ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)アドボカシーカフェ第41回開催報告
性について――命と愛をどう学ぶ?伝える?
2016年2月15日、ゲストの染矢明日香さん(NPO法人ピルコン理事長)と星久美子さん(NPO法人開発教育協会/DEAR)をお迎えしたアドボカシーカフェを、SJFは文京シビックセンターにて開催しました。
染矢さんは、相手がある愛もあれば、自分に対する愛――ありのままの自分を受け入れること、自分自身と向き合うこと――もあり、それらを健康という概念でとらえていく、人権という概念でとらえていくことの大切さを話し、性=タブーではなく、自分としてどう生きていきたいか、どう人と関わっていきたいかという部分を含めて、「対話」がとても大事だと強調しました。また、水とコップを使ったゲームを行い、参加者は感染症のリスクを実感させられました。
星さんは、心も体も温かくなるワークショップで会場を氷解させました。そして、「性」は人生そのものだったり、愛だったり、すごく広いことだと今回あらためて実感したと述べ、対話を重ねて周りの人や、家族、近しい人たちと、ひとつひとつ小さな話題についてどんどん対話の輪を広げていき、私たちが望むことが実現するようエンパワーしていきたいとの思いを語りました。
科学的な性知識だけでなく、愛とはどういうことなのか、どのような責任が伴うのかも、伝え学んでいくことが必要であり、また、その子の生き方にプラスになるような関わりかた見守りかたが大切だと締めくくられました。
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寺中・コーディネータ)今回の企画は、昨年9月のアドボカシーカフェで、子どもたちに対する性的搾取の問題について、インターナショナルスクールの高校生と人身取引被害者サポートセンター ライトハウスの瀬川愛葵さんと一緒に対話をした際に、もっと性の問題を掘り下げたいという参加者の声が多かったことがきっかけとなっています。
――星久美子さん のワークショップ――
※登壇を予定していた小貫大輔氏は当日インフルエンザに罹患したため、参加申込者の星久美子さん(NPO法人開発教育協会/DEAR)が急遽登壇することになりました。星久美子さんは、学生時代に小貫氏の性教育の授業を受け、また小貫氏がブラジルで体験したことに興味をもち、半年間ブラジルに行って赤道近くの漁村で、10代の少女たちと将来像や交際、結婚、避妊などについて話す「ガールズトーク」の活動をしました。帰国後は、青年海外協力隊で2年間ベリーズに行き、開発教育協会(DEAR)でスタッフを務めており、この春からは大学院で教育学の勉強を始めます。
小さな子どもに「愛ってなあに」と聞かれたら?
星)今回、いろいろな方がそれぞれの思いがあって参加されていると思います。せっかくですので、新しい人と出会ったり、アイスブレイクしたりする時間にしたいと思います。
最初に、みなさんにお聞きしたいことがあります。登壇を予定していた小貫先生がインフルエンザにかかってしまいましたし、みなさんの体調についても聞きたいと思います。部屋の四隅に分かれてください。「絶好調です!」と言う方は寺中さんのあたりに(部屋の左前)。「まあまあ元気かな」という方は受付の方に(部屋の左後ろ)。「ちょっと不調です」という方はあちらに(部屋の右後ろ)。その他の方は、こちらに(部屋の右前)。では、立ち上がって分かれてください。
星)「絶好調」の方にうかがいましょう。なぜ今、絶好調なのですか?
参加者)さきほど立ち食いソバで食べてきまして、お腹が満たされていて絶好調です。
星)すばらしいですね。
参加者)私も同じでちょっと食事をしたので。また、昨日イベントがあってかなり成功したので、気持ちがよいです。
星)気持ちと体調は関係してますもんね。では、「まあまあ好調」の方に聞いてみましょう。
参加者)学生なので毎日の生活が不規則になりやすく、体が少し不調です。
星)そうですか。今度は、「不調」のみなさん。
参加者)二つ理由があります。まず今、日帰り出張で京都から帰ってきて何とか滑り込んだところで、疲れています。また、不調の方はどんな方なのかなという興味もあり、「不調」を選びました。
参加者)外仕事をしてるんですが、昼間、雨にうたれて。それとお腹も空いていて。
星)お疲れ様です。お腹を空かしているそうなので、どなたかおやつを持っていたら恵んであげてください。そして、「その他」の方。
参加者)昨日、献血をして、少しだるいです。
参加者)慢性的な二日酔いと寝不足ですけれども、気合いでがんばります。
参加者)昨年末に、マイコプラズマ肺炎にかかりまして、もう感染力がなくなり大丈夫だと言われていますが、また無理するとわからないなと思って。
星)ありがとうございます。では、いったん輪になっていただき、端から1~7の番号を言っていってください。――はい、みなさん、各テーブルに、1番・2番・・・の方という具合に7グループに分かれて座ってください。今日はこのグループですすめていきたいと思います。
星)みなさんお手元に緑色の紙はございますか?自己紹介を書いていただきたいのです。この紙を4つに折って、4つの窓をつくってください。
1の部分(左上)には、お名前を――呼ばれたいお名前を、ニックネームでもよいので――書いてください。
2の部分(右上)には、普段していることを――所属やお仕事、好きなことを――書いてください。
3の部分(左下)には、ちょっと考えていただき――もし、小さな子どもに「愛ってなあに?」と聞かれたら、何て答えますか?――書いてみてください。
星)では、今からグループ内で発表しあってください。こんな感じということで、染矢さんにまず発表してもらいましょう。
染矢)染矢明日香といいます。性教育のNPOをやっています。「愛ってなあに?」ときかれたら、「だれかとかものを考えたときに、あったかくなる気持ち」と答えたいと思います。
星)こんなふうに紙を見せながら、ひとり1分くらいで自己紹介してください。演説はダメです。では、グループの中でいちばん薄着の方から時計回りで始めてください。
星)みなさん終わっていますか?楽しそうなお話をみなさんなされていたようですが、会場のみなさんに紹介していただけることありますか?
