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 ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第42回開催報告

 

『票育』

若者と政治が出会う新しい授業の作り方

  

  2016年413日、ゲストに保坂展人さん(世田谷区 区長)と後藤寛勝さん(NPO法人 僕らの一歩が日本を変える。代表理事)をお迎えしたアドボカシーカフェを、SJFは文京シビックセンターにて開催しました。

 若者の声を生かす政治や行政を実現する根源は何か――。会場のみなさんとゲストと、対話が進展しました。

「若者たちが、地域に根差していくと、さまざまなことについて責任主体になっていくのです。自分たちが決めるということは、社会のお客さんではなくて、中心部に出ていくということなので、そういう体験をしてもらうことが次の社会にとってよいことになる」(保坂さん)

「僕たちがやりたいことは、政治のなかで、中高生でも政治と向きあった時に小さくても成功体験を得られるかということです。政治に役割を与えられていることこそが、主体的になることの一番の原動力になる」(後藤さん)

「直接、住民の知恵、そこに住んでいる人たちの力、というものがもっと行政や政治に作用していけば、この社会は確実に良くなる」、「子どもが、自分たちが決めたことを、大人の助けも借りながら、ルールを逸脱しそうになりながらも引き戻されながら、何とか運営していく、という体験を積み上げていく。こういう機会に、小学生のころからもっと接していくことが大事」(保坂さん)

「政治的中立は、ここにいるすべての人の異なる意見を踏まえたうえで、自分だったらどうするかと一人ひとりが考えることだと思う。若い人自身がその考えた選択肢の主体になって、若者による若者のための政治教育が行われること、それを『票育』はめざしているのではないか」(後藤さん)

 この詳細を以下に紹介します。

 20160413票育アドボカシーカフェ

 

上村英明・コーディネータ/SJF運営委員長)ご参加の方はまず「票育」って何だろうと思われているでしょう。18歳選挙権と絡んでいそうです。若者の声を政策に生かすという点に関心のある方もあると思います。このアドボカシーカフェに、私は、僕自身の視点でとても関心があります。それは、若者も市民という点です。若者の声を生かすだけではなく、われわれの日本社会が直面している問題をともに語りたいと思います。そうした観点から、本題に入る前に三つのポイントを確認しておきたいと思います。

 一点目は、選挙制度の問題。お手元に衆議院議員と参議院議員の投票率の推移をお配りしました。これを見れば、201412月の衆議院議員総選挙は投票率52.66%で、史上最低を記録しました。その前を含めて記録更新中です。また現在の安倍政権はこの投票率の中で決まりました。もういちど社会全体が政治に向き合う、選挙に向き合うという課題は、その意味で新しい有権者となる若者だけではなく、いわゆる大人を含めて社会全体の課題だと思っています。

 二点目は、民主主義の教育。今回のこうした流れのきっかけのひとつは、文部科学省が201510月に高校生の政治教育を学校で一部認める通達を出したことです。しかし、このように政治への関心が下がってきたことを考えたとき、学校は何をやっていたのかということを考えざるを得ません。僕らは、本来民主主義の重要性を学校で教育されてきたはずです。民主主義の制度、学級会や生徒会を通しての政治参加。でもその結果が、この低い投票率であり、民主主義の危機と言われるこの社会です。政治教育が解禁された今こそ、むしろ民主主義のための政治教育とは何かを考え直さなければいけないと思います。

 三点目として、こういった民主主義の危機を作り出してきたマジックワードに、「中立性」という言葉があると思っています。つまり、政治教育は中立でなければならないという縛りのなかで――実際は、党派性の問題が中立性とすり替えられて――われわれが政治と向き合えない社会の構造ができあがってきた、あるいはそれが強化されているのではないかと思います。

 そうした司会としての問題意識を頭の隅に置きつつ、政治と民主主義に向き合っていらっしゃる保坂さんと後藤さんにお話をうかがいたいと思います。

 

 

――講演と意見交換―― 

後藤寛勝さん/NPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」代表理事)

 ふだんは若い年齢層の方と接する機会が多いのですが、今日は、年齢層の高い方々もいらっしゃって緊張しておりますが、あたたかく見守っていただければと思います。じつは19歳の時に、保坂区長に表敬訪問した時があるのですが、それから3年たって、今日このように同じ机でディスカッションさせていただけることはたいへん光栄です。 

 

一人ひとりが課題の解決策を持っているといい――政治を考える機会を若い感性で増やす

 僕たちNPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」(略称=ぼくいち)は、若い人と政治に新しい出会いを届けるということを目指して、主に二つのことをやっています。一つは、「高校生100人×国会議員」です。これは、全国から高校生を集めて、議員会館で国会議員と議論するもので、2012年からこの春まで6回開催しています。もう一つは、僕たちをSJFの助成に選んでいただいた「票育」という事業です。

 僕たちは、大学生12人と高校生2人の14人で事務局を回していて、僕が一番年上の22歳で、一番下は16歳です。

 いま上村さんから投票率が低下しているという話がありました。投票率じたいは若者だけの問題ではないと思っています。僕らは子どものころから政治に接する機会はありませんでした。新潟の高校にいたころ、模擬選挙という言葉も知りませんでしたし、選挙の体験をしたこともなかったし、政治に対して意見を求められる経験は一回もありませんでした。なのに、今の若者は政治に関心がないからダメだとか、未来は暗いといった話をされると怒りを覚えます。もともと考える土壌や機会がなかったのですから、それを僕たちはNPOとして増やしていきたいと思っています。

 少子高齢化は大きな問題となっていると思いますが、こういった社会的課題が増えていく一方で、人口はどんどん減っている。一人当たりの社会的課題の負担率は高くなっていくと思います。一人ひとりが、政治との向き合い方や、課題の解決策を持っているといいなと思っています。

 こうして、若い人と政治との出会いをつくりたいと活動しています。

 

 活動方針として強調したいのは、政治的中立です。NPOなのでとくに気をつけています。国会議員さんとのイベントでも、国会の全政党の方々にお声掛けをしてご協力をいただいています。

 じつは自分は昨年の10月に内閣府地方創生推進室(RESAS)の専門委員に就任しました。じっさいの総合計画に携わったり、若者の目線でビッグデータを使いながら若者の政策をどうやっていくかなどを検討したりしていました。

 

