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 SJFアドボカシーカフェ第39回開催報告

 

売買される日本の子どもたち

背景にひそむ人権意識とは 

 

 人身取引撲滅を目標に活動する高校生有志によるCombating Human Traffickingグループ(横浜インターナショナルスクール)と、日本で人身取引被害者支援専門のホットラインを運営する唯一の団体であるNPO法人人身取引被害者サポートセンターライトハウス(※)の瀬川愛葵さんを迎え、2015年9月24日、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)はアドボカシーカフェを開催しました。

 「人身取引大国」日本では、性的搾取被害に遭う子どもが低年齢化し、増加しています。被害者は声を上げにくく、公表数字よりはるかに多くの子どもたちが苦しんでいる、声に出せずに苦しんでいるのではないか、と瀬川さんは早期解決を強調しました。日本政府に行動計画はあるものの、被害者支援している現場からみれば、私たち日本で生まれ育った人も被害に巻き込まれているという現状が理解されておらず、行動計画の内容は現実離れしていると指摘しました。

 被害者の相談支援から浮き彫りになった背景には、自分が受け入れられる居場所がないと感じている子どもたちの孤独、貧困などがあります。そのような子どもたちを地域社会みんなで育てる姿勢があったなら被害を未然に防げたのではないか。さらに、そういった社会的脆弱性につけこむ性産業が膨大な利益を上げているにもかかわらず寛容し、子どもの自己責任で済ませようとする性産業消費者を有するこの社会構造や認識を変えるにはどうしたらよいのか。Combating Human Traffickingグループの高校生は「すごく深刻な問題であり、見すごせない問題なので、私たちは行動を起こさなければいけないのです」と問題認識を広め深化させています。また、ネットが進化するなかで対面関係が希薄になっているために被害に遭いやすくなっている状況について、同高校生は「日本の学校では、善し悪しの判断基準が明確になるような教育がされていず、生徒は判断がうまくできないのかもしれません」と指摘しました。

 「身近な人身取引の被害者に気づき、被害者の心に寄り添える人を増やしたい」という瀬川さんに共鳴した対話の場となりました。

※SJF第3回助成先。本企画を共催させていただきました。

 

 

◆瀬川 愛葵さん(人身取引被害者サポートセンター ライトハウス) 基調講演

――人身取引の問題、日本国内の現状――

瀬川さん当日

 私たちは日本国内で人身取引被害者支援専門のホットラインを運営する唯一の団体です。

 「人身取引のない社会へ」というミッションを掲げている私たちの活動の中心核は、ホットライン運営を通しての被害者支援です。より多くの被害者を支援し、このミッションを達成するために、啓発活動、研修・講演活動、政策提言活動の3つの活動を展開しております。現在、フルタイムスタッフ4名、パートタイムスタッフ2名の小さな団体です。

 

性的搾取の被害者認定、同意の有無は問われない

 私たちが世界から根絶したいと思っている人身取引とはどういうものか。人身取引または人身売買という言葉は、日本ではあまりなじみのない言葉であり、普段の生活の中ではあまり聞くことのない言葉かと思います。人身取引とは、人の自由を奪い、暴力や脅し等の手段を使って人を働かせ、その利益を搾取する犯罪行為です。国際的にとても深刻な問題と認識されています。人身取引には大きく分けて、「労働搾取」、「性的搾取」、「臓器売買」の3種類があるのですが、私たちによせられる相談の多くは性的搾取になります。

 このなかで一つ、みなさんにご注目いただきたい点は、被害者が18歳未満の場合は、強制力が伴わなくても人身取引被害者として認定されることです。この「強制力」とは、国連の「国際組織犯罪防止条約人身取引議定書(略称)」で規定されている「目的=売春・その他の性的搾取・労働・臓器売買」、「行動=人をリクルート・運搬・移送・隠す」、「手段=暴力・詐欺・脅迫・勧誘・支配下に置く」のうちの「手段」を指します。なお、成人していたとしても、この「手段」が用いられた場合には、被害者が搾取について同意しているか否かは問わないと、人身取引議定書は定めています。私たちの相談のなかでは、自分の意思に反して売春やポルノ出演を強要されたとしても、本人の同意のうえ行われたと見なされ、泣き寝入りさせられてしまうケースが多くありますが、そもそも人身取引の被害者に関しては同意があったかかどうかは問われるべきではないということであり、この点がとても重要です。

 

人身取引「大国」日本、国連・人身取引議定書に批准していない唯一の先進国

 日本国内では例えば、加害者が性産業における搾取を目的とし、外国籍の女性を海外でリクルートしたうえで日本へ移送しパスポートを取り上げる等により売春を強要するという事例があります。また、日本の女性にホストクラブなどを利用させて借金漬けにさせて、風俗で働かせるという事例もあります。

 人身取引と聞くと、日本に海外から女性が連れてこられて被害に遭うというイメージがとても強いかと思います。ですが実際に私たちに寄せられる最近の相談では、日本人の被害が圧倒的に多いです。日本人被害者の事例では、街頭インタビューや番組収録、モデルやアイドル撮影と称して声をかけた女の子や女性に対し、嘘の契約書へのサインを脅迫する等により、アダルトビデオ(以下、AV)への出演を強要させるケースが最近とくに目立ちます。

 国連は2000年に人身取引議定書を採択しましたが、2015年現在、日本はG8で唯一、批准していません。185か国地域が批准しているにもかかわらず、先進国である日本はこの国際的な基準を満たしていません。またアメリカ国務省が毎年発表している「世界の人身取引の状況をまとめた年次報告書」がありますが、日本は過去15年連続で「人身取引根絶の最低基準を満たさない国」としてランク付けされており、国際的に厳しい批判を受け続けています。

 日本は人身取引「大国」と認めざるを得ない状況です。18歳未満の子どもたちの買春やポルノ被害は深刻で、毎年5000件を超える被害が警察庁より報告されています。また児童ポルノ被害者の半分が12歳以下という、とても悲しい数字も報告されています。

 

