ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)フォーラム開催報告
~参加者募集~
◆『民主主義をつくるお金――ソーシャル・ジャスティス基金の挑戦』
(SJFアドボカシーカフェ第40回)
【ゲスト】小熊 英二さん(慶應義塾大学総合政策学部教授)
【コメンテータ】上村 英明(SJF運営委員長)
【コーディネータ】西川 正さん(ハンズオン埼玉理事)
【日時】15年11月4日(水) 18:30~21:00
【会場】文京シビックセンター
★詳細・お申込 http://socialjustice.jp/p/20151104/
ソーシャルジャスティス・ダイアログ2015
9月11日開催
「希望そのものがこの学校にはある」と、文科省の人権教育研究指定校となった愛媛県の中学校が取り組んでいる、性的マイノリティをテーマにした研究に関わったエディさん[レインボープライド愛媛(SJF第1回助成先)代表]は、今回のダイアログで述べました。白石草さん[OurPlanet-TV(SJF第2回助成先)代表]は、エディさんの活動の強さの根源は、当事者が声をあげて、課題が可視化されたことだと述べました。また、しかし人権被害を社会で共有するのは非常に難しいとの問題提起もされました。会場からは、まずもって人権の被害者を守らなければならないが、被害者は自ら被害者であることを認められない苦しさを抱えていると問題提起され、自分を責めることすらある被害者を守ることが最初であり、そのうえで社会に対して<声をあげられる>環境をつくっていくことが大事だという発言がありました。
市井の人々からの社会提言・政策提言(アドボカシー)活動は今どのように発展しようとしているのか、またその過程でどのように障壁を打破し社会を変えようとしているのか、アドボカシー活動が担っている役目とは何か――。ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)の助成先による社会課題への取り組みをもとに、このダイアログでは対話しました。
第1部では、「アドボカシー活動の今――成果の芽と今後の展望」をテーマに、SJF第3回助成先団体から率直な報告をいただき、対話を通じて課題を共有しました。
第2部では、エディさんから『性的マイノリティの課題を地方でどう前進させているか?』と題し、地方都市・松山を起点に性的マイノリティ当事者として「誰もが生きやすい社会」をつくってきたことを基調講演いただき、つづいて白石草さんとエディさんとパネル対話いただきました。さらにこれらの話をもとに会場全体で対話し、課題解決にむけて相補的な関係を築く場となりました。豊かな対話を通して、豊かに共有できるという実感をよんだダイアログでした。
=第1部=
『市民による政策提言・社会提案活動の今、成果の芽と今後の展望――SJF第3回助成先より』
◆生活保護問題対策全国会議 小久保哲郎さん(SJF担当委員:辻 利夫)
小久保)われわれの団体は、福祉事務所の窓口で生活保護の申請が受けられないなどの不法な運用を是正するとともに、生活保護への削減などの制度の改悪を許さないという立場で活動しています。2007年に設立し、会員は460名余り、弁護士や司法書士などの法律家が多く、ほかに研究者・自治体職員・研究者・生活保護当事者などで構成されています。日弁連と連動しながら活動しています。二次的にいろいろな関連団体をでっちあげて、活動しているところが特色かと思います。
今回の助成をいただいた2つの活動について説明していきます。
生活保護基準の引き下げを阻止する活動
2011年7月に生活保護受給者が205万人を突破して史上最大となったあたりから、生活保護バッシングが顕著になり始めました。とくに人気お笑いタレントのお母さんが生活保護を受けているということで、異常な生活保護バッシングがおきたというのは、みなさんもご記憶かと思います。
このバッシングが制度改革に結びつきまして、2013年には史上最大の生活扶助基準の引き下げ――平均6.5%・最大10%――がありました。これは自民党の公約に生活保護基準1割引き下げが入っていたもので、それに符号するような大改革がおこなわれたものです。さらに、今年は、生活扶助・冬季加算の基準引き下げもなされています。
そういったなかでの活動として去年の大阪での活動を報告します。大阪は生活保護改革を牽引しており、生活保護受給者が一番多いといわれていましたが、このところ政令市で唯一、逆に生活保護受給者が減っていて色々と問題があるので、臨時的に調査団を立ち上げて約250名が参加して2日間にわたり、本庁と6区と行政交渉を行うなどの活動をしました。この活動については、かもがわ出版から本を出しました。
生活保護法の改正については、省令等で歯止めがかかりましたので、その歯止めをどうやって活用するかというコンセプトで、パンフレット『Q&A生活保護法改正について』をつくって周知しました。具体的な論点ごとに、どのように対応できるかということが書かれています。
また今年に入って住宅扶助・冬季加算基準が引き下げられるということがあったので、これへの対応の仕方や、あきらめないで闘うすべはあるということを示したパンフレットを作成しました。これは当事者や支援者向けのパンフレットですが、もう少し表現をマイルドにした福祉事務所向けのも作成し、全福祉事務所に10部ずつ送り、いくつかの福祉事務所からは追加の要望がきました。
7月4日には、設立8周年記念集会としてシンポジウムを開催させていただきました。スウェーデンの研究者の方をお呼びして、日本でどのように運動をつくっていくのかというテーマで、参加された生活保護運動・障害者運動・労働運動に関わっている人と連携のあり方について議論をしました。
大規模の裁判がいま起きています。生活扶助基準の引き下げについて25都道府県で800名近い方々が裁判を起こしています。これを盛り上げていこうということで、10月28日に『生活保護アクションin日比谷 25条大集会』と銘打って、日比谷野外音楽堂で3000人規模の集会を実行委員会形式で開こうと準備しています。どうぞご参加ください。
生活保護捕捉率100%を目指す活動
日本の生活保護利用率は1.7%で、諸外国たとえばドイツやイギリスでは1割ほどで、日本では「増えた、増えた」といわれても実は低い。なぜ低いかというと、生活保護の捕捉率――利用する資格のある人のうち実際に使っている人の割合――が非常に低く、該当者の2・3割しか使っていないからです。これが「あいつは生活保護を使っていい暮らしをしやがって」というような足の引っ張り合いや、生活保護バッシングの土壌となっていると考えています。こういう生活保護に対する偏見を払拭して正しい知識を普及させ、申請についての具体的なノウハウを知らせていく活動が重要だと考えています。
ノウハウについては、法律家や支援者のための申請マニュアルというのをつくっており随時更新しているのですが、2013年の生活保護法改正をきっかけに、14年に大幅に更新しました。15年4月には、日弁連で『あなたも使える生活保護』というパンフレットをつくり、どういう場合に生活保護が使えるのかについて、わかりやすくイラスト入りで知らせています。
また日弁連でつくったパンフレットで『だれが得する生活保護基準引き下げ』があります。「生活保護基準というのは実はいろいろな社会保障基準と連動していて、生活保護基準が下がると、生活保護を受けていない低所得者も打撃を受け、他人ごとではない」との理解を促進しています。この最新バージョンは高齢者・障害者編ですが、全部で4編のパンフレットを作成しており、日弁連のHPからダウンロードできるようになっています。
さいきまこさんという漫画家の方がいらっしゃって(当会の会員)、レディースコミックに生活保護・離婚・児童虐待・DVなどをテーマに連載をされていて、われわれも監修をしていて、これがコミックとして出版されました。
議員さんとの連動という点については、最近ですと山本太郎議員が、生活保護の奨学金問題について質問をなさり、生活保護世帯の子どもに出た奨学金は塾代などに使ってもいいというように、厚生労働省の通知を変えるという成果も生まれているところです。
社会保障の理念に対する誤解を解く
辻)今日のダイアログの趣旨が、助成先の活動のなかで、いかにアドボカシー活動を展開してきたか、そのご苦労などをうかがうことですので、私から1つだけ、生活保護の運動についてはこの間とても長い蓄積がありますが、今回のバッシングに象徴されるように、なかなか理解が深まらない、逆に狭められていくという印象があります。実際のところどのように感じておられるかをうかがえればと思います。
小久保)2012年以降、バッシング報道が起きてから、テレビやネットで誤った知識や偏見が垂れ流されたという効果によって、この間ずっと受給者が増えてきていますが、それは主に高齢者であり、稼働年齢層はむしろ減っている。これは、バッシング報道の影響が大きいと思います。そういう意味で、イメージを払しょくする活動をいかに進めるかが悩ましいところだと考えています。今回の助成事業でもHPを作成して、感性に訴えながら理解を進めることができないかと企画はしているのですが、われわれ法律家が多く理屈っぽくて、いい知恵が浮かばない。芸術家の方とのつながりがないので、そういった方々とどう活動を進めていくか、みなさんのお話をうかがいながら考えていきたい。
辻)会場のみなさんからいかがですか。こう工夫したら?とかいかがでしょう。今年5月13日に尾藤廣喜さんをお招きしてアドボカシーカフェを開催した時、コメンテーターをされた寺中誠さんいかがですか。
寺中) まず日本には、生活保護の問題は知られていますけれども、もうひとつ年金の問題がそもそもあります。年金と生活保護は、実は英語に訳すと両方ともpension。英語のpensionが、日本語ではなぜか「年金」としか訳されないですが、「生活保護」も実はpension。困った人がとりあえず、まだお金を出せる人たちの上がりによって社会で一緒に暮らしていくという、つまり困った人のために駆使される共同基金がpension。その一種として年金もあれば生活保護もある。
ところが「年金」というとなぜかわれわれは、自分たちが働いている時にとりあえず蓄えておいて後で返してもらうという意識がある。だから、本当は困っている人のために集めている基金だという意識が全然ない。これはおかしいじゃないかと。
それから、「生活保護」はもらったらいけないような感じで語られていて、そのようなレッテルとして使われているが、これはたまたまその時に困っていたら使っていいという基金なのだから、そういう性格を生かすべきじゃないかと。日本の制度はとてもpensionの理念から離れているという話を、そのアドボカシーカフェで言わせていただきました。そのあたりの誤解を解く、生活保護の誤解以上に、社会保障の理念に対する誤解を解く必要があると思います。