 若者の定義についてです。保坂さんは、39歳以下と定義するそうです。僕たち「ぼくいち」は、22歳以下と定義しています。全国各地の学校で「票育」という形で中高生と接していますが、もし僕たちが35歳や40歳で、「政治とはこういうものなんだよ」とか「選挙には行かないといけないんだよ」とか、ビシッとスーツを着て学校で話しても、誰にも聞いてもらえないと思うのです。今日こうやって話を聞いていただけるのも、僕が若くて政治をがんばっているからだと思うのです。それは、何もしがらみがなく、見たもの五感でとらえたことをストレートに子どもたちに伝えられ、後ろめたさがなく素直な言葉で伝えられることがとても大切だと思っています。そういった意味で、22歳以下の若者が政治教育に関わることが必要だと活動しています。

 

プロセスを重視する政治教育を、地域社会とつくる

 政治教育には4つの壁があると、活動をしていて思います。

 一つめは人材の壁です。文科省が「18歳選挙権があるから政治教育を進めていこう」といったときに何が問題になっているかというと、政治的に中立に――思想信条を押しつけずに――教えられる教師が不足していることです。文科省から全国の高校に通達が行っているにもかかわらず学校で実行できる人がいない。

 二つめはプログラムの問題です。政治教育といったら模擬選挙しかないと思っている。でも僕たちが中高生の時に学んできたことは、政治経済の授業で、衆議員や参議員が何人だとか、国会の期日は何日だとか、そういう枠組みの話しだけです。模擬選挙も同様になっていないでしょうか。何を選んでいくかというプロセスが重要視されているというよりも、選挙の投票や開票を体験してみるということしか取り上げられていないのではないでしょうか。せっかく18歳選挙権が実現したにもかかわらず、こういった枠組みしか学べない教育が進んでいくのはもったいないと思います。

 三つめは、先生方のキャパシティを超えてしまうことです。指導要領が決められても、先生方にとって新しいものを生み出すのはなかなか難しい。やはり子どもたちは受験勉強もあり、テストでいい点を取ることが一番大切だと、政治教育はどんどん後回しになってしまう。

 四つめは、外の声が学校になかなか入ってこないという問題です。僕たち今年度から、地方自治体から業務委託を受けています。地方自治体の人材育成事業への協力が採択されて、いま予算など現場でいろいろすり合わせしています。けれど、ほんとに外の当たりまえが学校の中に入ってきていないし、逆に学校現場の力が社会に生かされていないと――世田谷区は違うかもしれませんが――思っています。

 こういったなかで、政治教育には、二つの大切な力があると思っています。自分たちの住んでいる地域社会に対して課題を発見する力と、その課題に対して自分がとれる選択肢を自ら生み出していく力だと考えています。

 

 僕たちの事業モデルは、政治教育を行う人材を派遣することです。学校現場や地方自治体に、「票育クルー」として22歳以下の若者を派遣するという事業を行っています。この票育は、一個も同じ授業はありません。すべてがオーダーメイドです。票育クルーという、その地域の若者たちは1か月から2か月の研修をします。これは、フィールドワークやヒアリングをして地域のみなさんの声を聞いたり、市役所の方のお話をうかがったり、実際の政策を調べたりという形で、その学習成果を票育という形でお届けしているからです。

 ぜひ世田谷区でも行わせていただきたいと思っています。

 票育は2015年の7月から行ってきて、233000人にお届けできています。今年度は、長崎県の大村市で1年間の人材育成事業として採択されて、市内の全中高で、票育クルーとともに授業をつくり届けることになっています。

 どうぞよろしくお願いいたします。

  20160413票育アドボカシーカフェ ゲスト

保坂展人さん/世田谷区区長)

 みなさん、こんばんは。

 私は、いくつかの立場がありまして、一つは中学生の時に政治活動をやったという立場です。それが内申書に記載されて16年間の裁判をやり、いま高校生の政治活動をめぐって議論になっている18歳選挙権について、若かったころの当事者としての立場があります。

 次に、1980年代の校内暴力当時、学校現場をジャーナリストとしてほぼ連日のように歩き、約10年間は高校生としか――雑誌の編集者とかテレビのディレクター以外は――話をほぼしていない。若者とずっと付き合ってきたという立場です。

それから15年くらい、衆議院議員として政治の――まさに後藤くんたちが人を集めて議論しているような――議員の一人だったという立場でした。現在は、自治体の首長。世田谷区は人口885千人ほどの規模なのですが、世田谷区の区長という立場。

そういういくつかの立場があります。

 

小学生の頃から、意見を言い合い、日常を変える体験を

 一つめの立場から言うと、18歳選挙権で、高校生に例えば模擬投票も含めたいわゆるシチズンシップ教育――有権者としての自覚をもつような教育――をやるべきなのですが、高校生からでは遅すぎます。中学生でも遅い。やはり小学生からできるといいです。その小学生からと言ったときに「国会議事堂があり、最高裁判所があり、三権分立で」といった話ではなくて、「自分たちのことは自分たちで決めようよ」ということが大事だと思います。

 私が小学生の時は東京オリンピックの1回目があった頃で、いま思い出してみると、ずいぶん話し合っていました。例えば、掃除の仕方がもう少し工夫できるのではないかとか、校庭で禁止されているボール遊びはこういうふうにルールを変えれば安全が保たれ楽しいのではないかとかいうことをワイワイ学校のホームルームでやっていて、結論が出ない。私が担任に「先生、もう1時間ください」と交渉して、さらに話し合いを続ける。

 こういうことを体験して、話し合った結果決まったことが、非常に部分的ではありますが、新しい決まりになって、日常が変わるわけですね。禁止されていたことがやってよいことになり、やってよかったことがちょっと残念になり、ということを繰り返してきたわけです。そういうことが日常不断にあった世代なのですね。

 ところが、校内暴力当時、80年を過ぎた中学校の現場を訪ねると、ホームルームなんて――そういう呼び方もなく、「学級活動=学活」と呼んでいましたけれども――、話し合いをずいぶん見ましたが悲惨なものでした。「掃除の反省」というのがあると、「誰だれ君がサボっていました」とか、「先生がいなくなったらモップを持って女の子を追いかけていました」と、密告大会になってしまう。そういう場で何か発言したことが、おおよそ不幸の種になってしまう。つまり、「言ってしまってまずかったな」という体験を積み上げていくことになる。だから、中学高校で、「君の意見は?」「何か言うことがあるだろ?」と言われても、「いや…」と。何か言うことは不幸の始まりなのですね。そういう環境を私たちは作ってしまった。その作ってしまったところをそのままにしておいて、「はい、シチズンシップ教育だ」といっても、なかなかそうはいかないと思います。