性暴力被害の声を上げられず苦しむ児童たち

 近年では、性の商品化の対象とされる子どもがどんどん低年齢化しており、女子高生を性の商品として搾取する「JKビジネス」と呼ばれるもののほかに、小学生に露出度が極度に高い服装をさせ、わいせつ行為を強要し撮影した「着エロ」と呼ばれるものが商品として普通に販売されています。これらは欧米では子どもへの「虐待」として厳しく禁止されています。

 児童ポルノとは、子どもたちを性の対象として描写している「虐待的記録物」で、低年齢の児童ポルノのうち75%が強制わいせつや強姦という手段で作られているといわれています。先週発表されたばかりの警察庁のまとめによると、今年6月までの半年間に全国の警察が摘発した児童ポルノの事件は831件と、去年の同時期より43件も増えており、統計を取り始めた平成12年以降で最も多くなっています。また実際に被害に遭った児童も、これまでで最も多い383人に上り、内15%が小学生以下だったとのことです。

 こうした数字は、現状を把握するうえでとても大切ですが、同時にあくまで数字であって、とくに性暴力は被害に遭った時に声を上げにくい犯罪ですので、このように発表されている数字よりはるかに多くの子どもたちが苦しんでいる、だけれども声に出せずに苦しんでいるのではないかと私たちは推測しています。

 またこれらは女の子には限らず男の子にも起こりうる被害で、実際に男の子の性的搾取被害の相談もあります。最近では、男子大学生がAVに出演を強要されたというケースもありました。女の子以上に、声を上げにくい男の子たちは、独りで抱え込み、誰にも打ち明けられずに苦しんでいるという現状があります。

 

加害者の巧妙で組織的な飴と鞭

 ライトハウスに最近多く寄せられている代表的な事例を紹介させていただきます。

 これはAVへの出演を強要される被害で、こちらは男女問わず児童や若年層が被害に遭っています。これは当時19歳のシオリさんの事例です。ある日シオリさんは都内を歩いていると「モデルにならないか」と声をかけられ、近くの事務所に連れていかれました。そこで内容を何も聞かされないまま契約書へのサインを要求されました。顔写真を撮らせてくれと言われ、なぜか上半身裸になるように指示されトップレスの写真を撮影されました。契約書の写真も、大人10名に囲まれたシオリさんは断る余地を与えられなかったのです。その日はそれで解放されましたが、それから数日後「仕事が決まった」との連絡が入り事務所にまた呼ばれました。そしてその日から約4年間、およそ140本のAVへの出演を強要させられることになったのです。

 このように道端で声をかけられ数年あるいは数十年ずっとAVへの出演をさせられた方もいれば、声をかけられたその場で大きなバンに連れ込まれ契約書にサインをさせられ、その場でAV撮影が始まってしまったケースもあれば、ネットで高収入バイトに申し込んで実際に面接に行ってみたらAVへの出演をその場で強要させられ断ることができなかったケースもあります。

 こうして話だけを聞いてみると、なぜ被害者は断れなかったのか、逃げることができなかったのか?と思われる方もいらっしゃると思います。しかし加害者は、私たちが想像もできない巧妙で非常に組織的な、飴と鞭を交互に使うやり方を用います。契約時には「君なら可愛いから絶対売れるよ」と高額のギャラを保障するような素振りを見せたり、迷っている女の子には「スタッフ全員が優しいし、みんなが君を支えるから大丈夫だよ」とその気にさせる言葉を並べ立てたりします。また女の子がたとえ断ったとしても、断る理由をことごとく潰し、女の子に断る選択肢を与えません。また撮影をかたくなに拒否した女の子が法外な違約金を求められたという相談事例もありました。あるいは、宣伝用写真と言って騙して撮影した裸の写真を、身分証をもとに学校や家庭にばらまくぞと脅しをかけるというやり方もあります。

 加害者はあえて18歳から20歳の若者を狙います。加害者は、被害者の社会的知識が十分でないことをよいことに、被害者が訳もわからないまま、契約書にサインをさせ、暴力、騙し、脅しそして甘い言葉をうまく使って有無を言わせずAVに出演させるという悪質な手法パターンが、私たちへの相談事例から浮き彫りになりました。

 私たちライトハウスとしては、このようなAV被害の相談に対して、被害者の希望を尊重し、弁護士の先生と被害者とをつなぎ、AVの販売停止やネット上のビデオの削除、また契約破棄などのサポートをしています。また相談支援スタッフがカウンセリングを重ね、ソーシャルワーカーを紹介したり、将来について一緒に考えたりしながら、被害者の精神的回復にも努めています。

 

被害を未然に防ぐ――自分が受け入れられる居場所があれば

 未成年が被害に遭うケースは、SNSや無料アプリ等を手口としたものがほとんどです。以前は出会い系サイトと呼ばれる掲示板が使われることが多かったのですが、その後LINEやカカオトークのような無料通信アプリを経て現在では、知らない人と気軽に知り合えることを目的とした出会い系アプリを利用した被害が急増しています。被害を未然に防ぐためには、このようにネットに潜む危険性を子どもに教えることも大切ですが、その前に私たち大人たちがしっかりと理解すること、そして教育の現場や家庭でそのことをしっかりと子どもたちに伝えていくことが大切だと感じています。

 AV出演被害以外にも、家庭や学校に居場所がないと感じている児童からネットでつながった大人に売春を強要されたとか、家に帰りたくなくて援交をしてしまったという相談もあります。

 加害者は巧みな手口で被害者の弱みを見つけてはつけ込むということが、多くの相談事例からわかってきました。その弱みというのは、知的障害であったり、精神的不安定さであったり、貧困であったり、家庭の不和だったり、また寂しさや孤独感であったりと様々です。

 搾取することしか考えていない加害者を「自分のことを唯一必要としてくれる存在だから」と加害者から離れられなくなってしまう被害者を、ライトハウスはこれまで何人も見てきました。もしこの子たちに、安心して暮らせる環境があったなら、また一人でもいいから周りに頼れる大人がいたなら、あるいは地域社会が愛情を持ってみんなで子どもを育てる姿勢でいたなら、被害を未然に防ぐことができたのではないかと切実に思います。

 