またその半面にある不正受給の問題も取りあげられている。不正受給は1%にも満たないと、日弁連のパンフレットにも書かれていますが、正直言って、不正受給って本当に悪いの?と思う。不正受給って、ほとんどは手続きミスですよね。その手続きも、高校生がアルバイトしました、その収入を申告しませんでした、それが不正受給にされる、といったほとんどカラクリのような世界。「不正受給は、本当は不正受給じゃないよ」ということも言っていくべきだと思います。
小久保)他制度と連携し、社会保障全体を見渡した活動がとくに必要だと私どもは思っています。そういう意味もあって、今度10月の集会は さまざまな活動をする他団体と連携して行います。
◆移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連) 樋口直人さん (SJF担当委員:上村 英明)
上村)今の議論で、ひとつの生活保護とか年金とかいう問題と同時に、社会保障という大きな制度の問題をどう考えるかということに話が来ましたね。移住者の問題については、最近グローバルに問題になっている難民の問題がある。シリアの難民の子どもが打ち上げられたということで、ヨーロッパ、オーストラリアなど軒並み難民の受け入れ枠を上げなければいけないと表明しているなかで、日本は相変わらず難民の受け入れ枠が本当にひどい。海外のメディアで、日本は何をやっているのとあらためて言われている。
これと関連して、いわゆる日本国籍を持っていない住民たち、とくにお子さんたちが日本で高校や大学に進学するという問題に焦点をあてたアドボカシーに、移住連が取り組んでおられます。今回のSJFの助成としては、こういった問題は時期的にも非常に重要だと思っています。一方で文科省は、大学はグローバル化するのだと言いながら、こういった問題に取り組んでいないという大きな矛盾があるわけです。
樋口)移住連というところは90団体加入となっているのですが、実際には、有志が移住連を名乗って活動する連合のようなところがあります。貧困プロジェクトも動いているのは少数です。専従者も少なく人員が限られていますので、できることは非常に限られています。
それでどうしたか、貧困という問題に取り組んだ経験をもとにお話しします。この問題を反貧困ネットなどから提起されて、信じられないような成功をおさめた頃に、二匹目のドジョウを狙ってみようということで、2009年に「貧困プロジェクト」を立ち上げました。いろいろある切り口のなかで具体的には、教育――つまり将来の貧困の問題につながる子どもの進学の問題、シングルマザー、失業とかいろいろ掲げていました。いくつか、制度的におかしいと移住連が省庁交渉として上げたのですが、基本的に「ああそうですか」でおしまいになってしまう。
じゃあどうしようかと出したのが、文科省が取り組んでこなかったことに対して、国勢調査のデータを使って「進学格差がこれだけある」ことを示した結果です。当時われわれは非常に甘くて、こういうデータを示せばうまく動き出すかと思っていました。でも外部の人は「そうかそれは大変ですね」で終わりになってしまう。いったんデータをつくってそれでおしまいではむなしい、なんか変えないと意味がないでしょうと思ったわけです。
移住連の省庁交渉にずっと参加していると、昔は課長補佐が出てきたのが係長になって主任になって、だんだん向こうも足元をみて格下を出してくる。このむなしさがあるので、とにかく何か成果を得ようと考えました。厚生労働省を動かすのは難しい、生活保護の国籍条項はわれわれの力では動かしようがない、そこで目をつけたのが「教育」です。
低い進学率に苦しむ外国人の子どもたちへ入試枠を
「教育」として取り組んだ問題が、高校進学と大学進学の二つです。なぜ「進学」に目をつけたかというと、今まで「外国人教育」というと、いわゆるアイデンティティ確立とか多文化とかが課題となってきたわけです。でも、現実に外国人の子どもたちは、単に異文化を背負っているだけでなく、ものすごく低い進学率に苦しんでいる人たちでもあります。私は本業がデカセギの研究ですが、聞きとり調査をすると、進学しない人もたくさんいます。日本と母国を行き来するなかで、中学中退の学歴で終わってしまう人もいるわけです。運よく高校進学した人に「どこの高校に行きましたか」と聞きとり調査をすると、定時制とか通信制とか単位制の高校が多くなってしまうのです。
そうすると「外国人教育」の背景にある「進学」に、だれもちゃんと取り組んでこなかった問題なので、自分たちで始めましょうと。高校進学対策がまず必要なのですが、都道府県の教育委員会が動かなければいけない問題であって、実際には地元の団体が動かなければ進まないので、取り組んでみましたが不発でした。
もう一つは大学進学です。今までの感覚ですと、大学進学はほとんど夢の話しでしたが、2010年において20歳で通学している――専門学校等も含みますけれども――割合を分析したデータに示されるように、フィリピン人・ブラジル人でも20歳の段階で2割前後が通学するようになってきました。これだったら大学進学を具体的に考えてよい時期だろうと考えました。また、移住連貧困プロジェクトの構成員は大学教員が多いので、大学教員が中から大学を変えていけると考えました。とくに国公立大学は学費が安く授業料免除もありますから、入学した外国人学生が自活しやすい。そこで、これらの大学に入りやすくするには、特別入試を設ければできるだろうと。予算が必要な政策は嫌がられるけれども、これは予算がいらない。これを高校入試と大学入試でつくろうと発想して進めました。
実際には大学の人たちは今まであまり考えてこなかったことなので、大学の人たちに話すと二つの反応パターンがありました。一つは「なるほどこれは私たちがやるべきことでした。いままで気づきませんでした」という人。もう一つは「入試の公平性とかあるじゃないですか」という人ですが、「でも、あなたたちの大学ってずっと帰国子女枠とかやってきたじゃないですか。あれって社会の上層にたいする優遇措置ですよ。それをやってきた人たちが何を言うのですか」といえます。大学教員は建前に弱いですから、「それはそうですね、やっぱり動いた方がいいんですね」と、実際にそうするかどうかは別にして認識はしてもらえる。この二つのパターンに分かれます。いずれにせよ、この良心に訴えるかたちで動かせないかと思いました。
大学改革の当事者として内部の人間を動かすところから
もう一つ好機となったことがあり、大学改革が進んでいることがあたります。2018年から子どもが急減するので、文科省から大学改革の指令が出ています。来年度から多くの大学で組織改革が行われます。これは、18年問題に間に合わせるために、2016年から組織改革をしない大学は補助金を3・4割減らすと文科省から脅かされているから仕方なくやっているわけです。しかもその組織改革の時に「なんか目玉を打ち出せ」といわれるわけです。しかしですね、同じ人員で予算も増えるわけでもないのに、目玉なんか出せないですよ、どの大学も同じ問題に対応しようとしているわけですから。だから目玉探しに苦労している大学に対して、「外国人特別枠入試というものがあります。これはグローバル対応入試です」と打ち出す余地が生じるわけです。
また公立大学での特別入試は、「これは地域貢献です」と訴える方法があります。「地域の実情にあわせた入試じゃないですか」という形で特別枠を導入できるのではないかと思いました。大学の教員ならば実情がわかりますから、可能性のある大学に目を付けました。たとえば、愛知県立大学は取り組んできた経緯や地元に外国人が多いことから、導入しやすいのではないかといった風に。また、宇都宮大学は積極的に外国人教育に関わるプロジェクトをやっていて、理解のある学部長がおられたので2014年に働きかけたら、あっという間にやりますとなって、実際にこの秋から入試に取り入れられました。日本は先例主義ですから何か一つよい先例をつくることがポイント。だからとにかく宇都宮大学で一つ先例をつくり、公立大学では愛知県立大学を対象に進めました。
その方法は何かというと、シンポジウムを大学でやります。そのシンポジウムに、「研究者の皮をかぶった活動家」を送り込みます。そして「こういう問題があります」と提言すると、大学側でも「なるほどそうですね」となるわけです。実際に働きかけを行った大学には外国籍の学生さんがいますから、理解があって進めやすい。あるいは、内部にメンバーがいる茨城大学などでも進めています。
このように今の戦術というのは、大学内部でシンポジウムをして問題提起し、大学内部で改革してもらうという方法です。こうしたシンポジウムを続けていく方針で、上智大学で11月に開催予定、あと一橋大学と東京外国語大学で開催したいと思っています。
しかし、これは個別の大学で地道に取り組むだけでなく、文科省に対して何か働きかけが必要でしょう。これについては、ソーシャル・ジャスティス基金のアドボカシーカフェで、文部科学大臣補佐官の鈴木寛さんと登壇しました。鈴木さんが強調されていたのは「新聞が書けば変わります」ということでした。そこで手始めに、ヘイトスピーチの院内集会(15年7月)でわれわれの報告を潜り込ませてもらったら、東京新聞が記事にしてくれてNHKからも取材申し込みがありました。またそのアドボカシーカフェに朝日の記者もきてくれて、宇都宮大学を紹介しました。あとは移住連でずっとロビーイングをやっているなかで、疎遠だった自民党に働きかける必要があるなと、鈴木さんのアドバイスを参考に開拓中です。
内部の人間が動かないと、やはり物事は動かない。具体的な変化をもたらすにはどうすればいいか、アメリカの政策過程論というのを勉強しました。これは、政策を作るにあたって、市民団体はどういうふうな役割を果たして、どういうふうにすれば政策ができるかを研究する分野です。それによると、少人数のグループで一番効果的なのは、やはり内部から動かすことです。本当は文科省の人が内部から進めるのがいいのでしょうけれど、手近なところでいえば、自分は大学内部の人間じゃないかと発想したわけです。
実際に活動していて、当事者運動と支援者運動の違いをすごく感じます。当事者運動というのは、己をかけてやる迫力というか切実さというかがある。支援者運動というのは必ずしもそうではない。それが移住連の弱さだと思ってきたけれども、「なんだ自分も大学に勤める当事者なんだ」と考えれば物事が進むとわかってきたので、自分がいるポジションをもう一度考え直してみることが大切だと思います。
上村)きれいごとではない市民活動の側面が、この場では出てきますね。大丈夫かこの団体?!というところはあるのですが。活動は、戦略と戦術、プランニングが非常に重要で、その意味で本音のところで樋口さんがおっしゃってくれてよかったです。
先ほど生活保護のところでも感じましたが、OurPlanet-TVのようなオルタナティブ・メディアを別にすると、なんでふつうのメディアはこういう問題に動かないのか、みなさんどうですか? 移住連の大曲由起子さん追加で何か?