 私自身、中学生だったころに政治に関心を持ち、いろいろ行動もしたのですけれども、その原点は、たぶん小学生ぐらいの時に、どんどん意見を言う、違う意見に対しては反発しながらも自分の意見を言う、ということが毎日あった、ということが大きいと思います。その環境を変えていくには、そうとう壮大な学校変革・教育改革が必要だと思いますけれども、まずそれをやっていきたいと思います。

 

若者支援策、中高生・若者とつくる未来

 みなさんの住んでいる自治体で若者支援を仕事としている課はありますでしょうか、世田谷区では「若者支援担当課」が3年前に発足をしました。若者を支援する専門部署。じつは日本の中央省庁には、若者を支援する省庁は特段ない。あえて言えば内閣府になりますが、子ども支援担当室があるわけではありません。

 みなさんに今日、『世田谷わかもの応援ブック』という小冊子を配っています。

 このパンフレットに至った前史をお話しますと、世田谷区で今後20年間ビジョンとして貫いていく基本構想――昔は自治体の憲法と言われましたけれども――を作る時に、未来20年後というと、私もそうとう歳でどうなっているか分かりませんけれども、ただ中学生・高校生たちはほぼ確実に、次の社会の担い手として生きているに違いない。ということで中学生・高校生たちの意見を聞こうと。40人程の規模で、主に中高生からの話――いじめのこと・日々悩んでいること・遊ぶ場所がないこと・宿題が多いことなどとてもよい話――を聞いて、またグループ別に世田谷区の未来を話し合ってもらうワークショップもやりました。

 終わった後、子どもたちからメールが来ました。「僕らは区長の話をもっと聞きたかった。区長は、僕たちの話だけを聞いて帰ってしまった。これはずるい」と。その通りだと思ったので、時間制限なくたっぷり話し合おうと。そうしたら、その40人程のうち20人余りの中高生が、なんと合宿をして、世田谷区に対するプレゼンテーションを4チーム、用意をしてくれました。

 そのうちの一つが、中学生・高校生が自分たちの責任で一定の広さの会館ビルを管理して、中高生の活動の拠点にしたいという夢でした。じつは同様のプレゼンが重なったのですが、それにふさわしい銀行跡の建物が見つかりました。8か月だけ使えると。その中高生たちは、やってみたいと。その熱意もあって、若者支援担当課の最初の仕事となりました。その建物で、ユースミーティング――世田谷区で活動している大学生の子どもたちのNPO――が運営するということになりました。すると子どもたちが集まってきました。10か月たち、登録した人数は約1000人です。

 これが一つのパイロットケースになりました。この冊子には、それに続くさまざまな若者の拠点が掲載されています。

 「青少年交流センター池之上青少年会館」は、世田谷区で唯一、青少年会館として昔からあったところですが、2014年から若者支援施設として事業を展開しています。ここは、ダンスが練習できる部屋が一つある。たったそれだけで、この会館に出入りする中高生たちが声をかけあって、世田谷区民会館で1,200人の座席をほぼ満員にしてしまうようなイベントをやっている。

 もう一つ造ろうというのが、「野毛青少年交流センター」です。ここは、昔は集団就職で上京した若者たちが交流するために造られた場所だったのですが、私が区長になる前年に「行革」で閉鎖されることが決まり、使われていませんでした。そこにもう一回、手を入れて、交流センターとしてよみがえらせました。じつは先の中高生20人が合宿したのは、ここです。中高生や20代の若者を対象に、たった一人400円で約40人の合宿ができるという施設です。そこでも多彩な活動、小学生から若者まで、たくさん集まる場所となっています。

 さらに、「メルクマールせたがや」もあります。ここまでは活動的な若者をバックアップする場所の紹介でしたが、ここは、学校や職場で傷ついて一歩も外に出られなくなっている引きこもりの若者たち、あるいは元若者で既に40代近いのだけれども引きこもっていて、親は70代・80代に届く歳になって困り果てているという方などを支援しています。世田谷区には5000人くらいの引きこもりの方がいると推定されていますが、どこにも行き場がなかった。引きこもりの当事者やご家族を支援する場であり、なかなか外に出にくい方々ではあるのですが、同じ体験を持つ方どうしで集まって話をしたり、企画をたてたりしています。

 「せたがや若者サポートステーション」は、全国に「サポステ」という名前で知られているものですが、ここにも、いろんな仕事に就くのだけれども、どんどん解雇されたり自分で辞めたりして上手くやっていけない若者たちがたくさんいます。職場で器用に動き回れないので、バッシングされて、いじめを受けて、引きこもった状態になったような子どもたちも、ここに集まります。この若者たちも、先述の宿泊ができる施設で、土曜日だけレストランを開くというプロジェクトを昨年やって、たいへん好評でした。これからはカフェをやっていくという形になっています。

 じつは世田谷区の若者支援担当課ができて、いまお話した施設だけではなく、25(アール)の児童館にバンドやダンスができる場所をつくったり、就労支援センターをつくりキャリアカウンセリングのコーナーを設けたりして、かなりフルスロットルで若者支援策を組み立てています。

 

 さて、ここからです。

 永田町政治家は全く興味がありません。若者支援について話を聞きたいと言ってきた政治家はいません。さらに、ジャーナリストも新聞記者もほとんどいません。若者自身が取り上げるイシューのなかにも、若者支援がなかったりもします。

 じつは毎週ブログをハフィントンポストの日本版に書いています。

 バーニー・サンダースが後半、ヒラリークリントンを追って出てきた。どうなっているのかと。一回調べてみたら、彼がやったことは圧倒的に若者支援。市長としてやったことも若者支援。これは共通点があるなと思って、ブログに書いたところ、一晩で10万人以上が見てくれた。やはり、いま潜在的に社会の中心的なテーマとなっていることが、見事に落ちている。若者支援策、若者自身に対するアプローチを、金も人も出さないし興味も持たないし話題にもしないという社会のなかで、世田谷区では、めげずにどんどんやっています。

 

上村)保坂さんのお話で、僕も小さいときに、学校にリベラルな雰囲気があった、あるいはリベラルな先生がいらしたことを思い出しました。いまの自分があるのも、それかなと思い当たることがあります。

 また、後藤くんがやっている「高校生100人×国会議員」というイベントの話は、はじめて聞いた時は、議員会館で国会議員と高校生が話すという状況を想像できませんでした。しかし、この329日にいったい何をやっているのかとこのイベントを見に行ったのですが、素直にすごいなと思いました。

