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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)メールマガジン第72号(2017年10月18日配信)

コラム【ソーシャル・ジャスティス雑感】より

NPO法の「政治活動」と「自由主義、民主主義」   ・・・・・・辻 利夫

 先日、全国紙の記者から、NPO法第2条などに規定されているNPO法人の政治活動規制について取材を受けた。私どものNPO法人「まちぽっと」で今、議員立法によって成立したNPO法制定過程の市民団体、議員の資料を収集編纂して、国立公文書館に公文書として寄贈し公開するプロジェクトに取り組んでいることから、立法過程においてどのような議論がなされたのか話を聞きたいという。

 NPO法人の一部に政治活動にかかわることを自主規制する動き、さらには政治活動をしてはいけないと誤解しているところがあるので、来年NPO法制定20周年を迎えるにあたり、この問題を取り上げてみたいとのことだった。

 

 NPO法人の政治活動が注目されたのは、2015年10月にさいたま市議会が議員立法で「さいたま市民活動サポートセンター」の管理運営に関する条例を改正して、サポートセンターを利用する登録団体から反原発などの政治活動を行っている団体を排除できる議決をしたことに端を発している。

 この条例によって、市がサポートする市民活動とは、①「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを目的とするものでない」、および②「特定の公職の候補者(当該候補者になろうとする者を含む)若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対することを目的とするものでない」活動とされている。

 この規定はNPO法第2条第2項の定義を踏襲しているが、NPO法では「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと」とあるのに対し、条例では「主たる」が除かれている。

 原発に反対する政治活動などがこの①の規定にあたるという。

 

 実はNPO法の立法過程では、当時の与党3党(自民党、社民党、新党さきがけ)の法案をまとめるにあたって、そこが大きな争点になった。

 当初、自民党は「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対するものでないこと」(これは、政党・政治団体を規定した政治資金規正法第3条を援用)として、市民活動団体の政治活動を厳しく制限する案を出し、これに市民団体、社民党、さきがけが猛反対して、最終的に「施策」を削り、「反対する」の後に「ことを主たる目的とする」を加えて結着した。

 つまり、①「政治上の施策」については制限されないこと、②「政治上の主義」については「主たる目的」でなく「従たる目的」であればできるとされた。国会での審議で「政治上の施策」とは政治によって実現しようとする比較的具体的なものとされ、例えば公害の防止、自然保護、老人対策等などが挙げられ、「地球環境を守ることを標榜する緑の党」「震災被災者に対する個人補償を要求する運動」などといった具体的な事例についても、政治上の施策と考えられるとされた。原発に反対する運動も政治上の施策に反対するものと解されている。

 

 さいたま市の改正条例に対しては、全国の市民活動の中間支援組織をはじめとして多くの市民団体が抗議の声を上げた。それでも、NPOのなかにはいまだに政治活動への誤解が少なくないとすれば、誤解を招くひとつの要因として、認定NPO法人については、まさに「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを目的とするものでない」と規定され(NPO法第45条第4項)、政治上の主義の推進等を目的とした活動自体が禁止されているため、「主たる目的」を入れたNPO法第2条第2項の規定と混同されているということがあるようだ。

 

 「政治上の主義」とは何かについては、当時の与党3党内でも、国会審議でも争点となり、「政治上の主義」とは、政治によって実現しようとする基本的・恒常的、一般的な原理・原則をいい(いわゆるイズム)、自由主義、民主主義、資本主義、社会主義、共産主義、議会主義というようなものがこれに当たるとされた。政治資金規正法制定時にはなかった「自由主義、民主主義」が加えられ、そうしたイデオロギーとしての政治的価値の実現を主たる目的とする政治活動は政党、政治団体であって、NPO法人はそれとは一線を画すことにされた。

 NPO法で加えられた「自由主義、民主主義」については、その定義について議論がかわされたが、語源であるリベラリズム、デモクラシーについてはあまりにも多様な解釈があって、明確に定義されていない。

 自由民主党の英訳はLiberal Democratic Party of Japanであって、このリベラルはどういう自由主義なのかといったといった議論をした覚えがある。

 国会の審議では、民主憲法を守る会はイズムだけやるなら「政治上の主義」に該当するが、一般的な施策を推進するならば該当しない。民主主義を守る会、自由民主党の政策を研究する会は、政治上の主義主張というものを推進したり、否定したりするものではないので、目的が国際協力あるいは人権、平和、そういうものに合致する場合は認められるとされた。

 

 認定NPO法人である「まちぽっと」が行っているソーシャル・ジャスティス基金助成とアドボカシーカフェは「政治上の主義主張」、つまり民主主義の推進ではないのか、と認定審査のときに問われたこともある。市民団体のアドボカシー活動を推進することを目的としており、「民主主義の推進」はそれに付随することであって目的ではないということでクリアしている。ただし、このあたりの解釈はかなりあいまいで拡大解釈の余地を残している。
 さいたま市議会などのNPO法人への政治活動規制の動きの背景には、昨今のリベラルたたきの風潮が感じられるので、政治状況によっては規制強化論が再燃することを心しておくべきだろう。

 

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