メディア戦略
大曲)移住連では労働問題も大きな課題になっていて、雇用・労働の問題になってくると経済・成長戦略と結びついていくので、全国紙である読売新聞や日経新聞からも問い合わせはあります。ただ「教育」となると、やはりどうしても労働とか経済とは異なっていくので別の新聞になるのかなと思っています。「差別」は、学校であっても職場であってもあってはならないことであり、
機会の差別ではなく、<結果>として差別があってはならないことが、人種差別の院内集会で訴えることができました。そこで進学格差などを数字ではっきり示したことが、取材につながったのではと思います。こうした機会を活用していけたらなと思います。
もうひとつは、メディア関係者には移住連の会員の方もいらっしゃるのですが、やはり記者が書きやすい上手い機会を利用しないと。たとえばシンポジウムを打ったというだけは記事にならないですし、戦略的に一番なのは、政府が何かを出した時にそれにあわせて何かをしていくと効果的だと、最近考えています。ただし政府が何かを出してから移住連が記者に言っても遅いので、普段から記者とコミュニケーションをとっておいて「政府がこんど云々を出してきますから、そのタイミングで記事に」というのが記者さんも書きやすいのではないかと思います。記者さんが書きやすいようにする方法を普段から知っておくことが大切だと思います。
◆人身取引被害者サポートセンターライトハウス 坂本新さん (SJF担当委員:土屋 真美子)
坂本)本日は被害者支援スタッフの金尻と2名で発表させていただきます。
今回私どもは「児童・青少年向け人身取引被害者のための専用サイト/アプリ開発プロジェクト」――若年層で性犯罪被害・性的搾取に巻き込まれている子どもたちが増えているなかで、子どもたちがこのような犯罪に巻き込まれないための専用サイト、また万が一巻き込まれてしまった場合の相談の受け皿としてのアプリを開発する――ということで助成いただきました。
これらのことが必要になった背景をまず私から説明させていただきます。そして実際の被害者支援の現状とアプリの開発については、被害者支援スタッフの金尻から説明させていただきます。
ライトハウスは人身取引被害を専門に扱うNPOです。労働搾取・性的搾取・臓器売買という人身取引の3つの大枠のなかで、おもに性的搾取の被害者支援を行っている団体です。
2002年、アメリカで「ポラリスプロジェクト」という人身取引の根絶を目指すNGOが立ち上げられ、当時、アメリカの大学を卒業したばかりの、現ライトハウス代表の藤原がここでインターンとして勤務し、その後、アメリカ国務省の協力を得て、ポラリスプロジェクト初の海外支部となる「ポラリスプロジェクト・ジャパン」が東京に設立され、藤原が日本代表となりました。その後、日本国内の人身取引被害によりコミットした支援を行なうために、ポラリスプロジェクトから独立、名称もライトハウスとして新たに活動を開始しました。
現在ライトハウスは6名(常勤4名)のスタッフで活動しています。
われわれの活動の核となるのは、被害者支援活動です。被害者支援スタッフが実際に被害者本人たちと会って、状況を聞き、必要な公的な支援につなぐ、医療機関や警察に同行する、保護が必要な人はシェルターにつなぐ、などの支援を行っております。その上で研修や啓発(累計受講者数27000人)、アドボカシー(政策提言)を行い、世論を形成して、最終的には2020年までに包括的な「人身取引禁止法」が制定されることを狙っています。
世界が注目する日本の人身取引
人身取引としては、全世界では2100万人(ILO ・2012年)の被害者がいるといわれています。少々統計データが古いのですが、これは人身取引被害者数について、裏付けのある統計がなかなか取れていないからです。日本国内でどれだけの被害者がいるのかについても根拠のある統計は出ていません。それだけ表に出にくい犯罪であることを示しています。
今、日本の現状が世界からどのように見られているかですが、アメリカ国務省による人身取引年次報告書では「根絶の最低基準を満たさない国」というランクに、11年連続で位置づけられており、特に今回、キーワードとして上がってきたのは「JKビジネス」そして「外国人技能実習制度」の問題です。
現在、ライトハウスでは多くの相談を受けておりますが、今年2015年1月からの新規の相談件数――実際の電話が入っている件数はもっと多いのですが、それらが継続支援につながった件数――は55件となっています。そのなかでも群を抜いて多いのは、アダルトビデオへの出演の強要、もしくはレイプまがいの出演や撮影等であり、件数としては38件に上ります。
被害者も若年層が増えていることから、昨年はこれら若い層の啓発のために「啓発マンガプロジェクト」を発足しました。本件は今回の助成事業にもつながっているのですが、中学生・高校生に「人身取引というものが身近にあるんだよ」ということを知ってもらうためにマンガを制作したものです。これはライトハウスに実際に入ってきた相談を元に、「JKビジネス」「男の子の性的搾取被害」「リベンジ・ポルノ」の3つのストーリーを作り、プロのマンガ家に作画をお願いして、今年の2月に初版1000部発行しました。これが1週間で無くなり、第2版で3000部、現在第3版で2000部を追加しています。本マンガは台湾在住の台湾人の方からも申し込みがあり、そこから台北にあるロータリークラブにつながり、台湾の学校で配布したいという話になり、翻訳費用、発行費用など、すべて先方のご負担で発刊されることになりました。
性的搾取被害の現実
金尻)ライトハウスにくる相談としては現在、国内(日本人)の相談が多く、児童の場合は児童買春の被害にあわれた方、18歳以上の方であれば、風俗産業やアダルトビデオ産業に巻き込まれてしまい困っている、という方からの相談が多くなっています。相談の受付は原則、電話やメールでしたが、最近ではLINEを使った相談も多くなっています。
今の若者の世代では、電話による相談には抵抗があり、LINEやチャットで相談したいというのが本音であることから、LINEなどを使用した相談が複数寄せられております。しかしLINEではテキストメッセージでのやりとりになりますので、ひとつの相談に対応すると支援者が身動きできなくなり、相談支援者2名で対応することに物理的な限界を感じていました。
どういった相談があるかと申しますと、自宅で安心安全が保障されていない環境にいる――性的虐待を受けている中学生からの相談では、自宅にいると安心安全が担保されていない――ので、援助交際をすれば家にいなくてよく、またお金も得られる、そのほうが自分でコントロールできる、と考えて援助交際・児童売春をしながら生活されているという方からの相談もあります。「今どこにいるの?」という質問に対しても、「森」とか「ホテルの一室」とかいった返事もあり、チームプレイや即応性が求められる相談をLINEでやりとりすることの限界を感じています。
相談内容はみなさんが見ている現実とは全く違っていて、「明日からコンビニの週刊誌とか、アダルトビデオの雑誌とかで裸の写真が発売されてしまいます、どうしたらいいんですか、助けてください」といった相談は、2週間に1回くらい受けます。話を聞くと、一度でも撮影契約書に署名してしまったらもう最後だと。出演を断れば法外な違約金を請求される、親にだけは知られたくないし、身分証明書のコピーなども取られてしまっているので、外部からみれば被害回復が難しく、撮影の際には「泣いても撮影は終わらないよ。親に知られてもいいの?」と言ったり言われたりといった形で、つくり笑顔をさせられ、コンビニ等で大々的に発売されているという現実があります。
巧妙な業者にリベンジするアプリ開発
業者はほんとうに巧妙で、LINEはじめ最新のIT技術、場合によってはGPSまで使って、若者たちを性的に搾取している様子が相談者の話からうかがえます。被害者の9割は女性ですけれども、男性からの相談もあります。
残念ながら日本の現状は、被害者支援などの福祉行政が、性風俗産業などの業者に敗北しています。
私たちも何とかリベンジするために、相談支援員と相談者がクラウド上でつながるために、今回助成いただいた支援アプリが必要だということで、現在、システム開発をしております。日本全国にいる、いろいろな働き方や時間の使い方をされているソーシャルワーカー、ケースワーカー、臨床心理士などの方々が核となって相談支援をしていくためのシステムです。
また、なぜ日本では性的搾取被害をなかなか訴えられないかというと、絶対に親にだけは知られたくないという被害者の思いがあるからです。また刑事事件にすると他の人に知られてしまうという事情もあります。被害を訴えたくても表現の自由が奪われている現実が、私たちにも見えてきました。そういったなかで、私たちはなんとか被害対策をするために、今回のアプリをつくって対抗していこうとしています。
メディアと「人身取引」
土屋)ライトハウスはメディアに取り上げられることが増えてきたなという印象を持っていますが、いかがですか。
坂本)確かにメディアに取り上げられることが増えてまいりました。この7月15日に児童ポルノ法が改正されて単純所持も罰則対象となった時には、多くのメディアが新聞やテレビ、ラジオ等で取り上げてくださいました。このことが相談の増加にもつながっているのだと思います。
土屋)メディアに対してご苦労されていることはありますか。