 政治教育。馴染があるようで馴染のない分野だと思います。みなさんの中でも、よくわからないという方がいらっしゃいましたら、ゲストにご質問ください。

 

若者たちが地域のことを自ら決め、責任主体になっていく 

参加者)ぼくいちのメンバーです。保坂区長にぜひ聞きたいことがあります。若者支援は、世田谷区のように、自治体のトップの方がリーダーシップをとってどんどんやっていけば、いろんな自治体で実現していくことなのかなと思いました。どうやったら日本中で広がっていくのかなと、すごく知りたい。

 僕は富山県出身なのですが、富山は子どもや若者の意見なんてぜんぜん聞かない。でも、おっしゃったように、いじめの問題や場所がないというような僕たちも抱えている社会課題を、政治の場に上げていくためには、リーダーシップもそうですが、どうやって広げていけばよいのかおうかがいしたいです。

 

保坂さん)じつは若者支援は世田谷区が最初に始めたわけではなく、たとえば札幌市はかなり先行してやっていました。これは「青年の家」を拠点にしてさまざまな事業をやっていました。京都などもやっていました。

 ただ、世田谷区は集中的に積み上げていったので。これは、若者支援を中途半端にやらないで、徹底的にやろうと。つまりは、非正規雇用が増えて、誰しも見通しがなかなか立たず――大学を卒業して就職しても、ものすごく長時間労働で精神のバランスを壊すとか――、若者が自由で遊べるなんて過去の時代で、いまは全然違うという意識を持って施策を進めてきました。

 補足しますと、先に二つの交流センターを紹介しましたけれども、ここまではある種、行政が決めてきて、さあオープンしました、とやってきているわけです。

 三番目に希望があったところは、高校生・大学生たち12人がプロジェクト案をつくったものです。これは、私たち世田谷区で若者支援の場所をつくる意思があると知っていた住民が「学校の跡地を若者支援の場所にしてくれ」と言ってくれて、それを受けて高校生大学生が半年かけて、このスペースは若者のニーズはこれだと設計図を描いたのです。それを住民の前でプレゼンしたとろ、拍手喝さいでした。若者自身が設計して、それが建てられていくのは、ひとつの理想ですよね。たまたま好条件が重なってできていったのでしょうけれども、こういうことができるということを、ぜひ広く知らせてほしいですね。そういうことをやっている首長はかっこいい、ということになれば、やってみようかというところが出てくるでしょうし。

 短い計算ばかりやっていると「世のなか税金が出ていくばかりで、若者遊ばせてどうするんだ」のような話になってしまう。やはり、地域に住んでいる若者たちが、たとえば小さい子どもたちと一緒にイベントを組むなど、地域に根差していくと、高齢者のケアなどさまざまなことについて責任主体になっていくのです。自分たちが決めるということは、主体になるということです。社会のお客さんではなくて、中心部に出ていくということなので、そういう体験をしてもらうことが次の社会にとってよいことになる。みなさん自身が、ぜひ広げてほしいなと思います。

 

上村)これ、「高校生100人×国会議員」の分科会のテーマにしたらどうかな。

 

後藤さん)確かにそうですね。保坂区長の話をお伺いしていて、何が僕たちの実現したいことかなといったら、じつは一つです。それは、若い人に政治課題が与えられていることです。区長がおっしゃっていたように、施設に遊びに行くことがそのまま社会参加や政治参加につながるとか、区長や政治家とのコミュニケーションにつながるとか。僕たちがやりたいことは、ほんとに政治のなかで、中高生でも政治と向きあった時に小さくても成功体験を得られるかということです。成功体験とは、たとえばいま彼のように若い子が区長に質問しても区長が真剣に話を聞いて答えてくれることでもよいと思います。でもこれはなかなか実現できない。学校の外部に機会を求めないと実現できないし、学校に政治家が来てくれるかといったらアメリカと違って日本ではそんな閣僚は揃っていないと。役割を与えられていることこそが、主体的になることの一番の原動力になるので、そこがたぶん僕たちが一番やりたいことだと思いました。

 

政治的中立は、「自分だったらどうするか」を異なる意見をふまえて提示しあうことから

 もうひとつ、教育における政治的中立の話。僕たち、票育クルーといって、22歳の若い人たちが自治体のバックアップのもと学校現場にいくのですが、票育クルーの人たちにとって、自治体に役割を与えられていることももちろん主体的になる原動力なのですが、中高生の新しい選択肢に票育クルーがなっていることも、とてもよい原動力になっているようです。

 政治的中立はない、とも言えます。ここにいらっしゃるすべての人の意見はそれぞれ違いますし。でも、政治的中立は、ここにいるすべての人の異なる意見を踏まえたうえで、自分だったらどうするかと一人ひとりが考えることだと思うのです。いますごく、賛成とか反対とか、YesNoかという話になってきますが、そうではなくて、自分だったらどうするかという考え方、選択肢を提示してあげることこそが、一番の政治的中立だと思っています。若い人自身がその選択肢の主体になって、若者による若者のための政治教育が行われることが、一番の政治的中立で、政治にとって役割があって、それを「票育」はめざしているのではないかなと、お話を伺って思いました。

 

参加者)都立高校で社会科の教員をしています。最初に、学校教育は何をやっていたんだという話がありましたけれども、私も教員になりたての十数年前は、衆議院議員は何人だとかばかり教えていました。ここ数年、シチズンシップ教育、主権者教育という話がらみで、模擬投票ですとか、後藤さんたちの「票育」もつい1か月前にやっていただきました。

 保坂区長にうかがいたいです。ちょうど高校生でいきなり政治教育をやっても遅く、中学生でも遅いと。小学生くらいからそういった話し合いの体験が進めばと、ご自身のお話しをうかがいましたけれども、世田谷区では小学生に対してどのような政治教育を行われているのでしょうか。

 

保坂さん)率直に言って、安倍政権で教育委員会と市長部局の関係が変わって、私が「総合教育会議」を主催して教育委員が参加して区民が見守る、というのが始まっています。この教育会議を、たぶん大方の自治体とは違って、全て公開シンポジウムとワークショップに切り替えました。そのなかで教育をどう変えていくかという議論が始まっていますけれども、学校が93校あって小中学生が4万人いるのですが、いまおっしゃった有権者教育・シチズンシップ教育についても、特段これをやるという段階には至っていません。これからの課題だと思っています。