参加者)たまたまご相席いただいたのですが、同じ月の1日違いのお誕生日の人がいたうえ、同じ静岡県沼津市からの方が半分を占めていました。これもご縁かなと驚いています。
参加者)美術史を研究されているイギリスからの学生さんと、レイプ被害者を救済する団体で働いていていらっしゃる方で、関心のあることが似ていたので話がすすみました。
ちょっと近くなる、温かみがある手と手
星)みなさんの書いた「愛ってなあにと聞かれたら」の言葉を見ていたら、心が温かくなりました。この質問してよかったなと思いました。書いているときに、具体的に大切な誰かのこと、すてきなあの時のこと、いろいろ思い出しながら書いていただいていたようですね。それを共有すると、似ているところがあるなとか、そうだよねとか、その人の人となりやバックグラウンドが垣間見られるようでした。
今、ちょっと心を動かしていただいたので、今度はちょっと体も動かしていただきましょう。少し歩き回っていただき、日本風にふつうに挨拶をしてみてください。たわいない会話でよいです。
星)みなさん今、どんなふうに挨拶しましたか?体の動作はどんなふうでしたか?
参加者)「こんにちは」と会釈してから、ですね。
星)その相手との距離感はどれくらいでしたか?
参加者)このくらい(手で距離を表現しながら)。
星)では次に、握手をしてからお話を始めてみてください。新しい人に出会ってくださいね。
星)どうでしょうか。ちょっと聞いてみていいですか。うーん、にぎやかで全然聞いてくれない。握手をしてみてどうでしたか?
参加者)距離が近くなった。
星)何の距離ですか?
参加者)お話の距離。
参加者)気持ちの距離。
星)おー。
参加者)実際の距離。
参加者)物理的な距離。
星)みなさん、そう思われますか?握手するときはどんな感じでしたか?
参加者)あったかい。
星)なるほど。みなさんを見ていて、握手をずうっとしたままお話している人もちらほらいました。握手をしながらお辞儀をしている人もいました。握手するとき、アイコンタクトはしていましたか?
参加者)してないよね。
星)外国に行っていっていた方はいますか?外国で握手した時のエピソードをお話ししていただけますか?
参加者)中米に2年、ロシアに3年、中国に4年と、都合9年ちょっと海外ですごしました。海外では握手する機会が多いです。ほっとするのが、海外で握手すると、がっちりと握り返してくれるんですよね。日本では、緩くしか握り返してもらえないことが多くて、嫌われているのかなと思ってしまうこともあるのですが、今日はしっかり握っていただけて嬉しかったことをご報告します。
星)握手に慣れている方、他にいますか?握手はどんな時にしますか?イギリスでは握手はしますか?
参加者)初めて人に会った時に、ほとんど必ず握手します。日本でも習慣で握手しようとしたら、相手が困ってしまうことがあります。
星)今、握手してみてどうでしたか?
参加者)よかったです。ちょっと近くなる気がします。温かみがあるじゃないですか、手は。それがよいと思います。
自然とね、にこやかになれますね、ハグ
星)もうひとつ、ちがう挨拶にトライしてもらいたいと思います。小貫先生は、13年間くらいブラジルで国際協力の仕事をしていて、お産のヒューマニゼーションや、ファベーラのシュタイナーのコミュニティーに関わっていました。その関係で、私もブラジルに行ったことがあります。そのブラジルの挨拶をちょっとやってみます。ブラジルでは、ハグをするんですね。こんな感じに(見本を見せる)。
参加者)キスじゃないの?
星)ほぼキスなんですけれども、男性同士ではあまりやりません。女性同士や、女性と男性のハグの場合には(耳元で)キスもします。最初に右のほっぺを合わせて、そのあと左のほっぺと、2回合わせます。地域によっては、3回合わせたりする場合もあります。
では、3人くらいとやってみてください。積極的に相手を見つけにいってください。
やってみて、どうでしたか?
参加者)照れ臭かったです。やったことがなかったので。みんな硬直していたんで、海外から来た方(イギリスからの留学生)と今のうちに体験させてもらおうと、真っ先に挨拶しました。初めてこの挨拶をしてみて、なるほどと、そんな感じでした。
星)ありがとうございます。他にはどうでしたか?
参加者)自然とね、にこやかになれますね。
星)そうですか! 自然とにこやかになれた方は? にこやかになれず、カチカチでしたか?