性産業に寛容な私たち社会がまねく性的搾取被害

 人身取引は根深く、解決の道はなかなか険しいなと私たちは日々感じています。それはなぜか。一つには、日本国内に蔓延している「性産業に被害者なんていない」、「性産業で働いている人は自ら望んでやっている」という誤った認識があります。そして訴える被害者に対して「本人にも気があったのだから仕方がない」という自己責任論を押し付ける傾向がとても目立ちます。

 AVへの出演を強要された女性から、無理やり出演をさせられたけれど、警察に行っても被害届を受け取ってくれない、という相談を受けたことがあります。警察は、撮影の前に契約書にサインして撮影後お金を受け取っている以上、被害者として認めることはできず加害者を訴えることはできない、ということでした。多くの男性に取り囲まれてサインを強要されたとどんなに説明しても、もう契約書がある以上、認められないとのことでした。

 児童買春や児童ポルノにおいても、売買する大人の意識を罰則するどころか、児童を保護して指導するという方法で片づけられるというケースが多々見られます。「そんなに短いスカートをはいているのが悪い」、「そんなに夜遅く歩いているのが悪い」、「子どもにスマホを持たせている親が悪い」というような言葉を耳にしますが、何よりも私たちが問題視すべきなのは、子どもの性を売買する大人たちと、その行為を暗黙のうちに了解している社会なのではないでしょうか。

 アメリカで私は6年間すごしましたが、日本とアメリカの大きな違いは、日本の性産業に対する寛容性です。また忘れてはいけないのは、性産業が膨大な利益を生んでいて、だれでも知っているような大企業なども性的搾取によって大きな利益を上げているということです。そして私たちも一消費者であるという点で無関係ではない問題だと思います。

 

「性」のタブー視・無教育がまねく被害の口封じ

 日本では、コンビニや本屋などで子どもでも容易に目に付く場所にポルノ雑誌が置かれていて、子どもたちが今ではアダルトビデオ等に簡単にアクセスできてしまいます。さらに問題なのは、こういった過激な性の情報のみが蔓延し、きちんとした性教育はなかなか学校や家庭でなされていません。

 性のことを話すことじたいがタブー視されがちな日本では、子どもたちは性の悩みがあったとしても、学校や家庭で打ち明けることができないということも大きな問題だと感じています。このような日本社会で性的搾取の被害に遭った場合、当事者が声をなかなか上げることができないということは、容易に想像できると思います。

 このように性的搾取が蔓延し続ける背景を考えてみると、根本的な部分でお互いを尊重し合う「人権意識」というのが大きく欠けていると私は思います。この点は、後でさらに議論を深めさせていただければと思います。

 

身近な人身取引の被害者に気づく、被害者の心に寄り添える人を増やしたい

 こうした問題に対してライトハウスは何をしているのか。

 メインは、団体の土台とも言うべき被害者支援事業です。これは電話とメール、さらに今年からLINEでも相談を受けるようになりました。まず被害者とつながる、それから被害者の状況と希望によって、速やかに警察や弁護士、シェルターなど適切な窓口へつなぎます。緊急な場合には、緊急介入ということもします。

 実はライトハウスに寄せられる相談のほとんどが、当事者本人ではなく、家族や友達、店の客など、第三者によるものです。だから私たちは、より多くの人たちにこの問題を知っていただき、身近なところで起きている被害に気づき被害者を発見していただけるよう、講演や研修活動、また啓発活動に力を入れています。

 より根本的な解決を図るために、人身取引の予防、また被害者の保護、加害者の処罰を総括した法律をつくるために、日本政府や地方行政機関、ならびに議員の方々にも政策提言を行っています。具体的には、2020年までに包括的な「人身取引禁止法」を提言することを目標としています。

 新しい試みとしては、今年2月に啓発漫画『BLUE HEART』を発刊しました。こちらはプロの漫画家さんの力をお借りして素敵な漫画を作ることができました。1300円で販売しています。今月・来月あたりで中国語版も台湾などで発売される予定です。日本ではタブー視されている「性」に関する話ですが、だからこそ小中高生に漫画を通して、この問題を知ってもらいたいという思いで作りました。子どもたちがこれを読んで、自分自身が知識を身につけ、自分たちを守ることができたらという思いで作りました。

 最後に今日ご参加いただいた全てのみなさんに是非やっていただきたいことがあります。それは、今日知ったこと、驚いたこと、ショックだったこと、学んだこと、ライトハウスの活動について、お友達やお知り合いの方お二人にお話しいただきたいことです。この問題は、まだまだ認知が低く、そのために被害者に気づくことができないという現状があります。そのために、この問題に気づく人を増やしていくことが、この問題の解決につながると私たちは信じています。

 この後話してくれる横浜インターナショナルスクールの生徒さんたちは、私が今年の1月に学校へ講演に行かせていただいたのですが、私の講演を聞いてくれた後から、学校内外への啓発活動、募金活動などを積極的にやってくださって、すぐに行動を起こしてくれました。彼らのように、勇敢に声を上げる人たちの活動の輪がこれからも広がって、人身取引の問題に対する新しい認識が少しずつ高まって、被害者の心に寄り添える人々が日本国内に増えていってほしいと思っています。

 

 

横浜インターナショナルスクールCombating Human Traffickingグループ(以下、人身取引撲滅グループ)のお話し

 ※人身取引撲滅グループからの発表は、英語とその対訳となる日本語の両方でなされました。またグループ・ディスカッション等で自発的に通訳くださった参加者のみなさまに、この場をお借りし、お礼申し上げます。

CHTG当日

 

身近な人身取引問題の解決を目指す

サム)はじめに横浜インターナショナルスクールの人身取引撲滅グループについて説明していきたいと思います。私たちのグループは21名のメンバーで構成されており、週に1回40分間、学校内外の人身取引に対する意識を高めるにはどうしたらよいかをテーマに校内でミーティングを行っています。今年から入ってきたメンバーや既に3年間在籍しているメンバーなど、在籍している期間は様々ですが、こうして活動している理由は同じです。人身取引が実際に行われているという事実を受け止め、それを改善しようと思うと同時に、あまりにも身近で行われていることに対するショックが大きかったからです。人身取引についてもっと深く知ることで、私たちはこの問題の早い解決を目指すようになりました。「大丈夫でしょ」というように、いつまでもこの問題を暗闇に置いておきたくありません。私たちのグループもこの現状を変え、日本にあるこの問題を人々に伝え、解決していくことを目指しています。