 また、政治的中立性という話がありました。首長が変わると教科書が180度変わったりするという話をききますが、世田谷区では教育委員会の独自性に対して一定の距離を持っておくというのが以前からありました。かといって、まったく関係ないかというと、今の時代が求めているようなことについては、オランダの学校を教育委員や学校の校長先生たちと見に行きました。子どもたちがプレゼンテーションをしあって互いに評価するシチズンシップ教育や、個人の特性をもっと生かした教育のありかたを見てきて、どのように世田谷区の教育に生かそうかという話を一昨年くらいから始めているところです。いじめについては、子どもたち自身が話し合ってアドバイスをして支えるというスクールバディーという活動を広めたり、子どもの人権擁護機関として学校と教育委員会市長部局の両方で、暴力やいじめがあったときに子どもが駆け込める組織を作ったりはしていますが、ご質問については、まだこれからです。

 

子どもたち自らの思いを議会へ――地方議員との関わり方

参加者)企業のCSR活動、企業人が社会や政治、地域にどう関わっていくかをお手伝いしていますが、やはり子どものころからの体験が重要だなと思いながら活動しています。

 地域課題に向きあって何かを変えていく時に、これは問題だねというときの提言先は、どうしても行政に行きがちです。子どもたちが身の周りのことに関心を持って、どうしたらいいかあれこれ考えることはとても必要だと思っていますが、もうひとつの提言先として、地方議員とのかかわり方もポイントです。自分たちのことは自分たちで決めたいという思いは、結局、周りのことを決めているのは議員であるということもあり、地方議員をどう活用していくか――どう付き合って、どう自分の思いを議会で決裁してもらえるか――というプロセスを小中高生の時に教えないと、実現が難しい。自分はこう思っているけれども、具体的に誰に投票して、その投票した相手とどうコミュニケーションをとって――政治事務所にいって話すとか――いけばよいのかと。小中高校生が地域課題に向きあうとき、ダイレクトに区長さんにばかりいきがちですが、地方議員と市民との関わりはとても重要だと思っています。

 子どもむけに「地域課題を知ることは必要だよ、ちゃんと意見をだそうね」といいながらも、じゃあ、ここにいる議員との付き合い方をどのように伝えていったらよいのか常々悩んでいます。その辺のご経験があればお話しを伺いたいです。

 

後藤さん)地域課題を見つけることは大事です。その提言先が、今のご質問ですと、首長になってしまっていたり、提言から実現までのプロセスが見えにくくなっていたりするということですが、僕も同感です。地方議員との関わり方はなかなか難しいと思います。

 でも、中高生は今、SNSやインターネットがすごく普及しています。いま保坂区長のTwitterをフォローさせていただいていて、それだけで、ひたすら保坂区長からの情報が流れてきます。これはとても大事なことで、地方議員との関わり方は、いまの中高生にとってインターネット以外なかなか無く、ネット選挙も解禁しているので、Facebookに「いいね!」するだけでもTwitterをフォローするだけでもいいので、必然的に情報が流れてくる環境をつくることが大事だと思います。

 さらに中高生が「何とか高校の何年生で、こう思っているのですが、ご意見いかがですか」と、政治家に意見を投げかければ、ほぼ8割がた返ってきます。僕がそういうことをしていた経験からですが。意外とそういう形で、地方議員とのつながりは身近です。

 だから「票育」のほうでも、まちの担い手となって授業を作って届けていった子たちが、その成果を区長に提言することも重要ですが、その区の地方議員にもレポートするのは、とてもよいと思いますので、ぜひやっていきたいなと思います。

 

保坂さん)地方議員といっても、世田谷区では区議会議員が50人。立候補する人は80人に上ります。選挙のポスター掲示板は巨大になります。一目では全ては見られないくらい。そういう特性上、区議会議員のなかでも、ある専門店的――例えば障害をお持ちの方の権利について徹底的に取り組む方――に分かれていても当選できるし、もちろん地域代表的な方もいらっしゃいます。ですから地方議員との関わり方を若者という角度からいえば、「18歳選挙権で、みなさんどう考えていますか」と高校生3人でも――できれば「若者支援センターというのを世田谷区ではやっているけれども、うちの市でもやってもらえないだろうか」と――聞きに行くと有効だと思います。

 行政から言うと、議会で「若者支援が必要だ」という声が出るのと、全く出ないのにやるのとでは全く違います。やはり、議会からそういう声が出ていて取り組みを強めているというストーリーのほうが、ずっと進みます。

 

もっと住人の力を行政や政治に作用させ、よりよい社会を――子どもの頃からの体験が土台

 もう一つの問題は、代議制民主主義の限界がいま言われています。行政や政治のプロを自称する人たち――私を含めてなのですが――の失言や言動のなかで、失望感が広がっています。

 それと反対に、先述の20年ビジョンをつくる時に、世田谷区民1200人に招待状を出しました。「ワールドカフェをやります。区の20年ビジョンについて、朝10時から夕方5時まで付き合っていただける方、弁当とお茶が出ます」と。参加いただいたのは88人、19歳から76歳くらいまで。年齢が分散するように20グループつくったら、ものすごく議論ができる。そこで提案されたことはいずれも、今の時代のなかでかなり先端的な問題意識だなと思えるものが出てきました。

 ですから直接、住民の知恵、そこに住んでいる人たちの力、というものがもっと行政や政治に作用していけば、この社会は確実に良くなると思います。

 いっぽうで、区議会議員・区長の投票率は4割しかない。参議院議員・衆議院議員どころではない。区民有権者が100%投票したとすれば全く違う結果が出てくると思いますが、4割では昔ながらの地縁・血縁で投票行動を決める人の影響力も必要ということになり、多数の人はやはり、「何をやっても変わらないや、どんなに言ったって聞いてはもらえないや」と、若者だけではなく大人も思っています。ですから、そこにも気がついている政治家を応援してあげてほしいなと。つまり「私が代表で、全部みなさんのことをやります」というのはダメです。「政治家になりたい」という人はだいたい疑ったほうがいいです。「なりたくないけど、ならざるを得なかった」という人はだいたい良い仕事をすると思います。

 

参加者)江戸川区で、子ども・若者の支援、とくに社会参加を応援するNGOの代表をしています。地域の社会課題、とくに子どもたちをめぐる虐待や遊び場といった問題について、全く子どもたちの声が反映されていないということで、私たちは、できるだけ子どもたちの声を集めて、政策提言をする活動をしてきました。子どもの権利条約を地域で普及させるのがテーマです。実際にこの活動に参加してくれる子どもたちというのは、社会とのつながりや、大人に対する信頼感を持った若者たち・高校生・大学生たちが多く、冒険遊び場などで手伝ってくれることが多いです。