坂本)「人身取引」という言葉を出してもなかなかピンと来る方はまだ少ないように思います。日本における人身取引とは何を指すのか、ということを丁寧に説明する必要を感じています。要すれば人身取引とは、搾取・営利の目的で、騙す、脅す、時に直接的な暴力などの手段をもって人を支配下に置く、もしくは移送する、蔵匿することであり、この観点から、JKビジネスや、アダルトビデオへの出演の強要、恋人や配偶者からのDVにより、本人の意思に反して性風俗産業等で働かされることも人身取引にあたります。
まずは「われわれの身近にあるこれらのことが実は人身取引なのです」と理解していただくことから始めています。
制度――法律と社会全体の意識――を変える
土屋)先ほどからの移住者や生活保護の問題もそうですが、「日本て何やっているの」と言われるレベルの問題だと思います。そのなかでも、実際にみなさんの活動が国内外でかなり評価されて、成果が見えやすいなとは思います。
基本的には、貧困問題や、家にいると居心地が悪いという問題が背景にあるようですね。今日来ていらっしゃる方々のなかで、この問題で連携できそうだという方はいらっしゃいませんか。上村から「われわれは闘っているんだ」という話がありましたが、この問題ですと闘う相手は、お話しにあったすごく巧妙な業者ですか。それとも、もうちょっと頑張れば何でしょうか。
金尻)制度がない、ということですね。たとえ制度があっても、被害者を救済する制度が使いづらいケースがあります。アダルトビデオに巻き込まれた方のケースで言えば、残念ながら性的搾取された結果が著作物になってしまうと、著作権という別の力が働きます。肖像権の主張はものすごく弱い立場になってしまいますように、制度上の問題がいろいろあります。
業者は、法律のボーダーを超えるけれども、摘発されない程度に超えるようです。ここまでであれば摘発されない、というところを業者はよく理解したうえで事におよんでいる、というのが実態ですので、被害の現実に対応した制度がないという問題は大きいと思います。制度といいましたのは、法律を変えるということもありますし、社会全体の意識を変えるという重要なこともあります。
◆市民科学者国際会議 岩田渉さん (SJF担当委員:大河内秀人)
大河内)「原発事故による社会課題解決への取り組み」」という枠で助成させていただいております市民科学者国際会議からの発表です。御用学者が圧倒的であり、市民側の科学者が少ないことやその声がメジャーなところに伝わっていかないことで苦労している人々がおられますので、事実をきちんと伝えていくためにも、市民科学者国際会議のみなさんの取り組みが重要だと助成させていただいたわけです。
スティグマの内在化
岩田)市民科学者国際会議は、今回で5回目となり、あと10日ほどで開催となります。私たちはこの会議の第1回目を、2011年10月から開催しました。福島原発事故を機にこうした取り組みを始めました。
それ以前に私、福島県で測定所を開設しております。しかし測定するということは、機械が数字をはじき出してくれるわけですけれども、数値だけを市民のみなさんに渡すというのは非常に暴力的で、それがどういう意味を持つのかを見出していこうということで、海外や国内の科学者で協力してくださる方々との国際会議を開催し始めたのです。
放射線被ばくの問題は、安全だという立場と危険だという立場に二極化――時間がたって「さらに」と言っていいかもしれません――しています。これは「被災地の住民のなかでの分断」と一般的に言われますけど、互いのいがみ合いにつながるひどい状況です。安全だという立場と危険だという立場は非常に非対称な状況です。「復興」というスローガンで、国からお金が県へ落ちてきて県から地域へお金が落ちていく形で、拍車がかかっている状況のなかで、放射線被ばくに対する不安を「風評被害」と言って口を閉ざさざるを得ない状況がある。そして被害者自身がスティグマを内在化させる――自分自身を責めていくような――状況がつくり出されています。
金の力から独立できない科学と芸術
これまで4回の会議で気になっていたのは、関心層と参加者の年齢層が非常に偏ってきたことです。
まず「反原発」と「放射線被ばくの危険性」とが議論のなかで混乱してきたという課題があります。被ばくの問題は問題としてわれわれは取り組んでいく。
また原発推進の人や、実際に子育てをしている20代・30代の世代にも関心を持っていただきたいのですが、実際にはいろいろなハードルを感じています。
そこで今年はこれまでとは異なるチャレンジとして、1日目の会議テーマを「科学と藝術」との関係から俯瞰するためにNoddiNという3.11以後に立ち上がった映像作家のグループと共催して、放射線被ばくよりもっと手前にある科学自身の問題を扱うために、芸術の問題をひっぱり出してきました。なぜかというと、「科学」と「芸術」というのは、例えばルネサンスのころの西洋では「アーティスト」は「自然哲学者」つまり「自然科学者」をさす言葉だったわけです。両者は非常に似通っている点があります。
「芸術」についていえば、近代に入って革命などでパトロンを失っていきますと、どうしてもパトロンというのを一般民衆に求めるようになり、「芸術」が自立的・自発的な活動になっていく半面、大衆迎合的になって質自体が落ちていくという面もありました。現在の「芸術」はマーケットにほぼ吸収されてパトロンから独立できない状態です。
いっぽう「科学」というのも産業革命以降、人類に大きな影響を与えるようになりましたが、これもやはり大きなパトロン、まあ金の力ですね、これによって独立が脆弱な状態です。
そこで映像作家や学者の方々に参加していただいて、このあたりからもう一度、科学について考えてみようじゃないかと。ホーキング氏が先日インタビューで「重要な判断を他者に委ねるのをよしとしないならば、一般人がサイエンスの基礎を理解するのは大切なことです」と言っています。放射線に限らないことですけれども、いま現在われわれをとりまく社会を考えた時に、基礎的な科学のことを知るというのは非常に重要なことだと考えています。
異なる見解をもつ学者を会議に呼びたい
あとの2日間はこれまでやってきたものに近く少し堅い内容ですが、シンプルにしました。
一つは低線量被ばくと公衆衛生の問題です。低線量被ばくに関する科学的知見、とくに低線量に関する科学的知見というのは増えてきており、低線量でも影響があると。とくに原発事故後は100 mSvが何らかの健康影響を隔てるラインのように扱われてきたわけですけれども、これ自体に科学的根拠はないのです。実際に2007年以降、原発労働者や医療被ばくについては100 mSv以下での白血病や発癌への影響については知見がかなり集まってきています。また公衆衛生というところで、実際に科学的知見をどのように社会で生かしていくのかというところまでを2日目は話していこうと考えています。
スピーカーはおもに統計学や疫学をやっている方に、また円卓会議ではさらに別の分野の方にもディスカッサントとしての参加をお願いしています。われわれとは異なる立場や見解をおもちの方々――いわゆる御用学者と呼ばれる方々――もお呼びしたいわけです。何度もアプローチしているのですが、なかなか来てくれません。おもしろいことに、「タイトルに市民というのがはいっていると、とても政治的だ」とおっしゃった先生が、原発労働者の国賠訴訟では国側に立って意見書を出していることです。なんで市民側に立つのが政治的なのに、国側に立つのが政治的だと感じないのかが私にはとても不思議ですけれども、なかなか議論が成り立たない。
異なる見解を持った学者との公での議論が本当に必要だと思っています。
基準値の選択は倫理的な問題
癌になった原因が放射線か否かを個人ごとに明確にするような科学力を人類は持っていません。疫学で――統計的にこの集団から癌がどれくらい増えたか――しかわからない。そうしたなかで得られる知見から、われわれの社会は何を選びとっていくのかを考えるために、3日目には「原発事故後の言葉、法、倫理」をテーマとします。
社会が基準値を選択することは、非常に倫理的な問題でもあります。20mSv/年はひとつの基準として用いられてきましたが、原発事故直後の4月くらいから学校の校庭使用基準に用いられて、その後いま現在でも避難と帰還の基準の目安に用いられています。実際にそこに住んでみて20mSvで被害がどれくらい出るかは、これまでの知見でも予測できるわけですから、20mSvという基準値を選択することは、例えばそこに住む10万人のなかから何人死んでもいいということを社会は選択し決断したということになります。そうした倫理的な問題として基準値の問題は扱われてきていません。基準値のことを話すのは、被災者の問題もありますし、非常に困難ではありますが、これまでの知見から予測可能な情報に直面していかないと意思決定につながっていきません。
意思決定のステップを具体的にイメージ
最後には意思決定の話になっていくわけですが、前回のSJFフォーラムで審議会制度の問題も話しました。これまで原発事故や放射線被ばくのリスクコミュニケーションに関する専門家の審議会というのは、環境省や福島県などで多くつくられてきましたが、けっこう同じ顔触れで話し合われてきました。中間報告はできあがっても、それ以上続かない審議会も多い。審議会で何らかの意思決定がされていますが、これ自体が非常に民主的なステップをスキップするための制度となっています。審議会制度は、放射線被ばくだけの問題ではなく、現在の社会のなかで多く使われるもので、私的諮問機関などに自分に都合のいい専門家を集めて何らかの社会決定に結びつけられてしまっています。
