労働者を守らないとだめだよと伝えていけるかが一つの切り口なのかなと考えました。」

 

「居酒屋によく行く方から、外国人の方が本当に多いとあらためて実感したという話が出ました。そこで従業員の方といろいろお話をすると、今日のお話のようにかなりひどい状況だそうです。我々の生活の場面で外国人の方々がいないと回らなくなっている。生産の場面でも、商品サービスでもそうです。そのことを直視しないといけない日本社会の実態になっているのが、身近な飲食のところから振り返っても実感できる話が出ました。

 1980年代から外国人の方との共生は課題になってきましたが、バブルがはじけたりリーマンショックがあったり、その都度、共生社会に向かっていこうという動きがつぶれ、つぎはぎの方策を繰り返してきたと振り返ることができるでしょう。今日提起のあった移民基本法でこれまでの30年間を振り返って、次のステップに行く、そういうことが我々の課題ではないかというご意見もありました。

 アジアに対する優越感が我々の中に意識・無意識にしろあるのではないか。アジアの人たちに日本を選んでもらって当然と思っている。例えば、居酒屋での職種で言えば、韓国や台湾で働いたほうがいい給料を得られる。優越感に浸っている隙に外国人に選んでもらえない国になって、生活が回らない事態になりかねないのではないか。

 技能実習生が5年で、せっかく技能を習熟した時点で帰ってくださいで、また新しい人を一から育てなければいけないのは、企業人としてやられた立場からでも、人材の有効活用や経営の観点からしても理解しがたい政策だというご意見もありました。家族帯同を認めないといった非人道的な政策ではなく、培った技能を気持ちよく日本で生かしていただけるような受け入れ政策が必要だ。

 さらに言えば、これから人口減少する日本社会で税金を払うだけでなく、社会保障の面でも一緒に支えていただかないと、日本人だけでは若年人口が減少するのは明らかなのですから、お互い現実を直視しなければならないというご意見もありました。

 技能実習生はどうしてもネガティブで告発的なことになりがちですが、少数ではあれ技能実習生をきちっと受け入れている企業もあり、そういうポジティブなことをつないで広げていくようなことはできないか。自治体が、いい労働条件を確保して雇用している企業を多文化共生優良企業として認証するなど、少しでもポジティブなつながりを広げていくことができたらよいのではないか、とあるシンポジウムで言われたのですが、そういった動きについていかがでしょうか。」

 

「私は建設業をやっておりました関係で、同じ思いをすることがありました。

 外国人問題への関心が低いのではないかという話も出ました。移民が増えることを歓迎する人もいるでしょうとか、移民をきちんと受け入れる体制がみんなの心にあるのかという話も出ました。

 今日の話を聞いて一番問題だと思ったのは、送り出し機関の話と、日本の受け入れ機関の話。問題が多発しているのだから、もっときちんと監督していく必要があるのではないか。送り出し機関については、どういう体制かは相手国によって異なるでしょうが、とにかく日本の人材派遣会社以上にただお金を吸い上げることしか考えていないような団体が多いようなので、相手国の政府と一緒にやるべきかどうかはわかりませんが、送り出し機関の監督をもっとやっていかなければいけないのではないか。

 移民基本法については、今の法制度のどういうところを改正しようとされているのか教えていただきたい。国際的に言われているようなことを日本もきちんとフォローしなければいけない、といったことを言っているかと思いますが、教えていただければと思います。移民と難民の違いもわからないで話していました。」

 

「知り合いで外国人の医療問題に取り組んいる人がいて、この会に参加すれば何かわかるのではないかと参加しました。このグループには山岸さんが参加くださいました。

 山岸さんに私たちが質問したことで、アジアの視点で日本てどうなの?という話があって、日本て冷たいよねというのが大方の意見でした。山岸さんからのお話で、制度の抜け道があるので、いろいろ抜けられて困るので、何かいいアイディアがないかと問われました。

