ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)メールマガジン2026.1.21配信号「委員長のひとりごと」
2026年、国内的にも「平和」に向き合う年に
—軍需産業社会への対抗—
上村英明(SJF運営委員長)
2026年、21世紀も早4半世紀を過ぎ、26回目の新しい年になりました。みなさまも、どのように、年末年始を迎えられたでしょうか。昨年は、「昭和」100年、「戦後」80年、「日韓国交正常化」60年とさまざまに歴史の価値を考える年でもありました。他方、ウクライナ戦争やイスラエルによるガザ侵攻の継続に加え、米国によるイラン攻撃、タイ・カンボジアの国境紛争など、国際社会における「平和」も混迷を極めました。
本26年は、日本国内における「平和」の課題について、年末の動きを含め、触れておきたいと思います。
高市早苗首相は、25年10月24日の所信表明で、「わが国として主体的に防衛力の抜本的強化を進めることが必要です」と述べました。岸田政権下の22年12月「安全保障関連3文書」で、防衛産業は「防衛力そのもの」と位置付けられ、防衛費や防衛装備輸出政策の拡大が方向づけられたことの確認です。
また、高市政権で就任した小泉進次郎防衛相は、インタビューで、「高市政権で明確なのは、防衛産業を1つの戦略的な投資分野にして、防衛省と経産省が一緒になって防衛産業を大きくしていくことです」(東洋経済オンライン、2025年12月1日)と具体的に言及し、現在防衛産業の拡大への「歯止め」となっている「防衛装備移転三原則」、その中で防衛装備の海外移転を「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の「5類型」の国際協力に限定するという運用指針の撤廃に意欲を見せています。付け加えれば、25年10月20日に取り交わされた自民・維新の連立政権合意書にも、第4項目「外交安全保障」で、この「5類型」の撤廃は明記されています。
そもそも「防衛装備」とは「武器」のことです。日本には、戦後の平和政策のひとつとして、1976年に三木武夫首相によって確立された、事実上武器輸出を全面禁止する「武器輸出三原則」がありました。しかし、2014年4月には、安倍晋三首相によって、従来の三原則は廃止され、「武器」を「防衛装備」と読み替えた上で、海外輸出の第一歩として、「防衛装備移転三原則」が策定され、当面の歯止めとして「5類型」が設けられていたのです。
その後、「防衛産業」という名の「軍需産業」を育成する基盤は着々と整えられてきました。17年を皮切りに、海外の武器メーカーから学び、日本製武器の販路を探るため、武器見本市(MAST AsiaやDSEI JAPANなどの名称で)が防衛省・経産省・外務省などの後援で開催されるようになり、パリやベルリンなど海外の武器見本市への参加も始まりました。また、23年には、「防衛生産基盤強化法」の制定により、軍需産業に従事する民間企業への財政支援やサイバーセキュリティ強化が実施されています。
さらに、25年6月には、自民党の安全保障調査会が、「国営工廠(こうしょう)の導入」を明記した提案を政府に提出しました。「工廠」とは、武器の国産化を目的に1870年に設置が決まった、陸海軍が保有する国営の軍需工場で、その復活が提案されたわけです。この提案では、施設を国が準備し、民間企業運営をする国有施設民間操業(GOCO)方式が挙げられています。
そうした流れの中で、2025年8月にはオーストラリア政府が日本の護衛艦(新もがみ型、三菱重工業)の採用を決定し、26年3月本契約の後に、日本で初めての大型武器の輸出が予定されています。オーストラリア政府との間では、16年に通常動力型の潜水艦購入問題が浮上しましたが、「売り込み方」に関する経験不足で、フランスがこの物件を落札した経緯がありました。こうした「苦い経験」をもとに、護衛艦ばかりでなく、英伊との戦闘機の共同開発など「国際共同開発・生産」という「5類型」の抜け道(例外規程)を使った武器輸出も進められており、インドネシア・フィリピン・ベトナムなど東南アジアへの売り込みも盛んに行われています。
小泉防衛大臣は、こうした軍需産業の育成は、日本国民の命と平和な暮らしを守り抜くために不可欠という趣旨のことを述べています。しかし、1961年に米国のアイゼンハワー大統領は、軍部と軍需産業、そして政治家の癒着である「軍産複合体」が、国家の政策決定に過剰な影響を与え、戦争や軍拡を促進すると、その退任演説で警告しました。そして、日本でも、こうした怪しげな拡大が続いています。
まず、儲ける軍事経済を実現するためには、「優秀な武器」を製造することが必要で、そこには科学者コミュニティの協力が不可欠です。防衛装備庁は、まさに2015年に「安全保障技術研究推進制度」を発足させ、軍事研究に協力する研究者に膨大な資金提供の道を開きました。
これに対し、17年、日本学術会議は、この研究推進制度の究極の目的は武器開発にあること、研究状況の管理が防衛装備庁職員つまり国によって行われること、軍事研究では研究本来の自主性・自律性・研究成果の公開性が尊重されないことなどを理由に、「軍事的安全保障研究に関する声明」(17年3月24日)を発表して、これに警鐘を鳴らしました。こうした流れに対し、20年には菅首相による、日本学術会議が推薦した会員候補6名の任命拒否問題が発生し、25年6月には新しい日本学術会議法が国会で成立し、国家から独立して政府に科学者コミュニティとして異論を伝える存在であるナショナル・アカデミーとしての日本学術会議は実質解体されました。軍需産業拡大のための、軍産学共同体の成立と言っていいかもしれません。
もうひとつの懸念点は、自民・維新の連立政権合意書にあります。第5項目の「インテリジェンス政策」では、諜報機関の分野における国家機能の強化が謳われ、米国のCIA(中央情報局)やNSA(国家安全保障局)に匹敵する「内閣情報局」、それを統括する「国家情報会議」の設置が目指されます。さらに、「対外情報庁」が創設され、情報要員の養成機関も設置されます。そして、極めつけは、「インテリジェンス・スパイ防止関連法制」の成立です。実は、軍需産業を中心とする世界では、軍事機密が増大します。23年の「防衛生産基盤強化法」の第38条には、こうした機密保持規程があり、さらに、2026年の通常国会で法案が審議される予定の「スパイ防止法」は国内監視も強大化するものであり、戦前の治安維持法につながりえます。
日本政府は、軍事経済つまり軍需産業を育成し、これを戦略的投資分野とする方針を「安全保障と経済成長の好循環」と評価しており、26年4月には国家安全保障会議で、武器輸出の全面解禁に臨む予定だと報道されています(朝日新聞、25年12月26日<社説>)。
しかし、こうした社会は、戦争や人命の殺傷を土台に金儲けをしようとするもので、日本の平和主義の根幹と矛盾します。また、武器輸出に依存する社会は、贈収賄や裏金など汚職・不正が横行する社会になります。なぜなら、この分野は軍事機密という名目で、事実の把握にさえいくらでも蓋をできるからです。
こうした流れに対し、平和を基盤とする公正で民主的な社会を求めていく動きを改めて作り、前進させることを2026年の課題にしなければならないと考えています。 (記:2026年1月1日)