 世田谷区は、チャイルドラインやプレーパークなど、子どもたちが自由に発言できる、あるいは、自分たちで考え行動できるような環境ができている。また、それを支えるNPONGOがたくさんあると思います。それが下支えになっていると思いますが、そういった市民団体の連携について、アドバイスや有効なことがありましたら教えていただきたいです。

 

保坂さん)先述した25ある児童館はいずれも、キャンプをやっています。そのキャンプは、小学生のとき児童館で遊んでいた子が高校生・大学生になって、お兄さんお姉さんとして率いています。そういうことのなかで、いろいろな企画――お化け屋敷やキャンプファイヤなど――をします。それが、児童館祭りや地域の祭りにも生かされてきています。

 また、プレーパークという冒険遊び場――世田谷区から始まって全国約400カ所に広まっていますが――で育った子どもたちは、高校生バンド大会を、地域の羽根木公園のお祭りでやったりしています。

 自分たちが決めたことを、大人の助けも借りながら、ルールを逸脱しそうになりながらも引き戻されながら、何とか運営していく、という体験を積み上げていくということがあります。こういった機会に、小学生のころからもっと接していくことが大事だと思います。

 子どもの権利条約の話が出ましたが、待機児童の問題について、いま国との間で、国会議事堂での議論で、世田谷区はもっと大勢の子どもを預かれるよう、子ども一人あたりの保育面積を削れとか、保育士さん一人あたりの保育人数を増やせとか言われています。これは全くの本末転倒だなと思っています。子どもの権利条約にそって、子どもの視点から見て保育というものをトータルに扱っていく、というガイドラインをつくっています。また、子どもの権利条約に則した子ども条例があり、いじめや暴力などがあった時に駆け込める機関も、この条例を根拠に立ち上げていたのです。

 ですから、そういった市民活動などの蓄積があり、そこに区の政策が絡み合いながら、一緒に回転しているというように持っていきたいと思っています。

 

フェア・スタートを支援

 児童養護施設を対象にした進学支援プロジェクトについて説明したいと思います。

 いまアメリカの大統領選挙でも争点になっていますが、学費が高すぎると問題になっています。奨学金というのはローンです。高額な借金であり、首が回らないと。サンダースは、大学の無料化や利子の減免へ切り替えようとしています。

 じつは僕自身が国会議員だった時に、児童虐待防止法をつくって、2回の改正をしてきた立場で、いいことをやったつもりでいたのです。でも児童養護施設に行ってみると、とんでもない現実があった。東京は比較的、大学や専門学校に進学する子が多くて、25%くらいです。地方では、山のなかに児童養護施設がありますから、進学者はゼロ、戦後だれも行っていないというところもある。これはやはり、おかしいでしょう。児童虐待を止めるため親を引き離し、社会が養育するというのが、社会的養護の仕組みです。「社会があなたを育てるよ」と言ったときに、どうしてフェアなスタートができないのか、ということが一番気になっていたのです。

 世田谷区には二つの養護施設があります。この施設にもお話しし、青年会議所(JC)のメンバーが一つの養護施設の支援に入って、進学支援は重要なテーマだとの認識ができあがってきたので、区の財政から5000万円を拠出して、また区民や区外の方々の寄付も募って――この41日から募集を開始して今ようやく150万円くらい集まったのですけれども――、まず寄附型奨学金を月3万円、進学者の子たちにあげましょうと。それから世田谷区は家賃も高いので、1万円で2人か3人ずつで住んでいただける区営住宅を5つ用意しました。さらに情報交換の場というのもセットしました。その場で、地域の人たちと、児童養護施設出身の先輩たちや後輩たちとがつながっていくというのを、昨年の9月にスタートしました。

 これを自治体がやるとアピール力があった。

 国も補正予算で67億円つけて、世田谷区と似たように見える制度ですが、生活費5万円・家賃全額を児童養護施設出身生に貸しますよ、とやった。貸して、5年間、同じ仕事で就業を続けたら返還しなくてよいという制度にしました。裏返すと、4年半で辞めると約500万円の借金になりますが、そこは実際どう運用されるかわ分かりません。

 東京都も、児童養護施設出身生を対象にしたシェアハウスやアパートを家賃4万円で貸してくれるオーナーに対して、改装費を全額出すという制度を始めました。世田谷区は、この皮切りになったということです。

 世田谷区へのふるさと納税の対象に、児童養護施設出身生への進学奨学基金はなっています。

 

――ワールドカフェ「明日からの選択」――

寺井尚輝さん・ぼくいち事務局)これからワークショップを行いたいと思います。ワールドカフェといって、明日からの選択というテーマで進めていければいいなと思います。

 そもそもワールドカフェって何、というところからお話させてください。みんなで楽しくワイワイ、カフェみたいな雰囲気で、意見を話し合ったり知識を共有したりできたらいいなというところです。

 テーマは「明日からの選択」。さあ、この選択は、明日からできる自分たちなりの政治参加の選択肢を、みんなで話し合っていければと思っています。選挙に行くことだけが政治参加というわけではないと思います。いろんな市民活動に行ったり、まちのお祭りに行ったり、いろんな政治参加・社会参加の一つだと思います。

 今日は若い人から年配の方まで幅広い世代の方がいらっしゃいます。政治参加の目的や手段も違うと思いますので、いろいろ意見をうかがえればと思います。

 

――グループに分かれて話し合っていただきました。さまざまな人と話し合っていただくために、2回、グループを変更しましましたが、各グループの一人は残っていただき、次のグループの方と話を共有し、さらに議論を熟練させていきました。そして、全体で共有するために各グループから発表いただきました。その内容を次に紹介します――

 

1)ここは、「届けたい相手の目線に立つ活動をしましょう」というのが明日からの選択です。

 ここにいらっしゃる方々は、政治家や政治の世界で活動している方が多く、すでに政治参加をしていると。そのなかでも、それぞれ悩みがあると。それは、いかに関心のない人を巻き込むか。なんで政治に関心を持ってくれないのかと。

 でもその悩みは、届けたい相手の目線にしっかりと立っていないからではないかと。一方的な話の押しつけになっていないかと。まず、届けたい相手とコミュニケーションをとりながら、どう思っているのか感じ取って、押しつけずに、政治に巻き込む土壌を作っていこうというのが、明日からの選択ということになりました。

