┏ 目 次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
★1.【委員長のひとりごと】 (上村英明)
「若者」と政治に期待するための条件――「大人」と呼ばれる人々は何をすべきか
★2.【SJFニュース】
● 出版情報:『民主主義をつくるお金』(発行2015年10月31日)
●「共感助成」(信頼資本財団)募集
★3.【ソーシャル・ジャスティス雑感】 市民活動と民主主義(黒田かをり)
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★1.【委員長のひとりごと】 (上村英明)
「若者」と政治に期待するための条件――「大人」と呼ばれる人々は何をすべきか
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秋学期が9月末に始まると、SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の中心で活動していた昨年度のゼミ生がキャンパスに帰ってきた。疲れたし、(連日のデモで)死ぬかと思ったし、権力に「負ける」という実感がわかったそうだ。彼女たちは、SEALDsが結成された2015年5月から活動していたのではない。それ以前、2013年12月に特定秘密保護法の問題性に気づいた学生たちによって生まれたSASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)がその母体である。つまり、思いつきで作られた団体ではなく、それなりに学習と行動を積み上げてきた若者たちの集団だ。テレビに映った奥田愛基君以外は見たこともないが、旧ゼミ生には、こんなことをよく話した。
闘う相手の権力にも注意しなければいけないが、ちやほやして近づいてくる「大人」にも気をつけろ、である。「安全保障関連法案に反対する学者の会」に属する先生たちのアピールもニュースなどで時々聞いたが、SEALDsを、戦後初めて自分の意志で立ちあがった、戦後民主主義の申し子ともいえる学生団体だと持ちあげる人もいた。ホントカナ~? 60年安保闘争、70年安保闘争もあるいは70~80年代の住民運動や市民運動、NGOの成立も、そこに参加した若者たちは100%いわゆる「政治党派」に動員されたといえるのだろうか?「政治党派」の運動を批判するのはよいが、やはり暴論だろう。戦中の「特攻隊」の時代から、世のオジサン、オバサンたちが「若者」をもてはやす時はあまりよい時代ではない。
ともかく、そんな「若者」をめぐる政治制度も変化の途上にある。選挙権年齢を20歳から18歳に引き下げた改正公職選挙法は2015年6月に成立し、公布された。1年後の2016年6月には施行され、順調にいけば、翌7月に実施されると予想される次期参議院通常選挙には現在の総有権者の2%に当たる240万人の新たな有権者が投票権を持つことになる。加えて、18歳に選挙権が引き下げられたことから、高校生で有権者となる者が生まれることを前提に、文部科学省は、2015年10月29日、初等中等教育局長名で「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)」という行政文書を発した。朝日新聞(2015年11月1日社説)によれば、旧文部省は、1969年、高校生の政治的活動を「国家・社会として行わないよう」規制する通知を出し、安保闘争やベトナム反戦運動などの政治的活動への参加を禁止したが、今回の通知は、6月の法改正を受け、高校生の政治参加を一部認める方向への「転換」だそうだ。
もちろん、子どもの権利条約から言えば、いずれの通知も、子どもの表現の自由(第13条)、思想・良心の自由(第14条)、結社及び平和的集会の自由(第15条)などに違反すると考えられるが、一点面白い読み方ができる。
新通知は、「国家・社会の形成に主体的に参画していくこと」を期待して、一定の政治的活動を認めるが、2006年の改正教育基本法で規定された学校の政治的中立を前提に、校内での政治的活動は学校等により制限又は禁止される必要があり、放課後や休日に校外で行われる活動も学校等により適切に指導を行われることが求められると共に家庭の理解の下行うものであるとされている。授業以外の生徒会や部活動での政治的活動も含め、学業に支障があると判断された場合は禁止される。「転換」のわりには、規制だらけの通知であるが、ここで禁止される政治的活動とは、特定の政党や政治的団体への支持や反対を目的として行われる行為などと定義されている。例えば、「安倍内閣の安保法制に反対する」と自治会が反対声明を出す、新聞部が記事を書く、あるいは有志で勉強会を開いても、政治的活動として禁止される可能性が高い。
ここで考えるのは、子どもの権利条約違反をひとまず棚上げにしても、「若者」に対する「政治教育」の必要性という「大人」の仕事である。確かに、SEALDsを持ち上げた大学の教員たちも語ったようにかつての「政治党派の活動」に問題があったことを否定しない。しかし、権力への抵抗権や抵抗の手段の保障、政治的意思の表示や表現の自由、平和的集会の権利は民主主義と市民社会の基本的・普遍的価値であって、それは、「若者」に明白な形で教育されなければならない。朝日新聞の同日の紙面の隣にあるオピニオン欄には、「安保法反対を押し付けないで」という高校生の投書が掲載された。安保法制反対の署名運動を行っていたグループから、戦争の犠牲になる若者として、署名に協力しろ、話を聞けという一種の押し付けを感じたというのである。その高校生は、自分たちの明るく平和な未来を創るためには、考える時間がほしいと締めくくっている。署名を求める側にも、それを押し付けに感じる側にも、必要な「政治教育」が欠けていたと考えられないだろうか。