 山岸さんからのお話で意外だったのが、介護の現場で外国人の方がとても人気らしいのです。実際に介護されると、とても明るくて気持ちが晴れやかになるので、外国人の方が人気らしいです。そういう明るい話から広げられないかなというのが私の感想です。

 被害に遭った方は、個人のSNSから支援団体につながっているので、個人のSNSは意外と重要なのではないかと思いました。いろいろ支援している方は、個人のSNSで発信するのは意外と有効な方法なのではないかと思いました。

 給料が安すぎるなと思いました。どこの国でも生活は同じなので、何とかならないかなと思いました。

 送り出し国の現地で、あの送り出し機関は問題があると告発するような活動をできないのかと山岸さんにお聞きしたら、向こうの団体は、政府のお墨付きを得ている団体らしく、なかなか現地で送り出し機関に抗議活動をするのは難しいとのことです。そこを何とか、現地で被害者の実例を出すとか広報していくとかできないのかと思いました。」

 

「日本語学校で外国人の学生さんと接する機会があり、ベトナムに興味を持ち今日参加しました。たまたまクリスチャンの方々のグループでした。

 ここのグループの関心は、人権的なことでした。中国人の方は職場でアルバイトをしていたら、銀行口座を作る必要があったのですが、銀行で口座開設ができずとても傷ついたそうです。」

 

「団体職員で外国人の方と交流があります。このグループから質問がいくつかあります。

 送り出し国は、情報提供がなぜよくならないのか。

 ベトナムはNGOが盛んな国だとお聞きしたのですが、この問題をどのようにとらえているのか。

 日本で移民基本法を有効にさせるために何が大切なのか。

 そもそも国連人権規約があるなかで、国内法を制定する必要があるのか。もともと国内にいる国民の人権が政府にどのように扱われているのか。

 ベトナムの国民のみなさんがこれだけ被害に遭っておられるのに、ベトナム政府は日本政府に対して何も発言しないのか。およびベトナムに進出している日本企業もこの問題について何も発言しないのか。こういった質問が出ました。」

 

 

黒田さん) みなさんたくさん議論していただき、問題を共有していただき、ありがとうございました。

 いくつか質問がありました。とくに現地政府や送り出し機関はどうなのかとか、日本でベトナムに進出している企業は何もしないのかとかも出ました。また、ポジティブな話もあるのではないか、そこから広げていけるのではないかという話もありました。

 

日本語の壁 来日前に日本語を勉強する時間とお金がない若者たち

高山さん) ベトナムの政府と送り先機関の関連はまずあります。裏金を渡して騙してもらったりします。インターネットで検索なら今すぐ、騙されている事実はたくさん出ています。それでも、騙される。

 自分の国、ベトナムは共産党なので、自由がありません。何をやっても国に見られている。儲かることももうからない。事業を出しても許可がなかなか出ません。自由のない国からはみなさん出ていく。

 日本は技能実習制度があるので一番行きやすくなっています。とくに建設業は安く行けます。でも行ってみたら、言葉も言われていることがわからない。間違っていると言い訳をする。暑いので頭が切れてしまって、殴られるまでしなくても首をつかまれて怒られたり、暴力をうける。

 まず、日本の言葉はわかっているかと、私は支援を求めてきた人に問います。ちゃんと勉強しないうちに自国を出ていくのは、日本語の壁もある。自分のために勉強するのにお金を払って勉強していなくて、日本に来て結局、日本語ができない。そうなるとわかっているのに。建設業は行きたくない、暑いから行きたくない、暴力されるから行きたくないのなら、もう少し楽な仕事を選べばよいのですが、そのためには日本語ができる必要があって、その間の生活費も必要で、日本語を勉強するには時間もお金もかかってしまう。言葉がほとんどできないベトナム人は問題が発生しやすいです。まず、日本語が言葉の壁になるので、介護に行きたくてもレベルが高くてベトナム人には行けないのです。英語なら少しできるのだけど、日本語は「あいうえお」から勉強するので、私も30年経ってもこのぐらいなので、5年位だと厳しいと思います。