原発周辺20Kmが強制避難の対象だったのが帰還対象の地域になると、その地域からの避難者は自主避難者となってしまいます。そうした状況を考察していくために、自主避難者の救済を中心に考えておられる法学者の方、また審議会制度について別の法学者の方からプレゼンをいただいて、最後に円卓会議で発表いただいた方々と参加者の方々と議論いただく形をとっています。こうして、意思決定のステップをどのように踏んでいくべきかという、何か自分たちで具体的にそのステップをイメージしていきたい。何か提案できる形にしたい、われわれが提案するというだけでなく、参加された方々が自分たちの活動のなかで活かせる提案に結びついていくものにしたいと考えています。
大河内)SJFアドボカシーカフェでもとりあげていただきましたが、科学以前のリテラシーや論理がそもそも破綻しているなかで、科学的にみえる情報や数字がでてきて、まったく釈然としない結論でもって社会の帰結や子どもたちについての政策が決まってしまう現状があります。どこがおかしいのかというところを、科学以前の段階でアドボカシーカフェでは考えさせていただきました。
=第2部=
◆基調講演:『性的マイノリティの課題を地方でどう前進させているか?』
エディさん(レインボープライド愛媛・代表)
樋口蓉子・SJF運営副委員長)レインボープライド愛媛さんは、SJFの第1回助成先です。当時はまだLGBTという言葉がそんなには言われていない時代。それが3年くらいで様々なメディアで取り上げられるようになりました。
エディ)地方の愛媛で性的マイノリティの活動していくのはなかなか難しいところではあるのですが、私自身のふるさとでもありますし、自分が育ち、また仕事もしている地方のなかで「当事者がいる」ということを声に上げていこうと、私自身もゲイとしてある程度オープンに活動しています。
3年前にソーシャル・ジャスティス基金の助成第1回に選んでいただき、ずいぶん活動の応援となってきました。今日も呼んでいただいて、あとあとまで面倒見ていただいているなと感謝しています。
性的マイノリティの親御さんも集うスペースづくり
「虹力スペース」というLGBTセンターを助成の後で開設できました。松山市という50万人規模のまちでこういったLGBTセンターは珍しいです。ほとんどが東京・大阪・名古屋・札幌など100万人以上の規模の都市にあります。「虹力スペース」は開設してから2年になりますが、なんとか仲間とやっていて、当事者たちが土日や仕事帰りなどに集まってきます。いろいろなイベントをやっており、中庭があって、ご飯も食べられます。
「家族の会」という親御さんたちの会も、このスペースでやっています。親御さんたちが、どんどんリードしてやってくれるといいんですけれども、地方ではなかなか難しいので、自分たちからスペースをつくって親御さんたちに進めてもらっています。「家族の会」では、話している間は親御さんたちだけにしてあげながら、ご飯の時は子どもと一緒にしてあげています。
『わが子からのカミングアウト』という冊子を、その家族のみなさんと協力して最近つくりました。同性愛・性別違和に関する子どもたちをもっている親御さんたちの手記をまとめるなど、親御さんからの立場で見て、子どもたちをどう理解していったらよいのか整理を進めてもらうための冊子です。親御さんたちだったら思いそうな、「どうしてそうなったんだろうか」「自分たちに何か原因があるのではないか」「わざわざどうしてそんなこと言うんだろうか」「つらいんじゃないか」「治らないんだろうか」など、親御さんの苦労や意見なども入れながらできあがった冊子です。
地域の情報誌『ホヤケン!』は、ソーシャル・ジャスティス基金から助成をいただいたおかげで、今も発行を続けられています。この最新号では、親御さんの冊子と連携して、子どもの側がカミングアウトをどう思っているかということと、カミングアウトする前の心構え、カミングアウトの準備がどれくらいできているかの自己評価といったことも特集しています。
国連広報センター所長を招いたイベントづくり
松山市の男女共同参画のイベントの一環として「コムズフェスティバル」がありますが、ここの分科会を7年くらい連続で自分たちがおさえてきまして、2013年にはリネハンさんというアメリカ総領事に来ていただいて開催しています。今年の1月には国連広報センター所長の根元かおるさんをお呼びしました。この時から、当事者を出すのではなくて、関わりそうな人たちを呼んで、結果的にLGBTに発信しようという方向に変えてみました。国連の人権啓発として性的マイノリティの啓発もやっているわけですので、その広報センターの責任者の方に来ていただいて、国連としてどれだけのことができているか、みなさんに聞いていただくという迫力のあるイベントになりました。自分たちのイベントとしては最多の195名の参加がありました。さらに自分たちだけではなく、愛媛県女性保護対策協議会という堅い名前の、女性のDVに取り組む活動をして50年くらい経つ団体と一緒にやりました。また他のNPOのみなさんと合同で分科会をやるなどいろいろやっています。
社会提言――学校の先生・PTA・地域公民館・選挙立候補者・LGBT映画祭――
性的マイノリティのことを社会提言していくために、講演活動などを行うことも少しずつ増えてきています。学校の先生方やPTAのみなさんにも伝えています。PTAのみなさんには一刻も早く伝えていかなければいけなと思っています。いざ我が子の問題として向きあうとき、何の情報もないままに向きあうのか、情報を持った上で子どもの話を聴くのかでは大きな違いがあると思っています。また地域の公民館のみなさんへの講演会も始まっています。
選挙毎に公開質問を立候補者に出しています。愛媛県知事の現職の方からも、市長の現職の方からも回答が届いている状況です。自民党が去年の総選挙があった時には、質問に対してとんでもない回答が返ってきました。前回質問した総選挙は自民党が野党の時でしたが、今回は政権まっただ中の選挙のなかで、なんと答えてきたかといいますと、「性的少数者について人権問題として取り組まなくてよい」という回答だったんですね。政権政党ですからね、まさかという回答でした。我が国の人権課題になっていることを政権政党が認めないという不可思議さ。
毎日新聞と朝日新聞の全国版2面である程度の大きさで出ました。ちょうどそのころの事件では、麻生さんが女性問題について一言ペロンといったことがテレビでわっと取り上げられて3時間で消されていった。このようなことが、そのとんでもない回答についても起きていいくらいだと思いますが、テレビまでが騒ぎ出すことにはなりませんでした。でも海外配信されていって、いったいどんな政権なんだということになってしまったわけですが、国内では問題視されませんでした。
LGBT映画祭も地元でやっています。1週間、地元の映画館を借り切ってやっており、去年は480人くらい来ていただいて、4回目で初めて大赤字にならずにできました。一番の要因は、BL系の作品『ボーイズラブ』という作品を上映したことで、全国からファンの方が集まってくれました。地元の中学生・高校生のたまり場であるアニメイトさんと連携した企画で、その場所に自分たちのブースを出してレインボープライド愛媛の発信もできました。松山市長や商店街の会長さんからも、この映画祭は評価いただきました。
学生サークル・商店街・愛媛県の人権フェスティバルなどで、私たちのブースを出しています。ちなみに、ゆるキャラ1位をめざす「みきゃん」とも一緒にやったこともあります。
NHKシブ5時でこんど9月30日に放映されることになりました。8時間取材を受けて出演は3分くらいのようです。
自治体との連携
松山市人権教育推進協議会に僕も入っていろいろ活動しています。毎年、松山市の人権研究大会をやっており、マイノリティを考える研究会では、地元の3.11避難者・外国人・ホームレスの問題などを考える企画を実現したことがあります。最近では『インターネットを通して見る人権』と題していろいろな誹謗中傷の背景を探っていく研究会を開催しました。今年も責任者として挑戦しようと、ヘイトスピーチをテーマにした研究会をみんなで考えています。
四国中央市役所では性的マイノリティについての全職員研修を、西条市では市民300名向けの講座を実現しました。また松山市では中小企業向けの人権研修を行うなど、いろいろな切り口で取り組んでいます。
文科省の人権教育研究指定校で性的マイノリティを研究テーマに
一番すごい動きが今ありまして、西条市立の丹原東中学校――西条市は松山市の山を越えたところ――が、文科省の人権教育研究指定校になっており、性的マイノリティをテーマにした研究に取り組んでくれています。学校をあげて性的マイノリティ―について学習していくということを実践してくれています。僕も何度も関わって、「希望」そのものがこの学校にはあるなと思っています。これは全国の仲間たちが注目していることです。
この中学生の生徒さんたちは、虹力スペースに研修としてマイクロバスで来てくれて、生徒さんでスペースがあふれかえるほどでした。地元の性的マイノリティ当事者たち6人くらいが有志で対応して、いろいろな立場のLGBTの方との話が盛り上がりました。これをもとに、中学校の文化祭で性的マイノリティをテーマにした人権劇が上演されました。また今年も第2弾の劇が上映できるそうで、このあいだシナリオを見せてもらったら感動的な内容ができていました。劇は、性同一性障害くらいまでの切り口でいくのかなと思ったら、具体的に同性愛まで踏み込んでくれていました。