 

人身取引問題の認識を広める

マリィ)私たち人身取引撲滅グループは、これまでライトハウスさんと活動させていただいて、たくさんのことを協力していただきながら活動をしてきました。昨年1月には当校のイベントで、ライトハウスさんの瀬川さんにお話しをしていただき、人身取引撲滅グループのメンバー全員が人身売買の現状について理解することができました。瀬川さんには、当校の中学3年生から高校生3年生までを相手に講演会を開いていただき、日本の人身売買の現状をその中高校生のみなさんに広めるきっかけになりました。そして、ライトハウスさんの力に少しでもなろうと、その支援のための資金を集めました。これらの活動によって、さらにはボランティア活動の展示会や、文化祭で品物を売るなどを通して、人身売買が存在する事実などを学校全体に広めることができました。最近では、毎日新聞社さんより人身取引撲滅グループの活動が取材を受けまして、多くの日本国民に、人身取引撲滅グループの存在と、日本で悪化している人身売買の現状について語りました。

 

――あなたはなぜグループに参加したのですか?  

(シオン)「人身取引のことをもっと知りたかったからです。そして知るうちにもっと関心を持つようになりました」

(ダニエル)「僕の姉がこのグループを始めたので、僕も手伝うようになって、支えてきました。本当に一から始めたグループです。最初の活動テーマはカンボジアの人身取引問題でしたが、去年、日本の人身取引問題に変えました。僕がこのグループにまだいる理由は、ここで日本の状況を変えたいからです」

(アルナ)「私たちが8年生のころにソマリマムから来たシナ・ヴァンさんが学校で人身取引のことを話したので、もっと人身取引のことに興味を持ちました」

(ミキ)「みんなの意識を高めたいからです。また万が一、ぼくの兄弟にこのことが起こったら、僕はどう助けるのか、どう支えるのか、がわかるのでちょっと安心できるのです。」

(エミリー)「興味深い活動だと思ったからです。私たちの学校ではかなり新しい活動だったので、私がこれを支援したらいいかなと思いました」

(ソーフィ)「私はこの問題について何もわからなかったので、被害者が経験したことや気持ちを知りたかった」

(ケン)「去年、愛葵さんが学校に来た時に人身取引とそれに関わる二つの事例を話しました。この話を聞いて僕はすごく影響されました」

(モエ)「こういうグループは中学校にはありませんので、珍しい活動だと思いました」

(アルナンス)「人身取引という言葉自体を知らなかったので、この問題のことをもっと知りたかったです」

(ビビアン)「去年このグループがどんな活動をしたのか見ていて、それで自分も生徒として、この問題に対して何ができるか考えたいと思ったからです」

(ケーティ)「ほかの福祉活動のなかで一番面白い活動だと思いました。本当にこの活動を始めてから、この活動が楽しみになり始めました」

(ゲテェン)「この問題について知らない人も多いので、この問題を撲滅するためには、みんなの意識を高めたほうがいいと思います」

(キィラ)「去年転校してきたので、色んな活動に参加してみて、参加したなかでこれが一番面白いと思いました」

(マリィ)「去年ライトハウスが学校に来た時、日本は人身取引にあまり関心が持たれていないことへ意識喚起されました。それでもっと人身取引のことが知りたくて、この活動に参加しました。」

 

――この活動を通して何を達成したいですか

(サム)「個人的にみんながもっと関心を持ち、詳しいデータや状況を知るということではなく、人身取引がどう起こっていて、一人ひとりがどう意識を高められるか考えたい」

(モニカ)「人身取引についてもっと知識を得たい。私は人身取引についてはあまり知りませんから」

(アルナンス)「まず校内で啓発を行い、状況を変えたいと思います。今年はライトハウスをもっと支援したいと思います」

(ダニエル)「僕たちが支援しているライトハウスは、人身取引の被害者救済を行っています。そして、人身取引を取り締まる法律を2020年までに制定することを目指しています。そのような偉業を僕は見届けたいので、この活動の支援を続けたいです」

(キィラ)「人身取引のことをもっと知り、より多くの人々にこの問題のことを知らせたいです。人身取引はすごく深刻な問題であり、見過ごせない問題なので、私たちは行動を起こさなければいけないのです」

 

――この活動から何を学びたいですか

(シオン)「すでに日本の人身取引問題について学びましたが、ライトハウスの活動や、私たちがどう支援できるのかについてもっと知りたいです」

(ミキ)「人身取引をどう防止するのか知りたいです。特に僕の国、アフリカでも同じように深刻なので、日本で学んだ防止方法が、僕の国で役立つと思います」

(フウコ)「被害者とライトハウスを、どう支援できるか学びたいです」

(アルナ)「日本で起こる人身取引の事例をもっと学びたいです。日本は安全な国というイメージがふつうで、ここで財布を無くしてもほぼ戻ってきますので、そういった被害に遭う話にはかなり驚きます」

(キィラ)「人身取引に対して実際に何がなされてきて、具体的にどう助けられるか」

(ゲテェン)「日本では人身取引がどう行われているのか。日本政府はどのように防止しようとしているのか。どんな団体がこの問題を支援しているのか」

(モエ)「前に住んでいたシンガポールや香港といった国では人身取引が行われていることは多く知っていましたが、日本でこんなに深刻に起こっていることは知らなかったので、日本でのこの問題についてもっと知りたいです」

(ビビアン)「同じく私も学びたいですが、ライトハウスを直接的あるいは間接的にどう支援できるか見出したいです」

(ヒロト)「自分がどう支援できるのか、一個人である自分でもどう人々の意識を高められるのか、人身取引問題の解決方法を知りたいです」

(エミリー)「初めに参加した時、人身取引のことを学びたいと思いました。この2年間で問題をもっと身近な――カンボジアから日本の――人身取引に変更しました。それまでは日本で人身取引があることを知らなかったので、日本での問題にもっと興味を持ちました」