心の距離はどうでした? にこやかになれるってことは、距離は近づいているのではないでしょうか。物理的にも距離はゼロになりますね。
参加者)イギリスでも、チーク部分へは、少し照れます。
星)そうですか。
参加者)フランスやイタリアの挨拶みたいですね。
星)ありがとうございます。
では、今のこの気持ちを持ちながら、グループに戻っていただきましょう。
ちょっと、心も、体も、ぽかぽかになりました。
では、このワークの最後に、先ほどの自己紹介の紙の空欄にしておいた4番目の箇所(右下)に書いていただきたいことがあります。染矢さんのお話につなぐ意味合いです。今日は、性に関する命や愛がテーマの会ですよね。みなさんも性に関することで、想いとか、悩みとか、体験とかなんでもいいので、1つ書いていただけますか。
たとえばとして私の話をします。ブラジルでは、初めて会った人でも誰とでも、さっきのハグをします。私は、ブラジルから日本に帰ってきて、家族ともハグするようになり、今でもします。そうしたら関係性も変わっていきました。私と父はあまりしゃべらなかったのですが、しゃべるようになり近くなったように感じています。また、両親はあまり仲良くなかったのですが、最近では仲良くなってきている雰囲気なんですよね。ハグすることで関係性が変わって、セックスの話とか性のこととか、フランクに私のほうから話題を出せるようになって、母からも話が返ってくるようになって、ハグはみなさんがさきほど体験したように物理的な距離も心の距離も近づける、そういうことにつながるきっかけになったのです。
――染矢明日香さん のお話とワークショップ――
人生をデザインするため、性を学ぼう
みなさん、こんばんは。NPO法人ピルコンからきました。
日本の性の課題と、性教育の現状と、これから求められることについて、実際にどういったことが起こっているのか、中高生向けの性教育のプログラムをやっているなかでどういった課題があるのか、などをお話しします。
気づいた方もいらっしゃると思いますが、妊娠7か月になります。1.5人で頑張りたいと思います。
私たちピルコンは、2013年にNPO法人化した団体で、性の健康の普及啓発を行っています。私たちは、とくに医療従事者や教員免許保有者というわけではなく、2・30代の大学生や他に仕事を持っているボランティアスタッフを中心に運営しているNPO法人です。おもに中高生に、性教育とキャリア教育の講座を外部講師として提供しています。
はじめに、ちょっとクイズを出してみたいと思います。
「思春期の性の悩み」を中学3年生に聞いたとき、ベスト5は何だと思いますか? 聞いたのは2014年の東京都です。
参加者)私は、自分の体が人と違うんじゃないか、醜いんじゃないか、色や形が変なんじゃないか、そういうことではないかと思っていたのですが、いまグループで話していて、中3くらいになるともっと具体的な男女のこと、性行為をしていいのかなどではないかと言われて、ショックを受けています。
参加者)生理痛が始まって痛いとか、あと男の子の場合は、声変わりとか。
染矢)ありがとうございます。では、気になるランキングを見ていきますね。みなさんの話し合ったことが上がっているでしょうか。「男女交際」が男女とも15%位でトップ。男の子になると、「性器の形や大きさ」とか。「セックス」という言葉で聞けないので、「性行為」や「性的な接触」という言葉を使っています。男の子だと「マスターベーション」が5位にはいっているのですが、女の子だと「妊娠・出産、避妊」が2位で、月経についてはこのランキングにはいっていませんが、いま講演している中学校の女の子に聞くとだいたい4人に1人位が「月経痛」や「月経不順」に悩んでいるようです。
私たちは、医療者ではないのですが、男女交際について考える時に、恋愛や性の悩みは誰しも経験し得ることであり、身近に気軽に学べる場を、一般市民が参画しながらつくっていくという活動をしています。ただ、間違ったことをお伝えしたり医療を逆に遠ざけるようなことはしないように、医療者や企業、行政さんなどと一緒にプロジェクトを企画・運営しています。
ピルコンの事業には、性教育とキャリア教育を組み合わせて「これからどんな人生を送っていきたいかを考える時に性の知識って必要だよね」と学んでいく中高生向けの講座「LILY」や、保護者さん向けの性教育サポート講座、また大学生から若手社会人向けの勉強会イベント「Pilcon College」(この2月11日に不妊治療をテーマに開催)などがあります。
また最近行っていることとして、児童養護施設における性教育の教材開発や、かなりハイリスクな環境にある子どもたちに対してどういった情報や見守りが必要かという研究を、施設職員の方と行っています。
昨年6月には、村瀬幸浩さんという性教育の重鎮である先生に監修いただき『マンガでわかるオトコの子の「性」――思春期男子へ13のレッスン』を出版しました。男の子の性についてベテランである先生のお話を、現代風にアレンジしたマンガです。先程この会場で、村瀬先生の教え子ですという方と出会って驚きました。
