ソーシャル・ジャスティス雑感(SJFメールマガジン2025年10月15日配信号より)
嫌でも、対話は必要
土屋真美子
世界的に社会が変わり始めているが、身近なところにもその変化を感じることがある。
以前一緒に活動していた「市民活動仲間」はもともと政治志向が強かったが、ある時突然活動から足を洗って、自民党から市議になって周りを驚かせた。さらに驚くことに、突然市議を辞めて市長選に出て、当然惨敗。しかしこれも戦略だったようで、次の衆議院選挙には、前回の参議院選挙で躍進した党から出馬するという。これには、正直ショックだった。
その政党の中心メンバーは、今年の国連人権委員会にも参加し、女性差別撤廃条約実現アクションのメンバーが、選択議定書の批准を日本政府に促すためにアピール活動を行ったのに対し、「選択議定書は内政干渉であり、許してはならない!」と盛んにアピールをしていたと聞いた。実現したいことが私とは異なるが、これも市民活動である。
女性差別撤廃条約を日本政府は批准しているが、条約と両輪となる選択議定書は批准せず、30年以上が経過している。日本政府が選択議定書を批准しないならば地方議会からアクションを起こそうと、議会への陳情・請願を実行してきた人も多い。その動きは徐々に広がり、300を超える地方議会が、選択議定書批准を求める意見書を採択している。
この意見書を採択するには、地方議会ごとにルールが異なり、全会一致の議決を要件としている議会もある。多数決で決まる場合に比較すると、当然ながらハードルが高い。選択議定書批准の意見書については、全会一致の高い壁に跳ね飛ばされた地方議会も多いと聞くし、活動した人たちからも「多数決なら、何とかなったのに」という悔しさを聞いたことがある。
全会一致というのは、このように市民活動にとって、非常に高い壁だった。しかし、ここまで社会が変わってくると、参議院選挙で躍進した政党と同じ意見を持つ市民が、請願やら陳情やら出す可能性もある。そして、「高い壁があってよかった」と言う日が来るかもしれない。
民主主義のルールは使う人によって違う側面を見せる。そして民主主義は暴走することもある。その暴走を止めるのは市民であり、それは多様な意見を持つ人との対話によってしか止められない。危険なのは、そこで対話を止めて内輪の議論になると、仲間内だけの基準が表面に出てしまい、さらに対立は深まるということである。
選択議定書批准を求める意見書を採択した地方議会のうち、半分以上が全会一致での採択だった。これは対話を重ねての採択だったと思うし、ここに希望がある。だから、気は進まないが、元仲間とも道で会っても無視したりすることなく、リアルに話をする機会を持ちたいと思うのである。■
*コラム執筆者・土屋真美子: SJF運営委員。民設民営の市民活動情報/支援センターの草分け「まちづくり情報センターかながわ[アリスセンター]」の事務局長として、長年現場の様々なコーディネートを行う。その後、「ファイバーリサイクルネットワーク」「よこはま森のフォーラム」等の環境保全運動、NPOの評価システム研究など、幅広い分野で活躍。NPO法人まちぽっと理事。