(ハナ)「被害者をどう助けるか知りたいです」

 

――この活動のなかで一番好きなことは

(アルナンス)「僕たちはいつも一人ではないし、僕たちは他の人をも支援している」

(モニカ)「みんながすごく集中していて、いつも何かが起こっている」

(アルナ)「このグループは柔軟性があるので、一年中ずっと決まった役割というわけではないので好きです。例えば「あなたは写真係だから、一年中ずっと写真を撮りなさい」ではありません」

(ケーティ)「グループの全員がこの活動にコミットしている、だれも怠けていない」

(エミリー)「この活動にいる人はみんな優しいし、いいアイディアがある人にあふれています」

(ダニエル)「僕たちが本当に状況を変えていること」

(サム)「このグループがあるコミュニティーです。この活動にいる人々は同じ理由で参加しています。このグループの特長は、同じ目標を達成するためにお互いに助け合うことです」

(キィラ)「このグループは学校内だけの活動ではなく、学校外とも連携していることです」

 

――活動に参加して今まで学んだことは何ですか

(エミリー)「数年間で私はいろんなことを学びました。始めた時、私たちはカンボジアの問題に集中していたので、私はカンボジアの人身取引の問題についていろんなことを学びました。そしてライトハウスと協力し始めてから、今度は日本での人身取引の問題についていろんなことを学びました」

(アルナンス)「僕は人を助けた後の嬉しさの経験が学びになりました」

(アルナ)「私は日本の人身取引の問題について、日本では人身取引を取り締まる法律がないこと等いろんなことを学びました」

(サム)「思ったよりすごく細かい部分があって、そのなかで色々な問題があることがわかりました。日本に住んでいて、よく『キレイで人に優しい国』だと思われている」

(シオン)「外国ではよく話していることが、日本ではとてもタブーな話題になっていて、悲しい」

(サム)「ええ、問題が身近すぎて、考えたくないのでしょう」

(キィラ)「どれだけ深刻な問題になっていることか。世界中で話題になっていることは知っていましたが、日本でこんなに深刻な問題だとは知らなかったです」

(ケーティ)「日本の政府はこれに対して何もやっていないこと! 人身取引を取り締まる法律がまだないことがわかりました」

 

――これからの目標はありますか

(シオン)「長期目標として、『BLUE HEART』という漫画を翻訳して、外国に発信して情報を広めたいと思います。短期目標としては、学校内や周りの人に、この意識を広めたいと思います」

(アルナンス)「学校内での啓発は、もう行われたので、これからは周りの人に参加してもらえるように働きかけたいです」

(エミリー)「この人身取引撲滅グループは数年間で、学校でよく知られているグループとなりました。しかし学校外では違うと思いますから、私たちがやっていることを親などへも伝えることが大切だと思います」

(アルナ)「私たちが多くの人の記憶に残るような行動ができたらいいと思います。将来『2015年に人身取引撲滅グループはこんな活動を展開しました』と言えたらいいと思います」

(サム)「瀬川さんがまたお話しに来校してくださったら嬉しいです。瀬川さんのお話しはとても重要で、そのための助成金ももらっているので、2学期にぜひお呼びしたいと思います」

(キィラ)「やっぱり去年やったことを続けること。新しく参加するメンバーには、この問題と私たちのグループの役割のことをしっかりと理解してもらうことが大事だと思います。しかし、これまで1年間参加して感じるのは、この問題を学校の外に対してもっと伝え、開かれた活動にできたらいいということです」

(ダニエル)「一度はライトハウスの事務所へ行って、彼らはどんなふうに働いて、毎日どんな活動を行っているか見たいです。なぜなら彼らは毎日この問題に取り組んでいるのに、僕たちは週に1回しかやっていないので、もし僕たちも毎日なにかができたらどうだろうと考えるからです」

 

――人身取引撲滅グループを3つの言葉で表すとしたら

(ダニエル)「国際的」「思いやり」

(アルナンス)「効果的」「団結」

(サム)「献身的」「原動力を与える」

(シオン)「献身的」「思いやり」

(アルナ)「柔軟な」「伝えることができる」

(エミリー)「献身的」「鼓舞的」「思いやり」

(キィラ)「献身的」「興味深い」「重要」

 

 

グループの短期・長期目標、親ともコミュニティーとも人身取引問題を共有したい

シオン)グループの目標について、私たちのグループはこの9月に新学期が始まって以来、すでにいくつかの短期目標を作成し、また昨年から継続中の長期目標もあります。

 短期目標としては、私たちの学校で行われている「フードフェア」――日本でいう学園祭――で私たちのグループは『BLUE HEART』の漫画を紹介するとともに、人身取引問題の認知度向上を目的に活動をしたいと思っています。またそこでは募金箱も設置し、ライトハウスへの寄付を募ります。

 長期目標としては、『BLUE HEART』の漫画を日本語から英語へ翻訳し始めることです。私たちは、プロに翻訳してもらうだけでなく、私たちのグループ自身でも翻訳していくことを考えています。このグループには有能なバイリンガルがたくさんいます。この翻訳が大事だと考えるのは、より大きなコミュニティーが読むことにつながり、この問題の悲惨さや現状への理解を一層広げることができるからです。この漫画はよくできており、できるだけ多くの人と共有することができればよいと思います。このプロジェクトの開始日は決まっていませんが、できるだけ早く始めたいと思っています。

 

サム)もう一つの長期間の目標は、ライトハウスの瀬川さんに私たちの学校にまた来ていただいて、この問題について生徒のみならず親にも話していただくことです。前回来ていただいた時、生徒たちは鼓舞されたようでした。瀬川さんには足を運んでいただきとてもありがたく思っています。また、ライトハウス創業者の藤原さんにも来ていただき、生徒と親にライトハウスと人身売買について話していただきたいと思っています。人身売買の認知度の向上に関して、生徒たちに対しては上手くできていますが、両親も同様に認識することが重要だと思っています。来年の4月までには実施したいと計画しています。ライトハウスにはいつも感謝しています。

 本日はご招待いただき、ご清聴くださり本当にありがとうございました。

 

日本の学校では?