なぜこの活動を始めたのか。
日本における年間の出生数は約100万件に対して、中絶件数は約18万件です(14年構成労働省調査)。
じつは私自身も、10年前、二十歳の時に、妊娠して中絶という選択をしたという経験があります。ふつうにお付き合いしていた方とではあったのですが、大学3年生で、これから就職活動もあって、今生んでも育てられないとは考えました。また、お付き合いしていた相手ではあっても、結婚までは正直言って考えられないなとも考えました。
でも命を、自らの人生のために他の命を奪うという選択をしたということが、すごく重くて、こんなにもつらい思いをしなくてはいけないのだなと思いました。
その後で、中絶は日本でどれくらいあるのかなと調べたら、こんなに、出生数の5分の1くらいの件数もある。でも、自分自身はちゃんと性教育を受けたかというと、ふつうに恋愛していくなかで体のお付き合いもある一方で、情報として避妊やこれからのライフプランについて考えられるような機会はなかったなと思います。もう少し気軽にこれらを考える機会や、性教育を教えるのが難しいのであればそのノウハウを共有する機会をつくっていきたいと、ピルコンの活動を始めました。
10代で中絶をする件数は、1日に換算すると50件ほどあります。中絶件数は、全体では減ってきているのですが、10代だけ見るとほぼ横ばいです。大人として、子どもたちが悲しい思いをしないように、どう中絶を予防していくか、情報や考える機会を与えていくことが大切だと考えています。
いま、不妊に悩むカップルも増えています。私も27歳に結婚したのですが、いざ子どもが欲しいと思っても、なかなか子どもができず、不妊検査などもしていくなかで運よく授かることができました。
妊娠のしやすさは、年齢とともに、生物学的には下がっていく一方で、社会学的には経済的に自立をした20代後半のほうが子育てをしやすいというギャップがあります。妊娠のタイミングが悩ましいという現実があります。産む・産まないという選択は自由ではありますが、人生をデザインするために、性を学ぶことが大事だと思います。
身近にある性感染症の危険
性のリスクとして、今回は特に性感染症と予期しない妊娠にフォーカスしてお話します。
性感染症というと、コンドームやHIVを思い浮かべる方が多いと思いますが、増えていると言われていても、日本の新規HIV感染者数はおよそ年間千人で、アフリカなどに比べるとかなり少ない数字ではあります。ただ、予防啓発はしているけれども、なかなか減っていないよねという現状があります。
もうひとつ気になるのが、HIV以外の性感染症が意外と知られていないことです。最も多い性感染症が何だかわかりますか? それは、性器クラジミア感染症です。約2万5千件(厚生労働省・感染症発生動向調査2012年4月)報告されており、HIVの25倍。クラジミアは自覚症状がなく、実際にはこの倍の件数はあるとも想定されていて、私もかかっていたことが後々わかりました。自覚症状はなかったのですが、クラジミアは放っておくと妊娠しにくくなると言われており、念のため検査して感染が分かりました。
性経験のある日本の高校生の10人に1人がクラジミアに感染しているとする調査結果もあります。コンドームをせずに性活動をすると、誰にでも感染の危険性があるということです。
ここで、感染症の危険性を実感していただくために、「水の感染ゲーム!」をします。水の入ったコップをみなさん取りに来てください。この水は、飲んだり触ったりしないようにしてください。これらのコップのうち1つだけが感染(偽薬)しています。
このコップの水を交換します。コップの水を、3分の1位まで入れて、逆に同じく入れていただいて、交換し合ってください。3人位の方とやっていただきます。まず1人目は同じグループの方と。
では、今度は、他のグループの方と2回目をやってみてください。
3回目は、一番遠くにいる方、対角線上にいる方と交換してみてください。
終わりましたら、みなさん立っていただいて円になっていただけますか。どのコップが感染しているか、見た目ではわからないですよね。くれぐれも劇薬が入っているので飲まないでください。今から、検査するための液を垂らしていきます。水がピンク色に変わった人のコップは感染しています。
みなさん、コップを前に出してください。半分くらいの方が感染していますね。感染した人にきいてみましょう。
誰から感染したかわかりますか?
参加者)いえ、3人と交換したので、わからないですね。
染矢)じつは、最初に感染していたのは私です。でも、私と直接お水を交換していない方々も感染していますよね。これが、性感染症の怖さです。
このゲームは目で見てわかりやすく、国際的なNGOによるHIV予防教育でもよく使われている手法です。コンドームなしで性関係をもてば誰でも感染の可能性がありますよ、ということで実際に性教育の講演のなかで中高生にやってもらっています。男の子同士でも、女の子同士でも、妊娠はしないんですけれども性感染症はうつりますよ、という話はしています。
では、性感染症にならないためにはどうしたらよいでしょうか?
