ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)メールマガジン2025.1.15配信号「委員長のひとりごと」
さらに激動を予感させる年に、『分断や混乱』の本質を見抜く力を
上村英明(SJF運営委員長)
2025年、今年も新しい年を迎えました。みなさま、どのように新年を迎えられたでしょうか。昨年は、繰り返す災害と気候危機そして政治の世界と、激動の年であったように思います。政治の激動は、社会の隅々に影響を与えますし、グルーバルな経済や平和あるいは安全保障、そして環境にも変化をもたらします。
具体的には、まもなく到来する1月20日には、米国でドナルド・トランプ大統領の2期目が始まります。また、昨年12月3日には、韓国のユン・ソンニョル大統領が突如「戒厳令」を発令し、それを巡って、市民と議会が抵抗した結果、現在、弾劾裁判の手続きが進行しています。この流れから行けば、本年早々に韓国でも大きな政権交代が予想されます。加えて、日本でも10月27日に衆議院の総選挙が行われ、「安倍政治」に距離を置く石破茂政権が誕生しました。
こうした政治の変化は、それを受け止める社会のあり方に反応して、「分断や混乱」と見えるいくつかの現象に遭遇します。
ひとつは、ねじれた評価をもたらす場合です。例えば、就任が予定されているトランプ氏は、陰謀論的な思考をもつ「米国第一主義者」の共和党員です。この軸では、外交と内政でねじれた評価を生むことが予想されます。
米国では、民主党政権は、昨年12月29日に亡くなったジミー・カーター大統領のように人権や平和に好意的という建前を取りながら、軍産複合体のグローバル企業と結んで軍事介入する場合が少なくありません。現在のジョー・バイデン政権も、NATO(北大西洋条約機構)を使って、ウクライナのV.ゼレンスキー大統領に対し戦争協力をし、またガザで虐殺を繰り返すイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を基本的に支持してきました。
トランプ新大統領への交替は、米国政府が国内重視政策を取ることで、ロシア・ウクライナ戦争及びガザの虐殺に一定の歯止めをかけることが期待できそうですし、東アジアでも米朝首脳会談や日米安保条約・地位協定の見直しの可能性もうっすらと見えてきます。
と同時に、しかしながら、トランプ政権は、国内的には「白人至上主義」の排外主義政権ですから、白人労働者を守るための移民や難民の排斥、国内企業を優遇するための輸出品に対する関税の引き上げで既にカナダやメキシコに挑発的な政策を取る方針を出しています。また国際的な地球環境政策から撤退するでしょう。
こうした動きが、間接的な影響として、グローバルに広がれば、排外主義的で環境に負荷をかけることを厭わない政府が連鎖的に生まれる危険性も強く危惧されます。このねじれた二面性の中で、政権評価に関し「分断や混乱」が生じるのです。
他方、韓国のユン政権による「戒厳令」の問題は、もうひとつの見せかけの「分断や混乱」を見せつけました。ユン大統領は、韓国の「自由民主主義」が「共産主義者」によって転覆させられているとして、軍による国会の閉鎖や反対派の逮捕を命じましたが、その時、韓国にはいかなる内戦も暴動も起こっていたのでありません。韓国国会を野党である「共に民主党」に多数を占められ、政権運営が難しくなったことに対し、軍に国会の閉鎖や反対派の逮捕を内容とする「戒厳令」を発動したとすれば、単に政敵排除のために軍を使用したことになります。
与党が選挙の結果少数派になることは決して珍しいことではありません。現在の日本の連立与党も似た立場にあります。客観的に考えても、選挙の結果を認めず、異論を軍事力で抑圧したのですから、これは民主主義の破壊であり、彼自身が「内乱罪」の容疑をかけられても致しかたありません。しかしその後もユン大統領は同じ主張を繰り返し、大統領支持者のデモなどで拘束令状の執行が遅れている状況に、トランプ政権で閣僚入りが決まったイーロン・マスク氏がXで6日、「韓国は野生の時代」などとコメントすると、社会に「分断や混乱」がもたらされたようにも見えます。また日本でも、親日の大統領の危機と反日の新政権の誕生の可能性を一方的に煽り、日韓関係に悪影響を与えるかのような評価は、問題の本質を擦り替えています。
同じような政権評価の現象は、日本にもあります。11月11日に誕生した石破政権は、増税や米国の武器購入で軍事予算の拡大を続ける一方、岩屋毅外相が12月25日に中国の王毅外相と会談する中で、中国人への観光ビザに関し、10年繰り返し使える数次ビザの新設などを表明しました。
これは、安倍政権(その後の菅、岸田政権)の下で、日中間の緊張が高まり、「台湾有事」を口実に「沖縄」に自衛隊の増強などが進められてきた歴史から言えば、日中に外交のパイプを新たに作るという意味で重要な前進です。これに対し、与党の保守派から批判があがると同時に、国益を損なったとして、岩屋外相の罷免署名がオンラインで始まっています(Change.org)。これも、「国益」を日中間の緊張緩和ではないとする問題の擦り替えによる見せかけの「分断と混乱」と考えていいかもしれません。
こうしたねじれた或いは見せかけの「分断と混乱」に対面しなければならないという意味で、25年は改めて市民社会の質が問われる年だと思います。その問題の背景には、グローバル化による個人責任や競争原理による不安な社会、物事に対する表層の意見に流されやすいオンライン社会の浸透があるのではないでしょうか。その意味で、社会課題にしっかり足を置きながら、政治の動向に関心を向け続ける市民社会が必要とされています。因みに、24年のノーベル平和賞は、12月10日ノルウェーのオスロで、1956年に創設された日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に贈られました。「分断や混乱」を乗り越える市民社会の動きは、依然、世界各地で脈々と流れ続けています。
25年も、みなさまとともに、社会的公正の価値を大切にし、現実を考え、判断し、柔軟に行動し、「分断と混乱」に立ち向かいたいと思います。 (記:25年1月8日)