 

2)「いろいろなことを疑ってみる」ところから始めてみてはどうかと。

 ここの班は、バックグラウンドが多様でいろんな話が出ましたが、一つ共通してあったのは、自分たちがいろんな議論をする場所がなかなか無いということです。自分たちの意見をじつは持っているのだけれども、その意見を表明し、発信していこうという場が社会で生活している中に無いよねと。そこで明日からできることは何かというと、生活の中でいろんなことを疑ってみることではないかと。例えば「なんでこの校則があるのかな」とか、「なんでこのルールはあるのかな」とか、「こういう政策はどうしたらよいのかな」とか、生活の中にある社会のルールや決め事を疑ってみるところから、自分たちの意見を表明したり考えたりすることにつながるのではないかなと思いました。

 

3)「子どもに自分で考え、選択できる機会を与える」、ということを明日からしようと思います。

子どもが間違えても、大人は「ほら間違えた」とか言うのではなくて――僕も言ってしまうのですけれども――、「間違えることは悪いことではない、間違えなければ成功できない」ということをもっと伝えていくべきではないかと思っています。親や学校が言っていることは正しいと思われがちですが、親が子どもにもっといろんなことを話して、いろんな選択肢を与えてください。僕たちもがんばります。

 

4)私たちの班は二つあります。

 一つは「思ったことを口にしてみる、という機会が必要」なんじゃないかと。

 地域町内会という主体と、学校という主体と、家庭という主体が、将来を担う子どもたちに、思ったことを口にしてみるという機会を、気軽に与えてあげることが必要なのではないかという話になりました。

 二つめは「Welcomするノウハウ」。

 いろんな活動を子どもたちのために社会のために一生懸命していらっしゃる方が今日いると思います。ちょっとでも口に出してみようというという子どもたち若者たちをWelcomする、気軽にWelcomする機会が必要なのではないかという話になりました。

 

5)前の二つの班と共通するのですが、幼い時からどういうふうにコミュニケーションや関係をつくっていくんだということで、「子ども自身の気持ちを引き出していくような機会をそれぞれの場でつくっていこうじゃないか」と。

 子育ての真最中であれば、保育園や学校で子どもたちが管理されるのでなくて主体的にいろいろできるように学校に対するものの言い方ですとか、もう少し上の世代であれば、世田谷の例も出ましたように児童館などで若者たち主体でいろいろな行事や設備運営ができるようにとか、そういった関わりをいろいろなところで持って、「子どもたちや若い方たちがどこかで社会と手ごたえのある接点をつくれるようなことを、それぞれの人のポジションでやっていけばいいんじゃないか」という意見です。

 

6)われわれは「家にいてもどこにいても、生活することは政治である。どんどん話題にしていこう」ということです。

 出た意見を挙げますと、「政治家と呼ぶのではなく、生活家とよんだらどうか」、「学校で食育をきっかけに世界情勢に関心を持つ」、「ベビーカーを持って街に出て疑似体験をしてみる」、「赤ちゃんに直接接する機会をつくる。赤ちゃんとお母さんが中学校を訪問して、中学生たちに赤ちゃんを育てる大変さと楽しさを体験してもらう。それが少子化で兄弟が少ない家族には、たいへん有意義になると思います」、「先生が夏休みにインターンシップで、政治家のところに行って話をきき、政治家から直に学ぶ機会が必要だ」、「安保法制で政治に関心が高まった方も多いと思います――安倍の功罪だと思います」。以上です。

 

7)「子どもへのインタビュー」。

 ここでの意見として、「多様な市民の意見を聞く場所」、「教育そのものを変えることによって、子どもに考えさせ任せるという場面を多くし、自ら考える力を育てる」、「子どもの考えもちゃんと聞く」、「家庭のなかでどうしてもお母さんが中心になるので、お母さんから家庭を変えていく」、「当事者の気持ちになる」、「身近な政治体験」。

 個人的な意見ですが、今の投票権というのは、参政権ではなく、結果として多数決による人気投票です。公開で議論する、その議論プロセスに直接に関わって始めてそこに、参政権を見ます。選挙と同時に、直接私たちが政治のプロセスに参加できる、そういう政治にしてほしいと思っています。

 

8)私たちのところは、「自分が学びビジョンを持つ」。

 どこから始めたらよいかわからないよね、裏返して言えば、身近なことに感じられていない現状がある。最終的には、いったいどうしたらよいのか、というビジョンを持たなければいけない。そうでないと、なんのために選挙するのですか、誰を選ぶのですか、どういう法律を選ぶのですか、というところにたどりつけないと。これは、大人も子どもも関係なく、子どもの代であれば、学級会で学級委員を選ぶ、自分の校則を変える、そういうことをどういう段取りでするのかというところから始まって、それを拡張して、国政を選ぶ、そういうところに段階的にたどり着ける仕組みをつくろうと思ったら、学びビジョンを持つことが必要でしょうという結論です。

 個人的には、2班がおっしゃっていた「疑ってみる」ということと表裏一体だと思います。「欲しいものがある、なぜできないのですか」ということを考え始めたら、今の仕組み、その障害になる仕組みを疑わなければいけないですし、今の仕組みがおかしいなと思うようであれば、そこから自分がどうしたらよいのかも見えてくるはずだと。そういった関係性をもって、何かできること――とりあえず、できることが分かっていないよねと、それもまたスタートとして学んで行くのではないか――という結論になりました。

 

寺井さん)ほんとにたくさんのアイディアと意見が出て、素敵な機会になったのかなと思っています。今日のテーマは「明日からの選択」ということで、今のアイディアで明日からでもできる選択があったと思います。ぜひみなさんに明日からやっていただいて、より素敵な政治参加になれば、今回やって良かったなと思います。今日はワールドカフェに参加していただいて、ありがとうございました。

 

実現したいことと政治の結びつきを学べる環境を

後藤さん)ありがとうございました。普段は、中高生や大学生など、自分たちと感覚が近い人たちと話すことが多いのですが、今日はいろんな視点をいただき、すごく新鮮でした。

 いま、若者と高齢者とか、安倍政権と若者とか、世の中は、対立構造をあおってくると思っています。そのなかでとくに僕が問題視しているのは、若者V.S.お年寄りです。世代間格差をあおられて、将来あなたたちは老人の年金を背負わされると危機感をあおられて、政治へ関心を持たなければいけないと思わされてしまう。そういう、危機感をあおられて生まれる関心はあまり意味が無いと思うのです。