土屋)瀬川さんは、このDVDを見たのは初めてですか?

瀬川)初めてです。本当に感動していて、なんて言葉にしてよいかわからないくらい嬉しいです。生徒さんたちが授業の合間に休み時間を削って準備してくれました。今日、生徒さんたちは、学校が終わってから駆けつけてくれました。私自身が励まされる思いです。

(参加者)「日本の学生にライトハウスはどのようにアプローチしようと考えていますか?」

(参加者)「学生たちはライトハウスのイベントやインターンシップに参加できるでしょうか?」

土屋)瀬川さんは、日本の中学校や高校に行ってお話しされたことはありますか?

瀬川)実際に私が高校に行ってお話ししたのは、横浜インターナショナルスクールが初めてです。日本の学校で講演したことはありませんが、去年、日本の公立の高校生をライトハウスの事務所にインターンシップ――職業体験――として招いて、ライトハウスの活動をサポートしてもらったことはあります。また、軽井沢の高校とつながってSkypeで講演をしたことはあります。

 共通して感じるのは、この問題をまっすぐ受け止めて、それに対して何かしたいという思いを強く持ち、実際に行動してくれるということで、いつも感動しています。

土屋)日本のほかの中学や高校は、呼んでもくれないということですか。

瀬川)とても難しいと思っています。インターナショナルスクールだからこそ、ここまでできたのではないかと思っています。実際に人身取引撲滅グループといったクラブがあって、サポートしてくださる先生やスタッフがいて活動がしやすく、私たちも直接、スクールのみなさんと連絡がとりやすい。でもそれが日本の学校だと難しいのではないかと感じています。でも、もっともっと広げていきたいと思っています。      

 

ショックからアクションへ

土屋)人身取引撲滅グループのみなさんは瀬川さんの話を学校で聞いた時、どのように思いましたか?日本で実際にこのようなことが起きていると聞いて信じられなかったというお話しも先程ありましたね。

シオン)最初に話を聞いた時、とてもショックを受けました。日本で起きていることをライトハウスが直接受け止めた問題を話していただいたときには、そんなことが実際に起きているんだと。

サム)転校してきたばかりの時に、瀬川さんの話を聞く機会があって、非常にショックを受けました。でもこれをサポートする活動こそが私がやりたい活動だと思いました。最初は自分に何ができるかわからずにいましたが愛葵さんの話を聞いて、私たち生徒にもできることがあるんだと自信がもてました。

フウコ)その年に、初めて日本に来て、横浜インターナショナルスクールに入学しました。それまで日本は、きれいで良い印象を持たれているイメージがあったのですが、瀬川さんの話を聞いて、実際にその重大な問題が日本にあると、その解決しなければいけない問題に現実味が湧いて、アクションが起こせればいいなと思いました。

マリィ)私は今11年生ですが、9年生の時にこのグループに参加して、カンボジアでこの問題がある事を学びました。10年生のころに瀬川さんの話を聞いて、とくに同い年の子どもたちが人身売買の問題に関わっているということに衝撃を受けました。そのため11年生になって、この日本についての人身取引撲滅活動に参加しました。

土屋)同世代の問題ですものね。ショックをうけて、すぐにアクションに結びつけたのは素晴らしいと驚きました。

 

 

◆グループ・ディスカッションに瀬川さんと人身取引撲滅グループのみなさんも加わりました。そのグループ発表とゲストからのコメント

教育から変える

「日本の学校のなかで、いじめる対象の人を、子どもが性的搾取の場に追い込むようなことが起きていると聞いたことがあります。私はとてもショックを受けましたが、いじめによる人身取引の実態はどのようになっていますか?」

「横浜インターナショナルスクールでは、性教育や、性的被害者にならないための教育をどのようしているのか?」

「性教育について日本はけっこう統制や規制があります。『命の教育・教室』ということで助産師たちが学校に呼ばれてもセックスなどの言語を使用しないよう言われて、正しい言葉で正しい情報を伝えられない状況が学校で起きてしまっています。それでも子どもたちは興味があるので、AVやネットなどで適正でない情報を知り得てしまい、学校が性教育について開かれていないという状況になっています。タブー感が出てしまっているのです。オープンに性教育がなされている環境にある学校では、どういうふうに性教育がなされているのか知りたいです」

「学校から、親や家族また私たちが住んでいるコミュニティーにどのようにアプローチすることができるでしょうか?」

「子どもにインターネットの使い方を教えるのは、学校のみなのか?民間やライトハウスなどの団体もやっておられるのか?」

「どうして日本のインターナショナルでない高校からは、ライトハウスに講演の依頼はないのでしょうか?」

 

子どもたちへ大人は

「日本の公立学校の教育でというのは非常に難しいですが、とくに女子高などのPTAに強く働きかけて、犯罪被害者にならないための事実をきちんと知りましょうという講座として粘り強くアプローチしていくのはいかがでしょう。性教育というと抵抗勢力がでてくるでしょうが、私たちもPTA活動などをしており、毎年予算をもらって親たちに講座を何か開催しなければいけないというPTAの事情に添うわけです。」

「親世代・大人・被害者になるかもしれない子どもの親などに、意識づけや啓蒙をどう効果的にしていくか?」

「大学で働いていたときに、学力が低い子ほど、性産業にかかわってしまうリスクが高くなると感じていました。しかもそれに対応する大人が、この問題をあまりにも知らなすぎて、言語化できていなくて、対応できていない。こういった状況で、大人への対応と子どもへの対応で何か違ったアプローチがあるのでしょうか?」

「メディアの役割・影響も大きいと思いますが、ライトハウスさんとしてはメディアに対してどのようなことを要望されますか?」

 

被害から救う、救われる

「法律の整備は時間がかかるので、いま実際に被害を受けている子どもを保護する直接支援が重要だと思いますが、ライトハウスさんだけでなく、ほかの民間や公的な方々がどのように対応しようとしていて、その対応できるキャパシティーや、具体的な制度がどのようにカバーしていくのかについてお聞きしたいです」

「ネット上に一度でも本人が望まないような画像などが流出してしまった場合、どういう手続きが最も有効なのか、完全に削除ができないとしても」

 