 労働者支援、日本はいい会社もあるのに、なぜ支援機関は手伝ってあげないのかと言われます。いっぱいいっぱいで、何百人もいて、いろいろなところに派遣されて難しいのです。

 

労働者の送り出し国で、問題を啓発する難しさ 政府との癒着や活動への監視がある社会 

山岸さん) 送り出し国の現地で、あの送り出し機関は問題があるといった活動をできないのかというお話がありました。ベトナムとか、かつては中国とかから外国人を受け入れることが多かったのですが、送り出し国のなかで、送り出された人たちに日本社会で起きていることを何とか啓発ができないかと模索したことがあります。私自身も経験がありますし、高山さんは何度も現地に行かれていて、啓発ビデオも作っておられます。本来ならこの啓発ビデオを見せられる受け皿、日本のNGOのような団体が向こうの国にあればいいのですが。向こうはカトリックが人口の10%位を占めるので大きな受け皿になりえると思って、私たちも教会関係で行く機会がありましたが、やはり社会のなかで活動が制限されていて、啓発していくことの意義を分かってもらえたとしても、その国で啓発をするのは難しいという現状がありました。また、いろいろ監視もあり、政府に認定されている機関が送り出し機関なので癒着等もあり、政府が支えているシステムに対して異議を申し立てたり悪い噂をたてたりすることは難しいということを実感しました。

 

 日本の中でも、企業で何とかできないのかというご意見もありました。昔、中国人をたくさん受け入れていた縫製産業の人たちは、ほんとうに中小零細企業で、ほとんど産業として成り立たないような中で、唯一、この時給300円の技能実習生を使うことで何とか生き延びることができた、それが現実なのですよね。

 そこには外国人労働者の問題だけでなく日本の産業構造の問題など大きな問題があると思いますが、技能実習制度を取っている限り、搾取が生み出される構造があります。技能実習は個人の努力にかかわらず必ず搾取が生まれやすい制度なので廃止する方がよいのです。なお、いまの特定技能は、技能実習制度の監理団体のように制度上チェックできるようにはなっていませんが、中間で民間がすごく介在して、中間搾取しやすい構造に変わりはありません、

 これからの日本には外国から移住する人たちが必要なので、きちんと権利が日本人と対等に保障されるような枠組みの制度をつくる。いまの特定技能でもまだ足りなく、もっときちんとした受け入れ制度を私たちは求めています。実質的に労働法が守られる。いま技能実習生は70%が労働法違反。やはり技能実習は制度的に欠陥があるのです。そうではない制度をつくりだしていくことが必要です。

 

生活の場を共にすることで育まれる共通意識 多様性や包摂性が当然の生活 共生社会へ 

 明るい側面として、いま270万人、外国にルーツを持つ子どもも含めるともっとたくさんの方々が日本で暮らしていく中で、教育現場、職場、生活の場でも、外国人と混ざって暮らすようになってきています。一緒にいることで、さまざまな文化的な価値観に気付いたり、とてもプラスな豊かになる感覚が生まれてくると思います。そうすると自然と、日本人だとか、外国人だとか分断されて違うカテゴリーとして考えるのではなく、同じところで働いている人間だったたり、同じところで学ぶ子どものお母さん同士だったりというような、共通した意識が生まれてきているのかなと思います。そういうなかで、権利に格差がある方がおかしいという意識が生まれてきているかなと思います。

 こうやって外国籍の方や外国にルーツのある方が増えていることは、社会が明るい方向に進むチャンスを生むことだとは思います。ただそこに、人権をきちんと保障する法制度がないといけないと思います。

 