参加者)コンドームを使えば防げると思います。
染矢)そうですね。コンドームをすればコップの水同士が混ざらないことになり性感染症を防ぐことができますし、コップの水を交換しないつまり性関係を持たないということであればさらに安全となります。
女の子も「草食化」、性情報の質の悪さとタブー視
日本の現状にうつりましょう。日本の若者の性が荒れているという話を聞く方もいらっしゃると思います。最近の現状は、「分極化」ということが言われています。性行動がとても活発になった――援助交際や出会い系など騒がれた――2000年ごろをピークに、性交経験率は下がっています(日本性教育協会・若者の性白書2013)。この背景として、コミュニケーションが活発な層では性行動が活発化しているのですけれども、コミュニケーションが不活発な層では性行動の経験率が低下していること――俗に言う「草食化」――が見られます。ただ、もともと活発だった人が不活発になっているのではなく、避妊していなかったり覚えていなかったりする人はむしろ増えています。
日本の性行動の特徴の1つが、男性主導型です。男の子のほうが「セックスしようよ」と誘うことが多いです。2つ目が、避妊法はコンドームついで膣外射精――避妊法ではない――が多いことです。3つ目に、低用量ピルの使用率がおよそ5%で――ピルだけがいいと私は言っていませんが――、欧米ですと半分くらいの女性が使っているのと比べると、日本は普及率が低いですし、そのような選択肢があるという情報すら若い人に届けられていない点が問題です。
性行動に消極的な層――性的無関心・性的嫌悪の広がりについてです。男の子の草食化がよくメディアでとりあげられていますが、女の子の草食化のほうが多いのです。10代後半の女性の7割くらいが、性について関心がないという回答をしています(北村「男女の意識と生活に関する調査」2008-2016年)。
この背景として、ふだん接している性情報の質の悪さがあるのではないかと考えています。性についてタブー視があったり抑圧されたりしているので、性についてなかなか興味を持てない子がいるのだろうと感じています。
こういった子どもたちが大人になるとどうなっていくか。
日本人のセックスレスは際立っています。海外からも「なぜこんなにもセックスレスなのか」という取材が私に入ることもあります。世界最下位レベルです。不妊に悩む人も多いと言いましたが、そもそも約3組に1組の夫婦がセックスレスで、10年前から約30%増加しています(厚生労働省研究班調査2008年)。個人的にはセックスレス自体が問題というより、夫婦のコミュニケーションやスキンシップが減っていることが問題だと思います。セックスが日常の延長になく、非日常のものとして語られているのが問題なのではないでしょうか。
日本の若者への性教育の実施状況を見てみると、学校でいちおう習ってはいるのですが、知りたいことのなかで男女ともにセックスの比率が年々下がっています(日本性教育協会・高校生への性教育に関するアンケート2011年)。そのなかでも、男女の心の違い――そもそも心が違うのかという問題はありますが――と恋愛は割と関心が高いので、「男女交際のなかで、もしかするとエッチしたいと言われるかもしれないよね」という導入で高校生への性教育プログラムを行うこともあります。
情報源は、もともと友人や先輩が多いのですが、最近はインターネットが増えています。特に男子です。女子は、マンガや、付き合っている人から学ぶことが多いです。インターネットやアダルトビデオで男子が得た情報を男子主導で性行為に持っていかれて、女子は受け身でそういうものかなと思っていると、やはり性についていいイメージが持てないというところにつながっていくと思います。
増加するネットを通じた出会いと性被害
インターネットが発達してきていることが、新しい課題だと世界的にも指摘されています。
ネットでの出会いや恋愛が日常化しています。ネットで知り合った人に直接会う人が増えています。インターネットで知り合った人がいる人のうち、直接会った経験のある人の割合が、中学生で23.6%、高校生で34.7%(ベネッセ教育総合研究所調査2014年)とは、多くないですか。よく会いに行きますね。ネットを介して性被害に遭った18歳未満の子どもは1421人と過去最多(警察庁調査2014年)になっています。
しかし子どもたちは、会うとどれだけ危険なのかがわからない段階で会ってしまっているので、教育のなかで、ネットの使い方やネットでの出会いをどうとらえるかも併せて伝えていかなければいけないと思っています。
子どもたちが危険を知り、困難を改善でき、自ら判断できるような情報提供を学校でも
学校の性教育はどうなっているのでしょうか。
小学校4・5年で二次性徴を、中学校で性的関心のことを、高校で感染症を扱ったりするのですが、中高生向けに性教育をする際には、歯止め規定、「受精に至るまでの過程を扱ってはいけない」という規定があります。つまり性行為を扱ってはいけないにもかかわらず性感染症については教えると、よくわからないオーダーがあります。性行為を扱ってはいけないので、「性的接触」や「性関係」という言葉に置き換えて講演を行っています。
性行為を子どもが行うのは望ましくないという考えがそもそもあって、たしかに不幸に至るケースが多いのですが、教えないと何が危ないかわからないまま大人になってしまいます。中学生でも5%は性経験があり、子どもたちがいざ困ったときに相談したり事態を改善や解決したりすることができるように教育が必要ではないでしょうか。
だから、性をタブー視するのではなく、禁欲――セックスしない――が一番安全な方法ではあるけれども、いつ性行為をするかをそれぞれが決めていけるような情報提供をしていこうという方針に世界的にはなってきているのですが、日本は世界的なスタンダードになかなか追いついていないのが現状です。
