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ソーシャル・ジャスティス雑感(SJFメールマガジン2022年3月16日配信号より)

 

311子ども甲状腺がん裁判~切り捨てられる人々の側に立つ~

大河内秀人(SJF企画委員)

 

 原発事故当時福島県内に住んでいて小児甲状腺がんを発症した16才から26才の男女6人が、東電に損害賠償を求める「311子ども甲状腺がん裁判」を起こした。その報告集会冒頭で井戸謙一弁護団長の、「彼らは“風評加害者”とされている」という言葉に大きな衝撃を受けた。

 実際、甲状腺がんに罹った子ども/若者たちが、友人や学校の先生にも言えず孤独に悩んでいることは、子ども支援団体などを通じて耳にしてきたし、東京で治療を受けるため私の寺に滞在したお子さんにも出会ってきたので、彼ら彼女らの置かれている理不尽を問題にしてきたが、そういうあからさまなレッテルで非難されているとは、言葉もなかった。

 

「(この裁判の原告6人の)最年少は高校生。事故当時は幼稚園の年長さんでした。中学生の時に手術を受けたものの、再発し、2度目の手術を受けました。6人のうち、なんと4人ががんの再発を経験しています。また、中学生の時に被ばくした原告は、4回もの手術を受けています。放射線ヨウ素を服用する『アイソトープ治療』を経験した患者も4人にのぼります。原告は、進学や就職でも数々の困難を抱え、大学を中退せざるを得なかった原告もいます。」(「311子ども甲状腺がん裁判」ホームページより)

 

 これまで年間100万人に1人か2人と言われてきた小児甲状腺がん。放射性のヨウ素131がその原因となることが明らかであり、福島原発事故後10年で、事故当時18才以下の福島の子ども38万人の内、少なくとも287人が甲状腺がんと診断されている。罹患率はざっと50倍だ。そして2021年3月時点で、県が把握しているだけでも219人が手術を受けている。切除手術を受けた人は、一生治療を続ける必要があり、彼らの多くに転移や再発が起きている。

 それを国や県はスクリーニング効果、つまり調べなければ見つからなかった、放置していても問題ないものを見つけてしまった過剰診断だと決めつけ、「原発事故の影響とは考えにくい」という結論を出している。

 原発事故の影響はない、放射能は恐れる必要はないという結論が先にあり、そのためのレトリックを作り上げる専門家を総動員して、何が何でも原発を再稼働させるという国策を進める。復興予算を呼び込みながら、経済的利益を最優先する県や企業とも利害が一致する。

 権力やマジョリティの都合で真実が歪められ、50倍になったとはいえ、1300分の1の人々は切り捨てられる。ほとんどのその他大勢からすれば、よほど運の悪いまれなケースで、そんな人のせいで自分たちが「風評被害」を受けるのはたまらないという意識が、自分はそうなりたくないという願望を伴って、広く行き渡る。被害に心を痛めるよりも利益と自己都合のために切り捨てる社会が構築され、モラルが低下する。

 政・官・学・メディアの総がかりで、権力や経済の都合で決められた結論を導いていくことは、開発案件での環境アセスメントでもさんざん見てきたし、モリカケ問題も同様であろう。言い換えれば、誰かを犠牲にすることを前提にし、不正義不公正を容認して進められる政策であり、沖縄の基地問題なども同様で、かつての戦争もそういう流れに飲み込まれて突き進んだ結果だった。

 菅直人、小泉純一郎両氏ら5人の首相経験者が欧州連合(EU)宛にあてた、原発事故の影響で子どもが甲状腺がんに苦しんでいるとした書簡に対し、国や福島県が猛反発をして潰しにかかり、マスコミも「原発事故の影響は考えにくい」、「風評被害の原因となる」という国や県の主張を繰り返している。

 

 訴えを起こした6人の立場になれば、権力によってさらなる絶望が仕掛けられている。

 真実を求めるためには、私たちが本当に何をしなくてはならないかを考えるためには、弱い立場、声なき声に耳を傾け、その苦しみをともにすることから始めるべきだ。私たちの人権もそのように、一歩ずつ高められ、ようやく何とかこの程度までたどり着いているのだから。

 小児甲状腺がん患者に限らず、自主避難者などを国や東電は完全無視を決め込み、被害者を貶めアウェイに追いやるこの社会を変えるために立ち上がった勇気ある6人を応援したい。

 SJFは小児甲状腺がんの子どもの声を届ける活動を支援しており、6人のメッセージはそのOurPlanet-TVのサイトで見ることができる。     ■

 

 

 

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