僕個人は、政治に関しては単純に「投票の義務制」の導入論者である。が、同時に、「若者」にもそして「大人」にも、かつての「党派活動」とは区別されるきちんとした「政治教育」が不可欠であると強く感じている。とくに、この重要な政治課題を、世のオジサン、オバサンという「大人」は文部科学省や政権などに任せておくべきではないと強く思う。それこそ、「大人」が責任をもってやらなければならない仕事のひとつだろう。
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★2.【SJFニュース】
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●出版しました! 『民主主義をつくるお金』(発行 2015年10月31日)
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●「共感助成」(信頼資本財団)募集
SJFは「共感助成」(信頼資本財団)の対象事業となりました。
信頼資本財団は「説明を省き存在を認め合う関係、不安を分かち合い共感する関係、触れることも出来ず目にも見えず感じることしかできない『信頼』という関係」を創り続けることを使命としています。共感助成は「信頼資本財団が認定した公益性の高い事業」について、多くの方が「自分の共感する事業を選択して寄付していただくこと」を通じて「参加・参画することができる助成プログラム」です。(同財団HP)
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★3.【ソーシャル・ジャスティス雑感】 市民活動と民主主義 (黒田かをり)
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近年、世界各地で市民活動の場が危機に瀕している。この問題に早くから警鐘を鳴らしてきたCIVICUS- World Assembly for a Citizen Participation(本部:南アフリカ)が今年2015年に出した報告書によれば、言論・結社、集会の自由を制限している国は、世界で96カ国、アジアでは35カ国にも上る。最近は、これまで一定の民主的プロセスが保証されていたような国においても、市民活動に制限を加える動きが広がっている。法規制、マスコミやインターネットの言論統制、NGOへの外国からの送金に関する規制強化などである。こうした世界の動きは、日本ではあまり議論されてこなかったが、日本においても、マスコミ報道の自主規制のような空気や、民主的な運動への制限につながるような動きが広がりつつある。
10月16日、さいたま市市議会において、同市の市民活動サポートセンターを「一部の団体が政治利用している」ことを理由に、指定管理者のNPO法人による運営を停止して、一時的に市の直営とする条例改正案が可決された。これに対しては、多くのNPOや大学研究者等が「不当な制限」として、次々と抗議や意見表明を行っている。NHKニュースなどマスコミ報道にも取り上げられるなど、波紋は広がりを見せている。
自由な市民活動はいうまでもなく、民主主義の礎である。市民活動への制限は、民主主義への挑戦でもある。そんな中、ソーシャル・ジャスティス基金がこの秋に出版した『民主主義をつくるお金』(※)を読んだ。ソーシャル・ジャスティス基金が始まった頃、私も運営委員の一人であった。カタカナ語の「ソーシャル・ジャスティス」がわかりにくい、どう説明したらよいだろう、とさんざん皆で議論をしたことを思い出した。現在の運営委員や事務局の皆さんが4年間のとりくみをわかりやすく本にまとめてくれたことで、ソーシャル・ジャスティスとは何か、民主主義とは何か、ということが明確に伝わってきた。民主主義の危うさが懸念されるこんな時代だからこそ、多くの人にこの本を手に取ってもらいたい。
参考;「バリ島発!グロ―バルレポート~世界市民社会の動きから シビックスペースの制限に立ち向かう」(今田克司、2015.10・11『ウォロ』社会福祉法人大阪ボランティア協会)
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今月号の執筆者プロフィール
- 上村 英明 [市民外交センター代表/SJF運営委員長; NGO市民外交センターの代表として、先住民族の人権問題に取り組み、この関連で国連改革や生物多様性などの環境保全、核問題など平和への取り組みを実践するとともに、グローバルな市民の連帯に携わってきました。SJFでは、平和、人権、エネルギー、教育など多くの分野で新たに現れている21世紀の課題を解決するため、市民による民主主義実現のための政策や制度づくりを支援している。恵泉女学園大学教授]
- 黒田 かをり [一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事; 社会的責任やサステナビリティ推進、「地域の力フォーラム」、ポスト2015(2015年以降の国際的な開発目標)などをテーマに活動を行う。ISO26000(社会的責任の国際規格)の策定にNGOエキスパートとして参画]
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