子どもが望む予防教育は何でしょうか。「危ないことは危ないと言ってほしい」――ダメダメというのはダメというのはあるのですがリスクのあることはきちんと言って欲しいということですね――、「堂々と話してほしい」、「心配な時の具体的な連絡先を教えてほしい」、「身近な話を聞きたい」というニーズがあります(厚生労働省HIV感染症の動向と予防モデルの開発・普及に関する社会疫学研究班・地方高校生性行動調査2003年度)。ピルコンでも、こういったニーズにあわせて、実際の体験談をお話ししたり、もし困ったときには保健所での検査や病院での治療や検査が受けられるという情報をお伝えしたりしています。近くの保健所はインターネットで調べられるよとか、もし避妊に失敗した時は緊急避妊という方法があって日本家族計画協会のホームページで近くの病院を調べられるよということもお伝えしています。
私たちは性教育を思いつきでしているわけではありません。私の個人的な体験がきっかけで性に関する苦しみを減らしたいなと思ったのですが、その際、なにか成功事例はないかなと調べてみました。
秋田県に成功事例がありました。県の教育委員会と医師会が共同で、性教育の授業を実施しましょうと1990年代の終わりくらいから今も実施されています。実施から10年くらいで、10代の中絶率が3分の1に減少したのです。その後、性教育の指導者向けの研修を受けたり、講演スライドを医療従事者の方にチェックいただいたりして講演活動を行っています。
性教育をあまりに早くやりすぎるとよくないのではという方もいらっしゃいますが、中高生の段階できちんと医療的な監修が入った情報提供されることによって、若者のリスクが減ったということは言えると思います。もしろん、これは包括的な施策のひとつで、これ以外の施策もあったとは思います。
相手と話し合え気持ちを考えられる子、地域や家庭に居場所がある環境から
私たちは、延べ3千人くらいの中高生にプログラムを実施してきました。このプログラムの前後でアンケートを行っています。どのくらい性知識の正答率が上がったか、性に関する態度――性関係のリスクは自分にも関係あると思うか、相手と話し合うことを大切にしたいか――とかを聞いています。
しかし、実際に性トラブルが多い定時制や通信制の学校へのアンケートでは、なかなか伸びない様子がうかがえます。一般的な全日制の高校では、みんな素直に教育効果が上がっているので、なぜなのかなと考えました。
この要因としては、情報の不足だけでなく、家族や親との関係性や学校との学業不振が、自尊心の低さや将来展望のなさにつながっていることです。頭ではわかっていても上手く相手に言えなかったり、相手の気持ちが考えられなかったり、将来どうなってもいいということがあると思います。ですから、性の知識を広めていくのももちろん大切なのですが、あわせて、家族や地域で子どもを見守る居場所づくりや、子どもが安心・安全で、自分が自分らしくいてよいと思える環境づくりがとても大事だと思っています。
中高生へのアンケートでは、「わからない」という反応も多くあります。無関心なのか、嫌悪感があるのでしょうか。これは、リスク対策を伝えたからといって、明日から積極的に恋愛できるようにがんばりますとなるか、というとそういうわけでもないでしょう。また、明日から恋愛がんばります、が性教育のゴールとしてはたしてよいのか、という点も疑問に思います。そもそも関心を持てない人たちに対してどういったことが教育上求められるのかは難しい課題だと思います。
そして、地域で医療や学校と家庭が連携しながら性教育をしていくのが理想的かと思いますし、子どもと普段接している人と一緒でないと、私たちだけがリスク対策方法を話すだけでは、なかなか効果を上げにくいと思います。家庭での性教育はこんなふうに進めてはどうでしょうか(下図)。
正しい性知識は大事なのですが、いま本にもよくまとまっています。手前味噌ですが『マンガでわかるオトコの子の「性」――思春期男子へ13のレッスン』のほか、女の子向けに、『13歳までに伝えたい女の子の心と体のこと』という助産師さんが書いた本や、『あ!そうなんだ 性と生』という絵本もでていますので、知識としてカバーしていただければと思います。
大事なのは、家庭を安心・安全な居場所にできることや、対等な男女関係のロールモデルが身近にあること、
相談できる信頼できる相手や大人が身近にいることではないかと思っています。
ピルコンのイベントや取り組みをホームページでも紹介していますのでぜひご覧いただければと思います。
寺中)ご自身のかなり重い経験もふまえて、お話いただきましたこと感謝申し上げます。
これから、グループ内で、話し合っていただき発表いただき、ゲストからコメントしていきたいと思います。主に2点、①性についての情報源はどこですか? ②学校の性教育でどういったことをやってほしかったですか、これからやってほしいですか? について話し合っていただけますか。すでに、アイスブレーキングは終わっていますので、活発に話し合っていただければと思います。
――グループ・ディスカッションの発表、登壇者からのコメント――
各グループからの発表)
「みなさん違った問題意識やきっかけからこのテーマに興味を持ったことがわかりました。
子宮頸がんは、性感染症の予防がポイントなのに、それを言わないまま、ワクチン接種だけが取り上げられるの――小学校6年生で――は問題ではないかという意見がありました。福祉の仕事をされている方からは、性産業から子どもを守ることに助成していく必要があるという意見が出ました。いろいろな所につながっているなと思います」
「情報源では、今だったらインターネットからだろうけれど、私たちの世代だと学校とかAV、マンガとか。