中学1年生の授業で「同性愛と人権」をやっていました。どうやってやるのかなと思ったら、その文化祭の人権劇では同性愛のお兄さんが同性愛であることを告白する手紙が登場するのですが、その手紙を授業で読んだうえで、自分たちがその弟や妹だとしたらどう考え対応していくかという設定で、生徒さんたちがグループごとに考えて発表していました。
最初のうちは他人ごとみたいな言葉「いろんな人がいていいんじゃないの」とかが出てくるのですが、ホワイトボードを書き直しながら考えていく過程で、だんだん思いやりのある言葉に変わっていくのです。「手紙のなかにあるお兄さんの彼氏をまた連れてきてほしい」、「彼氏に僕も会いたいな」、「お母さんは大丈夫そうだったよ」というお兄さんが一番心配していそうなことを伝えてくれていました。
子どもたちはこの課題を学ぶことに対して、特別な人権を学ぶという意識はないようですね。性の多様性を学ぶことで、自分とは何か考える授業になっているようです。自分の性を考え、それぞれの個性を考えるなかで、人はそれぞれ違う、それぞれを尊重しなければいけないということに気づいていく授業になっているようです。
この授業で学校の雰囲気が変わっていったそうです。それまでは「死ね」とか殺伐とした言葉が飛び交っていたそうなのですが、変わっていったそうです。
中学校内に掲示されている保健だよりにも「性的マイノリティの学習が進んでいます」という記事が載っていたこともあります。この間のLGBT映画祭のポスターも掲示してくれました。
市を挙げての動きへ
文科省から今年の4月に性的マイノリティに配慮するようにという通知が出ました。それまでは性同一性障害までくらいだったのですが、同性愛までふくめて学校の現場で扱ってもいいと文科省が初めて言ったことになります。これにより、できることが広がると思います。丹原東中学校という実践している学校がありますので、今年11月に研究発表が学校でありますから、そこで成果が発信されていくだろうとおもいます。
この動きが丹原東中学にとどまらず、この中学のある西条市を挙げてこの動きを進めていくことになりました。今年の夏には西条市内の教員研修で取り上げることになりまして、市内には800名強の教員がいますが、そのうちの500人を超える先生方が集まる機会で研修を行いました。西条市の教育委員会からは僕ら性的マイノリティの話をこの夏に1回は聴くようにと号令がでているらしいですね。さらに、丹原東中学の先生と同学校区の小学校の先生たちとが連携して話し合う場まで生まれていて、学校区の中での取り組みが進めるように先生方の意識を高める動きがみられます。グループワークをやったり、各学校で先生方がどういう取り組みをやってきたかと報告しあったりと、夢のような世界が始まっています。
抗うつ剤と虹力スペース
レインボ―愛媛・白石)この活動をしていて1点お伝えしたいことがあります。虹力スペースをつくった時に、「自分のことを話せることがうれしい」と言われたことです。それまでは心療内科でしか話せなかったそうです。心療内科で先生に「薬はいらないですよね?」と尋ねられて「いりません」と言ったそうです。これを聞いて、もし他の先生にかかっていたら薬を出された恐れがあるのかなと思いました。話せる場である虹力スペースをつくったことによって、不必要に抗うつ剤などが投与されることを防ぐこともできているのかなと思いました。
もともと私は広報をさせていただいているのですが、長年続けていると協賛していただける方が増えました。初めは本当に大変でしたが、最近は、広告効果がなくても活動に賛同する方が支援くださって、本当にありがたいことだと思っています。これは、市民のみなさんに自分たちの活動を押しつけるのではなく、ちゃんと伝えているからではないかなと思っています。
樋口蓉子)いまのお話しのなかで、親・地域・学校現場・教育委員会・文科省などに様々方々に働きかけながら、この活動を通してこれまで社会を縛っていたことを変えてきたのだなと、まさにアドボカシー活動を広げていらっしゃったのだなと感じました。
◆パネル対話: 白石草さん(OurPlanet-TV・代表)×エディさん
(モデレータ・上村英明/SJF運営委員長)
上村)SJFは対話との両輪で助成を3回実施してきて、もうひとつSJFというファンドの意義って何なのかなと思います。市民活動には、いろんな分野をやっている市民団体の方たちが交流し話し合う場っていうのが、だんだんなくなってきた。20年前に市民活動が芽生えてきた時には、もっとあったのかなと思います。いまはタコツボ化、よくいえば専門化。そういう意味で、SJFが活動の悩みを交換する場となるという意義も大事だと思っています。原因には共通した課題があって、そこからみなさんが抱えている課題が出てきたととらえることもできる。そして大事なことは、解決にも共通した点があるのではないかということです。みなさんからいろいろ提言されましたが、おたがいが相補的にできるとよいと思う。いろいろ情報交換をできればと思います。それで単なる報告会ではなくて、ダイアログという形で企画させていただきました。
白石草さんから、今われわれが考えなければいけないこと、共有したほうがよいこと、お話しいただけますか。
白石草)『チェルノブイリ28年目の子どもたち』というDVDはソーシャル・ジャスティス基金をうけて、2013年に私がウクライナを取材して作成したものです。さきほど市民科学者国際会議の岩田さんが発表されたように、福島原発事故以降、日本のなかで低線量被ばくの問題はなかなか可視化されず、大きなメディアからはほとんど取り上げにくい状況になっています。そこで映像で記録してこの1枚目のDVDをつくり様々な形で発信してきました。上映会に参加してくださった学芸大学の先生が、この映像報告が、地域社会あるいは学校の中で子どもたちがどのように過ごしているのかという視点から記録している点を評価され、ぜひ続編をということで学芸大学の研究プロジェクトとして、翌年に2回目の取材ができました。この取材は保健室・検診・保養キャンプなどの実態を中心にして、2枚目のDVDをつくりました。「子どもの健康」というと医療の面ばかりに焦点が集まりがちですが、「学校」を取り上げたことが、教育学の研究者にとっては目からウロコだったようです。この2回にわたる取材をまとめて岩波ブックレットから出版させていただきました。
低線量被ばくの問題というのは、メディア的に見ると、非常に厳しいジャンルだと思っています。なぜなら、被害者が明確にわからないからです。例えば、ここ新宿も含めて、放射能による汚染はあるけれども、将来どのような見通しがあるかというのは誰も予言できません。WHOは、被ばくによるガンの過剰発生について、ある程度予測を出していますが、様々な機関によって評価が分かれているため、メディア的には手を出せない状況です。だからこそ私たちは、負け戦であっても、闘い続けているわけです。
ですが、この問題はやればやるほど、「福島の人を傷つけるのか」と言われ、加害者にされてしまう。「みんな心配するだろ、安心させてあげなさい」などと言われ、非常に難しい。みなさんが発表されたように、いろいろなバッシングがあるなかでキャンペーンをする場合、当事者がはっきりいるかどうか、ここを克服することでだいぶ状況は変わるのではないかと思いました。
当事者であることの強さ
エディさんが取り組まれている話を先ほど聴いて、なんで強いのかなと思った時、結局は「当事者」だからなのかなと思いました。今日発表のあったどの問題も、被害者に対するスティグマがあり、社会的偏見がありますから、当事者は声をあげられない。だから支援するのだけれども、やはり支援者が発信しているだけでは弱いのです。私自分がメディアの人間だから、そう思うのかもしれませんが。
当事者が声を上げて、始めて課題が可視化される。それは、HIV問題で川田隆平君がひとり声を上げたことによって、社会の流れを変え、最終的に解決に結びついたことに表れています。当事者が声を上げていくことが最終段階としては重要です。もちろんそこまで煮詰めるのはとても大変ですが。
LGBTの問題は、長い活動のなかで当事者が少しずつ培ってきたものが、徐々に機が熟していって、今まさにブレイクスルーに至っているという感じを持ちます。まさにみなさんが歴史のなかで取り組んできたものが、今の段階になって、「虹力スペース」という自分たちの場所をつくることにつながった。その上で、行政・議員・政党にロビーする・啓発キャンペーンを打つ・マスコミ対策・家族巻き込む・他団体と連携する・教育関係者や子どもたちに訴求するといったことを、万べんなく展開しています。これはすごいこと。NPOのアドボカシーの教科書のようなものです。
でもそれをやるには、パワーが必要で、当事者性が必要です。今どの段階かなと見極める。生活保護の問題だと、今はバッシングあって、声を上げるにはリスクが高すぎる。支援者としては、声を上げられる環境を整えていって、いつか機が熟した時に当事者が声を上げられるような社会情勢をつくっていくのが重要かなと思います。いつか当事者が運動をつくりあげられていくように環境を整えていく。政府与党があの状態なので、日本の人権意識を高めていくことは大変ですが、それが重要だとあらためて思いました。