瀬川)私たちは人身取引の被害者から相談を受けることを専門としているホットラインとしては国内で唯一です。ほかにも、JKビジネス被害に巻き込まれた高校生を支援している団体や、性的搾取を受けている被害者を支援している団体、またここがDV(ドメスティック・バイオレンス)と重なって、DVの被害者を支援している団体もふくめて、いろいろな団体が人身取引の被害者を支援する体制ではありますが、これを専門としてやっている団体はライトハウスのみです。とくにAVについては、私たちの団体ともう一団体くらいしか、実際に相談があった後の支援の方法については、経験がないようです。それだけ、AVへの出演を強要された被害に関するサポートいうのが、日本では全然整っていません。

 まず当事者にとっては、だれかに相談する、だれかにこのことを打ち明けるということじたいが大きな一歩なので、とにかく私たちは被害者に寄り添う言葉をかけます。

 相談のなかには、今まさに被害にあっているという相談や、もう撮影が終わってしまって明日そのアダルトビデオが発売されてしまうけれども何とか差し止めたいといった緊急性の高い相談もあります。一方、もう78年前に出演を強要されてずっと苦しんできたけれども、今は結婚もして子どももいて、当時とられたビデオが今でも出回っているので、ご自分の大切なご主人やお子さんには見られたくないから、どうにかネット上の画像や動画を削除できないかという相談を受けることもあります。このようなネット上の画像・動画削除については、ライトハウスの相談支援スタッフが相談者から委任を受けて、加害者であるAVプロダクションやメーカーと交渉することもあります。交渉が上手くいき、すぐに対応してもらえればいいのですが、まれに裁判沙汰になることもあります。しかし裁判は被害者にとっては本当につらいことで、自分が経験してきたつらいことを人前で話さなければいけない、思い出さなければいけないことであり、さらに傷を深くすることになります。

 ネットに一度上がってしまうと、完全には回収しきれないところがあるので、相談者は常に不安な状況におかれているという問題は残っています。

 

土屋)最近はパトロールもしていますよね。

瀬川)今年から始めたことです。繁華街を朝5時や6時からスタッフやボランティアが歩き回って、女の子に声をかけています。『BLUE HEART』を配ったり、冬はホッカイロを配ってみたり、「おはよう」と声をかけるだけだったりするのですが、「あっせん業者以外で自分に声をかけた人はこの繁華街でいない」とすごく安心した顔をされる人もいますし、嫌がる人もいます。とにかく何か困った時にこういう相談先があることを知っていただくことが一番大事だと思って、この活動をしています。

 経済的に困窮している相談者の方も多いので、時には弁護士との連絡も行います。相談は地方から来ることもありますので、スタッフがまずその地方にとんでいき、弁護士とつないだ後、東京まで来ていただく費用を一部負担することもあります。  

 

巧妙にはびこる性産業、それに寛容な日本社会を変える

「日本の性産業がここまで大きくなったのはなぜでしょうか?」

「日本の女子高校生はどうしてJKビジネスをやるのだろうか。同世代として人身取引撲滅グループのみなさんはどうお考えになりますか?」

「人が人を売るとか買うとかいう感覚がおかしい、という話になりました。でも現状では、電車とか公共の場の広告などで、性を商品化している表現があふれています。だから、これらを見た女の子たちが『自分の体が売れる』という認識をした結果、何か困ったとか何かあった時などに、自分から踏み出してしまうというのがあるのではないかという話になりました。こういったことを無くすために、女の子たちにどういう教育や伝え方をしていったらよいのか、瀬川さんにお聞きしたいです。」

「海外へ社員旅行とか社員研修に行っても『買い』に行くことが実際にあると聞きます。またこのように人身取引で盛り上がってしまっている世の中の人権意識の低さも問題だと思います。そういう世の中を変えるには、どういうデータが必要でどういう勉強をしたらよいのかという質問がありました」

「ライトハウスさんのパンフレットに『人身取引と企業の関わり』というお話をされたとあり、この具体的なお話を伺えればと思います」

AVを見るあるいは買う加害者側をどう訴追できるか?」

「法整備・法規制以外に、日本のここが変わるべきだという点はありますか?たとえば文化とか。」

「この問題が日本で言語化されていない。言語化された途端に、すごい言葉で書かれて、埋もれてしまうという指摘がありました」

「人身取引撲滅グループのみなさんご自身もスマホとかお使いになっていると思いますが、みなさん自身が危険や問題を感じたことはありますか?」

 

土屋)答えにくいと思いますが、「なぜ日本の高校生がJKビジネスなどに走ると思いますか?」というご質問については。

シオン)私の意見では、話しかけてくるテクノロジーや会話がインターネットによって簡単になったことが背景にあると思います。向こうから簡単に連絡がきて、友達のふりをして簡単に話してくるので、もっと友達をつくりたいと生徒が思っていたりすると、知らない人と話しても大丈夫だと思ってしまうのではないかと思います。インターネットが進化したことにより簡単に向こうから話されて、誰だかわからない人から話されても安全だと思ってしまうのではないでしょうか。自分のことを話して教えるのは、相手が大丈夫な人なのかを知ってからのほうがいいと思う。

サム)私たちの学校ではテクノロジーをよく使うので、先生からインターネットの使い方の教育を受けているので、自分たちのなかで善し悪しの判断基準が明確になっています。日本の学校では、そういった教育がされていず、生徒は判断がうまくできないのかもしれません。

フウコ)学校からの勉強のストレスや反抗期ということもあり、家族間から生まれるストレスが、知らない人とコミュニケーションをとることによって癒されるのだと私は思います。また知らない人と友達になることは自分の身分を隠すことができます。でもSNS上でコミュニケーションをとってきたのと同じように気軽に相手と会ってしまうと、自分に危険があるということを予想もしておらず、どうしていいか分からないので、JKビジネスが起こるのだと思います。