 国際人権規約と国内法についてのご意見もありました。国際人権規約の自由権規約・社会権規約のなかに日本が批准している人種差別撤廃条約や女性差別撤廃条約、子どもの権利条約などや、日本が批准していない移住労働者権利条約がありますが、日本が批准してあったとしても国内法としてきちんと外国人の権利が認めていられないが故に、どんなに訴えても国連が日本審査のなかで勧告を出してくれたとしても実際に国内での権利保障に結びつかない経験を私たちはたくさんしています。だから国際人権条約の枠組みだけでなく、国内法として権利保障の法制度をきちんと整備することがとても必要です。

 いまの出入国管理及び難民認定法は、難民に関しての認定の部分はよいのですが、出入国に関しては管理を目的とすると定められているので、それだけだと一方的な偏りがあって、私たちが提案しているような人権を保障する、あるいは民族的・文化的な独自性や自由の尊重を外国籍者にも保証する基本法が必要です。移民基本法については、『移民社会20の提案』の「18.まず移民基本法を制定しなければ」に、どんな内容を盛り込んであるかが書かれています。労働者としての職業選択の自由や、社会保障の権利、教育を受ける権利なども含まれています。

 

 移民と難民の違いについては、ここで私たちが移民と定義しているのは「国籍にかかわらず、国境を越えた移動により別の地で暮らすようになった人びと」で、国連の定義は少しあいまいです。難民は国連の難民条約に基づいた定義で「迫害のおそれ、紛争、暴力の蔓延など、公共の秩序を著しく混乱させる事柄によって、国際的な保護の必要性を生じさせる状況を理由に、出身国を逃れ庇護を求めてきた人びと」であり、それが日本も採用している定義です。

 

 

黒田さん) 先日6月2日に、移住連が全国フォーラムをされた時に、若い人たちの参加が多いなと感じました。若い人たちは学校や地域でいろんな人たちとすでに生活しているので、多様性や包摂性を頭で理解するのではなく、自分の生活の一部になっているので、若い方たちは割と多様性に対する考え方がちがうのかなと思います。外国人との共生に違和感があるかというアンケートのデータで、10代・20代は50代・60代の方々と明らかに違うのですね。これから日本がめざす方向は多様性や包摂性が享受される社会なので、若い人たちがそうしたことを受け入れているということは、ヘイトスピーチ等一部あるにしても、明るい動きになっていくのかなと思いました。

 最後に一言ずつお願いします。

 

高山さん) 今日はありがとうございました。できれば制度、外国人とか日本人とか、何の国でも同じ人間なので、言葉が違っても、心の中には同じ目的があって生きているという意味で、みなさん、ベトナム人に限らず外国人にもちょっとやさしく声をかけていただければうれしいです。

 

山岸さん) グループ対話からそれぞれ出てきたお話を聞いて、みなさん現場で経験したり感じたりしていることが多様で、すごくおもしろかったです。みなさん現場で今たくさんの外国人がいるのですよね。居酒屋も、職場も、地域社会にもいっぱいいます。出会っていって、知り合っていくと、外国人との共生の基礎ができていくなと思います。今日はほんとうにありがとうございました。

 

 

※SJFは公益財団法人庭野平和財団との協力により、NPO法人移住者と連帯する全国ネットワークの事業「移住者による移民政策―市民立法としての移民基本法の制定を目指して―」に2019年1月から12月に助成をしております。

 

 

●次回アドボカシーカフェのご案内

家族と暮らせない子どもをひとりぼっちにしないために児童養護施設退所者等のサポートを

【ゲスト】庄司洋子さん(NPO法人学生支援ハウス「ようこそ」代表/立教大学名誉教授)
坪井節子さん(社会福祉法人カリヨン子どもセンター理事長/弁護士)
【日時】7月23日(火) 14時から16時30分
【場所】新宿区・四谷地域センター 11階 集会室2+3
【詳細・お申込み】 こちらから

 

 

*** 今回の2019年6月18日の企画ご案内状はこちら(ご参考)***

 

 

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