声を上げられる環境をメディアと一緒につくる
やはりマスコミがダメです。メディアの人がバッシングする側に回ったりするなど、理解が薄い。だからメディアの人を教育することが大切です。活動を支える片腕として、ジャーナリストの仮面をかぶった活動家が必要です。そういう人を探す。たとえば移住連の方は先ほど、今、ヘイトスピーチ問題についてはメディアの関心も高く、院内集会には沢山のメディアが来たとおっしゃっていました。参加したメディア関係者は、一人ひとり離さないで、個別に呼んで話すようなことを重ねて、記者の性格を把握する。そして、その中から、自分たちのメディア戦略に役立つジャーナリストを確保し、味方につけていくことが重要だと思います。
これ、官僚のみなさんはやっています。消費税導入の時に、財務省の官僚が新聞社・放送局の一社一社の幹部をまわって、パワポなどを使って消費税に対する理解を促進する説明をしたわけです。彼らはメディアを取り込んで、巧妙な方法で、いろいろなキャンペーンしていくわけです。生活保護についてもやっている可能性はあります。
それに対抗するには、負けずにカウンターを打ち出していく必要があると思います。ジャーナリストはダメそうに見えますが、材料を全部そろえてあげるとうまく働いてくれる人たちです。ですから、とにかくデータを出してあげる。直接、当事者に会わせる。あるいは、当事者の方にリスクのない形で情報提供する。といったふうに、書きやすい環境を整えることが重要だと思います。とにかく、何かあった時に自分のところに駆けつけてくれるようなジャーナリストとタグを組んで、一緒に運動をつくっていくとよいと思います。そうすれば、重要なタイミングで、すぐに声を上げられるし、アクションが効果的に報道されます。
生活保護の話しを例にとると、悪い政策が提示された時にカウンター行動をすることはとても重要ですが、それとは別に、社会的な関心が高まっているタイミングを捉えてアピールすることも重要だと思います。例えばこのあいだ、千葉県で、家賃が払えず、母親が中学校2年生の娘を殺害し、自分も死のうとしたというとても悲しい事件がありました。このニュースを見て、日本で暮らす多くの人が、この悲惨な事件に心を痛めたと思います。なんとかできなかったのか。そう思った人も多いでしょう。こうした事件が起きた時こそ、生活保護の捕捉率を上げる重要性を社会に訴えるタイミングだと思うのです。鉄は熱いうちに打てといわれるように、新聞社とかテレビ局とかは飽きっぽいので、すぐその日のうちに会見するとか声明を発表するとか、あるいは、コメントとか載せてもらえるようにするとよいと思います。
移住連さんだったら、たとえば川崎で少年による事件が起きたようなときに、なぜこのような事件が起きたのか。多様な背景を持つ子どもたちをめぐって、今、どのような課題があるか。その背景などをレクチャーする勉強会を、メディアに対して即座に企画するといいのかなと思います。
ライトハウスさんの取り組み、本当に素晴らしいと思っています。若い人の性的搾取についていえば、マスメディアの中はオジサン文化が浸透していて、「女子高生」といえば「JK」みたいな感じで、マスメディア業界自体の捉え方に問題があります。BPOとか新聞協会とか業界団体に働きかけて、ぜひマスコミ向けの研修を実施してはどうかと思います。JKビジネスが平気で蔓延しているなかで、マスメディア自体に人権意識がない。共同通信社では、人事部長が入社と引き換えに女性学生をレイプするといった事件さえ起きています。特にテレビは、女性やジェンダーに対する人権意識は非常に低いので、問題のある番組を見つけたら即座に放送局やBPOに申し立てるといったことをきちんとやっていった方が良いと思います。このようにして、問題の重要性を指摘して、勉強会など開いてもらい、意識を高めてもらう。小さな一歩かもしれないけれども、そういうふうにやったらいいかなと思いました。
市民科学者国際会議の岩田さんと私は同じような課題に取り組んでいるのですが、この問題はほんとうに大変です。でもこの問題も、当事者が最後は声を上げなければいけないなと思っています。甲状腺癌になっている子どもたちが福島県で137人。北茨城市で3人という状態ですが、やっぱり子どもやその親は、今の状態では怖くて声を上げられない。そういう人たちがきちっと声を上げられる環境を私たちはつくっていかなければいけない。この問題の場合、マスコミでは科学部というところが全体を牛耳っています。この科学部というところは、多くの場合、御用学者というか、権威のある研究者や医者と仲がよいという性質をもっているので、そうではない部署の記者たちと連携することで、大きなメディアでも記事化できるように協力しています。
みなさんの素晴らしい活動をうかがいながら、当事者が何か声をあげられる環境を少しずつつくれるのが重要だなと思いました。
上村)機が熟すという話がありましたが、僕は熊本出身ですが、地方だと機が熟すのを待っているとみなポシャッてしまう。ある種の村社会に厳しさみたいのがあります。大都市でやっている運動と比べると、ものすごい難しさ、機が熟すまでのご苦労などについてエディさんコメントいただけますか?
当事者の周辺からの発信もパワーに
エディ)先程の丹原東中学がある西条市は人口11万人位のまちです。そこがあれだけのことをできるのに、どうして松山市はできないのか?と教育関係者に聞くと、「あのまちは小さいからだ」というのです。「松山にはいろんな市民がいるのに、なぜこれをやるんだ」と問われた時に、ちょっとシュンとなってしまう。西条市では「いやいやこれはやるんだ」と言えばやってしまえる、こじんまりさがあるとは聞きました。それも一理あるかもしれないなとは思いながらも、一自治体でここまでできるんだという実践例を示してくれていると思います。
この中学の研究発表の時には県の教育委員会さんが総括するんですが、どう総括するか悩んでいると言われて、「西条市のこの動きをどうやって愛媛全体のことにするか、をその先生が問いかけてくれることですよ」と言いましたが、そういうきっかけをつくってくれたらと思っています。
マスコミの利用法の話しをききながら、丹原東中学校のことを去年から誰かドキュメンタリーを撮っておいていただければよかったなと、振り返って思いました。NHKさんなどに声をかけたのですが、撮りに来るところまではいかない。編集は後からでもいいから、今からでも間に合わないかなと思います。そのドキュメンタリーを各地で上映したりLGBT映画祭で上映したりできればいいなと、そんな都合のよいことなんかも想像しながら聞いていました。いろんな機微、子どもたちや先生たちがどういうふうに変わっていったのか。僕は現場を見させてもらいながら、当事者としたら「奇跡」みたいなことと常時ふれあわせてもらえて、僕ら当事者でもめったに見ない瞬間を何度も見てこられたというのは幸せだったなと思うので、それが分かちあえたらなと思います。
当事者性は確かにパワーになっていくし、当事者が声を上げていくというのは大事だと思いますが、周辺の人たちから発信してもらうという動きを仕掛けていかないと、当事者だけでは活動が小っちゃくなっていく。市民向けのイベントをやっても、あれは当事者のイベントでしょと勝手に思われてしまう。最近はいろいろなところを絡めるようにしていくだけでなく、自分たちも違う分野の人たちを応援していく活動もしていかないと返してくれないなということも分かっていきました。
◆対話交流 (モデレータ・上村英明/SJF運営委員長)
上村)エディさんから、小さい組織のほうが動きやすいという話をうけて、私は朝日のジャーナリストをずっと追いかけていた時期がありますが、その後いいジャーナリストがずるずると「この組織ではやっていけない」と朝日を辞めていってしまったことを思い出しました。いい感覚を持っていればいるほど大きい組織がいやになって辞めてしまって、大きい組織を動かす難しい面があるなと思いました。
市民科学者国際会議の岩田さんが先におっしゃった「市民という言葉を使うと政治的だととらえられる」という話がありましたが、メディアって「両論併記しないと中立でない」とよくいいますね。政府の反対ばかり言っている団体はすごく政治的な団体でメディアには載せられないという風潮がはびこっている。記者の段階はいいけれど編集長の段階でカットされてしまう。このあたり、みなさんのご経験からどう?移住連の樋口さんどう?
保守的な風土で障壁を乗り越える工夫
移住連・樋口)エディさんのお話しをうかがって、愛媛で活動をされていることがすごいと思いました。私は徳島に住んでいるのですが、愛媛県は徳島に対して人口比でいうと、自民党の党員数が5倍なのです。そんな保守的な風土のなかで、どうやって活動を進めていけばよいのかという点は、みなさんの活動に通底することだと思いますので、障壁にたいしてどんな工夫で乗り越えていったのかお聞きしたいです。
エディ)基本的にそういう土地柄です。保守でないと票が集まらないところです。何がよかったのかな?というのは、なかなかこういう問題を扱わない人たちが大半ではあったのですが、熱意に共感してくれる人も100人に1人くらいはいたのかな。そういう人たちが、また次の機会をつくってくれたのかなと思う。性教育をがんばっていた先生方が「自分のいる学校で研修をしてみたらいいよ」と場を設けてくれるなど、そういった実践例を積み上げていったのかなと思います。
上村)生活保護問題対策全国会議の小久保さんは何か?