マリィ) いろんなことが女子高校生にJKビジネスに入りたいと思わせるのだと思います。一つは女の子だけの学校に通っていると、男の子と関わりたいと思うかもしれないし、生徒としていろんなプレッシャーやストレスがあると思うので、その現実から一瞬でも離れたいと思うことがあるのではないでしょうか。また今の社会では、いろいろ変なことがクールだと思われているようですが、JKビジネスに入ることがクールだと思う子も中にはいるのではないでしょうか。

シオン) 女子高だと女子しかいないので、男の人と話したいと興味を持って、そういったことがJKビジネスにつながるのではないでしょうか。

土屋)「自己責任」の「自」の字もない、温かい指摘をありがとうございました。

  

人身取引禁止法を日本にも

「ライトハウスさん、人身取引を廃止するための法制定にむけてロングタームでの具体的なロードマップがあれば教えていただきたい」

「日本は人身取引議定書になぜ批准しないのか?日本の政府と意見交換などをなさっていると思いますので、どのような状況なのかおしえていただきたい」

「日本と別の国で何かこの問題への対応の違いを感じたことはありますか?」

「無関心層へのアクセスを具体的にどのようにしているのか?」

 

土屋)「なぜ日本は人身取引議定書に批准していないのか?」というご質問がありましたが、寺中誠さんにお話しいただきましょう。

寺中)人身取引議定書(パレルモ議定書)は議定書=Protocolであり、本条約に付属する文書です。この本条約は、国際組織犯罪防止条約と呼ばれており、実は共謀罪の規定を求めている条約です。日本のなかで共謀罪を規定するという法整備を政府が行おうとしたところ、市民団体がこぞって反対した。結果的に現段階でこの共謀罪が規定できていませんから、この本条約に日本は「批准しますよ」とは言いましたが締約国にはなっていません。そうすると付属する議定書にも加入できません。議定書の部分はかなり良くできているので、先んじてこれに加入したほうがよいのですが、しかし本条約の国内法化がまだ完了していないため、本条約の法体制のなかに入れないという関係があります。

 実は、人身取引に関する禁止条約には、欧州条約という欧州だけで使われている条約があり、この条約はパレルモ議定書よりもっと良くできています。日本の今の段階で最もよい解決は、日本が自ら政策によって国内を法整備し、人身取引禁止の国際的な法体制にきちんと入ることです。ただし、その入る時に、わざわざパレルモ議定書に入るべきかどうか。欧州ではないということで欧州条約には入りにくいという問題はありますが、それはそれとして、きちんと国内で人身取引の法整備をするべきだと思います。

 

土屋2020年までの法整備にむけてライトハウスさんのロードマップはありますか?

瀬川)私たちは海外での人身取引の法整備についてリサーチを進めていて、弁護士の方にプロボノで入っていただいています。海外の法律をそのまま日本で法案として通せるわけでないとは思いますが、実際に海外ではこの問題をどのように規制しているかという観点で、他国の法律をリサーチし、同時に関係省庁の方々に代表の藤原が定期的に話に行っています。

 また議員さんを味方につけるためにも、議員さんに地道に会って、ヒアリングをしていただいて現状を理解していただくことが大切だと思っています。政府に行動計画はあるのですが、私たち現場で支援している者としては、行動計画の内容は現実離れしていると感じています。まだまだ海外から連れてこられた被害者という前提に立っている部分があります。私たち日本で生まれ育った人も被害に巻き込まれているという現状をまず理解していただくことが大事だと思って活動しています。

 少しずつ私たちライトハウスだけでなく人身取引に取り組む他の団体と共同で国に働きかけていきたいと思っています。さらに実際に法律を改正するには、政治家への働きかけを後押ししてくれる世論が重要です。世論形成という部分で、啓発活動も同時に進めています。

  

同世代からの発信

「この活動は日本のなかでタブー視されていることも多いと思いますが、人身取引撲滅グループの活動をして何かいやな思いをしたことは?」

「人身取引撲滅グループのみなさんは、同世代の日本の学生さんとこういった問題について話し合ったことがある、あるいは話し合いたいと思っていますか?」

 

シオン)日本の学校ではタブーなトピックなので、日本の学校ではもしかすると生徒には直接話してほしくないと言われるかしれません。もし、日本の生徒たちに直接話してはいけなかったら、生徒の両親などにまず話して、その両親から生徒たちに話してくれるように説得することが一番効果的で可能かと思っています。

土屋)最後に一言ずつ。

サム)今日このような機会にいろいろお話を伺えて、また各テーブルでも話しあえて、私たちは、一緒にいいスタートができていると感じています。みなさん、ここでお感じになったことを、それぞれお持ち帰りになって、考え方や行動に注意を払っていただければと思います。

シオン)この場でいろいろな人がいるなかで私たち生徒が一人ひとり話すことによって、この問題にどのようにアプローチしていたらいいのか、私たちが学んだことをこれからグループに持ち帰っていろいろ活動ができると思います。ありがとうございます。

フウコ)みなさんとディスカッションできて、自分が今まで考えたこともなかったようなことも話し合えたのでとてもよかったと思います。ありがとうございました。

マリィ)このようなイベントには初めて参加したのですが、いろんな世代の日本人の方とあまり話したことがなかったので、いろんな視点をもらえて本当によかったと思います。このイベントは、これから人身取引の問題についていろいろなことができるモチベーションになって本当によかったです。    (=敬称略)                                                ■

  

 

~参加者募集中~

◆『民主主義をつくるお金――ソーシャル・ジャスティス基金の挑戦』(第40回)

【ゲスト】小熊 英二さん(慶應義塾大学総合政策学部教授)
【コメンテータ】上村 英明SJF運営委員長
【コーディネータ】西川 正さん(ハンズオン埼玉理事)
【日時】11月4日(水) 18:30~21:00
【会場】文京シビックセンター
 ★詳細・お申込こちらから 

 


=動画:『売買される日本の子どもたち――背景に潜む人権意識とは』(SJFアドボカシーカフェ第39回)ダイジェスト版

*SJFでは、助成事業や対話事業を応援してくださるサポーターやご寄付を募っております。認定NPO法人への寄付として税金の優遇制度をご利用いただけます。詳細はこちらから

*** 本企画(2015年9月24日開催)のご案内状こちらから(ご参考)***

 

 

 

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