 もともと自分がやりたいことや、実現したいことと政治がどう結びついていて、何を動かしたら社会は変わるのか、ということを学べる環境をつくることが大事だと思っています。その土台をまずつくった上だったら、例えば介護に興味がある子がいれば介護について調べると思うし、イベントに行くと思うし、安保法制に興味のない人でも気になって調べたりダメだと思ったら声をあげたりするだろうし。そういう土台を、危機感をあおることではなく、対立をあおることではなく、つくることが大事だと思っています。

 

 僕は若いうちにやりたいことが二つあります。日本の政治教育を変えることと、被選挙権を引き下げることです。

 被選挙権はいまキャンペーンをやっています。20代の国会議員はゼロ人なのです。717人いる国会議員のうちで。それ30代の国会議員は50人ほどなのです。それを見た時に、いま中高生は「18歳選挙権が成立しました。みなさん参議院議員選挙に必ず来てください。若者の一票が日本を変えます」といったことを言われるのですが、いや待てと。まず参議院議員の被選挙権が30歳ですと。もともと30歳以上の人へしか投票できないというベースがあって、さらに30代の国会議員は50人位しかいないので、40代の人がメインになってくるのです。それは、お父さんお母さんの世代です。何が違うかと言えば、もちろん世代間格差があおられていて負担金や税金の金額は違いますが、それ以上に、感性が違うのです。意外と違います。例えばインターネットが身近にあって政治家と議論していても、LGBTの話をなかなか理解できなかったりとか、僕たちが当たり前と思っていることが全然通じなかったりとか、この考え方の違いも格差を生じるのです。

 そういうところを変えるため、政治教育を変え、被選挙権を引き下げ、若い人の声が直接届く場所を、政治のなかにつくりたいと思っています。  

 

成功体験のある教育環境から

上村)やや大人ぶって、3点くらい、まとめに変えて意見を述べさせていただきます。

 一つに、後藤くんが、22歳以下という話をしました。なぜなら22歳以下でないともっと下の世代に話を聞いてもらえないという指摘は、すごくショックでした。これは、教育をどう見直すか、というポイントとつながります。私も大学の教員ですが、大人は若者をコントロールしようとします。良くも悪くも。つまり、教師は、意識的か無意識かは別にして、若者を見下している。その関係性を察知しているので、若者は大人あるいは教師の言葉に耳を傾けないという関係があるのだと思います。だからこそ、どこまで子どもを信用できるか、に基づいた教育改革が土台ではないかと思いますし、そこにおそらく「成功体験」の意味が関係してくるのだと思います。

 例えば模擬投票という行為について、じつは後藤くんたちが3月末にやった「高校生100人×国会議員」の「政治教育」という分科会のテーブルで聴いていたのですが、高校生たちはみんなよくわかっていました。「模擬投票は遊びだよね。あんなことで私たちが政治教育されるわけがない」と。何がしたいかときけば、「実際にものを変えたい」と言っていました。例えば生徒会を民主化するとか、校則を変えるとか。それができなかったら民主主義社会の「成功体験」にならないのです。しかし、同時にテーブルの半数近い高校生がそれは無理だとも言っていました。

 学校の現場の教員が――私も教員だから言います――、もっと管理職や組織と戦わなければなりません。子どもたちの意見がきちんと通るように。それを子どもたちも見ています。それをやらないで、大人がどんなに模擬投票をやって「君たち政治を動かす主権者だ」と言っても、信用しようがないのです。教員だけではありません。まず自分が属している組織のなかで、若者に見られているという自覚のもとで、いわゆる我々大人が民主化をどこまで具体化できるのかということが重要だと思います。

 二番目として、視野や行動が外に広がるということです。後藤さんが、政治的中立とは異なる意見を踏まえて自分の意見を主張することだといいました。かなり重要な指摘だと思います。自分の意見をもつ。しかし、自分の意見と対立する人たちがどんな意見を持っているのか、その論理構成をきちんと理解できないうちは、じつは自分の意見になっていないのです。僕の授業ではそう教えます。そうでなければ、何かの別の機会に自分の意見はコロッと変わります。考えを変えること自体が悪いとはいいませんが、政治家ですら自分の主張を悪い意味で変説する人が少なくありません。

 相手の主張は何だったのかをきちんと説明できない民主主義は、どこか底が浅いと思います。戦後の民主主義は、残念ながら冷戦構造に影響されて体制選択を軸に、相手を論破するあるいは自分の主張が正しいことのみを確固たるものにする知識教育が行われてきたと思います。たとえば安倍政権がいう積極的平和主義について、僕は間違っていると思いますが、何を背景にどんな論理構造を取っているのかをよく説明できないまま反対しているとしたら、たぶん本当には自分の意見になっていません。私たちの戦後民主主義はこうしたかなり危ない構造をもっていたからこそ、現在危機に瀕しているのではないでしょうか。

 三番目として、SJF自身の理念でもありますが、制度をどうやって変えていくのかということに取り組まないと、個人の努力やみんなのがんばりだけでは、民主主義は実現できないと思います。

 例えば、みなさんの中にも選挙制度自体をどうするかというお話がありました。私個人はスイスに仕事でよく行きますが、極端な話をすれば、直接民主主義の制度があります。アッペンツェル州では有権者が一同に会して現在も政策を決定していますし、国政レベルでも国民投票という直接民主制度がよく使われています。こうした制度は最近とくに注目されているともいわれていますが、それは、民主主義の危機が日本ばかりではなく世界各国で間接民主主義の限界の露呈ではないかと考えられ始めたからです。もしそうであれば、現状で投票率を上げる、選挙区や選挙制度をいじくること自体が無意味かもしれないのです。人口が一定以下であれば、有権者がみんなで集まって話し合いをすればいいかもしれません。あるいは保坂さんが紹介した「総合教育会議」もある意味分野別の直接民主主義の試みかもしれません。その意味で、政権を変える、与野党の交代を実現するばかりではなく、私たちは抜本的に社会をどう民主化するのか、その制度は何なのかを自由にそしてもっと真剣に考えるべき時代に来たのかもしれません。

 こういったことをあらためて考えシェアできたこと、とても有意義でした。みなさまの積極的なご参加に心から感謝したいと思います。        

  

 *** この2016年4月13日の企画ご案内状はこちら(ご参考)***

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