小久保)当事者が発言できる場をどうやって確保できるか、が大事だということを私たちも考えながらやっています。裁判は一つのきっかけになるのではないかという思いもあってやっていますが、生活保護の方の場合には、当事者で一定の発言をしていた方も、就職するとそちらが大変になってできなくなるとか、もともと病気やハンディがあって発言しにくいとか、そういったところをどう突破するかですね。
ジャーナリストとの関係については、おっしゃるように仲のいい人がけっこうやめてしまう、部署が換ると書けなくなるとかあって、どうやって継続的な人を発掘するか悩んでいて、みなさんのお話をききたいです。
市民科学者国際会議・岩田)生活保護問題のことで――もしかして視点が的外れかもしれませんが――スティグマという話についていうと、それは生活保護を受けている人の「内なるスティグマ」があるという話じゃないですか。でもそれを外していくと同時に、外から与えられるスティグマ−社会の固定観念も外していくことが重要だと思います。ベーシックインカムというのは、直接には生活保護ではないですけれども、人権と過去の人類の遺産をもとに無条件にユニバーサルに給付するというアイディアがあります。生活保護と比較する点で、フリーライダー論は不正受給の話しによく似ている。生活保護というと特殊な問題にコミットしているように見えますけれども、ベーシックインカムの議論ですと、生活保護の問題をもう少し自分に引きつけて、多くの人が自分の問題として話しやすくなるのではないかなと話をきいていて思いました。
ライトハウス・坂本さん)「当事者の発言」といいますと、われわれの活動というのは女性が中心でやっていますので、時々きこえてくるのは、「またフェミニスト団体が騒いでいる」とか「ちょっと大げさな言い方をしているんじゃないか」といった声です。
私がこの団体に来た理由の一つには、(加害者となりやすい)男性がこの問題を発言していくことが大切なのではないか、という思いもありました。
団体がファンドレイジングをしていくにあたって、当事者の声を伝えていきたいという想いもある一方で、この問題は非常にセンシティブな被害者のプライバシーの問題もあり、ご支援者に対して「いただいた支援でこれだけのことができました」ということを――統計で数字を出すことはできますけれども――実際に本人の写真や声で示していくのはなかなか難しいと感じています。以前、私は大型の国際NGOでも勤務していましたが、開発系の団体は支援を得やすいですよね。いただいたご寄付でこのような学校ができました・子どもたちがこんなに元気になりました、などは写真でも見せやすいので、ご支援者も支援を続けていこうということになるのでしょうけれど、私たちの団体のように、活動の効果を見せにくいところは継続的な寄付をいただくことが難しいですね。
ジャーナリストに関する件につきましては、ライトハウスは非常に恵まれており、どのメディアのご担当者も非常にいい方々ばかりでして、ライトハウスの活動に対し、非常に好意的な記事を書いてくださっていると感じています。余談ですが、昨年ライトハウスが実施した、子どもに関わる機会の多い方向けのセミナー(先生のための子ども支援セミナー)に、あるメディアの方が3名、遠くは宮崎などからも自腹で参加してくださっています。
ライトハウス・金尻)とはいいつつも、脅迫まがいの電話がかかってきたり、ライトハウス代表である藤原の殺害予告的な電話がかかってきたりします。こういったヘイトスピーチまがいのことが来た時に、どう対応していければいいのかなと悩んでいます。私なんかは論戦モードになってしまうのですが、あまり良くないのは分かっています。みなさんどのように対応しているのでしょうか。
寺中)ヘイトスピーチや、インターネット上のヘイト、付きまといとか、実際のシンポジウムなんかに来ていろんなこと言う人とどう付き合うか。正直言ってマニュアルはないと思います。でもまず大事なことは、自分たちが激昂しないこと。まともにやりあうことはまずい。
もう一つは、でも反論はしないのはまずい。だから必ず反論はして、それ以上は突っ込んでいかないことに気をつけています。そのためには、最初の反論は丁寧にやったほうがいいと思います。2度3度になってきたら切ってもいいことだと思いますし、できれば向こうから切ってほしいぐらいの話なので余り取り上げる必要はないのです。最初の段階では、教科書的でもいいので徹底的に全部の情報を出して、みんなが確認できる場所、Webか何かに置いておくというパターンがいいと思います。というのは、<相手>はその人ではなくて、ほかの聴衆だからです。だから、ほかの聴衆に対して説明ができればいいのであって、その人に対して話をしてもその人は最後まで納得しないという人が多いですから、その人に語りかけているのではないと考えるのがいいと思います。
被害から守る、被害を伝えられない苦しみ、やがて被害を社会で共有までの過程
寺中)みなさんのお話しを聴いて、「当事者」――人権の観点からいえば人権侵害の被害者ということになりますが――について一つ。マスメディア的には外に出したいという意思があるとは思いますが、われわれ運動をやっているものとしては、まずもって被害者を守らなければならないというのがあります。なぜかというと、当のみんなが被害者であることを認めません。自ら被害者であることを否定します。否定するあまり加害者側に立ってしまうこともある。それは被害者の置かれている状況がそれだけまずいということもありますが、そういう心理的な圧迫、カミングアウトできない心理的圧迫を、常に被害者の人たちは抱えているという前提で対応しなければいけない。
そうすると、運動団体はまず、シェルターをつくらなければいけない。あるいは自分たちができる限りシェルターにならなければいけない。少なくともその人たちを傷つけたり、ほっぽり出したりする存在になってはいけない。生活保護もそうです。生活保護の受給者たちは自分を責め続けるわけで、そういう状態のなかにいる人たちに対して「そうではないですよ」という形――これを「サンクチュアリ」といいますけれども――サンクチュアリを提供する。それが運動の一つの中心だと思います。そのうえで、そこからある程度のりこえた、あるいは脱皮した人から、外に対して何か言える人が出てくれば有り難いですけれども、最初の段階は守ることです。
守っていく時に一番気をつけなければいけないのは、ほとんどの被害者は貧困の状況にあることです。このあたりのダイナミクスをとらえたうえで運動をやっていかないとしょうがない。先ほど上村さんが「闘わなければいけない」とおっしゃいましたが、われわれ誰のために闘うのかといったら、被害者のためだと私は思います。そこを確保した上で、じゃあそれをどう外に対して出すのかという点が、運動が持っている一番の困難性かなと思っています。その意味では、今日発表された団体の方々それぞれ素晴らしく、そういった困難性をふまえた上で戦略もつくっていらっしゃって、すごいと思います。
こういった活動を助長するためには、まず「差別はいけないんだ」という大前提を打ち立てることだと思います。これが制度的に確保されないと、いま言ったことが全てできません。「差別はダメなんだ」という意識に基づく社会制度をつくった上で、これらの活動はその意味において全てつながっているよ、と見せるのが必要なのかなと思います。
小久保)バッシングの話をうかがっていて一つ。われわれ集会をしていて、あまりむちゃくちゃなことを言われたことはないです。なぜかというと、われわれ弁護士がたくさんいる団体だからかなと思います。また事務所に電話がかかってくる場合も、電話をかけてくる人はむしろ骨があるタイプで、分かりあえないとしても話しはできます。なので余りにひどいものがあったら、法的に毅然と対応していくというのも大切だと思います。昔は、サラ金・闇金の問題について積極的に刑事告発しマスコミに対して訴える活動もされていましたけれど、悪質業者が意図的にやっているようなところは、弁護士などと協力してやっていくのも一つの克服の仕方だと思います。
レインボープライド愛媛・エディ)OurPlanet-TVの白石草さんのお話をうかがっていて、松山市にこられている避難者がいて、双子がおられのですが、被ばく検査をすると、片方の子どもだけ被ばくの影響が見られたそうです。母親としては、その苦しみを、まだ8歳子どもには言えない。お嫁さんの立場としても、福島のおばあちゃんから孫の双子を引き離していることになり、自分の実家の両親には会わしているのにと責められて、ものすごく苦しい。この苦しみを伝えきれていない。さきほどの「守る」という話を聞いて、こうした問題をどうしていったらよいのかというのが1つの解決への糸口になると思いました。
白石草)先程、岩田さんが「内なるスティグマ」という話をされました。被害をどういうふうに社会で共有するかは、本当にアプローチが難しいと思っています。一番よくないのは、タブー視することだと思っています。この問題は触るとマズイぞという雰囲気が蔓延するのが一番良くない。表の社会で議論されずに、タブー化すると、陰湿化してネット上で誹謗中傷が行われたり、根拠のないめちゃくちゃな言説が増殖する原因になったりします。そういう意味では、被害実態などについて、積極的に語り合える環境をつくっていけるかが問われていると思います。――もちろん最終的には当事者が声をあげることですが、そこまでには長い過程があると思います。
「私は被害者だけど、恥ずかしいことではない」と感じられて初めて、言える段階にいけるのであって、ものすごくエンパワーメントした人でないと、カミングアウトするのは難しい。
先ほどの、片腕のジャーナリストが辞めちゃうという話は、辞めても辞めても、在職中の記者を紹介してもらうなどして寄生して、ローカルから全国まで各社に手ごまをつくって、いい具合に書いてもらう。また、自分でもなるべく映像や写真の記録を残して、何かのタイミングで発表したり、マスメディアに提供できるようにしておくとよいのではないでしょうか。これほどまでに人権環境が良くない状況では、様々な材料を準備して、イメージを変えていくことが重要です。学生団体のシールズが、デモのマイナスなイメージを払拭したように、イメージ戦略を考えていくことが大切だと思います。
(=敬称略)
=閉会のあいさつ=
(佐々木貴子・SJF運営委員/NPOまちぽっと理事長) 私たちも試行錯誤しながらやっと3年目まできて、ここにお集まりの方々、助成させていただいた方々に出会えたことは喜びです。エディさんの「これが希望です」というお話があったように、本当にそういう一歩をふみだすという、その場に居あわせたことに感動しています。民主主義っていうのは、こんなに豊かな対話を通して、さらに豊かな共有ができるのだなと実感しています。ぜひ、みなさんと一緒に社会を変えていく、その一歩にソーシャル・ジャスティス基金を役立てられるよう、頑張っていこうと思いました。ありがとうございました。
~参加者募集~
◆『民主主義をつくるお金――ソーシャル・ジャスティス基金の挑戦』
(SJFアドボカシーカフェ第40回)
【ゲスト】小熊 英二さん(慶應義塾大学総合政策学部教授)
【コメンテータ】上村 英明(SJF運営委員長)
【コーディネータ】西川 正さん(ハンズオン埼玉理事)
【日時】15年11月4日(水) 18:30~21:00
【会場】文京シビックセンター
★詳細・お申込 http://socialjustice.jp/p/20151104/
*** この2015年9月11日の企画ご案内状はこちら(ご参考)***
◆ご支援はこちらから(寄付金の税優遇制度がご利用できます) {http://socialjustice.jp/p/shien/ }