学校でやってほしい・欲しかったことについては、学校が、規制を取っ払わないと、もうどうにもならないだろうなと。私は助産師で、学校で性教育を何十回もしておりますが、その打ち合わせに行くと、この話はしないでくれ、ここはダメ、『セックス』なんて絶対言ってはダメと。けれど、それを言ってしまうと、子どもたちにも通じないので、公務員さんでは壁を取っ払うことはできない。でも公務員さんでも、校長先生や養護教員さんにちょっとだけ理解があれば、私は客として行くことができるので、『話すべっちゃいました』と。『セックス』であれば、先生に『性的接触ですよね』といわれても『ごめんなさい、先生、すべっちゃいました』と上手くできれば、何かくるのは私のところなので、モンスターは学校には来ないと。といった形で上手く養護教員さんとやりとりするとスムーズに進んでいける。
なぜなら、私たちの世代は、学校で具体的に話をしてほしかったのです。そのすべてに蓋をされてしまったから、こんどは逆に自分が話をする指示が来れば、無理やりドアを開く。そうすると理解のあるところは、どんどん依頼が来て話が進みますし、理解のないところは依頼が来なくて、どう現実を変えていけるのかなと。医療者さんにも性教育の話や中絶の話などいろいろ調査をしていますが、壁があって話してもらえないという現実もあります。壁があっても、壁をどうにか開かない限りは、やって欲しい・やって欲しかったと言っても変わっていかないだろうな。昔と何も変わっていない」
「中学校に情報提供にいくと『言ってくれるな』と言われる体験をした人がいました。また小学校の保健で、生理の話があっても、途中で男子だけが出されてしまうという話も出ました。自分たちはどこで知ったか?といえば、やはり学校からではなかった。昔だと従妹がいっぱいいて年上の人に話を聴けたけれど。
私自身は、自分の親にも聞けなかった、学校でも聞けなかったという不満があり、自分の子どもには『愛していると、こんなことがあってすてきだよ』というふうに思って欲しかったので、実際、当たり前のこととして、生殖という仕組みがあることを伝えたいと思っていました。それで、メグ・ヒックリングさんの性教育の話を聞きに行ったりして、子どもたちに小学生の頃に伝えました。いまは思春期で、もう大きくなったのですけれども、伝えておいてよかったなと思っています。
だから、小学校のうちに性をどう伝えるかがカギじゃないかなと思います。でも、学校現場ではそこは難しいよねという話も出ました。いっぽうで高校生や大学生になると、もう親とつながることも上手くいかなかったり、避けていたり、消極的だったりという問題もあって、ネットで知り合った人と、という人が多いのはびっくりしました」
「性教育の大家の方がいらっしゃいました。2000年ごろから、性教育ができなくなったそうです。私は男子校出身で、女子高出身の方もいて、それぞれかなり詳しく性教育を受けました。共学出身の方からも、ちゃんとした知識を、家庭では限界があるでしょうし、学校で教えて欲しかったという話がありました。ネットから飛び込んでくる情報は、質が悪いというより、次元が全く異なる話なので、リスクがむしろ大きくなると。
でも、知識としては与えられても体験が伴わないとダメだねと言う話になりました。この体験とは、交際――男と女という違う生き物への理解や思いやりができる――という意味です」
「私はシングルファザーで、6歳の娘がいます。娘とセックス的な話は当然出てきていないのですが、男女の違いとか、そういう性的な会話は多いです。私は最初は照れ臭いんですが、育児だから、子どもが目の前にいるので逃れられず、だんだん慣れてきて、そういう話もすきにしてくれるようになりました。父親から性についての情報を得て、父親と幼いころからディスカッションする経験を、とくに女性の方は、していない人が多く、父親からなんて考えられないとおっしゃる方は多いと思います。それは、まともに父親業をやっていないと言えると思うのですが、私のような親子関係を体験している人がグループにいなかったため、共感を得られませんでした」
「そういう親子関係ができなかった私ですが、あまり親のことを悪くいってほしくないという思いはあります。
学校でやって欲しかったことを一つだけ言いたいです。教育の中身だけでなく、教育の前提として、学校内でセクハラが起きないこと。男性教師が女性に対して強制猥せつをしない、男子学生が教師から性的な被害を受けない環境が欲しい。学校環境が必ずしも安全な環境ではありません。学校が安全であるという前提をまずつくって欲しかったです」
「進学校の男子校で非常勤の講師をしています。生徒たちはとても大事にされていて良い子たちで思いやりもあるのだけれども、たとえば英作文で少子化をテーマに書かせると『女性が結婚しないから』、『女性が子育てをしないから』、『女性が教育を受けるから』と、『女性』を主語に書くのです。彼らは、自分は高い目標にむかってキャリアにまっしぐらなのですが、いっぽう、同じ年齢の女の子たちはもう高校から大学進学のころにぼんやりと、自分はどんな仕事を選んでも子育てをする時にいったん引くかどうか選択を迫られるだろうということを意識し始めると思います。私もそうでした。
高校生でもこれくらい男女で意識の差が生じてしまっています。男性は男性で馬車馬のように働かなければいけないなどの意識はあるのだろうけれど、この差を埋めていく努力をしていかないと、いつまでも理解し合わない男女の再生産が繰り返されるのだろうなと。
学校では、性教育だけでなく、もっと人間関係のこと、人間教育をして欲しかったです。性教育というと、つい具体的な性行為や性器の話とか思ってしまいますが、そこだけを強調してもリアリティがない。でも、たとえば子育てを全部母親に押し付ける家もあるでしょうし、シングル・ペアレントで空間じたいがモデルを見せることができない家もあるでしょう。家の中だけに人間関係の見本、ロールモデルを求めさせると破綻してしまうので、学校や社会がいろいろなロールモデルを見せられるとよいと思います。
みなさん立場が違っていて、いろいろ経験されて知っていらっしゃることもありました。たとえば、統計的には、両親がちゃんと話し合って何でも決めているような家庭環境の男の子は、女の子に、『今日はセックスしていいか』、『コンドームを使おうか』と聞けるいっぽう、意思決定があいまいな家庭の男の子はそういうことをしない傾向があるという話もありました。家庭環境が子どもに反映するので、理想的なことができない家庭のケースをどうするかという問題は難しいと思いました。
『性』って大きいと思います。性教育をもうすこし広い意味で、『人間と人間』という関係から、学校できちんと取り上げるとよいのではないでしょうか」
「情報源については、まず学校の授業、とくに保健体育。その前提となるパートナー関係というところで、家庭科って大事かなと。なぜなら、私は最後の男女別学の家庭科を受けました。私の下からは、男女共学の家庭科となっていて、全然パートナー関係が違うのです。これは、性関係の前提となるパートナーに対する考え方にリンクしているのではないかと思います。
ここは海外に行かれた人が多かったです。先程のシングルファザーの話がでましたが、海外ではそれは当然だと。海外では、家族のなかで性関係の話をするのは当然だから、情報源として家族・家庭がはいってくるとよいのではないかという話になりました。
学生さんもいらっしゃって、小中高ときちんと性教育を学校できちんと受けているという話で、すごくいいね!となりました」
染矢)私もグループ・ディスカッションに参加させていただいて、こんなに熱く性教育を語る時間は楽しいなと思いました。そのなかで、性教育といってもセックスや性器の形の話だけでなく、人間関係であったり、家族であったり、今日のテーマにもありますように、「命」や「愛」にもつながっていくのだと思いました。相手がある愛もあれば、自分に対する愛――ありのままの自分を受け入れること、自分自身と向き合うこと――もあります。そういうところを考えて、健康という概念でとらえていく、人権という概念でとらえていく。
となると、性=タブーではなく、自分としてどう生きていきたいか、どうありたいか、どう家族を形成していきたいか、どう人と関わっていきたいかという部分を含めて、「対話」がとても大事だと思いました。ご家族のなかでも性についての会話をしている方もいらっしゃれば、抵抗感があってできていない方もいらっしゃると思います。私自身は、パートナーとは話せるのですが、親とはまだちゃんと話せないのです。なぜかなと思うと、親を困らせたくないとか、親がたぶん反応に困るだろうから良い子でいたいとか、どう反応されるかが怖いというのが子どもの私自身としてもありますし、親もたぶんそう思っているだろうなと。距離が近いからこそ話しにくいこともあると思います。
ただ、私は中絶をした時にすごく救われたのが、母親に話せたことです。産もうかどうか悩んでいた時に、母親が相談にのってくれて、「どんな選択をしても私はあなたの味方でいるよ」と言われてすごく心強かったです。中絶という選択を結局とって、罪悪感や、この先どういうふうに生きていいかわからないくらいで悩んでいた時に、「自分がした選択に対してどれだけ前向きになれたかで、その価値は変わるよ」と母は言ってくれました。それで、自分は失敗もしたし、いやな経験ではあったけれども、それをプラスに生かしていけるように頑張ろうと思えるようになりました。
このように、知識だけでなく、家族としてどう子どもに関わるか、どう見守るか、がその人の生き方にプラスにもなるしマイナスにもなるのだなと思いました。
いっぽうで、親からも、科学的な性知識――子どもがどういうふうに出来るか――だけでなく、愛ってどういうことなのか、性行為についてどのような責任が伴うのかというところも、中高生などの時期にもう少し話してもらえたらよかったなという思いはあります。親も忙しかったでしょうしなかなか難しいとはおもいますが。
そうやって向き合う、何かのきっかけに話し合う、体験や意見をすり合わせるというのが、知識プラス体験という意味で、人生を豊かにしていけると思いました。いかがでしょうか。
寺中)ありがとうございます。また今日は、星さんに素晴らしいワークショップから導入していただいて、みなさん、すんなり深い議論を筋道立ってできたようですね。厚く御礼申し上げます。今日のご感想などいかがですか。
星)もし、その辺を歩いている人が「性教育」と聞いたら「えっ」という反応をするかもしれません。
でも、性教育や性についてみなさんと考えて、こんなにたくさんの意見が出て、深い話し合いがあったなかで、「性は、人生そのものだったり、愛だったり、すごく広いことだな」と、あらためて実感した次第です。家に帰って、いろんな人ともっとこんな話をしてみたいなと思いました。始めるのは難しいけれども、すごく話したいなと感じました。
個人的なことですが、母は42歳の時に私を産みました。私は11歳上に姉がいますが、私は予想外に授かった子かなとも思っていました。なぜ母は42歳で産もうなんて気になったのか、ぜんぜんわからなかったのですが、母から「すごく欲しかったんだよ」ときいて、すごく感動して、「性」というものを重く受け止めました。だから、なぜタブー視されるのかわからないのです。
こうやって対話を重ねて、周りの人だったり、家族だったり、近しい人だったり、そういった人たちと一つひとつ小さな話題――愛ってなんだろうとか、性ってなんだろうとか――について、どんどん対話の輪を広げていけたらいいなと思います。そして、学校での教育や性に関する情報源などについて私たちが望むことが実現するようにエンパワーしていければいいなと思います。
寺中)私も周りでやってみたいと思います。みなさんもぜひ今日得たことをあちこちの場でやってみていただければと思います。 (=敬称略)
*** この2016年2月15日の企画ご案内状はこちら(ご参考)***